- 2010-11-07 (日) 0:12
- けいおん!
時と共に、やがては無視出来ないほどの大きな差となる現象。
まえがき
この度は、私の拙い文章ではありますが
お暇を潰せればなどと思い、ささやかな物語をお贈りします。
最後までお付き合いくだされば幸いです。
おことわり
・完結済みです。
・粛々と投下いたします。
書き込みが遅いと思ったら、さるさん、トイレ、エサの何れかです。
1時間以上放置することはありませんのでご安心ください。
・予定時間4時間?10時間
午前2時には終われると思います。
・70kB、120スレ程の分量です。
・エロ無し、微グロ、ほんわか日常系。
※また、映画「バタフライ・エフェクト」のネタバレを含みますので
ご注意願えますようお願いいたします。
その症状が表れ出したのは何時の頃だったろうか
高校に入学してからのことだった気がする。
そう、初めに体験したのは学園祭ライブでのことだ。
初めてのライブでの緊張からか
演奏の最後から退場するまでの記憶が無かった。
ライブが終わってから澪ちゃんが舞台で転んで
客席にパンツを披露したことをりっちゃんから聞いた。
後に見る機会があったライブ映像で
私は最後まで演奏をこなしていたのを確認した。
何の問題も無い。
熱中してそのときの記憶が無くなるなんて良くあることだ。
ずっとそう思っていた。
ある日、両親と共に学校に呼び出された。
私が美術の授業中に書いた絵が問題になったのだ。
刃物でズタズタに切り裂かれた何ともおぞましい絵だった。
先生は私を問い詰めたが、私にはそんな絵を描いた覚えが無い。
私は何度も首を振って書いていないことを訴えたが
今度は、私を心配そうな目で見つめてくるだけだった。
両親も不安を覚え暫く教師と相談した後
私を心療内科で診てもらうことに決めた。
そこで私は最近記憶が無くなる旨を医者に話し
医者は薬の処方はせず、経過を診るため私に日記を書かせることにした。
私もそれに従い常に日記を認めることにした。
私は、美術の授業での曖昧な記憶を初めに書き
その後は今日あった出来事を記述していった。
──
唯がまだ高校一年の頃。
冬の訪れを感じる寒い季節に
唯は炬燵に当って蜜柑を食べていた。
憂「お姉ちゃん、そろそろご飯できるから炬燵の上片付けてね」
唯「ほ?い」
返事はするものの唯は片づけをする気配が無い。
憂「も?片付けてって言ったのに」
憂は言いながらも自分で片づけをして
テーブルに夕飯を運ぶ。
唯「ごめんね、憂」
憂「いいよ。わかってるから」
憂「そう云えば、最近調子どう?」
唯「うん、楽しいよ」
憂は唯の記憶の途切れる症状について聞いたつもりだったが
唯は軽音部の事しか頭に無いのだろう
笑顔でそう答えた。
唯「え?うん。毎日ちゃんと書いてるよ」
憂「そう。最近は症状出たりしてる?」
唯「特にはないかな」
憂「よかった」
憂はほっとした表情を見せると
唯と二人だけの夕食を摂った。
食後に唯はアイスを食べながらのんびりと過ごしている。
憂は夕食の後片付けを済ませると
お風呂に入ってくると言って浴室へと向かって行った。
憂は湯船につかり、姉のことを考えていた。
不安でたまらないのだ。
記憶障害。
それを脳の障害へと関連付けるのは簡単だった。
姉の症状を聞かされたとき
一時期は心配で眠れぬ夜を過ごしたこともあった。
何か、大変な病気なんじゃないかと
学校の図書室や、市の図書館、書店を回って
関連しそうな病気の書籍を掻き集めたこともあった。
そこに記された文章は憂を不安にさせるだけだった。
──本当のことを話して
──お姉ちゃん治らない病気なの?
両親は医者からは重い病では無いと言われていることを憂に話したが
憂はその全てを信用することが未だに出来ずにいる。
最近では落ち着いて、姉の症状がそれほど酷くないと思い始めても来たが
心配なのは変わらなかった。
考えても仕方が無い。
憂は風呂から上がると、姉の居るリビングへと向かった。
──お姉ちゃんの顔を見れば安心できる。
しかし、さっきまで炬燵に当っていた姉の姿が無い。
憂「お、お姉ちゃん・・・」
唯は虚ろな目で憂を見る。
唯「うい・・・」
憂「お姉ちゃん、落ち着いて・・・ゆっくり包丁を置くの・・・ね?」
唯は驚いた様子で自らの手元を見つめると
目に涙を浮かべその場に膝から崩れ落ちた。
憂「お姉ちゃんっ!」
唯「憂っ・・・私・・・どうして・・・」
憂「落ち着いて、大丈夫だから・・・大丈夫」
憂は喉に絡む声で唯を慰める。
落ち着いて、落ち着いて、と自分に言い聞かせるように。
憂「そんなこと無いよ」
唯「だって、さっきまで自分が何してたのかわからないんだもん」
唯は怯えた目を憂に向けた。
唯「怖いよ・・・憂・・・」
憂「大丈夫だから大丈夫・・・」
憂は唯の頭をそっと撫でる。
大丈夫──その言葉を繰り返しながら
暫く二人で抱き合っていた。
唯は、学校の正面玄関へ続く桜並木の下を妹の憂と歩きながら
新しい生活の幕開けに胸を高鳴らせていた。
憂が同じ学校に合格して、これからはこうして毎日一緒に通えるのだ。
新しい後輩を向かえ、先輩として過ごす学校生活。
そして、新入生歓迎会のライブ。
軽音部に新入部員が入ってくれるだろうか
期待と不安の入り混じった感情がとても新鮮に思える。
清々しさに心が洗われるようだった。
憂「お姉ちゃん、なんだか嬉しそう」
並んで歩く憂が言った。憂もなんだか嬉しそうだった。
唯「うん。だって先輩って呼ばれるんだよ」
憂「私はお姉ちゃんって呼ぶけどね」
唯「え?憂も唯先輩って呼んでよぉ」
憂「だって私達姉妹でしょ。おかしいよ」
唯「それもそうだね」
憂「軽音部。新入生入ってくれるといいね」
唯「うん」
二人は笑いあい、桜色に染まる景色に溶け込むように校舎へと消えて行った。
にも関わらず、軽音部へ入部したのはたった一人だけだった。
それを不満に思うことはなく
唯達は快く新入部員を迎え軽音部は新たな一歩を踏み出した。
軽音部の和やかな雰囲気を
最初は受け入れ難いと感じていた新入部員の中野梓だったが
甘い誘惑に──いや、軽音部の演奏に惹かれ
その源であるティータイムにも次第に慣れ親しんでいった。
梓「唯先輩、一人でケーキ食べすぎじゃないですか?」
唯「え?そうかなぁ。だって皆食べないんだもん」
梓「そ、それは・・・その・・・」
唯「あずにゃん、もしかして──」
梓「そっそれ以上言わないで下さいっ!」
太ったんだ。
唯は口には出さなかったが、
少し意地悪に笑う。
唯「じゃあ、あずにゃんのも食べてあげるねっ」
唯は梓の皿に乗ったケーキにフォークを伸ばす。
梓「食べますっ食べますからっ」
喉に詰まったのかむせ返って
あわてて紅茶を飲んでケーキを流し込む。
律「唯、あんまり苛めるなよ」
律が呆れた表情で唯を窘める。
唯「別に苛めてないもん。りっちゃんも食べないなら私が食べてあげるよ」
律「私は食べるっての」
澪「そう云えば最近あんまり練習してないからな、律も肉が付いてきたんじゃないか?」
澪の言葉に乗せられて律は立ち上がる。
律「よしっ!練習するぞっ!」
その日の練習は実に充実したものだった。
と言っても、律はドラムを叩き壊す勢いで
他の音を掻き消してしまうほどだったのだが。
それでも、何時もより長い時間練習することができ
唯のギターも大分上達した。
梓は逐一駄目出しして、唯に丁寧に教えたが
また、忘れてしまうのではと不安にもなった。
しかし、こうして練習している間が
唯にギターを教えている間が
何よりも楽しい一時なのだと梓は感じていた。
楽しい時間は何時までも続いて欲しいと願うが
思うほど早く過ぎ去ってしまうものだ。
その年は、海に合宿へ行った。
思っていた通り、なのだろうか
先輩達は遊んでばかりだった。
ただ唯先輩と二人で夜中に練習した時間は
幸せな思い出として残っている。
初めての学園祭ライブ。
色々な事があった。
ギターを忘れて家に取りに戻る唯先輩。
その唯先輩の居ない舞台での演奏はどこか物足りなさを感じた。
最後の曲の直前に講堂に現れた唯先輩。
髪も服も乱れて息を切らしていたっけ。
すぐ近くで見る唯先輩が懸命に歌い演奏する姿。
あの楽しそうな横顔は一生目に焼きついて離れないだろう。
その時からなのかもしれない
私が唯先輩に思いを寄せる様になったのは。
ある日の休日。
唯は梓に誘われて遊園地へ遊びに行く約束をしていた。
唯の寝坊癖を知ってか
梓は憂に頼んで唯を時間通りに起こすよう言っていたらしい。
唯はしぶしぶベッドから起き上がると
支度を整え、憂に渡された弁当を持ち
約束の時間に間に合うように家を出た。
唯「おまたせぇ?」
唯の姿を見て梓はほっと胸を撫で下ろした。
梓「遅刻したらどうしようかと思ってましたよ」
唯「憂に起こすように言ってたくせに」
梓「だって、唯先輩絶対寝坊するじゃないですか」
唯「絶対とは心外だよ」
梓「じゃあ昨日何時に寝たんですか?」
唯「え?っと・・・12時・・・」
梓「やっぱり寝坊する気だったんじゃないですか」
唯「ごめんなさいっ」
休日と云う事もあってか遊園地は大分混雑していた。
唯「凄い人込みだねぇ」
梓「そうですね。唯先輩、迷子にならないで下さいよ」
唯「子供じゃないんだから」
梓「唯先輩のことですからわかりませんよ」
唯は膨れっ面をして文句を言っていたが
その顔も可愛いな、などと梓は思っていた。
梓「さぁ、行きましょうか」
唯「うん」
梓「唯先輩は何に乗りたいですか?」
唯「やっぱり遊園地といったらジェットコースターだよ」
二人はジェットコースター乗り場へ向かう。
それなりに搭乗を待つ列もあったが
20分ほどで順番が回ってくるようだった。
その間は、軽音部のこと学校のこと
色々なことを話した。
梓は唯の家での生活を聞いたが時間があれば
ギターの練習ばかりしているらしく以外にも感心してしまった。
少し寂しそうな表情を見せた。
唯「寂しかったら家に遊びにきていいんだよぉ」
唯は梓に抱きついて頬擦りをする。
梓「べ、別に寂しくなんてありません」
唯「ツンデレってやつだね、あずにゃん」
梓「違いますよ。離れてください、恥ずかしいですから」
唯「ごめんごめん」
ふと唯は身長制限の立て看板に目を移す。
唯「あずにゃん、乗れるのかな?」
梓「馬鹿にしないで下さい」
唯「冗談だよ。あずにゃ?ん」
梓「もうっ、くっつかないでくださいよ」
順番が来て二人はジェットコースターに乗り込む。
最初は余裕の表情を見せていた梓だったが
次第に顔を青くさせ
一周する頃には涙目になっていた。
梓「ぜんぜん・・・平気です・・・」
無理をしているのは明らかだったが
そんな梓に悪戯心が芽生えた唯は
次から次へと絶叫マシンに梓を誘っていった。
梓「唯先輩・・・もう、限界です・・・」
流石に参ったといった表情の梓に
唯は休憩しようと言ってベンチで休むことにした。
唯「ほい、あずにゃん」
唯は梓に売店で買ってきた飲み物を渡すと
隣に腰掛けた。
梓「ありがとうございます」
唯「ごめんね」
梓「いえ、その・・・楽しかったですよ」
唯「ホントに?」
梓「はい、先輩と一緒なら」
顔を赤らめて外方を向いた。
唯はそんな梓の顔を覗き込んで、どうしたの?
