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とらドラスピンオフ!SS

ライトノベル新刊情報サイト「ラノベ総合案内所」が出来ました.

1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/22(月) 12:49:44.92 ID:+rihF3Ri0
夜には花火に行こう



夏休み最大のイベントとなった亜美の別荘での旅行も終え、学生は学生らしくと夏休みの宿題を片付ける日々。そしてついに残す教科もあとひとつ。
国語の教師が出してきた「作文」を残すのみである。
高校生にもなって宿題に作文もないでしょと、ここ数日の勉強漬けにやたら苛立っている隣のマンションの住人がぼそりと、
しかし明らかに自分に向けて放ったであろう不満をさらけ出す。
「そんなこと言ってもしょうがねぇだろ。大体夏休みの今頃になって宿題を終わらせようなんて、今までの休みは何してたんだよ」
ぎらついた眼をのぞかせながら、その言葉の語る本意は、
仮に怠けていたと言うのならお前を処刑してやる!その罪は、怠けていながら俺の飯をたいらげた罪、怠けていながら俺に家事を押し付けた罪、
そして……怠けていながら俺の宿題を写してる罪だああ!!処刑執行!!ひゃはははは!!――――というわけではなく、普通に気になっただけなのだ。
3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/22(月) 12:51:50.83 ID:+rihF3Ri0
そもそも、この当然のように自分の家に居座って宿題をしている隣人は、座っているだけで可憐、悩んでいれば手を差し伸べたくなる、
それくらいに整った美貌、そして触れたら壊れてしまいそうなくらい小柄な体型………。
それをすべてゼロ、むしろマイナスにしてしまうくらいな超わがまま。唯我独尊の頂点にいるかのような暴虐ぶり。
そんな極端に反比例する性質をもち合わせていて、そんな見た目と性格からついたあだ名が『手乗りタイガー』。
――――――――相坂大河その人だ。
「うるさいわね。私だって結構忙しかったのよ。いっつも暇そうにしてるあんたとは違うんだから」
4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/22(月) 12:52:45.45 ID:+rihF3Ri0
ほとんど毎日、うちに来ては三食しっかり(大河は1合半)をたいらげ、
本住まいである隣の超高級マンションで何かあれば自分を呼び、
掃除洗濯、電球取り換え、洋服整理etc……。
そんな超自堕落な生活を見ていても最終的に彼女を手助けしてしまう。
やめなければと、大河のためにならないからと思っても、汚い部屋を見れば掃除してしまい。
たまった洗濯物を見れば洗濯機にかけてしまい。困ってハプニング気味、半ば泣き出しそうな大河を見れば、つい助けてしまう。
口では酸っぱくなるほど文句をつけても、最終的には大河の一番の味方、
それがこのアパートの住人、高須竜児なのである。
5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/22(月) 12:53:45.08 ID:+rihF3Ri0
「作文なんて、あったことぱぱっと書けばいいだけだろ。原稿用紙4枚なんてすぐ書けるじゃねぇか」
「わかってるっての!いちいちうるさいのよあんたは!別に作文まで写させてって言ってるわけじゃないんだから後は自分で出来るわよ!!」
そう言いながら大河は夏休み最後の宿題である作文にペンを走らせる。
最初から大体は考えていたのか、迷うことなく記した題名は『旅行』。
実にシンプルなタイトルだが、一緒に行っている竜児からすれば亜美の別荘のことだと推測が立つ。
6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/22(月) 12:54:35.20 ID:+rihF3Ri0
夏休み前の水泳対決で負けた大河と、
その勝負のいわば景品であった竜児は、勝者である川嶋亜美らとともに、
亜美の両親が所有する別荘まで泊りに行ったのだ。
竜児からすれば、その旅行に大河の親友であり、
竜児が1年生のころから思いを寄せている櫛枝実乃梨が参加するというだけで大イベントだったのだが、
さらには大河の片思いの相手である北村祐作まで来るとなれば、
もはや大イベントどころではなく、二人にとって夏休みのメインイベントと言うべき出来事になっていた。
9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/22(月) 12:55:25.30 ID:+rihF3Ri0
夏休みにあった出来事で、それを作文にまとめろ、
と言われたらもってこいの内容だといえる。
確かに二人とも何の進展もなかったが、それを抜きにしても非常に楽しかった、
それだけで二人にも満足のいく出来事となったのだ。
2段落目に名前を記入し、上から一段落空けて書き始める。
女子独特の丸っこい字に、どこか大河らしい力強さを持っているような気がして、
大河の指先から生まれ続ける文字の群れを竜児はボーっと見つめていた。
12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/22(月) 12:57:16.96 ID:+rihF3Ri0
「さっきから何なの?気が散るからあんまり見ないでくれる」
「いや、作文嫌そうに見えた割には結構スラスラ進めるんだな、と思ってよ」
「別に書けないわけじゃないっての。ばかちーとの日々を書き連ねなきゃいけないかと思うと書くのが嫌だっただけよ」
「まぁ場所が川嶋の別荘なだけにそればかりは仕方ないけどな」
 ふん、と鼻を鳴らし少し不満そうにしている大河を見て、
それも本気ではないとわかっているだけにほほえましく思いながら、竜児は大河へと話しかける。
13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/22(月) 12:58:04.06 ID:+rihF3Ri0
「でもホント楽しかったよなー、あの旅行は」
