










朋也「………」
あの春原の姿が全校生徒のデータフォルダに保存される日は近いかもしれない…。
―――――――――――――――――――――
春原「岡崎、なんか思いついた?」
朋也「いや、なにも」
俺たちはなんの目的もなく、ただ駅前に出てきていたのだが…
そんなことだから、当然のように間が持たなくなっていた。
今は適当なベンチに腰掛けて、遊びのアイデアをひねり出していたのだ。
だが、どれも不毛なものばかりで、一向に納得できる案が浮かんでこない状態が続いていた。
つまりは…いつもの通り、暇だった。
これが俺たちの日常だったから、もういい加減慣れてしまっていたが。
春原「じゃあさ、白線踏み外さずに、どこまでいけるかやろうぜ」
朋也「おまえ、ほんとガキな」
春原「いいじゃん、この際ガキでもさ。あそこのからな出発なっ」
指をさし、その地点へ駆けていく。
朋也(しょうがねぇな…)
俺も仕方なくついていった。
春原「おい、おまえもやれよ」
俺は春原の横につき、白線の外にいた。
朋也「俺は監視だよ。おまえがちゃんとルールに則ってプレイしてるかチェックしてやる」
朋也「確か、踏み外すと、その足が粉砕骨折するってことでよかったよな」
春原「んな過酷なルールに設定するわけないだろっ! どんなシチュエーションだよっ!」
朋也「じゃあ、落ちてる犬の糞を踏んだら残機がひとつ増えるってのは守れよ」
春原「なんでそんなもんで1UPすんだよっ!? むしろダメージ受けるだろっ!」
朋也「いや、そういう世界観のゲームなのかなと思って。おまえが主人公だし」
春原「めちゃくちゃ汚いファンタジーワールドっすね!」
朋也「いいから、早くいけよ、主人公」
春原「おまえがいろいろ言うから開幕が遅れたんだろ…」
ぶつぶつと愚痴りながらも白線に沿って進み始めた。
―――――――――――――――――――――
春原「あー、もういいや、つまんね…」
朋也「なに言ってんだよ、十分楽しんでたじゃん」
朋也「その辺に生えてるキノコ食って巨大化とか言ってみたりさ」
春原「どうみてもそのキノコのせいで幻覚みてますよねぇっ!」
朋也「で、これからどうすんだよ」
春原「帰るよ、普通に…ん?」
春原の視線の先。
電柱のそばに、作業員風の男がヘルメットを腰に提げて立っていた。
時々電柱を見上げ、手にもつボードになにかを書き込んでいる。
点検でもしていたんだろうか。
春原「んん!? うわっ…マジかよ…やべぇよ…」
その男を見つめたまま、春原がうわごとのようにつぶやく。
朋也「どうした。禁断症状でもあらわれたか」
春原「もうキノコネタはいいんだよっ。それより、おまえ、気づかないのかよっ」
朋也「なにが」
春原「ほら、あの人だよっ」
男を指さす。
春原「そうじゃなくて、あの人、芳野祐介だよっ! おまえも名前ぐらい聞いたことあるだろ」
朋也「芳野祐介…?」
確かに、どこかで聞いたことがあるような…。
春原「ほら、昔いたミュージシャンの」
朋也「ふぅん、ミュージシャンなのか。名前はなんとなく聞いたことあるような気はするけど」
春原「メディア露出がほとんどなかったからな…顔は知らなくても無理ないか…」
春原「でも、それでもかなり売れてたんだぜ? おまえもラジオとかで聞いてるって、絶対」
朋也「そうかもな、名前知ってるってことは」
春原「はぁ…でも、この町にいたなんてな…しかも電気工なんかやってるし…それも驚きだよ…」
朋也「ただのそっくりさんかもしれないじゃん」
春原「いや、絶対本人だって」
朋也「なんでそう言い切れるんだよ」
春原「あの人が出てる数少ない雑誌も全部読んでるからね」
朋也「おまえ、んなコアなファンだったの」
春原「それで、僕も影響されて好きになったんだけどね」
朋也「おまえ、妹なんかいたのか!?」
春原「ああ。言ってなかったっけ?」
朋也「初耳だぞ。紹介しろよ、こらぁ」
春原「実家にいるから無理だっての」
…それもそうか。確か、こいつの実家は東北の方だったはずだ。
というか…春原の妹なんていったら、きっとゲテモノに違いない。
それを思うと、すぐに萎えた。
春原「それよか、サインもらいにいこうぜ」
朋也「俺はいいよ。ひとりでいけ」
春原「もったいねぇの。あとで後悔しても遅いんだからな」
朋也「しねぇよ」
春原「じゃ、いいよ。僕だけもらってくるから」
言って、芳野祐介(春原談)に振り返る。
春原「あ…」
春原「………」
朋也「どうしたんだよ」
春原「いや…ちょっと思い出したんだよ」
朋也「なにを」
春原「いや、芳野祐介ってさ、もう引退してるんだけど、その最後がすげぇ荒んでたって聞いたんだよね…」
春原「当時のファンだったら絶対声かけないってくらいにさ…」
朋也「もう時効なんじゃねぇの。いけよ」
春原「おまえ、ほんと誰にでも鬼っすね…」
朋也「あ、おい、もう行こうとしてないか」
芳野祐介(春原談)は、軽トラの荷台に仕事道具を積み始めていた。
春原「やべっ…」
春原「岡崎、おまえも協力してくれっ」
朋也「なにをだよ」
春原「それとなくサインもらえるようにだよっ」
春原「そうだな…」
あごに手を当て、考える。
春原「僕が合図したら、おまえは、うんたん♪うんたん♪ いいながらエアカスタネットしてくれ」
朋也「はぁ? 意味がわからん」
春原「いいから、頼むよっ」
朋也「いやだ」
春原「今度カツ丼おごるからっ」
朋也「よし、乗った」
―――――――――――――――――――――
春原「あのぉ、すみません…」
積み作業を続ける芳野祐介(春原談)の手前までやってくる。
作業員「あん?」
一時中断し、俺達に振り向いた。
春原「僕たち、大道芸のようなものをたしなんでるんですけど…」
作業員「大道芸なら、繁華街のほうでやればいいんじゃないか」
春原「いや、まだそれはハードルが高いっていうか…」
春原「まずは少人数でならしていこうと思いまして…」
作業員「ふぅん…そうなのか」
腕時計を見て、なにか考えるような顔つきで押し黙る。
作業員「…まぁ、少しなら付き合ってやれる」
春原「ほんとですか!? あざすっ!」
春原「それじゃ…」
春原が俺に目配せする。
合図だった。
朋也「うんたん♪ うんたん♪」
春原「ボンバヘッ! ボンバヘッ!」
いつかみたヘッドバンギング。
その隣で謎のリズムを刻む俺。
………。
俺たちは一体なにをしているんだろう…。
というより、なにがしたいんだ…。
作業員「………」
芳野祐介(春原談)も明らかに怪訝な顔で見ていた。
春原「…ふぅ」
作業員「…もう終わりか?」
春原「え? えっと…まだありますっ」
