- 2010-11-06 (土) 12:40
- けいおん!
(3)
電車を降りて、私は自動販売機に向かった。
すこし考えるが、好きなドリンクがない。やっぱり何も買わず、駅を出るべく歩き出す。
唯「あ……」
そこで、私は改札の方から歩いてくるムギちゃんを見つけた。
私が立ち止まると、ムギちゃんも私に気付いたらしく駆けつけてきた。
紬「唯ちゃん! いままで憂ちゃんのところにいたの?」
唯「うん。ムギちゃんもどうしたの? いつもの帰りより遅いけど」
紬「……実は、今まで練習してたのよ。みっちりと」
唯「ええっ?」
ムギちゃんの言葉に私は驚愕した。
唯「練習……ずっと、みっちり? ティータイムもしなかったの?」
紬「……ええ」
自慢じゃないけれど、軽音部と言えば、お茶を飲んでだらけておしゃべりをして、
練習はオマケみたいなものになっていた。
それが一体、どういう変化なんだろうか。
もしかして、新歓ライブがうまくいかなくて、それで。
唯「そういえば、新歓ライブはどうだったの?」
紬「それは……大成功だったんだけれど」
唯「じゃあ、どうして……」
どうして練習するの、と明確に訊きたかったけれど、
それではあまりに本分から外れているような気がしたので、私は自重した。
紬「新入部員が入ったの。中野梓ちゃんっていうんだけど」
唯「中野さん……」
その名をつぶやいた私の背に、強風が吹きつけた。
紬「……ごめんなさい、電車来たから行くわね」
ムギちゃんは私の脇を駆け抜けて、やって来た電車に飛び乗る。
唯「また明日……」
聞こえないことは承知で、私は小さく手を振った。
新入部員が入ったというのに、ムギちゃんはあまり嬉しそうじゃなかった。
中野梓。いったいどんな人間なんだろうか。
私は嫌な予感にさいなまれながら、フラフラ家に帰っていった。
――――
それからしばらく、梅雨の季節が中休みを迎えたころ。
朝、教室に行くと、ムギちゃんが雨の降りそうな外を眺めていた。
ムギちゃんは私に気付くと、どこか物憂げに笑って、水筒から緋色の液体を注いだ。
唯「……ムギちゃん?」
紬「唯ちゃん。……私、本当はね。合唱部に入りたかったの」
唐突に、ムギちゃんはそんな告白をした。
紬「でも、軽音部に入ってよかったって……そう思っていたの」
過去形で進むムギちゃんの話。
水筒の蓋に注がれた紅茶の匂いが鼻をくすぐる。
私は懐かしさと、寂寥がいっぺんに襲ってくるのを感じていた。
特に寂寥は、私を飲み込んで押し潰しそうなくらいに大きく、昏いものだ。
唯「ムギちゃん、ひょっとして」
紬「とても楽しかった筈なのに……今では、もう分からない」
紬「唯ちゃん、私……軽音部にいるのが嫌になっちゃった」
こくり、とムギちゃんが紅茶を飲む。
ムギちゃんは、私に叱ってほしいのかもしれない。
私は確かに、軽音部に固執しているから。
こんな風にいえば、私が引き留めてくれると思っているんだろう。
唯「……中野梓?」
沈黙の後、私は尋ねた。
春からずっと気がかりな、その名前。
紬「……そうなのかしら」
唯「そうとしか思えないよ」
唯「その新入部員、どんな子なの?」
私が言った時、教室の扉がばたんと開けられた。
りっちゃんがくたびれた顔をして、そこに立っていた。
律「おうムギ、いたのか」
紬「りっちゃん……ごめんなさい」
唯「……なに?」
どっかと椅子に腰かけたりっちゃんに、ムギちゃんは紅茶を注いで渡す。
りっちゃんはそれを浴びるように飲み、大きな息を吐きだした。
律「いーさ。私だって同じ気持ちだし……もうやってらんねえ」
おかわりを注いでもらいながら、りっちゃんは吐き棄てた。
唯「……」
律「あ、唯。悪いなーなんか」
紬「りっちゃん。唯ちゃんの気持ちも」
律「わあかってるよ」
ごくごくと喉を鳴らし、二杯目の紅茶を飲み干す。
律「……唯。大事な話がある。今日の放課後、時間あるか?」
無い、と答えたかった。
間違いなく、耳を塞ぎたいような話が待っている。
けれど私が拒絶したって、いずれ結果は聞くことになる。
それならせめて、何もせずに後悔するのだけは避けたかった。
唯「……いいよ。大丈夫」
私はぐっと拳を握りしめ、りっちゃんとムギちゃんの顔を交互に見た。
唯「どっかでお茶しよっか」
――――
放課後、りっちゃんは部活を休みにして、
私とムギちゃんを連れて学校から出た。
梅雨の中休み、濡れた道路を私たちはずんずん歩いていく。
とろとろ歩いていると、見つかる可能性があるということだった。
こじんまりとした喫茶店を見つけ、りっちゃんは周囲を素早く見渡して入店する。
唯「……」
丸テーブルを3人で囲み、私たちはそれぞれ好きなお茶を注文した。
唯「……澪ちゃんは?」
律「澪は、中野の側だから」
りっちゃんは苦々しげに言う。ムギちゃんも目を伏せた。
唯「中野の側って、何?」
紬「……軽音部が分裂してるってことよ。唯ちゃん」
唯「……」
湯気を立てた紅茶が、私の目前に置かれた。
視界が白に染まる。
唯「どうして、そんなことに?」
律「ムギからだいぶ聞いてるみたいだけど……中野梓だ」
唯「だから中野中野って、そいつが一体何なの?」
律「悪い。今、説明する……」
りっちゃんはティーカップに砂糖を落とすと、スプーンでくるくる回し始めた。
赤い海に渦が出来る。りっちゃんはその中心を見つめていた。
律「新入部員が入ったのはよかったんだ。これで軽音部は存続だってな」
その頃の嬉しさを思い出したのか、りっちゃんはくすりと笑う。
律「でも、事情はすぐに変わっちまったかな」
律「中野は、我の強い真面目ちゃんでさ。私たちのティータイムに、まずこう言った」
律「こんなんじゃ駄目だ。ティーセットは撤去すべきだ。ってな」
テーブルに両肘をつき、りっちゃんは崩落しそうな上体をどうにか保っていた。
律「私たちは部員を失えなかったから……従うしかなくってさ」
律「初日から、先輩の面目まるつぶれだよ」
唯「……ムギちゃんは、それでよかったの?」
紬「仕方なかったから。私のわがままで軽音部をなくすわけにはいかないわ」
紬「唯ちゃんがいた軽音部を、私たちは守らなきゃいけなかったから」
その理屈でいえば、ムギちゃんの行動には誤りがある気がした。
そしてその瞬間、私は二人が抱えていた葛藤を理解する。
律「そうだ、ギターのことなんだけど……」
律「中野は自分のギターを持ってたから、必要ないってさ」
それは仕方のないことだ。自分の楽器に愛着を持つのは、よく理解できる。
唯「……そっか、それじゃあ」
律「ああ。今度返すわ」
唯「……え、でも」
私はりっちゃんの言葉に違和感をおぼえた。
唯「持ってた、んだよね。何で今まで返してくれなかったの?」
ムギちゃんがスプーンで、カップの側面をかちんと打った。
びくりとして手が震えたんだと思う。
唯「ねぇ」
紬「……それは」
律「その前に、中野の話を続けてもいいか?」
唯「……後で絶対話してよ」
私はカップを床に叩きつけたい衝動を抑えて、一口含んだ。
律「部活からティータイムがなくなって、休憩時間はうんと減った」
律「や、練習時間が増えたって言った方が分かりやすいな」
ムギちゃんが、駅で会ったあの日に言っていたことだ。
そういえばあの日は日曜だった。
いったい何時から、みっちりと練習をしていたんだろう。
律「中野だけなら、あんなスケジュールは現実のものにはならなかったろうな」
律「部活時間ずっと練習。それが当たり前なのかもしれないけどな」
唯「休憩は入れないの?」
律「入れるさ。5分な」
りっちゃんは面白くなさそうに笑った。
律「それでも、軽音部が続けられるならって頑張ったけど」
律「なんかもう、分かんねえんだ。何で私はドラムマシーンみたいになってるのか、ずっと考えちまう」
紬「部活の時間は、ただ楽器を演奏しているだけの時間で」
紬「うまく演奏できても、ぜんぜん嬉しくないの……」
ずっと溜まっていたであろう愚痴を、二人は睫毛を濡らしていっぺんに吐きだした。
誰よりも軽音部にいたかった、私に。
唯「……澪ちゃんは?」
私は今一度尋ねた。
律「澪は、中野の側だ」
再び同じ答えが返る。そして、りっちゃんは更に続けた。
律「澪も我慢してるんだろうと思ってた。けどよ……」
紬「……澪ちゃんは、今の軽音部を気に入ってるの。練習だけの部活を」
その糾弾は、いささか傲慢すぎる気がした。
あくまで、軽音部の外にいる人間の目線では。
けれど軽音部の中にいた人間としては、たえがたい。
唯「何、それ……」
私はぎりっと奥歯を噛んだ。
律「それだけじゃねぇ。……ここで、ギターの話に戻るんだけどよ」
ムギちゃんがその話との関わりを拒絶するかのように、カップのふちに口づけた。
律「ギターを返せなかったのは……澪がギターを持っておこうって言ったからなんだ」
悔しいんだと思う。りっちゃんは涙をこぼしていた。
律「来年もまた、勧誘に使えるからってよ……道具みたいに言ったんだぁ……」
唯「っ……」
確かに私は、ギー太をそのための道具として置いていった。それは否定しない。
けれど、みんな分かってくれていると思っていた。
私は今も、ギー太を介して軽音部と繋がっているんだって。
ギー太はその証なんだって。
だから私は、軽音部にギー太を預けたのに。
澪ちゃんは私の気持ちなんて、全然分かってくれていなかった。
ギー太も、りっちゃんもムギちゃんも、軽音部の道具に成り下げた。
唯「……ひゅっ」
喉が奇妙な痙攣を起こした。
堰を切ったように、涙がぼろぼろあふれだす。
紬「……私たちの軽音部はもう存在しないんだって」
唯一泣いていないムギちゃんが、そっと言った。
紬「崩れてしまったんだって、りっちゃんと話したの」
紬「勝手に決めてしまうけれど、唯ちゃんもきっと同じ気持ちだろうって」
赤ん坊のそれのように、はじけ出ようとする慟哭を
口の中で必死に抑えつつ、私はがくりがくりと頷いた。
紬「唯ちゃんのいたかった軽音部を、私たちは守れなかったんだなって」
紅茶の匂いが、鼻水のたれる鼻腔にも届く。
学校から遠く離れた、こんな寂れた喫茶店まで、
紅茶の香る軽音部は追いやられてしまったのだ。
