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少女「海と、瓶に詰まった手紙」

ライトノベル新刊情報サイト「ラノベ総合案内所」が出来ました.

1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/03(木) 22:59:03.97 ID:A/ecxZgpO
僕「はぁ……」


僕「予備校、行くのメンドクサイ」

僕「……」

僕「一日くらい」

僕「まあ、いいよね」
3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/03(木) 23:02:54.69 ID:A/ecxZgpO
一日くらい別にいいだろう。

そう言って、僕はもう三日も予備校の授業をサボっている。

いつもの場所。

現実逃避のためのこの場所。

小さな浜辺の、隅っこに僕はいた。
4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/03(木) 23:08:53.22 ID:A/ecxZgpO
僕「はぁ……」

僕「何やってるんだろうな、自分」

僕「こうやって一人で逃げて」

僕「ボーッと海を見て、日が暮れたらまた一人の家に帰って」

僕「……」

僕「でも、まだ外に出てるだけマシだよな」
5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/03(木) 23:12:59.71 ID:A/ecxZgpO
僕「きっとそうだよ。これで引きこもりにでもなったら、ダメなのかもしれないけれど」

僕「……」

僕「あ、でも明日からそれもいいのかな」

僕「……いや、お金を払っている以上予備校には行かないと」

僕「生活費のためにバイトだって休めない」

僕「……」

僕「ああ、楽になりたいな」

ピリリリリ。

僕「ん、メール? 女から……」
6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/03(木) 23:21:13.63 ID:A/ecxZgpO
女『今日も学校休み? ちゃんと授業出ないとダメだよっ』

僕「……」

彼女とは、今の予備校で知り合った仲で、何かと僕の事を気遣ってくれる面倒見のいい子だ。

最近は一人になりたい時間が多いので、それがちょっと億劫になっていたけど。

僕(このメールだって、それだ)

僕は彼女に返信もせずに、ただ海に目を向けていた。

僕(ああ、空が綺麗だ)
8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/03(木) 23:31:48.93 ID:A/ecxZgpO
僕(こんなんでいいのかな、自分)

僕(予備校も中途半端、仕事なんてただのアルバイト)

僕(もうすぐいい歳だしな……でも)

明日からすぐに生き方が変わるわけでもない。

昨日もそんな事を考えた気がしたけど、気にしない。

僕「……そろそろいい時間。帰ろうかな」
11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/03(木) 23:41:24.92 ID:A/ecxZgpO
気分転換にはなっているが、明日からの事を考えると足取りは思い。

僕「明日からまたバイトか……ん?」

帰りの砂浜で、僕は足元に瓶を見つけた。

僕「?」

僕「何か入っている?」

少し大きなガラス瓶の中には、紫色の……紙のような物が入っていた。

僕「……」

僕はそのまま、瓶に構わず帰ろうとした。
12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/03(木) 23:48:57.57 ID:A/ecxZgpO
僕「でも、ちょっと気になる……」

ただの瓶の中に、そんな小綺麗な物が入っているのが少しだけ。

僕の胸に引っ掛かった。

僕「ガラスの……今時こんなの、珍しいな」

ひょいと瓶を拾ってみると、コルクで栓がされた大きな瓶。

中には、よく見ると……封筒?

手紙の形をしたそれは、瓶の中にただあった。
16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/03(木) 23:55:17.77 ID:A/ecxZgpO
僕「手紙……なのか?」

瓶をくるりと回して見てみるが、封筒の裏にも表にも何も書いていないのが見える。

僕「えい」

僕は興味に負けて、コルクの蓋を開けた。

コルクの匂いの後に、中から何か花のような甘い匂いがした気がした。
18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 00:07:39.36 ID:gg+EtQm+O
僕「……本当に手紙だ」

紫色の封筒。

僕「ん、ちゃんとノリでとまって……」

それを開けてみようとしたが、きっちりと封がされている。

乱暴に破いて開けてしまおうかとも思ったけれど。

僕「……」

僕「いいや、持って帰ろう」

破いて中身を見てしまうのは、何だか……もったいない気がした。

その封筒が、僕の上着のポケットにスッポリと入ったのも、一つの理由だ。

僕は、夕焼けの海をあとにした。
20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 00:16:18.08 ID:gg+EtQm+O
僕「ただいま、っと」

誰も待っていない部屋に挨拶をして、僕はカバンと上着を投げ出してベッドに腰をおろした。

右手には、先ほど海で拾った手紙を持ちながら。

僕「ハサミ……と」

そのまま開けようとしたが、ノリでくっついた部分が取れなくいので。

僕は封筒の端をハサミで切って中身を確認する事にする。

端から端に切れ目が出来ると、そこから一枚の紙が顔を出す。

本当に、手紙みたいだ。
22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 00:24:01.61 ID:gg+EtQm+O
僕は夢中でそれを取り出した。

僕「字が……書いてある」

少しだけ胸がドキドキしていたのを覚えている。

僕に宛てた手紙なんかでは無いのに。

いや、それを覗き見る緊張感から……なんだろうか。

甘い匂いがするその手紙を、僕は読み出した。
23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 00:38:47.60 ID:gg+EtQm+O
こんにちは。
この手紙を拾ってくれた方、まずはありがとうございます。
良かったら、私と文通しませんか?
普段お話出来ないような事を、お互い言い合えたらいいなと思っています。
お返事を、海の向こうで待ってます。


僕「これ……?」

名前も宛先も書かれていないその手紙には、あまりに普通で不思議な事が書かれていた。

でも明らかに、特定の誰かに書かれたような内容ではない。

それでも僕は、まだドキドキしながらその手紙を見ていたんだ。
24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 00:54:00.19 ID:gg+EtQm+O
僕(綺麗な字。私って書いてあるから女の子……なのかな)

僕(でもこの文って……)

僕(まあそもそも、こんな変な方法で手紙を送るなんて無いものな)

僕「にしても……一体何なんだろう」

浜辺に流れていた瓶、その中から取り出した手紙に、宛名の誰に向けられたのか、わからない文章。

僕「……」

ピリリリリ。

手紙に見とれていると、ズボンのポケットからメールの届いた音がした。

僕は条件反射でそれを開く。
25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 01:04:02.61 ID:gg+EtQm+O
女『大丈夫、生きてる? 具合悪いならお見舞い行こうか?』

今日二回目のメールが届いていた。

さすがに、三日間も顔を出さないのは……同じクラスの人間として心配させてしまっただろうか。

僕「……返事だけでもしておこうかな」

僕『生きてるから大丈夫だよ』

必要最低限の文章を、彼女に送り返す。

ピリリリリ、とまた携帯が鳴る。

女『よかった! じゃあ明日はちゃんと学校来るんだよっ!』

文章からは、元気な彼女の様子が伝わってくる。
26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 01:09:30.88 ID:gg+EtQm+O
僕は携帯をベッドに投げつけて、そのまま寝転がってしまう。

明日の事を考えたら、また頭がごちゃごちゃして来てしまった。

僕(いいや……おやすみなさい)

僕はそのまま何も考えずに、布団にくるまって眠る事にした。

目を閉じると、枕元に置いた手紙から……また甘い匂いがした。

その匂いに意識を奪われるように、僕は眠りについた。
27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 01:22:22.13 ID:gg+EtQm+O
次の日、僕が目を覚ましたのはもうお昼を過ぎてからだった。

女からのメールが二通来ていたけれど、僕はそれを確認せずに支度をし予備校に向かった。

女「……あっ、来たっ!」

教室に入り僕を見つけるなり、彼女が一言。

女の周りにいた何人かが僕の方を向き、また元の位置に視線を戻していった。

女はそのまま、僕に歩み寄ってくる。

女「もう、心配したっ。授業サボってさ……何してたの?」

女「ノート大丈夫? あ、学校終わったら貸すからさ。いつもみたいにファミレスで……」

教室に入るなり、まくし立てるように話しかけてくる彼女。
29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 01:31:19.13 ID:gg+EtQm+O
僕はまあ、いつもの事だと思いながら席に座った。

僕「今日はバイトだから、また今度でいいよ」

女「そんな事、一週間前も言ってたよね?」

僕「じゃあ、また今度も一週間後になるかもね」

女「もうっ、そんなんじゃ勉強出来ないでしょ! 僕ちゃんは不真面目すぎるよ?……」
31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 01:39:39.54 ID:gg+EtQm+O
女「ここまで言われて、悔しくないの?」

悔しくはない。

けれど、こう言った話をすると女は退かない。

断れば余計に長くなる……。

僕「……はぁ、わかった。じゃあバイトが終わってからでもいい?」

結局、いつもこうやって負けるんだ。

僕(……これは、僕の方が折れてやってるんだからな)
32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 01:47:16.19 ID:gg+EtQm+O
女「もちろんっ! 今日もいつもの時間?」

