










唯「岡崎くんは、私が遅刻しないように、いつも頑張って早くきてくれるから…」
唯「私も、それに応えてあげたい」
唯「できるなら、力になってあげたいよ」
朋也「親父に立ち向かえるように、か…?」
唯「それはダメだよ。立ち向かったりしたら…分かり合わないと」
朋也「どうやって」
唯「それは…」
唯「すごく時間のかかることだよ」
朋也「だろうな。長い時間がいるんだろうな」
朋也「俺たちは、子供だから」
俺は遠くを見た。屋根の上に月明かりを受けて鈍く光る夜の雲があった。
唯「もしよければ…うちにくる?」
平沢がそう切り出していた。
それは、短い時間で一生懸命考えた末の提案なんだろう。
唯「少し距離を置いて、お互いのこと、考えるといいよ」
唯「そうすれば、相手を好きだったこと思い出して…」
唯「次会った時には、ゆっくり話し合うことができると思う」
唯「それに、ちゃんと夜になったら寝られて、朝も辛くなくなるよ」
唯「一石二鳥だね」
唯「どうかな、岡崎くん」
唯「岡崎くんは、そうしたい?」
朋也「ああ、そうだな…」
朋也「そうできたら、いいな」
唯「じゃ、そうしよう」
事も無げに言う。
朋也「馬鹿…」
朋也「おまえは人を簡単に信用しすぎだ」
近づいていって、頭に手を乗せる。
唯「ん…」
朋也「じゃあな。また明日」
唯「あ…うん」
背中を向けて歩き出す。
俺は支えられた。あいつによって。
いや、支えられた、というのは違うような気がする。
あいつはただ、そばにいただけだったから。
でも、それだけで、俺は自分を取り戻すことができた。
同じようなことが前にもあった気がする。
不思議な奴だと…そう、胸の内で感じていた。
―――――――――――――――――――――
目が覚めたのは、昼に程近いが、一応午前中だった。
久しぶりにゆっくり寝られたので、気分がいい。
布団からも未練なく抜け出せた。
その勢いに乗り、スムーズに洗顔と着替えも済ませた。
そして、その他諸々の用意が出来ると、すぐに家を出た。
―――――――――――――――――――――
適当なファミレスで食事を済ませ、退店する。
腕時計を見ると、待ち合わせの時間まであと30分だった。
ここからなら、歩いても十分間に合うだけの猶予がある。
それがわかると、俺は学校へと足を向け、悠長に歩き出した。
少し進んだところで、前方よりバスが走り去っていった。
今降りてきたであろう乗客の集団も、ばらけ始めている。
その中に、周囲とは異質な雰囲気が漂う女の子の姿を見つけた。
朋也(お…琴吹だ)
動きやすそうな服装で、バスケットと水筒を手に持っていた。
歩きながら見ていると、どうやら俺と同じ方向に進んでいるようだった。
あいつも、これから集合場所に向かうところなのだろう。
………。
朋也(まぁ、後ろつけてくのもなんだしな…)
俺は小走りで琴吹のもとへ駆け寄っていった。
朋也「よ、琴吹」
紬「あら、岡崎くん。こんにちは」
朋也「ああ、こんちは」
紬「岡崎くんも、これから学校?」
朋也「ああ、そうだよ。おまえもだよな?」
紬「うん、そうよ」
朋也「じゃ、そんな遠くないし、一緒にいかないか」
紬「あ、いいねっ、それ。手をつないだりして、仲良くいきましょ?」
朋也「いや、手って…」
少しドモり気味になってしまう。
紬「ふふ、冗談、冗談」
くすくすと笑う。
朋也(はぁ…なに焦ってんだ俺…)
こいつを前にすると、どうも調子が狂ってしまう。
朋也「そういえばさ、おまえ、先週日曜バイトしてたよな」
朋也「それも、このくらいの時間帯にさ。今日もあったんじゃないのか」
紬「うん、そうなんだけどね。シフト代わってもらったの」
朋也「昨日の今日でよく都合がついたな」
紬「うん、まぁ、ちょっと無理いってお願いしたんだけどね」
朋也「無理にか。なんでまた」
紬「私も、みんなと遊びたかったから」
シンプルな理由。
動機としてはいびつな部類なんだろうけど、こいつが言うとまっすぐに見えた。
紬「もう三年生だし、こういう機会もどんどん減っていくと思うの」
紬「だから、思いっきり遊べる時間を大切にしたくて」
朋也「そっか…」
そう、今年はもう受験の年だ。
気合の入った奴なんかは、今の時期から休み時間にも単語カードをめくっている。
部活をしている奴だって、引退すれば即受験モードに入るだろう。
こいつら軽音部も、どこかで区切りがつけばそうなるはずだ。
大会のようなものがあるのかは知らないが、どんなに長くても秋ぐらいまでだろう。
まぁ、それも、俺や春原にとってはなんの関係もない話だが。
きっと俺たちは最後までだらしなく過ごしていくことになるんだろうから。
朋也「でも、それならバイトなんかやめて時間作ればいいんじゃないのか」
紬「う?ん、でも、せっかく慣れてきたから、もう少し続けたくて…」
紬「それに、少しでもお金は自分で稼いだものを使いたいから」
朋也「おまえ、小遣いとかもらってないのか」
紬「アルバイトを始めてからはもらってないかなぁ」
朋也「へぇ…なんか、生活力あるな、おまえ」
紬「そう? ありがとう」
本当に、見上げたお嬢様だった。
そのバイタリティはどこからくるんだろう。
朋也(庶民の俺も見習うべきなんだろうな、きっと)
―――――――――――――――――――――
唯「あ、岡崎くん、ムギちゃんっ」
律「お、来たか」
紬「お待たせ?」
メンバーは、軽音部の連中に加え、憂ちゃんと、真鍋がいた。
春原はまだ来ていないようだ。
憂「こんにちは、紬さん、岡崎さん」
紬「こんにちは、憂ちゃん」
朋也「よう」
律「岡崎、あんた憂ちゃんともよろしくやってるんだってな」
朋也「よろしくって…なにがだよ」
律「とぼけんなって。一緒に買い物出かけたんだろ、きのう」
また、知られたくない奴の耳に入ってしまったものだ…。
きっと、談笑中にでも先日のことが話の種となってしまったんだろう。
さっきから中野に冷たい視線を向けられているのも、それが理由に違いない。
律「やるねぇ、姉妹同時攻略か?」
朋也「おまえ、ほんとそういう話にするの好きな」
律「んん? 実際そうなんじゃないんですかぁ?」
朋也「違うっての…つーか、もういいだろ、このやり取り」
律「あんたがイベント起こすから悪いんだろぉ、このフラグ系男子め」
唯「ねぇ、りっちゃん。攻略って、なに? 弱点でも突いて一気にたたみかけるの?」
律「そんな、敵のHPを削る有効な攻撃のことじゃないって」
律「いいか? ここでいう攻略というのはだな、ずばり…」
ぐっと腕に力を入れる。
律「ヒロインをいかに自分のものにするか、ということだ!」
唯「ヒロイン?」
律「ああ。この場合ヒロインはおまえと憂ちゃんってことになるな」
唯「ふむふむ。それで?」
律「おまえの好感度は十分だと踏んだ岡崎は、次のヒロイン、憂ちゃんに移行したんだ」
律「それで、一緒に買い物に行き、フラグを立てた」
律「ゆくゆくは憂ちゃんの好感度もMAXにして、自分に惚れさせる」
律「そして、おまえと憂ちゃんを同時に手に入れて、ハーレムエンド、ってとこかな」
言いたい放題言われていた。
唯「おお、すごいねっ!…って、えぇ!?」
朋也「だから、違うっつの…」
唯「だよね、岡崎くんはそんな人じゃないよね」
律「ずいぶん信頼されてんなぁ。じゃ、憂ちゃんはどうなの」
憂「私ですか?」
律「うん。岡崎が彼氏って、どう?」
憂「そうですね…そうだったら、楽しいと思います」
律「おお!? 脈アリだ?」
梓「………」
中野の視線が鋭さを増す。
憂ちゃんにそう言ってもらえるのは素直に嬉しいが、この局面では複雑だ…。
憂「でも、岡崎さんは、お兄ちゃんですから」
朋也(ぐぁ…ここにきて…)
律「…お兄ちゃん?」
憂「はいっ。ね、お兄ちゃん?」
朋也「あ…いや…」
朋也「いや…好きだよ…」
ああ…俺はなにを言ってるんだ…
憂「ありがとう、お兄ちゃんっ」
場が凍りついているのがはっきりとわかる…
終わりだ…俺はもう…
DEAD END
朋也(んなアホな…)
律「…まぁ、なんだ…そういう趣味か」
朋也「い、いや、待て、説明させてくれっ」
律「言い訳があるんなら、聞いてやるよ。最後にな」
朋也(最後ってなんだよ、くそっ…)
朋也「あー、えっと、そうだな…」
必死に頭の中で言葉を紡ぎだす。
朋也「俺、ひとりっこでさ、だから、そういう兄妹とかに憧れがあったっていうか…」
俺はしどろもどろになりながらもなんとか弁明した。
律「ふーん、それで憂ちゃんに頼んだってことね」
朋也「ああ、そうだよ」
憂「ごめんなさい、少し悪乗りしちゃいました」
朋也「もうお兄ちゃんは今後禁止だ」
憂「はぁい」
律「ま、それでもかなり引くけどな」
朋也「ぐ…」
唯「でも、岡崎くんがお兄ちゃんってよくない?」
律「いや、全然」
唯「えー、そうかなぁ。私はいいと思うんだけどなぁ…」
唯「ね、お兄ちゃんっ」
腕に絡んでくる。
朋也「あ、おい…」
憂「あ、お姉ちゃんずるいっ」
もう片方も取られてしまう。
梓「に゛ゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!」
突然奇声を発し、肩を怒らせずんずんとこちらに近づいてくる。
梓「えいっ!」
唯「うわぁっ」
憂「きゃっ」
無理やり平沢姉妹を俺から引き離し、距離をとった。
梓「唯先輩、あんな人に近づいちゃだめですっ!」
唯「え、でも…」
梓「だめったらだめなんです! あの人は…変態です!」
唯「そ、そんなこと…」
梓「あります! だから、だめです!」
唯「あ、あう…」
梓「憂も!」
憂「梓ちゃん、こわいよぉ…」
憂「う、は、はい…」
俺は呆然と、その力強く説き伏せられている様子を遠くから眺めていた。
律「はっは、変態だってよっ」
朋也「………」
律「ま、元気出せって、ははっ」
笑いながら、ぱんっと肩を叩き、中野たちがいるところまで歩いていった。
朋也「……はぁ」
思いのほかヘコむ。
澪「あの…」
朋也「…なんだよ」
澪「梓が失礼なこと言って、すいません」
朋也「ああ…まぁ、しょうがねぇよ、言われても」
澪「そんな…梓はただ嫉妬してるだけっていうか…そんな感じなんだと思います」
朋也「嫉妬?」
澪「それで、岡崎くんに唯を取られちゃうんじゃないかって、多分そう思ったんだと…」
紬「確かに、それはあるかもしれないわね」
朋也「はぁ…」
澪「だから、あの…元気出してくださいね」
よほど落ち込んでいるように見えたのか、そう励ましてくれた。
朋也「ああ、サンキュな。ちょっと救われた」
少し大げさに立ち直った風を装う。
一応、俺なりに礼儀をわきまえたつもりだ。
澪「あ、そ、それはよかったです…」
恥ずかしそうに顔を伏せてしまった。
割と顔を合わせているのに、まだ慣れないんだろうか。
それとも、俺が苦手なのか…。
紬「それにしても、あんなに取り乱す梓ちゃん、初めて見たわぁ…あんな梓ちゃんも、可愛くていいかも」
紬「それに、岡崎くんにじゃれついてる時の唯ちゃんも、憂ちゃんも可愛いし…」
紬「岡崎くんにはもっと頑張ってもらわなきゃねっ」
くすくす笑いながら、おどけたように言う。
つんつん、と背中をつつかれる。
朋也「あん?」
和「で、どっちが本命なの? 唯? 憂?」
真鍋がひそひそと語りかけてきた。
和「あなたに唯を推した身としては、まず二股なんて許さないから」
朋也「どっちでもねぇっての。つか、もうそういうのは勘弁してくれ」
和「そうしてほしいなら、さっさと結論を出しなさい」
朋也「結論って、おまえ…」
一度、深く息を吐く。
朋也「そもそも、そんなんじゃねぇからこそ、やめてほしいんだけどな」
和「あなたがそうでも、唯のほうは違うわよ」
朋也「いや、あいつもそんな気はないって言ってたぞ」
和「あの子自身、まだはっきりとは気づいてないだけよ」
朋也「なんでおまえがそんなことわかるんだよ」
朋也「だとしても、おまえ自身恋愛したことないんだろ?」
朋也「だったら、実体験に基づいてないぶん、説得力に欠けるよな」
朋也「そんなの、おまえらしくないんじゃないのか」
和「それは…そうだけど…」
朋也「仮に…仮にだぞ? 平沢がもしそうだったとしてもだ」
朋也「俺が誰かに促されて、あいつの気持ちが未整理のまま結論出されたりするのは嫌なんじゃないのか」
和「………」
しばし、沈黙する。
和「…そうね。私が間違ってたわ」
すっと身を離した。
和「煙に巻かれたようで、少しシャクだけどね」
朋也「そう言うなよ」
和「でも、やっぱりあなたはなかなか見所があるわ。どう? 例の話、考え直してみない?」
朋也「いや、ありがたいけど、その気はない」
そう言うと、俺から離れていった。
向こうからは、部長たちが何事か騒ぎながら戻ってきている。
また、騒がしくなりそうだった。
―――――――――――――――――――――
春原「あれ、もうみんな来てんのか」
春原が腹をぽりぽり掻きながら、ちんたら坂を上ってきた。
律「あれ、じゃねぇっつーの! もう20分遅刻だぞっ!」
春原「わり、出掛けにちょっと10秒ストップに手出したら、長引いちゃった」
律「そんなもん暇なときにでもやれよなっ!」
春原「ま、いいじゃん。さっさといこうぜ」
律「ったく、こいつは…」
春原「って、その子、誰よ?」
憂「あ、初めまして。私、平沢憂と言います。二年生です」
春原「平沢? もしかして、妹?」
憂「はい、そうです」
春原「ふーん、あっそ。似てるね、顔とか」
憂「ありがとうございますっ」
似ている、はこの子にとって褒め言葉だったようだ。
春原「ま、いいや。行くぞ、おまえら」
律「遅れてきた奴がえばんなってーの…」
―――――――――――――――――――――
グラウンドまでやってくる。
今日は運動部の姿もなく、広い場内は閑散としていた。
おそらくは、他校で練習試合でもあって、出払っているのだろう。
俺もまだバスケをやっていた時分、休みの日は大抵そうだった。
なければ、普通に練習があったのだが。
なんにせよ、サッカー部がいなくてよかった。
…というか、いたらどうするつもりだったんだろうか。
平沢がサッカー部の動向を知っていたとは思えない。
となると…やっぱり、そこまで考えていなかったんだろうな…。
朋也(それよりも…)
朋也「今更だけど、勝手に使っていいのか、このコート」
唯「え? だめかな?」
朋也「いや、サッカー部の連中が気を悪くするんじゃないのかって話だよ」
春原「まぁ、大丈夫でしょ」
春原が答えた。
春原「今いないってことは、今日は朝練だけだったか、よそで試合があったんだろうからね」
春原「これから鉢合わせすることもないだろうし…あとでトンボだけ掛けとけばいいよ」
ソースがこいつというのは普段なら心許ないが、一応元サッカー部だ。
今回に限ってはそれなりに信憑性があった。
律「やけに自信たっぷりだな…なんか根拠でもあんの?」
朋也「こいつ、元サッカー部だからな」
律「え、マジで?」
春原「ああ、まぁね」
律「それできのう、実力がどうのとか言ってやがったのか…」
春原「ま、んなこといいからさ、とっとと始めようぜ」
朋也「そうだな。じゃあ、おまえ、番号入ったビブス着て、枠の中に立ってくれ」
朋也「俺たち、かわるがわるシュートで狙うから」
律「わははは! そっちのがおもしろそうだな!」
春原「僕はまったくおもしろくねぇよ!」
春原「最初はチーム分けだろ、チーム分けっ」
朋也「じゃ、春原対アンチ春原チームでいいか」
春原「僕を集団で攻撃するっていう構図から離れてくれませんかねぇっ!」
朋也「でも、俺たち奇数だしな。綺麗に分けられないし」
春原「だからって、僕一人っていうのは理不尽すぎるだろっ」
朋也「じゃあ、おまえ、右半身と左半身で真っ二つに別れてくれよ。それで丸く収まる」
春原「僕単体を無理やり偶数にするなっ!」
春原「って、もうボケはいいんだよっ」
春原「平沢、どうすんだ」
唯「う?ん、そうだねぇ…まず、春原くんと岡崎くんは別チームにしなきゃね」
春原「あん? なんで」
唯「男の子だからね。分けておきたいから」
唯「後は私たちで別れるよ」
春原「わかった」
唯「じゃ、みんな、ウラかオモテしよう!」
律「久しぶりだなぁ、そんなことすんの」
澪「律、なんでチョキを出そうとしてるんだ。じゃんけんじゃないんだぞ」
律「お約束お約束」
皆平沢のもとに集合し、円を作っていた。
春原「へっ、チーム春原対チーム岡崎の頂上決戦だな、おい」
朋也「今までトーナメント勝ちあがってきたみたく言うな」
春原「ドーハの悲劇が起こらなきゃいいけどねぇ、ふふん」
こいつは、絶対ドーハの悲劇が言いたかっただけだ。
―――――――――――――――――――――
チーム分けが終わり、メンバーが決まった。
Aチームは、俺、憂ちゃん、真鍋、秋山、部長。
Bチームは、春原、琴吹、中野、平沢。
こっちの方が人数は多いが、春原は元サッカー部だ。
両陣営に別れ、ボールを中央にセットする。
ちなみに、持ってきたボールは部長の弟のものだそうだ。
それはともかくとして、先攻は春原チーム。
春原「よし、キックオフだっ」
横にいた中野からパスを受け、春原がドリブルで切り込んでくる。
律「おっと、通すかよっ」
それに部長が対応した。
春原「はっ、デコのくせにスタメン起用か。世も末だなっ」
律「なにぃっ! 本田意識して金髪にしたようなバカのくせにっ」
律「実力が違いすぎて違和感あるんだよ、アホっ!」
春原「隙アリっ! とうぅっ」
律「わ、やべっ」
股の間にボールを通され、突破される。
屈辱的な抜かれ方だ。
春原「ははは、甘いんだよっ」
朋也「おまえがな」
通された先、俺が待ち構えていた。
ボールを奪い、カウンターを仕掛ける。
しかし初心者の俺では春原のようにボールコントロールが上手くいかない。
走ってはいるが、スピードが出せないのだ。
後ろからは春原が追ってくる。
前からは中野。
俺は周囲を見てパスを出せるか確認した。
秋山が右サイドに上がっている。しかもフリーだ。
好機と見て、パスを送ろうとした時…
梓「ていっ!」
ずさぁあっ!