と悪戯っぽい笑顔で言った。
梓「唯先輩は意地悪です」
梓は呟くように言った。
それからは、木陰で二人肩を並べて憂に作ってもらったお弁当を食べた。
食後にはアイスを舐め、
流石に胃に食べ物を詰めた状態では絶叫マシンは乗れないだろうと
お化け屋敷やコーヒーカップなど緩めのアトラクションを満喫した。
陽が西に沈み始め、空を茜色に染め上げた頃
最後にと、梓は観覧車に唯を誘った。
梓と唯は観覧車のゴンドラに向かい合って座る。
ゆっくりとゴンドラが上昇する。
唯は首を捻って静かに窓の外を眺めていた。
梓はその横顔を、唯が今何を思っているのか考えながら見つめていた。
梓「唯先輩、シンガポール・フライヤーって知ってますか?」
唯は窓の外を見つめたまま首を横に振る。
梓「世界最大の観覧車なんですって。高さ165mで一周するのに30分掛かるらしいです」
梓「定員も28人で、貸切で結婚式とかパーティーなんかも出来るらしいですよ」
唯は梓に顔を向けると微笑んで言った。
唯「観覧車でライブかぁ?。楽しそうだね」
梓は唯に本気とも冗談とも知れない言葉を返した。
梓「いつか、やってみたいと思いませんか?」
唯「うんっ!やろうよっ観覧車でライブっ!」
唯は満面に笑みを湛えて言った。
ゴンドラが頂上に達し、窓からは赤く染まった夕陽が差し込んで
唯の笑顔を眩しく輝かせていた。
その幻想的な光景に梓は思わず涙を流した。
──唯先輩なら、唯先輩となら、どこまでも行けそうな気がする。
確信に近い思いが梓の中にはあった。
二人はゴンドラが降りるまで
窓に顔をくっつけるように外の景色を眺めながら
他愛も無い会話を交わした。
観覧車を降りると、
唯は、楽しかったね──と言って梓の手を握った。
初めは照れくさそうにしていた梓も唯の手を握り返し
二人は遊園地を後にした。
唯と梓は二人手を繋ぎながら暫く歩いた。
二人の家は近所というほどでもなかったが向かう方角は同じだった。
唯は梓の手の温もりを感じながら
今日の事を思い返していた。
楽しかった──本当に楽しかった。
──そうだ、今日の事もちゃんと日記に書かないと
そんなことを考えていると妙な耳鳴りを感じ
次の瞬間には意識が途切れた。
────・・・・・・
唯の目の前には涙を流した梓の顔があった。
何かあったのか?
唯は例の症状がまた表れたのだとわかった。
唯に顔を近づけて泣いている梓。
自分が何かしてしまったのだろうか
傷つけるようなことでも言ったのか
唯は不安になる。
唯「あ、あずにゃん・・・」
梓は涙を拭うと微笑んで言った。
梓「何でも無いです。何でも」
唯「で、でも・・・」
梓「心配ないですよ。唯先輩は私を傷つけるようなことはしてませんから」
その言葉に唯は安堵したが
意識のない間自分が何をしたのか気になって仕方が無かった。
唯は梓に直接聞いてみようとも考えたが
結局言い出せずにその日はそこで別れた。
梓との関係が壊れてしまうのでないかと心配していたが
普段どおり接してくれる梓を見て
それが思い過ごしであるとわかった。
それからは、唯はその時のことを忘れて
何時も通り梓と接することにした。
抱きついたりと過度なスキンシップを取る唯に
梓も照れながら嬉しそうな表情を向けてきた。
秋が終わり肌寒さを感じる季節。
授業が終わり、放課後
唯は軽音部の部室へと足を踏み入れた。
途端に意識が途切れた。
────・・・・・・
入り口で暫く立ち止まったままの唯を
皆は不思議そうな目で見ていた。
唯「ご、ごめん・・・私なにか言ったかな?」
律「いや、ただぼーっと突っ立ってこっち見てただけだけど」
澪「唯、何かあったのか?」
唯は頭を振って答えた。
唯「ううん。なんでもない」
紬「いま、お茶淹れますから。唯ちゃんも座って」
紬に促されて唯は椅子に座る。
──まただ。
唯は医者の言い付け通り、毎日日記を付けていたが
症状が改善される様子は無い。
特に酷くなっている訳でもないが
突然、意識が途絶えるのは不安でしかない。
その不安に促されるように唯はその場で今日の日記を付け始めた。
律「唯、何書いてるんだ?」
唯「日記だよ」
唯「そうかな?」
梓「でも、何で今書いてるんですか?」
唯「う?ん。何となく今書かなきゃいけないような気がして」
梓「変なの」
唯は先ほど部室の扉を開けたところで
記憶が途切れた事を書き記すと筆を置いて
紅茶を一口すすった。
律「それにしても今日は冷えるな」
梓「律先輩、そんなこと言って練習サボりたいだけじゃないんですか?」
律「そ、そんなこと無いぞ」
梓「本当ですかぁ?」
唯「やろうよっ練習」
唯の言葉に誰もが驚いた表情を見せた。
律「唯、お前本当に今日は何かあったのか?」
澪「そうだな。唯にしては珍しい」
紬「まぁまぁ、練習したいなんて良いことじゃないですか」
律「そうだな。よし、やるかっ」
全員が立ち上がり練習を始めようとしたところで
顧問の山中さわ子が扉を開けて入ってきた。
さわ子「ちょりーっす」
間の悪さに溜息を吐いて律は言った。
律「さわちゃん。私達これから練習するんで」
さわ子「え?っ!お茶は?ケーキは?」
紬「後で淹れてあげますから」
子供のように駄々をこね始めたさわ子を
律はしょうがないと云った表情で見つめる。
律「むぎ、とりあえずさわちゃんにお茶淹れてあげて」
さわ子「あ、ありがとぉ?」
さわ子は目に涙を浮かべて感謝の言葉を口にした。
律「何も泣くことはないだろ」
紬「そうだわ、ついでに私達の演奏も聞いてもらえませんか?」
さわ子「うん、聞く聞く」
律「変わり身はえぇな?」
紬はさわ子に紅茶を淹れると
キーボードの前に立ち、律に目配せする。
律はそれに頷いてスティックを打ち鳴らす。
律「ワン!ツー!スリー!」
────・・・・・・
演奏を終えた後、唯は自分が息を切らしていることに気づいた。
先ほどの演奏の記憶が抜け落ちていることは理解できていた。
しかし、記憶が途切れたことによる不安よりも
自分の中にある達成感に喜びを感じていた。
素晴らしく気分がいい。
ライブを終えた後のような感動が胸の裡を震わせていた。
みんなの顔を見る。
一様に驚いた表情を唯に向けていた。
澪「唯・・・すごく・・・良い」
梓「唯先輩!凄いですっ!どうしたんですか!?」
紬「本当、なんだか感動しちゃいました」
律「最高だったぞ、唯っ!」
唯はさわ子に視線を移す。
さわ子はケーキにフォークを刺したまま固まっている。
何かを言いたそうに口をぱくぱくとしているが
上手く声にならない様子だった。
さわ子は声を出せない歯がゆさから
目に涙を浮かべると
何も言わずに、大きく頷いた。
何度も何度も。
律がからかうように言うと
さわ子も悔しかったのか
ケーキが涙が出るほど美味しかったのよ──と判りやすい嘘を吐いた。
その後は結局練習にならなかった。
誰もが、演奏の余韻に浸って居たかったのだろう
椅子に座って物思いに耽るように
繰り返し繰り返し先ほどの演奏を頭の中で再生していた。
唯はただ、高鳴る胸の鼓動に耳を傾けて
言いようの無い胸の裡から溢れる感動を
噛み締めていた。
唯が壁掛け時計に目をやると
あれから大分時間が経っていたことがわかった。
律も唯の視線の先を追って時計を見やる。
律「そろそろ、帰るか」
皆は熱に浮かされたようにぼうっとしていたが
そろそろと立ち上がり帰り支度を始めた。
唯「ねぇ、帰りにアイス食べていこうよ」
律「ああ、いいぞ」
澪「そうだな」
唯「あずにゃんも一緒に行こう?」
梓「はい、いいですよ」
5人はそろって、唯の行きつけの店でアイスを食べた。
決して特別なことでは無かった。
月に何度かは5人そろって、同じようにアイスを食べに来る事があった。
普通のことだった。日常の風景だった。
変わらぬ日常の──。
そこからの帰り道。
梓は買い物があるといって商店街の方へ向かうために
横断歩道を渡る。
梓が皆に向かって手を振っている。
唯も手を振り返す。
梓が笑う。
唯も笑い返した。
歩行者用の青信号が点滅を始めた。
突然、けたたましいクラクションの音が鳴り響いた。
────・・・・・・
鮮血がアスファルトを赤く染め上げていた。
その上に横たわっているものが何なのか
誰の目にも明らかだったろう。
──死体。
腕は拉げ(ひしゃ・げ)
筋肉と白い骨が剥き出し
脚は皮膚が捲れ上がって
襤褸切れのように垂れ下がり
腹部は裂け
大小の臓器がはみ出し
首は在らぬ方へ向き
頚骨が皮膚を突き破っていた。
辺りには黄色い脂肪と
ピンク色の肉片が吐瀉物のように
撒き散らかっている。
あれは何だ?
あれは人間なのか?
死体だ。
死体だ。
死んでいる。人間だ。
唯は辺りを見回す。
さっきまで一緒に居たはずだった。
──あずにゃん、どこ行ったのかな?
──あぁ・・・帰ったんだっけ?
唯は澪を見る。
澪は寝ていた。
──澪ちゃん、道端で寝てると危ないよ。
唯は声を掛けたつもりだったが
奥歯を強く噛み締めていて口を開くことすらできなかった。
紬を見る。
紬は携帯電話に向かって何かを必死に伝えようとしている。
──むぎちゃん、何かあったの?
矢張り声にはならなかった。
律を見る。
泣いていた。
泣きながら何かを叫んでいる。
・・・・・さ・・!
──聞こえない。
──いやだっ聞きたくない!
あずさっ!
──違うっ!違う違う違うっ!