僕「うん。0時に終わりだよ」

女「じゃあいつもの感じでよろしくっ!」

僕(本当に元気だな、女は)

話が終わった辺りで、ちょうど講師が教室に入ってきた。

また後でね、と小さく僕に言うと、隣に座った彼女はそのまま教室の前の方を向いた。

これで、僕は考え事に集中する事が出来る。
33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 02:01:03.36 ID:gg+EtQm+O
女「じゃあ、今夜楽しみにしてるよ?」

授業が終わると、彼女はすぐに教室から出ていってしまった。

確か、実家の手伝いをしているんだったっけか……。

まあいい、僕も早くバイト先に向かわなければ。

何だかんだで、ノートをとる事に集中し、そのまますぐにバイトのお店へ。

手紙の事は頭の中にあったけど、僕はひとまず落ち着くまでそれを考えるのを止めていた。

途中からは考えても、どうしようもないと思ったからだ。

それを思い出したのは、女とファミレスに行ってノートをある程度写し終えた辺りだった。
35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 02:11:09.16 ID:gg+EtQm+O
僕「……そう言えばさ、昨日海で手紙を拾ったんだ」

女「え、海で?」

イチゴパフェを食べ終わった彼女が、口の周りを拭きながら僕に聞き返してくる。

女「手紙ってどういう事? 浜辺に落っこってたの?」

僕「いや、瓶に入っていただけ。宛名も無くて、誰に向けて書いたかもわからない手紙だよ」

女「へえ?。内容は内容は?」
36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 02:21:12.22 ID:gg+EtQm+O
彼女は目を輝かせながら、僕の話を聞いていた。

女「なんか不思議だね?。海から流れ着いた手紙なんて……お返事は?」

僕「住所も連絡先も無いんだからさ。返事なんて出来ないよ」

女「あ、そっか。ん?……もしかしてそれで終わり?」

僕「うん。手紙なんて書いた事も無いし、まあそれだけだよ」

女「つまんないな?。久しぶりに会った話がそれ??」

文句を言う彼女にノートを返し、僕は伝票を取ってさっさとレジに向かった。

ノートを貸してくれたお礼、デザートだけは僕の奢りだ。
37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 02:27:35.92 ID:gg+EtQm+O
女「ごちそうさまでしたっ」

僕は自転車を押しながら、彼女は歩きながら。

それぞれの家に向かって歩いている。

女「あ、ねえ。コンビニ寄ろうよコンビニ」

僕「んっ?」

女「明日の朝ごはん買っていくんだよ。今家に食べ物あまり無いからさ?」

僕「実家なのに?」

女「実家でも一人暮らしでも、買い物しないと食べ物無いのは当たり前だよ?」

僕「そんなもんかな」

女「そんなもんだよ?」

結局、いつものコンビニに寄って、そのまま僕たちは帰るんだ。

でも今日だけは少し違った。
38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 02:37:56.19 ID:gg+EtQm+O
女「あ、はい。これ」

コンビニを出るなり、彼女は袋から僕に何かを手渡した。

僕「何これ?」

女「封筒……手紙セットだよっ。パフェのお礼」

パフェは元々僕の方のお礼だったのに……。

女「えへへっ、見かけちゃったから、つい」

はいっ、と僕に手渡された包みには、単色のシンプルな封筒が何枚か入っているのが見えた。

僕「……ありがとう」

女「いいんだよっ。何かお話あったら聞かせてね」

僕「うん。何もないと思うけどさ」
39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 02:41:45.04 ID:gg+EtQm+O
女「あははっ、それでもいいよ。じゃあ……」

さよならを言って離れた後に、彼女は思い出したように僕の方を向き直って言った。

女「あ、明日もちゃんと学校来るんだよ?!」

明日は休みだ。

それを思い出したのか、別れた後で女からメールが来た。

女『ごめん、明日は休みだったねっ! じゃあどっか出掛けよっか?』

僕「じゃあ、ってなんだよ。じゃあって……」
40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 02:47:09.81 ID:gg+EtQm+O
僕『明日は一日中バイトがあるから、厳しいよ』

女『そっか。私も夜は無理だから、また今度だね?』

僕は断りのメールを入れてから、自転車を漕いだ。

住宅街を抜けて、海に面した道路に出た瞬間、冷たい風がビュンと顔に当たった。

真っ暗になった海を横目に、僕は家に帰って行った。

僕(手紙……何書こうかな)
41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 02:54:31.45 ID:gg+EtQm+O
僕「ただいま」

僕「……」

シャワーを浴びて、寝巻きに着替えて。

僕はすぐベッドに横になった。

僕(早く眠ってしまおう、明日もバイトだ)

僕(……)

しかし何故だろう、頭が冴えてしまいなかなか眠気が襲ってこない。

まだレストランで食べた物を体が消化しきってないのか……お腹に違和感もある。

そうなると、僕は頭の中で色々な事を考え出してしまう。

頭に浮かぶのは、不安な事ばかりだ。
42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 03:02:51.00 ID:gg+EtQm+O
僕(明日バイトか。どうしよう、休みたい)

僕(風邪でもひかないかな……)

僕(またすぐに学校もあるし、本当に億劫だ)

僕(ああ、このまま……)

僕(目を閉じたらずっと目覚めなければいいのに)

僕(ずっと暗いまま、もう朝が来なければいいのに)

僕(ああ……なんで僕はここにいるんだろう)

眠れない。
44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 03:12:33.40 ID:gg+EtQm+O
僕(あ……甘い)

暗闇の中で、また僕の鼻に。

あの手紙の匂いが香ってきた。

その甘い香りは、なぜか僕の頭に優しく入り込んで来た気がして……。

僕(……)

そのせいだろうか。

僕は手紙を書いたその人と、無性に話をしたくなってしまった。

それは多分、夜の雰囲気とかセンチメンタルさが混じっていたせいもあったんだと思う。

僕は一人、やるせない気持ちで机に向かった。
45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 03:21:14.21 ID:gg+EtQm+O
僕「うう?ん……」

と言っても、先ほど言った通り。

書いた事のない手紙を考えるのは容易ではなかった。

僕「こういうのって、書き方とかもあったよな……最初の挨拶とか……」

僕「小学校で習ったような気もするけど、ん?」

僕「……」

僕「まあ、いいか」

数分考えた挙げ句、僕はなるべく丁寧な言葉で文章を仕上げるようにした。

それくらいしか、僕には出来ないんだ。

僕「ええっと……」
46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 03:34:09.85 ID:gg+EtQm+O
こんばんは。
海で手紙を拾って、この返事を書いています。
正直、まだ誰にこの手紙を書いているのかわかりません。
眠る前なので、夢を見ているだけなのかも。

でも、普段お話出来ないような事を、お互い話し合えたら……という文章の通り。
何かそういった話が出来たらいいなと思っています。
お返事お待ちしています。



僕「こんな……もんかな」

僕「手紙を……二つ折りでいいのかな。あ、入らない……」

僕「じゃあこう追って、封をして。よしっ」

手紙が書けた満足感を胸に、僕はそのまま眠りについた。

相変わらず、枕元からは甘い匂いがする。

今度はそれを感じてから間もなく、意識を落とす事が出来た。
47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 03:42:14.44 ID:gg+EtQm+O
次の日、夕方の海を僕は歩いていた。

右手にはコンビニ袋をぶら下げながら、いつもの場所に向かう。

僕「今日もバイト辛かったな?……」

僕「あんなに怒らなくてもいいじゃいか。ミスしたのはアンタの方だろ……はぁ」

誰にも言えない愚痴を吐きながら、いつもの浜辺を歩く。

僕「……あれ、これ」

ふと目に入ったのが、見覚えのあったガラス瓶だった。

僕「ああ、確かここでこれを拾って……瓶は置きっぱなしだったっけ」

僕「……そうだ」

それを見つけて、僕は思い出したようにカバンの中から昨日書き上げた手紙を取り出した。
48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 03:56:02.38 ID:gg+EtQm+O
コルクを外して、手紙を入れる。

中からは残っていた甘い匂いした……僕の手紙もその中へ。

ギュッと栓をして、それを……僕は海に向かって軽く投げつけた。

僕(あの手紙は、どこに行くんだろうな)

僕(この海を流れて、またどこか知らない場所へ)

他愛ない事を書いたあの手紙が、僕に拾われたみたいに……。

あの手紙も、誰かが拾って読んでくれるのだろうか。

僕(ああ、よく考えたら、あの手紙は彼女に届くわけじゃなかったのに)

投げた瓶はもう、海のどこに落ちたかわからなくなっていた。

それでも、まあいいやと思いながら。

夕焼けが見えなくなる頃には、僕はいつもの場所で夕御飯を食べていたんだ。
49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 04:02:18.17 ID:gg+EtQm+O
二日後。