多分、今ので終わる予定だったんだろう。
朋也(まさか、いいリアクションがくるまでやるつもりじゃないだろうな…)
と、また目配せされた。
朋也「うんたん♪ うんたん♪」
春原「ヴォンヴァヘッ! ヴォンヴァヘッ!」
今度は横に揺れていた。
くだらなさ過ぎるマイナーチェンジだった。
―――――――――――――――――――――
春原「ぜぇぜぇ…こ、これで終わりっす…」
結局一度もいい反応を得ることなく、春原の体力が底を尽いていた。
春原「はい? なんですか…」
作業員「一体、なにがしたかったんだ?」
それは俺も知りたい。
春原「え? やだなぁ、エアバンドじゃないっすか」
そうだったのか。
というか、おまえがやったのはどっちかというとエア観客じゃないのか。
作業員「そうか…よくわからんが、まぁ、がんばれよ」
励ましの言葉をくれると、車のドアを開け、そこに乗り込もうとする。
春原「あ、ちょっといいっすか?」
作業員「なんだ、まだなにかあるのか」
春原「あの…このシャツにサインしてくれませんか」
強引過ぎる…。
話がまったくつながっていなかった。
エアバンドの前フリは一体なんだったのか…。
作業員「俺がか?」
春原「はい。最初のお客さんってことで、記念にお願いします」
春原「あ、本名でお願いしますよ。あと、春原くんへってのもお願いします」
ますます話が破綻していた。
普通は役者がファンにするものだろうに。
春原「春原は、季節の春に、はらっぱの原です」
作業員「ああ、わかった」
書き始める。
これで名前が芳野祐介じゃなかったら爆笑してやる。
作業員「これでいいか」
春原「っ…ばっちりっす! あざした!」
朋也(おお…)
そこに書かれていたのは、芳野祐介という名前。
同姓同名の他人…なんてことはやっぱりなくて、本物なのか…。
芳野「…はぁ」
また腕時計で時間を確認する。
芳野「あんたら、時間あるか」
春原「え? はい、有り余ってますっ」
春原「バイトっすか」
芳野「ああ。作業を手伝って欲しいんだ」
春原「もちろんやりますよっ」
芳野「助かる。なら、車に乗ってくれ」
春原「はいっ」
元気よく答えて、助手席に向かう。
春原「岡崎、なにつっ立ってんだよ。早くこいって」
朋也「俺もかよ…」
春原「ったりまえじゃん」
朋也(なにが当たり前だ…)
しかし、バイトだと言っていたのだから、当然バイト代も出るのだろう。
どうせ、暇だったのだ。
金がもらえるなら、それも悪くないかもしれない。
―――――――――――――――――――――
春原「うぇ…しんど…」
梯子や街灯を支えていたのだが、これが大層な力作業だった。
不安定なものを固定するというのが、ここまで神経を使い、なおかつ筋力も酷使するものだったとは…。
芳野「助かったよ。ご苦労だったな」
ちっとも疲労感を感じさせない、余裕のある佇まい。
俺達よりよっぽど過酷な作業をこなしていたというのに…。
春原「きついっすね…いつもこんなことしてんすか…」
芳野「ああ、まぁな。今日はこれでも軽い方だ」
春原「はは…これでっすか…」
これが社会人と、俺たちのような怠惰な学生の違いなのだろうか。
こんなにも疲弊しきっている俺たちを尻目に、この人は涼しい顔で軽い方だと言ってのける。
午前中にも、ずっと同じような作業をしてきたかもしれないのに…。
小さな悩みとか、そういうことをうじうじ考えているのが馬鹿馬鹿しくなるほどに、しんどい。
社会に出るというのは、そんな日々に身を投じるということなのだ。
想像はしていたけど…想像以上だった。
今までどれだけ働くということを甘く考えていたか、いやというほど思い知らされた気分だ。
でも、芳野祐介だって、俺たちとさほど変わらない歳の若い男だ。
その男からいとも簡単に『軽い方だ』などと言われれば、ショックもでかかった。
俺は歴然とした差を感じ、いいようのない焦燥感に襲われていた。
芳野「あんたら、予想以上によく動いてくれたよ。体力あるほうだ」
春原「はは…」
なんの救いにもならない。
芳野「今から事務所の方に行ってくるから、少し待っててくれ」
春原「はい…つーか、動きたくないっす…」
ふ、と笑い、俺と春原の肩を軽く叩き、労いの意を示してくれた。
―――――――――――――――――――――
芳野「待たせたな。ほら、バイト代」
灰色の封筒を差し出した。
下の方に何やら会社名が書いてあった。
春原「あざす」
朋也「ども」
芳野「悪いな、半分しか出なかった」
芳野「一日働いてないのに、丸々出せるかって言われてな」
俺は痛みの残る腕で封筒を開けた。ひのふのみの…
朋也「これ、間違いじゃないんすか?」
春原「はは…」
芳野「ん? そんなことないと思うが」
俺は芳野祐介に封筒を渡し、見てもらった。
芳野「違わない。そんなに少なかったか?」
いや、逆だ。どうみても、多いと思った。
話では、これでも半分の額だという。
もし満額もらっていたのなら。
この額ならば、自分の力だけで食っていける…。
けど、それはやっぱり甘い考えなんだろう。
俺のように冷めやすい性格の人間に勤まるような仕事じゃなかった。
きっとすぐに嫌気が差して、投げ出してしまうに違いなかった。
じゃあ、俺はどんな場所に収まれるというんだろう…。
俺はかぶりを振る。
そんなことを今から考えていたくなかった。
春原「いや、めちゃ満足っす。こわいくらいに…」
芳野「そうか。なら、よかった」
芳野「また暇な時にでもバイトしにきてくれ。ウチはいつだって人手不足だからな」
芳野「ほら、名刺」
春原「いいんすか? もらっちゃって」
芳野「名刺くらい、別にいい」
俺も名刺を受け取る。そこには電設会社の名前と、芳野祐介という文字が記されていた。
芳野「じゃあ、急ぐんでな」
芳野祐介は荷物を持つと、向かいに止めてあった軽トラへと歩いていく。
中に乗り込み、最後にこちらを見て片手を上げると、低いエンジン音と共に去っていった。
―――――――――――――――――――――
春原「いやぁ、今日は大収穫があったね」
ベッドに寝転び、もらった名刺を眺めながらごろごろと二転、三転している。
春原「臨時収入はあったし、あの芳野祐介の名刺まで手に入るなんてさ」
春原「やっぱ、日ごろの行いがいいと、こういう幸運に恵まれるんだね」
朋也「確かに、この雑誌の後ろの方にある占いによると、おまえの星座、今日運気いいってあるぞ」
春原「マジで?」
朋也「ああ。でも、今日までらしいぞ。明日以降は確実に死ぬでしょう、だってよ」
春原「どんな雑誌だよっ! 死期まで占わなくていいよっ!」