律「あずさっ!梓あぁっ!」
唯は道路に転がる死体に目を移す。
唯「違うよ・・・違うよ。何言ってるの?あれは・・・」
死体に焦点を合わせようとするが
一向に視界はぼやけたままだった。
それが涙だとは気づけずにいる唯だったが袖で目を擦ると、
一瞬ではあったがはっきりと見て取ることが出来た。
梓の顔──赤く染まった顔を
艶やかな髪──どす黒い粘液に塗れた髪を
黒く澄んだ瞳──白く濁った瞳を
柔らかかった頬──擦り切れて奥歯がむき出しになった頬を
唯は一歩、また一歩と、震える脚を引き摺るようにして
死体に──梓に近づいていく。
梓を抱いた。
生暖かな液体が
唯の脚を、腕を、体を、顔を濡らしていた。
涙が止め処無く零れ落ちる。
声を上げようとするが
嗚咽が漏れるだけだった。
叫びたかった。
胸の裡に湧き上がる絶望を吐き出したい。
ここで呑み込んでしまったら
きっと心が壊れてしまう。
だから──今。
唯は大きく息を吸った。
唯「いやぁぁああああああああああああああああっ!!」
叫んだ、何度も何度も何度も。
梓の名前を呼んだ。
助けて!──と無駄な言葉も吐いた。
何でもよかった。
兎に角叫んだ。
喉が枯れるまで。
声が出なくなるまで。
意識が、途絶えるまで。
目を覚ましたとき、唯は病院のベッドの上に居た。
何も考えることが出来なかった。
両親と憂が見舞いに来たときも、
幼馴染の真鍋和が見舞いに来たときも
一様に悲しそうな表情を向けてくるが
何も感じなかったし、相手の言葉も聞こえなかった。
ただ、日記だけは自然と付けていた。
あの日のことも書いた。
涙を流しながら。
それでも悲しいという感情は抱かなかった。
何も考えていなくても涙は自然と溢れた。
それからの唯は塞ぎこむような毎日を送っていた。
空虚な日々を、霞掛かった日常を、ただ漠然と流されるように。
退院後は学校へ毎日通っているものの
授業中に突然泣き出したり、叫び声を上げたりと
酷く取り乱すことが頻繁にあった。
事故現場に居合わせた軽音部一同の心のケアに尽力した。
和も唯を心配して、心の支えになればと、
多くの時間を唯と共に過ごした。
他の軽音部のメンバーがどうなっているのか
唯は気に留めることは無かった。
同じクラスの紬は長い間欠席していたような気がする。
律は毎日登校していたようだったが、
唯と同じように塞ぎこんでいた。
澪とは廊下ですれ違ったことはあったが
互いに声を掛けることはしなかった。
それぞれ、何を思い、どれほど苦しんでいるのか
今の唯には関係のないことだった。
軽音部のメンバーが揃う事は無かった。
それでも、唯は次第に心を取り戻し
少しずつではあるが、
梓の死に向き合えるようになってきた。
紬は、冬の間保健室登校を続けて
そこで一人授業で出された課題などをこなしていた。
テストも別室で受けて
学力的には問題が無いため進級することができた。
律も唯と同じように順調に心の傷は癒えていった。
寧ろ、律の方が快復は早かったかもしれない。
春には今まで通り元気に学校へ通っているし、
唯とも自然に会話を交わすようになってきた。
澪は事故の直後に気絶して
精神的なダメージは一番少なかったが
梓の死を受け入れられず、
未だに他者と会話を交わすことが出来ないで居た。
さわ子や和、憂も不安を隠しきれずに居たが
時間が解決してくれると信じて皆の様子を暖かく見守っていた。
軽音部のメンバーに笑顔が戻ってきていた。
皆は互いに言葉を交わし
笑いあい、時に喧嘩をすることもあった。
心の傷は深刻だったが
誰もがこのままではいけないと思い始めたのだろう。
進路も決まり、それぞれがそれぞれの道へ進む決意をしていた。
澪は推薦で音大への進学を希望していた。
推薦状を書いてもらうにあたり出席日数を心配していたが
事故後の欠席は公欠扱いとなり
晴れて推薦状を書いてもらえる運びとなった。
唯も澪と同じ音大へと進むために
日々受験勉強に勤しんでいる。
紬は、希望の女子大へ進むため
唯と同じく受験勉強中である。
律は早々に就職して社会人になりたがっていたが
目ぼしい就職先は見つからず
専門学校へ二年間通った後に
改めて就職口を探すと意気込んでいた。
しかし、誰もが何かを置き去りにしようとしていることに
薄々勘付いてはいたのだった。
これでいいのか?
このままでいいのか?
その葛藤が常に彼女達の頭の中で渦巻いていた。
夏休みを迎えようとしていたある日のこと。
律は、けじめをつけよう──と言って軽音部のメンバーを部室へ集めた。
拒否する者は居なかった。
皆、同じ気持ちだった。
同じ思いで今まで時を過ごしてきた。
律「率直に言うぞ。軽音部、どうする?」
暫しの沈黙の後、澪が口を開いた。
澪「私は、諦め切れない。もちろん、皆の気持ちを優先するよ」
律「むぎはどうだ?」
紬「私は・・・申し訳ないけど・・・」
律「わかった。唯は?」
唯「私は、私はね──」
────・・・・・・
唯は息を呑んだ。
以前にもまして長い間意識が途絶えていたらしい。
恐る恐るみんなの顔を見る。
紬は涙を浮かべていた。
澪は目を伏せて、ほんの少し笑みを零していた。
律は嬉しそうな顔で机に身を乗り出していた。
律「唯っ!澪っ!むぎっ!」
三人は律に目を向ける。
律「軽音部──復活だなっ!」
唯は自分が何かを言ったらしいことは理解できた。
そしてそれはきっと自分の望む言葉だったに違いない。
結局何を言ったか聞き出すことはしなかったけれど
軽音部の復活に胸を躍らせていた。
夏休みに入ると、受験勉強と
最後の学園祭ライブへ向けての練習のため
軽音部のメンバーは毎日部室に集まっていた。
あの幸せだった毎日を取り戻したように思えた。
悲しみの表情を見せる者もいたが
学園祭ライブを成功させることが
梓への弔いとなるのだと
皆は必死に練習した。
紬は新しい曲を作り
澪は梓への軽音部全員の気持ちを歌詞に認めた。
澪にしては珍しく、
とても儚げで、それでいて希望に満ち溢れた歌詞だった。
学園祭当日。
午後から行われた軽音部のライブは観客の涙を誘った。
最後の曲。
梓に向けたその曲の前に
軽音部一人一人が梓への思いを壇上で語った。
ありきたりな言葉を繋ぎ合わせただけの
拙いものだったが、
有り余る思いが込められた言葉だった。
皆は思い思いに楽器を奏でた。
とても自由な演奏だったけれども
決してバラバラではなかった。
軽音部の強い絆がその演奏には込められていた。
澪も唯も堪え切れない感情に声を震わせながら歌った。
皆が涙を流していた。
涙を流しながらも楽しそうに、嬉しそうに
梓と過ごした時の思い出を
音に変え、響きに変え、声に変え、
講堂にいる全員にその思いを伝えた。
最高のライブだった。
清々しい表情をしていた。
もう、何も思い残すことは無いと
漸く、区切りをつけることができた。
皆はそれぞれの道へ向かう。
推薦入試を受けた澪は一足早く合格の報せを受けた。
唯、紬、律の三人も合格発表まで不安な毎日を送っていたが
無事合格することができ安堵していた。
その後は合格祝いにと
軽音部の四人と和、憂、さわ子が集まり
ささやかなパーティーを軽音部の部室で行った。
和「それにしても、唯が大学生かぁ。なんか思ってもなかったわ」
唯「むっ。酷いよ和ちゃん。私だってやるときはやるんだから」
和「そうね。ごめんごめん。澪と一緒の大学だっけ?」
澪「ああ、自宅からじゃ通うのは難しいだろうから、
唯とアパート一緒に借りて住もうかって話なんだ」
律「お二人さん、同棲ですかぁ?」
澪「馬鹿っ。んなわけあるかっ」
律「憂ちゃんは寂しくないの?」
憂「大丈夫です。毎日でもお姉ちゃんの所に通いますから」
澪「いやいや、毎週くらいにしておきなって」
澪「そうそう、唯ってば弦楽専攻を選んだんだけどさ」
和「ああ、ギターが出来ると思ってたのね」
唯「そうなんだよぉ。そしたらバイオリンとかチェロとかでさぁ」
和「説明会で聞かなかったの?まぁ唯のことだから想像できるけどね」
澪「いいんじゃないかな。同じ弦楽器だし、唯も一から勉強しなおす方がためになるだろ」
澪「うるさいな。詞は本人の思うように書けばいいんだよっ」
軽音部の部室に笑い声が響く。
さわ子「さぁ、皆。乾杯するわよっ」
律「さわちゃんが飲みたいだけだろっ」
紬「まぁまぁ、乾杯しましょう」
律「おっしゃっ。じゃぁみんなの合格を祝ってっ!」
──乾杯!
唯はその時の事を今でも覚えている。
思い返すと、唯の記憶が途切れる症状が最後に表れたのもその時だった。
卒業式が終わり校庭で卒業生は互いに別れを惜しんでいた。
唯は校舎を見上げながら歩いていた。
軽音部の部室が見えるところまでくると足を止め
耳を澄ました。
──聞こえるよ。あずにゃん。
──あの時の演奏が。
──私の記憶には無いけれど、あずにゃんと最後に演奏したあの曲が。
暖かい涙が頬を伝う。
──なんて声を掛けたらいいんだろうね?
──さようなら?
──ううん、行って来ます。かな?