朋也「うぉっ」
ボールではなく、直接俺の脚めがけてスライディングが飛んできた。
間一髪かわす。
梓「チッ」
朋也(舌打ちって、おまえ…)
春原「よくやった、二年!」
春原がボールを拾う。
律「今度は絶対通さねぇーっ」
前線にいる平沢にパスを送った。
律「あ、ずりぃぞっ! 勝負しろよ!」
春原「ははは、また今度な」
律「くそぅ、勝ち逃げしやがって…」
朋也「真鍋、頼んだぞっ」
真鍋は攻め込んできていた平沢をマークしていた。
ボールを受けた平沢と一対一の状況になっている。
唯「和ちゃん、幼馴染だからって手加減しないよっ」
和「その必要はないわ。あんた、運動神経ゼロじゃない」
唯「ムカっ! メガネっ娘に言われたくないよっ」
和「なら、私を抜いてゴールを決めてみなさい」
唯「言われなくてもっ」
平沢が走り出す。
…ボールをその場に置いたまま。
和「せめて、ボールを蹴るくらいはしなさいよ…」
唯「ああ!? 和ちゃんの鉄壁メガネディフェンスにやられた!」
和「なにもしてないけどね…」
春原「なぁにやってんだよ、平沢っ」
唯「ごめぇん、和ちゃんの動きが速すぎて見えなかったよぉっ」
その珍回答に、ずるぅ、とこける春原。
春原「…わけわかんねぇ奴だな…」
朋也「秋山、いけっ、ドフリーだぞっ」
さっきクリアされたボールは、秋山の手に渡っていた。
ゴールを遮るものは、キーパー以外なにもない。
ドリブルで進んでいく。
澪「ムギ、私は本気でいくからな」
紬「くす…どうぞ」
澪「はぁっ」
どかっ
紬「みえたっ」
飛び込みキャッチでボールを抱え込む。
澪「うわ、すごいな、ムギ…」
澪「って、ムギ…?」
琴吹はボールを抱え込み、そのまま足で締め上げていた。
紬「あ、つい癖で…」
ボールを持ち、立ち上がる。
紬「掴んだら逆十字で折って、そのまま三角締めに移行するよう言われてるから…」
つまり、ボールに関節技を掛けていたのか…。
つーか、そんな球体に間接なんかない。
澪「なんかわかんないけど、とりあえずすごいな…」
紬「ありがと。そぉれっ」
蹴りではなく、投げでボールをフィールドに戻した。
それなのに、なかなかの飛距離があった。
女にしては、かなりの強肩だ。
澪「すご…」
放物線を描き、やがて地面に着地する。
それを拾ったのは春原だ。
またドリブルで切り込んでくる。
律「させるかっ」
春原「またおまえか。おまえじゃ僕を止められねぇよ」
律「ふん、ほざけよ…」
じりじりと膠着状態が続く。
春原「ほっ」
律「あ、ちくしょっ」
春原は一度パスを出すフェイントを入れ、スピードで抜き去った。
俺がフォローに回る。
すると、フリーになった中野にパスが回った。
今度はこちらに失点の危機が訪れた。
梓「憂、岡崎先輩側に回るなんて、許さないからっ」
憂「そんなぁ、運だから仕方ないのにぃ…」
梓「御託はいいのっ! やってやるですっ」
憂「――――√v―^―v―っ!!」
憂ちゃんが機敏に動き出す。
憂「ここだよっ」
バシィ!
その移動した先、どんぴしゃでボールが飛んでいった。
梓「な、なんで…私が打つ前に…」
憂「うーん、先読みって奴かな?」
ニュータ○プか。
梓「く…憂…やっぱりあなどれない…」
律「憂ちゃーん、パスパース!」
憂「はぁーい。いきますよぉ、律さん」
ボールが高く蹴られた。
グラウンドには、俺たちの声がこだましている。
まるで、はしゃぎまわる子供のようだった。
空を見上げる。
天気もよく、すみずみまで晴れ渡っている。
そんな中、たまにはこうやって健康的に汗を流すのも、悪くないものだ。
―――――――――――――――――――――
律「ふぃ?、ちかれたぁ?…」
紙コップを渡す。
律「お、テンキュー」
ひとしきり遊んだ後、ピクニックシートを敷いて休憩を入れていた。
琴吹が用意してくれたケーキや紅茶、各自持ち寄った菓子類を囲んで座っている。
律「ぷはぁ、うめぇーっ」
澪「確かに、運動の後の一杯は格別だよな」
律「運動か…じゃ、今日はカロリーとか気にせず食べられるな、澪」
澪「別に、いつもそんな神経質になってるわけじゃ…」
律「嘘つけ、いつも写メで自慢のセルライト送ってくるじゃん」
澪「そんなことしたことないだろっ」
ぽかっ
律「あてっ」
春原「ははっ、殴られてるよ、こいつ」
律「ツッコミだっつーのっ」
朋也「おまえはいつもラグビー部に死ぬ寸前までガチで殴られてるけどな」
律「わはは、だっせーっ!」
春原「黙れっ、負けチームっ」
律「ああ? まだ試合は終わってないだろ。つーか、たった一点リードしてるだけじゃん」
律「このハーフタイムが終わったら一気に逆転してやるよ」
春原「ふん、せいぜい無駄な足掻きをすればいいさ」
律「けっ、威張ってられるのも今のうちだぜ」
春原「はーっはっはっは!」
律「はーっはっはっは!」
悪者のように高笑いする二人。
唯「なんか、生き生きしてるよね、春原くん」
隣にいた平沢が俺にそっと話しかけてくる。
朋也「かもな。あいつがあんなノリノリになってる時なんて、あんまないからな」
悪ふざけしている時ぐらいにしか見せない顔だった。
唯「じゃあ、やってよかったのかなぁ、サッカー」
朋也「ああ、多分な」
梓「ていっ」
ばしっ
朋也「って…」
中野に払われてしまった。
梓「唯先輩、このクッキーおいしいですよ。あ?んしてください。私が食べさせてあげます」
唯「わぁ、ありがとうあずにゃんっ」
唯「あ?ん」
寄り添って、口にクッキーを運ぶ中野。
唯「むぐむぐ…おいひぃ?」
梓「ですよね」
にやり、と俺を見てほくそ笑んでいた。
朋也(なんなんだよ、こいつは…)
―――――――――――――――――――――
律「うし、そんじゃ、そろそろ再開するか」
春原「後半戦の開始だね」
律「開始五分で逆転してやるよ」
春原「はっ、軽く追加点取ってやるよ」
律「自分のゴールにハットトリックしてろ、オウンゴーラー春原め」
春原「おまえこそ、レフリーに後ろからスライディングかまして一発退場してろ」
ぎゃあぎゃあ言い合いながら立ち上がり、グラウンドへ向かって行った。
残された俺たちも、やや遅れてそれに続く。
すると…
男1「あれ? なにこいつら」
男2「あ、軽音部の子じゃね?」
男3「うぉ、マジだ」
男4「つか、春原もいるんだけど」
男5「岡崎もいるぞ」
男6「なに、あの組み合わせ」
向こうから私服の男たちが6人、ぞろぞろとやってきた。
俺は春原のそばまで小走りで寄っていった。
朋也「おい、春原、あいつら…」
春原「…ああ、サッカー部の連中だよ」
朋也「練習しにきた…ってわけじゃないよな」
春原「だろうね。向こうも僕らと同じで遊びに来たんだろ」
なら、試合があったわけじゃなく、朝練が終わって解散していただけだったのか…。
サッカー部員「おい、春原。ここでなにしてんだよ」
話していると、ひとりの男が若干敵意を含んだ言い方でそう訊いてきた。
春原「別に、遊んでるだけだっつの」
サッカー部員「そっちの軽音部の子たちはなんなんだよ」
春原「こいつらも、同じだよ」
サッカー部員「は? おまえ、軽音部の子たちと遊んでんの?」
サッカー部員「うわ、ありえねー」
サッカー部員「こんな奴がよく取り合ってもらえたな」
部員たちに、どっと笑いがおこる。
春原「ぶっ殺すぞ、てめぇらっ!」
春原がキレて、殴りかかっていく勢いで一歩を踏み出す。
サッカー部員「は? また暴力かよ」
サッカー部員「変わんねぇな、このクズは」
サッカー部員「おまえのせいで俺たち、どんだけ迷惑したかわかってんのか」
サッカー部員「関係ない俺たちまで、いろんなとこで頭下げさせられたんだぞ」
サッカー部員「新人戦だって出られなかったしな。実績あげないと、推薦だって危ういのによ」
サッカー部員「まだそのことで謝ってもねぇのに、あまつさえ俺たちに暴力振るうのかよ」
サッカー部員「今度は退学んなるぞ、てめぇ」
春原「……くそっ」
踏みとどまる。
そうさせたのは、退学だなんて脅しじゃない。
きっと、胸の奥底では感じていたであろう罪悪感の方だったはずだ。
サッカー部員「君ら、軽音部の子たちだよね?」
サッカー部員「こんな奴らとじゃなくてさ、俺らと遊ばね?」
自分たちから一番近い位置にいた部長に訊いてから、後方にいた連中を眺め渡した。
律「………」
だが、部長を筆頭に、誰もなにも言わない。
サッカー部員「うわぁ、やっぱ、りっちゃん可愛いって」
サッカー部員「ばっか、澪ちゃんだろ」
サッカー部員「俺唯ちゃん派」
サッカー部員「あずにゃんだろ、流石に」
サッカー部員「おまえら、ムギちゃんのよさわかれよ」
答えないでいると、その内、内輪で盛り上がり始めた。
サッカー部員「つか、見たことない子もいるけど、あの二人もかわいくね?」
サッカー部員「うぉ、マジだ。後ろで髪上げてる子と、メガネのな」
サッカー部員「つか、メガネのほうは、生徒会長じゃん」
サッカー部員「そうなの?」
サッカー部員「知らねぇ。寝てたわ、多分」
一斉に笑い出す。
律「…わりぃけど、あんたらと遊ぶ気にはなんないわ」
サッカー部員「えー、なんでだよ」
サッカー部員「カラオケいこうよ。おごりでもいいよ」
律「あたしら、サッカーしに来てんだよね。カラオケなら、あんたらでいきなよ」
サッカー部員「サッカー? 俺らも、そうなんだけど」
サッカー部員「サッカーがしたいなら、俺らのほうがいいよ」
サッカー部員「春原みたいな半端な奴とか、岡崎みたいなただのヤンキーとやるより楽しいよ」
サッカー部員「そうそう、いろいろヤって、楽しもうよ」
サッカー部員「ははは、腰振んなよ、おまえ」
サッカー部員「ははははっ」
サッカー部員「ははっ、てかさぁ、春原が今更サッカーってどうなの」
サッカー部員「マジ、ウケるよな」
サッカー部員「それしかねぇな。マジでカスみてぇ」
唯「…どうしてそこまでいうの?」
平沢が口を挟む。
サッカー部員「ん?」
唯「春原くんが喧嘩して、大会出られなかったのは、残念だったけど…」
唯「もう、終わったことなんだし…そんなに言わなくてもいいでしょっ!」
サッカー部員「あー、あのさぁ…」
一番体格のいい男が、ぽりぽりと頭を掻きながら前に出てくる。
サッカー部員「まぁ、お遊びクラブで仲良しこよしやってる子には、わかんないかもだけどさ…」
サッカー部員「俺ら、マジで部活やってんだ? そんで、将来とか懸かってんの。わかる?」
澪「そんな、私たちだって真剣に…」
サッカー部員「軽音部って、茶飲んでだらだらしてるだけなんでしょ? けっこう有名だよ」
澪「それは…」
梓「そんなことないですっ! 馬鹿にしないでくださいっ!」
サッカー部員「あずにゃんのプレイ、最高?」
サッカー部員「萌え萌え?」
他の部員が横から茶化しを入れると、皆へらへらと笑いあった。
梓「………」
中野の顔が紅潮していく。
奴らの態度は、どうみても馬鹿にしているそれだった。
サッカー部員「ま、だからさ、公式戦って、超大事なんだ。それを台無しにされたら、普通怒るよね」
唯「でも…でも…言ってることがひどすぎるよ…」
サッカー部員「クズにはなに言ってもいいんだよ」
唯「クズなんかじゃないよっ! 春原くんは、ちゃんとした、いい人だよっ!」
サッカー部員「ぶっははは! それ、マジで言ってんの?」
サッカー部員「いい人とかっ、ははっ、春原がかよっ」
サッカー部員「ああ、やっぱ、唯ちゃん頭弱ぇなぁ」
また下品に笑いあった。
唯「うぅ…」
朋也(こいつら…)
もう、限界だった。
そもそも、最初からどこか癇に障る奴らだったんだ。
春原が踏みとどまっていなければ、俺も喧嘩に加わるつもりだった。
一度は耐えたが、それももう終わりだ。
手を出したほうが負け? そんなもん知ったことか。
喧嘩を売ってきたこと、死ぬほど後悔させてやる。
春原「おい、岡崎…」
朋也「…ああ」
春原も俺と同意見のようだった。
ぶっ飛ばしてやろうと、そう意気込んだ時…
律「あーあ、もういいや。みんな帰ろうぜ」
部長がそう言った。
律「なんかこいつらもここ使うみたいだし…それに、しらけちゃったしな。変なのが来たせいで」
律「はい、撤収?」
言って、敷かれたままのピクニックシートの方に足を向けた。
サッカー部員「や、ちょっと待とうよ」
部長の腕を掴んで引き止める。
律「触んなっ。離せ、バカっ」
その手を乱暴に振り払う。
サッカー部員「っ、んだよ、こいつ…調子乗りすぎ」
サッカー部員「ちっと可愛くて人気あるからって、これはねぇわ」
サッカー部員「ライブとか言って、下手糞な演奏しても、チヤホヤされるもんな」
サッカー部員「ああ…それはあるかも」
サッカー部員「よな? 聴きに来てる奴らなんか、ほとんどこいつらの体目当てだし」
サッカー部員「体って、おまえさっきからエっロいな」
サッカー部員「はは、うっせぇ」
律「なんだと…? 大人しく聞いてりゃ、つけあがりやがって…」
サッカー部員「え? 怒っちゃう? もしかして、自覚なかったの?」
サッカー部員「うわぁ、勘違い系?」
サッカー部員「痛ぇ奴」
サッカー部員「つーか、部員が可愛い子ばっかなのはそういうことだろ、どうせ」
サッカー部員「ははは、マジでそれっぽ…」
いい終わる前、その部員は殴り倒されていた。
サッカー部員「っつ…てめぇ、春原ぁっ!」
倒れこんだまま、怒声をあげる。
春原「馬鹿にしてんじゃねぇっ!」
春原が吠えた。
律「春原…」
春原「こいつらはなぁっ、そんなんじゃねぇんだよっ!」
サッカー部員「はぁ? なんだこいつ…」
春原「うぉおおおおおおおおおおおっ!!」
突っ込んでいく。
たちまち乱闘になった。
澪「ど…どうしよう、誰か呼んでこないとっ…」
朋也「やめてくれ。んなことされたら、俺らが捕まっちまうよ」
澪「え…」
和「ま、なんとかしてみるわ」
朋也「頼んだぞ」
前を見る。
春原が囲まれて、四方から蹴りをもらっていた。
ぐっ、と拳にに力を込める。
2対6。不利だが、不思議と負ける気はしなかった。
朋也「てめぇら、俺に背中向けてんじゃねぇっ!」
唯「あっ、岡崎くんっ…」
後ろから平沢の声がした。
だが、振り返ることはしなかった。
まっすぐ敵に向かって拳を振り下ろす。
相手の嗚咽する声と、拳に鈍い痛みが走ったのは同時だった。
―――――――――――――――――――――
呼吸が苦しい。
ずっと全力で殴り続けていたから、まったく余力が残っていない。
体重を支えるその脚にも、まともに力が入らない。
立っているのがやっとだった。
それに加え、身体中が痛む。
打撲に、擦り傷、切り傷…鼻血も出ている。
口の中には血の味が広がっていて、なんとも気持ち悪かった。
もう、ボロボロだ。
散々殴られたその顔で、苦しそうに咳き込んだ。
ひどい表情だ。きっと今、俺も同じ状態なんだろう。
朋也「その顔で言うなよ…」
春原「へっ…」
ぐい、と血を拭う。
春原「ま、やっぱ、僕ら最強ってことだね…」
朋也「特に俺はな…」
春原「あんた、結構ナルシストっすね…」
喧嘩は、一応の決着がついた。
KOというわけじゃない。連中の方が撤退していったのだ。
それほど喧嘩慣れしていなかったのだろう。
痛みと、本気で殴りかかってくる相手への恐怖からか、終始引き気味だった。
そのおかげで、あまり長引かずに済んだ。
部活も辞めて長いこと経ち、持久力の落ちている俺たちにはありがたかった。
和「お疲れ様」
真鍋がタオルを渡してくれる。
俺たちはそれを受け取り、汗と血を拭き取った。
そして、顔を上げて一番最初に目に入ってきたのは、泣いている平沢の姿だった。
見れば、部長と真鍋以外、全員すすり泣いていた。
春原「無傷だけど」
律「そんなわけないだろ、見た目的にも…」
和「なんにせよ、治療は必要ね」
朋也「そうだな。おまえの部屋、なんかあったっけ」
春原「絆創膏ならあるよ」
朋也「ないよりマシか…まぁ、いいや」
朋也「そういうことだからさ、悪いけど俺たち、帰るわ。もう、フラフラだからな…」
和「待って。絆創膏だけじゃ駄目よ」
和「私たちが薬局で必要なもの買ってくるから、待ってて」
春原「できれば、もう帰りたいんすけど…」
和「じゃあ、寮で待ってて。確かあなた、地方からの入学で、寮生活してたわよね」
春原「はぁ、まぁ…」
和「唯と律はこの二人を支えながら送ってあげて」
和「坂の下をちょっと行ったところに寮があるから、そこまで」
律「お、おう」
和「憂と琴吹さんは、グラウンドをトンボでならしておいて欲しいんだけど…」
それは、血が飛び散って、いたるところに黒いシミを作っていたからだろう。
憂「は、はい、任せてください」
紬「うん、任せて」
和「私と梓ちゃんと澪は、薬局に買出しね」
澪「わ、わかった」
梓「は、はい」
和「じゃ、みんな、さっと動きましょ」
その一言で、各自行動を開始した。
仕切るのが上手いやつだった。
人の上に立つ器とはこういうものなんだろうか…。
ぼんやりと思った。
―――――――――――――――――――――
唯「う…ひっく…ぐすん…」
朋也「おい…もう泣きやめ」
俺は平沢に、春原は部長に支えられながら、坂を下っていく。
唯「わだしがサッカーやるなんていっだがら…ぐすん…」
朋也「おまえのせいじゃないだろ」
春原「そうそう。あのバカどもが分をわきまえず喧嘩売ってきたのが悪いんだよ」
唯「うう゛…ぐすん」
律「…その件だけどさ、あんた、ちょっと見直したよ」
春原「あん? なんだよ、気色悪ぃな…」
律「いや…ほら、私たちが馬鹿にされたとき、あんた、すげぇ怒ってくれたじゃん?」
律「それがなんていうか…な? 意外だったんだよ」
それは、俺も同じだった。
まさか、こいつの口からあんなセリフが飛び出してくるとは思わなかった。
春原「は…その場のノリって奴だよ。勘違いす…」
春原「おわっ」
つまずく。
律「おい、しっかりし…」
どごぉっ!