紬「だから唯ちゃん……」
紬「私たちが軽音部を辞めること……許して欲しいの」
断れるわけがなかった。断る理由もなかった。
私は首をもたげて、ムギちゃんを見つめた。
唯「いいよ。……しょうがないよ! そんなの、私だって辛いもん」
軽音部は続いてほしかったけれど、
昔とは変わってしまった軽音部で、二人を苦しませる訳にはいかない。
そんな強制は、私の醜い妄執だ。
軽音部は壊れた。それを認めよう。
律「唯……ごめん!」
紬「本当にごめんなさい!」
唯「やめてよ。元はと言えば」
唯「……あの男のせいなんだから」
りっちゃんとムギちゃんは安心した表情を浮かべ、顔を上げた。
それとは対照的に、私の眼球の奥に巡る血管は激しく脈打っていた。
今、私は誰の名前を言おうとした。
律「じゃあ唯、これからも友達でいてくれるか?」
唯「当たり前だよ! あ、でもギー太は取り返してね」
紬「もちろん、任せてちょうだい!」
私はやや温くなった紅茶を呷るように飲みほし、微笑んだ。
唯「……それじゃ、今日はもう帰ろっか」
りっちゃんたちも残りの紅茶を飲みこんでしまうと、席を立つ。
律「なんか用事あるのか?」
唯「買い物しなきゃ。そろそろ野菜もなくなってきちゃったし」
嘘だ。私はこの煮え切らない笑顔が溢れる場所にいたくないだけ。
私たちは会計を済まし、外に出る。
学校へ戻り、そこからはいつも通りの道を行く。
この3人で歩くのは、ものすごく久しぶりだったけど。
唯「……」
律「じゃあ、私はここで」
唯「ん、バイバイ」
紬「また明日ね」
交差点でりっちゃんと別れる。
ムギちゃんと道路を渡って、しばらくしてから私は口を開く。
唯「りっちゃんは、どんな気持ちかな」
紬「えっ? ……そうね」
私があんまり突然に訊いたせいか、
ムギちゃんは一瞬だけ何を訊かれたか分からなかったようだった。
紬「……きっと、あまり気にしてないと思うわよ?」
唯「そうかな。りっちゃんが一番、澪ちゃんのこと大好きだったよ?」
ちょっと目を閉じて、ムギちゃんは立ち止まる。
紬「好きって言うなら、想うっていうなら……私はもっとすごい人を知ってるわ」
唯「すごい人? 誰?」
紬「あら、無自覚なの」
唯「……わたし?」
満足そうにムギちゃんは笑う。
紬「本当に好きなこととか、大事にしてるってこと、意外と普段じゃ分からないものよ」
紬「こういう望ましくない事態にあってなお、その人のことを想えるか……」
紬「りっちゃんは澪ちゃんに対してそれができなかった」
紬「だから、りっちゃんの気持ちはそのくらいだと思うの」
唯「……」
唯「でも、りっちゃんが辛いのは間違いないよ」
ぽつぽつ、小雨が降りだす。
私たちは急ぎ足で歩きはじめた。
紬「大丈夫よ、それなら唯ちゃんのほうが辛かったし」
紬「りっちゃんには私たちがいるもの」
唯「そ、かな」
雨が激しくなる前にムギちゃんと別れて、走り出す。
私の頭の中では、ムギちゃんの声が響いていた。
紬『望ましくない事態にあってなお、その人のことを想えるか……』
そうだ。
そうでなければいけない。
それが想うと言う事。
愛することなんだ。
私が玄関に飛び込んだと同時、外からごうごうと雨の音が鳴ってくる。
少し濡れた体を沓脱ぎで震わせて、私は軽く笑った。
そんなの、誰だってできやしないじゃないか。
――――
翌日、りっちゃんとムギちゃんは退部届を書いた。
部員が二人となった軽音部は活動を認められなくなり、廃部に陥った。
私はギー太と3ヵ月ぶりの再会を果たして、再度いちからコードの勉強を始めることにした。
りっちゃんはもう、しばらくドラムは叩きたくないらしいけれど、
いつか私とムギちゃんと一緒に、またバンドを組んでくれるそうだ。
その日のために、ベースの弾ける人を探そうか。
あるいは、憂にベースを仕込んでみようか。
唯「……」
そんな明るいことを考えることで、どうにか私は私を保っていた。
澪ちゃんとはもうずっと、顔を合わせていない。
廊下で会っても、目を合わせない。挨拶をするなんて、もってのほかだった。
もう一生、私と澪ちゃんは仲直りできない気がした。
……ケンカをしたわけでもないのに。
――――
律「どーした、やけに機嫌よさそうじゃん」
7月半ば。
気象庁から梅雨明けが発表されると、私の心は高揚した。
紬「テストの結果がよかったのかしら?」
唯「ううん、全教科赤点スレスレだったよ」
律「流石だなぁ……そんじゃ、何をそんなにニヤニヤしてるんだ?」
唯「聞きたい?」
律「いや、いいわ」
唯「え。ムギちゃんは?」
紬「私は聞かなくても分かるから」
唯「まあまあいいから聞きなさいって」
テストも返却され、まもなく終業式。
唯「二人とも、もうすぐ夏休みなんだよ?」
律「はっ……そういえば!」
紬「今年もどこか行きたいわね。どうする?」
唯「あ、いやそうじゃなくって」
私は慌てて両手を振った。
もちろん、夏休み中どこかへ行きたいという気持ちはあるけれど、
今はそんなことを話したいんじゃない。
唯「憂! 憂だよ、憂が帰ってくるの!」
律「憂ちゃんか!」
夏休みになるまで会わないと約束して、ずっと我慢していた。
どうしても寂しくなってしまった夜には、電話やメールをしたけれど、
ずっと憂の顔は見ていない。
ようやく会える。
あと3日で訪れるその幸福に、私は雲の上を羽ばたいていく思いだった。
紬「それなら憂ちゃんは、夏休み中はずっとこっちで過ごすの?」
唯「たぶんそうだから……」
律「どこか行くなら、憂ちゃんも一緒ってか?」
りっちゃんもムギちゃんも、私のことはお見通しのようだった。
唯「えへへ、悪うござんすね」
律「いーよ。それにしてもまぁ、お熱いねぇ」
紬「付き合いたてのカップルみたいねぇ」
二人は「なぁ」「ねぇ」と笑い合う。
唯「カップルなんて、そんな」
そんな脆い関係じゃない。
どうしてそう口に出せないんだろうか。
紬「じゃあ、夏は憂ちゃんも連れて海辺の別荘に行く?」
律「海か、いいな!」
唯「……楽器も持ってこうよ! りっちゃん、どうかな?」
軽音部の廃部から、まだ1ヵ月。
りっちゃんのドラムを叩くことに対する嫌悪は、消えてはいないと思う。
律「……でも、ベースがいない」
憂がいるよ。
そう口に出せればよかったけれど、流石にそんな無神経さは持ち合わせていない。
りっちゃんの言うベースとは、澪ちゃんのことなのだから。
唯「……そだね。あ、それじゃ私、家からWii持ってくるよ」
紬「えっ、だから憂ちゃんは連れていくんじゃないの?」
唯「Wiiだって。ていうか持ってくって」
ムギちゃんにWiiの説明をしていると、昼休みが終わってしまった。
憂とWii。そんなに似ているだろうか。
憂が帰ったら、本人に直接聞いてみようか。
私はそんなことをモヤモヤ考えつつ、期待の高まる3日間を過ごした。
そして、終業式の夕方。
私はたくさんの御馳走を作って、憂を待った。
メールでは6時くらいに到着すると言っていたけれど、
今は6時10分になっている。インターフォンは、まだ鳴らない。
唯「……まさかね」
10分程度の遅れが発生するのはおかしいことでもない。
駅から家までを歩く機会はめったになかったから、
その時間の想定をやり間違えているのかもしれない。
悪い想像を働かすには、まだ早すぎる。
唯「……ああ、もうっ」
けれど、やっぱり居たたまれない。
私は憂を迎えに行くべく立ち上がり、玄関で靴を履き、
唯「っとぅぁ!」
突如響いた呼び鈴の音に、高鳴る心臓をぎゅうっと絞められた。
しばらく、私の心拍を静けさが収めるまで待ってから、
申し訳なさそうにトントンとドアが叩かれた。
唯「うん」
私は咳払いをしてから、チェーンと鍵を外してドアを開けた。
見慣れた顔がそこにあった気がして、私は笑顔になる。
けれど、そんな気がしたのは一瞬だけだった。笑顔もすぐに消える。
憂「ただいま。お姉ちゃん」
痛々しいほど痩せこけた姿で、憂は戦慄する私の前で笑ってみせた。
唯「うい……憂なの?」
信じられなくて、私は尋ねてしまった。
憂「……うん」
唯「そんな……」
私は憂の手に触れる。
夏だというのに乾燥した手の甲は骨ばっていて、皮膚がガサガサに荒れている。
唯「どうして、こんな」
言いかけて、私は口をつぐむ。
憂が、それでも小さく笑っていた。
憂「いい匂いするね。ご飯できてるの?」
唯「……できてるよ。頑張ってご馳走作ったから、いっぱい食べようね」
そっと憂を家の中に招き入れて、私は再びドアをロックした。
細く硬い、ぽきっと折れてしまいそうな憂の体を抱きしめる。
唯「……おかえり、憂っ」
私は憂と並んでダイニングテーブルの前に腰かけ、
たくさんの料理を分け合って食べた。
必ず半分ずつにして。
唯「憂、おいしい?」
憂「うん。すっごくおいしい……」
ゆっくり、よく噛んで憂は食事を飲みこむ。
ひどく緩慢で、だけど見ていて愛おしくなる。
細い髪を指に絡めながら、私は憂の頭を撫でた。
ぶるぶると、憂は震える。
憂「おい゙しいよぉ、おれえぢゃあん……」
唯「もう、お下品だよ?」
口の端からこぼれたご飯を拾い上げ、食べさせてあげる。
泣きながら、憂は私の料理を口にし続けた。
私はまだ何も尋ねずに、そんな憂を見守った。
憂がこんな姿になったのは行き過ぎのダイエットのせいじゃない。
でなければ、大量の食事を憂がおいしそうに食べてくれるはずがないし、憂もバカじゃない。
こんなに痩せてしまうまで、ダイエットを続けるはずもない。
唯「……」
それなら、一体憂になにがあったか。
想像がつかないでもない。
隣の県にさえ、憂の事件を詳しく知っている人がいたんだ。
どこの誰かは分からないが、そいつが憂のことを言いふらした。
それだけで憂は、殺人者として暮らさなければならなくなる。
死体を隠そうとした私に比べ、憂は実際に人を殺している。
向けられた差別の目は、私のそれと比較にならなかっただろう。
上履きを隠される。
『人殺しの妹をもった哀れな姉』と書かれたメモを机に押し込まれる。
私の受けた仕打ちが子供のいたずらに思えるくらいの
激しくて、醜くて卑しい仕打ちを憂は受けた。
それゆえに、これほど痩せ細った。