その時、部室の窓際に唯は人影を見た。
背の低い、長い黒髪の女の子。
女の子が笑ったような気がした。
唯も笑い返すと、女の子は消えてしまった。
律「お?い。唯?っ」
律の声を聞いて振り返ると
軽音部の皆が、憂が、和が
そこに居た。
律「みんなで写真撮ろうぜ」
唯「うん」
唯が頷いた瞬間に意識が途切れた。
────・・・・・・
律「どうした?唯?」
唯を心配して律が顔を覗き込んでいた。
唯「なんでもない。撮ろうよ写真」
律「ああ、そうだな」
律は憂にカメラを渡して
軽音部の部室が見える校舎を後ろに
軽音部のみんなと和を交えて並んで立つ。
憂「みなさ?ん。笑ってくださ?い」
憂の掛け声に皆は最高の笑顔を見せた。
それが高校生最後の写真だった。
第一部 完
卒業式の日を境に唯の記憶の途切れる症状は無くなった。
あれから一年以上経った今では、
そのことも忘れてしまっていた。
日記も、大学生活の楽しさからか、
症状の出ないことを安心してか
何時しか書くことも無くなり
卒業式までの日記だけを思い出として
ダンボール箱の中に仕舞っていた。
唯は入学祝いに両親から贈られたバイオリンを弾いていた。
ギターをやめてしまった訳では無かったし
弾き方を忘れることも無かった。
今までのように一つのことに熱中する性格は変わらないが
ギターだけではなく、弦楽器全般、ひいては音楽全般と幅を広げて
その情熱を注いでいた。
週末には路上で演奏したりもする。
ただ、エレクトリックギターやベースでは電源の問題やアンプを運ぶのも困難だったため
澪はアコースティックギターに切り替え
唯はバイオリンと、今までとは毛色の違う演奏をしていた。
初めのうちは、澪は恥ずかしがって音を奏でるだけだったが
次第に慣れはじめたのか、歌詞を書いて
澪がボーカルとして歌を歌った。
足を止めて聞き入る人も居た。
日によっては閑散とした有様ではあったが
演奏する楽しさで気にならなかった。
また、軽音部の皆と演奏がしてみたい。
そんな思いも唯の中にはあったが
最近は昔の仲間に連絡を取ることも無かった。
和とはメールのやり取りがあったが
律と紬は今、何をしているのか近況すら知らずに居た。
澪に律の様子を聞いたこともあったが
顔を曇らせているのに気づいて以降は律の話をすることをやめた。
唯は実家へと帰省した。
憂「お姉ちゃんお帰り」
唯「ただいま、憂」
久しぶり、といっても毎週唯のアパートに通う憂の顔だ
懐かしいとは思わなかった。
唯は故郷に帰ってきた懐かしさを湛えた感慨に浸りたいと思っていたが
諦めざるを得なかった。
憂は今年地元の大学に進学した。
少し大人びて見える憂に少しだけ寂しさを感じたこともある。
彼氏でもできたのかと本人に聞いた事もあったが
そんな暇は無いと、ばっさりと言い切った。
足しげく2時間掛けて唯のアパートに毎週通っているのだ
確かにそんな暇も無いだろうと思う。
唯「お父さんとお母さんは?」
憂「何時ものことだよ」
この時期両親はお盆休みを取ると
何時も二人で旅行しているのだった。
ふと憂が寂しいのではないかと思ったが
そのために自分が帰省したことを思い出した。
久しぶりに地元の商店街に行くと大分様変わりしていることに
驚きを隠せなかった。
諸行無常などという本人にもよくわからない言葉が頭に浮かぶ。
変わっていくんだなとしみじみと感じた。
唯にとって嬉しいこともあった。
唯の行きつけだったアイス屋は今も変わらず残っている。
一瞬、あの時のことを思い出して
取り乱してしまうのではないかと不安にもなったが、
心が揺れ動くことは無かった。
梓のことはあの学園祭ライブで区切りをつけたのだと
今更ながらに実感した。
憂と肩を並べてベンチに腰を下ろしてアイスを舐める。
憂「お姉ちゃん大学はどう?」
唯「うん、楽しいよ」
憂「路上で演奏してるんだって、澪さんから聞いたよ」
唯「憂も聞きにきてよ」
憂「うん。必ず行くね」
こうしていると高校の時を思い出す。
帰りに食べた変わらぬアイスの味がそうさせるのだろうか。
他の皆は今何をしているのだろう。
憂は顔に暗い影を落とす。
憂「少し前まではね。たまに遊びに連れてってもらったりしてたよ」
唯「今は?」
憂「連絡取ってない。直接聞いたわけじゃないけど学校も辞めちゃったみたい」
唯「そう・・・」
律の性格からして、今まで唯は特に心配などはしていなかった。
それでも、あの時の澪の顔や今の憂の表情を見ると
唯も不安になってきた。
何があったのか、一度本人と会って話をしなくてはいけないのではないか
もし、自分に出来ることがあるのなら律に手を貸してあげよう。
憂は小さく頷くと携帯電話を開いて唯に渡した。
携帯のメモ帳には律の住所が入力されている。
どうやら、自宅ではなくアパート住まいのようで
それほど遠くに住んでいるわけでもなかった。
行ってみよう、唯はそのデータを自分の携帯へ転送すると立ち上がった。
唯「憂、私行ってくるね」
憂は不安そうな目を向けてきたが何も言わなかった。
唯「夕食までには帰ってくるから」
そういい残して唯はバス停へと歩を進めた。
どこにでもある、マンスリーアパートだ。
部屋は201、唯は外階段を上り
部屋の前までくると少し考える。
何を言えばいいのだろう。
律の現在の様子は何も知らされていない。
突然押しかけたことで気分を害してしまうかもしれない。
もしかしたら、誰かと同棲している可能性もある。
しかし、幸せならそれでいいのかもしれない
唯には邪魔をすることなど出来ないし
本人が望むならそのままでも・・・。
唯は備え付けられたインターホンを押す。
声は聞こえなかったが、中から物音が聞こえてきた。
鍵が外れ、ドアが開いた。
扉から覗かせた顔を見て唯は驚いた。
亜麻色の髪には白いものが雑ざり
顔の皮膚は弛んで皺が目立つ
瞼は赤く、目の下には隈が出来ていた。
しかし、それでも面影はあった。
紛れも無い、律の姿がそこにはある。
唯「り、りっちゃん・・・」
何の表情も見せなかった。
ただ一言、入れよ──とぶっきらぼうに言った。
唯は玄関に足を踏み入れる。
饐えた臭いが鼻を衝いたが
努めて顔には出すまいとした。
ワンルームの室内は荒れ果てていた。
フローリングにはゴミが散らかり放題で
キッチンシンクには食器や残飯が溜まっていた。
律は万年床になっているらしい布団に腰を下ろすと
適当に座れと言って唯を促した。
唯は足の踏み場も無い床の上から
雑誌やペットボトルなどのゴミを退けて
一人分のスペースを確保すると小さく座った。
律「で、なんか用?」
唯は何を口にすべきか迷ったが
率直に聞いてみた。
唯「りっちゃん、何があったの?」
律「はっ、そんなことを聞きにわざわざ来たのかよ」
律「別になんもねーよ。学校辞めて引きこもってんだよ」
唯はさっきまで律の変わり果てた姿から
目をそらしていて気づかなかったが
よくよく見ると、律の手首には何本もの赤黒い線がある。
リストカットの痕だ、自殺でもする気だったのだろうか
律は唯の視線に気づくと、
手首の傷を唯に見せて言った。
律「そんなに珍しいか?」
律「普通に生きてる奴にはわかんねぇだろうな」
投げやりだった。
律は自棄になっているのだ。
唯が黙っていると律は自分から語りだした。
律「バンド組んでたんだよ。学校の友達が紹介してくれてさ」
律「その友達の知り合いがライブハウス経営してて
そこで、何度か演奏もさせてもらったよ」
律「私が組んでたバンドなんだけどな」
律「最高だったよ。最高にクレイジーだ」
律「馬鹿みたいにギターじゃんじゃん鳴らして、馬鹿みたいに絶叫して」
律「お前もやるか?って言われて──」
唯「りっちゃんまさかっ!」
律は袖を肩まで捲り上げると唯に見せた。
赤い斑点、ところどころ鬱血して青くなっている。
小さな瘡蓋。
さらには、爪で引っかいた痕もあった。
傷だらけになった腕。
きっと心も傷だらけなのだろう。
唯「ねぇ・・・病院、行こう?」
律「はぁ?何いってんだよっ馬鹿かお前はっ!
んなとこ行ったら警察に連絡されるに決まってんだろうがっ!」
律「それとも何か?お前は私が警察に捕まってもいいと思ってんの?」
唯「違うよっそんなことない・・・でも・・・クスリなんて・・・駄目だよ」
律「いい子ちゃんぶりやがって、お前はいいよな」
律「知ってるぜ、澪と一緒に路上演奏やってんだってな」
律「そんなんで満足してるんだから幸せだよなっ」
唯「私と澪ちゃんはそれで満足してるって訳じゃ──」
律「バンドも組まずにデュオでプロデビューかお目出度いねぇ」
唯「私だってずっとバンド組みたいって思ってたよっ
今だって、あの頃のメンバーで・・・」
律「だったらっ!だったら何で私を誘わなかったんだよっ!!」
律は怒りを顕にした。
唯には返す言葉も無かった。
路上で演奏するのにドラムセットを運ぶことは出来ない。
同じような理由で、澪はアコースティックギターに
唯はバイオリンを選んだのだ。
ライブハウスでの演奏も頭にはあった。
ただ、最近ではチケットの売り上げが
ライブハウスの使用料を下回ることの方がざらだと聞いて
澪は路上での演奏でファンを増やしてから
本格的なバンド活動を始めようと言っていた。
クラシックな演奏からバンド演奏に切り替えたとき
ファンが付いてくるだろうかとの不安もあった。
それでも、澪は自信を持って答えたのだ。
──私達の音楽を好きで聞いてくれるんだ。大丈夫だよ。
そして、その時には──律と紬に声を掛けようと。
唯「ごめん。ごめんね、りっちゃん」
唯はただ謝ることしか出来なかった。
律「いいよ」
唯は、律の言葉の意味を求めて顔を見る。
律は、頬を引き攣らせながら歪な笑顔を作っていた。
律「いいからさ。唯、金貸してくんね?」
唯は落胆した。
その金を何に使うのかは明らかだった。
今までどうやってお金を工面していたのかはわからない
それがとうとう昔の友人に金をせびるまでになってしまったのだ。
唯「りっちゃん、だめだよ」
律「何でだよ。ちゃんと返すからさ」
唯「お願いだから・・・」
律「なぁ助けてくれよ。クスリ切らして気分悪いんだよ」
唯は首を振る。
律「そ、そうだ。唯にもやらしてやっからさ」
辛かった、昔のような明るく元気な律の姿はそこには無い。
律は目を見開き焦点の合わない瞳を漂わせる。
唯には、こんな狂人じみた目を向ける律が酷く醜く思えた。
唯は立ち上がる。
もう、ここに居る理由が無い。
唯が玄関へ足を向けると、律は怒鳴り声を上げた。
何を叫んでいるのか内容は聞き取れない。
物が壊れる音もした。
唯は振り向くことはなく、玄関の扉を開くと外へ出た。
──私達友達だろっ!