女「あ、おはよう?。ちゃんと学校来たんだ偉いねっ!」

僕「昨日はバイトもお休みだったからさ。一日中寝てて体調がいいんだよ」

女「もうっ……そこはちゃんとどんな時でも起きないとダメだよ?」

僕「はいはい」

女の言葉を受け流しながら、席につく。

今日はそのまま、すぐに講師が教室に入ってきた。

僕と彼女は話す暇もなく、ノートをとる作業を始める事にした。
50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 04:09:34.60 ID:gg+EtQm+O
僕(う?ん……)

お昼が近くなるにつれて、僕の胸と胃がまたジクジクとしてきた。

いつものアレだ。

女「ふ?、やっとお昼休みだ……って、何でカバン背負ってんのさ!」

僕「今日は帰るよ。お疲れ」

女「午後の授業はっ!」

僕「自主休講」

女「そんな事ばっか言って……またサボるの?」

僕(一人で考え事したいんだよ)

僕は何も言わず、教室を出てきてしまった。

後ろで女が何か言っていたが……僕の足は、また海に向かっていた。
51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 04:19:53.62 ID:gg+EtQm+O
僕「あれ……」

いつもの海、人があまり通らないような浜辺の隅。

僕「これって」

そこに、見覚えのあった瓶が流れ着いていた。

僕「僕が投げた瓶……なのか?」

いや違う、僕が中に入れた封筒の色は……確か緑だったはずだ。

でも砂浜に転がっていたその瓶の中に入っていたのは、薄い青をしていて……封の部分に何かシールのような物が貼ってあるように見えた。

僕は思わず、その瓶を砂浜から拾い上げた。
52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 04:31:01.17 ID:gg+EtQm+O
いつもの場所に座り、コルクの蓋を取る。

中からは……この前の匂いとは違うけれど、やはり甘い匂いがする。

僕(なんだろう、ミルクティーみたいな匂い?)

それも気になったけれど、僕は何よりも、中の手紙を取り出した。

僕「シール……あ、ティーカップの絵だ」

僕「これのせいで、こんな匂いがしたのかな。なんて、ね」

シールを剥がして封を開けると、中から手紙が現れた。
53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 04:44:57.96 ID:gg+EtQm+O
おはようございます、お返事ありがとうございます。
眠る前にお手紙を書いて頂いたと言う事で……私は朝一番でこれを書いてみました。
夢を見た後のお手紙になります。

そうですね、お話出来れば私も嬉しいです。
雑談や日常会話はもちろん、悩みや相談など……何でも話して下さいね。
このお手紙は、きっとそういう場所だと思いますので。
では、海を見ながらお待ちしてます。


僕「これは……僕の手紙への返事、なのか?」
54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 04:51:58.09 ID:gg+EtQm+O
もう一度文章を見直しても、確かにそれは僕が書いた内容への返事だった。

海に投げた瓶が、彼女の元へ流れて行き……そして彼女もまた、海に瓶を流したのか?

僕(この広い海でそんなこと……あり得るのか?)

僕(しかも、最初にこれを拾った場所。それが、そこから僕がいつもいるこの場所に……ズレ、た?)

僕(いや、そんなバカみたいな話)

あるわけ無い。

あるわけ無いけども……手紙の中の彼女は、僕に優しかった。

小さく可愛らしい字を見つめながら、僕の昼間は過ぎていった。
55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 04:59:34.36 ID:gg+EtQm+O
夜、僕は早速机で手紙の返事を書き始めていた。

僕「えっと、こちらこそお返事ありがとうごさいます、と……」

僕「僕はまた、眠る前にこれを……って、これじゃああまり話進まないよな」

僕「何でも話して、とは言ったけど……どうしよう」

僕「……あ、字間違った。消しゴム消しゴム」

僕「にしても、シャーペン書きじゃあ失礼かな? 来た手紙は綺麗に色ペンとか使ってて……」

僕「……敬語すぎるのも硬いかな? ああ?、どうしよう」
56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 05:08:48.11 ID:gg+EtQm+O
手紙を書きながら、あれこれと悩み続けて一時間程。

やっと書く内容もまとまり、シャーペンで下書き。

そしてボールペンで清書をし、二度目の手紙が出来上がった。

僕「封は、シールなんてないからノリ付け、と」

僕「うん、出来た!」

手紙として、完成した封筒を見つめては、僕の胸は達成感でいっぱいだった。

僕はそれを瓶に入れ、きつく蓋を閉めた。

黄色い封筒が、中で斜めになりながらアンバランスなひし形を作っている。

清書等で力を注いだせいか、以前の手紙より綺麗に仕上がったように見えた。
57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 05:14:23.42 ID:gg+EtQm+O
僕(明日はこれを海に流してから学校に行こうかな)

僕(バイトもないし、朝に流したら夕方には返事があるのかな?)

僕(……そもそも何日で彼女の元に届いているんだろう。これも手紙に書けばよかったかな?)

僕(いいや、また次に返事が来たら。来た、ら……)

意識の最後に、花のような匂いを感じ僕は、ベッドの中に沈んだ。
59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 05:22:32.32 ID:gg+EtQm+O
こちらこそお返事ありがとうございます。
早起きなんですね、うらやましいです。

それと敬語についてなんですが。
僕は、普通に話してもらって構わないですよ。それで全然気にしません。
むしろそっちの方が距離が縮まると言うか……友達らしく話せる、と思いした。

これからもお手紙、楽しみにしています。
60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 05:31:38.82 ID:gg+EtQm+O
次の日。

僕「おはよう」

女「おはよっ! ちゃんと学校来たね、偉い偉いっ」

僕「まあ……今日はな」

女「?」

女との話もそこそこに。

僕はその日の授業を片付け海に向かった。

夕方、瓶を投げたいつもの浜辺に向かう。

が、そこに手紙は流れ着いていなかった。

僕「やっぱり、半日くらいじゃあ短いのか……」

手紙が来ていなかったガッカリ感から。

僕はその場から立ち去ろうとしたが……その時。

女「お?いっ、僕ちゃ?ん!」

浜辺の向こうから、よく知っている声が聞こえてきた。
61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 05:36:11.06 ID:gg+EtQm+O
女「こんな所で、何してるのっ?」

僕「……別に」

女「ここにはよく来るの?」

僕(来る、けどさ。はっきり言って……)

ここに一人でいる事を、僕は誰にも邪魔されたくなかった。

一人になりたいから、他人と話したくないからここに来る。

僕(なのに)

僕「どうして女がここに?」

女「散歩してたらさ、見慣れた自転車があったから。そしたら姿が見えて……ね」
62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 05:41:37.87 ID:gg+EtQm+O
僕「そうなんだ。僕も散歩しているだけだからさ」

女「そうなんだ?」

僕「うん。それに、もう帰る所だったしね」

ああ、嘘ばっかりだ。

素直に話せないとでも言うんだろうか、僕の悪い癖の一つだ。

ちなみにもう一つは、後ろ向きな性格だ。

女「そうっ、じゃあ私も帰るよ。家でご飯つくらないと行けないからさ!」

女「あ、あとね。私もバイトしようかなって考えてるんだ、まだ親には話してないけど……」
63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 05:46:33.55 ID:gg+EtQm+O
彼女は僕と対照的で、まるで太陽みたいな女の子だ。

僕はその強すぎる光から逃げ出すために、彼女とは距離を置くようにしている。

友達だけど、お節介過ぎるのが僕は苦手だった。

今だって、嘘をついて僕は彼女と笑顔でお別れの挨拶をするくらいなんだ。

僕(帰ろう……)

僕はこうして、誰もいない部屋にただいまを言って落ちた気持ちになるんだ。
64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 05:53:44.98 ID:gg+EtQm+O
翌日、夕方まで睡眠をとっては、そのままアルバイトへ。

海に行く時間がなかったので、その日は手紙を確認する事が出来なかった。

僕が次に瓶を見つけたのは、その次の日。

予備校をサボってお昼にいつもの場所に来てみると、それはそこにちゃんとあったんだ。

瓶からは、ピンクの封筒が覗いている。

ラメのような加工がされているんだろうか、昼の太陽と水面に反射した光で、手紙が揺れる度に小さいキラキラが瞬いていた。

蓋を開け、僕は封筒の中から手紙を取り出した。

今回は二枚、紙が入っている。
65: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 06:04:11.24 ID:gg+EtQm+O
おはようございます。
朝の空気が好きで、今回もこの時間……7時過ぎにこれを書いています。
ちょっと肌寒いですけど、この雰囲気がたまらなく好きです。

では、敬語ではなく普通にお話……は、次のお手紙からしましょうか。
ふふっ、お友達なんて何だか嬉しいです。

でも、よく考えたら私たち、お互いの事をあまり知りません。
と言うわけで……自己紹介の紙を同封しますね。

あなたの事も教えて下さい。
では、また海を見ながらお話しましょう。
66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 06:14:17.09 ID:gg+EtQm+O
名前、鈴と言います。

年齢や体重はちょっと秘密です、女の子ですから。

好きな食べ物は、お寿司とお菓子全般です!