朋也「ラッキーアイテムは位牌です、ってかわいいキャラクターが満面の笑みで言ってるぞ」
春原「諦めて死ねっていいたいんすかねぇっ!?」
朋也「そういやさ…」
春原「あん?」
朋也「おまえ、芳野祐介のCD持ってんの」
春原「テープならあるけど。聞く?」
朋也「ああ、頼む」
春原「じゃ、ちょっと待ってて」
立ち上がり、ダンボールを漁りだす。
朋也「つーか、今時テープって、古すぎだろ。音質とかやばいだろ」
春原「文句言うなよ。ほらっ」
電源をいれ、再生してみる。
ハードなロック調のメロディが流れてきた。
歌詞もよく聴いてみると、音は激しいのに、心にじぃんとくるものがあった。
春原「どうよ?」
朋也「…いいわ、かなり」
春原「だろ?」
今日入った金もあることだし…。
今度、中古ショップでも回ってCDを探してみよう。そう決めた。
―――――――――――――――――――――
目が覚める。寝起きは悪く、けだるい。
時計を確認すると、まだ午前中だった。
朋也(寝直すか…)
どうせ、この時間に起きて寮に行っても、春原の奴もまだ夢の中に違いなかった。
寝ているあいつにいたずらするもの一興だが、それ以上に睡眠欲求が強い。
俺は二度寝するため、目をつぶって枕に頭を預けた。
―――――――――――――――――――――
………。
―――――――――――――――――――――
朋也(ふぁ…だる…)
結局、起きたのは午後一時半。
深夜に寝ついたとはいえ、眠りすぎだった。
加え、二度寝もしているから、いつも以上に体も頭も重い。
そして、そんな時は食欲も湧いてこないので、まだなにも食べていなかった。
なにか食べたくなるのは決まって時間が経ってからだ。
それも一気にくるから、こってりしたものが欲しくなる。
なので、時間を潰し、かつそんな食事もできるよう、俺は繁華街へ出てきていた。
当面はCDショップを巡るつもりだ。
お目当ては、芳野祐介のCD。
昨日、いつか探しに出ようと決めたが、そのいつかがこんなに早く来るとは…。
我ながら、本当にいきあたりばったりだと思う。
朋也(ないな…)
大手CDショップの中古コーナーを回ったり、中古専門の店に入ってもまったく見つからなかった。
すでに数件巡っているのにだ。
朋也(もう、出るか…)
朋也(ん? あれは…)
懐かしいものを発見した。それは、ひっそりと棚の隅にあった。
だんご大家族のCDだった。
誰かが出しかけたまま放置していったのだろう。
他のCDにくらべて少し飛び出していた。
だからこそ俺の目に入ったのだが。
手に取ってみる。
朋也(平沢の奴、これのシャーペン持ってたよな、確か…)
あいつから聞いていなければ、見つけても素通りしていただろう。
朋也(買って、500円くらい上乗せして売りつけてやろうか)
朋也(いや…好きなら、CDくらい持ってるか…)
よこしまな考えをすぐに改め、CDを棚に戻し、店を後にした。
―――――――――――――――――――――
俺は無性にハンバーガーが食べたくなり、店を探していた。
以前何度か利用したことがあったのだが…見つからない。
最近、来ていないうちに潰れてしまったんだろうか。
だとすると、駅前の方にするしかない。
だが、ここからは少し距離があった。
朋也(まぁいいか…行こう)
そう決めて、踵を返す。
朋也(ん…?)
すると、小さい女の子が、さっと柱に身を隠した。
挙動がおかしかったので、なんとなく気になった。
歩き、近づいていく。
そして、横についたとき、ちらっと横目でその子を見てみた。
柱に顔を押しつけ、手で覆い隠すようにしている。
朋也(なんだ、こいつ…)
ちょっとおかしい奴なのか…。
あまり見すぎていて、突然振り返られでもしたら怖い。
俺はスルーして先へ進んだ。
―――――――――――――――――――――
朋也(さっきの奴どうなったかな…)
女の子「!」
先程と同じく、柱に隠れる。
朋也(…俺、尾けられてないよな)
俺が振り返ると隠れるし、同じタイミングで方向変えたし…。
しかしそれにしては下手な尾行だった。
朋也(まさかな…)
またしばらく歩く。そして突然…
ばっ
勢いよく振り返った。
女の子「!!」
また、隠れた…。
朋也(なんなんだよ…くそ)
俺は歩を進めて近づいていく。
付近までやってくると、柱の両端から髪がはみ出ていた。
さっき見て確認した時、ツインテールだったので、その部分だ。
俺はその子の後ろに回った。
てかライブで終了だと思ってたらまだだいぶ続きそうだなおい
びく、と体が跳ねる。
朋也「おまえさ…」
いいながら、肩に手を置く。
女の子「す、すみません、私…」
俺がこちらを向かせる前に、自ら振り返った。
朋也「あれ…おまえ」
確か軽音部の…中野という子だったはずだ。
梓「あの、私…CDショップのところから先輩を尾行してました」
そんなとこから…気づかなかった…。
梓「失礼ですよね…やっぱり…」
朋也「いや、なんでまた…」
梓「それは…」
言いよどみ、顔を伏せる。
きゅっとこぶしを作ると、俺を見上げた。
梓「唯先輩の件で、気になることがあったからです」
平沢のことで尾行されるような心当たりがない。
梓「きのう、聞いたんです。唯先輩が遅刻してきたって」
梓「それで、その原因が岡崎先輩と一緒に登校するためだったっていうのも…」
朋也(うげ…)
あの部長、話題にあげたのか…。
梓「だから、岡崎先輩が普段どういう人なのか気になって…」
梓「ていうか、唯先輩にふさわしい人かどうか…」
ふさわしい、とは…やっぱり、そういう意味なんだろうか。
あの部長、いったいどういうふうに話したんだろう。
おもしろおかしく盛り上げて、あることないこと喋ったんじゃないだろうな…。
曲解されてしまっているじゃないか。
梓「あ、す、すみません、私…また失礼なことを…」
朋也「いや、つーか、まず俺と平沢はそんな関係じゃないからな」
梓「え? だって、手をつないで登校したりしてるんですよね?」
朋也「してない」
やはり話が盛られていた。
朋也「するわけない…」
梓「そうですか…」
安堵した表情で、胸をなでおろすような仕草。
梓「じゃあ、律先輩のいつもの冗談だったんだ…」
朋也「なに言ったか知らないけど、九割嘘だ」
梓「え? じゃあ、残りの一割…あれは本当だったんですか…」
朋也「なんだよ、それ」
少し気になった。
だが、残り一割なら、そうたいしたことはなさそうだ。
もしかしたら、事実かもしれない。
よく話しているとか、そんな程度のこと。
梓「焼きそばパンを両端から食べあって真ん中でキスするっていう…」
めちゃヤバイのが残っていた!