最後にそれだけは聞き取ることが出来た。
唯はその空虚な残響を部屋に閉じ込めるように扉を閉めた。
律の事が頭から離れることはなかった。
結局唯は警察には連絡しなかった。
酷く罪悪感に悩まされることになったが
友達を警察に突き出すことなど出来ないのだと、
してはいけないのだと
都合のいい理由を取り繕った。
紬はどうしているのだろう
律のことを考えると
紬のことも心配になってくる。
皆変わってしまったのだろうか
急に切ない思いが込み上げてきた。
唯は自室のクローゼットからダンボール箱を引き出し
中にある、卒業アルバムを取り出した。
昔の思い出に浸りたくなったのだ。
唯は一度アルバムをダンボール箱に戻して
それを抱えてリビングへ運んだ。
澪と一緒に思い出を語りたいと考えたからだった。
澪「唯、なにそれ?」
リビングでテレビを見ていた澪が
唯の持つダンボール箱に目を止めて言った。
ダンボール箱の中には
卒業アルバムの他
合宿の写真
バンドスコア
歌詞のコピー
デモテープ
学際ライブのDVD
そして、唯が付けていた日記が入っている。
澪「懐かしいなぁ、ちゃんと持ってたんだ」
澪は目を輝かせて言った。
唯「ねぇ見て見て。これ」
唯は合宿の写真の中から
澪の寝ている姿を写した写真を取り出した。
澪「な、何で唯が持ってるんだよ」
唯「え?皆持ってるはずだよ」
澪「ほ、本当かっ!律のやつ、誰にも渡すなって言っておいたのに」
唯「澪ちゃん、これ」
唯はまた別の写真を澪に見せる。
悲しげな表情ではなかった
懐かしそうな、暖かい表情だった。
唯「かわいいね」
澪「本当だな」
それからは澪と二人で思い出話に花を咲かせた。
ライブ映像も繰り返し見た。
懐かしい、あの頃を思い返しながら。
ずいぶんお喋りに夢中になっていたのか
時刻は夜の11時を過ぎていた。
澪「私、お風呂入ってくるよ」
澪はそう言って立ち上がり
リビングを出て行った。
唯はダンボール箱の中を覗く。
日記が目に留まり、取り出してみた。
日記は全部で4冊あった。
普通の大学ノート、30枚60ページ
そのノートに1ページにつき4,5日分の日記を書いていた。
毎日書いてはいても内容はそれほど多くは無いのだろう
3年弱の記録がたったの4冊に収まってしまうのだ。
何となく、最後のページを開いた。
──今日は卒業式。
初めにそう書いてあった。
そう言えば、この日記を書き始めた理由。
唯は自分が記憶の途切れる症状を持っていたことを思い出した。
この日記の最後に書かれている、卒業式の日を境に症状は無くなったのだ。
日記にもその日の症状が書かれていた。
<部室を眺めていたら、りっちゃんが声をかけてきた。
みんなで写真を撮ろうと言ってくれて、とてもうれしかった。
私が、「うん」と言って頷くと、またあの症状がでた。>
そう、そこで記憶は一度途切れたのだ。
日記を見つめているとあの時の光景がありありと浮かんでくる。
声が聞こえた。
>>87
──唯、唯っ。どうかしたのか?
目の前に律の顔があった。
>>89
壁、テーブル、テレビ、さっきと変わらない
アパートの一室、リビングに唯は居る。
では今の光景はなんだったのだろうか。
夢?
夢ならそれでもいい。
昔の律に会いたいと思う気持ちが唯の心の中で膨らむ。
もう一度、さっきの──あの時の律の笑顔を見れるのなら。
唯は日記に視線を落とす。
目を凝らすと文字が蠢いている。
次第に周囲の風景が歪み始め
日記に吸い込まれるような感覚がした。
一瞬、眩い光が唯を包み込んだ。
唯の目の前に広がる光景は
忘れもしない、あの卒業式の日。
カメラを携えた律が──あの時の律が目の前に居た。
律「唯?どうしたんだ?」
律の笑顔を、律の声を聞いて
唯の心の中には様々な思いが去来した。
──何か言わなきゃ。
──何か伝えたいことがあったはずだ。
──そうだっ!
唯「りっちゃん」
律「ん?なんだよ、唯」
唯「卒業しても、一緒にやろうよっ。バンドっ!」
律は笑って大きく頷く。
律「ああっ。やってやるさっ!」
──ありがとう。
声に出したつもりだったが、届かなかったようだ。
唯は再度光に呑まれた。
一時の幸せな夢だったのだろうか。
日記を仕舞い、先ほどの律の笑顔を頭に思い描く。
自然に笑みが零れた。
暫くして玄関の扉が開く音が聞こえた。
唯は不思議に思って玄関へ向かう。
澪は先ほど浴室へ行ったはずだ。
ここへ訪ねてくるのは、あとは憂ぐらいしかいない。
唯が廊下の角から玄関を覗くと
澪が居た。
唯「あれ?澪ちゃんさっきお風呂って・・・」
澪「ん?なんのことだ?私は今帰ってきたところだけど」
澪「それよりさ。ライブのチケット完売したってさ」
突如、唯の頭の中を鈍い痛みが奔った。
それは一瞬の事だったが
次の瞬間には唯の知らない光景が頭を駆け巡る。
──これは・・・記憶?
唯は理解した。
一瞬のうちに頭の中に詰め込まれた記憶。
その記憶は唯があの日律に掛けた言葉によって生まれた記憶だ。
変わったのだ。あの日からの未来が、そして現在が、世界が。
事実、唯は過去に遡っていたのだった。
卒業式の日に律に掛けた言葉。
一緒にバンドをしよう、その言葉が未来への道筋を変えた。
卒業してからは頻繁に律と連絡を取り合った。
澪は音楽スタジオを借りてのバンド練習を提案した。
律は友達の知り合いが経営するライブハウスでバイトをしてスタジオ代を稼ぎ
唯と澪もそれぞれ空いた時間をバイトに費やした。
ある日、律は店長に無理を言って
一度だけ只でライブハウスの舞台を貸してくれるように頼んだ。
しつこく懇願する律に折れた店長は、
特別、定休日に演奏することを許可した。
本来定休日ということもあり人は疎らだったが
3人は最高の演奏を披露した。
これが切っ掛けとなり何人かのファンが付き
その後のライブのチケットの売り上げも好調で
思わぬ収益にも繋がった。
3人はそのお金を貯めて
いつか自作のCDを作ろうなどと夢を抱いていた。
澪「唯、鼻血・・・」
澪は青ざめた表情で唯を見ていた。
唯は自分の鼻の下に手をやり指先で触れる。
触れた指を見ると赤い血が付着していた。
唯は急いでリビングへと向かうとティッシュで鼻を拭いた。
洗面所へ行って鏡で顔を確認してリビングへ戻ると
澪は座ってテレビを見ていた。
唯「何とも無いから。安心して」
澪「そうか、なんかあったのかと思ってびっくりしたぞ」
唯「それで、さっきの話」
澪「ああ、ライブのチケットな。
律が友達やバイト先の客に頼んでさ、完売したってさっき連絡があったんだ」
唯「りっちゃん、やるねぇ」
澪「ホント、律のお陰だよな」
唯は記憶の中にある律の顔を思い浮かべる。
ライブハウスでバイトしていた律。
そこの舞台で勢いよくドラムを叩く律の顔を。
澪「唯は和と憂ちゃんにチケット渡したのか?」
唯「うん。二人とも来れるってさ」
紬は、何をしているのだろうか。
唯は記憶の中を探るが
紬に関する記憶は浮かんでこなかった。
澪「さあな、連絡も取れないしな」
唯「やっぱり駄目なのかな」
高校の頃の軽音部のメンバーが揃うことはもう叶わないのだろうか
唯はダンボール箱を抱えて自室へ入って行った。
唯は、ベッドの上に腰掛けて日記の項を捲る。
変えられたんだ。
そう、未来を、現在を変えられるんだ。
唯はもう一度あの頃に戻って
今度は紬を今のバンドへ誘おうと考えていた。
──今日はむぎちゃんと一緒に
その文が目に飛び込んできた。
この時ならと、唯は日記を見つめる。
暫く見つめていたが、先ほどのような感覚は得られなかった。
さっきのは夢ではなかったはずだ。
唯はもう一度意識を集中させて文字を見る。
しかし、幾ら見つめていても何も起こらなかった。
唯は諦めた様に日記を閉じると
ダンボール箱の中に仕舞った。
律「いよっ」
紛れも無い律の顔。
変わらない元気で明るい笑顔。
唯「りっちゃ?ん」
唯は思わず律に抱きついた。
律「おいおい、どうしたんだよ」
記憶の中にはあっても、いざ本人を前にすると
感動は抑え切れなかった。
唯は懐かしさと律の暖かさに触れ今にも泣き出しそうになっていた。
律「なんだよ。澪が相手してくれなくて寂しかったのか?」
澪「ばかっ。私はちゃんと唯の面倒をみてるんだぞ」
律「ほほう、面倒なのか・・・可哀想になぁ唯?」
澪「ち、違うっ。ああもうっ馬鹿律っ!」
澪は怒って外方を向いた。
唯「さっき連絡があって、もうすぐ来るって」
律「そうか。二人は私達の演奏聞くの初めてだっけ?」
唯「うん。二人とも楽しみにしてるって」
律「憂ちゃんは唯しか見ないだろうけどな」
唯「そうかな?」
律「そうだよ。見せてやれよ、唯のギターをさ」
唯「うん」
唯は目を輝かせて頷いた。
3人は一通り、リハーサルを終えると
到着した和と憂を出迎えた。
和「お待たせ」
憂「みなさん、こんばんは」
唯「和ちゃん、久しぶりっ」
和「何言ってんのよ。この前あったばかりじゃない」
唯「そうだっけ?」
ライブのチケットを手渡したのだった。
和「そうよ。それにしても、随分立派になったものね。
まさか本格的にバンド活動するなんて思っても見なかったもの」
澪「まあ、それも律のお陰ではあるんだけどな」
澪は照れくさそうに言った。
律「なんか煮え切らない言い方だな。
ホントのところ私は唯のお陰だと思ってるぞ」
澪「唯が何か言ったのか?」
律「唯、覚えてるだろ?卒業式の日。
私に言ってくれたよな。一緒にバンドしようって」
唯は頷く。
和「へぇ、唯がねぇ」
律「それでさ、私も決意できたんだよ。やってやろうってさ」
唯「じゃあ夢は武道館っ?」
律「夢は大きく、だな」
澪「それも悪くないな」
澪「そろそろ本番だな」
律「緊張してんのか?」
澪「もう、慣れた」
律「なんだよ、詰まらないな。
さっきの唯みたいに私に抱きついてきてもいいんだぞぉ」
憂「お姉ちゃん、そんなことを・・・?」
和「相変わらず甘えてるのね」
唯「だってぇ?」
唯が照れ笑いを浮かべると
皆の表情も和やかになる。
律「いくか」
唯と澪が頷く。
憂「お姉ちゃん、がんばって」
和「みんな、がんばってね」
3人は振り返って和と憂に
力強い眼差しを向けて大きく頷いた。
チケットが完売したこともあり客の入りは申し分なく
ライブハウスの店長も満足気な表情だった。
ライブ終了後は5人で祝杯を挙げようと云う事になった。
ライブの成功と、武道館への夢を願って。
唯は居酒屋と云う場所に初めて足を踏み入れて戸惑っていたが
和は慣れた様子で酒と肴を注文していた。
話しによれば大学の付き合いでよく立ち寄るそうなのだ。
唯「女の子同士で?」
和「大学の教授がね、学生達と飲みたがるのよ」
和も大変なのだと唯は思った。
澪はビールを一杯飲んだだけだったが
酔いが回って律に猫なで声で甘えていた。
澪「りぃつぅ?だっこぉ?」
律「誰だよ澪にこんなに酒飲ましたのは」
憂「ビール一杯しか飲んでませんでしたよ」
律「うはぁ。こいつこんなに酒癖悪かったのか?」
唯「澪ちゃん、今までお酒なんて飲まなかったよ」
憂「私がもらってきます」
憂はそう言って立ち上がると座敷を出て行った。
澪「りぃ?つぅ?」
律「ああっもう、気色悪いぞ澪っ」