嫌いな食べ物は、辛いのと苦い物です……。

あとはお花とか植物が好きです。

特にラベンダーやシナモン等、いい匂いのする植物が好きです。

他にも海とか山とか神社とか……静かな場所や落ち着ける場所が好きです。

あははっ、なんだか好きです、ばかりになっちゃいましたね。

よければあなたの好き、も教えて下さいね。
67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 06:19:39.10 ID:gg+EtQm+O
手紙の中の彼女は、明るくて素直で。

まるで、女みたいな活発さを感じさせるような子だった。

僕(でも……女と感じる印象とは違う)

僕(どうしてだろう?)

僕(手紙の中だから? 直接会って顔を見てないから?)

僕(……多分そんな所かな)

不快感や、言い方は悪いがうっとおしさ等、僕は彼女にマイナスの感情は抱かなかった。

手紙、すぐに返事をしなくてもいい。

そんな余裕が、僕の気持ちにゆとりを与えていたのかもしれない。
68: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 06:27:40.55 ID:gg+EtQm+O
昼下がりの海で、僕は手紙を片手に。

空を見ながら返事の内容を考えていた。

自分も自己紹介を書こう、今日の出来事や昔あった面白い事なんかも書いてみようか。

おとなしそうな子だな、どんな話が好みなんだろう。

とか……自分でもおかしいと思うくらいに、手紙の事を考えていた。

僕はこの頃から、姿の見えない彼女に……魅せられていたのかもしれない。

そろそろ夕暮れだ、瓶に手紙をしまい浜辺を戻っていく。

僕(帰ったらご飯を食べて、返事を書こう)

僕と彼女の、海とガラスを使った不思議な文通が始まった。
69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 06:44:24.50 ID:gg+EtQm+O
一週間後。

僕「おはよっ」

女「あ、おはよ……最近ちゃんと学校来るね?」

僕「ああ、うん。なんかね」

女「心なしか、笑顔も増えたみたいだし。なにかいい事でもあった??」

鈴……ちゃんと、手紙のやり取り。

それ以外は、何も変わっていない僕の生活。

僕「うん。普通だよ普通」

女「何それ?。絶対いい事あったでしょ? あ、もしかして彼女が出来たとか?」

僕「違うよ、彼女というより……いい友達だよ。まあ何にしても、最近調子いいんだよ」

女「ふ?ん、そう……なんだっ」

女「なんか、変な気持ち」
70: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 06:50:13.20 ID:gg+EtQm+O
僕「ん、何か言った?」

女「別にっ! 良かったね、いい友人に恵まれてさっ!」

僕「な、なんだよ。怒って……」

女「怒ってないよ。うん、怒ってなんか……」

見てわかる不機嫌、落ち込み。

いつも朗らかだった彼女の、こんな態度を見たのは初めてだけど……。

僕もそれを見ただけで、何だか胸に威圧感な感覚が生まれた気がした。

その瞬間、ああ、やっぱりいいやと思い始めてしまう。

僕「ふう……帰るよ僕」

女「え……っ」
71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 06:55:14.52 ID:gg+EtQm+O
僕「なんか、怒らせたみたいだからさ。授業邪魔したら悪いし」

女「そ、そんな事じゃないよ。ちが……」

そのまま、教室を飛び出してしまった。

なんだ、いつもと同じ光景じゃないか。

この一週間はたまたま調子がよかっただけで、やっぱりこうやってサボる日もあるんだ、と僕は思った。

僕(暇になったな……手紙はさっき出して来たから当分先だし)

僕(はぁ……鈴)

僕(あの手紙、速達とか出来ないのかな……)
72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 07:05:15.19 ID:gg+EtQm+O
僕は、何かあるとすぐに鈴の事を思い出すようになっていた。

手紙を書いている時の僕は、とても素直だった。

さらに、彼女は聞き上手で、返ってくる内容は慈愛や母性に溢れたような言葉ばかりだ……と僕は感じている。

僕(どうして、鈴はあんなに優しいんだろう)

僕(多分、彼女も僕と同じで……手紙の中では素直になれるんだろうか)

僕(だからこそ瓶に手紙を入れてさ、海に流したり)

僕(……早く返事来ないかな)

最終的には、これだ。

これが僕をいつもの浜辺に連れていく理由。

次に瓶を見つけたのは、女と喧嘩をしてから三日後の事だった。
82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 14:44:39.77 ID:gg+EtQm+O
こんにちは、元気?
私はちょっと風邪気味になっちゃって……少し暖かくなったお昼にこの手紙を書いているよ。

では、お悩みの事について私なりの回答を!
嘘をついたり、人を避けるのなんて……誰にでもある事だよ。
その女友達の人と、どれだけ仲がいいのかはわからないけどさ。
よく話す相手だったら謝って……仲直りするのがいいと、私は思うな?。

人間だもん、マイナスの感情が出るのは当たり前!
僕君は、それを気にしすぎ、てるのかな?
お手紙に書いている見てるとそう感じます、違ったらごめんなさいね。
83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 14:54:57.17 ID:gg+EtQm+O
で……悩みのお話は終わり♪
今日はね、ホームセンターでペットを見た後クレープ屋さんに行ったよ?。
僕君は犬が好き? それとも猫が好き?
私は両方大好きなので、もう何時間見ていても飽きないくらいなのです!

クレープ屋さんは、駅の近くにあるんだけど……安くて大きなクレープなんですよ。
それで、これは愚痴になっちゃうんだけどね。
そのお店には、学校帰りの制服カップルがよく来ていてね……ちょっとだけ、いいなぁって思っちゃうんです。

私は制服デートというモノをした事がないから……ちょっとだけ、ね。
僕君には何か素敵な制服デートの思い出ありますか?

よければ聞かせて下さいね、お返事待ってます。

鈴より
85: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 15:02:59.59 ID:gg+EtQm+O
僕(やっぱり可愛らしいなあ)

僕(文章の量や、手紙の枚数が増えるのが……なんか嬉しいな)

僕(よし、早速家に帰って……)

女「僕……ちゃん」

僕「んっ? な、なんだよ女か」

いつもの場所で手紙を読んでいる途中で、僕は不意に声をかけられた。

振り向くと、後ろで手を組ながら少しだけ俯いた……彼女が立っていた。

僕(朝の喧嘩以来、あんま話してなかったから……)

女「……」

僕(気まずい)
86: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 15:16:18.40 ID:gg+EtQm+O
それでも罪悪感が少しだけ残っていたの、事実だ。

僕は彼女につかまりそうになる度に、避けていたけれども……。

僕「……」

女「……」

波の音が、二人の沈黙の間に流れている。

僕(こんな状況じゃあ逃げれないよ)

でも、僕の頭には……ちょっとだけ謝る事も考えていた。

あの後、何度か鈴にそんな事を相談して。

僕(大事にしたい友達なら、謝って仲直りを……)

僕「あのさ、女」

勇気を出して僕は、女に話しかける。
87: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 15:26:35.02 ID:gg+EtQm+O
女「ごめんねっ! 本当にごめんなさい!」

僕「……え」

女「あのっ、喧嘩……私、感情的になりすぎたなって反省して……どうしても謝りたくて」

女「でも、僕ちゃん学校にもあまり来ないし、ここに来るのもちょっとためらったけど……」

僕「……」

彼女の困ったような顔を見ると、僕も自然に……。

僕「えっと、その」

僕「僕もごめん」

女「!」
88: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 15:41:50.53 ID:gg+EtQm+O
僕「自分も、悪いなって思っていたから……その、謝りたくて」

女「……」

右手に持った手紙、これが僕を素直な気持ちに変えてくれた。

女「……なんか、驚いちゃったよ」

僕「?」

女「また、突っぱねられるかと思っていたから」

僕「突っぱねって……」

女「だって僕ちゃんへそ曲がりだから、謝っても許してもらえないような気がして」

女「それも……ごめんね」

僕(俺、女にそんな風に思われて)

僕(女、シュンとして。さっきからごめんばかり……)

女「本当、ごめん」

僕(こう見ると、なんかガキみたいだな俺)
89: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 15:51:46.21 ID:gg+EtQm+O
女「はぁ?、謝れたから何だか気が抜けたよ」

僕(ああ、そうか)

女「ねえ、お腹すかない?」

女「仲直りもした事だしさ……一緒にご飯でも行かない?」

僕(自分は意地になってひねくれて……本当に子供だったんだ)

