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紬「76Keys、76人の妖精……うひひひひ」

ライトノベル新刊情報サイト「ラノベ総合案内所」が出来ました.

1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/24(金) 22:02:21.84 ID:mCBIFmAb0
律「あー、早くこないかな、4人目の部員……」


澪「勧誘もした、ポスターも貼った。
  あとは待つしかないな」

律「誰でもいいから入部してくんないかなぁ。
  あムギ、紅茶おかわり」

紬「はい、今淹れますね」
2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/24(金) 22:05:42.36 ID:mCBIFmAb0
紬「どうぞ」

律「ああ、サンキュー。
  でもさーあと1週間以内に誰かこないと廃部だべ。
  このまま何もできずになくなっちゃうなんて嫌だよ」

澪「私は別に文芸部いくから……」

律「このやろう、いつからお前はそんな薄情者に」

澪「てゆーか今日はもう来ないんじゃないのか。
  部活してない人はもうとっくに帰ってる時間だろ」

律「ああ、もう今日は待つだけ無駄か?」

澪「帰ろうよ、もう」

律「そーだな。ムギ、紅茶ごちそうさま」

紬「あ、はい……じゃあ私、
  ティーセット片付けてから帰りますね」

律「おう、頼むわ。じゃあまたな」

澪「また明日」
ガチャバタン

紬「……」
3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/24(金) 22:09:03.06 ID:mCBIFmAb0
軽音部に入ってからすでに2週間。
紬は未だ他の部員2人との距離の取り方を測れずにいた。
小中と通して友達があまり多くなかった紬にとって
親友という絆で結束した律と澪の間に入って
2人と仲良くしようとすることは至難の業なのである。
だから軽音部では律と澪が談笑している横で
紬はただお茶くみ係として座っているしかなかった。
2人は別に気にしていないかもしれないが
紬は部活動の時間はずっと気まずく、
それから来る胃の痛みにひたすら耐え続けていたのだ。

紬「はぁ、今日もやっと終わった……」

軽い気持ちで入った軽音部は
紬にはもはや苦痛以外の何ものでもない。

夕日の挿し込む音楽室準備で
ティーセットを片付ける紬。
紬は部活動から解放された心地良さを感じるとともに
そんな自分に対して自己嫌悪を抱き、落ち込んだ。
4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/24(金) 22:12:23.85 ID:mCBIFmAb0
紬「どうして私はいつもこうなんだろう?」

どうすればいいかは分かっていた。
二人の間に入って、会話に交じればいいのだ。
だがそれはどうしようもなく恐ろしかった。

紬(拒絶されたら、嫌われたらどうしよう)

そう考えると行動に移すことができず
またいつものように無言でほほえみをたたえ
律か澪から紅茶を淹れるように言われるのを
待つだけの立場に収まるしかないのである。

紬(私はなんのためにこの部活に入ったんだろ……
  もう辞めちゃおうかな……
  でもそうしたら恨まれそうだし)

そんなことを考えながら
ティーセットを片付けて
紬は音楽準備室に鍵をかけ、帰路についた。
5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/24(金) 22:15:43.05 ID:mCBIFmAb0
琴吹家。

紬「ただいま、斉藤」

斉藤「おかえりなさいませ、お嬢様。
   部活動はどうでございましたか」

紬「ええ、楽しいわ。
  素敵なお友達もいるからね」

斉藤「それはよろしゅうございますな。
   では、お夕食の時間になりましたら、
   お呼び致しますので」

紬「ええ」

玄関から紬のカバンを運んできた斉藤が
部屋から出ていったのを確認して
紬は手近にあったぬいぐるみを手にとった。
6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/24(金) 22:19:04.04 ID:mCBIFmAb0
紬「ただいま、デネボラちゃん」

デネボラちゃんとはライオンのぬいぐるみである。

紬(裏声)『おかえりなさい、紬ちゃん!
      今日の学校は楽しかった?』

紬「ううん、授業はとっても楽しいのだけど……」

紬『どうしたの? なにか嫌なことでもあった?』

紬「ええ、軽音楽部でね。
  今日も私、みんなとお話できなくって」

紬『そうなの、可哀想な紬ちゃん……
  でも気にすることなんてないわ、
  いつかきっとみんなと仲良くなれるもの!』

紬「でも私、自信ないわ……
  それに今ごろ仲良くなろうとしたって
  きっとみんな引いちゃうわよ」

紬『あう、そういえば中学のとき
  同じことがあったわね』

紬「ええ……あの時は泣いちゃったわ」
8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/24(金) 22:22:31.96 ID:mCBIFmAb0
紬『大丈夫よ、もうあれは昔のこと!
  今の紬ちゃんならきっとうまくいくわ!』

紬「そうかな……うまくいけばいいけど」

紬『勇気出して、みんなも応援してるから!』

紬『そうだよ、紬! 頑張れ!』

紬『私だって応援してるわ!』

紬『紬ちゃんならきっと出来るよ!』

紬「フォマルハウトちゃん、メサルティムちゃん、
  それにアルデバランちゃんまで……
  みんな、ありがとう……私、頑張ってみるわね」

ご覧のとおり紬にはぬいぐるみと話すという
結構アレなレベルの妄想癖があった。

一度斉藤に目撃されたことがあるのだが、
そのとき紬はぬいぐるみとの会話に熱中しており
見られたことにはまったく気付かなかった。
紬にとってぬいぐるみとの会話はただの遊びではなく
なくてはならない現実逃避の手段なのだ。

ちなみにフォマルハウトちゃんは魚、メサルティムちゃんは羊、
アルデバランちゃんは牛のぬいぐるみである。
9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/24(金) 22:25:52.62 ID:mCBIFmAb0
翌日、放課後、音楽準備室。