唯「……憂」
憂「なぁに、お姉ちゃん……?」
私は憂の濁った瞳を見つめた。
また、ムギちゃんの声が頭の中に響く。
紬『りっちゃんは澪ちゃんを想えなかった』
紬『だから、りっちゃんの気持ちはそのくらいだと思うの』
次こそ全てを失うかもしれない。けれど、揺らぐわけにはいかない。
唯「もう大丈夫だからね。お姉ちゃんがついてるから」
――――
唯「よし憂、お風呂はいろっか」
ご飯を食べ終わった後、私はそう憂を誘った。
しかし憂は目をつぶって、いやいやと首を振る。
憂「ごめん、今日は一人で……」
唯「あれ、何で?」
憂「……」
憂は無言で、自分の腕をさすった。
着ているシャツの袖が、波打つような皺を畳んだ。
唯「……そっか」
私だって、痩せこけた身体になってしまったら、憂の前で裸になれる自信はない。
きっと憂も、変わってしまった身体を見られるのは嫌なんだろう。
私は伸ばした手をおろした。
唯「それじゃ私、憂の荷物運んどくよ」
憂の着替えを入れたスポーツバッグを開け、
中から下着と部屋着を引っ張り出して憂に渡す。
憂「うん、ありがとうお姉ちゃん」
私は笑顔を返し、ついでのようにハンドバッグも持つと、階段を上がって憂の部屋へ入った。
夏の日差しにさらした布団が膨らんでいる。私は勉強机に二つのバッグを置くと、
ハンドバッグの口を開けた。
私の視線は、内ポケットに入った携帯電話に吸い寄せられる。
唯「……ごめんなさい、憂っ」
ポケットから携帯を引っぱり出した。
どうしても連絡をとらなければいけない人間がいる。
携帯を開き、その人物の名を電話帳から探す。
けれど、サ行にあるべきその名前は見つからない。
唯「……」
良心の呵責を押しのけて、私はメールボックスを開く。
7月の始まり頃まで、同じアドレスからのメールが頻繁に来ていた。
私の名前も半々くらいで混ざっている。
don-t.say-mop@……このアドレスだ。
校内や宿題のことを話していることから、恐らくこれが鈴木純だとみた。
どうして電話帳に登録されていないのか。
その理由を考えるのは後にして、私はすぐにそのアドレスを自分の携帯に写した。
次いで、着信履歴も見る。
ほとんどが私からの着信で埋まっていたが、
一番最後、7月2日に登録されていない番号が見つかった。
憂への電話を控えていてよかったと思う。
私はすぐさま自分の携帯に番号をメモした。
面識のない相手の場合、メールよりも電話の方が直接的なコンタクトに踏み込みやすい。
メールで会おうと言われても相手は警戒したり無視したりするが、
電話ならば、声が分かっているぶんだけ相手は油断する。
特に、こちらが女だと証明できることが、大きな材料になってくれる。
後はこの番号が、鈴木純に繋がってくれればいい。
それからのことは、それから準備したって遅くはない。
唯「よしっ」
私は憂の携帯を元に戻し、
スポーツバッグから衣服を箪笥に移し始めた。
それがいつまでかは分からないが、憂はしばらくここで暮らすのだ。
バッグに入れたままでは不便が過ぎる。
私は手早くその作業を終えて、憂のもとへバスタオルを抱えていった。
――――
夜中まで、蝉はじりじり鳴いていた。
私は憂を腕の中に抱きながら、その体の冷たさをどこか心地よく感じてしまっていた。
唯「……」
自分が嫌になる。
唯「うい、起きてる……?」
憂「んぅ?」
声をかけると、憂はぼんやりと返事をした。
憂「……ねてた」
唯「ごめん、寝てていいよ」
頭を撫でてあげて寝かしつけようとするけれど、憂は目が冴えてしまったらしい。
こちらに寝返りをうち、私の目を見上げてきた。
憂「……お姉ちゃん、あったかい」
憂は、私の鎖骨のあたりに額をあてて、幸せそうにつぶやいた。
唯「憂もあったかいよ」
憂「……えへ」
憂「お姉ちゃん。……その、私ね」
頭を撫でていた手をおろし、憂の口を塞ぐ。
憂「むぅう」
不満そうな呻き声を漏らして、憂は私の手のひらをちろりと舐めてきた。
唯「憂は話したいの?」
小さな抵抗だけれど、私がまるで意に介さないのが気に食わなかったらしい。
憂はむーっと呻いた後、すこし黙って、首を横に振った。
唯「私は憂のこと分かってると思うからさ。無理に話してくれなくても大丈夫だよ」
唯「今晩はもう……寝よう」
憂の口を塞いでいた右手を離して、私は微笑んだ。
憂「……そだね。おやすみ」
くすりと笑って、憂は目を閉じた。
やがて、落ち着いた寝息が聞こえてくる。
唯「……」
私は相変わらずの寝付きのよさに安心してから、目を閉じた。
憂の寝息が、意識をぐいぐい引きずり降ろすようにまどろませていく。
それから眠りにつくまで、大した時間はかからなかった。
――――
腹部にあたる風の冷たさで、目が覚める。
いつの間にか、朝になっていた。
唯「……憂?」
すきまの開いたベッドから降り、私は憂の名前を口にする。
階段を降りると、パチパチ何かの焼ける音が耳に届いてくる。
香ばしい匂いが鼻をくすぐり、私は台所を見やった。
髪を結び、エプロンをつけて、ミトンを嵌めて、
憂が鼻歌まじりにウインナーを転がしていた。
憂「おはよ、お姉ちゃん」
唯「憂……起きてて平気?」
思わず、病人に対するようなことを言ってしまう。
憂「大丈夫だよ。お姉ちゃんのためなら、何してたって元気になってくるもん」
唯「……」
なんにせよ、大事ないならよかった。
私は長らく見ていなかった、けれど見慣れた憂の姿を見て、笑った。
唯「あれだね」
台所に入りながら、私は言った。
唯「離れてても心は繋がってるとか、そういう歌詞とか、あるじゃん」
憂「うん、あるねぇ」
私もかつて、そんな風に思って憂と別れた。
けれど実際に物理的な距離を挟んでみて、はっきり分かった。
唯「あんなの大ウソだね。離れて過ごす間は、心も離れてる」
憂「……それって」
唯「ううん、違うよ。憂を責めてるんじゃないの」
冷蔵庫からパックのジュースを出し、グラスを二つ持って居間へ戻る。
唯「ただ、そうだな……ふがいなくなっただけ」
唯「離れてて、気付けなくて、憂をこんなにしちゃったから」
憂「……私は、お姉ちゃんがそうやって悲しんでくれただけで十分だよ」
憂「とても幸せだから……そんな顔はしないで」
唯「けど……」
憂が焼き色のついたウインナーを皿に盛って運んできた。
憂「ごめんね。お姉ちゃんに心配かけまいって思って……」
憂「それが余計にお姉ちゃんを悲しませちゃったんだよね」
唯「……そうだね。気持ちは嬉しいけど」
ジュースを注ぎながら、私は正直に言った。
唯「もっと頼って欲しかったな。お姉ちゃんのこと」
早くに言ってくれたら、こんな手段は思いつかなかったかもしれないのに。
皿を持つ憂の手を見て、私はちょっと愁えた。
ジュースがグラスからだぼだぼと溢れて、苦笑しながら私はふきんを取った。
――――
憂「ふわぁあ?……」
朝食をとったあと、憂は大きなあくびをした。
唯「眠いの?」
憂「んー、ちょっと。やっぱり疲れてるのかなぁ」
唯「寝てきていいよ。まだ夏休み一日目なんだし」
昨日はなし崩し的に憂が私のベッドに潜りこんできたが、
せっかくお日様にあてたのだから、憂のベッドでも寝てほしい。
憂「お姉ちゃんとじゃなきゃ寝たくないよぉ」
唯「うんうん、じゃ一緒にお昼寝しよっか。……いや、朝か」
完全に寝ぼけている憂の肩を抱いて、階段を上がった。
憂の部屋まで誘導し、ベッドに寝かせるとそのまま寝息を立て始めた。
よほど疲れていたらしい。
唯「おやすみ、憂」
ぐっすり眠っていることを確認し、私は自分の部屋に戻る。
鈴木純に接近するなら、今しかない。
私は携帯を開き、メモ帳に記した携帯番号を一時暗記してから待ち受け画面に戻る。
そして、忘れないうちに素早く電話番号を打ち込み、発信した。
唯「……」
お願いだから、鈴木純に繋がってくれ。
私は携帯電話が汗で滑り落ちていくのが分かって、慌てて両手で握りなおした。
唯「……」
無機質なコール音が続く。
少なくとも、この番号の使用者がいるのは間違いないようだった。
ぶつり、と音がする。
『もしもし?』
不機嫌な声。
夏休み初日の高校生に朝から電話をかけたのだ。
その反応は当たり前かもしれない。
唯「ん……」
心音が耳を打つ。
ここで後れをとるわけにはいかない。
声を出せ、私。
唯「私、中野って言うんだけど」
はっきりと、私は違う私を名乗った。
大丈夫だ。携帯を握り直す。
「……どなたですか?」
唯「きみは、鈴木純だよね?」
純「ハイ、まぁ」
歓喜の声が漏れそうになるのを必死でこらえた。
私は人知れぬ傍観者なのだ。
唯「……私は、あなたの学校の先輩だよ。ちょっと気になる話を聞いてね」
純「……何のことですか?」
鈴木純はこっちの出方を窺っているようだった。
しかし私は、彼女が僅かに息を呑む気配を聞き逃さなかった。
彼女にも心当たりはあるようだ。無ければおかしい。
だが何故、それを隠すのか。
本当に、私が他人だから警戒しているだけなのだろうか。
唯「平沢憂。知ってるね?」
純「平沢ですか? ええ、まぁ」
唯「あの子、最近変わったよねぇ」
純「……どうして私にそんなことを聞くんですか」
唯「君が一番、平沢憂と浅からぬ仲だから、かな」
ギリギリの、じれったい問答を続ける。
私はまだ何も情報を得ていない。
鈴木純の立場が何にせよ、攻めかかるための材料が必要だった。
純「あなたは一体……」
唯「中野梓。知らないと思うけどね」
純「……中野先輩。それで、平沢が何か?」
あまりに冷たすぎる言い方。
何か、ということはないだろう。
昔の憂の体型をあげつらって、太っているなんてのたまったくせに、
痩せ細ったことには気付かないというのだろうか。
唯「だからさ、変わったと思わない?」
純「……まぁ、痩せましたよね」
唯「そう、かなり……ね。どうしてかなぁ?」
純「さあ、どうしてでしょうかね」
おざなりの回答。私はさらに一歩踏み込んだ。
すでに私は、鈴木純を深く疑っていた。
唯「心当たりすらない? たとえば……平沢憂の前で体型を指摘した、とか」
しばしの沈黙。
純「……はは」
そして、鈴木純は笑った。