僕(いつもの自分だったら、家に逃げ帰っていただろう)

僕「でも、今日は……」

女「あ、ごめん。忙しかった……かな?」

僕「……いや、行こうよ」

女「えっ」

僕「行こうよ、ご飯食べに。一緒にさ」
90: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 16:01:47.30 ID:gg+EtQm+O
女「うんっ!」

僕「じゃあ、行こ」

手紙を瓶にしまい、僕たちはいつもの場所を後にする。

女「……それってさ」

僕「うん?」

女「少し前に言ってた……手紙のアレ?」

僕「うん」

女「わ、本当に文通してるんだ! ねね、どんな事書いてるの?」

僕「……」

女「あ、ごめん……プライバシー侵害だよね」

僕「別にそう何回も謝らなくたっていいよ」

謝る、腰の低い女を見るのは……なんだか違和感があった。

それが気になりつつも、僕らは砂浜をただ歩いていた。
92: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 16:08:15.68 ID:gg+EtQm+O
僕「……相談とか、雑談だよ」

女「んっ、何が?」

僕「手紙の内容。あまり大した事は書いてないけどさ」

ファミレスに着いて、注文を終えてから。

ぽっかりと開いてしまった時間の時に、僕はこの話を持ち出した。

僕(女なら……別に話したって害があるわけじゃないし)

女「へえ、本当にやり取りしてたんだっ! 男の人? 女の人?」

僕「女の子」

女「へぇ?……年齢は?」

僕「そこは秘密だってさ、知らないよ」
93: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 16:19:01.67 ID:gg+EtQm+O
女「そうかそうか?、女の子と文通かあ。いいなあそういうのってさ」

女「あ、アドレスとか交換した?」

僕「……なんで?」

女「なんでって……その方が便利じゃない?」

僕「便利、便利ね。なんか……ピンと来ないや」

手紙を書くのは、確かに手間がかかる。

疲れて帰宅した時なんかは特に、とてもじゃないが書こうという気は起こらない。

女「あ、じゃあそのメンドクサイ感じがいいとか?」

僕(……そうなのかもしれない)

僕(手紙を書いて、海に瓶を投げ入れて)

僕(そこから三日くらいしたら返事が来て、またお返事書いて……)
94: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 16:26:34.52 ID:gg+EtQm+O
……。

女「ふう、ごちそうさま」

お店を出て、僕と彼女は反対の道に向かおうとした。

女「あれ、そっち方向違わない?」

僕「封筒買ってくるから。コンビニじゃなくて、ちょっと駅の近くまで行こうと思って」

女「そうなんだっ」

僕「うん。じゃあそういうわけだから……」

女「……ついてったら、迷惑?」

僕(そんなモジモジしないの……)

仲直りしてから、たまに女はこういう表情を見せるようになった。

やはり彼女も女の子なんだと、それを見る度に思ってしまう。
95: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 16:33:03.49 ID:gg+EtQm+O
僕「いいよ、ついてくるならどうぞ」

女「本当に! ありがとうっ!」

そして、沈んだ顔からまた底抜けの明るさに変わって……ちょっと感情の行方がわからなくなってしまう。

僕「い、いいから。ほら行くよ」

女「うんっ!」

まるで妹みたいに、小さく僕のあとをくっついてくる彼女。

気持ち、彼女と僕との距離が近かったような気がしたが……久しぶりに一緒に歩いたからだ、というせいにしておこう。

僕たちは二人で、駅の方に向かった。
96: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 16:38:37.38 ID:gg+EtQm+O
女「ねえ、どこで封筒買うの?」

僕「ん。デパート……かな?」

女「そういう場所よりは、若い子向けの雑貨屋さんの方が可愛いお手紙セットあると思うよ?」

僕「男の僕が可愛い物買ってもな……」

女「シンプルなやつもきっとあるよっ! ねえ、そこにしようよ、ね?」

僕「……もしかして女が寄りたいだけ?」

女「あははっ、ほんの少しだけねっ。でもオススメする気持ちは本当だよ?」

僕「じゃあ……そこにしようか」

女「うんっ! お店はね、向こうの通りだよ」
97: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 16:48:47.22 ID:gg+EtQm+O
ファンシーショップ。

僕「なんか……眩しいよこの店」

女「あははっ、慣れてないとそうかもね」

僕「こりゃあ、本当に女の子向けなんだな」

女「そういうわけでもないよ。男の人だってよくいるよ、売ってるのはアクセサリーばっかじゃなくて……ほら」

僕「香水に……ジッポライターか」

女「値段もそんな高くないからさ。背伸びしたい学生さんとか、色んな人が、ね」

僕「さすが、地元だけあって詳しいね」

女「あははっ、この辺は帰り道だったから。大抵のお店の事はわかるよ」

女「じゃあ、買い物終わったら声かけてね。私向こうのコーナーにいるから」

僕(ぬいぐるみの方……か)

僕(意外と乙女チックなんだ)
98: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 17:03:53.21 ID:gg+EtQm+O
僕「と、僕も目当ての物を探さないと」

僕「えっと……紙袋、包装用紙……お、この辺かな」

僕「あ、あったあった」

僕「本当だ。いくつも種類があって……」

僕「無地の封筒じゃあさすがに素っ気なさすぎたもんな」

僕「どれにしようか……って、あれ?」

棚を物色していると、ある封筒が僕の目に止まった。

そのお店には六種類のレターセットが置いてあったんだが……その内の二つは、どこかで見た事があるような封筒だった。

僕はその二つを手にとってみた。

紫色をした封筒、これは単色のシンプルなレターセットなんだろう。

そして隣には、ラメが貼られたキラキラの封筒が、それぞれ僕の目に入った。

僕「これは……鈴の封筒?」
100: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 17:11:14.37 ID:gg+EtQm+O
何度見直してみても、それは確かに鈴がくれた封筒と同じだった。

僕は奇妙な感覚に追われた。

女「やっ、決まった?」

僕「ん……ああ」

女「あらかた見終わったから来ちゃったよ。ん、その二種類にするのっ?」

僕「いや……えっと、こっち」

僕はその二つのレターセットを戻し、一番右下の四つ葉のクローバーがデザインされたセットを買う事にした。

女「あ、いいじゃん。可愛らしいけど女の子過ぎない感じがするよ」

僕「……ん。買ってくるよ」

僕は少し動揺しながらもレジに向かった。
101: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 17:17:46.77 ID:gg+EtQm+O
僕(480円、か……)

お店を出てからも、僕はあの封筒の事がずっと気になっていた。

女「えっ、あのお店? うん、確か全国チェーンのはずだから……色んな場所にあるはずだよ」

女に尋ねてみると、こんな答えが返ってきた。

なるほど、他のお店もあるのか。

女「並んでいる商品? 全く同じって事はないと思うけど?……ある程度は統一されてるんじゃないかな」

女「どうしたの、急に?」

僕「いや、実はさ……」

僕は歩きながら、二つの封筒について話をした。

彼女はとても真剣な眼差しで、僕の話を聞いてくれいたんだ。
102: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 17:23:28.80 ID:gg+EtQm+O
女「そっか、すごい偶然だねっ!」

偶然……話を聞き終わって、彼女はそういう結論を出した。

僕「偶然、なのかな」

女「だって……ねえ。あの封筒だってよくある商品て事だし、それでお手紙書いてても不思議じゃないよ?」

女「それに、話聞いてると年齢も遠くはないみたいだしさ。ああいうお店に行く可能性は高いと思うよっ!」

女「それがたまたま、形になって出ちゃっただけだよ?」

僕「……」

僕「そう、だよね」
103: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 17:27:57.97 ID:gg+EtQm+O
女「そうだよ。気になったならまた聞いてみればいいじゃん。書く内容も増えて、一石二鳥だよ」

僕「そうだな?、考え過ぎても仕方ないしね」

女「……」

僕「んっ、どうしたの。急に黙っちゃって」

女「ううん、なんかさっ」

女「本当に僕ちゃん変わってきたなあって」

僕「?」

女「前は、石みたいにカチカチな頭してたのにさ。今は……物腰が柔らかくなった気がする」

僕「そう……かな」

女「見ててわかるもん。他人に言われるくらいなら、それだけ変わってるんだよ」

女「手紙の彼女の……お陰、なのかなっ……?」
105: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 17:34:47.59 ID:gg+EtQm+O
もう、空は暗い。

女の表情は見えないけれど……元気で無いのはわかる。

沈黙の中で、僕は一人考えていた。

僕(前はこんな風になっても、気にしなかったな……)

気まずくなったら逃げ出して、あの浜辺に逃げて。

そんな負の感情が消えてきたのは、本当に鈴のお陰なのかもしれない。

女「……」

僕(でもそれで……)

僕(なんで女が落ち込んでいるんだろう)