朋也「それより軽いの否定してんのに、ありえないだろ…」
梓「ですよね…ちょっとテンパッちゃってました」
だろうな…。
言って、もと来た道を引き返し始める俺。
梓「あ、まってください!」
後ろから声。
振り返る。
朋也「なんだよ」
梓「あの…失礼なことしたお詫びに、なにかしたいんですけど…」
梓「私にできることならします。なんでもいってください」
朋也「なんでも?」
梓「はい。できる範囲でですけど…」
朋也(そうだな…)
朋也「じゃ、昼おごってくれ。飯まだなんだ」
梓「それくらいなら、まかせてください」
もともとハンバーガーを食べるつもりだったのだ。
それくらいなら、そう負担にもならないだろう。
―――――――――――――――――――――
とりあえず並んで順番を待つ。
―――――――――――――――――――――
店員「いらっしゃいませ?」
朋也「あ」
梓「あ」
店員「あら…」
その店員も、一瞬接客を忘れて素の反応が出てしまっていた。
俺たちも、向こうも、相手のことを知っていたからだ。
つまりは知り合いだ。
紬「店内でお召し上がりになりますか?」
琴吹だった。
もう店員としての顔を取り戻している。
朋也「ええと、そうだな…」
梓「私も頼むんで、店内でお願いします」
横から、そう俺に伝えてくる。
朋也「ああ、じゃ、店内で」
紬「かしこまりました。ご注文をどうぞ」
紬「はい」
ピッピッ、とレジに打ち込んでいく。
紬「お会計は、おふたりご一緒でよろしいでしょうか」
梓「あ、はい」
紬「かしこまりました。では、ご注文をどうぞ」
梓「えっと…このネコマタタビセットをひとつ」
紬「はい」
同じように、またレジに入力する。
会計が出ると、中野が支払いを済ませた。
紬「では、この番号札でお待ちください」
札を受け取り、空席を探しに出た。
―――――――――――――――――――――
朋也「琴吹ってお嬢様なんだろ」
梓「そう聞いてます」
朋也「なんでバイトなんてしてるんだろうな」
朋也「あこがれ?」
梓「はい。なんていうか、庶民的なことに」
朋也「ふぅん…」
梓「インスタントコーヒーとか、カップラーメンにも感動してました」
朋也「へぇ…」
反動というやつだろうか。俺にはよくわからなかった。
いや…まてよ…庶民的なことに心動かされるということは…
春原とは相性がいいかもしれない。
あいつは典型的な庶民だからな…。
俺も人のことはいえないが。
梓「あの…チーズバーガー3つで本当によかったんですか?」
梓「飲み物も水ですし…」
朋也「ああ、俺小食だから」
いくらおごりといっても、腹いっぱいになる量を頼めるほど図太くなれない。
あとで適当な定食屋にでも寄ればいい。
梓「そうですか。うらやましいです」
朋也「おまえが頼んでたネコマタタビセットって、なに」
梓「あれはですね、マタタビ味のするハンバーガーとジュース、ポテトがついてきます」
朋也(マタタビ味…)
どんな味がするんだろう…。
梓「そして、なんと、電動ねこじゃらしもついてくるんです」
つまり、よくある玩具がついてくるセットのようなものなのか。
朋也「ふぅん。それで、バーガーの肉は猫なのか」
梓「そんなわけないじゃないですか。怖すぎますよ」
きわめて冷静に返されてしまった。
冗談で言ったのに、俺がバカに見えて、ちょっと恥ずかしくなってしまう。
紬「お待たせしました」
そこへ、注文の品を持った琴吹が現れた。
朋也「あれ、おまえレジじゃなかったのか」
紬「ちょっとわがまま言ってかわってもらったの」
朋也「なんで」
紬「私が持ってきたかったから」
紬「どうぞ、梓ちゃん」
梓「ありがとうございます」
紬「岡崎くんも」
朋也「ああ、サンキュ」
盆を受け取る。
紬「ところで…」
俺の耳にそっと顔を寄せる。
紬「唯ちゃんはいいの?」
ばっと勢いよく振り返り、顔を見合わせる。
朋也「おまえまで、俺と平沢がそんなだと思ってんのか」
紬「あれ、ちがった?」
朋也「違うに決まってるだろ」
紬「そうなの? なぁんだ…」
にこやかに微笑む。
悪びれた様子はまったくない。
これでは強く言うこともできなくなる。
朋也(はぁ…なんつーか、人徳ってやつなのかな)
冷静になったところで、思い出したように気づく。
琴吹と顔を間近に突き合わせてしまっていることに。
そういえば、さっきから、ふわりといい匂いが鼻腔をかすめていた。
俺は思わず視線を外してしまう。
琴吹は、ふふと笑い、俺から離れた。
そして、ごゆっくり、と店員然としたセリフを言い残し、カウンターへ戻っていった。
朋也(なんだかなぁ…)
俺より余裕があって、負けた気分になる。
お嬢様なのに、もう大人の風格を身につけているというか…。
梓「なに話してたんですか」
朋也「いや、ささくれの処理の仕方についてだよ」
梓「はぁ…そんなのひそひそやらなくてもいいと思いますけど」
朋也「ちょっとエグイ部分もあったから、店員のモラル的にまずかったんだよ」
梓「そうですか…よくわかりませんけど」
―――――――――――――――――――――
食事を終え、店を出る。
梓「いえ、そんな」
朋也「そんじゃ」
梓「はい」
―――――――――――――――――――――
朋也(ここでいいか)
中野と別れてからしばらく飯屋を探し回っていたのだが…
ショーウインドウのモデルメニューに惹かれ、ようやっと店を決めた。
中に入る。
―――――――――――――――――――――
ガー
腹を満たし、自動ドアをくぐって店を後にする。
朋也(けっこううまかったな…)
朋也(…ん?)
道に沿うようにして広がる花壇の淵、そのコンクリート部分。
そこに腰掛け、一匹の猫と戯れる女の子がいた。
手には、うぃんうぃん動くねこじゃらし。
こっちを見て、そう口が動いた気がした。
次に、俺の後ろにある飯屋に目をやった。
そして、立ち上がると、こちらに近づいてくる。
猫はちょこんとその場に座り続けていた。
梓「あの…岡崎先輩、今ここから出てきませんでしたか?」
俺がさっきまでいた店を指さす。
朋也「ん、まぁ…」
梓「やっぱり、あれだけじゃ足りなかったんですね」
梓「私に遠慮してくれてたんですか」
朋也「いや、急に小腹がすいたんだよ」
梓「そんなレベルのお店じゃないと思うんですけど」
ショーウィンドウを見ながらいう。
デザート類はあったが、それ以外はしっかりしたものばかりだった。
梓「お詫びできたことになってないです…」
朋也「いや、十分だって」
梓「でも…」
朋也(どうするかな…)
朋也「…じゃあさ、あれでいいよ」
俺は猫を指さした。
梓「え?」
猫のいる方に歩き出し、その隣に座る。
顎下をなでると、にゃ?、と鳴き、体をすり寄せてきた。
遅れて中野もついてくる。
梓「あの…」
朋也「こいつとじゃれるのでチャラな」
梓「でも、私の猫ってわけじゃないですし」
言ながら、俺とその間に猫を挟むような位置に座る。
朋也「じゃ、その猫じゃらし貸してくれ」