「あー……そうね」
「結局夏休みのイベントってあれくらいしかなかったし」
「あー……そうね」
「ほかは自分で言うのもなんだがぱっとしない夏休みだったしな」
「あー……あのさー」
「ん?どうした?」
14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/22(月) 12:58:51.11 ID:+rihF3Ri0
「さっきっからうるさいんだけど。気が散るのよ」
「なんだよその言い方、ここは俺の家だぞ?それに、さっきまでさんざん俺の宿題写しといていきなり」
大河のセリフに竜児が反論し始めたその瞬間、
ダン!!と大きな音が鳴り響き、
「あーあー!うるさいうるさい!!だからっ!今はあんたの宿題写してるわけじゃないでしょ!!
あんたと同じこと書いてるわけじゃないんだから!!こっちが考えてやってるのに隣で話しかけられたら気が散るって言ってんのよ!!」
15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/22(月) 12:59:32.01 ID:+rihF3Ri0
机をたたき、竜児の言葉を一刀両断。
自分のいら立ちを電撃のように浴びせかけ、大河は、ふんっと先ほどのように鼻を鳴らし、作文の続きを書き始める。
先ほどとは違い今度はホントのいら立ちを感じた竜児は、小さくため息をつき大河の言うことを聞いてやることにする。
とりあえず静かに本でも読もうと考え、手身近にあった雑誌を取ろうと手を伸ばしながら、
竜児は言い訳のようにつぶやいた。
16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/22(月) 13:00:15.17 ID:+rihF3Ri0
「まー、なんだ。俺もあの旅行のこと書いたからよ、お前がどんなふうにあの時のことを書くのか気になっただけだ。
静かにしてるから終わったら言ってくれ。茶でも淹れるからよ」
 そうとだけ言って、雑誌をぱらっと開く。
適当に開いたページには全体的に明るいカラーでまとめた服装を見事に着こなしているモデルが写っている。
その見出しは『夏はフレッシュに攻めろ!?モテ男になるための11カ条?』。
夏も終盤に差し掛かってる上、11カ条って結構多いな、と思いながらも最初の項に目を通そうとした、
その瞬間―――――目の前になぜか気まずそうな顔をした大河がいた。
17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/22(月) 13:03:57.77 ID:+rihF3Ri0
「あ、あんたもあのことを書いたわけ?」
「は?」
雑誌は横になっていた竜児を見下ろす大河の腕の中。
間違いなくこいつが奪い取ったのだろうとは予想に難くない。
上体を起こし直立不動の手乗りタイガーが何を言おうとしているかを理解しようとする。
「だから、あんたも旅行について書いたのかって聞いてるの!!」
 混乱しながらも、そうだけど……と答える竜児だが大河がなぜ急に怒り出したのかやっぱり理解できない。
まださっきのことを根に持っているならそれはもう済んだことだし、自分が旅行について書いたってことが何か問題にでもなるのだろうか。
別に大河がそれを写すわけでは……っ!!!
18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/22(月) 13:04:42.87 ID:+rihF3Ri0
「お前……。もしかして、さっき俺とは違うこと書くって言った手前、内容が被ったこと気にしてんのか?」
「なっ……!!ち、違うわよ!そんなわけないでしょ!」
 図星か……。竜児は明らかに動揺を隠し切れていない大河のことをじーっと見上げながら、
また厄介なことになったぞ、と心の中でつぶやく。
一度この状態に入ったら中々人の言うことを聞こうとしない、そういう奴なのだ。逢坂大河という女は。
「別にいいじゃねぇかそれくらい。もしかしたら櫛枝や北村だってそのことについて書くかもしんねぇし、
お前が書いたっておかしくねぇだろ。別に同じやつ書いてる、なんて考えねぇよ。安心しろ」
19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/22(月) 13:05:25.58 ID:+rihF3Ri0
しかしそんな大河を思っての竜児の言葉が逆に物事をややこしくする。
「それって、もしかしたらばかちーとも被るかもしれないってこと?」
「川嶋と?お前そんなこといちいち……あのなー、川嶋はもっとすごいこと書いてくるって。
ハワイに行った、だの。グアムで買い物した、だの」
「でもわかんないじゃん。被るかも知んないじゃん。少なくともあんたとは被ったわけだし」
「そんなもん夏休みほかに何にもイベントのなかった俺と比較しても仕方ないじゃねぇか。
それに作文で被っただの、真似しただの、同じことだの、そんなもん関係ねぇって。肝心なのは内容だろ、内容」
「で、でも……」
20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/22(月) 13:06:12.20 ID:+rihF3Ri0
さっき結構な勢いで竜児と同じやつを書くわけじゃないんだから、と言いきってしまった手前、
後に引きづらいのだろう。竜児の発言中に書きかけの原稿用紙のほうに何度か目を向け、そしてついに――――――
「私、違うこと書く!」
そう言うや否や、頭の丸い消しゴムをものすごい速度で原稿用紙にこすり始めた。
当然原稿用紙の半分ほどにまで書かれていた文字は消え、黒いケシカスだけがどんどん増えていく。
その間も、別に気にしてるわけじゃないけどね……だの、そういえばほかに書きたいことあったのよ……だのとぼそぼそ言ってる大河を眺めつつ、
竜児は本日2度目のため息をついた。
そして目の前で量産されていく消しゴムのカスを1か所に集めゴミ箱に捨てた。
21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/22(月) 13:07:15.90 ID:+rihF3Ri0