ガチャ
紬「こんにちはー」

澪「おう」

紬(澪ちゃんだけか……)

澪「……」

紬「……」

澪「……」

紬「……」

澪「……」

紬「……」

澪「……」

紬「……」

澪「……」

紬(気まずい……)
11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/24(金) 22:29:14.04 ID:mCBIFmAb0
紬が澪と二人きりになるのは初めてだった。
おたがいに自分から他人に話しかけるタイプではないため
律がいないと場は沈黙に支配される。

紬(いや、ダメだわこんなんじゃ……
  自分から話しかけなきゃ……昨日デネボラちゃんたちとも約束したし)

澪(なに一人でブツブツ言ってんだろ)

紬「……」

澪「……」

紬「あ、あの……」

澪「ん?」

紬「え、あ、あの……お茶、淹れましょうか」

澪「……律が来てからのほうがいいんじゃないか?」

紬「あ、そ、そうですね……」

澪「うん……」

紬「……ごめんなさい」

澪「いや、いいよ……」

紬「……」
12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/24(金) 22:32:34.29 ID:mCBIFmAb0
紬(うう、私のバカ……)

澪「……」

紬「……」

澪「……」

紬「……」

ガチャ
律「うぃーっす!
  なんだ、もう二人とも来てたのか」

澪「おう。
  なんかご機嫌だな」

律「じっつはー、4人目の部員をゲット致しましたー!」

澪「なに、ほんとか!?」

律「この子が4人目の部員、平沢唯ちゃんでーす」

唯「あ、どーも……」

紬(平沢……唯ちゃん)
13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/24(金) 22:36:44.28 ID:mCBIFmAb0
そのあと色々あって唯は軽音部に正式に入部することになった。
詳しくはアニメ1話を参照されたし。

その夜の琴吹家。

紬「みんな、ただいま」

紬『おかえりなさい、紬ちゃん!
  学校はどうだった?』

紬「うん、実は澪ちゃんとお話しようと思ったんだけどね」

紬『できなかったの……?』

紬「話しかけはしたんだけど……
  なんかズレたこと言っちゃったみたいで、
  余計に気まずくなっちゃった……」

紬『そうだったの……
  でも自分から話しかけられたなんてすごい進歩よ!
  その調子で頑張れば、きっと仲良くなれるわ』

紬「そうかな……
  何を言っても変な顔されちゃいそうで、怖いわ」

紬『大丈夫! 勇気だして!
  このままじゃなにも変わらないわよ?』

紬「そうね……ありがとう」
14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/24(金) 22:40:56.36 ID:mCBIFmAb0
紬「そういえば今日、新しく入部してくれた人がいたの」

紬『そうなの? ついに人数が揃ったのね!
  で、どんな子なの?』

紬「平沢唯ちゃんって言うんだけど、
  とっても明るくて可愛らしい子なの……」

紬『へぇー、仲良くなれるといいわね!』

紬「うん……」

そう、なんとしても仲良くならないといけない。
これまでは2:1の状態だったが、唯が入部した今、
仲良くなれなければ3:1で孤立するハメになってしまう。
それだけはなんとしても避けたかった。

さいわい唯と紬は初対面であり、
二人の人間関係はまだゼロの状態だ。
嫌われてもいなければ避けられてもいないし、
紬はぼっちだと認識されてもいない。
ここから唯にうまく働きかければ
うまいこと仲良くなることが可能であろう。
そうすれば唯を通じて澪と律との関係も
今よりは良くなるかもしれない……
なんてことを紬は考えた。
15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/24(金) 22:45:07.10 ID:mCBIFmAb0
翌日から紬の奮闘は始まった。

紬「唯ちゃん、紅茶のおかわりいります?」

唯「うん、ちょーだーい」

紬「はーい、今淹れますねー」

唯「ムギちゃん、これなんていう紅茶?」

紬「ラプサンスーチョンですよー」

唯「へぇー。こんど憂に買ってきてもらおー」

紬「うい?」

唯「あ、憂っていうのは私の妹なんだよー」

紬「へー、妹さんいたんですかー」

唯「えっへへー、可愛くて自慢の妹なんだよー」

紬「へぇー」

律「なんか唯とムギのやつ仲いいな」

澪「……」

紬(いける……いけるわ!
  脱・ぼっち!)
16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/24(金) 22:49:20.87 ID:mCBIFmAb0
律「よーし、今日の練習はここまでにすっか」

澪「全然練習してなかったじゃないか……」

唯「じゃあ帰ろっか」

紬「私ティーセット片付けてから帰りますね」

唯「あっ、じゃあ私も手伝うよー」

紬「え、いやいいですよ、私だけでやるから……」

唯「いーのいーの、みんなで御馳走になったんだから、
  ちゃんと手伝わなきゃ! ね、みんな」

律「え? あー」

澪「そうだな……手伝うよ、ムギ」

紬「あ、はい……ありがとう」

律「私も手伝うよ。
  なんか今まで任せっきりで悪かったな」

唯「えへへー、みんなで片付ければ早く帰れるしねー」

紬「……」
17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/24(金) 22:53:34.03 ID:mCBIFmAb0
ティーセットの片付けを手伝ってもらえたのは初めてであった。
なぜ唯はこんなことをしたのだろうか。
同じ軽音部の知り合いを部室に
一人残していくことに罪悪感があったから?
それとも手伝うことで自分がやさしい子であることを
みんなにアピールしたかったから?
いや、そのどちらでもない。
唯はただ純粋な善意によって動いただけだ。
損得勘定も計略もなしの、
友達の力になりたい、というそれだけのために。

紬は、ぼっち脱出という目的のためだけに
みんなと仲良くなろうとしていた自分を恥じた。
同時に、唯となら本当の友達になれると、
唯と本当の友達になりたいと、強く感じたのであった。