春原「うぐぇっ」
春原のレバーに部長の鉤突きが突き刺さる。
律「どさくさにまぎれて、どこ揉んでんだ、こらぁっ!」
春原「い、いや…違う、そんなつもりじゃ…」
律「くそぉ、こんな変態、見直したあたしが馬鹿だった…」
春原「って、なに髪つかんでんだよっ、っつつ…」
律「あんなたなんかこれで十分だっつの! さっさと歩けっ、ボケっ」
春原「うわ、やめろっ、スピード落とせっ!」
どんどん坂を下っていく…いや、引きずられて、か。
唯「ぷ…あははっ」
あのふたりに感化されたのか、平沢がぷっと吹き出し、笑みを浮かべていた。
唯「もう…ほんと楽しそうだなぁ…」
朋也「じゃあ、おまえが今日サッカーに誘ったこと、無駄じゃなかったな」
朋也「ああ。結果よければ、全てよしってやつだ」
唯「あは…うん、ありがと」
―――――――――――――――――――――
春原の部屋。
ここに、全員が集まっていた。
トンボ班と、医療班には、メールで部屋の番号を伝えていた。
寮の場所は、坂下から一直線なので、それだけでよかったのだ。
春原「いつつ…」
紬「あ、ごめんなさい。しみた?」
残りの連中が部屋に駆けつけてくれた時。
先に帰りついていた俺たちは、何事もなかったかのようにくつろいでいた。
その様子に、最初はポカンとしていたが、それも少しの間のこと。
何も言わず、顔をほころばせ、すぐに馴染んでくれていた。
春原「いや、大丈夫。ムギちゃんの愛で癒してくれれば」
紬「え? それは、どういう…」
春原「傷口を舐めて消毒して欲しいなっ」
紬「えっと…ごめんなさい、手刀でいい?」
律「わははは!」
これも、いつも通りだった。
少し前、凄惨な暴力を目の当たりにして、泣いていたのに。
今では、穏やかな空気さえ漂っていた。
朋也「と、つつ…」
澪「あ、ごめんなさい」
朋也「ああ、大丈夫。気にすんな」
俺も春原同様、治療を受けていた。
律「澪、おまえ、血苦手なのに、よくやんなぁ」
澪「消去法で、私しか残らなかったんだから、しょうがないだろ」
そうなのだ。
最初、平沢と憂ちゃんがやりたがってくれていたのだが、中野によって却下された。
その中野自身はやってもいいと言っていたが、悪意を感じたので遠慮しておいた。
部長と真鍋は不器用だと自己申告していたし…
それで、最後に残ったのが秋山だったのだ。
朋也「苦手なら、自分でやるけど」
澪「で、でも、背中とか、わからないでしょうし…私がやりますよ」
言って、上着を脱ぐ。
澪「って、ええ!?」
朋也「ん? なんだよ」
澪「なな、なんで脱いで…」
朋也「だから、背中やってくれるんだろ」
澪「そそ、そうですけど…」
朋也「じゃ、よろしく。おわったら、自分でやるから」
背を向ける。
澪「うう…」
律「きゃぁ、澪がたくましい男の背中に見ほれてるぅ」
澪「ううう、うるさいっ!」
朋也「ぐぁ…」
部長の煽りで力が入ったのか、傷口に痛みが走った。
澪「あ、ご、ごめんなさい…」
澪「だだだ、ダーリンって…」
朋也「うぐぁ…」
澪「あ、また…ご、ごめんなさい」
朋也「部長…マジでしばらく黙っててくれ…」
律「きゃはっ! ごめんねっ、てへっ!」
こつん、と頭にセルフツッコミを入れた。
朋也(ったく…)
―――――――――――――――――――――
紬「はい、これでよし」
春原に最後の絆創膏を貼り終える。
春原「ありがと、ムギちゃん」
律「おまえ、それくらいは自分でやれよな…」
春原「せっかくムギちゃんが全部やってくれるっていうんだからね」
春原「のっかっておかなきゃ、未練なく成仏できねぇよ」
春原「それくらい僕の愛は深いってことさ。ね、ムギちゃん?」
紬「あら? この異様に盛り上がってる部分の床はなにかしら」
春原「って、余計な詮索しちゃだめだよっ!」
律「ああ…エロ本か」
澪「……うぅ」
春原「ちがわいっ!」
朋也「そのエリアはかなりディープなのが隠されてるぞ」
春原「エリアとか、妙にリアリティのある嘘つくなっ!」
春原「ムギちゃんも、剥がそうとしないでね…」
紬「あ、ごめんなさい。好奇心が抑えられなくて…」
春原「はは…まぁ、ただの欠陥住宅だったんだよ、ここ」
朋也「住んでる奴の気が知れねぇよな」
春原「住人の目の前で言うなっ!」
律「わははは!」
平沢も、憂ちゃんも、琴吹も、真鍋も、秋山も、中野も…みんな笑っていた。
俺も、つられてちょっとだけ笑ってしまう。
ツッコミを入れた春原自身も、苦笑していた。
春原「ああ…そうだ」
春原「ところでさ、平沢」
唯「ん? なに?」
春原「僕がサッカー辞めた理由、知ってたみたいだけどさ…」
春原「こいつから聞いたの?」
唯「えっと…うん…」
唯「私が、しつこく軽音部にきてくれるように言ってたら…教えてくれたんだ」
唯「ごめんね…知ってて、サッカーしようって、誘ったんだ、私…」
春原「いや…いいよ。それなりに楽しかったしね」
春原「………」
春原「まぁ、これから言うことは、適当に聞き流してくれていいんだけどさ…」
みんなが春原に注目する。
春原「あのさ…」
春原「僕、とんでもねぇ学校に入っちまったと思ってた」
春原「ガリ勉強野郎ばっかりでよ…」
春原「部活でも、みんな先のことしか考えてねぇんだ」
春原「絶対、友達なんか作らねぇって思ってた」
春原「意地張ってたのかな、やっぱり」
春原「でもさ…そうすると…」
春原「僕の心が保たなくなってたような気がする…」
朋也「………」
それは、俺も同じだった。
同じように考えて…同じように苦しんでいた。
春原「中学の頃の連れは、みんな中卒で働いてたしさ…」
春原「そいつらの元にいきたいって思うようになったんだ」
春原「サッカー部の連中に苛立ってたのが、半分で…そんな思いが半分で…」
春原「それで、やらかしちゃったんだ」
春原「他校の生徒相手に大暴れしてさ…」
春原「おまえ、覚えてるか?」
春原「初めてあったときのこと」
朋也「…ああ」
脳裏にふと思い浮かぶ。
鮮明で、鮮烈に記憶されている光景だった。
春原「おまえに会ったのは、その時だよ」
春原「あん時、おまえは幸村のジジィと一緒だった」
春原「生活指導を受けて、ジジィが担任だったから、引き取りに来てたんだよな」
朋也「だったな…」
春原「それでさ…」
春原「おまえさ、ボコボコに顔を腫らした僕を見てさ…どうしたか、憶えてるか?」
朋也「…ああ」
―――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――
春原「…大笑いしたんだよな、おまえ」
春原「すげぇ不思議だった」
春原「なんでこいつ、こんなにおかしそうな顔して笑ってるんだろうってな…」
春原「そう考えてたら、僕までおかしくなってきた」
春原「我慢しようとしたけど、ダメだった」
春原「僕も、笑っちゃったよ」
春原「この学校に来てから、あんなに笑ったのは、初めてだった」
春原「すげー気持ちよかった」
朋也「そう…だったな」
あの時の情景。
思い出してみると、自然と笑みがこぼれた。
春原「あの後、ジジィに連れられて、宿直室いったら、さわちゃんいてさ…」
春原「そこで用意してくれてた茶飲んで…おまえと話したんだよな」
春原「今なら、なんとなくわかるよ」
春原「全部、あのジジィとさわちゃんが仕組んでたんだぜ」
春原「僕とおまえを引き合わせてさ…」
春原「きっと、一人じゃ辞めてしまうって、気づいてたんだよ」
春原「いつか、訊いてみないとな」
春原「どうして、僕たちをこの学校に残したのかって」
朋也「だな…」
―――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――
春原「ま、後はもう一年だけどさ」
春原「またよろしくってことで」
朋也「ああ」
平沢たちは、しんみりとした表情で、じっと春原の話に聞き入っていた。
こんなに人がいるにも関わらず、静かな室内。
俺たちだけの言葉だけが響いていて、それがどこか心地よかった。
春原「つーか、腹減ったなぁ…どっか食い行くか、岡崎」
朋也「そうだな、いくか」
春原「おまえら、どうする。ついてくる?」
律「ん…なんか、今日は外食って気分だし…私はいいけど」
憂「うん、もちろんっ」
澪「私も、行きたいな…」
紬「私も。みんなで晩御飯なんて、楽しそう」
梓「じゃあ…私も」
和「ここまで付き合ったんだし、私も最後までいくわ」
春原「よぅし、全員か。じゃ、僕について来い」
律「どこいくんだよ」
春原「全皿100円の回転寿司だよ。知らねぇのか、スシロゥ」
律「知ってるけどさぁ…貧乏臭ぇなぁ…回転しない高級店でも連れてけよなぁ」
春原「なにいってんだ、ボケ。その場で自転するシャリでも食ってろ」
律「なんだと、こらっ!」
軽口を叩きあいながら、部屋を出ていく。
俺たちも、その様子を目にしながら、あとに続いた。
―――――――――――――――――――――
…二年前。
金髪のヘンな奴だった。
その顔はもっとヘンで、見ただけで大笑いした。
この学校に来て、初めてだった。
ああ、まだまだ笑えたんだって思った。
それが無性にうれしかった。
小さな楽しみを見つけた。
こいつと一緒に馬鹿をやってみよう。
やってみたら、やっぱりすごく楽しかった。
また、大笑いできた。
それが楽しくて、嬉しくて…
なんども、俺たちは笑ったんだ。
そして今も俺たちは…
―――――――――――――――――――――
春原「おーい、いい加減ネタ回してくれよ」
律「しょうがねぇだろぉ、九人も横に並んでんだぜ」
春原「だから、ちょっとは気を遣えって言ってんだけど」
朋也「わかったよ、ほら、今リリースしてやる」
回転棚に皿を載せる。
朋也「みんな、手つけないでくれ」
春原「おおっ、さすが岡崎、いい親友っぷりだねっ」
春原「って、これ、ワサビしか乗ってないんですけどっ!」
朋也「頼んだぞ、リアクション芸人。いまいちな感じだと、業界干されちゃうぞ」
春原「素人だよっ!」
律「わははは!」
大将「お客さん、食べ物で遊ばれたら、困るんですけどねぇ…」
春原「ひぃっ」
強面の寿司職人に凄まれる春原。
朋也「完食して詫びろっ」
春原「無理だよっ」
大将「お客さぁん…」
春原「う…食べます、食べます…」
ぱく
ぎゃああああああああああぁぁぁぁ…
―――――――――――――――――――――
春原と初めて出会った日。
あの日から、小さな楽しみを積み重ねて…
そして、今も俺たちは…
笑っている。
―――――――――――――――――――――
唯「おはよ?」
憂「おはようございます」
朋也「ああ、おはよ」
憂「怪我、どうですか? まだ痛みます?」
朋也「まぁ、まだちょっとな」
顔には青アザ、切り傷、腫れがはっきりと残っていた。
身体には、ところどころ湿布やガーゼが貼ってある。
憂「そうですか…じゃあ、直るまで安静にしてなきゃですね」
朋也「ああ、だな」
憂「それと、もうあんな無茶はしないでくださいね?」
憂「私、岡崎さんにも、春原さんにも、傷ついてほしくありません…」
朋也「わかったよ。ありがとな。心配してくれてるんだよな」
そっと頭を撫でる。
憂「あ…」
唯「私だって、めちゃくちゃ心配してたよっ」
唯「そうだよっ。だから…はい、どうぞ」
ちょっと身をかがめ、頭部を俺に差し出した。
朋也「なんだよ」
唯「好きなだけ撫でていいよっ」
朋也「じゃ、行こうか、憂ちゃん」
憂「はいっ」
唯「って、なんでぇ?!?」
―――――――――――――――――――――
唯「でもさ、岡崎くんと春原くんの友情って、なんかいいよね。親友ってやつだよね」
朋也「別に、そんな間柄でもないけどな…」
唯「まぁたまた?。きのう、春原くん言ってたじゃん。一人だったら、学校辞めてたって」
唯「それに、サッカーは辞めちゃったけど、新しい楽しみが今はあるんだよ」
唯「それが、岡崎くんと一緒にいることで、それは、岡崎くんも同じでしょ?」
唯「それくらいお互い必要としてるんだから、親友だよ」
憂「え? それって…どちらかが飼われてるってことですか…?」
憂ちゃんが食いついてきた。
こういう馬鹿話は、平沢の方が好みそうだと思ったのだが…。
朋也「そうだな、まぁ、俺が飼ってやってるといっても、間違いじゃないかな」
せっかくだから、さらにかぶせておく。
憂「ということは…岡崎さん×春原さん…」
憂「春原さんが受け…岡崎さんが攻め…ハァハァ」
ぶつぶつ言いながら、徐々に鼻息が荒くなっていく。
朋也「…憂ちゃん?」
唯「…憂?」
憂「ハッ!…い、いえなんでもないです、あははっ」
朋也(受け…? 攻め…?)