今の僕には、わからない。

また手紙を書いて、次に鈴から返事が来た時に……僕の気持ちはまた少し変わっているんだろう。

鈴なら、そんな事を僕に言ってくれる。
106: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 17:44:50.08 ID:gg+EtQm+O
女「あ、私ここだから」

僕「う、うん。じゃあ……」

女「風邪、ひかないでね。もう立春過ぎたけど……冷えるからね」

女「学校ちゃんと来るんだよ、バイバイっ」

そのまま、彼女は後ろも向かずに去ってしまう。

僕「なんだよ……不機嫌丸わかりで」

僕「今まであんな顔、しなかったのに」

僕「今まで……」

鈴と手紙を交換してから、僕の気持ちの中がどんどん変わっていった。

見えなかった女の表情や、感情の起伏。

無難にやり過ごして生きていた日常とは……間違いなく違う。
107: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 17:51:07.48 ID:gg+EtQm+O
僕は今日の手紙に、そんな変化の日々の事を書いた。

友達の女の事、喧嘩をした事。

今まで自分に、逃げ癖があった事。

色んな気持ちが僕の中にあるという事。

僕だって何かを考えて……生きているんだという事。

僕(ほとんど愚痴と弱音ばっかだな)

手紙は二日かけて、四枚という大作に仕上がった。
108: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 17:58:32.78 ID:gg+EtQm+O
海にそれを流して、鈴から返事が来るまでに……女にちゃんと謝っておこう。

手紙に気持ちを書いて……こうやって素直になる。

気持ちを書くのに夢中で、封筒の事を聞くのを忘れてしまったけれど。

僕(まあいいや。時間はまだあるんだから)

僕(返事が来たら、ゆっくりと手紙を書いて海に流して)

僕(今までに来た手紙を読み直しながら、数日過ごせば……僕はまた鈴に会えるんだから)

僕(だから素直で穏やかな気持ちで、いられる)

僕(女にもこうやって……謝る事が出来るんだ)

次の日、僕と彼女は仲直りをした。
110: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 18:09:00.61 ID:gg+EtQm+O
女「はい僕ちゃん。いつものノートだよっ」

僕「ああ、悪いねありがとう」

女「いいっていいって?。私たちの仲じゃないかっ」

僕たちはあれから、何度も喧嘩と仲直りを繰り返した。

その度、いやな気分になったものの……もう一度仲良くなってしまえば、それはもう気にならないくらいでいて。

女「でもお礼に?、チョコパフェ食べたいな??」

僕「ああ、わかってるよ。いつもの時間でいいか?」

女「うん、いいよっ! じゃあ……」

僕「また後でな」
111: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 18:12:31.47 ID:gg+EtQm+O
心地よい、落ち着いた日常が続いていた。

予備校で友人と会い、数日に一回は何でも話せる……鈴と手紙のやりとりをして。

嫌な事があっても、鈴に話せば何でも大丈夫だった。

鈴もまた、心の中の溜まった感情を僕に吐き出してくれていて。

お互いの事はほとんど知らないけれども、気持ちの中を誰よりも知り合っていて……僕はいつしか、鈴に憧れの気持ちを抱くようになった。
112: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 18:17:01.74 ID:gg+EtQm+O
僕(好きとは、多分違うんだと思う)

僕(でも、鈴の字を見るだけで……僕はとても安心してしまう)

僕(ああ、早く次の返事が来ないかな)

淡い気持ちを抱きながら、僕はずっとこんな日々が続いていくんだと思っていた。

でもそれは、もう二月も終わろうとしていた辺りに、突然崩れ出した。

「実家で父親が倒れて……」

いきなりの電話に、僕はただ固まるしかなかった。
113: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 18:22:07.64 ID:gg+EtQm+O
女「……そっか、お父さんがね」

パフェを食べる手を止め、彼女は僕を心配し出してくれた。

僕「過労だって。症状は重くないみたいだけど、回復が遅くて……心配なんだ」

女「……帰らないで大丈夫なの?」

僕「……」

僕「うん、帰ろうかなって考えてるんだ。今日はそれを、女に相談したくて」
114: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 18:28:53.76 ID:gg+EtQm+O
そうなんだ、と小さく言った後、何かを思いきったかのように顔を上げて僕を見てきた。

女「帰ろうって思ってるなら、その方がいいよ。お別れは寂しいけど……家庭の事情じゃ仕方ないもんねっ」

僕「女……」

女「あ、ねえ。まだこっちにいるよね? 送別会しようよ。そのままバイバイは寂しいよね? ね?」

僕「……」

女との距離が縮まり、僕には。

いつしか彼女が考えている事がある程度わかるようになってしまった。

だからこうして、無理をしながら僕に話しかけてくれる姿を見て……僕は胸が痛んだ。

僕(ああ、こういう感情が嫌で……)

僕(僕は誰かと仲良くなるのを、否定し続けたのかもしれない)
115: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 18:33:30.19 ID:gg+EtQm+O
ファミレスの帰り道、いつもの道。

僕たちは何も喋らずに……終始無言でお別れの場所まで来ていた。

じゃあ、また。

うん。

短い言葉を交わして僕たちは別れた。

何かを言いたそうな彼女の……切ない表情を見ているのが、正直辛かった。

僕は、それを見ていたくなかった。

逃げ出した。

逃げるように僕は家に帰ってきた。
116: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 18:38:26.91 ID:gg+EtQm+O
部屋に戻ると、その瞬間。

優しい甘い匂いが僕を出迎えてくれる。

鈴からの手紙の匂い……。

僕(手紙、次はいつ来るのかな)

僕が海に流したのは昨日の事だ。

早ければ明日、遅ければ……最悪明後日くらいか。

僕(その間に、帰る準備も始めないとな……)

今から考えると、帰る日にちはちょうど二週間後くらいになるだろうか。

僕(鈴とは、あと何回手紙を……)

頭でそんな事を考えながら、僕はまた香りの中で眠っていった。
117: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 18:45:05.40 ID:gg+EtQm+O
おはよう、お手紙読んだよ。
お父さん……倒れちゃったんだね。
私には元気になってくれるように祈るしか出来ないけど……ごめんね。

帰るか悩んでるってあったけど、やっぱり親御さんは息子に帰って来て欲しいと思うよ。
(私は帰って欲しくない、けど。ワガママ言わないよ!)

……なんてね。
でも大丈夫だよ、帰ってからも私と文通は出来るもの。
海があれば、私とあなたは繋がっていられるから……。

あははっ、ちょっと自分でしんみりしちゃった。
とにかく、何か決まったら詳細教えてね。心配もしちゃうからさ?
118: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 18:50:32.47 ID:gg+EtQm+O
薔薇のコーデがされた封筒に、彼女の手紙が五枚入っていた。

一枚目は帰省についての真面目な話。

二枚目以降はいつもの雑談と……良い意味で変わらない鈴の姿があった。

僕(帰る事、伝えないとな)

僕(えっと、あと二週間ないから……送って返して送って)

僕(お互いあと二通が限界、かな)

僕(そのやりとりが終わったら、もう鈴には……)

僕「だって、僕の街には海が無いんだもの」
119: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 18:58:49.87 ID:gg+EtQm+O
地元に帰る、もう手紙のやりとりが出来なくなる。

海が無いので、近く事も出来なくなる。

僕(今回はお別れの事ばっかりだな……)

鈴が書いてくれた、雑談の内容に対する返事はほとんど書けてなかった気がする。

僕(もう話しても……)

僕(そうだよ、な)

内容を簡潔にまとめた二枚の手紙を、僕は封筒に入れて瓶に詰めた。

封筒の色が褪せているようで、なんだか野暮ったく見えたのを今でも覚えている。

部屋の片付けをしながら、僕は彼女から遠ざかる準備を始めていたんだと思う。
121: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 19:05:12.05 ID:gg+EtQm+O
女「じゃあ、僕ちゃんを送り出すために……乾杯」

瓶を海に投げてから三日後。

僕は予備校のメンバーと一緒に駅前の居酒屋にいた。

女が人を集めて、送別会を開いてくれたのだ。

女「忙しくなるより、早い方がいいでしょ」

僕「そりゃあ、ね」

女「はい。じゃあ今日くらいは飲んで忘れようよ。ね!」

何を忘れる、と聞こうとしたけども。

お酒の席でそれは野暮なんだろう。

僕はグラスに入ったビールをグイッと飲み干し、騒がしい雰囲気に酔っていった。
122: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 19:13:21.05 ID:gg+EtQm+O
友人たちと語らい、騒ぐ。