唯「よーし、終わり!
  じゃー帰ろうか、ムギちゃん!」

紬「ええ……!」

それからというもの、
紬はだんだんと軽音部にとけこんでいった。
初めは唯が澪律・紬間の仲介役のような働きをしていたが
徐々に紬だけでも律や澪と普通に会話を楽しめるようになったのだ。
その中でも最も親しくなったのはもちろん唯である。
唯の裏表のない純粋な明るさに、
長いぼっち生活でひねくれていた紬の心は
在りし日の清らかさを取り戻しかけていた。
そして、ぬいぐるみと話すことも、なくなっていった。
18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/24(金) 22:57:49.69 ID:mCBIFmAb0
そんなある日。

ガチャ
紬「こんにちはー」

澪「よう」

紬「あれ、まだ澪ちゃんだけ?」

澪「うん、律は掃除当番だって」

紬「そうなんですか」

澪「唯はなんだろうな。
  さっき和に職員室に連れられていってたけど。
  なんかやらかしたのかな」

紬「ふふ、和ちゃんに連れられてってとこが、
  唯ちゃんらしいですね」

澪「ははは、確かに」

紬「紅茶淹れましょうか」

澪「うん、頼むよ」

紬「はーい」

澪「……」
21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/24(金) 23:02:50.50 ID:mCBIFmAb0
澪「ムギ、別に敬語じゃなくってもいいぞ」

紬「えっ……?」

澪「敬語じゃなくてタメ口で話してくれていいよ。
  てゆーかそっちのほうが自然だし、
  私も話しやすいからな」

紬「み、澪ちゃん……」

敬語じゃなくタメ口で話す。
それはもう距離を置かなくてもいいということ。
他人とか知り合いとかじゃなく、
友達として認めてもらえたということだ。
紬は嬉しさのあまり泣きそうになったが、なんとかこらえた。

紬「うん、分かった……
  ありがとう、澪ちゃん!」

澪「うん、やっぱりそっちのほうがいいよ」

紬「えへへ……
  あっ、紅茶すぐ用意するわね」

澪「そんな焦んなくても大丈夫だよ」

紬「あっ、ごめんなさい、つい嬉しくって……」

澪「あはは、喜びすぎだよ」
22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/24(金) 23:07:39.21 ID:mCBIFmAb0
ガチャ
律「ちーっす!」

唯「こんちゃーっす!」

澪「おう、来たか」

唯「ムギちゃーん、今日のお菓子なにー?」

紬「今日はチーズケーキよ」

唯「わーい、チーズケーキチーズケーキ!」

律「唯は食うことばっかだなー」

唯「だってムギちゃんのお菓子おいしいんだもん!」

紬「ふふ、ありがとう。
  はい紅茶よ」

唯「わーい」

律「サンキュー」

紬「すぐケーキも用意するわね」

唯「うん……ん?」

律「どうした、唯」
23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/24(金) 23:12:39.75 ID:mCBIFmAb0
唯「うーん、なんか違和感があるんだよ」

律「は? 違和感? なにが?」

唯「なんだろ、自分でもよく分かんないけど」

律「紅茶になんか入ってたんじゃないのか??」

紬「あら、変なもの入っちゃってた?
  ごめんなさい」

唯「別に紅茶は普通だけど……もっと他の……
  あっ」

律「なんだ」

唯「ムギちゃんが敬語じゃなくなってるんだ!」

律「な……なんだってー!?」

唯「どーしてー?
  なんで敬語じゃなくなってるの、ムギちゃん」

紬「えへへ、ちょっとね……
  敬語じゃないと変だったかしら」

唯「うん!!」
25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/24(金) 23:18:17.34 ID:mCBIFmAb0
紬「えっ……」

唯「ムギちゃんには敬語のほうが似合ってるよー。
  ねー、りっちゃんもそう思うでしょ?」

律「そうだなー、
  なんか敬語のほうがムギっぽいって感じする」

唯「うんうん、りっちゃんの言うとおりだよ!
  タメ口じゃなくて敬語のほうが絶対いいって?」

紬「え……でも」

唯「そのほうがムギちゃんのキャラに合ってるもん!」

紬「……」

唯「ねっ、澪ちゃんもそう思うよねっ」

澪「え? えーっと……」


唯「……」

律「……」

澪「そ、そうだな!
  ムギにはやっぱり敬語のほうが似合うよ、うん」

紬「え」
26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/24(金) 23:22:18.34 ID:mCBIFmAb0
律「お、やっぱ澪もそう思うか」

唯「ほらー、澪ちゃんもこう言ってるよー」

紬(嘘、嘘よ。
  澪ちゃんは敬語はやめたほうがいいって、
  タメ口のほうがいいって言ってくれたわ。
  そうでしょう、ねえ、澪ちゃん……)

紬は縋るような視線で澪を見つめたが、
澪はただ気まずそうに目をそらしただけだった。

紬(なんで、なんで……
  私のことほんとの友達だって
  認めてくれたんだと思ったのに……)

唯「じゃー多数決でムギちゃんは敬語存続の方向で!」

律「オッケー、ムギ?」

紬「……ええ、わかりました。
  こっちのほうが話しやすいですしね」

唯「わー、敬語のほうがしっくり来るよー」

律「やっぱムギは敬語じゃなくっちゃキャラに合わねーよな!」

紬「あはは……」

澪「……」
29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/24(金) 23:27:06.76 ID:mCBIFmAb0
その日もミーティングという名のお茶会をして
適当に練習をして解散となった。