よくわからないが、なぜか憂ちゃんは微妙に発汗しながら焦っていた。
―――――――――――――――――――――
正面玄関までやってくる。
下駄箱は各学年で区切られているので、憂ちゃんとは一旦お別れになった。
朋也「っと…」
脱いだ靴を拾おうとしゃがんだ時、脚が痛んでよろめいた。
唯「あ、おっと…」
すぐ横にいた平沢に支えられる。
朋也「わり…」
唯「いやいや、このくらい守備範囲内ですよ。むしろストライクゾーンかな?」
こいつの例えはよくわからない。
梓「…おはようございます」
朋也(げ…またこいつか…)
音もなく背後に立っていた。
…とういうか、ここは三年の下駄箱なのだが…
唯「おはよう、あずにゃんっ」
俺を支え、体をくっつけたたまま挨拶する平沢。
梓「………」
じっと、俺の顔を見る。
梓「…今だけは特別です」
そう、俺にだけ聞えるようにささやいた。
そして、『また放課後に』と会釈し、二年の下駄箱区画に歩いていった。
朋也(…はぁ…特別ね…)
それは、多分怪我のことを考慮して言っているんだろうな…。
頬に貼った絆創膏をさすりながら、そう思った。
―――――――――――――――――――――
………。
―――――――――――――――――――――
朝のSHRが終わる。
一限が始まるまでは机に突っ伏していようと、腕を回した時…
さわ子「岡崎くん、その顔、どうしたの?」
さわ子さんが教室から出ずに、まっすぐ俺の席までやって来た。
さわ子「まさか、またどこかで喧嘩してきたんじゃないでしょうね…?」
朋也「違うよ。事故だよ、事故」
さわ子「事故って…なにがあったの? その怪我、ただ事じゃないわよ」
さわ子「それだけで、そんな風にはならないでしょ」
朋也「二次災害とか、いろいろ起きたんだ。それでだよ」
さわ子「ほんとに? どうも、嘘臭いわね…」
唯「ほんとだよ、さわちゃん! 私、みてたもん!」
さわ子「平沢さん…」
唯「ていうか、その自転車に乗ってたのが私だもん!!」
さわ子「………」
腕組みをしたまま、俺と平沢を交互に見る。
そして、ひとつ呆れたようにため息をついた。
さわ子「…わかったわ。そういうことにしておきましょ」
さわ子「ま、他の先生に聞かれたら、うまく言っておいてあげる」
この人は、やはりなにかあったとわかっているんだろう。
だてに問題児春原の担任を2年間こなしているわけじゃなかった。
唯「さわちゃん、かっこいい?っ」
さわ子「先生、をつけて呼びなさいね、平沢さん」
朋也「おまえ、嘘ヘタな」
唯「ぶぅ、岡崎くんに乗っかっただけじゃんっ」
唯「土台は岡崎くんなんだから、ヘタなのは岡崎くんのほうだよ」
朋也「唯、好きだ」
唯「……へ? あのあのあのあのあのっそそそそれれびゃ」
朋也「ほらみろ、俺の嘘の精度は高いだろ」
唯「……ふんっ。そうですね、すごいですねっ」
ぷい、とそっぽを向いてしまった。
からかいがいのある奴だ。
―――――――――――――――――――――
………。
―――――――――――――――――――――
和「ま、なんとかなりそうよ」
朋也「そうか、ありがとな」
和「いえ…あなたには借りがあるからね」
こいつの人脈を使って、各方面から圧力をかけていったそうだ。
それも、あの六人を個別にだという。
頼りになる奴だ。こんな力技、こいつにしかできない。
事後処理を頼める奴がいて、本当によかった。
和「まぁ、でも、彼らも大会を控えている身だし…」
和「自分たちから大事にしようとはしなかったかもしれないけどね」
和「彼ら自身も、暴力を振るっていたわけだから」
朋也「でも、おまえの後押しがあったからこそ、安心できるんだぜ」
和「そう。なら、動いた甲斐があったというものだわ」
和「ああ、それと、あなたたち、奉仕活動してたじゃない?」
朋也「ああ」
和「あれも、もうしなくてもいいように働きかけておいたから」
和「まぁ、あなたは最近まともに登校してるから、直接は関係ないでしょうけど」
朋也「って、んなことまでできんのか」
和「一応ね。先生たちの心証が悪かったことが事の発端だったみたいだから」
和「ちょっと手心を加えてくれるよう、かけあってみたの」
和「生徒会長うんぬんじゃないわ」
和「長いこと生徒会に入っていた中で作り上げてきた私のパイプがあったればこそよ」
和「立場的には、私個人としてしたことね」
朋也「そら、すげぇな」
和「生徒会なんてところに入ってると、先生方とも付き合う機会は多いから…」
和「深い繋がりができるのも、当然と言えば、当然なんだけどね」
それでも、口利きができるほどになるには、こいつのような優秀さが必要なんだろう。
朋也「でも、よかったのか」
和「なにが?」
朋也「おまえの好意は嬉しいけどさ…」
朋也「でも、それは、遅刻とかサボリを容認したってことになるんじゃないのか」
朋也「生徒会長として、まずくないか」
和「そうね。まずいわね。でも…」
くい、とメガネの位置を正した。
朋也「感情か…なんか思うところでもあったのか」
和「ええ。あなたたちは…そうね、自由でいたほうがいいと思って」
朋也「自由ね…」
和「うまく言えないけど…ふたりには、ちゃんと卒業して欲しいから」
和「規則で固めたら、きっと、息苦しくなって、楽しくなくなって…」
和「らしくいられなくなるんじゃないかしら。違う?」
朋也「そうだろうな、多分」
和「だから、最後まで笑っていられるよう、私にできることをしたのよ」
朋也「なんか、悪いな、いろいろと…」
朋也「でも、なんで俺たちを卒業させたいなんて思ったんだ」
なんとなく、さわ子さんや幸村に通ずるものを感じた。
和「あら、生徒会っていうのは、本来生徒のためにあるものよ」
和「だから、ある種、私の行動は理にかなってるわ」
和「特定の生徒をひいきする、っていうところが、エゴなんだけどね」
でも、本心を聞けなかった気もする。
和「まぁ、こんなに人のことを考えられるのも、私に余裕があるからなんだけどね」
和「生徒会長の椅子も手に入って、真鍋政権も順調に機能してるし…」
和「総合偏差値も69以上をキープしてるから」
こいつは、やっぱり真鍋和という人間だった。
これからも、ブレることはないんだろう。
朋也「おまえのそういう人間臭いところ、けっこう好きだぞ」
和「それは、どうも」
―――――――――――――――――――――
………。
―――――――――――――――――――――
昼。いつものメンツで学食に集まった。
春原「てめぇ、あれは事故だったって言ってんだろっ」
律「事故ですむか、アホっ! 損害賠償を求めるっ!」
春原「こっちが被害者だってのっ! あんな貧乳、揉みたくなかったわっ!」
朋也「まくらとかふとん掴んで、『なんか違うな…』とか言ってさ」
朋也「あれ、記憶の中の実物と、揉み比べてたんだろ」
春原「よくそんな嘘一瞬で思いつけますねぇっ!」
律「最低だな、おまえ…つーか、むしろ哀れ…」
春原「だから、違うってのっ!」
紬「春原くん…その…女の子の胸が恋しいの?」
春原「む、ムギちゃんまで…」
紬「えっと…もし、私でよかったら…」
顔を赤らめ、もじもじとする。
春原「へ!? も、もしかして…」
ごくり、と生唾を飲み込む。
その目は、邪な期待に満ちていた。
紬「紹介しようか…?」
春原「紹介…?」
紬「うん。その…うちの会社が経営母体の…夜のお店」
律「わははは! つーか、ムギすげぇ!」
一体なにを生業としているんだろう、琴吹の家は…。
―――――――――――――――――――――
………。
―――――――――――――――――――――
放課後。
唯「じゃね、岡崎くん」
朋也「ああ」
平沢が席を立ち、軽音部の連中と落ち合って、部活に向かった。
帰ろうとして、俺も鞄を引っつかむ。
ふと前を見ると、さわ子さんと春原が話し込んでいた。
きっと、今朝の俺と同じように、怪我のことでも訊かれているんだろう。
しばらくみていると、いきなり春原がガッツポーズをした。
さわ子さんはやれやれ、といった様相で教室を出ていく。
話は終わったようだった。
春原が意気揚々とこちらにやってくる。
春原「おいっ、僕たち、もう居残りで仕事しなくていいってよっ」
即日で解放されるとは…。
春原「やったなっ。これで、放課後は僕らの理想郷…」
春原「ゴートゥヘヴンさっ」
あの世に直行していた。
朋也「俺を巻き込むな」
春原「なんでだよっ、一緒にナンパしにいったりしようぜっ」
朋也「初対面の相手と心中なんかできねぇよ」
春原「いや、僕だってそんなことするつもりねぇよっ!?」
朋也「今言ったばっかじゃん、ゴートゥヘヴンって。天国行くんだろ。直訳したらそうなるぞ」
春原「じゃあ…ウィーアーインザヘヴンでどうだよ?」
みんなで死んでいた。
―――――――――――――――――――――
唯「あ、岡崎くん、春原くん」
廊下に出ると、向かいから平沢が小走りで駆けてきた。
朋也「どうした、忘れ物か」
唯「明日まで放っておいたら、異臭事件起きちゃうから、すぐ戻ってきたんだ」
朋也「そっか」
唯「ふたりは、今帰り?」
朋也「ああ」
唯「春原くんは、今日はお仕事ないの?」
春原「あれ、もうやんなくていいんだってさ。だから、これからは直帰できるんだよね」
唯「え、そうなんだ? だったらさ…」
唯「って、そっか…部活、嫌なんだよね…」
こいつは、また部室に来るよう誘ってくれるつもりだったのか…。
めげないやつだ。
唯「でも、気が変わったらでいいからさ、顔出してよ。軽音部にね」
そう告げると、すぐ教室に入っていった。
春原「…なぁ、岡崎」
朋也「なんだよ」
春原「ただで茶飲めて、菓子も食えるって、いいと思わない?」
こいつの言わんとすることはわかる。
つまりは…
春原「行ってみない? 軽音部」
どういう心境の変化だろう。こいつも丸くなったものだ。
でも…
朋也「…行くか。どうせ、暇だしな」
俺も、同じだった。
春原「ああ、暇だからね」
弁当箱を小脇に抱えた平沢が戻ってくるのが見える。
あいつに言ったら、どんな顔をするだろうか。
喜んでくれるだろうか…こんな俺たちでも。
だとするなら、それは少しだけ贅沢なことだと思った。
―――――――――――――――――――――
がちゃり
部室のドアを開け放つ。
唯「ヘイ、ただいまっ」
律「おー、弁当箱回収でき…」
朋也「ちっす」
ずかずと入室する俺たち。
律「って、唯、この二匹も連れて来たんかいっ」
春原「単位が匹とはなんだ、こらぁ」
唯「遊びにきてくれたんだよん」
律「うげぇ、めんどくさぁ…」
春原「あんだと、丁重にもてなせ、こらぁ」
紬「いらっしゃい。今、お茶とケーキ用意するね」
春原「お、ムギちゃんはやっぱいい子だね。どっかの部分ハゲと違ってさ」
律「どの部分のこと言ってんだ、コラっ! 返答次第では殺すっ!」
唯「まぁま、りっちゃん、落ち着いて…」
唯「ほら、岡崎くんも、春原くんも座った座った」
平沢に促され、席に着く。
律「ぐぬぬ…」
唯「険悪だねぇ?…それじゃ、仲直りに、アレをしよう」
唯「はい、春原くん、これくわえて」
春原「ん、ああ…」
春原に棒状の駄菓子をくわえさせる。
唯「で、りっちゃんは、反対側くわえて、食べていく」
唯「そうすると、真ん中までいったとき、仲直りできますっ」
律「やっほう、た?のしそぅ?」
春原「ヒューっ、最高にクールだねっ」
律「って、アホかっ!」
春原「って、アホかっ!」
唯「うわぁ、ふたり同時にノリツッコミされちゃった…」
唯「こういう時って、どう反応すればいいのかわかんないよ…」
唯「澪ちゃん、正しい解答をプリーズっ」
澪「いや、別に何もしなくていいと思うぞ…」
唯「何もしない、か…なるほど、深いね…」
唯「どうやら、私には高度すぎたみたいで、さばき切れなかったよ…」
唯「ごめんね、りっちゃん、春原くん…」
春原「僕、こいつの土俵に入っていけそうにないんだけど…」
律「ああ、心配するな。付き合いの長いあたしたちでも、たまにそうなるから」
唯「えへへ」
まるで褒められたかのように照れていた。
紬「はい、ふたりとも。どうぞ」
琴吹が俺と春原にそれぞれせんべいとケーキをくれた。
春原「ありがと、ムギちゃん」
朋也「サンキュ」
紬「お茶も用意するから、待っててね」
言って、食器棚の方へ歩いていく。
唯「岡崎くん、おせんべいひとつもらっていい?」
朋也「ああ、別に。つーか、俺も、譲ってもらった身だしな」
俺の隣に腰掛ける。
梓「唯先輩っ」
それと同時、中野が金切り声を上げた。
唯「な、なに? あずにゃん…」
梓「そこに座っちゃダメです! 私の席と代わってください!」
唯「へ? な、なんで…」
梓「その人の隣は、危険だからですっ」
唯「そんなことないよ、安全地帯だよ。地元だよ、ホームだよ」
梓「違いますっ、敵地です、アウェイですっ! いいから、とにかく離れてくださいっ」
席を立ち、平沢のところまでやってくる。
梓「ふんっ!」
唯「わぁっ」
ぐいぐいと引っ張り、椅子から立たせた。
席が空いた瞬間、さっと自分が座る。
唯「うう…強引過ぎるよぉ、あずにゃん…」
梓「………」
中野は俺に嫌な視線を送り続けていた。
澪「梓…なにも睨むことないだろ。やめなさい」
梓「……はい」
少ししおれたようになり、俺から目を切った。
律「ははは、相変わらず嫌われてんなぁ」
朋也「………」
春原「なに、おまえ、出会い頭にチューでもしようとしたの?」
春原「ズキュゥゥゥウンって擬音鳴らしながらさ」
朋也「無駄無駄無駄無駄ぁっ」
ドドドドドッ!
春原のケーキをフォークで崩していく。
春原「うわ、あにすんだよっ」
紬「おまたせ、お茶が入っ…」
紬「…ごめんなさい。ケーキ、気に入らなかったのね…」
ぼろぼろになったケーキを見て、琴吹が悲しそうな顔でそうこぼした。
春原「い、いや、これはこいつが…」
朋也「死ね、死ね、ってつぶやきながらフォーク突き刺してたぞ」
春原「僕、どんだけ病んでんだよっ!?」
紬「…う、うぅ…」
その綺麗な瞳に涙を溜め始めていた。
律「あーあ、春原が泣ぁかしたぁ」
春原「僕じゃないだろっ!」
春原「岡崎、てめぇっ!」
朋也「そのケーキ、一気食いすれば、なかったことにしてもらえるかもな」
春原「つーか、もとはといえばおまえが…」
紬「…ぐすん…」
朋也「ああ、ほら、早くしないと、本泣きに入っちまうぞ」
皿を掴み、顔を近づけて犬のように食べ始めた。
律「きちゃないなぁ…」
春原「ああ?、超うまかったっ」
たん、と皿をテーブルに置く。
紬「あはは、なんだか滑稽♪」
春原「切り替え早すぎませんかっ!?」
律「わははは! さすがムギ!」
がちゃり
さわ子「お菓子の用意できてるぅ??」
扉を開け、さわ子さんがだるそうに現れた。
律「入ってきて、第一声がそれかい」
さわ子「いいじゃない、別に。って、あら…」
俺と春原に気づく。
春原「よぅ、さわちゃん」
さわ子「あれ、あんたたち…なに? 新入部員?」
春原「んなわけないじゃん。ただ間借りしてるだけだよ」
春原「まぁ、今風に言うと、借り暮らしのアリエナイッティって感じかな」
某ジブリ映画を思いっきり冒涜していた。
さわ子「確かに、そんなタイトルありえないけど…」
さわ子「なに? つまるところ、たまり場にしてるってだけ?」
春原「噛み砕いて言うと、そうなるかな」
さわ子「…ダメよ。そんなの許されないわ」
やはり、顧問として、部外者が居座ってしまうのを認めるわけにはいかないんだろうか…。
唯「さわちゃん、どうして? 私たちは、別に気にしてないんだよ?」
律「私たちって…あたし、まだなにも言ってないんだけど」
唯「じゃあ、りっちゃんは反対派なの?」
律「う…まぁ、いっても、そんな嫌って程じゃないけどさ…」
唯「ほら、お偉いさんもこう言ってらっしゃるわけだし…」
唯「なら、どうして?」
さわ子「お菓子の供給が減ったら困るじゃないっ」
ずるぅっ!