途端に澪は泣き出してしまった。
律「あぁ悪かった悪かったよ。だっこな」
律は仕方なさそうに澪を抱くと
澪は安心したのかそのまま眠ってしまった。
律「ちょ・・・重い・・・」
和は座布団を二枚重ねると
律から澪を引き離してそこに頭を乗せて寝かした。
律「和、慣れてるんだな」
和「まぁね」
和はそう言って溜息を吐いた。
澪の様子を見て必要ないのだと思ったのだろう、
コップをテーブルの上に置くと
唯の隣に座った。
憂「お姉ちゃんはお酒大丈夫なの?」
唯「私もそんなに飲んだこと無いけど、今日くらいはね」
唯はそう言って日本酒をあおった。
律「唯、お前は酒強いんだな」
唯「りっちゃんも飲みなよぉ」
唯は律のコップに日本酒を注いでいく。
律「まぁ、今日くらいはな」
律も日本酒の注がれたコップを傾ける。
律「和は何飲んでるんだ?」
和は茶色い液体の注がれたグラスを手にして言った。
和「ウィスキー」
律は氷の入ったそのグラスの中身をみて水割りか何かだろうと思っていたが
和は、ロックよ──と言った。
和「唯はまだまだ子供よね」
唯「そんなこと無いよ。私だって」
唯は店員を呼ぶと和と同じものを注文した。
憂「お姉ちゃん、無理しないで」
唯はこの時ばかりは憂の言葉に耳を傾けることはなかった。
憂も口では言っているものの
先ほどの澪の姿を唯に重ねて
もう少し酔って欲しいと密かに願っていた。
唯は運ばれてきたウィスキーをちびちびと飲みながら
昔の思い出話に耳を傾けていた。
和「そう云えば、学際ライブ。あの時は凄かったわよね」
律「あぁ、みんな大泣きしてたな」
憂「私も感動しました」
和「でも、よく軽音部再開する気になったわよね。
あの頃はすっかり元通りだと思ってたけど、
多分、もう演奏は聴けないんじゃないかなって」
律「まぁ、梓のこともあったしな」
今ではすっかり懐かしい思い出となって梓はみんなの心の中に居る。
暗い顔をするどころか、皆笑顔で梓のことを口にしていた。
律「確かあの時──そうだ、唯が私達に何か言ったんじゃなかったか?」
律は唯の顔を見る。
唯は、あの記憶の途切れた日のことを思い出した。
律が軽音部に皆を集めて今後のことを話し合おうと言ったのだ。
そこで──そうだ、私の記憶の無い間に・・・。
唯「私なんて言ったんだっけ?」
律「私に聞くなよ。唯が言ったんだろ?」
律が言うからにはそうなのだろう
しかし、唯には記憶が無い。
そのことをここで口にするのは駄目な気がして適当に誤魔化した。
唯「わすれちゃったなぁ」
律「唯らしいよホント」
和「そうね。そう、あれ以来かしら。みんな吹っ切れたみたいだった」
律「かもな、私もあれから梓の事に正面から向き合えるようになった気がする」
和「いいことね。あの子もきっとそんな貴女達に惹かれたんだと思うわ」
和「だって・・・天国に届くぐらい・・・いい演奏だったもの・・・」
唯「和ちゃん?」
和はテーブルに顔を伏せて寝息を立てていた。
顔色をまったく変えずにいたためわからなかったが
相当酔っていたらしい。
律「そろそろ帰るか」
最初に酔いつぶれて寝てしまった澪を律が
和を唯と憂で送ることにした。
唯「りっちゃん、これ鍵」
唯は律にアパートの鍵を渡そうとしたが
律は首を振った。
律「私のアパートに連れてくよ、近いしな」
唯は親指を立てて、がんばってねと合図する。
律「ばかっ酔いつぶれてる奴になにもしねぇ・・・って私は別にそんなんじゃ」
どぎまぎする律に唯は、冗談だよ──と笑って言った。
澪を抱えて行くわけにもいかず、結局タクシーを呼んだ。
律はタクシーの後部座席に澪を押し込むと
またな、と手を振ってドアを閉めた。
律と澪の乗るタクシーを見送ってから
唯達もタクシーを呼んで和を自宅まで送り届けると
憂とはその場で別れ、
唯は同じタクシーで帰路に着いた。
今日は休日だと云うことを思い出しもう一度眠りに着いた。
夢なのか昨日の記憶を思い返しているだけなのか
律の言葉が唯の頭の中を巡っていた。
──唯が私達に何か言ったんじゃなかったか?
──そうだ、
──確かあの時
あの時?
そう、記憶の途切れたあの時だ。
唯の頭の中で何かが形作ろうとしていた。
──日記。
──記憶の途切れる症状。
そうだ、卒業式の日。
過去に戻れたあの時も記憶が途切れた時だった。
ダンボール箱から日記を取り出した。
項を捲って日付を追う。
唯「あった」
──軽音部復活!
大きな文字で書き記してあった。
その題名の下には軽音部復活の喜びと
記憶の途切れた症状が書いてある。
唯は大きく息を吸ってから日記を凝視する。
文字が蠢き風景が歪む
日記に吸い込まれる感覚の後
眩い光に呑み込まれる。
軽音部の部室、律、澪、紬の3人が唯に注目していた。
唯の言葉を待っているのだろう。
唯は紬に顔を向ける。
唯「むぎちゃん、理由を聞かせて欲しいの」
紬は顔を伏せて言った。
紬「だって・・・辛いの・・・ここに来ると・・・」
紬「さっきね、紅茶を淹れようとして・・・そしたら・・・」
紬「気づいたら、5人分淹れてたの」
梓の分なのだろう。
紬「居ないってわかってる。でも、もし梓ちゃんが居たらとも考えるの」
紬「でも、やっぱり居ないのよっ。居ないの・・・居て欲しいのに・・・居ないの・・・」
唯はこの時初めて紬の苦しみに気がついた。
多分、同年代の中では紬が一番幼いのだ。
お嬢様育ちで、無垢な心のまま生きてきたのだろう。
それは、周りの大人たちが紬に悪い影響を与えるものを
徹底的に排除してきた結果でもあったのだ。
紬の怖がるもの、不安にさせるもの、苦しみを与えるもの
時として人の成長に欠かせないものさえ奪ってきたに違いない。
高校に入ってからは積極的に新しいことに挑戦していた。
辛いことがあるかも知れないと思いながらも、寧ろそれを望んでいたのだ。
今まで触れる事の無かった、傷つき挫折する経験を心のどこかで欲していた。
アルバイトを始めたのも同じ理由だったのかもしれない。
成長を望んでいてのことだったのだ。
しかし、梓の死は紬の心を抉りとるほどの衝撃だった。
幼い頃に経験する身近な者の死とはまったく異なったものだ。
死とは何かを理解する以前なら、
悲しみよりも何故居なくなったのかと疑問を抱くことだろう。
紬は違った。
死の概念を持ちつつ心が未熟なまま人の死に触れ
凄惨な事故現場を目撃したのだ。
梓の死を理解しながらも心がそれを拒絶する。
唯も、律も、澪も同じ気持ちではあった。
けれど、紬には背負いきれない現実だった。
気を抜けば壊れてしまうほどの脆い心だったのだ。
澪「唯・・・もう、いいだろ・・・」
澪は紬の様子を見て自身も胸を痛めているのだろう
悲しみを湛えた瞳を唯に向ける。
しかし、唯は首を横に振った。
律「唯っ!」
唯「聞いてッ!」
唯「今はその気持ちが無いなんて言わないよ。だから──」
唯「みんな自身の為に演奏して欲しいの」
律「どういうことだよ」
唯「みんなはこのまま軽音部が無くなっていいと思ってるの?」
唯「何か遣り残したことがあると思ってここに集まったんじゃないの?」
唯は涙を浮かべる紬に向けて静かに語った。
唯「むぎちゃん。むぎちゃんはこのままでいいの?」
唯「このまま軽音部が無くなって、それであずにゃんの事忘れちゃっていいの?」
唯「乗り越えなきゃいけないことじゃないのかな。
受け入れて、大切な思い出としてしまっておくために
何かしなきゃいけないんじゃないのかな」
紬「梓ちゃんの為に・・・?でも、何をすればいいの?」
唯「あずにゃんが、軽音部に入部を決めた理由覚えてる?
先輩達の演奏に惹かれて──そう言ったんだよ」
紬「私達の・・・演奏・・・」
紬「それで、梓ちゃんのこと・・・忘れるの・・・?」
唯は首を横に振って答えた。
唯「違うよ。思い出にするの。あずにゃんが確かに、ここに──軽音部に居たことを。
そのために、あずにゃんの為に最後に最高の演奏をするの」
唯「あずにゃんの事を思って。あずにゃんの笑顔を願って」
そう、唯は最後の学際ライブまで梓の顔を思い浮かべることが出来なかった。
思い浮かべようとすると、あの事故の、血に塗れた梓の顔がちらついた。
唯は梓の笑顔を取り戻すために、梓の為にギターを弾き鳴らしたのだ。
唯「約束するよ。最後の学園祭でのライブが終わったら──」
唯「きっと、私達の中に居るあずにゃんは笑ってくれるから。
最高の笑顔を見せてくれるよ。絶対!」
紬は涙を浮かべながらも、笑顔で──確かに頷いた。
紬「はい」
律が嬉しそうな表情で机に手を付いて身を乗り出した。
>>71
結局、何も変わらなかった。
ただ紬が自分達と連絡を絶った理由がなんとなく判った気がした。
軽音部のことも梓のことも楽しい思い出として仕舞ったのだ。
紬には元よりバンドへの執着はそれほど無かったはずだ。
寧ろ、唯の方が軽音部への執着が強かったため
何時までも紬のことを思っていたのだった。
紬は、最後の学際ライブから新しい大きな一歩を踏み出し
自立と成長を遂げた。
自らが進むべき道を見つけ歩んでいるのだろう
もしかしたら、何時までも過去に固執する唯を思って
連絡を絶ったのかもしれない。
そう思うと納得ができた。
それでも唯には未だに軽音部の皆で演奏したいと願う思いがあった。
こんなわがままは紬も聞いてはくれないだろうと諦めもしていたが
日記を捲りながら、もしかしたらと云う気持ちが膨らんでいった。
──最高の演奏!?
そうだ、あの時も記憶が途切れていた。
記憶の無い間の唯の演奏を、皆は凄いと言っていた。
もう一度だけ、これで最後にしようと
唯は日記を見つめた。
唯の左手はギターの弦を押さえ
右手にはピックを持ち
今まさに振り下ろさんとしている瞬間だった。
「ふわふわ時間」
忘れもしないあの曲だ。
体に染み付いて一生落ちることはないだろう。
唯の指が、手が、腕が、体が躍る。
自由に──今までより、もっと自由に
唯はギターを弾き鳴らす。
聞こえる。
澪のベースの音
律のドラムの音
紬のキーボードの音
懐かしい、梓のギターの音が。
こういうのを才能って言うんだな
とても真似できない
梓も唯に視線を送ったような気がした。
楽しそうだった。
嬉しそうにギターを弾く梓の笑顔が眩しかった。
守りたい──取り戻したい。
唯は決意した。
梓の笑顔を守る決意を
梓に、本当に本当の、本物の笑顔を取り戻してあげたいと。
──助けてあげるからね。あずにゃん。
唯は梓を救う決意を胸に最後まで演奏を続けた。
最初で最後、最高の演奏を──。
>>49
──あずにゃん
そう題した日記の項は涙に濡れて縮れていた。
酷く読みにくい文字で所々擦れている。
梓が事故にあった時の日記だ。
唯はあの時の記憶を思い起こす。
自分はどこに居たのか、梓はどこに居たのか
クラクションが鳴ったとき、視界に車は無かった。
間に合うだろうか──間に合わせてみせる。
唯は全身に力を込めて日記を見つめた。
眩い光に包まれた瞬間、既に唯は足を上げていた。
>>51
鳴り響くクラクションの中
梓は未だに笑みを浮かべて手を振っていた。
唯は走った。
梓に向かって。
唯は視界の隅に迫り来るトラックを捉えた。
──間に合えっ!