梓「あ、はい、どうぞ」
受け取る。
みてみると、弱、中、強と強さ調節があった。
強にしてみる。
激しく左右に振れだした。
………。
駆動音といい、挙動といい…ひわいなアレを連想してしまう…。
朋也(いかんいかん…)
気を取り直し、猫の前に持っていく。
猫もその早い動きに対して、高速で対応していた。
バシバシバシ、と猫パンチが繰り出される。
その様子がおもしろかわいかった。
一通り遊ぶと、俺は満足してスイッチをオフにした。
朋也「ほら」
梓「あ、はい」
猫じゃらしを返す。
その折、猫の頭をなでた。
しっぽをぴんと立て、体をよせてくる。
梓「なつかれてますね」
朋也「こいつが人に慣れてるんだろ」
野生という感じはあまりしない。
人から食べ物でもよくもらっているんだろうか。
媚びれば、餌にありつけるという計算があるのかもしれない。
朋也「なんでここにいるんだ」
梓「それは…」
恥ずかしそうに目をそらせた。
梓「…この子をみつけて、追いかけてたからです」
朋也「逃げられたのか」
梓「はい…」
朋也「おまえ、マタタビなんとかっての食ってたし、寄ってきそうなもんだけどな」
梓「逆に避けられました…それで、ここでやっと止まってくれたんです」
朋也「気まぐれだよな、猫って」
梓「ほんと、そうですよ」
優しい笑みを浮かべ、猫をなでた。
すると、甘えたように中野のひざの上で寝転び始めた。
梓「かわいいなぁ…」
中野がなでるたび、ごろごろと鳴いて、心地よさそうだった。
朋也(いくか…)
朋也「それじゃな」
今日二回目の別れ。
梓「あ、あの、お詫びの件は…」
朋也「だから、猫じゃらしでチャラだって」
そう告げて、反論される前に歩き出す。
ひざの上には猫がいる。それをどけてまで追ってはこないだろう。
これから俺が向かう先は、当然坂下にある学生寮。
もういい加減春原の奴も起きている頃だろう。
まだ寝ているようなら、俺のいたずらの餌食になるだけだが。
その時はなにをしてやろうか…などと、そんなことを考えながら足を運んだ。
―――――――――――――――――――――
朋也(……朝か)
カーテンの向こう側から朝日が透過して届いてくる。
その光が目に痛い。頭も擦り切れたように思考の巡りが悪い。
先日は起きる時間が遅れていたので、うまく寝つくことができなかったのだ。
俺は今の今まで、小刻みに浅い眠りと覚醒を繰り返していた。
朋也(今日はもうだめだ…サボろう…)
混濁する意識の中、そう思った。
まぶたを下ろす。
………。
そういえば…
朋也(今日も待ってんのかな、あいつ…)
あの日、待つことにした、とそう言っていた。
俺が今日サボれば、あいつも欠席になってしまうんだろうか。
まさか、そこまでしないだろうとは思うが…。
きっと、適当なところで切り上げるだろう。
朋也(関係ないか、俺には…)
頭の中から振り払うように、寝返りをうつ。
朋也(だいたい、俺が風邪引いて休むことになった時はどうするつもりだったんだよ…)
朋也(………)
考え出してしまうと、気になってしょうがなかった。
俺は布団から出た。
学校へいく準備をするために。
―――――――――――――――――――――
唯「おはようっ」
やっぱり、いた。
朋也「…おはよ」
唯「今日は早いんだねっ。これならまだ間に合うよっ」
朋也「ああ、そう…」
唯「なんか、すごく眠そうだね。やっぱり、体が慣れてない?」
朋也「ああ…」
唯「これから徐々になれていこう。ね?」
朋也「ああ…」
朋也「ああ…」
―――――――――――――――――――――
唯「岡崎くんさ、今日早かったのって、もしかして…私のため?」
朋也「ああ…」
唯「そ、そうなんだ…うれしいよ。やっぱり、岡崎くんはいい人だったよっ」
朋也「ああ…」
唯「岡崎くん?」
朋也「ああ…」
唯「さっきからリアクションが全部 ああ… なのはなんで?」
唯「微妙な変化つけないでよ…もう、真剣に聞いてなかったんだね…」
ざわ…
ざわ…
朋也「ああっ…!」
ざわ…
ざわ…
唯「某賭博黙示録みたいになってるよっ…!」
―――――――――――――――――――――
学校の近くまでやってくる。
うちの生徒もまだ多く登校していた。
こんな風景を見るのはいつぶりだろうか。
もう、長く見ていなかった。
朋也(にしても…)
こんな中をふたり、こいつと一緒に歩くのか…。
周りからはどう見られてしまうんだろう。
みんな、そんなの気にも留めないのかもしれないけど…
万が一、軽音部の連中のように、勘違いする奴らが出てきたらたまらない。
朋也「おまえ先にいけ」
唯「え? なんで? ここまで来たんだから最後まで一緒にいこうよ」
朋也「いいから」
唯「ぶぅ、なんなの、もう…」
不服そうだったが、しぶしぶ先を行ってくれた。
俺も少し時間を置いて歩き出した。
―――――――――――――――――――――
教室に着き、自分の席に座る。
唯「なんであそこから別行動だったの?」
座るやいなや、すぐに訊いてきた。
朋也「おまえ、恥ずかしくないのか。俺と一緒に登校なんかして」
唯「恥ずかしい? なんで? おとといだって一緒だったじゃん」
朋也「いや、だから、それが原因で俺たちが、その…」
唯「うん?」
きょとん、としている。
そういうことに無頓着なんだろうか、こいつは。
唯「あ、そ、それは…えっと…」
唯「私は別に……あ、いや…岡崎くんに迷惑だよ…ね…?」
朋也「まぁ、な…」
というか、おまえはいいのか…。
唯「あはは……だよね…気づかなかったよ、ごめんね…」
朋也「ああ、まぁ…」
唯「………」
少し驚く。あの平沢が目に見えて落ち込んでいた。
今までなら、そっけなくしても、ややあってからすぐ持ち直していたのに。
少し打ち解けてきたと思ったところで拒絶されたものだから、傷も深いんだろうか。
…でも、これでよかったのかもしれない。
これで朝、俺を待つなんて、そんな不毛なことをしなくなってくれれば。
それがお互いのためにもいいはずだ。
―――――――――――――――――――――
………。
―――――――――――――――――――――
4時間目の授業が終わり、昼休みになった。
朝から授業を受けて蓄積した疲労が堪える。
休憩時間も、全て机に突っ伏し、回復に当てて過ごしていたにも関わらずだ。
そもそも、俺が朝からいたことなんて、ほんとうに数えるくらいしかないのだ。
出欠を取ったとき、さわ子さんも俺がいることにたいそう驚いていた。
替え玉じゃないかと疑っていたくらいだ。
そんな、代返ならまだしも、替え玉出席なんて聞いたこともないのに。
それくらいイレギュラーな事態だったのだ。
朋也(飯、いくか…)
ふと、隣が気になった。
思えば、ずっと静かだったような気がする。
いつもなら、軽音部の誰かがやってきてふざけあっていたのに。
少し心に余裕ができた今、ようやくそのことに違和感を覚えた。
窺うようにして、隣を横目で見てみる。