***


暑さも下降気味になりつつある午後3時。大河は相も変わらず作文とのタイマンバトルを繰り広げていた。対人戦には最強の呼び声高い手乗りタイガーも相手がただの紙ではその持ち味も発揮できず、いまだ題名も書けないままの状態である。
「なぁ、もうさっきの奴でいいんじゃねぇのか?」
「………」
「いくら考えたってよ、他にたいしたことしてねぇんだからしょうがねぇだろ」
「………」
22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/22(月) 13:09:31.07 ID:+rihF3Ri0
返事がない。ただの屍のようでもなければ、逆上して襲いかかる様子もない。
無視。しかしただの無視のはずが、大河の手にかかればそれは一種の威嚇、あるいは少しずつ蝕んでいく毒のようにじわじわと効果を見せていく。
どこまで意地っ張りなんだこいつは……と思わないことは全くないのだが、
さすがにこれだけ時間を共にすればこいつの性格も許容できるようになってくる。
このような小さいことをいちいち気にしてるようではこの凶暴な虎と暮らすことなどできない。
23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/22(月) 13:10:27.23 ID:+rihF3Ri0
ことをいちいち気にしてるようではこの凶暴な虎と暮らすことなどできない。
「実はこれから晩飯の具材を買ってこなきゃいけねぇんだけど、お前もくるか?」
今までの話題を投げ出して、あくまで自然に大河が今の状況を打開してくれる策を提示する。
さすがの大河も晩飯、という2文字には反応を示すはずだ。そして予想通り
「……行く」
 と一言。
25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/22(月) 13:11:16.88 ID:+rihF3Ri0
なんとか作文とのにらめっこから解放することに成功し、ひとまずことが進んだことに安堵する。
しかし、このままでは結局帰ってきたらデジャヴを見る羽目になるのは間違いないだろう。それは避けたい。
いくらなんでもきつ過ぎる。というかあの沈黙が耐えられない。
何とか今日中、いや、この出かけている間に大河に作文のヒントを与えてやらなければ!
竜児がそう固く決心している間、大河は竜児の向こう側。狭い玄関でサンダルを引っ掛け、早くしなさいよ、と唸る。
 人の気も知らないで……と竜児が思ったのも一瞬、おうとつぶやき玄関に向かった。
26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/22(月) 13:12:04.64 ID:+rihF3Ri0