律「よーし、今日の練習はここまでにすっか」

澪「全然練習してなかったじゃないか……」

唯「じゃあ帰ろっか」

紬「私ティーセット片付けてから帰りますね」

唯「あっ、じゃあ私も手伝うよー」

紬「え、いやいいですよ、私だけでやりますから……」

唯「いーのいーの、遠慮しないで!」

紬「あ、いえホントに大丈夫ですから……
  それに今日はこの後先生に呼ばれて用事もありますし、
  それまでに時間つぶしにもなりますから」

唯「えーでも」

律「いいじゃん唯、ムギがそう言ってんだからさ。お言葉に甘えて帰ろうぜ」

唯「うーん、そうだね……じゃあね、ムギちゃん」

紬「はい、また明日」

澪「……」
30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/24(金) 23:31:06.51 ID:mCBIFmAb0
3人が出ていって、
音楽準備室は紬一人だけになった。
紬はティーセットを片付けようとはせず、
いつも自分が使っている椅子に
倒れるように座った。
そして今日の3人の言葉を反芻する。

『敬語じゃなくてタメ口で話してくれていいよ』

紬(結局対等の友達関係になんてなれるわけないんだ……
  澪ちゃんもりっちゃんや唯ちゃんたちのほうが大切だから
  私の気持ちを知っていながらあんなことを言ったのよね)

『そ、そうだな!
 ムギにはやっぱり敬語のほうが似合うよ、うん』

紬(どうしてあのとき、タメ口の方が良いって言ってくれなかったの?
  やっぱり私はその程度の存在でしかないの?)

『そのほうがムギちゃんのキャラに合ってるもん!』

紬(キャラ? キャラって何?
  私は周りから求められるキャラクタを演じなければいけないの?
  琴吹紬という人間を見てはくれないの?)

『やっぱムギは敬語じゃなくっちゃキャラに合わねーよな!』

紬(お茶くみ係で、ケーキを持ってきて、お嬢様で、
  キーボーディストで、敬語で、それが私のキャラだって言うの?
  私はそこから逸脱しちゃいけないの……?)
31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/24(金) 23:33:19.08 ID:mCBIFmAb0
紬はふとキーボードに視線をやった。
これは紬にとっての軽音部で唯一の居場所。
無心でキーボードを弾いているときは
自分が孤独であることに悩む必要などないし
みんなと一緒に何かをしているのを感じられる。

紬(でも私以外にキーボードの出来る人が入部したら?
  その人がもし私より下手でも、私よりみんなと仲良くなったら
  きっとみんなはその人を私の代わりにキーボーディストにするわ。
  そうすれば私の居場所はもう……)

紬は椅子から立ち上がり、キーボードへと歩み寄る。

紬(私はどうすればいいの?
  いつまでも給仕係として、キーボーディストとして、
  ただキャラに徹していればいいの……?)

使い慣れたキーボードを手のひらで撫でる。

紬(でもそんなの絶対に嫌……
  みんなが楽しく笑い合ってるのに
  私だけが仮面をつけて違う私を演じるなんて……
  そんな惨めなこと耐えられない)

鍵盤を無造作に指で押さえる。

紬(私はただ……ただ、
  みんなと友達になりたいだけなのに……!)

すると次の瞬間、鍵盤が光りだしたのである。
32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/24(金) 23:36:00.56 ID:mCBIFmAb0
紬「な、何……!?」

慌ててキーボードから飛び退く紬。
起こったことが理解できず、
眼前の超常現象に対して思考が追いつかない。
パニックになる紬を置いてけぼりにして、
さらに信じがたい光景が繰り広げられる。

光る鍵盤から、羽の生えた小人が飛び出してきたのだ。

紬「なななななな……」

クール『こんにちは、紬ちゃん!
    僕は鍵盤に宿る76人の妖精のひとり、クール! よろしくねっ』

紬「く、く、クール……!?」

クール『さあ、みんなも出ておいでっ!』

クールの呼びかけに応じて、
鍵盤から次々と妖精が幻想的な光をともなって現れた。
この世のものとも思えない美しさに、
紬はさっきまで混乱していたことも忘れ、見入ってしまった。

紬「綺麗……」

ワイアール『やっと会えたね、紬ちゃん!』

ピット『私たちずっと紬ちゃんに会いたかったのよ』
34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/24(金) 23:39:22.36 ID:mCBIFmAb0
紬「会いたかった、って……」

ゴドラ『だって紬ちゃん、最近友達のことで悩んでるんだろ?
    俺達で救ってあげたいって思ってさ』

ビラ『大丈夫だよ、僕たちは紬ちゃんたちの味方だから!』

ペガッサ『紬ちゃんは私たちのキーボード、
     とってもとっても大事に使ってくれてるからねっ!』

キュラソ『僕たちも恩返しをしたいんだよ』

紬「恩返し……」

メトロン『さあ、僕たちに話してくれよ、紬ちゃん。
     君が今までどれだけつらい目にあってきたのか……』

チブル『私たちが必ずあなたを救ってあげるから』

紬「みんな、ありがとう……あのね……」

紬は妖精たちに今までのことを話し始めた。
軽音部に溶け込めずにいたこと、
みんなと仲良くなろうと頑張ったこと、
それでも友達にはなれなかったこと、などなど。

話を聞き終えた76人の妖精たちは
みな一様に憤慨した。

イカルス『なんて酷いんだ、紬ちゃんをこんなに悲しませるなんて!』
36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/24(金) 23:42:42.85 ID:mCBIFmAb0
ワイルド『そうだ! みんな紬ちゃんの気持ちを全然わかってない!
     とくに澪ちゃんは最低の最悪だ!』