紬「先生、それなら気にしないでください。ちゃんと用意しますから」
さわ子「いつものクオリティを維持したまま?」
紬「はい、もちろん」
さわ子「じゃ、いいわ」
あっさり許可が下りてしまった。
なんともいい加減な顧問だった。
―――――――――――――――――――――
さわ子「それにしても…なんだか懐かしい光景ね」
律「なにが?」
さわ子「いや、岡崎と春原のことよ」
春原「あん? 僕たち?」
さわ子「ええ。覚えてない? あんたたちが初めて会った時のこと」
さわ子「あの時と、なんとなく重なって見えちゃってね」
この人も、俺たちと同様、あの日のことを覚えてくれていたのだ。
さわ子「まぁ、今は、ふたりともが顔腫らしてるわけだけど…」
さわ子「あの時は、春原が大喧嘩してきて、顔がひどいことになってたのよね」
思い出したのか、可笑しそうにやさしく微笑んだ。
さわ子「あなたたち、知ってる? このふたりの、馴・れ・初・め」
唯「うん。春原くんから、聞いたよ」
さわ子「あら? そうなの? 意外ね…」
驚いたように春原を見る。
さわ子「まぁ、でも、このふたりがわざわざ遊びに来るくらいだしね」
さわ子「それくらい仲はいいんでしょう」
春原「まぁ、それも、僕とムギちゃんの仲がめちゃいいってだけの話なんだけどね」
紬「えっと…白昼夢って、ちょっと怖いな」
春原「寝言は寝て言えってことっすかっ!?」
さわ子「拒絶されてるじゃない」
春原「く…これからさ」
さわ子「ま、がんばんなさいよ、男の子」
ばしっと気合を入れるように、背を叩いていた。
朋也「…あのさ、さわ子さん」
さわ子「ん?」
朋也「あの時のことだけど、やっぱ、幸村のジィさんと打ち合わせしてたのか」
さわ子「ああ…やっぱり、わかっちゃう?」
朋也「まぁな。なんか、でき過ぎてたっていうかさ」
さわ子「そうね。あの話は幸村先生が私に持ちかけてきたんだけどね」
さわ子「私、春原の担任だったから。以前からあんたたちのことで、よく話をされてたのよ」
さわ子「どうにかしてやらないといけない連中がいる、ってね」
やっぱり、そうだった。全て、見透かされていたんだ。
春原「あのジィさん、なにかと世話焼きたがるよね」
朋也「最後…?」
さわ子「幸村先生ね、今年で退職されるのよ」
朋也「そうだったのか…知らなかったよ」
春原「僕も」
朋也「でも、俺の担任だったのは一年の時だし…」
朋也「今は担任持ってないんじゃなかったっけか」
さわ子「最後の教え子っていうのは、担任を持ってるとか、そういう意味じゃないわよ」
さわ子「最後に、手間暇かけて指導した、って意味よ」
朋也「ああ…」
さわ子「幸村先生はね、5年前まで、工業高校で教鞭を執っていたの」
さわ子「一時期、生徒の素行が問題になって、有名になった学校ね」
どこの学校を指しているかはわかった。
町の不良が集まる悪名高い高校だ。
さわ子「そこで、ずっと生活指導をしていたのよ」
朋也「あの細い体で?」
朋也「だな…」
さわ子「とにかく厳しかったの」
春原「マジで…?」
さわ子「ええ、本当よ。親も生活指導室に放り込んで説教したり…武勇伝はたくさんあるわ」
信じられない…。
さわ子「そんな型破りな指導者だったけど…」
さわ子「でも、たったひとつ、貫いたことがあったの」
朋也「なにを」
さわ子「絶対に、学校を辞めさせない」
さわ子「自主退学もさせなかったの」
さわ子「幸村先生は、学校を社会の縮図と考えていたのね」
さわ子「学校で過ごす三年間は、勉強のためだけじゃない」
さわ子「人と接して、友達を作って、協力して…」
さわ子「成功もあったり、失敗もあったり…」
まあ読んでる自分には需要あるからいいけど。
さわ子「そして、誰もが入学した当初に描いていた卒業という目標に向かって、歩んでいく」
さわ子「それを途中で諦めたり、挫折しちゃったりしたら…」
さわ子「人生に挫折したも同じ」
さわ子「その後に待つ、もっと大きな人生に立ち向かっていけるはずがない」
さわ子「だから、生徒たちを叱るだけでなく、励ましながら、共に歩んでいったのね」
さわ子「でも、この学校に来てからは…」
さわ子「その必要がなくなったの。わかるわよね?」
さわ子「みんなが優秀なの」
さわ子「きっと、幸村先生にとっての教育、自分の教員生活の中で為すべきこと…」
さわ子「それを必要とされず、そして、否定されてしまった5年間だったと思うの」
さわ子「ほとんどの生徒が…中には違う子たちもいるけど…」
平沢たち、軽音部のメンバーをぐるっと見渡した。
さわ子「この学校で過ごす三年間は、人生のひとつのステップとしか考えていないでしょうから」
さわ子「自分の役目だと思っていたことは、ここではなにひとつ必要とされていない」
さわ子「そして、その教員生活も、この春終わってしまうの」
朋也「………」
俺も春原も、何も言えなかった。
結局、俺たちは、ガキだったのだ。
あの人がいなければ、俺たちは進級さえできずにいた。
さわ子「…そういうことよ」
朋也「今度、菓子折りでも持っていかなきゃな」
さわ子「それは、いい心がけね。きっと、喜ぶわよ」
春原「水アメでいいよね」
さわ子「馬鹿、お歳召されてるんだから、食べづらいでしょ…」
さわ子「っていうか、そのチョイスも最悪だし」
律「ほんっと、アホだな、おまえは」
春原「るせぇ」
…最後の生徒。
やけにリアルに、その言葉だけが残っていた。
本当に、俺たちでよかったのだろうか。
さわ子さんは、最後に言った。
いつまでも、ふたりは幸村先生の記憶に残るんでしょうから…と。
これから過ごしていく穏やかな時間…
その中であの人はふと思い出すのだ。
自分が教員だった頃を…。
そして…
最後に卒業させた、出来の悪い生徒ふたりのことを。
―――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――
笑ってくれるだろうか。
ただでさえ細いその目を、それ以上に細めて。
何も見えなくなるくらいに。
笑ってくれるだろうか。
その思い出を胸に。
笑ってくれるだろうか…
長い、旅の終わりに。
―――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――
朋也「毎朝そんなもん持って、大変じゃないのか」
平沢が抱えるギターケース。
見た目、割と体積があり、女の子が抱えるには重そうだった。
唯「全然平気だよ? 愛があるからね、ギー太へのっ」
朋也「ぎーた?」
唯「このギターの名前だよ」
こんこん、と手の甲でケースを叩く。
朋也「名前なんてつけてんのか」
唯「そうだよ。愛着湧きまくりなんだぁ」
朋也「ふぅん、そっか」
唯「岡崎くんは、なにか持ち物に名前つけたりしないの?」
朋也「いや、しないけど」
唯「もったいないよ。なにかつけてみようよっ」
朋也「なにかったってなぁ…」
唯「憂だって、校門前の坂に、サカタって名前つけてるんだよ?」
憂「そんなことしてないよぉ…っていうか、もう普通に人の名前だよ、それ」
憂ちゃんも俺と同じ感想を持ったようだった。
朋也(つーか、なんかつけるもんあったかな…)
朋也(まぁいいや、適当に…)
朋也「あそこの、あれ、あの飛び出し注意の看板な」
朋也「あれを春原陽平と名づけよう」
唯「って、縁起悪いよ、それ…」
朋也「そうか?」
唯「うん。だって、あれ、車に衝突されて首から上がなくなってるし」
朋也「身をもって危険だってことを教えてくれてるんだな」
朋也「人身御供みたいで、かっこいいじゃん」
唯「それが縁起悪いって言ってるんですけどっ」
唯「ていうか、愛着のあるものにつけようよ」
朋也「じゃあ…おまえだ」
唯「わ、私…? そ、それって…」
朋也「おまえに、『憂ちゃんの二番煎じ』って名前をつけよう」
唯「って、私が姉なのにぃっ!?」
唯「ひどいよっ、ばかっ!」
ひとりでとことこ先へ歩いていった。
憂「あ、お姉ちゃん待ってぇ?」
憂ちゃんもその後を追う。
朋也(朝から元気だな…)
俺はそのままのペースで歩き続けた。
―――――――――――――――――――――
………。
―――――――――――――――――――――
昼。もう、何も言わずとも、自然とみんなで食堂へ集まるようになっていた。
ほんの二週間前までは、春原とふたり、むさ苦しく食べていたのに。
あの頃からは考えられない。
春原「だろ? O定食っていって、僕が贔屓にしてるメニューなんだぜ?」
朋也「お子様ランチをカッコつけていうな」
律「お子様ランチなんてあったっけ?」
朋也「月に一度、突如現れるレアメニューなんだよ」
律「そんな遊び心があんのか…やるな、うちの学食も」
唯「春原くん、その旗、私にくれない?」
春原「ああ、いいけど」
唯「やったぁ、ありがとう」
春原から旗を受け取る。
唯「よし、これを…」
ぶす、と自分の弁当に刺した。
唯「憂ランチの完成?」
律「はは、ガキだなぁ」
唯「む、そんなことないもん、えいっ」
律「あ、なにすんだよっ。こんなのいらねぇっての、おりゃっ」
隣に回す。
和「ごめん、澪」
それだけ言って、流れ作業のように受け流した。
澪「え…私も、ちょっと…ごめん、ムギ」
最後に、琴吹の弁当に行き着く。
紬「あら…」
唯「これがたらい回しって現象だね」
春原「…なんか、ちょっと傷つくんですけど…」
紬「さよなら♪」
バァキァッ!
琴吹の握力で粉々にされ、粉塵がさらさらと空に還っていた。
春原「すげぇいい顔でトドメさしてきたよ、この子っ!」
律「わははは!」
………。
―――――――――――――――――――――
放課後。軽音部の部室へ赴き、茶をすする。
春原「そういやさぁ、あの水槽なんなの」
部室の隅、台座の上に大きめの水槽が設置されていた。
初めてここに来た時には、あんなものはなかったような気がする。
唯「あれはね、トンちゃんの水槽だよ」
春原「とんちゃん? とんちゃんって生き物がいんの?」
唯「違うんだなぁ。トンちゃんは名前で、種族はスッポンモドキだよ」
唯「まぁ、正確には、あずにゃんの後輩なんだけどね」
澪「いや、スッポンモドキの方が正解だからな…」
春原「スッポンが部員ってこと?」
唯「そうだよ」
それでいいのか、軽音部は…。
春原「もう、なんでもありだね。いっそ、部長もなんかの動物にしちゃえば?」
ヌーにそんなイメージはない。
律「デコだとぉ!? おまえなんか最初から珍獣のクセにっ!」
律「トンちゃんより格下なんだよっ!」
春原「あんだと、コラっ」
律「なんだよっ」
春原「………」
律「………」
朋也「人間の部員はいいのか」
いがみ合うふたりをよそに、そう訊いてみた。
唯「人間の方は、全然きてくれないんだよね…」
唯「だから、せめて雰囲気だけでも、あずにゃんに先輩気分を味わってもらいたくて」
澪「それ、後付じゃないのか?」
澪「おまえが単純に、ホームセンター行った時、欲しがってたように見えたんだけど」
唯「てへっ」
舌を出し、愛嬌でごまかしていた。
唯「あずにゃん…」
中野は、俺に向ける厳しい眼差しとは違う、優しい目をしていた。
本来のこいつは、こんなふうなのかもしれない。
それが少しでも俺に向いてくれればいいのだが。
唯「あずにゃんっ、いいこすぎるよっ」
中野の後ろに回り、背後から抱きしめて、頬をすりよせる。
梓「あ…もう、唯先輩…」
春原「うおりゃああああ!」
律「うおりゃああああ!」
突然雄たけびを上げるふたり。
澪「なにやってるんだ、律…」
律「みてわかんないのか!? ポテチ早食い対決だよっ」
律「これで白黒つけてやろうってなっ」
春原「ん? 勝負の最中に余所見とは、余裕だねぇ…」
春原「おまえ、ヘタすりゃ死ぬぜ?」
指についたカスを舐めな取りがら言う。
律「死ぬって言ったほうが死ぬんだよ、ばーかっ」
春原「そんな理屈、僕には通用しないね」
律「どうかな…」
春原「へっ…」
一瞬の間があり…
律「どりゃあああああ!」
春原「どりゃあああああ!」
勝負が再開された。
唯「なんか、楽しそう。私も参加するっ」
澪「やめとけって…」
唯「いいや、やるよっ。私もこの世紀の一戦に参加して、歴史に名を刻みたいからっ」
澪「そんな、おおげさな…」
唯「って、あれ? お菓子がもうないよ…」
机の上に広げられた駄菓子類は、全て空き箱になっていた。
紬「唯ちゃん、タクアンならあるけど、いる?」
唯「ほんとに? じゃあ、ちょうだいっ」
紬「はい、どうぞ」
唯「ありがとーっ。よし、いくぞぉ」
ガツガツと勢いよく素手で食べ始めた。
澪「はぁ、まったく…」
―――――――――――――――――――――
律「おし、そんじゃ、もう帰るか」
西日も差し込み始め、会話も途切れてきた頃、部長が言った。
澪「って、まだ練習してないだろ!」
梓「そうですよっ、帰るのは早すぎだと思います」
律「でぇもさぁ、今から準備すんのめんどくさいしぃ」
律「お菓子食べて幸せ気分なとこ邪魔されたくないしぃ」
澪「それが部長の言うことかっ」
ぽかっ
唯「いいじゃん、澪ちゃん。ここはいったん退いて、様子見したほうがいいよ」
梓「なにと戦ってるんですか、軽音部は…」
澪「ダメだ。今日こそ、ちゃんと練習をだな…」
律「ムギ、食器片付けて帰ろうぜ」
紬「うん」
席を立ち、食器を持って流しに向かった。
澪「って、ああ、もう…」
動き出した部長たちを前にして、呆然と立ち尽くす秋山。
澪「明日は絶対練習するからなっ」
律「へいへい」
以前、平沢は、こんな光景が日常だと言っていたが、まさに聞いていた通りの展開だった。
先日は先に帰ったので、どうだったかは知らないが…
実際目の当たりにしてみて、俺は妙な親近感を覚えていた。
無為で、くだらないけど…でも、笑っていられるような時間。
そんな時間を過ごしているのなら、きっと、俺や春原からそう遠くない位置にいるんだろうから。
もしかしたら、最初から遠慮することはなかったのかもしれない。
だから、平沢は言っていたのだ。俺たちのような奴らでも、受け入れてくれると。
ささいなことを気にするような連中ではないと。
よく考えたら芽衣ちゃん√であったっけね
全部、本当だった。
―――――――――――――――――――――
唯「えい、影踏?んだっ」
律「あ、やったなっ」
坂を下る途中、影踏みを始めた部長と平沢。
澪「小学生じゃないんだから…」
紬「やんちゃでいいじゃない」
澪「母親みたいなこと言うな、ムギは…」
春原「はは、ほんと、ガキレベルだな。普通、頭狙って踏むだろ」
こいつもガキだった。
律「ガキとはなんだっ」
唯「そうだそうだっ」
律「うりゃうりゃっ」
唯「えいえいっ」
げしげしげしっ!
春原「あにすんだ、こらっ」
律「うわ、怒ったぞ、こいつ。逃げろぉい」
唯「うひゃぁい」
春原「うっらぁっ! まてやっ」
どたどたと走り出す三人組。
坂の上り下りを繰り返し、めまぐるしく攻守が入れ替わる。
唯「ひぃ、疲れたぁ…っと、わぁっ」
足がもつれ、体勢が崩れる。
朋也「おいっ…」
たまたま近くにいた俺が咄嗟に支えた。
唯「あ、ありがとう、岡崎くん…」
朋也「気をつけろよ。なんか、おまえ、ふわふわしてて危なっかしいからさ」
唯「えへへ、ごめんね」
だんだんだんだんっ!