   ***


 駅前の大通りはたくさんの人であふれている。
皆口々にうへーだの、あちーだのと声にしているが、それはもはやこの夏に定まった定期事項のようなもので、
少し経てばまた暑いことへの不満を口にしているのだ。
そしてそれは買い物に来ていた2人に対しても例外ではない。
「暑い」と片方が口にすれば「うん」、「干からびる」と口にすれば「ああ」と会話にもならない会話をつづける始末。
27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/22(月) 13:13:08.35 ID:+rihF3Ri0
しかしそれでも確実に歩は進め、ようやくたどり着いたのは激安商品が立ち並ぶスーパーマーケット。しかし大半の客はその品ぞろえより、冷房の利いた店内に感嘆の声を漏らす。大河も入るや否や生き返るかのように下がっていた頭をあげ、いつもの調子に舞い戻る。
「竜児!私まず飲み物見てくるから!」
もとから行こうとしていたのだろう、その足取りには一寸の迷いもなく
一段と冷房の利いたドリンクコーナーへと進んでいく。
「あまり飲み過ぎて腹壊すなよー」
 と、その勇ましい背中に向け発せられた言葉が届いたかは分からない。
28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/22(月) 13:14:05.71 ID:+rihF3Ri0

 

「こんなもんか。あとは確か洗剤が切れそうだったな。ついでにスポンジも買ってかないと」
 食料品をかごに入れ、後はレジに向かう道中に必要なものを補充し、レジに通せば買い物終了。そ
のあとに休憩所あたりで飲み物を飲んでいるのであろう大河を連れて帰れば、今回のお出かけはコンプリート。
頭の中でこの後のことを考えていた竜児はそのシュミレーションに首を振る。
 その理由はただ一つ。この外出の何よりの目的である、大河の作文の題材がまだ見つかっていない、ということに尽きる。
このままでは帰りにドブに落ちてみたりするしか……いや、それはないだろ。
どうせ鼻で笑われるだけに決まってる。
29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/22(月) 13:14:50.38 ID:+rihF3Ri0
 考えている間にほとんど無意識のうちにレジに並び、会計が回ってきていた。
いつのまにか確保していた洗剤やスポンジなどを含むかごを置き、スタンプカードと現金を財布から取り出し清算を済ませてしまう。
もちろん入れ物はマイエコバック。
 会計を終えて商品をエコバックに詰めようと、レジの奥手にあるカウンターのような台にかごを置き、
ふと竜児は目の前の広告チラシに目をとめた。
「商店街主催の花火大会か……」
そこには毎年の恒例となっている花火大会の説明が、家族写真のようなモデルたちの横に記載してあった。
日付は今日の夜7時から。
30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/22(月) 13:16:49.75 ID:+rihF3Ri0
「これなら話のネタくらいにはなるか?」
一応の身分は高校生である大河が作文に、この日は花火を見に行きました。
なんて書くとは考えにくいが、この際そうも言っていられない。
このあとのデジャヴを見ることに比べたら背に腹は代えられない思いなのだ。
「……これしかないな」
ため息交じりにぽつりとつぶやくと、竜児はエコバックに荷物を積み替え、
大河がいるであろう休憩所へと向かった。
31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/22(月) 13:18:15.36 ID:+rihF3Ri0