スペル『紬ちゃんがお友達になろうとしているのに、
    こんな仕打ちをされちゃうなんて!』

アイロス『紬ちゃん! もうそんな奴らと仲良くなる必要なんてないよ』

紬「えっ、でも……」

ペダン『そうさ! 紬ちゃんには僕たちがついてるもん!』

アンノン『軽音部の人たちと仲良くなろうとしても、
     傷つけられてしまうだけだわ!』

ユートム『僕、紬ちゃんがこれ以上悲しむのは見たくないよ!』

ベル『そうね、無理して嫌な奴と友達になろうとしなくたっていいの』

バド『でも僕たちは紬ちゃんを傷つけたりはしない』

シャプレー『紬ちゃんのことは何でも分かってるから、
      僕たちは紬ちゃんにとって素晴らしいお友達になれるとおもうよ』

ミミー『軽音部の人たちはほっといて、私たちと遊びましょう』

ブラコ『僕たちと、友達になろう!』

シャドー『遠慮なんて要らないよ、
     僕たちは紬ちゃんのために存在するんだから!』
37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/24(金) 23:46:19.08 ID:mCBIFmAb0
紬「うう、私、そんなこと言ってもらえたの初めてよ……
  ありがとう、ほんとうに嬉しいわ……」

カナン『紬ちゃんが喜んでくれて、私たちも嬉しい!』

ポール『さあ、これで僕たちと紬ちゃんは友達だ!』

ギエロン『これを記念に、みんなで歌を歌おうじゃないか』

紬「歌……?」

ボーグ『ああ、僕たちが紬ちゃんのためだけに作った歌さ!』

キル『タイトルは、Dear My Keys?鍵盤の魔法?』

紬「鍵盤の、魔法……」

プロテ『さっ、紬ちゃん、キーボードに手を置いて。
    演奏するのはあなたの役目よ』

紬「えっ、でも私この曲知らないわよ?」

プラチク『大丈夫、弾けるから。僕たちを信じて』

紬「え、ええ……」

ダリー『ではいくよ、いちにのさんはい!』
38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/24(金) 23:48:14.82 ID:mCBIFmAb0
リッガー『76Keys 76人の妖精♪』

シャドウマン『私の想いを伝えて♪』

ダンカン『女の子なら誰でもきっと使える♪』

ザンパ『オリジナルの魔法♪』

ペガ『私にとってそれは鍵盤♪』

合図と共に76人の妖精たちは歌い始めた。
その歌声に導かれるように、紬の指は鍵盤の上を滑り、
聞いたことがないはずの曲を奏でていく。

紬「凄い……すごいわ!
  これがみんなの力なの?」

マヤ『そうだよっ! 紬ちゃんのためだけの力!』

バンダ『紬ちゃんも一緒に歌おうよ!』

ガッツ『言葉にならない気持ちも素直なメロディで♪』

紬「聞こえた人の耳に 届いた人の胸に♪」

テペト『温かな何か遺す魔法でー♪』

妖精たちと紬の合唱会は
そのあと夜遅くまで続いたのだった。
40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/24(金) 23:51:18.96 ID:mCBIFmAb0
琴吹家。

ガチャ
紬「…………」

斉藤「あっ、お嬢様……
   やっとお帰りになりましたか、心配いたしましたよ」

紬「…………」

斉藤「遅くなられるときは連絡していただかないと……
   携帯電話にもお出にならないから、何事かと思いましたが」

紬「…………」

斉藤「無事にお帰りになって、なによりで……
   ……!?」

そこで斉藤は初めて気がついた。
紬の状態が普通ではないということに。

斉藤「お、お嬢……様……?」

紬は目の焦点が合っておらず、
口の端からはヨダレを垂らし、
ブツブツと独り言をつぶやいている。
歩き方もおぼつかない。

斉藤「お嬢様、大丈夫ですか? お嬢様!」
41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/24(金) 23:54:22.78 ID:mCBIFmAb0
斉藤は紬の方を掴んで強く揺さぶった。

斉藤「お嬢様っ!」

紬「……あらぁ……斉藤……
  いつからそこにいたのぉ」

斉藤「さっきからおりました……
   どうなさったのです、お嬢様、
   どこかお体の具合でも……?」

紬「いやあ……
  ちょっと友達と遊んで、疲れてるの……
  明日もいっぱい、いっぱい遊ぶから……
  早く休まなくっちゃ……クヒ」

斉藤「お、お嬢様、そのお友達って……
   まさか危ない人達ではないでしょうな!?」

紬「そんなことないわぁ……
  みんなとってもとっても優しいもの……
  私だけのお友達なのよ……」

斉藤「誰なんです、そのお友達というのは!?」

紬「76Keys、76人の妖精……うひひひひ」

紬は気味悪い笑みを浮かべながら、
いぶかしむ斉藤を置いて自分の部屋へと戻っていった。
44: ◆V/47vVWMD6 2010/12/24(金) 23:58:26.89 ID:mCBIFmAb0
翌日。

澪「おはよー、律」

律「おう、おはよう」

澪「……ムギはまだ来てないのか?」

律「え? ああ、そういやまだみたいだな。
  珍しいな、いっつももっと早く来てるのに」

澪「ああ……」

律「どうしたんだよ? なんか元気ないじゃん。
  朝御飯食べてこなかったのか?」

澪「ちゃんと食べたし、別に元気ないわけでもないよ。
  そんなことよりちゃんと英語の宿題やったのか?」

律「やってません!!」

澪「威張るな……」

澪(ムギ来てないのか……)
46: ◆V/47vVWMD6 2010/12/25(土) 00:01:04.15 ID:KSazXlOY0
飛んで放課後。

律「あー、やっと授業終わったな」

澪「疲れた……さて部活行くか」

律「あっ、私掃除当番だから」

澪「分かってるよ、先行ってる」

律「手伝ってやる、とか言ってくれないのな」

澪「言わないよ、お前私に任せっきりにするからな。
  じゃ、もう行くから」

律「へーへー」

ガラッ
唯「澪ちゃーん、部活いこー」

澪「おう」
47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/25(土) 00:03:05.86 ID:KSazXlOY0
唯「今日のムギちゃんのお菓子何かな?♪」