純「ご存じなんですか、私たちのやってること」
『私たち』か。
あっさりと鈴木純は白状した。
こんな相手に、憂はあれほど傷つけられて。
唯「……」
血の沸騰する音が耳朶を打つ。
されど、湧き立つ怒りを声には出さず、私は静かに言う。
唯「まあね。……なかなかエグいことするじゃん」
純「で、何ですか? 平沢のイジメを止めようって訳ですか?」
鈴木は喧嘩腰になる。頭に血が上っているのは向こうも同じらしい。
唯「バカだなぁ。だったらこんなまだるっこしい電話なんてしてやらないよ」
唯「問答無用で教師にチクってるよ。私個人に大した力なんてないことは自覚してるしね」
純「……そうかもしれませんね」
真意をはかりかねているらしく、鈴木は声を落とす。
私は意味もないのに、にたりと笑う演技をした。
唯「私もねぇ、仲間に入れてくれないかな。その生ぬるいイジメの輪に」
純「……どういうことです」
唯「そのまんまの意味。私にも平沢憂をイジメさせてよ。……いや」
唯「協力して平沢憂を虐げようよ。悪い提案じゃないと思うけどね」
純「意味が分かりません……」
電話の向こうで、鈴木が緊張しているのが手に取るように分かる。
純「な、中野先輩に、この件に関知するメリットはないはずです」
純「一体なにが目的なんですかっ」
私はすこし息を溜めた。
唯「今年の2月くらいのニュースだったかな。隣の県で、殺人事件があったよね」
純「……それって」
唯「犯人の女の子は、当時中学三年生だったっけね」
唯「街で会った男を刃物で刺し殺した事件……私はよく覚えてるよ」
鈴木の呼吸が荒くなっている。
構わずに、私は続けた。
唯「その女の子は、一人の人間を殺しながら、更生も償いも求められなかった」
唯「理由は確か……男に襲われかけていたから、だっけ」
胸がぎりぎりと絞めつけられる。
唯「……ありえないよね」
純「あの……どういう」
唯「殺人を犯しながら、罪に問われなかったこと。おかしいと思わない?」
純「おかしいというか……」
鈴木は口ごもる。
純「そうですね。奴は、犯罪者だと思いますよ。確かにおかしいですね」
唯「そう、犯罪者なんだよ」
それが、憂が虐げられる理由。
憂が望んでしたことではなくても、人殺しは人殺し。
周囲の人間はそんな認識しか持てないことなど、とうに知っていた。
唯「私は、その犯罪者が何の罰も受けずにのさばっているのが許せない」
唯「正しい裁きを下さなきゃいけない。私は間違ってる?」
純「いえ、そんなことは全然ないです」
いつの間にか鈴木の声が、媚びるような気持ちの悪いものに変化していた。
純「先輩のことはよく分かりました。中野先輩、でしたね」
私は「ええ」と小さく首肯した。
純「夏休み中にでも、会って話すことにしましょう。構いませんか?」
――――
純「それでは5日後、お会いしましょう。楽しみにしてます」
唯「またね、純ちゃん」
通話が切れたのを確認して、私は携帯を耳から離した。
画面には、通話時間36分12秒と現れていた。
唯「……」
我ながら、よく我慢しきれたと思う。
おもむろに立ち上がり、壁際に寄って拳を振り上げ、止める。
隣の部屋には、疲れた憂が寝ているのだ。
起こしてしまっては悪い。
代わりに、だらけきった鶏のようなぬいぐるみの首を絞めてベッドに投げ落とし、
憂の部屋へ戻ることにした。
扉をそっと開ける。憂は気持ちよさそうに眠っていた。
私は憂を起こさぬよう、ゆっくりとベッドに潜りこむ。
憂とくっついて横たわると、熟睡していた憂が寝返りを打って、
体重の半分を私に預けてきた。
唯「……」
肌の張りは、昨日より少しだけましになったように見える。
耳もとで寝息を立てる憂を抱きしめながら、私は鈴木純のことを考えた。
唯『……平沢憂の前で体型を指摘した、とか』
私がそう言った時点で、鈴木純はイジメを白状した。
つまり、これすらも憂に対するイジメの一環だったという事。
ただひとりの友達だなんて、より深く憂を傷つけるための「ふり」だったという事だ。
おそらく鈴木純が、この残忍なイジメの主犯だろうと私は見ている。
奴は5日後、奴の学校の近くにある喫茶店にて、二人きりで会うよう約束をつけた。
私をイジメに参加させて良いかどうかを決めるだけの権限が、鈴木純にはあるのではないか。
そう思っていい要素はあるように思う。
私は、憂が髪を縛ったままであることに気付き、リボンを解いてあげた。
唯「……」
ぴったりと抱き合って眠っていて、私はふと小学6年生の時分の冬を思い出した。
あの日は日曜日で、憂は38度くらいの熱を出して寝込んでいた。
あれぐらいの時期から、親はよく私たちを置いて海外に仕事に出かけることが多くなった。
運悪く、その日も親はおらず、私がどうにかして看病をしなければならなかった。
私も時折風邪で寝込むことがあったから、だいたいの対処はわかっていた。
母親にしてもらったことを思い出しつつ、私はすこし泣きながら
ひたすらに憂の看病を続け、いつの間にか外は暗くなってしまっていた。
ここで、さらに悪いことが重なった。
憂の苦手な雷が、夜になってごうごうと鳴りだしたのだ。
こうなってしまうと、憂はもう一人では眠れない。
目に涙を浮かべながら私にすがり付き、当然ベッドまでついてきた。
風邪がうつってしまったらどうしよう、という不安はあったけれど、
雷の夜に、ただでさえ体調を崩している憂を一人でベッドに置くわけにもいかなかった。
いや、むしろ私は風邪をうつして欲しがっていたはずだ。
少し前、和ちゃんに「風邪は誰かにうつしても治らない」と言われ、ちょっとしたケンカになっていたのだ。
風邪は人にうつせば治る。
それを証明するため、そして憂の風邪菌を取っ払うために、
私はできるだけ憂と密着して、その雷の夜を過ごした。
風邪は咳やくしゃみからうつると聞いていたから、汚いことは承知でそれらを顔に受けてみたり、
渋る憂に無理を言って、憂の唾液を口にしたりしてみた。
そこまで徹底して病原菌を体に入れれば、小学生の体が耐えうるはずもなく、
私は翌朝、憂の記録を1.5度上回る高熱を叩きだした。
そして憂はと言えば、諸症状も完全に消え、熱も下がり、
誰がどう見ても健康体と言えるほどに回復していた。
私は和ちゃんの説を打ち破り、憂を高熱の苦しみから守ったのだった。
唯「……ふふ」
その後、お見舞いに来た和ちゃんに事の顛末を説明したら、ひどく怒られたのを覚えている。
それでケンカのことはうやむやになってしまった。
子供のころは無鉄砲だったな、と思う。
唯「……」
いや、それは今も変わらないかもしれない。
憂のためなら、私はなんでもしたい。
昔から今まで変わらない、私の原理のようなものだ。
どうしてそうするのか、ということはあまり考えたことはない。
子供のころから両親のいない事が多くて、
代わりに私が憂のためにやらなきゃいけない事がたくさんあった。
私が憂のお姉ちゃんだったから。
でも、それは嫌なことでもなんでもなくて、むしろ私には嬉しいことだったのだ。
憂のために何もしてあげられない事の方が、私にはよっぽど恐怖だ。
私を自然と突き動かす、憂という愛しい妹。
その存在がいつの間にかあって、私はいつの間にか憂のための存在になっていた。
唯「……」
この世界がどうかは知らない。
とにかく私にとっては、憂が最優先だ。
憂のためとなれば、既存の倫理はもはや私に通用しない。
私の思う、憂のためになることが絶対なんだ。
憂「んっ……」
憂が腕の中でぴくりと動いた。
私は頭をかるく撫でてあげて、目を閉じる。
少しだけ、私も眠りに落ちることにした。
(4)
唯『今度会う時までに用意できる?』
しばらくして、無音で携帯がメールを受信する。
紬『できるはずよ。だから、それまで辛抱してちょうだいね』
その内容に頬をゆるめ、私は即座に返信を打つ。
唯『ありがとうムギちゃん。たった2日なら我慢してみせるよ!』
送信を終え、一息つく。
友人を騙すことに、罪悪感がないわけではない。
けれど、これは憂のためだから。そのくらいの障害はいたって些末なものだ。
携帯を閉じた。
その音が少し大きかったか、憂がもぞりと動く。
憂「うぅ……ん?」
どうやら目を覚ましたようだ。
唯「起こしちゃった?」
憂「んー……」
寝ぼけてはいるようだが、そのまま憂は起き上がった。
なにもかもぼやけて映る起きたての目で、憂は私の顔を見つめる。
憂「いま何時……?」
唯「12時57分だね」
私は携帯のサブディスプレイを見やって答える。
憂「くぅ……」
それを聞いて、憂はめいっぱい「のび」をした。
憂「ご飯は食べた……?」
唯「ううん、私も寝てたから。そろそろご飯作ろっか」
憂「だね」
私たちは頷き合って、ベッドを降りた。
――――
2日後、りっちゃんとムギちゃんが私の家にやってきた。
夏休みに、私たちと憂で海に出かけることはもう決まっていたけれど、
どこの海に行くやら、いつ行くのやらがまだ決められなかったのだ。
その原因にはひとえに、ムギちゃんの都合があった。
まず、夏休みの大半をムギちゃんは海外の避暑地で過ごす。
日本にいられる時間は少なくはないが、多少限られてきてしまう。
それから別荘の都合だ。
ムギちゃんの別荘は専用している訳ではなく、一般に向けて貸し出しもされている。
それゆえ私たちも、いつでも借りられるということはない。
別荘の予約が入っていない時を狙っていかなければいけないのだ。
だから私たちは、ムギちゃんに別荘が空いている日を調べてもらわなければいけなかった。
今日はその調べた結果を報告してもらう予定だった。
紬「それで、早速なんだけれど」
ムギちゃんは手帳を開いて、私たちが囲んでいるテーブルに置いた。
律「こいつぁ……」
それを見たりっちゃんは眉をひそめた。
手帳のカレンダーは、7月も8月も斜線が目立っている。
紬「ごめんなさい、2泊3日までしか日程はとれないみたい」
憂「確か、3泊4日の予定だったんでしたっけ」
律「あぁ。ま、無理ならしょうがないさ」
唯「それで、いつなら別荘が使えそうなの?」
ムギちゃんがカレンダーを指差す。