   ***


会場である河川敷は意外なほど込んでいた。
若い女の子の集団もいれば、アットホームな雰囲気醸し出す親子の姿、果てには長年連れ添った老夫婦までお越しくださっている。
「すげぇ人だな。おい、はぐれないようにしろよ」
「まったく。あんたが見たいって言うから来たのに、こんなんじゃ碌に見れたもんじゃない」
確かに、大河の身長では花火どころか、並んだ出店を探すことすら叶わないかもしれないな。
なんて、もちろん口に出したりはしない。
32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/22(月) 13:19:14.77 ID:+rihF3Ri0
「こんなに多いと知り合いにあったりするかもな。一応毎年やってるでかいイベントみてぇだし。学校が始まる前の最後の祭りみたいなもんだからな」
「うえー。ばかちーとかに会っちゃったらどうしよ。あいつ絶対和服とか着こんで本気出してると思うし」
「普通にしとけばいいだろ。何も変に警戒することはねぇよ」
「わかった。普通にグーでいくことにするわ」
「普通におとなしくしててくれ」
人込みをかき分けながら、何とか大河にも花火が見えるところまで移動を試みようとするが、
さほど広くもないこの会場にこれだけの人が集まれば、それだけでもたやすいことではない。
それでも竜児は大河を先導するようにして人の間を割るようにして進んでいく。
33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/22(月) 13:20:14.85 ID:+rihF3Ri0
中にはひぃと小さな悲鳴をあげて道を譲ってくれる(後ずさるとも言う)人もいるが、
やはり多くの人は自分の居座るスペースを他人に譲ることを良しとはしないようだ。
しかし、これだけの人の数の前にしてはそれも仕方ないと言える。
「おい大河、ちゃんと俺の後付いてこいよ」
「子供じゃないんだからはぐれたりなんてしないってば」
後ろを振り返ると、確かに大河の丸い頭と小さな体がしっかりと目に入る。
ただ、こんな人波の中、このドジの神に愛されたような奴がはぐれないという確証はない。
34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/22(月) 13:21:18.85 ID:+rihF3Ri0
「なぁ、とりあえず俺の服つかんどいてくれねぇか?」
「はぁ?なんで」
「いや、どうも心配だからさ。ここではぐれたら探すの大変だろうし」
「だ・か・ら!!大丈夫だって言ってるでしょ!!駄犬のくせに一丁前に指図するんじゃない!!ほら歩け!」
竜児はしぶしぶ前を向きまた人込みをかき分け始める。
こいつは……本当に自分がドジだということを自覚していないのだろうか……。
35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/22(月) 13:23:08.81 ID:+rihF3Ri0
 クッキーを作れば砂糖の代わりに塩を入れるし、渡そうとすればこけてバラバラにするし、そもそもこいつとの出会いだってラブレターの入れ先を間違えたのが原因だ。
しかもその封筒に肝心の中身が入っていなかったことにも気付かず、家に押し入ったこいつは散々暴れ、俺は愚かにもその時こいつの恋愛の応援をすることになってしまって、
それからなぜか家に入り浸るようになり、今もこうして一緒に花火を見に来てるわけだ。
 毎回毎回、大河の天才的なまでのドジに散々手を掛けさせられながらも、竜児が放っておけないのは、やはり同情なのだろうか。
親に捨てられたという大河への、父親がいない自分にも似た彼女への。それとも義務感か。保護欲か、もしくはただの成り行きか。
今のこの奇妙な関係は、いったい何によって形成されているのか、それは当の本人たちにもわからないことだった。
ただ、今は竜児の近くに大河がいる。大河のそばには竜児がいる。この夏休みを通してその事実がさらにより一層、当然な光景となっていたのであった。
36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/22(月) 13:24:02.97 ID:+rihF3Ri0
今の現状に苦笑を洩らしながらも、竜児は大河を振り返り話しかける。
「なぁ大河、とりあえず一回土手のほうに行って……」
 ふと、目の前の光景に目を疑う。そしてつぶやく。
「あのバカ……!だから言ったのに……!」
 いつの間にか竜児の背後から大河の姿が消えていた。
数分前の大河のセリフを思い出しながら竜児の足は大河を探すためにはやくなる。
38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/22(月) 13:25:17.19 ID:+rihF3Ri0