地団駄を踏む音。
梓「ふんふんふんふんっ!」
中野が俺の影、股間部分を激しく踏み砕こうとしていた。
朋也(わざわざ急所かよ…)
―――――――――――――――――――――
唯「岡崎くーん、どうしたのぉ」
平沢が俺の前方から声をかけくる。
唯「なんでそんなに離れてるのぉ」
朋也「………」
春原と坂の下で別れてからというもの、俺はあの集団の中で男一人になってしまっていた。
あいつがいる間は考えもしなかったが、こうなってみると、異様なことのように思えた。
俺のわずかに残った体裁を気にする心が、輪に入っていくことを拒むのだ。
だから、一定の距離を取るべく、歩幅を調節して歩いていた。
梓「唯先輩、察してあげましょう。岡崎先輩は、きっとアレです」
唯「アレ?」
梓「はい。お腹が痛くて、手ごろな草むらを探しているんです」
梓「それで、私たちの視界から消えて、自然にフェードアウトして…その…」
唯「ええ? そうなの?」
中野に誘導され、俺がとんでもなく汚い男になろうとしていた。
律「おーい、岡崎、この先に川原あるから、やるなら、そこがいいぞぉ」
朋也「んなアドバイスいらねぇよっ」
急いで平沢たちに追いつく。
唯「岡崎くん、そんなに急いだら、お腹が…」
朋也「もういいっ、そこから離れろっ。俺は腹痛なんかじゃないっ」
唯「でも、あずにゃんが岡崎くんはもう限界だって…」
朋也「信じるなっ。ほら、俺は健康体だ」
その場でぴょんぴょん跳ねてみせる。
唯「あはは、なんか、可愛い」
朋也「これでわかったか?」
唯「うん、まぁね」
なんとか身の潔白を証明できたようだ。
にしても…
梓「あれ? 違いましたか? それは、すみません」
反省した様子もなく、突っぱねたように言う。
朋也(こいつは…)
今後は、もっと警戒しておくべきなのかもしれない。
平気で毒でも盛ってきそうだ。
―――――――――――――――――――――
部長たちとも別れ、平沢とふたりきりになる。
今朝一緒に来た道を、今は引き返すような形で逆行していた。
唯「あ、みて、岡崎くん、バイア○ラ販売します、だってさ」
古ぼけて、いつ貼られたかわからないような、朽ちた張り紙を見て言った。
連絡先なのか、下に電話番号が書いてある。
唯「懐かしいね。バイアグ○って、昔話題になってたけど、結局なんだったんだろう」
唯「岡崎くん、知ってる?」
朋也「さぁな。でも、おまえは多分知らなくていいと思うぞ」
下半身の事情を解決してくれるらしい、ということだけはぼんやりと知っていた。
唯「そう? まぁ、あんまり興味なかったんだけどね」
唯「素通りしたら、張り紙張った人がかわいそうじゃん」
朋也「悪徳業者だろ、貼ったの」
唯「そうなの? くそぉ、よくもだましたなっ」
唯「電話して、お説教してやるっ」
朋也「おまえそれ、注文してるぞ」
唯「え? 電話しただけで?」
朋也「ああ」
というか、そもそももう繋がらないだろうと思う。
だが、万が一を考えて、そういうことにしておいた。
唯「ちぇ?、私のお説教で改心させようと思ったのになぁ…」
朋也「残念だったな」
頭に手を乗せる。
唯「岡崎くん、手乗せるの好きだよね」
朋也「嫌だったか?」
唯「ううん、逆だよ。もっとしていいよ?」
唯「う?ん、そういうわけじゃないけど…なんか、落ち着くんだよね」
朋也「そっか」
唯「うん。えへへ」
夕日を浴びて、微笑むこいつ。
それを見ているだけで、俺も何故か心が落ち着いた。
―――――――――――――――――――――
唯「じゃあね、また明日」
朋也「ああ、じゃあな」
家の前で別れる。
俺はその背を、見えなくなるまで見送っていた。
少しだけ、別れが名残惜しかった。
いや…かなり、か。
―――――――――――――――――――――
唯「へいっ、憂、パァスッ!」
憂「わ、軌道がめちゃくちゃだよぉ」
唯「あ?、ごめんごめ?ん」
このふたりは登校中、小石を蹴って、ずっとキープしたまま進んでいた。
憂「岡崎さん、いきますよっ」
俺にパスが回ってきた。
とりあえず受ける。
朋也「これ、ゴールはどこなんだ」
唯「教室だよっ」
朋也「無理だろ…」
唯「大丈夫、階段とかはリフティングして登るからっ」
そういう問題でもない。
朋也(まぁいいか…)
小石を蹴って、前方に転がす。
唯「お、いいとこ放るねぇ。フリースペースにどんぴしゃだよ」
そもそも敵なんかない。
朋也(ふぁ…ねむ…)
眠気を感じながらも、はしゃぐ平沢姉妹をぼうっと眺めていた。
結局、この後小石は溝に吸い込まれ、そこでゲームセットになってしまったのだが。
―――――――――――――――――――――
………。
―――――――――――――――――――――
昼。
澪「ひっ! り、律っ…」
律「あん? なんだよ」
澪「い、今あそこの影からこっちをじっと見てる人が…」
律「どこだよ…そんな奴いねぇぞ」
澪「あ…そ、そうか…」
唯「澪ちゃん、こんな昼間から幽霊なんか出ないよ」
律「あー、そうじゃなくてな、こいつさ…」
秋山が、朝から誰かの視線を感じて仕方がなく、気味悪がっている…とのことだった。
律「そんで、マジで一人、澪を舐め回すように見てた奴がいたんだけどさ…」
制服の胸ポケットに手を突っ込み、なにやら取り出した。
律「詰め寄ったら、逃げてったんだけど…これ、落としてったんだよな」
プラスチックのカード。
表面には、秋山澪ファンクラブ、と印字され、秋山本人の写真が貼ってあった。
和「ぶっ!…げほげほっ」
真鍋が突然むせていた。
注目が集まる。
唯「和ちゃん、大丈夫?」
和「え、ええ…」
どこか動揺した様子でハンカチを取り出し、口周りを拭き取る真鍋。
和「そ、それで、なにか直接被害はあったの?」
澪「いや…なにもないけど…」
律「でもさぁ、じっと見られてるってのも、なんか目障りじゃん?」
律「だから、どうにかしてやりたいんだけどなぁ…」
春原「だったらさ、そいつらをちっとシメてやればいいんだよ」
血の気の多いこいつらしい意見だった。
律「やっぱ、それしかないのか…」
澪「そ、そんな…暴力はダメだ」
律「でもいいのか? このまま監視されるようなマネされ続けて」
澪「それは…」
春原「まぁ、いいから、僕にまかせとけって」
春原「ちょうど食べ終わったとこだしさ、今から軽く行ってきてやるよ」
春原「おい部長、そのカードって、持ってた奴のことなんか書いてるか」
律「いや…書いてないな」
春原「ちっ、じゃあ、一から調べるしかないか…」
律「待て、私も行くぞ。こいつの持ち主は顔割れてるからな」
春原「お、そっか。でも、足手まといにはなるなよ」
律「へっ、そっちこそ」
澪「あ、ちょっと待って…」
止める声にも振り向かず、どんどん先へ進んでいく。
澪「はぁ…どうしよう…」
紬「私も、行ってくるね」
琴吹が席を立った。
澪「え…そんな、ムギまで…」
紬「心配しないで。私はあのふたりが無茶しないか、見ておくから」
澪「なら、私も…」
紬「澪ちゃんたちはまだ食べ終わってないでしょ? ゆっくりしていって」
紬「それじゃ」
言って、ふたりの後を追っていった。
澪「ああ…なんでこんなことに…」
和「琴吹さんがいれば、とりあえずは心配することないんじゃないかしら」
唯「そうだよ、ムギちゃんなら、圧倒的な力で制圧できるから、大丈夫だよっ」
朋也「軽音部? うんたん?」2
で建て直すね。
だから面白いと思ってくれる人たち、ついてきてくれ
唯「うそうそ、話し合いになると思うよ、きっと」
澪「まぁ、それなら…」
唯「でも、澪ちゃんてやっぱりすごいよね。ファンクラブなんてさ」
唯「澪ちゃん、美人だから、人気あるもんね。男の子にも、女の子にも」
澪「そ、そんなことないぞ、別に…」
唯「そんなことあるよ。女の私から見ても可愛いって思うもん」
唯「岡崎くんも、そう思わない?」
朋也「俺か? そうだな…」
さらさらの長い黒髪、白い肌、ちょっと釣り目がちな大きい目、ボリュームのある胸…
特徴もさることながら、顔も綺麗に整っている。
これなら、男ウケも相当いいだろう。
朋也「俺も、美人だと思うけど。秋山は」
唯「だよね?」
澪「あ…あ…あぅ…」
唯「あ、顔真っ赤だぁ、かわいい?」
照れ隠しでなのか、ばくばくと弁当を口にし始めた。
その様子を、なんとなく眺めていると…
和「あとでちょっと話があるんだけど」
真鍋が小声で俺に耳打ちしてきた。
なんだろう…またなにかやらされるんだろうか。
―――――――――――――――――――――
朋也「話って、なんだ」
和「澪のファンクラブのことよ」
朋也「あん?」
予想外の単語が出てくる。
てっきり、また生徒会関連での仕事の依頼だと思っていたのだが…。
和「これ、なんだかわかる?」
朋也「ん…?」
真鍋が俺に見せてくれたのは、秋山のファンクラブ会員証。
それも、会員番号0番だった。クラブ会長とまで書いてある。
朋也「おまえが創ったものだったのか、あいつのファンクラブ」
朋也「どういうことだ?」
和「このファンクラブを作ったのはね、前生徒会長なの」
和「私の先輩…直属の上司だった人ね」
朋也「はぁ…」
いや、待てよ、それなら…
朋也「まぁ、なんでもいいけどさ、おまえが現会長なんだろ?」
朋也「だったら、その権限で、末端のファンにマナーを守るよう勧告してやれないのか」
和「それは…無理ね、多分」
朋也「どうして」
和「おそらく、すでに新しく会長の座についた人間がいるんでしょうから」
和「私がなにもしていないのに、活動が活性化してるのがいい証拠よ」
朋也「おまえに断りもなくそんなことになるのか」
和「ええ、十分なりえるわ。それも、私自身に責任の一端があるからね」
朋也「なんかしたのか」
朋也「……?」
どういうことだろう…。
和「私、進級と同時にクラブ会長の任をまかされてたんだけど…ほったらかしにしてたのよ」
俺が把握できないでいると、真鍋がそう続けてくれた。
和「きっと、なんの音沙汰もないことに不満の声が上がったんでしょうね」
和「それで、業を煮やした会員たちが、会長を決め直したってところでしょう」
朋也「ああ…そういうことか」
和「今となってはもう、この会員証には何の価値もないわ…」
和「だから、あなたと春原くんには、できるだけ澪を守ってあげて欲しいの」
和「いくらお遊びとはいえ、あの人が組織した部隊だから…女の子だけじゃ、キツイと思うし」
朋也「部隊って、おまえ…たかがファンクラブだろ」
前から思っていたが、こいつは芝居がかって言うのが好きなんだろうか。
和「そうとも言い切れないわ…だって、あの人だもの…」
震えたように、自分の身を抱きしめた。
あの真鍋が怯えている…
前生徒会長…かなりの人物だったに違いない。
和「今回ばかりは、生徒会の力も使えないわ」
和「もし、万が一、私があの人に、形としてでも、歯向かってしまった事が耳に入れば…」
ぶるっとひとつ身震いした。
和「…考えたくもないわ」
朋也「いや、でも、もう卒業してるんだろ? だったら…」
和「甘いっ!」
朋也「うぉっ…」
珍しく真鍋が声を張り上げたので、思わず後ずさりしてしまう。
和「確かに、首都圏に進学していったけど、子飼いの精鋭部隊がまだ現2、3年の中にいるの」
和「私も詳しくは知らされてないけど、存在するってことだけは確かなのよ…」
和「それも、役員会内はもちろん、会計監査委員会や生徒総会にまで構成員を潜り込ませているとか…」
和「確か、人狼、とかいう…」
和「とにかく、その子らに粛清の命が入れば、私とてただじゃすまないわ」
和「だから、滅多なことはできないの。ごめんなさいね」
和「そう…わかってくれて、うれしいわ」
一息つくと、かいた冷や汗をハンカチで拭っていた。
朋也(思ったより厄介な連中なのかな、秋山澪ファンクラブ…)
―――――――――――――――――――――
………。
―――――――――――――――――――――
放課後。軽音部部室。
律「おい、ヘタレ。ジュース買ってこいや」
春原「………」
律「聞いてんのか、こら、ヘタレ」
春原「ヘタレヘタレ言うなっ!」
律「だって、ヘタレじゃん。ラグビー部来た瞬間逃げるし」
昼休みのことだ。
こいつらが会員を脅しに行った先で、なぜかラグビー部に立ち塞がれ、逆に追い返されたらしい。
まるで用心棒のような振る舞いで助けに来たそうな。
…これが、真鍋が侮れないと言っていた由縁なのかもしれない。
春原「2対1になったからだろっ」
律「絡みに行った方はひ弱そうだったし、頭数に入んないだろ」
律「結局、ラグビー部一人にびびってただけじゃん」
春原「ちがわいっ」
律「いいいわけは女々しいぞ、ヘタレ」
春原「ぐ…くそぉ…」
がちゃ ばたん!
扉が開かれたと思ったら、またすぐに閉められた。
梓「はぁ…はぁ…」
中野が息を切らし、座り込んでいた。
唯「どしたの、あずにゃん」
梓「なんか…外に変な人たちが…」
律「変な人たち?」
唯「変な人たち?」
梓「はい…なんか、澪命ってハチマキしてて…」
特にクラナドの空気の再生率がパねぇ
どこまでも支援するわ
間違いない。ファンクラブの連中だ。
春原「おし、僕が全員ぶっ飛ばしてきてやるっ! 汚名挽回だっ!」
立ち上がり、肩を怒らせながら扉へと歩いていく。
律「そんなもん挽回してどうすんだよ、アホ…」
がちゃり
春原「うっらぁっ! うざってぇんだよ、ボケどもっ!」
男子生徒1「うわ…DQNだ」
男子生徒2「…死ね」
男子生徒3「軽音部に男は要らないし、普通」
男子生徒4「澪ちゃん見えたっ!」
男子生徒5「澪ちゃんっ」
春原「邪魔なんだよ、てめぇら全員っ!」
集まっていた男たちを払いのけていく。
春原「おら、帰れ帰れっ! ここは僕の食料庫だっ!」
男子生徒「つか、なに、おまえ?」
階段を上がってきた男が春原の前に立ちふさがる。
春原「ああん? 見てわかんねぇのか、用心棒だよ、ヒョロ男くんよぉ」
男子生徒「俺たち、なんか危害加えるようなことした?」
春原「いるだけで迷惑なんだよぉ、ああん?」
男子生徒「いや、いちいちすごまなくていいけどさ…」
男子生徒「君と、そっちの…春原と岡崎だよね? 素行が悪くて有名な」
男子生徒「用心棒とかさ、不良がするわけないし、嘘だよね」
春原「マジだよ、ああん? ぶっとばされてぇか、おい?」
男子生徒「そんなことしたら、明日、ラグビー部に殺してもらうけど、おまえ」
春原「は、はぁん? じ、自分でこいよな…」
明らかに勢いが失速していた。
男子生徒「そんなことするわけないでしょ。バカか、やっぱ」
春原「ああ!? てめぇ…」
春原「……やっぱ、暴力はいけないよね」
速攻で心が折れていた。
男子生徒「だいたいさぁ、なんで君ら軽音部の部室にいんの? だめでしょ、男がいたら」
男子生徒7「うん、普通そうだよな」
男子生徒8「男マジいらねぇ」
男子生徒9「女の子同士だからいいのに」
口々に賛同し始めた。
男子生徒「澪ちゃんは、りっちゃんと付き合うべきなんだからさ」
春原「………は?」
その言葉に、春原だけでなく、俺たち全員が唖然とする。
男子生徒1「いや、澪唯いいって」
男子生徒2「王道で澪梓とか俺はいいな」
男子生徒3「王道は澪紬だって」
男子生徒4「それは邪道」
春原「………」
春原「おい、岡崎っ」
ダッシュで俺の元に駆け寄ってくる。
春原「なんか、あいつら気持ち悪ぃんだけど…」
朋也「ああ…」
男子生徒「ねぇ、そのふたり、要らないから出入り禁止にしてよ」
廊下側から声をかけてくる。
唯「そ、そんなことしたくないよ…」
男子生徒「なんで? 唯ちゃんは男とか興味ないでしょ? 女の子の方がいいんだよね?」
唯「え、ええ? そんな…」
男子生徒3「あ、あれじゃね、男に気がある振りして、澪ちゃんの気を引くという」
男子生徒4「ああ、それだ」
男子生徒5「やべぇ、早くしないと澪ちゃん取られちゃうよ、りっちゃんっ」
唯「う、うぅ…」
律「私たちが女同士で付き合うとか…そんなのあるわけないだろっ」
男子生徒2「ツンデレ? 今の、ツンデレ?」
男子生徒6「厳密には違うよ」
男子生徒7「本心言うの恥ずかしいんじゃね?」
男子生徒8「ああ、それだ」
律「いい加減にしろってっ! あんたらがそういうのが好きなのはわかったよっ!」
律「でも、それを私たちに押しつけんなっつーのっ! そんな性癖ねぇんだよっ」
気圧されたのか、皆押し黙り、沈黙が流れる。
春原「ほら、わかったか。おまえらの方がいらねぇってよ。帰れ帰れ」
そんな中、春原が一番最初に声をあげた。
男子生徒「おまえら男ふたりが帰れ」
春原「ああ? 物分りの悪ぃ奴だな…」
男子生徒「バカに言われたくねぇよ」
春原「…てめぇ、大概にしとけよ、こら」
今にも殴りかかっていきそうな気迫で近づいていく。
男子生徒「…わかった。とりあえず、暴力はやめろ」
春原「………」
立ち止まる。
男子生徒「こうしよう。俺たちと勝負するんだ」
春原「勝負だぁ?」
男子生徒「ああ。そっちが勝ったら、今後軽音部と澪ちゃんには近づかない」
春原「んだよ、喧嘩なら今すぐやってもいいぜ」
男子生徒「だから、暴力はやめとけって言っただろ」
春原「じゃあ、なんなんだよ? 囲碁とか言わねぇだろうなぁ」
男子生徒「頭使うのは君らに不利だろうからな。そうだな…スポーツでどうだ」
春原「それじゃ、おまえらに不利じゃん、ヒョロいのしかいねぇしよ」
男子生徒「実際にやるのは俺らじゃないよ。用意した人間とやってもらう」
春原「はっ、プロでもつれてこなきゃ、勝てねぇぞ」
男子生徒「じゃ、勝負を飲むってことでいいか?」
朋也「まて、そっちが勝ったらどうするつもりだ」
男子生徒「まず、君らに軽音部から消えてもらう。部員と関わるのも自重しろ」
男子生徒「それから、澪ちゃん」
澪「え…」
男子生徒「澪ちゃんには、プライベートなことから、なにからなにまで…」
男子生徒「俺らが知りたいことは、全て教えてもらうよ」
男子生徒「それと、俺ら以外の男と喋るの禁止ね」
澪「そ、そんな…」
律「むちゃくちゃだ、そんなのっ」
春原「言わせとけよ、どうせ僕らが勝つしね」
律「んな無責任なこと言って…負けたらどうすんだよっ」
春原「それはねぇっての。で、競技はなんだよ」
男子生徒「そっちに決めさせてやる」
春原「ふん…じゃあ、バスケだ。3on3な」
男子生徒「あと一人は?」
春原「アテがあるんだよ。だから、いい」
男子生徒「そうか。わかった。じゃあ、試合は3日後の土曜。詳細はまた後で伝える」
春原「ああ、わかった」
勝負の約束を交わすと、男は周りの連中をぞろぞろと引き連れて去っていった。
朋也「おまえ、3on3って、まさか俺にもやらせるつもりじゃないだろうな」
春原に近寄っていき、声をかける。
春原「もちろん、そのつもりだけど」
朋也「俺が肩悪いの知ってるだろ。俺はできねぇぞ」
春原「おまえは司令塔でいいよ。シュートは任せろ」
朋也「3on3で一人パス回ししかできない奴がいるなんて、相当のハンデだぞ」
朋也「おまえ、わかってんのかよ。一人はアテがあるとか言ってたけどさ、もう一人他に探せよ」
春原「ははっ、僕に頼み事できる知り合いが、そんなにいるわけないじゃん」
朋也「………」
春原「ってぇな、あにすんだよっ!」
朋也「土下座して運動神経いい奴に頼んで来いっ」
春原「おまえでいいっての。ほら、バスケってさ、チームワークが重要じゃん?」
春原「知らない奴より、おまえとの方が連携も上手くいくって」
朋也「だとしても、それだけじゃ無理なの」
春原「大丈夫だって。どうせ、あっちも大した奴用意できねぇよ」
春原「バスケ部のレギュラーとかだったら、ちょっとキツイかもだけどね」
朋也「………」
そこが気にかかっていた。
あの男は、妙に自信があるように見えた。
それは、つまり、レギュラークラスも用意できるということなんじゃないのか。
春原「な? 楽勝だって」
朋也「はぁ…簡単に言うな」
春原「ま、さっさと三人揃えて、練習しようぜ」
しかし、勝負は三日後。
相手も、俺たちも時間がない。
俺たちが付け焼刃の練習で戦えるようになるとも、断言できない…
条件は、五分のような気もする。
梓「…あの、なにがどうなってるんですか」
律「ん、ああ…」
―――――――――――――――――――――
梓「ファンクラブ…ですか」
騒動が収まり、一度気を落ち着けるため、コーヒーブレイクを取っていた。
律「ああ、気持ち悪い奴らだよ。勝手に私たちがレズだと思ってんだもんな」
紬「あら…でも、いいじゃない、女の子同士、なかなか素敵だと思うな」
律「…いや、まぁ、ムギが言うとそんなでもないけどさ…ソフトだし」
律「でも、あいつらは自分の価値観押しつけてくるとこが気に入らないんだよ」
律「ああいう手合って、女に対してもそういう傾向があったりするんだよな」
律「理想からちょっとでもズレてると、異様に毛嫌いしたりするんだぜ」
律「ほんと、自分勝手なお子様だよ」
春原「ま、僕らがコテンパンにノしてやるから、大船に乗ったつもりでいろよ」
時代錯誤な表現が多すぎて、頼りなく映る。
律「おまえ、絶対勝てよ? そんだけ豪語するんだからな」
春原「ああ、楽勝さ。すでに勝ってるようなもんだよ」
そううまくいけばいいのだが…。
―――――――――――――――――――――
春原「おー、ここだここだ」
やってきたのは、文芸部室。
文化系クラブの部室が宛がわれている旧校舎の一階に位置している。
軽音部の部室である第二音楽室からは、階段を二度下るだけでたどり着けた。
朋也「おまえ、こんなとこに奴に知り合いなんていたのか」
春原「なに言ってんだよ、おまえもよく知ってる奴だって」
朋也「あん?」
俺と春原の共通の知人で、文芸部員?