紬「まずここ、7月は27日からの3日間に、使える別荘があるの」
律「ってことは4日後か。少し急だな」
唯「27日……私はだいじょぶだよ」
鈴木純との約束は26日だ。
問題はない。
紬「一応、8月の22日からも3日間空いてる所があるんだけど……」
紬「その時期は私、用事があって。できれば避けてもらえたら嬉しいわ」
律「選択肢はその二つしかないのか?」
紬「日程がさらに縮んでしまうけど、他には……」
律「……いや、だったら27日からにしよう」
唯「みんな平気?」
律「私は問題ないよ。ムギは?」
紬「ええ、空けてあるわよ」
唯「憂も?」
憂「うん、大丈夫だよ」
律「ってことは……急いで準備しなきゃいけないな」
唯「そうだね。水着買わなきゃ!」
私たちは早速商店街に出かけて、旅行に向けた買い物をした。
少しだけ、近くにあるアウトドア用品のコーナーに目を引かれたが、
紬「唯ちゃん、ちょっと」
ムギちゃんに引っ張られて注視することはできなかった。
もちろん、アウトドア用品を見る必要なんてなかったのだけれど。
唯「どしたのムギちゃん?」
紬「おととい言ってた、睡眠導入剤。ここで渡しちゃって平気?」
ムギちゃんは私の耳に口を近づけて、早口の小声で言った。
唯「あ、うん」
私は慌ててバッグを開く。
自分で頼んだ事なのに、うっかり失念していた。
唯「ほんとありがと、ムギちゃん」
私は2日前、不眠症で悩んでいるとムギちゃんにメールで相談していた。
眠りが浅く、すぐ目が覚めてしまうから、よく効く睡眠薬が欲しいと。
ムギちゃんはお医者さんに相談して、こうしてすぐに用意してくれた。
それが私の嘘だとも知らずに。
紬「一晩に二錠だけよ。効果が出なくても、それ以上飲んじゃ駄目だからね」
唯「うん、分かった」
私は手早くバッグの奥に睡眠薬を押し込んだ。
唯「さて、それじゃみんなのとこ戻らないと……」
紬「待ってちょうだい、唯ちゃん」
唯「……」
憂のもとに戻ろうとした私の手を、ムギちゃんが掴まえた。
強い力で、手首を握っている。
唯「……どうしたの、ムギちゃん?」
紬「唯ちゃんこそ、どうしたのかしら」
ムギちゃんの碧眼が、私を見つめている。
紬「一週間近くまともに眠れていない人の目じゃないわね」
唯「そう、かな?」
私ははぐらかした。
紬「ええ。むしろ憂ちゃんの方が……という感じかしら?」
ムギちゃんは薄く笑う。
口元から嘘のにおいが漂う、いやな笑顔だった。
私も同じ顔をしていると思った。
紬「唯ちゃん。一体なにを企んでるの?」
唯「企むなんてそんな……」
首筋をあおぐように手を振る。
落ち着かないと。ムギちゃんに私の計画が悟られているはずはない。
ここで勝手にぼろを出しては、あの愚かな鈴木純と大差ない。
唯「勘繰りすぎだよ。私はただ単に眠りが浅いだけ」
唯「……睡眠時間が人より少ないだけ、なのかもしれないけど」
ムギちゃんは何も言わず、私の顔をじっと見ている。
舌裏の唾が、その視線によって掻き回されたかのように、口の中で粘度を増す。
唯「企んでるなんて、やめてよ……ムギちゃんには疑われたくない」
紬「疑おうというつもりじゃないのよ」
くるりとムギちゃんは背中を向けた。
紬「でも、さっき。唯ちゃんはあんまり要らなそうなものを見ていた気がしたから」
その声はどこか儚げに、私の耳を打った。
ひとけの多いアーケードの下、私はふと海に潜ったかのような静寂に襲われた。
唯「……要らなそうなものって?」
紬「とぼけちゃイヤよ……」
ムギちゃんはわずかに首を俯ける。長い髪が、ふわりと揺らいだ。
紬「……フー」
水中から上がった時のように、ムギちゃんは口を窄めた息を吐いた。
紬「唯ちゃんが何を考えて、何をしようとしていたとして」
紬「どの道、私には止められないわ」
すこし肩を震わせて、ムギちゃんは振り返った。
紬「でも、約束してほしいの」
再び、ムギちゃんが私の手を掴む。
とても温かな手だった。
紬「唯ちゃんは一人じゃないってことを。りっちゃんも、私も」
紬「誰より……憂ちゃんが。唯ちゃんと一緒にいるってことを、忘れないで」
ムギちゃんが小指を立てて、掴んだ私の手に触れさせる。
唯「……うん」
私はこくりと頷いて、ムギちゃんと小指を絡めた。
紬「ゆーびきーりげーんまーん……」
こなつかしい歌をうたって、小指を結んだ手を揺らす。
紬「ゆーびきった!」
かけ声で、私たちの手が離れた。
私はすぐに、ムギちゃんに背を向ける。
唯「それじゃ、りっちゃん達のとこ戻ろ」
紬「ええ、そうね」
満足げな声が返ってきた。
胸の奥に広がる、鈍色の雲のようなイメージをかかえて、
私は未だ水着に悩んでいるりっちゃんと、それに付き添う憂のもとへ戻った。
律「おう、どこ行ってたんだよ?」
紬「りっちゃん。唯ちゃんと指切りしてみたの」
律「おー、即実行だな。で、どんな約束したんだ?」
憂「私もそれ、聞きたいです」
少しだけ憂と顔を合わせづらかったけれど、
憂は置いていかれたことを特に怒っている様子はなかった。
私と、というよりは、私たち3人といることを楽しんでくれているようだった。
紬「私たちがずっと、離れ離れにならないように、って」
律「……それじゃ神様へのお願いじゃん」
紬「あれ? ほんとだわ」
憂「でもっ、すごく素敵だと思います!」
律「はは、まぁそうだな?」
りっちゃんは嬉しそうに笑って、右手に持っていた水着をカゴに入れた。
唯「その水着でいいの?」
律「ああ。いいかげん腹も減ってきちまったし」
律「そういえば、この後あいてるか? 一緒にファミレス行かね?」
――――
私たちは場所をファミレスに移して、
真夏にも関わらず、外がすっかり暗くなるまで喋り通した。
毎朝日傘を差して登校する、桜高名物の先輩のこと、
新しく出来た洋菓子屋さんのこと、
それから、私たちと軽音部について、ほんと少しだけ。
9時を過ぎて、それぞれの家に帰る。
唯「ねぇ、憂……」
帰り道を憂と二人で歩きながら、
私はさっきファミレスで言えなかったことを言おうと思った。
憂「なぁに、お姉ちゃん?」
それを言うのには、凄まじい抵抗感があった。
どうしてかは分からない。とにかく、それでも私は言った。
唯「私たちと、バンドやらない?」
憂「えっ……と」
この誘いを少しばかり期待していたのかもしれない。
憂は驚かず、照れたように耳のあたりを触った。
憂「私が、澪さんの代わりになるの?」
唯「ううん。そんなんじゃない」
私は強く否定した。
唯「軽音部と関係ない、新しいバンドだよ。憂にはそのベースをやってほしい」
憂「ベース……ベースかぁ」
唯「……ベースに限らなくてもいいよ。好きなのでいい」
考え込むように、憂は顎を撫でる。
憂「それって……皆さんと決めたこと?」
唯「みんなには、まだ相談してない。でも、バンドを再開するつもりでいるのはみんな同じだよ」
憂「そしたら、嬉しいけど……いいよ、とは言えないよ」
唯「……今すぐじゃなくていいよ。でも、少し考えてほしいんだ」
唯「あの中で楽器を弾くってことを。私たちと……合宿してさ」
憂「合宿……」
私の強調した言葉を、憂は繰り返した。
唯「みんなと相談して、多分、憂を入れようってことになると思うから」
唯「その時までに、憂がどうしたいか決めてほしいんだ」
憂「……けど私、住んでるとこ隣の県だし」
憂「それに……」
私は憂の頭に手をのせ、強引に抱き寄せた。
軽くなった憂は、私の力でもらくらく体を支えることができる。
唯「大丈夫。どんなことでも、お姉ちゃんがなんとかするよ」
唯「お姉ちゃんにまかせて」
腕の中で、憂がむぎゅうと言った。
――――
それから3日後、7月26日の夜。
私はひとり、台所に立っていた。
三徳包丁が1本減っていることに憂が気付く可能性があったから、
憂には洗濯を任せてある。
唯「……」
私はそうめんを四束、沸騰したお湯で茹でつつ、
みょうがとわけぎを刻み、生姜をおろす。
換気扇を回していても、お湯がグツグツとたぎり、熱気が頬をなめてくる。
じわりと汗がにじんで、服の襟にしみを作る。
暑い。
だが、暑くていい。外の気温も、もっと高ければいい。
そうでなければ、震えてしまう。
ザルにあけた素麺を流水で冷やしつつ、私は子供の頃のことを考えていた。
これから先は、昏いから。
先の見えない暗黒じゃなく、日暮れのように確かな終わりの見える昏さ。
だからこそ、考えるまでもなく恐ろしいんだ。
私はそうめんの水を切り、めんつゆを氷水で薄めた。
唯「……よし」
たっぷりとザルに盛られたそうめんをリビングに運ぶ。
それと同時に、憂が洗濯を終えて戻ってきた。
憂「わっ、お姉ちゃんそれ多くない?」
唯「憂の体重を戻すためだよ」
再び建前。
私だって、そうめん四束が作りすぎなことは分かっている。
ただ今日は、この作りすぎが重要なのだ。
唯「まぁ、うん。食べよ食べよ!」
私は薬味とつゆも持ってきて、テーブルに置く。
憂「そだね。頑張ろう」
おのおの箸を取り、薬味をつゆに落とすと、私たちは山のようなそうめんをすすり始める。
私も頑張らないと。
――――
憂「お姉ちゃん、もうダメ……」
もう一山を残して、憂がようやく音をあげた。
唯「憂も……?」
それをきっかけに、私も箸を置く。
憂「お腹くるしくなっちゃった。ふぅーっ……」
唯「ごめん憂……やりすぎちゃったね」
分かっていてやったことだけれど、苦しそうな憂を見ていると
申し訳ない気持ちが溢れてきた。
唯「あ、そうだそうだ」
ぽっこり膨らんだ憂のお腹を見て、私は立ち上がる。
私のお腹もかなり重たくなっていた。
憂「どうしたの?」
唯「こんな時に良いお薬があるんだよー」
常備薬の箱を開け、薬瓶を取り出す。
この間ムギちゃんにもらった薬を移し替えたものだ。
私はそこに二錠だけ紛れこませたサプリメントをつまみ出してから、憂に瓶を手渡した。
唯「消化と吸収を助けるお薬。憂も飲んでおこう」
憂「あ、お姉ちゃんありがとう」
疑いもせず、憂は瓶を受け取って睡眠薬を二錠手にのせた。
私はサプリメントを口に放り込んで、水と一緒に飲みこむ。
憂も、睡眠薬を同じように服用した。
憂「ふぅっ……少し休んだ方がいいね」