   ***



「あいつ……いったいどこほっつき歩いてるんだよ」
 夏休みが終わるとはいえ、暑さはまだ日の暮れ始めた河川敷でも残っている。
周りの景色もようやく帳を下し、屋台の明かりが祭りの雰囲気を盛り上げるのに一役買っている。
「携帯も俺が預かってるままだし……」
 こんなことになるならと、自分の過保護を責めた。
が、ほっといたらほっといたで落としたりしたとき厄介だしな、と思わずにはいられない。
 周りは屋台が並ぶ通りを過ぎ、人の姿もまばらになってきた。今から通りに向かうであろう親子が隣を歩いていく。
39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/22(月) 13:26:05.03 ID:+rihF3Ri0
これ以上先に歩いていってもいる見込みはなさそうか…。鋭い眼をさらに細め、竜児は今来た道を振り返る。
「とにかく、もう一回引き返そう。そのあともう一度本部で迷子の確認をしてもらって……」
「……あれ?……もしかして高須か?」
ふと自分の名前が呼ばれ、声のしたほうを振り向く。
「おう……北村か」
 そこには祭りに合わせて着て来たのか、甚平をまといすっかり夏色に染まった親友が立っていた。
しかもなぜか片手にゴミ袋を携えて。
40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/22(月) 13:26:56.88 ID:+rihF3Ri0
「お前どうして……って!?」
さらにその横にはなぜかふくれっ面の美少女が、さして興味もなさそうに目線を送っている。
「高須君……まさか一人?うっわ……かわいそぉ?」
おそらくは本気ではないであろう一言で、それでも的確に痛いところを責めてくるこの人物こそ
「か、川嶋…いたのか」
川嶋亜美その人である。
41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/22(月) 13:27:44.73 ID:+rihF3Ri0
「別に来たくて来たわけじゃないけどねぇ」
毛先をいじりながら、完璧に整った指先を見つめ重いため息をつく。相変わらずこいつは……。
「実はうちの親父と、亜美が今居候してる親戚の家のご夫婦が町内会で一緒にやってて、屋台の管理や会場の清掃を任されていてな。
そこで人手が足りないからと狩り出されてしまって、こうしてゴミ袋片手に清掃してるってわけなんだ」
明るくはっきりと不幸な状況を語る親友はそれでも笑顔で、
「いやぁしかし、こうしてゴミを拾うと心が洗われるようだな。たまにはこういうのもいいかもしれん」
とかなんとか。楽しそうで何よりだ。
43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/22(月) 13:29:12.25 ID:+rihF3Ri0
「にしても、川嶋がこんなことにつきあうなんてな」
まぁ今もゴミを拾う北村について行ってるだけのようだが。
「そりゃ、こんなことしたくないけど、叔母さんたちにはお世話になってるし、無碍にもできなかったのよね?」
じゃぁお前もゴミ拾えよ、とは言わなかったが、表情から感じ取ったのか亜美がさらに続ける。
「でもこの辺蚊に刺されるし最悪。あーあ、夏休み最終日にこんなことになるなんてホントついてないなぁ」
 まったくこいつのこの性格ときたら……。
45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/22(月) 13:30:12.99 ID:+rihF3Ri0
 川嶋亜美。女優の川嶋安奈の娘でもあるこの少女は、その美貌を120%引き継いだ最強美少女だ。
そして本人もそのたぐいまれな容姿を生かし人気雑誌のモデルをこなしている。しかしその実、誰もが振り返るその容姿から想像する性格とは裏腹に、
自己陶酔の超わがままな性格を有し、大河とは何かにつけていがみ合うほどの犬猿の仲。
竜児たちとは、亜美の幼馴染で竜児の親友でもある北村祐作に頼まれ、そのどす黒い本性をさらけ出させて以来なにかと行動する機会が多くなった。
「それでもついて行ってる健気な亜美ちゃんの代わりに誰かゴミ拾い代わってくれないかな?」
 むしろ気持ちいいくらいの発言っぷりに竜児はあきれを通り越して感動すらしてしまう。
46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/22(月) 13:31:25.08 ID:+rihF3Ri0
「それにしても高須。今日は逢坂と一緒じゃないのか?」
「あ、あぁ……実は…」