誰だろう…心当たりがない。
がちゃり
その時、部室のドアが開かれた。
春原「よぅ、ひさしぶりだなっ、キョン」
朋也(ああ…こいつか)
キョン「ああ…久しいな、ふたりとも」
このキョンという男は去年、俺たちふたりと同じクラスだった奴だ。
素行が悪いわけでもなく、ごく普通の一般生徒だったのだが、なぜか気が合った。
理屈っぽい奴で、なにかと俺たちの悪ふざけを止めてきたのだが、よくつるんでいたことを思い出す。
ちなみに、キョンというのはあだ名で、本名は知らない。
周りからそう呼ばれていたので、俺たちもそれに倣ったのだ。
朋也「おまえ、文芸部なんて入ってたのか」
春原「あれ? おまえ、知らねぇの? ここ、文芸部じゃないんだぜ」
朋也「いや、はっきりそう書いてあるだろ」
教室のプレートを指差す。
キョン「あれは、裏側だ」
朋也「裏?」
キョン「表側に現在の部室名が書かれてある」
朋也「ふぅん…」
春原「そんで、おまえもその一味なんだよな」
キョン「まぁ、そうだな。でも、よく俺がここの人間だって知ってたな」
キョン「話したこと、なかっただろ、部活のこと」
春原「わりと有名だぜ、おまえらの部活。その部員もな」
キョン「相変わらず、くだらない事には詳しいんだな」
春原「いい情報網を持ってるって言ってくれよ」
キョン「はいはい…。で、今日はなんの用だ」
キョン「なにか用事があるんだろ。でなきゃ、おまえらがこんなとこ来るわけないもんな」
春原「お、察しがいいねぇ、さすがキョン」
キョン「ああ、それと、ひとつ訊いていいか」
春原「なに?」
キョン「そっちの女の子たちは、なんなんだ」
俺たちの後ろ、じっと黙って並んでいた軽音部の連中を指さした。
春原「ああ、こいつらはさ…」
キョン「へぇ…そんなことがあったのか」
春原「だからさ、3on3のメンバー、頼めない?」
キョン「まぁ、俺自身はやぶさかじゃないが…団長様がなんて言うかな」
春原「許可とってきてくれよ」
キョン「はぁ…わかったよ、善処してみる」
春原「お、センキュー。頑張れよっ」
背を向けて、ひらひらと手を振り、部室へと戻っていくキョン。
律「…あんたら、妙なのと付き合いあるんだな」
朋也「あいつのこと、知ってるのか」
律「知ってるもなにも、あたしらの学年で知らない奴がいたことの方が驚きだよ」
律「SOS団だかなんだかで、1、2年の頃、すげぇ暴れまわってたんだぜ?」
朋也「へぇ、そうだったのか」
律「っとにおまえは、やる気がないっていうか…そういうことに疎いんだな」
朋也「まぁな」
律「ああ、一年の時の文化祭な…あれは、確かにすごかったな」
律「聞いた話だと、素人だったらしいぞ」
澪「そうだったのか? 信じられないな…」
梓「そんなにすごかったんですか?」
律「興味あるなら、映像あるから、今度見せてやるよ」
梓「ほんとですか?」
律「ああ。それと同時に蘇る、澪のしまパンの悲劇…」
ぽかっ
律「あでっ」
澪「思い出させるなっ」
秋山は顔を赤くして、涙目になっていた。
唯「あちゃ?、りっちゃん、地雷踏んじゃったね」
律「あれはお蔵入り映像だからな…マニアの間では高値で取引されているらしい」
澪「ええ!? う、嘘だろ…」
律「あー、うそうそ、立ち直れ、澪っ」
澪「………」
しゅばっと立ち上がる。
ぽかっ ぽかっ
律「いでっ! 二発かよっ」
澪「おまえが変な嘘つくからだっ」
―――――――――――――――――――――
がちゃり
キョン「………」
しかめっ面で出てくる。
春原「お、どうだった?」
キョン「…なんとか許可が下りたよ」
春原「やったな、さすがキョンっ」
キョン「今度カツ丼おごってもらわにゃ、割に合わん…」
多分、なにかぶつけられたんだろう。
ドアの向こうからは、女と言い合いをする声と、物が飛び交っているような音が聞えていたのだ。
なにかしらないが、ひと悶着あったんだろう。
春原「消費税なら、おごるよ」
キョン「セコいところは、相変わらずなんだな…」
―――――――――――――――――――――
律「おらおら、どしたーっ、全然入ってないぞぉ」
春原「おまえのパスが悪いんだよっ」
律「なにぃ、人のせいにするなっ」
グラウンド。
隅の方に設置された外用ゴールの前に集まった。
春原は、シュート練習。
俺とキョンは、1対1で、交互にディフェンスとオフェンスの練習をしていた。
軽音部の連中は、こぼれ球を拾ってくれたりしている。
朋也「キョン、ディフェンスはもっと腰落としたほうがいいぞ」
キョン「こんな感じか」
朋也「ああ、それでいい」
キョン「けっこうしんどいな、これは…」
キョン「そうか?」
朋也「ああ。あとはスタミナがあればいいんだけどな」
キョン「悪いな。何ぶん、体育会系なノリとは縁のない生活をしてきたもんでな」
朋也「もう一本いけるか?」
キョン「ああ、こい」
朋也「よし」
―――――――――――――――――――――
朋也「っはぁ…」
からからになった喉を水道水で潤す。
顔も、思いっきりすすいだ。
気持ちがいい。
こんな感覚、いつぶりだろうか。
はるか昔に味わったっきり、ずっと忘れていた。
澪「あの…これ、使ってください」
そこへ、秋山が恭しくタオルを持ってきてくれた。
朋也「ああ、サンキュ」
朋也「これ、洗って返したほうがいいよな」
澪「いえ、大丈夫です」
朋也「そうか? じゃあ…はい」
タオルを差し出して、返す。
澪「あ…はい」
澪「………」
澪「あの…すみませんでした」
朋也「なにが?」
澪「勝負なんて、させちゃって…」
朋也「いや…春原の奴が勝手に受けたのが悪いんだから、気にすんなよ」
澪「でも…」
朋也「いいから。な?」
澪「はい…」
朋也「それとさ、敬語も使わなくていいよ。俺にも、春原にも、キョンにもな」
澪「え…あ…はい」
朋也「はい?」
澪「う…うん…」
朋也「それでいい」
澪「あぅ…」
ぽんぽん、と肩を軽く叩き、グラウンドへ戻った。
―――――――――――――――――――――
春原「だぁー、疲れたぁ…」
キョン「同じく…」
朋也「俺も…」
三人とも、地面に寝転がる。
暗くなり、もうボールがよく見えなくなっていた。
練習も、ここで終わりだった。
春原「あしたは朝錬するからな」
寝転がったまま言う。
春原「それくらい徹底してやって、大差で勝ってやるんだよ」
朋也「なんでそんなにやる気なんだ、おまえは」
春原「僕をバカ呼ばわりしたあの野郎が悔しさで顔を歪めるとこ見たいからね」
朋也「あんがい根に持ってたんだな、おまえ…」
春原「まぁね」
キョン「…それにしても、おまえら、なんか変わったよな」
キョンがぽつりとそう漏らした。
春原「なにが?」
キョン「こういうことに、真剣になるような奴らでもなかったろ」
朋也「………」
それは、確かにそうだ。
いつだって、部外者でいて、傍観して…
必死に頑張るやつらを、斜めから見おろしていた。
キョン「いつもおちゃらけてて、楽しそうだったけどさ…」
キョン「どこか、懸命になることを避けてるっていうか…」
キョン「でも、今は他人のために、こうまで頑張ってるしな」
キョン「なにか、あったのか」
朋也「………」
春原「………」
俺と春原は黙ったまま顔を見合わせた。
お互い、気づかないうちに、そんな熱血漢になってしまったのだろうか。
いや…そんなわけない。
こんなにも汗をかけるのは、あいつらのためだからだろう。
それは、春原も同じ想いのはずだ。
朋也「…別に、何もねぇよ」
春原「ああ。前と、全然変わってないけど?」
キョン「…そうか。まぁ、いいさ」
唯「お疲れさまぁ?」
平沢の声がして、体を起こす。
軽音部の連中が、こっちにやってきていた。
ボールの片づけが終わったんだろう。
唯「スポーツドリンクの差し入れだよぉ、どうぞ」
唯「はい、春原くん」
春原「なかなか気が利くじゃん」
唯「はい、どうぞ」
キョン「ああ、どうも」
三人とも受け取った。
春原「もう喉からからなんだよね、僕」
言って、プルタブを開け、一気に飲み始める。
春原「ぶぅほっ!」
いきなり噴き出した。
春原「って、なんでおしるこなんだよっ!」
律「わはははは! ひっかかりやがった!」
律「うわぁ、おしるこが逆流して鼻から出てるよ、きったねぇーっ!」
春原「てめぇっ」
律「うひゃひゃひゃ」
いつものように子供の喧嘩が始まる。
緊張感のない奴らだった。
―――――――――――――――――――――
憂「岡崎さん、土曜日にバスケットの試合するんですよね?」
憂「お姉ちゃんから聞きましたよ」
朋也「あ、ああ…」
憂「私、応援に行きますねっ」
朋也「ああ…ありがとな」
憂「はいっ」
まぶしい笑顔で返事をくれる。
朋也「おい、平沢、おまえどんなふうに話したんだよ」
唯「え? バスケの試合で大盛り上がりするよ?って感じかな?」
朋也「おまえな…けっこう重要なことがかかってんだぞ」
朋也「負けりゃ、これから先ずっと変なのにつきまとわれちまうんだ」
朋也「そうなったら、おまえだって変な事されるかもしれなんだぞ」
朋也「そんなの、俺は絶対…」
許すことができない…。
言いかけて、やめる。
それは知人だからであって、なにも俺がそこまで強く拒むことはないだろうに…。
朋也(彼氏じゃあるまいし…)
唯「なに?」
朋也「いや…とにかく、そんな軽くないんだ」
唯「でも、楽しまなきゃ損だよ?」
朋也「いや、だから…」
唯「大丈夫。岡崎くんたちは勝つよっ。そんな予感がしてるんだ」
唯「私のカンって、よく当たるんだよ?」
屈託なく言う。
本当に事の重大さがわかっているんだろうか、こいつは…。
―――――――――――――――――――――
たんっ たんっ たんっ…
ボールが跳ねる音。
朝錬をする運動部のかけ声に混じって、グラウンドの方から聞えてくる。
音源に目を向けると、春原がドリブルをしているところだった。
朋也(あいつ、もう来てんのか…)
そこまで本気で勝ちたいということか。
唯「あ、春原くんだ。おーいっ」
平沢が声を上げ、手を振る。
春原がこちらに気づき、駆け足でやってきた。
春原「やぁ、おはようっ」
唯「おはよ?」
憂「おはようございます」
朋也「おまえ、マジで朝錬やってんのな」
春原「おまえも今からやるんだよ」
朋也「マジかよ…」
春原「きのう言っただろ? おまえだって、僕の部屋から早く帰ってったじゃん」
そうなのだ。
昨夜は、こいつが早めに眠りたいと言い出して、日付が変わる前に帰宅していた。
俺も、体が疲れていたので、すんなりと眠ることが出来たのだが。
朋也「おまえが眠たいとか言ってたからだろ」
春原「ま、そうだけどさ…」
朋也「はぁ…わかったよ。平沢、鞄頼む」
唯「あ、うん」
鞄を手渡す。
唯「あとで私も来るね」
憂「じゃあ、私も来ます」
朋也「ああ、わかった」
別れ、平沢姉妹は正面玄関の方へ歩いていった。
キョン「うお…おまえらがほんとに朝から来てるなんてな…」
そこへ、入れ替わるようにしてキョンが現れた。
キョン「明日はカタストロフィの日になるのか」
春原「いいとこにきたな、キョン。早速練習するぞ」
キョン「鞄くらい置きに行かせてくれよ」
春原「そんな時間はないっての。いくぞ」
キョン「やれやれ…」
………。
―――――――――――――――――――――
昼休み。
唯「岡崎くん、春原くん、これ食べていいよ」
平沢がタッパーに入ったハチミツレモンを差し出してきた。
唯「ほんとは放課後の練習の後に出すつもりだったんだけど…」
唯「朝錬で疲れただろうからさ」
朋也「お、サンキュ」
春原「センキュー」
唯「あ、キョンくんの分も残しておいてあげてね」
朋也「ああ、わかった」
春原「皮だけ残しとけばいいよね」
唯「ダメだよ、実の部分も残さないと」
春原「それは保証できないなぁ」
春原「冗談だよ、冗談」
言って、一切れつまんで口に放った。
春原「うまいね、これ」
唯「ほんとに?」
春原「ああ」
唯「よかったぁ」
俺もひとつ食べてみる。
朋也「お、マジだ。うまい」
唯「えへへ、作った甲斐があったよ」
律「おまえが作ったのか? 憂ちゃんじゃなくて?」
唯「うん、そうだよ」
律「へぇ、珍しいこともあるもんだ」
唯「私だってやる時はやるんだよっ、ふんすっ」
誇ったように息巻いていた。
弁当箱の蓋に黒い固形物を載せ、打診してくる。
春原「ムギちゃんからのものなら、もちろんもらうよっ」
春原「な、岡崎」
朋也「ん、ああ、まぁ」
紬「じゃあ、どうぞ」
俺たちの前に蓋が置かれる。
春原「でも、これって、なに?」
紬「トリュフよ」
朋也「トリュフって…あの、三大珍味の?」
紬「うん」
なんともスケールのでかい弁当だった。
俺も驚いたが、軽音部の連中も、真鍋さえも驚愕していた。
春原「ふぅん、なんか、おいしそうだねっ」
唯「とりゅふ?」
いや…約二名、知らない奴らがいた。
紬「そう? よく食卓に出てくるだろうから、馴染み深いと思ったんだけど…」
それはおまえだけだ。
春原「でも、おいしいよ、ムギちゃん補正で」
紬「ふふ、ありがとう」
朋也(俺も食べてみよう)
もぐもぐ…
確かに、不思議な味わいだった、
まずくもないし、かといって、うまくもない…
正直、微妙だった。
庶民の舌には合わないんだろう。
おとなしく身の丈にあったシイタケあたりでも食べていた方がいいんだ、きっと。
澪「あの…よかったら、これもどうぞ」
秋山も琴吹に倣い、弁当箱の蓋に乗せ、俺たちに差し出してきた。
律「って、それ、おまえのメインディッシュ、クマちゃんハンバーグじゃん」
律「いいのか、主力出しちゃって」
澪「いいんだよ、頑張ってもらってるんだし」
朋也「いや、別に、そんなに気を遣ってもらわなくてもいいけど」
朋也「そうか?」
澪「うん」
朋也「じゃあ、ありがたく」
箸でハンバーグを掴み、口に運ぶ。
もぐもぐ…
朋也「うん…うまい」