唯「うい、平気?」
憂は深い息をつく。
時間は昼下がり、もとより憂には些かの眠気があったのかもしれない。
憂「うん、でも……」
眠気を払おうとしているのか、いやいやをするようにかぶりを振った。
憂「おねえ、ちゃん……」
唯「……憂、どうしたの?」
私は憂の頬に手を添えた。
憂「あ……」
それを皮切りに、憂のまぶたが落ちていく。
唯「寝ちゃったのかな?」
憂の背中と膝を支えて抱っこする。
腰に少しだけ重みがかかるのが嬉しかった。
憂の部屋の扉をどうにか開け、お人形を飾るようにベッドに座らせた。
今日は猛暑日だ。
薄いタオルケットを一枚だけ膝にかけてあげて、額に薄くかいている汗を拭く。
唯「ごめんね、憂。でも……」
その先は口にせず、私は憂の部屋を去る。
私の部屋に置いたバッグをとる。
底敷きの裏に包丁が隠されているのを確認し、
私は鈴木純と約束した喫茶店に向かうため、まず駅へ向かった。
――――
午後3時を過ぎて、鈴木純とおぼしき一人客が店に現れた。
電車の中で化粧の印象は変えた。
しっかりパーツの形を見なければ、平沢憂の親族とは思われないだろう。
私は少女に向けて、軽く手を振ってみる。
純「中野先輩ですか?」
おずおずと近付いてきた少女は、そう問った。
マロンペースト色の短い髪を二つ結びにして、いかにも生意気くさい顔立ちだ。
唯「純ちゃんだね」
私は帽子をかぶり直し、にやりと笑う。
純「ええ、はい」
鈴木純は頷く。
そして遠慮がちに椅子を引き、腰かけた。
唯「なにか頼まなくていいの? 私が持つよ」
純「いえ、そんな。悪いですよ」
唯「いいから。新参者の筋は通させてよ」
純「……それじゃあ」
私はウェイターを呼んで、アイスコーヒーを2つ注文した。
純「コーヒーお好きなんですか?」
唯「うん。頭がすっきりするからね」
コーヒーの苦みはあまり得意じゃないが、そのほうが
私の演じる中野梓というキャラクターをもっともらしく演出してくれる気がした。
それに、今の私の体は、どうも紅茶を受け入れてくれそうになかった。
唯「で……どう? 私も加えてくれるの?」
純「それは、ハイ。勿論です」
鈴木純は頷く。
唯「一応確認しとくけど……イジメをやってるグループのリーダーは純ちゃんだよね」
純「まぁ言いだしっぺと、おもに実行するのは私ですね」
唯「ふぅん……なんでイジメを始めたわけ?」
純「同じですよ。事件のことを知っていたからです」
なぜ殺人をしたことがイジメの理由になるのか。
平沢唯として彼女の前に立てたら、それが問えるのに。
唯「知っていた……?」
純「はい。私、子供のころは桜ケ丘って町に住んでいまして」
純「そのころの友達に聞いたんですよね。平沢憂の名前」
鈴木純は、自慢げに鼻を鳴らす。
純「珍しい名前ですし、引越したということは聞いていましたから……間違いないと思いました」
唯「なるほどねぇ……」
私は冷えたコーヒーを口に含み、あまり味わわずに喉に流し込んだ。
唯「ということは、最初から作戦だったんだ?」
純「はい。平沢憂と友達になったふりをして、後で突き落とすための作戦……ですね」
唯「ヒドいことするね」
純「ははっ、まぁお互いじゃないですか」
鈴木純の言葉はもっともだった。
私のしようとしていることは、いま鈴木純が語った作戦によく似ている。
――――
それからの時間は、私の人生で最も不快な3時間だった。
鈴木純をはじめとする7人の中心グループと、
その取り巻きというべき、さらに5人の加害側の生徒達で憂に対し働いたイジメを仔細に聞かされ、
また私はそれに対して楽しげに笑ってやらなければいけなかった。
胸糞の悪い話で、午後6時を迎える。
唯「それじゃ、いいかな」
私はすぐさま財布を取り出した。
純「あれ? 予定あるんですか?」
唯「ううん。純ちゃんも、この後は平気?」
純「はい、まぁ……」
唯「少し付き合おうよ、純ちゃん。いい場所があるんだ」
唯「……人間を存分に虐げられる場所が、ね」
――――
純「中野先輩、どこまで行くんですか……?」
私は森深くを歩いていた。
どこか南国系をにおわすシダやヤシのような植物が空を覆い、
視界は目前も見えないほどの暗闇に包まれていた。
唯「……さあ、どこまでかな」
私はバッグの中に右手を突っ込んだ。
そろそろ良いだろう。
純「あの……?」
その固く重たい感触をしっかりと掴むと、私はバッグを地面に投げ捨てた。
純「中野先輩、聞いてますか?」
鈴木純にはいまだ、私の手に握られた白刃が見えていないようだった。
一歩、二歩と地面を確かめながら肉薄する。
唯「誰かな? その中野先輩ってのは」
鈴木純の胸倉を掴み、近くにあった木の幹に叩きつけた。
純「何……ぐっ!?」
両腕で体を押さえつけ、包丁の刃を首にあてがう。
蒸し暑さのせいか大量にかいていた汗が、ぴしゃりと跳ねる。
唯「……私は平沢唯。あんたらがイジめてる、平沢憂の姉だよ」
鈴木純が息を呑むのがわかった。
同時に、その体に力がこもる。
唯「動くんじゃないっ!」
包丁を立て、細い喉元に刃を食い込ませた。
純「っ……」
ぴたりと抵抗が止む。
一旦、刃を離した。
薄く赤い線が残るが、血の出ている様子はない。
唯「……お前が憂を虐めたんだ」
自分の口から出ているとは思えないほど、冷たい声だった。
唯「憂を苦しませた罪は重いよ。……死んで償って」
純「ちょ、ちょちょっと待って下さいっ」
鈴木純が必死な声を出す。
それが滑稽で、私は口元が歪むのを感じた。
唯「なに? 言い逃れなんてできないよ。散々話してくれたじゃん」
純「そ、です、けど……」
鈴木純の喉がごくりと動く。
純「人殺しはだめですって、それこそ、罪は重いですよ」
唯「……何かと思えば。下らない」
罪の重い軽いという問題じゃない。私が許すか許さないかだ。
純「くだらないなんて……それで実際に、人から疎まれたじゃないですか」
純「罪には問われなくても、罪は誰かが知っています……誰かが恨んでいます」
純「あなたの言ったことじゃないですか。誰かが裁かなきゃいけないって」
唯「……そうだね。だから私があんたの罪を裁く」
世間的なルールで縛られることじゃない。
私が許すか許さないか。それだけだ。
純「駄目ですよ。こんなの同じことの……復讐のやり合いになるだけです」
唯「やり合い? そうはならないよ」
唯「イジメに加担してる子たちの名前は、全部教えてもらったもん」
必要な情報は鈴木純からもらっている。
殺害後に携帯電話のメモリーを調べれば、全員とも連絡がとれる。
純「最初から……そのつもりで」
唯「ガキ大将やるには、ちょっとオツムが足らなかったね。純ちゃん」
純「ガキ大将なんて……」
そろそろ腕が疲れてきた。
人一人を押さえこむのにも支障が出てきそうだ。
唯「さて……イジメの参加者は殺せる限りみんな殺していくよ。……別に、それ以外の誰に恨まれようと私は構わないし」
唯「復讐も、罪も。怖くなんてないんだ。それが憂のためになるんだったら」
にわかに、鈴木純の体に力が戻ってきたような感覚がする。
私の腕から力が抜けてきたせいだろうか。
純「……何が悪いんですか」
唯「ん?」
純「人殺しなんですよ? いじめてやって何が悪いんですか」
必死の形相を、鼻で笑ってやった。
鈴木純は、もうすぐ消される矮小な存在を正当化するのに躍起だった。
思っていた通りの、生意気で愚かしい女だった。
唯「……」
純「人を殺すような奴、いじめられて当たり前じゃないですか……」
純「あなたもそんな奴の姉だから、こうやって簡単に人を殺せるんですね」
なるほど、言われてみればそういう意味で私と憂は通じているのかもしれない。
殺人者の姉妹。
修飾は欲しくなかったけれど、憂との結束が強くなったような気がした。
純「……唯、でしたっけ? あなたも同じですよ」
唯「そうだね。私も犯罪者だし」
純「知ってます。……妹を庇って死体を隠そうとしたんでしたっけ?」
唯「……」
どこかから、鳥の羽ばたきが聞こえた。
純「……憂が殺人をしたせいで、あなただって似たような目にあったんじゃないですか?」
いきなり何を言い出すんだろう。
純「私はあなたの話、嘘だとは思っていませんでした」
純「犯罪者が何の罰も受けずにいるのが許せないって……あれは本気の言葉に聞こえました」
唯「……」
私の腕に、すでに力はなかった。
包丁だけはしっかりと握りしめて、けれど鈴木純を押さえつけることはできなくなっていた。
純「事件のせいでいじめられたのは平沢憂だけじゃない。あなたも同じです」
純「そのことを憂のせいにして、恨んでいたんじゃないですか?」
唯「……ふぅん」
目の前の少女に私は笑いかける。
バカだと思っていたけれど、評価を改めても良さそうだ。
私が認めまいとしてきたことを、今日初めて会ったばかりで見抜くなんて。
唯「ま、そうかもしれないね……」
私は光の届かない森の中、鈴木純の目を見つめる。
小さな輝きが、そこに見えてしまう気がする。
純「あなたが本当に疎ましいのは、恨めしいのは、私たちじゃありません。平沢憂です」
純「あなたを苦しめる原因になった、妹の憂なんですよ。だから……」
鈴木純はちょっと唇を舐めて、私の目を見つめ返してくる。
そして、意気を込めて提案してきた。
純「……私たちでなく、平沢憂を殺すべきじゃないですか?」
唯「ふ……ふふ」
笑いがこみ上げてくる。
ダイイングメッセージや辞世の句のように、死を悟った人間の頭脳のひらめきは常軌を逸するらしい。
けれど、元の頭が残念では意味がない。
唯「ねぇ……純ちゃんって、一人っ子?」
純「え……?」
私の突然の問いに、鈴木純はうろたえる。
唯「ううん、一人っ子でしょ。分かるよ。だって何にも分かってない」
純「……まぁおっしゃる通り、一人っ子ですけど」
唯「だろうねぇ」
鈴木純は可哀想な人間だ。私にとっての憂のように、愛せる人がいないなんて。
空を見る。意外にも木々は開けていて、乳白色の半月が浮かんでいた。
少し遠くから、さざなみの音がする。
唯「……確かに、そうだよ。私は憂を恨んでた」
唯「嫌がらせを受けた。部活を辞めさせられた。大事な友達をなくした」