「はぁぁ!?迷子になったぁ!?」
呆れと純粋な驚きで声を大きくする亜美に対して、そこまで驚くこともないだろうと反論しようとして竜児は口を止める。
いつのまにか大河が道に迷うのが当然になっている自分がいる……。本人に知れたら怒鳴られること必須だが。
「そうなんだよ……。今まさに探してたところで…」
「俺たちがこっちに来る途中では見なかったぞ?」
「ってことはそっちには行ってねぇのか」
「つぅかあいつもホントにドジよねぇ。しかもチビだから見つけにくいし」
47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/22(月) 13:32:25.29 ID:+rihF3Ri0
「携帯には連絡したのか?」
「実は落としそうだったから、俺が預かってたんだよ」
「ということは手分けして探すしかないか……」
 辺りを見回しながら北村が口にした瞬間、亜美の表情がさらに曇る。
「手分けしてって、もしかしてそこに私も入ってんじゃないでしょうね?」
「あぁ、亜美はゴミ拾いのほうが良かったか?」
「どっちも嫌だっつぅの!!なんで私がそんな面倒なことばっかやらされなきゃなんないのよ!!」
「まぁまぁ。亜美だってゴミ拾いよりは友人探しのほうがいいだろ?どっちにしたって今から帰るわけにはいかないだろうしな」
「そ、それはそうだけど……」
48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/22(月) 13:33:51.57 ID:+rihF3Ri0
さすがは北村だと感心しながら、竜児は夏休みの亜美の別荘先で、実乃梨を洞窟の内部へと誘導していた北村の物言いを思い出す。
結局あれは実乃梨と北村の共犯で、いわばあれも芝居だったわけだが、大河はその時の北村の口車に頬を染めていた。
「よし、そうと決まれば即行動だ。高須、逢坂とはぐれたのはどの辺りだ?」
 そして今、その大河を北村が探そうとしてくれていると知ったら、あいつは一体どんな顔をするのだろうか。
「あ、あぁ。場所は屋台の通りに入ったくらいだったから―――」
 さっさと見つけてわびの一つでもさせないと、北村はともかく、もう一人の機嫌が保てそうにない……。
49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/22(月) 13:34:51.71 ID:+rihF3Ri0