こういう飲み会は正直バカにしていたけれど……いざ自分がやってみると気持ちがいいもんだ。

酔いも手伝い、僕たちはそのまま二次会へ。

既に何人かは足取りもフラついていて……それは幹事の女もそうだった。

女「じゃあ、次はカラオケ?っ!」

僕「女、大丈夫? ちょっとフラフラしてるよ」

女「平気だよ?っ。私酔っぱらってなんかないよ?っ」

僕「はぁ……ほらしっかりして。行くよ」

グッと手首を掴んで、一緒に歩こうとした。

女「あっ、ま、待った?。甘いもの食べたい?っ」

僕「……こんな時に何を言うんだよ」

女「クレープ、クレープ食べる?」
123: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 19:18:01.90 ID:gg+EtQm+O
僕「はいはい。カラオケで注文しような」

そのまま引っ張る手に力を入れるが、逆に彼女が僕の手を握ってきた。

女「買ってく?。お店あるんだよ、まだやってるんだよ?」

僕「え、そうなの?」

女「うん。お持ち帰り出来るし、安くて大きいんだよっ!」

ほら、と彼女が指差した先に、小さな出窓があるのが見えた。

何かフラッグが立っていて、お店ではあるようだけど……。

女「あれが、クレープ屋さんっ」
124: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 19:22:16.47 ID:gg+EtQm+O
近くまで行ってみると……本当だ、クレープ屋って書いてある。

女「おばさ?ん。イチゴバナナ生クリームアーモンドチョコでっ」

僕「お、おい。大丈夫かよそんなに贅沢して」

女「これで550円だから大丈夫だよ。居酒屋であまり甘いもの無かったし……エネルギー切れだよ」

女「あ、僕ちゃんも何か食べる?」

僕「他の人たち待たせまくりじゃないか?」

女「いいんだよ?。カラオケの場所はわかってるし、主役は僕ちゃんなんだからさ」
125: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 19:28:08.29 ID:gg+EtQm+O
僕「なんだよその理屈。女ってそんなに、ワガママだったっけ?」

僕は思わず、店先で笑いだしてしまった。

酔いながら笑う、いい気分だった。

女「あはは?、僕ちゃんに影響されたんだよ。あ、来た来た?」

僕「デカっ。でもそれでその値段は……お得だな」

女「でしょ。学生さんにも人気あって、昼間は行列なんだよ」

僕「ふ?ん……」

女「あ、食べたい食べたい?」

僕「うん」

女「えへへっ、素直。じゃあ、はい。あーん」

僕「ん……」
126: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 19:33:57.23 ID:gg+EtQm+O
……。

女「お待たせっ!」

カラオケ部屋に飛び込むと、すでにみんなは先に始めていたようで、ドアを開けた瞬間に歌声が響いてきた。

気を遣ってくれてか、特に何も言わず僕と女を迎えてくれた。

女「じゃあ次私歌うねっ。曲は……」
127: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 19:37:11.65 ID:gg+EtQm+O
彼女が選んだ曲は……お別れするけど、寂しくないよ。

確か一番はそんな歌詞だったはずだ。

でも二番は一転して、やっぱり離れたくない、帰ってきて欲しい。

そんな歌詞だった……気がする。

気がする、というのは、僕が確認する前に彼女が勝手に曲を終わらせてしまったからだ。

女「さあさ、次は僕ちゃんだよ! 何歌うか期待してるよっ!」

……。

酔ったせいか、時間の感覚がおかしいままに。

僕たちの飲み会を夜更けまで続いていったんだ。
128: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 19:40:46.77 ID:gg+EtQm+O
女「ふう」

僕「お疲れ様」

二人になった帰り道、僕と彼女。

女「楽しんでもらえたかな?」

僕「お陰さまで。本当にありがとう」

女「えへへっ。なんのなんの?」

僕「ねえ、カラオケのさ……あれってわざと?」

女「んっ、何が?」

僕「わかるよ、女の事だもん」

女「……えへへっ、バレてたか」
129: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 19:46:35.86 ID:gg+EtQm+O
女「だってさ、帰ってきて欲しいなんて、逆に寂しいじゃん。笑顔で大丈夫って言わないと」

僕「……本当に?」

女「ううん……嘘言っちゃった。ごめんね」

僕「……」

女「……」

僕(いつもの別れ道)

僕は彼女に挨拶して、そこから……逃げ出したかった。

女「ねえ、僕ちゃん」

でも、彼女は逃げ出さなかった。

女「ごめんね、私もう。素直になるね」

女「今まで口喧嘩とかたくさんしたけど……最初は嘘つきな僕ちゃんの事苦手だったけど」

女「でも私、やっぱり……君と離れたくないよ」

僕「女……」

女「寂しいの、当たり前だよ。好きな人と離れるんだから……」
130: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 19:49:22.82 ID:gg+EtQm+O
女「でも、これ言ったら絶対僕ちゃん困らせちゃうから……」

僕「……」

女「だから、笑顔でバイバイしたいんだよ」

女「大切な友達のまま、この街から離れて欲しいんだよ」

女「普通のお別れのまま、私と……」


だから僕は。

彼女と近く、親しくなるのが怖かったんだ。
131: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 19:56:09.61 ID:gg+EtQm+O
僕「……ただいま」

帰るなり、僕は机に向かっていた。

明日になれば、多分鈴からの手紙が届いているだろう。

それでも僕は今、この気持ちを手紙に残したかった。

あと一回、鈴から手紙が来るか来ないか……微妙な所だ。

もしかしたら、瓶が流れ着く前に僕は帰ってしまうかもしれない。

それでも、鈴には全部話しておきたかった。

素直な気持ちを全部紙に書いて……そのまま送った。
132: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 20:01:25.88 ID:gg+EtQm+O
翌日海に向かうと、いつもの場所に瓶は流れ着いていなかった。

僕は自分の瓶を海に投げ、帰って来ただけだった。

引っ越しの支度や、最後の片付け。

やる事はたくさんだった。

あれから、女に連絡をしてみても返事が来ない。

そして、浜辺に様子を見に行った所でもう手紙が流れ着いている事はなかった。

僕「別れる時には、これくらいの方がいいのかもしれない……よな」

乾いた気持ちのまま、僕は……地元に帰る日を迎えた。
133: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 20:05:52.01 ID:gg+EtQm+O
僕「手荷物持って……よし」

大きな荷物が運び出され、空っぽになった部屋を見つめて。

僕は最後の荷物を持って部屋から出る。

小さく部屋にさよならを言って……僕はゆっくり歩き出した。

まずは近くのバス停から、駅に向かわなければ。

海の見える、海岸沿いの道路を……僕は歩く。

いい天気だ。
134: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 20:15:54.70 ID:gg+EtQm+O
多分これが、最後の手紙になると思う。
鈴と会えて、僕は変わった。
僕の話を何でも聞いてくれて……いつも励ましてくれた。
とても優しい鈴の事が、僕は大好きだった。

でも、僕は今日ある人から告白されてしまいました。
その人とはよく一緒にいたけど、喧嘩や言い合いをしたりと。
居心地のいい関係ではなかった。
でも、鈴と話しているうちに……そういう関係も含めて、とても大事な人なんだという事に気付いたよ。

僕は多分、朝一番のバスで駅に向かうよ。
そしたら鈴とも、その子ともお別れ。

僕は素直に彼女の事は受け止められなかったけど……。
ここに来て本当によかったと思っているよ。

長くなったけど、鈴にお別れの挨拶。
じゃあ、バイバイ。
海が見たくなったら、また来るよ。
135: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 20:24:20.78 ID:gg+EtQm+O
僕「……お、来た来た」

向こうの方から、バスが一台。
僕が乗り込むバスに間違いなかった。

ゆっくり、ゆっくりと、それが僕の目の前で止まる。

プシューという音がして、目の前の扉が開いた。

僕(……)

僕「さよなら」

もう、これで僕が海を見る事もない。

そう思いながら、バスの入り口に一歩踏み込んだ……。瞬間。

チリン、と。

僕の右手が何かを握るように掴み……その中から、小さな鈴の音が響いたのを僕は聞いた。

そして、僕が握っていた物は……見ないでもわかる。

あの、手紙を入れていたいつものガラス瓶だ。
136: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 20:29:32.22 ID:gg+EtQm+O
僕は後ろを見ないまま、バスの中に入った。

二人分の乗車券を取って、僕はやや前方の席に座った。

僕たちが乗り込んだのを運転手が確認した後、バスの扉が閉められた。

ゆっくりと、またバスは走り出す。

駅に向けて、僕の帰る場所に向かって。

僕はずっと、窓の外だけを見ている。
137: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 20:37:01.61 ID:gg+EtQm+O
振動が伝わる度に、瓶の中の鈴がチリン、チリンと音を出す。