唯は必死に脚を動かし梓の許へと駆けていく。
梓はきょとんとした表情で唯を見た後
目前に迫るトラックに目を移し恐怖に顔を引き攣らせた。
──今、助けるよっ!
唯は梓に飛び掛る様に跳躍し
手を伸ばして、梓を歩道へと突き飛ばした。
──やった。
次の瞬間に衝撃を感じ、唯の体は宙を舞った。
一瞬の事だったが随分長い時間に思えた。
唯は地面に叩き付けられると
自らの左腕が黒い塊に轢き潰される瞬間を目撃した。
肉が潰れ皮膚が裂ける。
裂け目からは血と赤い小さな肉片が飛び散り
骨の砕ける音が体を伝わって聞こえた。
黒い塊が過ぎ去り束の間、
同じ黒い塊が、
唯の、潰され轢き千切られた左腕を巻き込んで行った。
甲高いブレーキ音と
ガラスの割れる音、
鉄板が叩き付けられた様な鈍い音を聞いた。
アスファルトには黒いブレーキ痕と赤い血の跡
それを辿ると黒い大きなタイヤが
そのタイヤとトラックと思しき車体の隙間に
赤く染まった細い人間の腕がぶら下がっていた。
唯は光に包まれた。
柔らかな感触を背中に感じる。
唯はベッドの上で寝ているらしいことが判った。
鈍い頭痛が唯を襲う。
一瞬にして新しい記憶が唯の脳に詰め込まれて行く。
変わったのだ。あの時からの未来が、現在が。
いや、捻じ曲げてしまったのかもしれない
より残酷な未来へと。
和「唯、起きたの?って鼻血っ・・・」
和はティッシュを手に取り唯の鼻から滴る血を拭った。
唯「ここは・・・」
唯は記憶を探る。
唯は事故により左腕切断、下半身不随の重症を負った。
唯の左腕は二の腕の辺りから下が無かった。
期末試験などは病室で受けることができ
進級には問題が無かった。
大学への進学も多少の不安はあったものの
和の助けを借りて、和と同じ大学に入学、
同じアパートの一室で共同生活を送っていた。
唯は残された右腕を見つめる。
自分の体重を支えるために
トレーニングに励んだ結果の隆起した筋肉。
視線を足先に向ける。
薄い掛け布団に浮かぶ細い脚
何ともアンバランスな体だ。
唯は梓の記憶を探った。
記憶の中の梓は生きている。
昨年卒業した梓は唯や和と同じ大学に進学して
同じアパートの隣へと越してきたのだった。
理由は判っていた。
唯の介助をするためだ。
毎日隣からこの部屋へ通って
唯の為に色々と世話をしてくれていた。
唯は一人でも起き上がることが出来るし
トイレも、シャワーを浴びることも出来る。
電動車椅子を使って大学へ行き、買い物だって出来るのだ。
唯は梓に心配は要らないと言っていたが
梓は事故の原因が自分にあるのだと思い込み、
唯の体が不自由になってしまったことに
罪悪感を覚え自責の念を感じていた。
和「唯、どうかしたの?」
唯「なんでもない、なんでも」
和「そう?ならいいけど。
実は今日、憂ちゃんが来てくれてるのよ」
唯「本当?今何してるの?」
和「唯の為に夕食作ってくれてる」
唯「あずにゃんも?」
和「ええ、梓ちゃんも一緒よ」
唯は上体を起こすと掛け布団を取り払い
右手を使って右脚と左脚をそれぞれベッドから下ろすと
ベッドの脇に置いてある車椅子に手を掛け体を持ち上げる。
右腕で体を支えると、器用に車椅子に腰を移した。
唯「いこっか」
和は頷くと唯の乗った車椅子を押して部屋を出た。
テーブルの上には白い蒸気を漂わせた料理が並んでいる。
憂と梓は椅子に腰掛け、唯が来るのを待っていたらしかった。
二人は唯の顔を見ると笑顔を向けてきた。
憂「お姉ちゃん、見て。梓ちゃんと一緒に作ったんだよ」
梓「唯先輩の為にがんばっちゃいました」
唯も笑顔で返す。
唯「おいしそう。ありがとう憂、あずにゃん」
唯は梓の隣に車椅子のままテーブルに着くと
和も唯の向かい側の椅子に腰を下ろした。
いただきます──揃って言うと
食卓の料理に箸を運んだ。
梓は唯の為に小皿に料理を盛り付け
スプーンで掬うと、それを唯へ向けた。
梓「唯先輩、あ?んしてください」
唯「自分で食べれるってばぁ」
梓「わがまま言わないで下さい。はい、あ?ん」
唯「わがままって・・・」
梓に食べさせてもらった。
梓「美味しいですか?唯先輩」
唯「うん、凄く美味しいよ」
梓は嬉しそうな笑顔を浮かべた。
憂「それ、梓ちゃんが一人で作ったんだよ」
唯「ホント?凄いねあずにゃん」
梓「私だってやれば出来るんですよ」
和「どれ?私も頂こうかしら」
その日の食卓は何時にも益して賑やかだった。
唯は食後の紅茶をすすりながら梓に聞いた。
唯「あずにゃん、今でもギター弾いてるの?」
梓は少し間を置いてから答えた。
梓「いえ、もうやってませんけど」
唯「え?どうしてやめちゃったの?」
梓「それは、その・・・元から親の影響で始めただけですし・・・」
唯「そんなこと無いよ。あずにゃんのギター、私好きだよ」
梓「でも良いんです。特に思い入れがあるわけでも無いですから」
唯にはそうは見えなかった。
──もしかして、私の所為?
口を吐いて出そうになった言葉を飲み込んだ。
唯「私に、聞かせて欲しいな」
そう言って梓の目を見つめると
梓は視線を逸らした。
梓「その内、機会があれば・・・ね」
多分、もう二度と梓はギターを弾くことは無いのだろうと唯は確信した
──私がいる限り。
ならばと、唯はもう一度やり直そうと考えた。
あの事故の日に戻って、今度は梓と自分自身を助けようと──。
唯「和ちゃん、私の日記どこに仕舞ったっけ?」
和「あんた、日記なんて付けてたの?」
憂「多分、お姉ちゃんが引越しするときにダンボール箱に入れて持って行った気もするけど」
唯「憂、悪いけど探してきてくれないかな?」
唯「ごめんね、和ちゃん」
和「いいわよ、唯はゆっくりしてて」
数分後、和が一冊のノートを手にして戻ってきた。
唯「和ちゃん、それだけ・・・?」
和「うん、日記らしいのはこれ一冊しか無かったわ。もちろん、中は見てないから安心して」
唯は愕然とした。
そうだった、事故の後から一度も日記を付けた記憶が無い。
あの事故の記憶を記したものが無ければ過去に戻ることが出来ない。
唯は和に手渡されたノートを捲る。
日記は事故の当日に軽音部の部室で書いた記述を最後に
それ以降は白紙だった。
唯は自分の頭の中にある記憶を必死で探った。
記憶が途切れた時の事を
その状況で事故を回避できるか否かを
日記に記された状況を頼りにして。
──無かった。あの事故を回避できる状況はこの日記には記されていない。
唯は絶望に胸を穿たれた。
──もう、・・・しか無いじゃない。
梓は手伝いますと言って付いて来ようとしたが
あずにゃんのエッチ──などと言うと
顔を赤らめて、勝手にしてください──と怒ったように言い
リビングへ引き返して行った。
──これでいい。
唯は浴室まで車椅子で入り浴槽に溜まったお湯を見つめる。
車椅子から浴槽の淵に体を移すと
右手で右足を持ち上げ湯船に浸け
次に左足を浸すと
手摺りに掴まって体をゆっくりと沈めていく。
水面から顔だけを出して暫く思いを巡らせた。
──きっとこの方が良いに決まっている。
唯は自身の体を醜いと感じることは無かったが
梓がギターを弾かなくなった原因が自分にあることを酷く悔やんだ。
梓はきっと、ギターを弾けなくなった体の唯を傷つけまいと
自身もギターを辞めたのだろう。
──私の所為で
憂も和も唯の助けとなってくれてはいたが
負担になっているのではないかと唯は思っていた。
──みんなに迷惑を・・・。
もう、変える事は出来ない。
自分の我侭が、あるべき未来を捻じ曲げ
行き着いた先には不幸が待ち受けていた。
──ごめんね。みんな・・・。
唯は体を支えていた右手を手摺りから離した。
──さようなら。
顔が湯船に沈み頭が浴槽の底に付いた。
水面を見つめる。
浴室の照明が水面の波に反射してきらきらと輝いていた。
何か黒い影が光を遮った。
水面から腕が差し込まれ唯の方へ伸びてくる。
小さな手が唯の体を確りと掴み
細い腕で唯を湯船から引き上げた。
梓「唯先輩っ!大丈夫ですかっ!?」
梓は涙を流して叫んでいた。
多分、唯が何をしようとしていたのか判ったのだろう。
梓の声を聞きつけて憂と和も浴室へと駆けつけた。
二人とも一目見て状況を飲み込んだ。
ごめんなさい──と誰かが言う。
馬鹿ね──と誰かが呟く。
死んじゃだめ──と誰かが叱ってくれた。
唯は3人に抱きしめられて漸く理解した。
唯のしようとしていた行為が何を齎すのか。
誰も喜ばない
誰も救えない、救わない、救われない
誰かを、みんなを傷つけるだけなのだと。
唯は大粒の涙を流し
ごめんね、ごめんね、と泣きながら謝った。
唯は自室に戻ると暫く一人で考えていた。
死ぬことではなく、元に戻すことを
今の状況から皆を救い出す方法を
ふと唯の中にある考えが浮かんだ。
──もし、私が軽音部に居なかったら
──もし、軽音部そのものが無かったとしたら
梓は入部せずに事故に遭う事も無いだろう。
では、他の皆はどうなるのだろうか?
軽音部のバンド活動が与えた影響は大きい
それは、律にも紬にも言えることだった。
しかし、長い時間を掛ければ決して取り戻せないものではない。
律は、どんな状況でも上手く立ち回る事ができるだろう。
別の世界でクスリに手を出したのも
もとより、唯が澪との時間を奪ったのが要因だった。
紬は、高校入学時から本人に自立と成長を望む意思があった。
軽音部とは別の環境でも一歩ずつ前進していくはずだ。
平凡な、詰まらない毎日からでも紬にとっては新しい発見があるだろう。
唯は自分自身に目を向ける。
軽音部が無かったら、自分はどうなってしまうのだろうか
ただ流されるような毎日を送るのだろうか
別のことに心を惹かれてそれに打ち込む日々を送るのだろうか
唯は、自分を信じることしかできなかった。
──どんな結果になろうとも私は、私だ。
それを恥じたり悔やむことはしないと心に誓った。
唯は日記を開いた。
見慣れた、懐かしい場所だった。
唯は炬燵に当っている。
咄嗟に立ち上がるとキッチンへと足を向けた。
──何をすればいいのだろうか?