澪「ムギ休みだぞ」

唯「えっ、そーなの?
  じゃーお菓子食べられないじゃーん。
  なんで休みなのー」

澪「……」

唯「あっ、じゃあ今からコンビニ行ってお菓子買ってくる!」

澪「ダメダメ。今日はちゃんと練習するからな」

唯「えー、ぶー。
  ところでムギちゃんなんで休みなの? 風邪?」

澪「さあ……?
  先生にも連絡してないみたい」

唯「無断欠席ですか、けしからんね。
  もしかしてサボりかな」

澪「サボり、ね……」

唯「あれ?」

澪「どうした?」

唯「音楽準備室からムギちゃんの声するよ」
48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/25(土) 00:05:16.84 ID:KSazXlOY0
澪「は?」

唯「ほら、耳すましてみなよ」

澪「……」

澪は半信半疑で音楽準備室の扉に耳をくっつける。
確かに中から紬の声が聞こえた。

澪「ほんとだ」

唯「休みじゃなかったの?」

澪「いや、確かに学校には来てなかった」

唯「じゃあ授業サボって部活だけ来たのかな?
  ムギちゃんって意外とやんちゃなんだね?」

澪「……」

唯「どうしたの、澪ちゃん」

澪「なんか嫌な予感がする」

唯「嫌な予感?」

澪「入るぞ、唯」

澪はそう言うと音楽準備室の扉を開けた。
51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/25(土) 00:09:59.00 ID:KSazXlOY0
そこにはお察しのとおり
狂った表情で虚空を見つめ
見えない何かと戯れる紬がいたのであった。

紬「うふふ……駄目よぉノンマルト、そんなことしちゃ。
  ゴーロン、ペロリンガ、かわいい声で歌うのね」

唯「ムギちゃん……?」

澪「おい、ムギ。どうしたんだ……?」

紬「え、なあに、サロメ……
  誰かが私のことを呼んでるって?
  ああ、ほっとけばいいのよ、あんな人達……」

唯「あんな人達って私たちのこと?」

澪「どうやらそうみたいだな……
  おい、どうしちゃったんだよ、ムギ」

紬「しつっこいわねぇ……
  もうほっといてちょうだい、
  私たちはこの妖精さんたちと遊んでいるのだから」

唯「よ、妖精さん……?」

紬「あなたたちには見えないでしょうね。
  この子たちは本当の友情を欲している人にしか見えないのよ。
  ねっ、フック」
54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/25(土) 00:16:18.83 ID:KSazXlOY0
唯「ねえ、ホントにどうしちゃったの? ムギちゃん。
  何のことなの、本当の友情って」

紬「あなたたちなんかには分からないわ。
  特に澪ちゃんにはね」

澪「……」

紬「もう私に構わないで、
  私にはこの妖精さん達がいるの。
  妖精さんたちと遊んで暮らすのよ」

澪「ムギ、もしかして昨日のこと怒ってるのか……?」

唯「昨日のことって?」

澪「……」

唯「何があったの、澪ちゃん?」

澪「昨日……唯と律が音楽室に来る前に、
  私がムギに『敬語じゃなくていい』って言ったんだ」

唯「え、でも澪ちゃん、
  やっぱりムギちゃんは敬語のほうがいいって言ってなかった?」

澪「……唯や律と違ったこと言うのが怖くて……
  ついそう言っちゃったんだ……
  ムギの気持ちも考えずに……」
55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/25(土) 00:24:17.22 ID:KSazXlOY0
唯「それはムギちゃんに謝ったほうがいいよぉ。
  ていうかそれ私も悪いじゃん、
  ムギちゃんに敬語のほうが似合う、なんて言っちゃったし」

澪「うん……
  タメ口で話せばいいよ、って言ったときのムギ、
  すっごく嬉しそうだったし……」

唯「それと反対のこと押し付けられたから
  私たちのこと信用できなくなって
  こんな頭おかしい感じになっちゃったのかなあ」

澪「多分、そうだと思う」

唯「そっか……」

澪「ムギ、聞いてくれ……
  昨日のことなんだけど」

紬「そうなんだ、妖精さんたちの国では
  冬には虹色に光る雪が降ってくるのね。見てみたいわー」

澪「あの……ごめん。
  ムギの気持ち、考えずにあんなこと……
  ほんとにごめん!」

紬「春になってその雪が溶けると、
  オーロラのような花が芽吹いてくるの?
  さぞかし美しいんでしょうね?」
57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/25(土) 00:32:46.70 ID:KSazXlOY0
澪「あの、ムギ……聞いてる?」

紬「まあ、ゴースはその花を持っているの?
  見せて見せて!」

唯「ちょっとムギちゃん!
  確かに私たちが悪かったけどさあ、
  謝ろうとしてるんだからちゃんと聞いてよ!」

紬「わあっ、すっごく綺麗?……
  人間の世界じゃこんな花見られないわ。
  それにいつまでも枯れないだなんて素敵!」

唯「ムギちゃん!」

澪「おい、唯、乱暴はやめろ……」

業を煮やした唯は、
紬の肩を大きく揺さぶった。
それでも紬は唯たちの方を見ようとはしなかった。

紬「……ああ、心配しないで、みんな……
  こんな人達の暴力なんて、
  あなたたちの力を使えばどうにか出来るでしょ?」

唯「もう、いいかげんにっ?!」

澪「馬鹿、やめろ!」

音楽準備室に乾いた音が響いた。
58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/25(土) 00:39:09.18 ID:KSazXlOY0
紬「い、痛い……」