唯「…ん? なに」
朋也「いや…別に」
唯「…そ」
朋也「………」
まだ、引きずっているのだろうか。
あの、たった一回の拒絶で、ここまで落ちてしまうものなのか。
…いや
回数の問題でもないか…
そこへ、春原がやってくる。
朋也「ああ…」
席を立ち、教室を出た。
―――――――――――――――――――――
春原「なんか、おまえ、元気ないね」
朋也「いつものことだろ。俺が元気振り撒いてる時なんかあったか」
春原「まぁ、そうだけどさ…今日は一段とね」
朋也「眠いんだよ」
春原「ふぅん…」
結局、いつかはこうなっていたはずだ。
いくら平沢が歩み寄ってきてくれても、俺自身がこんな奴なのだ。
無神経に振舞って、人の好意を無下にして…
そういうことを簡単にやってしまう人間だ。
だから、再三警告していたのに。
ロクでもない不良生徒だって。
―――――――――――――――――――――
ああ…それでも…
終わりまで追いつけないかと思った支援
そんなやつ、あいつしかいなかったんだ。
………。
―――――――――――――――――――――
春原より先に食べ終わり、一人で学食を出た。
昼休みは中盤にさしかかったころだった。
教室へ戻っても、まだ軽音部の連中が固まって食後の談笑でもしているはずだ。
そんな中へひとり入っていく気にはなれない。
どこかで時間を潰して、予鈴が鳴る頃を見計らって帰った方がいいだろう。
俺は窓によっていき、外を見た。
食堂から続く一階の廊下。俺のいるこの場所からは中庭が見渡せた。
そこに、見覚えのある後姿を見つける。
朋也(なにやってんだ、あいつ…)
横顔が見えたとき、同時に一筋の涙がこぼれて見えた気がした。
ここからじゃ、正確にはわからなかったが、確かにそう見えた。
顔を袖で拭う動作。
こっちの、校舎の方に振り向く。
向こうも俺に気がついた。
目が合う。
一瞬、躊躇した後…
笑顔を作っていた。
また、涙が頬を伝い、それがしずくとなって地面に落ちた。
今度は間違いなく、それが見て取れた。
………。
俺は駆け出していた。
中庭に直接出ることができる、渡り廊下へ向けて。
上履きのまま、夢中で外へ出てきた。
そして、辿り着く。今はもう、石段のふちに腰掛けているその女の子。
俺も隣に座り、少し息を整える。
朋也「…こんなとこでなにやってんだよ」
もっと言いたいことはあったのに、こんなセリフしか出てこない。
唯「…岡崎くんこそ、くつに履き替えもしないで、どうしたの」
朋也「急いでたんだよ」
唯「どうして」
朋也「おまえが泣いてたから」
唯「…私が泣いてたら、急いでくれるの?」
朋也「ああ」
唯「どうして」
朋也「そりゃ…」
どうしてだろう…。
自分でもよくわからない。
唯「…ぷっ…あはは。見たまんますぎるよ」
朋也「ああ…だな」
作ったものじゃない、素の笑顔。
ここまで出てきたその行為が報われたような気分になる。
唯「私、泣いてないよ」
朋也「あん?」
唯「あくびだよ、あ・く・び」
朋也「…マジ?」
唯「マジ」
なんてくだならいオチなんだろう…。
じゃあ、なんだ、俺が単に空回りしていただけなのか…。
唯「でも、うれしかったよ。そんなふうに思って、駆けつけてくれて」
朋也「そっかよ…」
唯「また泣いたら、今みたいに来てくれる?」
朋也「ああ、すぐ行く。借りてた1泊2日のレンタルDVD返したら、駆けつける」
朋也「しょうがないだろ。もう三日も延滞してるんだから」
唯「そんな事情知らないっ。最初からその日数で借りなよっ」
朋也「ちょっと見栄張ったんだよ。二日あれば俺には十分だ、ってさ」
唯「意味わかんないよ、もう…」
困ったように笑う。
けど、その表情にはもうかげりがなかった。
朋也「それで、ひとりでなにしてたんだよ。こんなとこでさ」
唯「ひなたぼっこだよ。いい天気だし、気持ちいいかなって」
朋也「ほかの奴らは」
唯「誘ったんだけどね?。断れちゃった」
朋也「そっか」
唯「みんなわかってないよ、光合成のよさを」
朋也「植物か、おまえは」
唯「む、哺乳類でもできるんだよ。みてて」
はぁ?…と気合のようなものをためていく。
ズビシッ、と俺に人差し指を突き刺した。
朋也「ビームって…ただの打撃だろ…肉弾攻撃だ」
唯「えへへ」
笑ってうやむやにしようとしていた。
朋也「がんばって光合成でもしといてくれ」
立ち上がり、校舎に引き返す。
唯「あ、私もいくっ」
声がして、後ろから元気な足音が近づいてきていた。
―――――――――――――――――――――
律「よ」
帰ってきた俺を見て、部長が声をかけてくる。
今日は俺の席ではなく、空いた平沢の席に腰掛けている。
朋也「…ああ、よぉ」
平沢が抜けたことにより散会になったとばかり思っていたのだが…
まだ三人とも残っていた。
とりあえず自分の席につく。
と、また部長。
朋也「なんだ」
律「あんた、唯のことでなんか知らない?」
それは、今朝からの平沢の様子を気にして訊いてきているんだろう。
容易に想像がついた。
律「あいつ、朝ちょっかい出しにいった時から元気なかったしさ…」
俺が机に突っ伏している間、やっぱり今日も平沢のもとに訪れていたのだ、部長は。
その時異変に気づいたと、そういうことだろう。
律「どうしたのか訊いても、曖昧にこたえるし…」
律「そんで、唯から聞いたんだけど、あんたたち、今朝も一緒に途中まで登校してきたんだろ」
律「だから、あんたならなんか知ってるんじゃないかと思ってさ」
他のふたりも、俺をじっとみてくる。
なんと言っていいのだろうか。
俺が原因だなんていったら、自惚れにもほどがある気もするし…。
今までの流れを言葉で説明すると、途端に安っぽくなるし…。
唯「やっほ、帰ったよ」
そこへ、ちょうど平沢が戻ってきた。
だから、この時間差が生まれたのだ。
律「あ、おう…」
紬「おかえり、唯ちゃん」
澪「おかえり」
唯「ただいまぁ」
言いながら、自然に部長の上から座った。
律「ちょ、唯、重いっ」
唯「あれ、悦んでクッションになってくれるんじゃないの」
律「んな性癖ないわっ。どかんかいっ」
唯「ちぇ、思わせぶりなんだから…」
部長から身をどける。
律「なに見てそう思ったんだよ…ったく」
立ちあがり、平沢に席を譲った。
澪「唯…その、もういいのか?」
唯「ん? なにが?」
唯「ああ、もう大丈夫! 陽の光浴びて満タンに充電してきたからっ」
澪「そっか…」
部長、琴吹と顔を見合わせる。
そして、みな一様に顔をほころばせた。
律「ま、元気になったんなら、それでいいけど」
紬「そうね」
澪「ああ」
唯「えへへ」
―――――――――――――――――――――
………。
―――――――――――――――――――――
放課後。
さわ子さんによると、今日普通に登校してきた俺は、奉仕活動を免除されるということだった。
なので、春原だけが捕まっていってしまった。
唐突に暇になる。
あんな奴でさえ、いれば暇つぶしにはなっていた。