──そうだ、軽音部を辞めるんだ。
──でも、どうやって?
唯の手はシンクに置かれた包丁を掴んでいた。
──壊すんだ──何を?
──ギターだ。
──ギー太を・・・壊すんだ。
>>13
唯は扉の向こう側にいるであろう和に声を掛けた。
唯「和ちゃん、いるんでしょ?」
唯のことが心配だったのだろう
和は扉のすぐ前で聞き耳を立てていた。
和「ばれてた?」
唯「和ちゃんは優しいから」
和「ありがとう。それで、私に何か頼みごと?」
唯「うん。1年の時の学園祭ライブの映像を見せて欲しいの」
和「ごめん、唯。唯が辛い思いをするだけだからって、
憂ちゃんと梓ちゃんに止められてるの」
唯「どうしても?」
和「二人との約束よ。そう簡単に破るわけにはいかないわ」
和「ただ、何で急にそんなこと言い出すのか
納得できる理由を聞かせてくれたら見せてあげてもいいわよ」
唯「わかった。全部話すよ」
高校の時から表れだした記憶の途切れる症状を
その時から付け始めた日記のことを
その日記の記述を見ると記憶の途切れていた間の過去へ戻れることを
その過去から未来を変えられることを
事故で死ぬはずだった梓を救うために自分が犠牲になったことも話した。
和は信じられないと云った表情をしていた。
当たり前だろうと唯も思う。
唯は日記の一番最初のページを捲ると和に言った。
唯「和ちゃん、私の掌見てて」
唯はそう言って和に掌を向ける。
和が頷いたのを確認すると
唯は日記の記述を見つめる。
一番最初、日記に書いた美術の授業での出来事。
唯がきょろきょろと周りを見回していると
教師が絵を描くようにと唯を注意した。
唯は、素早く適当に絵を描き上げて
それを提出するために立ち上がる。
唯は教卓に置いてある彫刻刀に目を留めた。
教師の目を盗んで彫刻刀を掴み上げ
右手の掌に深く突き刺した。
光に包まれると和の声が聞こえた。
和「唯・・・手・・・」
驚いた表情で唯の手を見つめていた。
唯の手にはくっきりと彫刻刀で刺した傷跡が残っていた。
和にとっては突然傷跡が浮かび上がったようにしか見えなかっただろう。
それを見て唯の言葉を信じたのか
学園祭ライブのDVDを持ってくると言って部屋を出て行った。
一人静かな部屋。
唯は遣り残したことは全て済ませようと思い
日記の項を捲る。
──あずにゃんとデート
唯は梓と手を繋ぎ静かな通りを歩いていた。
唯が足を止めると梓も立ち止まって唯に顔を向けてきた。
唯「あずにゃん、今までありがとう」
梓「なんですか?お別れみたいなこと言って」
唯「うん。お別れを言いに来たの」
梓は冗談だとでも思ったのだろう
驚きと困惑の表情を浮かべた。
梓「なに、言ってるんですか?」
唯「あずにゃんは、憂から私の病気の事聞いてる?」
梓「少しですけど。憂は唯先輩の記憶が時々無くなるって・・・」
唯「そう、その間はね未来から来た私が体を乗っ取るの」
唯はわざと冗談めかせて言った。
梓も信じる事は無く笑いながら言った。
梓「そんな話信じませんよ」
唯「うん、信じてくれなくていいの」
唯「今日は、今のあずにゃんにお別れを言いに来ただけだから」
あずにゃんに不思議そうな顔を向けると思うけど
心配しないで良いよって言ってあげて」
梓が唯の言葉を信じたかどうかは判らなかった。
ただ、唯を真剣な顔で見つめて唯の言葉に耳を傾けていた。
唯「それでね、あずにゃん。
どうしても今のあずにゃんに伝えたいことがあるの」
唯「私の時代──未来のあずにゃんにこんなこと言うと悲しむと思うから
今のあずにゃんに言うんだけど」
唯「私ね、あずにゃんの弾くギターが大好きだよ。
だから、ギター弾き続けてね」
唯「あずにゃんは可愛くて、優しくて、偶に厳しいけど
何時も私を助けてくれた」
唯「すっごく感謝してる。ありがとう。ごめんね。それから──」
唯「あずにゃんのこと大好きだよっ」
梓「嘘・・・ですよね。そんなこと言ってお別れだなんて・・・卑怯ですよ・・・」
唯「あずにゃん。さようなら──」
梓「嫌ですっ!嫌ですよ。私はまだ何も言ってませんっ!」
梓「唯先輩ばっかりずるいですっ。自分の思いだけ伝えて・・・。私も、私だって──」
梓の頬に一筋の涙が伝う。
梓は唯の肩に腕を回すと背伸びをして
唯の唇にキスをした。
──唯先輩が大好きです
梓の思いは確かに唯へと伝わった。
>>40
梓の柔らかな唇の感触が残っている。
──初めてのキスは涙の味がした
唯は自分が涙を流していることに気づいた。
幸せな感情が液体となって頬を濡らす。
最後にみんなの顔を見よう。
唯は日記の最後の項を開いた。
軽音部の部室にはみんなが居た。
今まで取り戻したいと願っていた、あの頃のみんなが
──でも、ごめんね。私は戻れない。
唯はこれから壊そうとしているのだ。
今ここにある風景を
今まで築き上げた関係を
唯の愛した軽音部を
好きで仕方ないものを、ずっと好きで居たいから
一番守りたいものを、守るために、壊すのだ。
──澪ちゃん、覚えてる?二人での路上演奏、楽しかったよ。
──りっちゃん、澪ちゃんを支えてあげてね。澪ちゃん寂しがり屋さんだからね。
──むぎちゃん、私がどんな道を選んでも生き方を変えなかったね。一番真っ直ぐに生きてたよ。
──あずにゃん、大好きだよ。
──みんな、本当にありがとう。
>>43
和「唯、泣いてるの?」
唯「うん」
和「私に出来ることある?」
唯「だっこ。して欲しいな」
和「ホント甘えん坊さんなんだから」
和は唯をそっと抱きしめた。
唯「和ちゃん」
和「なに?」
唯「私達、ずっと友達だよね」
和「当たり前でしょ。死ぬまでずっと友達よ」
もう、何も怖くなかった。
唯は暫く一人にして欲しいといって和には部屋から出て行ってもらった。
唯は再生ボタンを押す。
初めての学園祭ライブ。
そして、初めてあの症状が表れた時でもあった。
確信はあった。
記憶の無くなった記憶と、記録さえあれば過去へと遡ることが出来るのだと。
演奏が終盤に差し掛かるとテレビの画面が歪み始めた。
映像は演奏の終了と同時に止まり、唯は画面へと吸い込まれる。
※
歓声が唯の鼓膜を震わせた。
講堂の舞台の上、あの懐かしく、達成感を伴った感情が唯の胸の裡を揺さぶった。
この清々しい気分を何時までも味わって居たくなる。
──今しかないんだ。これが最後のチャンスなんだ。
とっくに決意は固まっていた。
躊躇う必要は無い。
不安も恐怖も今は感じない。
唯はストラップを肩から外すと
ネックを両手で握り締め
ギターを大きく振り上げる。
──ごめんね、ギー太。ありがとう、そして──さようなら。
勢い良く壇上に叩き付けた。
澪は、矢張り音楽への道を選んだ。
音大へ進学し律と共に、新しいメンバーを加えバンド活動をしているらしい。
律は、以外にも澪と同じ大学へ進学して
一緒にアパートを借りて共同生活、いや同棲しているのだった。
紬は、生き方を変えなかった。
本当に芯の強い女の子なのだと唯は改めて感心した。
唯は──唯は和と同じ大学へ進学した。
あれ以来、ギターには触れていない。
にもかかわらず、「ふわふわ時間」だけは体に染み付いたままで
きっと、今ギターを渡されても完璧に弾きこなせるだろう。
和「唯、本当にこれも燃やしちゃっていいの?」
和はギターケースの中、襤褸襤褸になったギターを見ながら言った。
唯「うん、アルバムも全部」
和「そう。唯、なんか吹っ切れたみたいな顔してるわね」
和は優しく暖かな眼差しを向けてきた。
唯「和ちゃん、前にも同じようなこと言ってなかった?」
梓の近況は憂から伝え聞いた。
梓は卒業後、大学へ進学した。
毎週末には一人、路上で弾き語りをしているらしい。
その演奏は路行く人々の心を打ちTV等でも紹介されたと聞く。
梓は精力的に路上ライブを続け自作のCDを手売りして
自らの思いを込めた音楽を大勢の人に届けていた。
唯「ねぇ、思うんだけどさ」
和「なによ?」
唯「空き地でこんなもの燃やしちゃっていいのかな?」
和「細かいことは・・・って私の台詞じゃないわね」
和「兎に角さ、唯が元気になるなら私は地球が壊れたって気にしないのよ」
唯「和ちゃん、それはちょっと言い過ぎだよ」
唯が笑うと、和も唯の笑顔に釣られて笑う。
二人は声を上げて笑いあった。
小さな空気の流れが、煙の形を大きく変える。
人もまた小さな要因で大きく人生を変えてしまう。
律のように、唯のたった一言でまったく違う人生を歩む運命もある。
紬のように、確固たる意思を持って自らの道を歩み続ける人間もいる。
唯は、様々な人生に──運命に翻弄されていただけなのかもしれない。
唯はその夜夢を見た。
行った事の無い異国の地
巨大観覧車の大きなゴンドラの中で
律と、澪と、紬と、梓と一緒にバンド演奏をしている。
観客は憂と和の二人だけ。
そんなささやかな、あの日、あの時、あの場所で、梓と語った夢を見た。
──幸せな夢を。
おしまい。
思っていたよりも早めに終わりました。
支援してくださった方、読んでくださった方、叱ってくださった方、不快に思われた方
ありがとうございます。そして、ごめんなさい。
思えば、ただけいおんキャラにお酒を飲ませたかっただけだったのかもしれません。
映画をもう一度見ようかなと書きながら思いました。
映画を貶してしまったようでしたら、改めて謝罪いたします。申し訳ありませんでした。
ただ、昔観た「バタフライ・エフェクト」が今でも鮮明に心に留まっていること
好きで仕方ないということをご理解いただければと思います。
こんな文章で、お暇を潰すことが出来たでしょうか。
改めて、感謝の言葉を捧げたいと思います。
ありがとうございました。
文章も読みやすかったしまたそのうち何か書いてくれー
ギー太壊したのは、
軽い騒ぎにしてその日はアイス食べに行かないようにして、
事故おこらないようにするためでおk?
コメント
- SS図書館の名無しさん 2010/11/07 (日) 0:29
-
なんという名作…
シュタゲを思い出した - SS図書館の名無しさん 2010/12/20 (月) 22:44
-
元ネタの映画も好きだけど、このSSはもっと好きだ
初めて読んだ時から半年以上たつけどいまだに忘れられない
たぶんこれからも忘れることはないと思う
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