澪「おい唯、殴っちゃマズイだろ」

唯「だってああでもしないと目覚まさなそうだったんだもん」

紬「ひどい……殴るだなんて……
  結局あなたたちは私のことそういう扱いするのね」

唯「違うよ、ムギちゃんが居もしない妖精と話してたから……」

紬「いるじゃない、ここに! 76人も!」

唯「どこにいるのさ!」

紬「ここに……あれ、いない……
  みんな、何処に行ったの……? 消えちゃったの?
  ねえ、戻ってきて、みんな!
  私を置いて消えないでよ! ねえってば!」

唯「やっと目が覚めたみたいだね」

澪「よかったよかった」

紬「なんで……みんなまで私のこと裏切るの
  ……いや……いやーっ!!」

ムギはそう叫ぶと走り去っていった。

唯「む、ムギちゃん!」
61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/25(土) 00:47:45.54 ID:KSazXlOY0
ムギの目的地は自宅だった。
帰るなりムギは部屋に飛び込んで
血走った目でぬいぐるみを漁り始めた。

紬「ねえデネボラちゃん!
  聞いてよ、軽音部のやつらに私殴られたの!
  信じられる? ねえってば!」

デネボラ「…………」

紬「ねえ、どうしてお喋りしてくれないの?
  いつも私と話してくれるじゃない!
  私のこと慰めてくれるでしょ? ねえデネボラちゃん!」

デネボラが返事をしないことが分かると
紬はデネボラを放り投げ、次のぬいぐるみに手をかける。

紬「フォマルハウトちゃんは私と話してくれるわよね!
  あなたはいつも私の言うコト聞いてくれてたもの、そうでしょ?」

しかしフォマルハウトも無反応。
紬はフォマルハウトをゴミ箱に突っ込んだ。

紬「メサルティムちゃん! ねえ!
  あなたも私のこと裏切るつもりなの!?
  私とあなたは一番の親友だったじゃない!! ねえ!!」

メサルティムを渾身の力で揺さぶる。
しかし首や手足が揺れるだけで反応はない。
当然のことであるが。
62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/25(土) 00:54:49.32 ID:KSazXlOY0
叫びにも似た紬の声を聞きつけ、
斉藤が部屋にやってきた。

斉藤「お嬢様……」

紬「何よ斉藤!!」

斉藤は紬の般若のように歪んだ顔に一瞬たじろいだ。
しかしすぐに心を整えて、
長年仕えてきたお嬢様に向きあう。

斉藤「お嬢様、もうぬいぐるみとお話になるのはおやめ下さいませ」

紬「嫌よ! なぜあなたにそんなことを言われなければならないの?
  私とこのぬいぐるみさんたちは友達なのよ!!」

斉藤「ぬいぐるみと友達になれるのは、小さな子供の間だけ。
   お嬢様はもうすぐ16歳……
   現実を見つめて生きていかねばならぬお年でございます」

紬「現実を見つめるって何?
  あの軽音部の人たちと一緒に生きろってこと?
  そんなことできるわけないじゃない、
  あの人達は私を受け入れようともしてくれてない!」

斉藤は紬のこんな姿を見るのは初めてだった。
おとなしく内気だった紬が、ここまで感情を顕にして噛み付いてくる。
そのことに斉藤は喜びを感じていた。
65: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/25(土) 01:05:03.09 ID:KSazXlOY0
真面目でおとなしく、誰にも迷惑をかけない良い子でいる。
それは確かに大事なことだ。
だがそれでは人間は成長できない。
人畜無害たろうとして、人を傷つけること、
また自分が傷つくことを極度に恐れてしまい、
感情を胸のうちに閉じ込めるようになり、
人と関わること自体に臆病になってしまうからだ。
そうなるとやがて現実逃避に走り、前を向かなくなる。
紬にもその気があった。
だが今、紬は感情をむき出しにして、
人から受けた痛みを、憎しみを、ぶちまけている。
これを乗り越えれば紬はさらに成長できる、
斉藤はそう思っていた。
だから野獣のようになってしまった紬に対して
慎重に言葉を選び、対話を続ける。

斉藤「お嬢様が求めているのは、
   ただ自分を認めてくれる存在なのでございましょう。
   そのぬいぐるみのように、
   自分の望んだ答えしか言わない、そんな存在を、
   お嬢様は欲しておられるように見える」

紬「いいじゃない、別に……放っておいて!
  私はこれで満足してるんだから!」

斉藤「満足などしていない!
   そのぬいぐるみたちと話すお嬢様は、
   いつも悲しげな顔をしてらっしゃいました」

紬「っ……」
67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/25(土) 01:10:02.81 ID:KSazXlOY0
斉藤「生身のお友達を作りなさい。
   そんなぬいぐるみに縋らずとも、
   お嬢様ならばきっと素敵なお友達を作れます」

紬「無理、無理よ……!
  私と友達になってくれる人なんて、いるわけない!」

斉藤「いらっしゃいます」

紬「嘘!」

斉藤「窓から外をごらんなさい」

紬「……?」

紬は言われたとおり、窓を開けて外を見渡す。
すると、玄関のところに3人の人影が見えた。

紬「唯ちゃん、澪ちゃん、それにりっちゃん……」

斉藤「お嬢様の様子を心配して見に来てくださった……
   優しくて素敵な方達ではありませんか。
   お友達にならなければもったいないかと」

紬「あの人達は無理よ……
  みんなに酷いこと言っちゃったもの」

斉藤「その酷いことを言った人のところに、来てくださっているのですよ」

紬「……」
72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/25(土) 01:21:16.60 ID:KSazXlOY0
紬「でも怖いわ……また何を言われるか分からないもの」