***


結局大河本人はそれから意外と早く見つかった。見つかったというより、大河の声で居場所が判明したという感じなのだが。
「あ、やっと見つけた。この馬鹿犬、勝手に迷子になってんじゃないわよ」
「どっちがだ!!こっちは散々探し回ってたんだぞ!!」
「私だってそうだっての。ていうか、どこほっつき歩いてたわけ?」
まったく悪びれる様子もなくこの言いよう。こいつは自分がはぐれたという自覚がないのだろうか。
「ついてるぞ。口の横」
おそらく屋台で購入したであろう食べ物は今はもうこいつの腹の中。それでも口の周りに証拠を残してしまうあたりが、大河らしい。
 少し焦りながらも大河が自分の口の周りを袖で拭っていると、ちょうど会場のアナウンスが花火大会終了の知らせを響かせた。
辺りは満足げに今回の花火大会への賛辞の拍手を送っている。
50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/22(月) 13:36:55.64 ID:+rihF3Ri0
「花火終わっちまったな」
「結局なんも見えなかったわ」
かなり不満そうにしている大河の横で竜児はふと思い出す。
「そうだ、あいつらにも連絡しねぇと」
「あいつら?」
 眉を寄せ、次は疑問の表情。そんな大河を横目に竜児は電話を手に取る。
「あ、そうだこれお前の携帯。渡しとくから、落とすんじゃねぇぞ」
「あ!!やっぱりあんたが持ってたんだ!!」
「お前が家に忘れていったんだろうが」
そんな事実は関係なく、乱暴に竜児の腕から奪われる大河の携帯電話。
「この花火が終わったら取りに行こうと思ってたのよ」
51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/22(月) 13:38:10.71 ID:+rihF3Ri0
そしてまたため息一つ。今日はずいぶんとこいつに振り回されているような気がする。
 思えば夏休みの宿題写しに始まり、作文のお題探しだ。それも結局こんな形になってしまって、
また家に帰ったら昼の二の舞になるような気がする。
 この後の重い空気話想定してうんざりな気持ちを抱えたまま、竜児は携帯の履歴から友人の名前を探す。
「あぁ、もしもし。おう、見つかったよ。今からそっちに行く。今大体どの辺りに……」
 電話している竜児の横で大河は携帯のディスプレイとにらめっこしている。メールでも打っているのかもしれない。
「そうか、わかった。じゃぁすぐに……え?マジかよ。大丈夫なのかそこまでしてもらって……。
わかった。とにかく今行くから待っててくれ。それじゃ」
52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/22(月) 13:39:35.74 ID:+rihF3Ri0
電話を切って隣を見るとあくび中の虎を発見。
「お前もう眠いのか?」
「……ううん。大丈夫」
 目をこすりながら言うこの発言ははたして正しいのか否か。判断には困るが本人の意思を尊重して、竜児は話を切り出す。
「じゃぁちょっと俺についてこい。北村が売りもんで余った花火一緒にやらないかってさ」
「き、北村君!?北村君が来てるの!?」
「お前のことを一緒に探してもらってたんだよ」
 ホントは亜美も一緒だけど、そこはあっちにつくまでは黙っていよう。
「きき、北村君が私を……!!」
53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/22(月) 13:40:34.51 ID:+rihF3Ri0
頭を抱えてしゃがみこむ大河を見て、なぜ俺が探しているのは当然のようにとらえるのかと多少の疑問が沸いたようなそうでもないような。
「申し訳ないと思うならちゃんとあった時に謝っとけよ?」
「こ、これから北村君と会うの!?私こんな格好なのに!?」
「別に変じゃねぇから安心しろ、ほら行くぞ。あんまり待たすのも悪いしな」
 それでもあたふたとしているのを気にしないようにして竜児は先立って歩き出す。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!」
 辺りからはめっきり人が少なくなっている。いまさら少し目を話したところではぐれたりはしないだろう。
それでも時々は隣を確認する。そのたび大河はちょっと不審な目で返してくるが、何も言い返してこないあたり少しは自覚があるのかもしれない。
54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/22(月) 13:41:19.79 ID:+rihF3Ri0
向こうに手を振っている友人の姿が見える。その横にぶぜんとした面持ちで立っている人物を見つけて、
大河の表情が明らかに不機嫌な面構えへとなったが、とりあえずあっちについたら謝罪させよう。
 そしたら亜美が文句の一つでも言って、大河言い返すだろうから、それの仲裁もしなくちゃならない。
 落ち着いたら北村の声で花火が始まって、いつのまにか皆楽しんでいるんだろう。
 いつも通りだ。そんな感じでいつも回っているんだから。
 竜児の足は自然と速くなる。もちろん隣を歩く小さな虎の小さな歩調に合わせて。

   おしまい
57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/22(月) 13:48:01.14 ID:vFrDj4K/0
>>54
おしまい、じゃねえよw。
もうチョイ続くとおもってリロードしまくってた俺にあやまれwwwwwwwwwwwwww

コメント

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