流れる風景と一緒に、一定のリズムを刻んで。

ニ十回程鳴っただろう……間もなく駅が見えてくる。

僕たちは、静かにバスを降りた。

朝一番のためか、まだ駅にはそこまで人の姿が無い。

僕が落ち着いた気分で切符を買い……。

チャリン、と後ろにいた彼女もまた、僕と同じように切符を購入していた。

一緒の電車に乗ったので、入場券では無いみたいだ。

僕たちはまた黙って、電車に揺られ始めた……。
139: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 20:42:24.86 ID:gg+EtQm+O
僕「……ねえ」

女「んっ」

僕「どこまで見送ってくれるの?」

女「次の乗り換え駅まで。ほら、あそこって……」

僕「……ああ、そっか」

女「うん。海が無い県になっちゃうから、そこまで……」

僕「……」

僕「鈴」

女「んっ、どっちの?」

僕「こっちの」
140: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 20:46:40.51 ID:gg+EtQm+O
チリン。

女「ああ、それね……可愛いでしょ。お守りだよ」

僕「手紙も入ってる」

女「当たり前だよ。それはそういう物なんだから」

女「少なくとも私たちは……こうしてきたでしょ?」

僕「そう、だったな」

女「うん……」

僕「ねえ女。全部、そうだったのか? その……鈴って」

女「ふふっ、最初のお手紙だけはね、私じゃないんだよ」

僕「最初の……?」

女「うん、僕ちゃんに話を聞いて……素敵だなって思って。つい書いちゃった」

僕「でも、毎回投げた瓶がいつもの場所に届くなんて……」

女「ああ、あれはね」
141: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 20:54:15.19 ID:gg+EtQm+O
女の話によると、僕が投げた瓶は潮の流れに乗り……ちょうど数日すると、あのいつもの場所に戻って来るのだと言う。

そんなの知らないぞ、と言ったら……。

女「あははっ、地元の人は大体知っているよ。私のお返事は、いつもの場所に置いておくだけだから……紛失する可能性も無いしね」

僕「鈴って名前は……」

女「ふふっ、私の本名忘れたの?」

僕「本名って鈴じゃな……あ!」

女「そういう事だよっ。まあ、マイナーチェンジした感じだよ?」

それを聞いて、僕は一気に体が沸騰したように熱くなる。

うすうすは気付いていた、でもいざその本人が目の前にいるとなると……。

僕「……今まですごい恥ずかしい事ばっか書いてた気がするよ……」
142: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 20:59:16.39 ID:gg+EtQm+O
女「ううん……そんな事ないよ」

彼女は笑わずに、僕を見つめ返してくれた。

女「素直で正直な気持ち聞けて、私はすごい嬉しかった。こんな辛い気持ちさせちゃってるんだって……思ってた」

女「でもそれと同時にね、どうして私に話してくれないんだろうって……」

僕「……」

女「お父さんの事聞いた時だって、何を言っていいかわからなかったよ。ただ、僕ちゃんが地元に帰っちゃうのが寂しくて……」

女「そういう大事な時に、助けてあげられないからダメなんだよね」

僕(それは、違うよ)

言葉を出そうとした瞬間、電車のアナウンスが邪魔をした。

もう、お別れの駅についてしまったらしい。
143: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 21:04:30.19 ID:gg+EtQm+O
女「……えへへっ、行こう」

僕は彼女に言われるまま、乗り換える電車のホームに向かった。

長い階段を昇り降りした先には……特急列車が待機している。

女「……あんまり時間ないね。あと10分だってさ」

僕「……」

女「もう乗らないと。じゃあ、元気でね、落ち着いたら連絡……」

僕「女、必ず戻ってくるから」

もう、お別れの言葉を聞くのが嫌だった。

僕は彼女に、今思っている事を伝えた。

女「戻る、って……」
144: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 21:10:41.24 ID:gg+EtQm+O
僕「僕だって、離れるのは嫌だ」

僕「手紙に書いた通り……僕は女の事が好きだ!」

女「……!」

僕「好きだから、弱音も見せたくないし、自分をよく見せるための嘘だってついたさ」

僕「でも鈴が……それじゃあダメだって僕に教えてくれた」

僕「どこかで嘘を言っても意地になっても、やっぱり最後には素直になって……相手に伝えないといけないって」

僕「言わなきゃお互いにわからないから……」

女「僕ちゃん……」

僕「だから、僕は女と一緒にいたい。もう一度、海を二人で見ようよ」

僕「もう瓶に詰めた手紙の中だけじゃなくて……女の前では、ずっと素直でいたいんだ」

女「……」

女「私、も」
146: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 21:23:16.82 ID:gg+EtQm+O
女「私も、待ってるから」

女「海の見えるこの街で……まあ二人で会おうよ」

僕「女……!」

女「約束、ね」

ピリリリリリリ。

女「……時間だよ」

僕「そうだね」

女「じゃあ……」

僕「ん」

女「またね」

僕「うん……」

女「あ、最後に……!」
147: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 21:25:47.07 ID:gg+EtQm+O
僕「え……っ!」

女「ん……」


彼女が、僕に口づけをしたその音は。

唇が重なった瞬間に、鈴の音がリンと僕たちの間に響き……かき消されたように聞こえた。

その時の僕たちの頭の中には……鈴と最愛の人しか、残っていなかったんだと思う。

それくらい、僕にとっては幻想的な出来事だった。
148: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 21:29:33.54 ID:gg+EtQm+O
……。

「間もなく、終点。次は?……」

最後の思い出から二年。

僕は、同じ特急列車に乗って……もう一度。

もう一度、女と離ればなれになった駅に向かっていた。

彼女はもう着いたと連絡をくれた。

あとは僕が……。

「終点……です。お忘れ物のないように……」
149: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 21:33:18.44 ID:gg+EtQm+O
女「……」

僕「あっ」

女「わ、いたっ! 久しぶり?! 元気だった!?」

僕「うん、連絡してた通りだよ」

女「うわ?、本当懐かしい! 変わってないね?」

僕「そりゃあこの歳ならね。女も、なんだかその……」

女「ん?」

僕「美人になった、気がする……」

女「離れてから、ちょっとお化粧に力入れてみたりさ。えへへっ、でも誉めてもらえて嬉しいなあ」

僕「……ふんだ」

女「ふふっ、素直になったと思ったらこれだよ?」
150: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 21:37:10.15 ID:gg+EtQm+O
女「でも、僕ちゃんはそれくらいの方がいい……のかな?」

僕「そ、そんな事よりさ。電車乗らないと間に合わないよ」

女「あ、そうだそうだ。急がないと……席埋まっちゃう」

僕「ほら、早く行こう。あの……」

女「うん、懐かしい海が僕ちゃんを待ってるよ!」

女「そして……私もずっと待ってたよ……」

僕「えっ……」

女「えへへっ、素直」

僕「女……」

女「じゃあ、早く移動しよっ! 走らないと間に合わないよ?!」

僕「バ、バカ。あんまり走ると……」
151: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 21:46:31.47 ID:gg+EtQm+O
女「大丈夫だよ、ほら」

ギュッ。

女「転びそうになったら、つかまえててね?」

僕「……ん」

女「えへへっ。じゃあ……帰ろっか

僕「うん」

女「私たちが一緒にいた……海が見える街にさ」


彼女の暖かい右手に引っ張られながら、僕は駅のホームを走った。

走りながら風を感じると……その中に、遠くから潮の混じり匂いがしてきた。

僕の嗅覚を刺激する、懐かしい匂いだ。

(ああ、もう海が近くにあるんだ)
153: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 21:56:16.04 ID:gg+EtQm+O
女「ねえ僕ちゃん」

僕「んっ?」

僕のカバンの中で……瓶に入れた手紙と鈴が小さく揺れる。

少しだけ騒がしいこのホームで、これを聞いているのは……やっぱり僕と彼女だけだろう。

電車に乗る前に、彼女は僕の方に向き直ってこう言った。

「これからは、ずっと一緒だよ」

瓶の中の鈴が、大きくチリンと鳴った。

これはきっと、僕にだけ聞こえた……特別で大切な音。

彼女に聞こえなかったのは、おそらくこの一回だけなんだろう。


鈴は電車に乗ったその後も、街に着いて一緒に海を見つめていた時も……そして二人が結ばれた後も。

ただ嬉しそうに、チリン、チリンと二人の側で、ずっと音をたてていた。


154: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 21:59:59.89 ID:FPYSOP170
おつ!
156: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 22:03:14.15 ID:Zau3K48Z0
∧_∧
( ´・ω・) 乙 お茶が入りましたよ・・・・。
( つ旦O
と_)_) 旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦旦
158: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 22:08:13.94 ID:6+KHndqn0
1乙
いいものを読めた

どっかのサービスで内容書いてそのサイト宛メールに出したら
どっかの誰かに届くなんてサービスあったなー
159: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/04(金) 22:17:21.28 ID:1KfrMOIF0
乙!
168: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/05(土) 00:36:55.77 ID:t5NvIYZh0
大層乙であった

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