やることもない俺は、すぐに学校を出た。
着替えを済ませ、折り返し家を出る。
―――――――――――――――――――――
いつものように、春原の部屋でくつろぐ。
今はこの部屋本来の主人も戻っておらず、俺が暫定主人だった。
無意味に高いところに立ってみる。
朋也(………)
朋也(アホくさ…)
むなしくなって速攻やめた。
―――――――――――――――――――――
がちゃり
春原「…あれ、来てたの」
朋也「ああ、おかえり」
春原「つーか、人の部屋に勝手にあがりこ…うわっ」
上着を脱ぎ、コタツまで来たところで驚きの声を上げる。
春原「なにしてくれてんだよっ」
漫画を読みながら、おざなりに返す。
春原「これだよっ! このフィギュアっ!」
朋也「おまえの大事な萌え萌え二次元美少女がどうしたって?」
春原「ちがうわっ! 僕のでもないし、そんな感じのでもないっ!」
朋也「じゃ、なんだよ」
春原「よくわかんないけど、電灯の紐で首くくられてるだろっ!」
朋也「いいインテリアじゃん」
春原「縁起悪いよっ!」
必死に紐を解く春原。
春原「なんなんだよ、これ。どうせおまえが持って来たんだろ」
朋也「ああ、なんか飲み物買ったらついてきた」
春原「やっぱりかよ…いらないなら、捨てるぞ」
朋也「いいよ」
ゴミ箱までとことこ歩いていき、捨てていた。
戻ってきて、コタツに入る。
ぽろっ
朋也「春原、リバウンドっ」
春原「自分で行けよっ! つーか、今ゴミ箱までいったんだから、そん時言えよっ!」
朋也「ちっ、注文多いな…めんどくせぇやつ」
春原「まんまおまえのことですよねぇっ!」
俺はコタツから出て、こぼれ球を拾ってゴールに押し込んだ。
また戻ってきて、コタツの中に入る。
そして、スナック菓子を食べながら漫画を再開した。
春原「ったく、しおらしかったと思ったら、もう調子戻しやがって…」
春原「…ん? おまえ、そのコミック…」
朋也「これがどうかしたか」
表紙を見せる。
春原「やっぱ、最新刊じゃないかよっ! べとべとした手でさわんなっ」
朋也「ああ、悪い」
ちゅぱちゅぱと指をなめとった。
春原「台所で手洗ってこいっ!」
朋也「遠いからいやだ」
春原「すっげぇむかつくよ、こいつっ!」
朋也「ま、いいじゃん。また新しいの買えばさ」
春原「おまえが自腹で自分の買えよっ!」
春原「くっそぉ、やりたい放題やりやがって…」
朋也「これにこりたら、早く帰ってこいよ」
春原「あんたが大人しくしてればすむでしょっ!」
―――――――――――――――――――――
朋也「…おはよ」
唯「おはよう」
昨日と同じ場所で落ち合い、学校へ向かう。
唯「今日も眠い?」
朋也「…ああ、かなりな」
だが、昨日よりかは幾分マシだった。
普通に受け答えする気にはなる。
唯「そっかぁ、じゃあ、まだ無理かな…」
朋也「なにが」
唯「もうちょっと早く来れば、私の妹とも一緒にいけるよ」
朋也「そっか…」
そういえば、妹がどうとか、いつか言っていた気がする。
唯「私の妹、気にならない?」
朋也「いや、取り立てては」
唯「ぶぅ、もっと興味持ってよぉ…じゃなきゃ、つまんないよぉ」
唯「すごい適当に言ってるよね、いろいろと…」
―――――――――――――――――――――
あの時別れた場所までやってくる。
唯「…えっと、ここからは、別々なんだよね」
立ち止まり、前を向いたままそう言った。
唯「じゃ…先に行くね」
一歩を踏み出す。
少しさびしそうな横顔。
………。
そもそも…
俺にはそんなことを気にする見栄や立場なんてなかったんじゃないのか。
ただの不良生徒だ。周りの評判なんて、今更何の意味もない。
唯「…あ」
俺は黙って平沢の横に追いついた。
朋也「なに止まってんだよ。いくぞ」
唯「…うんっ」
―――――――――――――――――――――
朋也「ああ」
もう、二割くらいしか残っていなかった。
2、3日もすれば完全に散ってしまうだろう。
―――――――――――――――――――――
教室のドア、そこに手をかけ、止まる。
ここで一緒に入ってしまえば、また揶揄されてしまうんだろうか。
唯「ん? どうしたの」
だが、今俺が躊躇すれば、またこいつは落ち込んでしまうんじゃないのか。
俺の考えすぎか…。
朋也「…いや、なんでもない」
俺は戸を開け中に入った。
もう、ほとんど開き直りに近かった。
―――――――――――――――――――――
律「はよ?、唯」
紬「おはよう、唯ちゃん」
澪「おはよう」
俺たちが席につき、間もなくすると軽音部の連中がやってきた。
俺は眠さもあり、昨日同様、机に突っ伏していた。
律「今日もラブラブしやがって、むかつくんだよぅ?」
唯「だから、違うってぇ…家が近いから、それでだって言ったじゃん」
律「ああん? そんなことくらいで一緒に登校してたら人類みな兄弟だっつーの」
澪「意味がわからん…」
会話が聞えてくる。
案じていた通り、部長がその話題に触れてきた。
俺も反論してやりたいが、いかんせん気力が湧かない。
だから、じっと休むことに集中した。
律「こいつも寝たフリして、全部聞えてんだろ??」
律「黙秘のつもりか?? デコピンで起こしてやろう」
澪「やめときなよ」
唯「そうだよ。かなり眠いって言ってたし、そっとしといてあげよ?」
律「それだよ。こいつが早起きしてんだよなぁ。それって唯と登校するためだろ?」
律「だったらさ、やっぱ、こいつも唯に気があるんじゃね?」
唯「そうだよ、親切だよっ! 親切心っ!」
律「親切?」
唯「うん。私が待ってるって言ったから、遅刻しないように来てくれてるんだよ」
澪「へぇ…」
紬「いい人よね、岡崎くんって」
唯「だよね?」
律「なぁんか、腑に落ちねぇなぁ…」
キーンコーンカーンコーン…
律「あ、鐘鳴った」
澪「戻ろうか」
紬「うん」
そこで会話は聞こえなくなった。
3人とも言葉通り戻っていったようだ。
直にさわ子さんがやってくるだろう。俺も起きなくては…。
話が気になって、あまり回復できなかったが…。
―――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――
つん つん
頬に感触。
声「起きて?、岡崎くん」
続いて、すぐそばで声がした。
目を開ける。
唯「おはよ?」
…近い。すごく。
ちょっと前に顔を出せば唇が触れそうな距離。
俺は多少動揺しつつも、身を起こして顔を離した。
唯「もう授業終わったよ」
朋也「あ、ああ…」
4時間目…そう、俺は途中で眠ってしまったんだ。
担当の教師が、寝ようが内職しようが、なにも言わない奴だったから、気が緩んで。
教師としてはグレーゾーンな奴なんだろうけど、生徒にとってはありがたい存在だった。
唯「よく寝てたね」
朋也「ああ、まぁな」
伸びをして体をほぐす。
唯「寝顔かわいいんだね」
突っ伏していたはずだが…無意識に頭の位置を心地いいほうに変えていってしまったのだろう。