斉藤「お嬢様……お嬢様は、
   ご自分からあの方達と仲良くなろうとなさいましたか?」

紬「え……」

斉藤「話しかけたり、遊びに誘ったり」

紬「……」

そう言われて紬は今までの自分を思い返し、
軽音部員との関係について
すべて自分が受身の姿勢でいたことに気づいた。
相手の言葉に一喜一憂するのみ。
踏み込むことを恐れて自分からはなにもしない。
したとしても相手が自分の気持に気付かないくらいの些細なこと、
つまりはただの自己満足。そんなことで友達など出来るわけがない。

斉藤「恐れることはありません。
   どーんとぶつかってくるべきです」

紬「でも……」

斉藤「大丈夫、あの方達ならお嬢様のすべてを受け入れてくれます。
   もしそうでなかったときは、私が責任を持ってお慰めいたしますゆえ、
   どうか勇気をお出しになってください。
   あの方達のためにも、ね」

紬「……」
74: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/25(土) 01:28:29.16 ID:KSazXlOY0
琴吹邸、正門前。

澪「出てきてくれるかなあ、ムギ……」

唯「どーだろ……殴っちゃったしねえ」

律「はは、唯は見た目より武闘派なんだなあ」

澪「笑い事じゃないっ」

唯「出てきてほしいな、ムギちゃん……
  私、ムギちゃんと友達になってたつもりだったけど……
  ムギちゃんはそうは思ってなかったんだね」

律「ああ、そうだったみたいだな……
  私たち、知らないうちにムギに嫌なこと
  いっぱい言っちゃってたかも」

澪「うん……だから、ムギが出てきたら、
  今度こそちゃんと謝って……」

唯「ほんとの友達になりたいねっ」

律「ああ」

唯「早く出てきてくれないかな……」

ガチャ

律「おっ」
76: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/25(土) 01:34:08.81 ID:KSazXlOY0
紬「あ、あの……」

大きな門の影から、
紬がおずおずと顔を出した。

律「おお、ムギ、出てきてくれたか!」

紬「あ、うん……」

律「よーし、それじゃあまずは……せーのっ」

律が両脇の唯と澪に目配せをする。
そして合図と共に3人揃って深々と頭を下げた。

唯澪律「ゴメンなさい!!」

紬「え、え、ええええっ!?」

いきなりんことに戸惑う紬をあえて無視して
3人は頭を下げたまま話し始める。

澪「昨日はほんとにごめん!
  ムギのこと裏切るような感じになっちゃってゴメンなさい!」

唯「私も殴ったりしてごめん、
  それに今までムギちゃんの気持ちに気づけなくて、ごめんねっ」

律「私もごめん!
  部長とか言っといて、部員のこと理解できてなかった!
  だから……ごめん!」
77: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/25(土) 01:43:49.83 ID:KSazXlOY0
紬はいきなりの謝罪に
どう対応していいか分からなかった。
はっきり言って悪いのは全て紬なのだ。
唯が紬を殴らざるを得なかったのは
まぼろしの妖精に心奪われていたせいだし、
みんなが紬を理解できなかったのも
紬が感情を表に出すことを恐れていたせいだ。
澪が紬の気持ちを裏切るようなことになったのは
これは澪が悪いか。

まあともかく紬は
こんなふうに誰かから申し訳ないと思ってもらえること、
心から仲良くしたいと思ってもらえることが嬉しくて、
胸がいっぱいになって、いつしか涙を零していた。

紬「み、みんな、あ、ありありありありありありがとう……」

唯「ムギちゃん、何も泣かなくても!」

澪「そ、そうだよ、ムギが泣くことなんて」

紬「うう、ごめん、なんか涙が止まんなくて……」

律「まあいいだろ、とにかく一件落着なんだし!
  ムギ、今度からは言いたいことがあったらすぐ言ってくれよ!」

唯「そーだよ、私たちに遠慮することなんてないから」

紬「みんな……」
78: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/25(土) 01:52:47.50 ID:KSazXlOY0
紬「あ、あの、じゃあ早速ひとつ、言いたいことが……いい?」

律「ん、なんだ?」

紬「み、みんなと敬語じゃなくて、
  タメ口で、喋りたいの…………駄目?」

その問いかけに、3人は一瞬顔を見合わせる。
そしてすぐに紬のほうに向き直り、

律「あったりまえじゃん、友達なんだから!」

唯「それにそんな可愛い涙目で上目遣いで言われたら、
  駄目なんて言えるわけないし!」

紬「み、みんな……ありがとう……」

澪「よし、じゃあ学校まで戻ろうか!
  まだ部活動の時間はいっぱい残ってるしな!」

律「よーし、学校まで競走だ! はっしれー!」

唯「わー、待ってよみんなー!」

紬「あはははっ」

それからというもの、妖精は紬の前に現れていないし、ぬいぐるみも喋っていない。
でもその代わりに紬はもっと大切なモノを手に入れたのでした、というおはなし。

     お      わ           り
80: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/25(土) 01:57:29.82 ID:xLbM0+/N0
きれいにしめた……だと……?

まぁ乙
むぎゅううは天使だな
82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/25(土) 01:58:36.86 ID:k06N4ALz0
2本も書いておつかれさん、両方面白かったよおやすみ!
83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/25(土) 01:59:34.75 ID:unjMDduA0
おつかれw
84: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/25(土) 01:59:39.05 ID:lpy4Q5RR0
むぎゃううううう
93: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/25(土) 03:38:28.22 ID:ZfcWsMDx0
むぎちゃんかわいい
94: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/25(土) 04:37:33.97 ID:JPo8PEUq0
よかったよかった

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