唯「そういう影響をみんな、憂のせいにしたりもしたよ」
私の声が、森に木霊する。
鈴木純がぼんやりと私を見つめている気がする。
純「それなのに、どうして平沢を……憂を許せるんですか」
もっともな質問だった。
そして私は、その答えをずっと前から知っている。
唯「それでも、私の妹なんだ」
誰が何と言おうと変わらない。
私は憂のお姉ちゃんだから。
そのせいでどんな仕打ちを受けたとしても、憂を嫌いになることなんて出来ない。、
純「妹だから……ですか?」
純「それだけで、許せてしまうんですか?」
唯「許すんじゃないよ」
唯「なんていうか……憂に苦労かけさせられるのは、ちょっと嬉しいぐらいだし」
私は頬を掻いた。
それから細く息を吐いて、鈴木純の呆けた顔に目を戻した。
唯「だから私は、喜んでお前を殺すよ」
再び、全身に力を込めた。
はたと気付いたように、鈴木純がもがく。
私は渾身の力を込めるが、だんだんと押し返されてくる。
唯「……くぅ」
私が鈴木純を殺そうとする力と、
鈴木純の生き延びようとする力がせめぎ合う。
純「……っ」
どうして勝てない。
憂のために出している力なのに、どうして一人の人間すら押さえ切れない。
純「うああっ!!」
歯ぎしりをした瞬間、私は突き飛ばされていた。
湿った土の感触が、一瞬だけ左手を包む。
鈴木純の奔走する背中を見て、私はすぐさま体勢を立て直した。
――絶対に逃がさない。
そう思った瞬間、鈴木純が木の根に足をとられた。
ためらいなく包丁を握り直し、顔面から土に倒れ込んだ鈴木純に躍りかかる。
私の中で、憂の気持ちが燃えている気がした。
唯「ふっ」
包丁の柄を握りなおし、刃を振り下ろす。
どすん、と私の手に衝撃が返る。
純「いああああああっ!!」
狂ったような叫びを上げて、鈴木純が私を蹴飛ばしながら地を転がる。
一瞬ひるんだが、私の優勢は変わっていなかった。
膨らみのある胸に目の焦点を絞り、右手を叩きつけた。
再び、同じ衝撃を受ける。
唯「……」
純「げほぉっ……はぁ、はひっ……」
鈴木純が咳き込む。
そして、それだけだった。
血の一滴も流さず、鈴木純は倒れ込んだまま苦しげに呼吸するだけだ。
唯「……」
状況を理解できないまま、私は右手を確かめた。
そこに包丁は握られていなかった。
唯「なにが……」
純「……」
鈴木純が私の手をとる。
なだらかな丘を滑り降り、右手が土を掴んだ。
純「もう、やめましょう……」
震える声で、彼女は言った。
純「私たちももうやめます。だから。殺さないで……」
私の頭はうまく働いてくれなかった。
殺さないんじゃない。理由は分からないけど、殺せないんだ。
私のもてる以上の力が、鈴木純を守っていた。
鈴木純が私の下からすりぬけて、大儀そうに立ちあがった。
唯「……」
純「ありがとうございます」
黙って動かない私をどう解釈したのか、彼女は頭を下げた。
純「……さよならっ」
がさがさと古い落ち葉を踏みつけながら、駆け足で鈴木純が去っていく。
それを追いかけるだけの気力は、もう残っていなかった。
唯「……帰ろう」
私は手探りでバッグを見つけると、肩にかけた。
森の奥はいやに冷えていた。
腕をさすり、30分ほど歩いて森を出た。
時間を確認すると、夜の9時になっていた。
家に着くころにはもう憂は起きているだろう。
帰ったらどう言い訳しようか。
――――
電車を乗り継ぎ、1時間かけて家まで戻ってきた。
憂の部屋の電気が点いているのを見て、私は項垂れた。
携帯には着信が数件あったが、返す気にはなれなかった。
私はインターフォンを鳴らす。
すぐに憂が駆けおりてきて、鍵を開けてくれた。
唯「……ただいま」
憂「おかえり、お姉ちゃん」
何も言わずに、憂は私を迎えてくれた。
憂「ご飯つくったから、一緒に食べようね」
唯「うん、ありがとう……うい」
憂の優しい声を聞いて、にわかに涙腺がゆるむ。
唯「うい?!」
私は姉の尊厳なんて捨て去って、憂に泣きついていた。
憂「お姉ちゃん……?」
不安そうに、憂はなにか訊こうとした。
唯「ごめん……ごめんね、憂……」
憂「……ううん、いいよお姉ちゃん」
けれど憂は、ただ私の頭を撫でて、やわらかく身体を抱いていてくれた。
唯「ふ、ひっく……憂いぃ」
憂「……お姉ちゃん、明日は早いよ?」
唯「うっん……そうだね」
憂「明日からのことだけ考えよう。きっと楽しいから……」
憂の服を涙で濡らして、私はとにかく頷いた。
その夜は久しぶりに、私がべったりと憂に甘えた。
いや。久しぶりに、私が憂に甘えていることを認めた。
それぐらい、何もかもかなぐりすてて憂に癒して欲しかったんだと思う。
ひどく疲弊した精神を、憂はやさしくほどいてくれた。
――――
翌日、私たちはムギちゃんの別荘まで来ていた。
律「っんー! 海の匂いだな!」
紬「気持ちのいい潮風ね」
電車の長旅に疲れたのか、りっちゃんは大きくのびをする。
去年も同じ別荘に来ていたから、りっちゃんも少し勝手を覚えているらしい。
寝室に荷物を置いて、早々に水着に着替えてきた。
律「唯、遅いぞー!」
唯「待ってよ、憂に案内しなきゃ……」
憂「後でも大丈夫だよ。お姉ちゃん、先に遊ぼう!」
唯「ん、そう? じゃあ行こっか!」
私たちも水着に着替えて、浜辺に向かうことにした。
昨日のことは忘れて、今は楽しもう。
日が落ちてきてから、すこしひりひりする肌をおさえながらバーベキューをする。
お肉が生焼けだったり玉ねぎが辛かったりしたけれど、食べていると笑顔がこぼれた。
食材を使い切るころには、すっかり夜になっていた。
みんなでお風呂に入って、日焼けの痛む背中を洗いっこする。
お風呂から上がるころには10時を回っていた。
律「よしっ、肝試しやろう!」
紬「肝試しって、学祭でやったみたいな?」
律「お、知ってるかムギ!」
りっちゃん達はまだ元気そうだったけれど、私はすでに眠くなっていた。
唯「ごめん、りっちゃん……私もう寝る」
律「おい、もうバテたのか?」
憂「ごめんなさい、私も……」
憂もおずおずと手を挙げた。
紬「寝かせてあげましょ、りっちゃん」
律「……まあいいか。今日ゆっくり休んで、明日限界まで行くとしよう!」
りっちゃんはそう宣言して、ムギちゃんに何か耳打ちする。
紬「うんうん――いいわね、それ!」
なにか秘密の相談をしているらしい。
私も聞かないほうがいいだろう。
唯「じゃ憂、いこっか」
憂を促して、寝室へ行く。
憂「お先に休ませていただきます、律さん、紬さん」
律「おう、おやすみ」
紬「おやすみなさい。ふふっ」
りっちゃんとムギちゃんは、私が扉を閉めるまで内緒の話をしていた。
何をするつもりか、だいたい想像はつく。
りっちゃんも、それに付き合うムギちゃんも、なんとなく悲壮感があった。
――――
突然目が覚めた。
慌てて身体を起こしたが、窓の外には中途半端に明るくなった空が見えている。
時計を確認すると、まだ4時だ。
私は隣で眠っている憂の顔を見て、ため息をついた。
唯「……」
りっちゃんもムギちゃんも熟睡している。
立ちあがって、寝室を出る。
私はふらふらと、朝の砂浜に出ていった。
波打ち際すれすれで座り込む。
ムギちゃんの別荘の海は貸し切りだから、
朝でなくてもぼうっとしていれば静かな波の音を聞くことができる。
おととい、森の中で聞いたものと同じ波の音だ。
唯「……」
波の音にまぎれて、さくさくと砂を踏む音が近付いてくる。
唯「……うい?」
私の隣で、足音が止まる。
その気配はそのまま体育座りをした。
憂「おはよ、お姉ちゃん」
唯「憂も目が覚めたんだね」
憂「うん。早くに寝たからかな……」
私たちはそのまま、キラキラ光る海面を見守っていた。
真夏の海辺でも、朝は少し冷える。
唯「……」
憂「……」
憂が肩を震わせて、ちょっと寒そうにする。
唯「うい」
私は憂の手を握った。
唯「来てほしいところがあるんだ」
憂「来てほしいところ……?」
唯「うん。いいかな」
こくりと憂は頷く。
私は手を引き、一緒に立ちあがった。
砂を払い、私たちは別荘の裏に回る。
唯「ここだよ、憂」
そこには南国様の樹が葉を広げる、広大な森があった。
憂「森……?」
唯「そう、森。私がおととい、鈴木純を……殺そうとした場所」
憂が繋いでいた手を強く握った。
憂「……」
憂「しようとした、ってことは……してないんだよね?」
唯「……ごめん」
私は項垂れた。
憂「……いいよ、お姉ちゃん」
憂の左手が、私の手を挟むように包み込む。
憂「ありがとう。お姉ちゃんは……いつも私を守ってくれるよね」
そう言って、憂は笑いかけてくる。
唯「うい……?」
そんなはずはない。
私は一度だって憂を守れたことがあっただろうか。
唯「私はそんな……」
唯「いつもいつも、憂のことを守りきれないでいたよ、私……」
憂「そうかな?」
憂は首を捻った。
憂「あの冬の日だって、お姉ちゃんは私を守ってくれた」
憂「お姉ちゃんが殺してくれたんだよ。……あの男を」
唯「……」
私はわけがわからなくて、憂の顔を見つめた。
冗談を言っているようでもなく、憂はにこにこ笑っている。
唯「わたし……殺してないよ?」
憂「うん、お姉ちゃんには自覚がないかもしれないね」
憂「お姉ちゃんは分からなくても大丈夫だよ。その気持ちがあればいいの」
憂が何を言っているのか、さっぱりわからない。
唯「ういー……? わかんないよ、どういうこと?」
憂「……んーん、ごめん。私もよく分かんない」
憂「ただ分かるのは……私の危ない時には、いつもお姉ちゃんがいてくれるってことだけ」
憂は、木々の間を抜けてきた風に前髪を揺らした。
憂「お姉ちゃんは私のためになんでもしてくれる……」
憂「だから私も、頑張ろうって思ったんだ」
唯「……」
にこにこしながら、憂は照れくさそうに笑った。
憂「私、お姉ちゃんのためになれたかなぁ?」
唯「……」
私は、ふと疑問を抱えた。
それを憂に尋ねてもいいものか、一瞬だけ悩む。
唯「ねぇ、憂」
唯「……憂は、あの男に強姦されたの?」
憂はちょっと驚いた顔をした後、首を横に振った。
憂「されかけただけ、だよ」