澪「あ、ありがとう…」
春原「じゃ、僕も」
春原もひとつ食べる。
春原「お、うめぇ」
澪「よかった…」
律「つか、澪、おまえ、敬語じゃなくなってるな」
澪「岡崎くんが、敬語じゃなくていいって言ってくれたんだよ」
ちらり、と伏目がちに俺を見てくる。
律「ふぅん、岡崎がね…」
なにかまた、変な機微の嗅ぎ取り方をしてるんだろうな、こいつは…。
唯「さすが岡崎くん、心が広くていらっしゃる」
朋也「普通だろ…」
律「ふ…岡崎、あんたもつくづく、アレだよなぁ」
アレ、なんて代名詞でボカしているのは、きっといい意味じゃないからに違いない。
律「ま、いいや。それは置いといて、私からも、なにかあげようではないか」
律「そうだな…これでどうだ、キンピラゴボウ」
春原「うわ、一気にレベル下げやがったよ、こいつ」
律「なんだとっ! あたしのキンピラゴボウなんだぞっ!」
春原「だからなんだよ」
律「つまり、間接キスの妄想が楽しめるだろうがっ!」
律「それだけで値千金なんだよっ!」
春原「うげぇ、胃がもたれてきたよ、そんな話聞いたらさ…」
律「なんだと、ヘタレのくせにっ」
春原「キンピラゴボウ女は黙ってろよ」
春原「けっ…」
和「このふたり、仲悪いの?」
朋也「いや…似たもの同士なんだろ、多分…」
―――――――――――――――――――――
飯を食べ終わると、残りの時間は練習に費やした。
春原「かぁ、やっぱ岡崎、おまえ、うめぇよ」
キョン「だな。さすが、元バスケ部」
俺は今しがた、2対1の状況をドリブルで突破したところだった。
朋也「でも、このあと俺が得点に繋げられるのは、左からのレイアップだけだからな」
朋也「シュートするより、おまえらにパス回す機会の方が多くなるはずだ」
朋也「だから、頼んだぞ、ふたりとも」
春原「任せとけって。僕の華麗なダンクをお見舞いしてやるよ」
朋也「ああ、おまえのプレイで、ちゃんとベンチを温めといてくれよ」
春原「それ、ただの空回りしてる控え選手ですよねぇっ!?」
―――――――――――――――――――――
………。
―――――――――――――――――――――
放課後。
キョン「なんか…よかったのか、俺まで…」
紬「今は軽音部チームの仲間なんだから、遠慮しないで」
紬「はい、ケーキ。どうぞ」
キョン「はぁ、どうも」
練習前、部室に集まり、お茶をすることになった。
その流れで、こいつもここに連れてこられていたのだ。
キョン「おお…うまい。紅茶も、最高だ」
紬「ふふ、ありがとう」
キョン「ああ…朝比奈さん…」
小声でつぶやく。
朋也(朝比奈…?)
春原「おまえには、涼宮って女がいるんだろ」
キョン「いや、あいつは別に…」
律「マジ? 涼宮さんとデキてんの?」
キョン「いや、だから、そんなんじゃないぞ」
春原「でも、聞いた話だと、確定だって言ってたぜ」
キョン「誰に聞いたんだよ…」
春原「谷口って奴」
キョン「あの野郎…」
律「で、どこまで進んだの?」
キョン「進んだもなにも、最初から…」
がちゃり
さわ子「チョリース」
さわ子さんがふざけた挨拶と共に入室してくる。
さわ子「今日もお菓子用意…って、キョンくん?」
律「なに? 親しい感じ?」
キョン「去年の担任だ」
律「あ、そなの」
さわ子「どうしたの? なんであなたがここに?」
キョン「いやぁ、いろいろありまして…」
律「あ、そうだ、聞いてくれよぉ、さわちゃ?ん…」
―――――――――――――――――――――
さわ子「ふぅん、そんなことになってたのね…」
言って、紅茶を一杯すする。
律「ふざけた奴らだろ?」
さわ子「そうね」
朋也(あ…そうだよ…この人なら…)
朋也「さわ子さん、教師だろ? なんとか言って聞かせてやれないか?」
俺はなんでこんな基本的なことを忘れていたんだろう。
あの時は、特異な雰囲気に飲まれてしまい、この発想自体が湧かなかったのかもしれない。
とにかく、こういう時こそ、大人の力を借りるべきだ。
バスケの試合なんてせずとも、一発で解決できるはず。
さわ子「できるけど…あえて、しないわ」
朋也「あん? なんでだよ」
さわ子「女の子を守るため、ガチンコで勝負するなんて…青春じゃない」
さわ子「止める事なんて、できないわ」
朋也「そんな理由かよ…」
さわ子「めいっぱい戦いなさい。そんなの、若い内にしかできないんだから」
律「若さに対する哀愁がすげぇ漂ってんなぁ…」
さわ子「おだまりっ」
だん、と激しく机を叩いた。
律「しーましぇん…」
部長も、その迫力の前に縮こまる。
さわ子「ま、でも、いざとなったら、助けてあげるわよ」
唯「さわちゃん、頼もしい?」
キョン「この人も、相変わらずだな…」
朋也「ああ…」
でもこれで、試合に負けたときの保険ができた。
それは精神的にも大きい。ただの消化試合になったんだから。
さわ子さんに話を聞いてもらえてよかった。
―――――――――――――――――――――
朋也「ふぅ…」
休憩を取るため、ひとり日陰に移り、石段に腰掛ける。
グラウンドでは、春原とキョンの1on1が始まっていた。
少し離れたこの位置で、その様子を眺める。
澪「おつかれさま」
秋山が寄ってきて、昨日のようにタオルを渡してくれる。
朋也「ああ、サンキュ」
受け取り、汗を拭き取る。
澪「あの…」
朋也「ん?」
澪「春原くんと、キョンくんも、よく動いてるけど…」
澪「でも、岡崎くんは、二人とはなんか動きが違うっていうか…」
澪「次にどうすればいいのをわかってるように見えるんだ」
澪「それに、ドリブルも上手だし」
朋也「まぁ…昔、ちょっとやってたからな」
澪「そうだったんだ…」
朋也「ああ」
澪「………」
会話が終わり、沈黙が訪れる。
秋山は、なにかもじもじとしていて、必死に話題を探しているように見えた。
朋也「でも、よかったな。さわ子さんがバックについてくれてさ」
放っておくのもなんだったので、俺から話を振ってみた。
朋也「これで勝敗に関係なく、おまえは助かったわけだ」
澪「そう…なのかな…」
朋也「ああ。まぁ、楽に構えてるといいよ」
朋也「タオル、サンキュな。ほら」
座ったまま手を伸ばす。
澪「あ、これ…水で濡らしてこようか?」
澪「体に当てたら、ひんやりして気持ちいいと思うんだけど…」
受け取ったタオルを手に、そう訊いてきた。
朋也「ん、ああ…それも、いいかもな」
澪「じゃあ、ちょっと待っててね。行ってくるから」
いい顔になり、水道のある校舎側に駆けていった。
朋也(にしても…)
よく動いてくれる。
球拾いにも積極的だし、水分補給のサポートだって、率先してやってくれていた。
自分のファンクラブが起こした問題だったから、責任を感じているんだろうか。
朋也(そんな必要ないのにな…)
空を見上げ、ぼんやりと思った。
声「きゃあ…ちょっと…」
秋山の声。
さっき向かっていった方に顔を向ける。
すると、秋山が男二人に詰め寄られているのが見えた。
あの時、部室に押しかけてきた連中の中に見た顔だった。
朋也(あいつら…)
立ち上がり、走って駆けつける。
その間、男たちが秋山からタオルを取り上げ、下に叩きつけているのが見えた。
あげく、踏みつけだしていた。
朋也「なにやってんだ、こらぁっ!」
男子生徒1「ちっ…くっそ…」
男子生徒2「…ざけんな…」
俺が怒声を浴びせると、すぐに退散していった。
澪「うぅ…ぐす…ぅぅ」
秋山は、怯えたように身を小さくして泣いている。
朋也「どうした? 大丈夫か?」
澪「うぅ…大丈ぬ…」
朋也「だいじょうぬって、おまえ…」
朋也「とりあえず、向こうまでいって、休もう。な?」
近くに小憩所として使われているスペースがあった。
そこで一旦落ち着いたほうがいいだろう。
澪「ぐす…うん…」
俺は、泣き止む様子のない秋山を連れてゆっくりと歩き出した。
―――――――――――――――――――――
朋也「ほら、これ飲め。コーヒーだけど」
澪「…ありがとう」
プルタブをあけ、ずず、と一口飲む。
朋也「落ち着いたか?」
澪「…うん」
朋也「で、なにされたんだよ。場合によっちゃ、すぐにでも殴りにいってやる」
澪「だ、だめだよ、そんなことしちゃ…」
朋也「でもさ、そこまで泣かせてんだぜ。よっぽどだったんじゃないのか」
澪「それは、私が…その、弱くて…すぐ泣くのが悪いんだよ」
澪「ほんとに、いいの。たいしたこと、されたわけじゃないから」
朋也「…そっかよ。でも、タオル踏まれてたよな」
澪「う、うん…」
朋也「幼稚なことするやつらだよな。人のものに当たるなんてさ」
朋也「おまえ、なんかしたわけじゃないんだろ?」
朋也「理由もなくいきなりなんて、意味わかんねぇな」
澪「私が、男の子の世話してるのが、嫌だったみたい」
朋也「あん?」
澪「岡崎くんに、私のタオル渡したりとか…そういうのが」
朋也「ああ…」
ファンからしてみれば、それは許されない行為だったんだろう。
自分たちだけにしか笑顔を向けてはいけないとでも思っているんだろうか。
朋也「迷惑な奴らだな。別に、アイドルってわけでもないのに」
澪「うん…私なんかじゃ、全然そんなのできないよ」
朋也「いや、俺は別におまえが可愛くないと思って、言ってるわけじゃないぞ」
朋也「落ち込んだりするなよ」
朋也(って、なに言ってんだ、俺は…)
この頃、俺のキャラが崩れてきている気がしてならない…。
こんなに気軽に、女の子に向かって可愛いなんて言う奴でもなかったのに…。
いかん…もっと気を引き締めなければ…。
澪「あ…ありがとう…」
澪「………」
朋也「………」
お互い、押し黙る。若干重い沈黙。
朋也「まぁ、なんだ。試合、絶対勝つよ」
振り払うように、努めて明るくそう言った。
朋也「それで、あいつらに直接言ってやれ。もう私につきまとうな、ってさ」
澪「言えないよ、そんなこと…」
朋也「遠慮するなよ。報復なんかさせないから」
朋也「もし、やばそうなら、俺たちを頼ればいいんだ」
澪「そんなことないよ。ふたりがいたら、いつもより賑やかで楽しいもん」
平沢のようなことを言う。
それがなんだか可笑しくて、思わず笑ってしまった。
澪「え…なに?」
朋也「いや…なんでもない」
澪「………?」
疑問の表情を浮かべたが、すぐに秋山も可笑しそうに笑った。
俺も、つられてまた笑顔になる。
梓「あのぉ…盛り上がってるところ、悪いんですけど…」
どこから湧いたのか、中野がイラついた声をぶつけてきた。
澪「あ、梓…いつから…っていうか、なんでここに…」
梓「先輩たちがいないんで、探してくるように言われたんです」
澪「そ、そっか…」
梓「はぁ、でも…」
落胆したように、大げさに息を吐いた。
梓「私、見たくありませんでした」
澪「い、いや、これはサボってたわけじゃないぞ、うん」
澪「今戻ろうと思ってたところなんだ、ははは」
コーヒーのカンを持って、立ち上がる。
澪「じ、じゃあ、戻ろうかな、はは」
言って、そそくさと立ち去っていった。
先輩の威厳を保ちたかったんだろうか。
ずいぶんと取り繕っていたが…。
ともあれ、残された俺と中野。
梓「…はぁ、唯先輩と憂の次は、澪先輩ですか…」
梓「節操なしですね…死ねばいいのに」
冷たく言い放ち、戻っていく。
朋也(ついに死ねときたか…)
あいつと和解する日は、きっとこないんだろうな…。
―――――――――――――――――――――
唯「いよいよ明日だねっ。楽しみだなぁ」
朋也「気楽でいいな、試合に出ない奴は」
唯「む、気楽ってわけじゃないよ。私も気合十分だよ」
唯「ほら、こんなのも用意したんだから」
なにかと思えば、鞄からクラッカーを取り出していた。
唯「ゴールしたら、これで、パンッ!ってやるからね」
朋也「パーティーじゃないんだぞ…」
憂「お姉ちゃん、こっちのほうがいいよ」
対して憂ちゃんは、小さめのメガホンを取り出した。
やはり常識があるのは妹である憂ちゃんの方だ。
唯「なるほど、それで、パンッ!の音を拡大するんだねっ」
ずるぅ!
俺と憂ちゃんは漫画のように転けていた。
―――――――――――――――――――――
………。
昼。
唯「ねぇ、私さ、応援の舞考えたんだけど、みんなでやらない?」
律「応援の舞? なんだそりゃ」
唯「こんなのだよ。みてて」
立ち上がり、目をつぶった。
そして、かっ、と見開く。
唯「ここから先が戦えるようにやってきた…」
唯「顔の形が変わるほどボコボコに殴られて…死を感じて、小便を漏らしても、心が折れないように…」
唯「あの時のように…2度と心が折れないように、やってきた!!!」
唯「ハッ!」
両手をばっと上げて止まる。
唯「はぁ…はぁ…ど、どうかな…」
律「いや、息切れしてるし、なんか漏らしたことになってるし…絶対やだ」
唯「そんなぁ、私の2時間が水の泡だよぉ」
律「2分考えたあたりでダメなことに気づけよ…」
律「そんなもんより、澪の萌え萌えキュン☆161連発でどうだ」
澪「や、やだよ、体力的にも、その中途半端な数字的にも…」
律「まぁ、最後に一発鉤突きが当たったって事だな」
律「単純計算で1分15秒…反撃を許さない萌え萌えキュン☆の連打を打ち込むんだ」
澪「なんの話だ?」
律「いや、なんでもない。気にするな」
澪「?」
唯「そうだ、和ちゃん、全校放送で試合実況とかしちゃだめかな?」
和「ダメに決まってるでしょ…」
唯「ぶぅ、けちぃ…」
春原「まぁ、応援なら、ムギちゃんがしてくれるだけで三日は戦えるけどね」
紬「そう? コストがかからなくて、うれしいな♪」
春原「消耗品扱いっすかっ!?」
律「わははは!」
コメント
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朋也「軽音部? うんたん?」【3】 – 2ちゃんねるSS図書館
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