それでも苦々しげな表情で、憂はこぼすように言う。
憂「その、だから……入ってはなかったの」
私の手が強く握られた。
そして憂は、満面の笑みになる。
憂「お姉ちゃんが、守ってくれたからっ」
私は、やっぱり理解することはできなかった。
けれど心で、感覚的にわかった。
こつん、と私たちはおでこをぶつける。
私たちがくすくすと笑い合う声と、
静かな波の音がまじりあって、耳の奥にしみわたるようだった。
ふと、森の中からがさりと音がした。
私たちは突然の物音に、びくりと身体を震わせた。
唯「わたし、見てくる」
私は憂の手を離そうとした。
でも、憂はぎゅっと手を握りしめて、決して離してはくれなかった。
憂「一緒に行くよ」
唯「……そだね」
私は頷き、憂と一緒に物音のしたほうに近づく。
そこには、生首を模すように切り、串で留められた果物類が木の枝にぶら下げられていた。
一瞬、憂が身体を縮めた。
……りっちゃん達か。
私は大きくため息をつく。
明日の肝試しのために用意していたんだろうか。
憂「もうっ。悪趣味だよね、こんなの」
唯「ん? んー」
憂はまだ分かっていないらしい。
りっちゃんのためにも、私は曖昧な返事をしておいた。
唯「そろそろ部屋戻ろっか。誰か起きた時に私たちがいなかったら心配するよ」
今、りっちゃんにとって憂は澪ちゃんの代わりになっている。
憂に対する驚かそうとする姿勢が、かつて澪ちゃんに対してとっていたものとまるで同じだから。
もしかしたら、憂をベースとしてバンドに迎えさせてくれるかもしれない。
憂「そうだね。お部屋で話そう」
私たちはあまり物音を立てないよう、別荘の談話室に戻った。
そして二人で朝食の準備を始めて、今日も海で遊ぶことに頭を入れ替えた。
――この旅行から帰ってきたのが、一週間前のことだ。
エピローグ
私の携帯が、ポケットの中でぶるぶると震えた。
唯「あ、ちょっと」
話を中断して、私は携帯を取り出して開いた。
メールは純ちゃんからだった。
送られてきたメールには画像が添付されていて、
そこにはベースを肩から掛けた憂と純ちゃんが映っている。
わざわざこんな証拠写真を送りつけてこなくともいいのだが、
一度殺意を向けられた以上、簡単に許してもらえるとは思っていないらしい。
いずれにせよ、憂が楽しそうで何よりだ。
唯『憂の練習に付き合ってくれてありがとう』
そう送信し、私は携帯を閉じる。
和「……それで、それから」
和ちゃんは言いかけて、首を振る。
和「いいえ、いいわ」
唯「……」
和「……つまり、唯はこう思っているのね」
眼鏡を外して、和ちゃんは深い呼吸をする。
いつもレンズ越しに見ていた瞳は、私の知っている以上に鋭い。
和「鈴木純に突き立てたはずの包丁の刃は、時間をさかのぼって」
和「憂を襲った男の身体に刺さったんだって」
私は二度頷く。
唯「うん、そう思ってる」
和ちゃんは前髪を掻き分けた。
和「何を馬鹿な……と言いたいけれど」
和「……あなたたち姉妹に限っては、そう一笑に付すこともできないわ」
唯「私たちに限っては?」
和ちゃんはそこのところを強調して言った。
和「私たち、小6のときちょっとした喧嘩をしたわよね」
憂と添い寝をしていて思い出したことだ。
「風邪は人にうつせば治る」と思っていた私と、
それは誤った俗説だと言う和ちゃんで言い争いになった。
唯「うん、話したね」
それがどうかしたんだろうか。
和「言葉は選ばずに言うわ。私はあの時から、あなた達のことをおかしいと思ってた」
唯「……」
私はまさかそんなことを言われるとは予想しておらず、
突如目頭を襲った痛みに戸惑った。
唯「なに、どういうこと、和ちゃんっ」
私は和ちゃんに食ってかかる。
けれど、和ちゃんは表情を変えずに語った。
和「非科学よ。風邪を人にうつしたら治るなんて、根拠はない」
和「それなのに、唯は憂の風邪を自分にうつして治してしまった」
唯「……それは、でも、有り得ないことじゃないよ」
和「いいえ、有り得ないわ」
毅然と和ちゃんは言った。
和「仮にそれが有り得たとして、じゃあ唯は今回の現象をどう説明するの?」
唯「どうって……」
私は返事に詰まった。
和「あなたたち姉妹には、非科学な力が干渉しているわ」
和「唯が憂のためを思って行動した時は……なんでも思った通りになるのよ」
和ちゃんは、自分の口をつく非現実な言葉に酸っぱそうな顔をしていた。
和「過去の人間を殺したことは言わずもがなね」
和「あっさり鈴木純を誘い出せたことも、律に憂を新しいベーシストとして受け入れさせたことも……」
和「うまくいきすぎなのよ。唯が憂を想った時は。……その想いが正しいものかどうかは抜きにして」
唯「……」
私は目を閉じる。
唯「……超能力ってこと?」
和「さあ? 唯じゃなくて、世界がそういう風に働きかけるのかもしれないわ」
和「どちらにせよ、何かがおかしい。……唯だけじゃなく、憂もね」
唯「憂が……?」
和「ええ。分かっているでしょう? 今回のことの、一番不思議な部分」
和「どうして唯が、鈴木純を殺せなかったのか」
和「今までの理屈でいくなら、かなりのイレギュラーよ」
確かに、私が憂のためにすること全てが思い通りにいくというなら、
鈴木純を殺せなかったことはおかしい。憂のために殺そうと思ったのに。
唯「そうだ……なんでだろう」
和「予想はつくでしょ?」
唯「憂も、同じだから……?」
和ちゃんがこくりと頷く。
つまり、憂も私と同じで、私のためにすること全てが思い通りにいくということ。
そのためなら、どんな無理でも押し通してしまう。
憂は私を再び犯罪者にはしたくなかったから、包丁をどこかへ消してしまった。
そして今度は、私の「憂を救いたい」という気持ちが、消えた包丁を過去へ転移させたということだろうか。
全てが狂い始めたあの日へと。
唯「でも……それじゃ変だよ」
和「変?」
唯「うん。憂は私が純ちゃんを殺すってこと知らなかったはずだよ」
和「……」
和ちゃんは眼鏡をかけると、
カクテルでも飲むような手つきでアイスティーのグラスを揺らした。
和「分からなくても、知らなくても。憂は想っているってことよ」
和「唯はどうなのかしらね?」
唯「わたしは……」
かつての私は、心のどこかに憂を恨む気持ちがあった。
だから、遠くに居る憂は不幸になってしまったんだろうか。
唯「……わたしは、もう気付いたよ。憂は、私の妹だから」
純ちゃんに言われて、自分の抱いていた恨みがいかに愚かか気付けた。
そうして悪い気持ちが消えたからこそ、いま憂は笑っていられるんだろうか。
私と憂の持っている力は、もろ刃の剣なのかもしれない。
和「唯のその顔。久しぶりだわ」
和ちゃんはアイスティーを飲み干すと、グラスを置いた。
私もその男らしい動きでアイスティーを喉に流し込んだ。
喉を通る冷たい感覚に、頭が冴える。
和「それじゃあ帰るかしら?」
唯「うん。憂も練習終えたみたいだし」
私は財布を開いた。頬が自然に緩んでいるのを感じた。
和「……夏休み終わっても平気そうね」
和ちゃんは嬉しそうに笑う。
私たちは支払いを済ませると、外に出た。
蒸し暑い空気が、もわりと絡みついてくる。
唯「夏が終わったら、かぁ」
私は空を見上げた。
やっぱり、憂と会えないのは辛い。
和「そんな顔しないの」
唯「あうっ」
和ちゃんに脇を小突かれた。
和「憂だって耐えるんだから。しっかりしなさい」
唯「うん、わかってる」
私は無理に微笑んで、歩き出した。
つらいのは私だけじゃない。
そして、つらいのが私だけじゃいけない。
私がお姉ちゃんだけど、憂と一緒にこの道を歩くことにしたんだ。
わたしは、高い高い夏の雲に届くよう言う。
唯「私たちは、姉妹だもんね」
おしまい
つまり憂は昔から唯が人殺ししそうだと思ってたってこと?
その辺詳しく
この姉妹には何か通じているものがあるんじゃないでしょうか
ただ、タイムパラドックスみたいな話で
唯の殺人未遂まで、憂は「自分が殺した」と思っていました。
包丁がワープしたことで、憂の記憶がそれから「お姉ちゃんが助けてくれた」に書き換えられた、という感じでしょうか。
昔から知ってたわけではないですし、人殺しの姉とも思っていないはずです。
ひとまず納得
憂が唯の包丁を飛ばしえるのは、「唯が憂の為に他人を殺す」って意識があってこそ
それは殺人未遂の告白まで、「自分が殺した」って意識の憂にはありえない
殺人未遂を告白されてからの憂があってこそ、憂は唯の包丁を飛ばせるのに、
その前提条件の過去を作る為に、殺人未遂を告白された後の未来の憂が意識して干渉したって筋は矛盾してる
それがタイムパラドックスってヲチは簡単だけど、やっぱストーリーならそんな目立つ矛盾は使って欲しくないな
キャラはよく出来てた。個人的に時間矛盾ものはノワールでバッドエンドな方が面白いけど読めた
憂が強姦魔に包丁で脅されたじゃん
唯の包丁がワープして男を殺してたなら、その包丁はどこに行ったんだってタイムパラドックスとはまた違う疑問は残るけど
こんなvipでマジレス長文の気持ち悪い感想書くぐらい面白かったわ
実際唯憂は真理なので仕方ない
gdgdな投下で申し訳なかった。
コメント
- SS図書館の名無しさん 2010/11/06 (土) 15:04
-
>>328
おまたせ。アイスティーしかなかったけどいいかな?(迫真) - SS図書館の名無しさん 2010/12/18 (土) 5:39
-
うわぁ…面白かったけど、どっと疲れた…
- SS図書館の名無しさん 2014/02/17 (月) 6:50
-
唯「それでも、私の妹なんだ」【三,四部】 – 2ちゃんねるSS図書館
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alviibdpiw
lviibdpiw http://www.gnr103mg5i5o5y9pz4c2au21895iqb13s.org/ - SS図書館の名無しさん 2014/02/17 (月) 17:57
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