それで、こいつに寝顔をさらしてしまっていたのだ。
朋也「勝手にみるな」
唯「え?、無理だよ。どうしてもみちゃう」
朋也「授業に集中しろ」
唯「それ、岡崎くんが言っても全く説得力ないよ…」
春原「岡崎?。飯」
そこへ、春原がだるそうにやってくる。
朋也「動詞を言え、動詞を」
春原「あん? んなもん、僕たちの仲なら、なくても通じるだろ?」
朋也「わかんねぇよ。飯みたいになりたい、かと思ったぞ」
春原「なんでそんなもんになりたがってんだよっ、食われてるだろっ!」
朋也「いや、残飯だから大丈夫だろ」
朋也「じゃあ、ちゃんと伝わるように今度から英雄風にいえ」
春原「ひでお? 誰だよ」
朋也「えいゆう、だ」
春原「英雄ねぇ…そんなんでほんとに伝わんのかよ」
朋也「ああ、ばっちりだ」
春原「わかったよ、なら、やってやるよ…」
春原「じゃ、もういこうぜ」
朋也「ああ」
立ち上がる。
唯「あ、待ってっ。今日は学食だよね? だったらさ、一緒に食べない?」
春原「またあの時のメンバー?」
唯「うん」
春原「まぁ、別にいいけど…」
唯「岡崎くんは?」
唯「よかったぁ」
うれしがるほどのことでもないような気もするが…。
賑やかなのが好きなんだろう、こいつは。
唯「じゃ、みんなに言ってくるね」
朋也「俺たちは先いって席取っとくぞ」
唯「うん、よろしくね。それじゃ、またあとで!」
―――――――――――――――――――――
無事席の確保ができ、平沢たちも合流した。
唯「やっほ」
律「おう、ご苦労さん」
春原「あん? おまえ、なに普通に座ってんだよ」
春原「おまえの席はあっちに確保してるから、移れよ」
春原が指さすゾーン。ダストボックスの目の前だった。
なんとなく不衛生な気がして、みんな避けている場所だ。
実際、そんなことはないのだろうけど、気分の問題だった。
律「あんたが行けよ。背景にしっくりくるだろ」
律「おほほ、そんなことないですわよ。あなたなんて背景と判別がつきませんもの」
春原「………」
律「………」
無言でにらみ合う。
唯「あわ…ふ、ふたりとも、やめようよ…」
澪「律…なんでそう、すぐいがみ合おうとするんだ?」
律「えぇっ? 今のはあっちが先だったじゃんっ!」
春原「けっ…」
紬「春原くん…仲良くしましょ?」
春原「ムギちゃんとなら、喜んでするけどね」
律「ムギはいやだってよ」
春原「んなことねぇよっ! ね、ムギちゃん?」
紬「えっと…ごめんなさい、距離感ブレてると思うの」
春原「ただの他人でいたいんすか!?」
律「わははは!」
―――――――――――――――――――――
唯「そういえばさぁ、選挙っていつだったっけ?」
和「今週の金曜日ね」
唯「じゃ、もうすぐだねっ」
和「そうね」
律「絶対和に投票するからな」
紬「私も」
澪「私だって」
唯「私も?」
和「ありがとう、みんな」
春原「なに? CDでも出してるの?」
和「…どういうこと?」
春原「ほら、CD買ったらさ、その中に投票券が入ってるっていうあれだよ」
和「某アイドルグループの総選挙じゃないんだけど…」
春原「ふん、言ってみただけだよ」
和「あ、そうだ。話は変わるんだけど、あなたたち、最近奉仕活動してるんですってね」
朋也「やらされてるんだよ。今までの遅刻を少し大目にみてくれるって話だからな」
和「そういう裏があるってことも、一応聞いてるわ」
唯「和ちゃん、なんか情報いっぱい持ってるよね」
和「そうでもないわよ」
律「この学校の重要機密とか、校長の弱みとかも握ってるんじゃないのか?」
和「何者よ、私は…っていうか、機密なんてそんなドス黒いものあるわけないでしょ」
律「てへっ」
春原「かわいくねぇよ」
律「るせっ」
和「まぁ、それで、昨日もあなたが書類整理してくれたって聞いたの」
春原「ああ、あれね」
和「けっこう大変だったでしょ」
和「あれ、私が選挙管理委員会に提出するものだったのよ」
和「それで、期限が昨日までだったんだけど、整理が終わってなくてね」
和「すぐにやらなきゃいけなかったんだけど、どうしても外せない用事ができちゃって…」
和「でも、先生から、代打であなたにやってもらうから大丈夫だって、そう背を押してもらったの」
和「本当に助かったわ。遅れたけど、この場を借りてお礼を言うわね」
和「ありがとう」
春原「う?ん…言葉だけじゃ足りないねぇ」
朋也「気をつけろ、こいつ、体を要求してくるつもりだぞ」
春原「んなことしねぇよっ!」
唯「………」
紬「………」
澪「………」
和「………」
律「…引くわ」
春原「は…」
春原「岡崎、てめぇ!」
………。
―――――――――――――――――――――
放課後。
俺と春原はまたさわ子さんに呼び出され、空き教室にいた。
さわ子「今日からは、真鍋さんの手伝いをしてもらうわ」
春原「誰?」
さわ子「あんたたち、親しいんじゃないの?」
春原「いや、だから、そいつ自体知らないんだけど…」
さわ子「真鍋和さんよ。同じクラスでしょうに」
春原「真鍋和…?」
朋也「昼に一緒に飯食ったあのメガネの奴だろ」
春原「ああ…でも、そんな名前だったっけ?」
朋也「前にフルネーム聞いただろ」
春原「そうだっけ。忘れちゃったよ」
さわ子「向こうからのオファーだったから、てっきり親しいんだと思ってたのに」
それは、俺たちをわざわざ指名してきたということだ。
どういう意図なのか全く読めない。
さわ子「ええ。まぁ、詳しいことは本人から聞いてちょうだい」
―――――――――――――――――――――
さわ子さんに言われ、生徒会室に向かった。
聞けば、通常、役員が決まるまで使われることはないそうだ。
新生徒会が始動して、初めて活用されるらしい。
春原「なんでこんなとこにいるんだろうね」
朋也「さぁな」
がらり
戸を開け、中に入った。
―――――――――――――――――――――
声「遅かったわね」
教室の奥、一番大きい背もたれつきのイスがこちらに背を向けていた。
そこから声がする。
くるり、と回転し、こちらを向いた。
和「さ、掛けて」
春原「………」
異様な気配を感じながらも、近くにあった椅子に腰掛ける。
和「先生から話は聞いてると思うけど、私の手伝いをしてもらうわ」
しん、とした部屋に声が響き、次第に消えていった。
…なんだ、この緊張感。
朋也「…ひとつ訊いていいか」
和「なに?」
朋也「なんで俺たちなんだ」
和「それはね…二つ理由があるわ」
立ち上がり、ゆっくりと歩き出す。
和「ひとつは、私の、一年から地道に作り上げてきた政党から人が離れたこと」
こちらに近づいてくる。
和「ふたつめは…」
ぽん、と俺と春原の肩に手を置く。
和「…あななたちが悪(あく)だからよ」
大丈夫か、こいつ…と目で訴えあっていた。
和「いい? 政治は綺麗事だけじゃ動かないの」
言いながら、離れて歩き出した。
和「時には汚いことだってしなきゃいけない…理想を貫くとはそういうことよ」
春原「あー…あのさ、そういう遊びがしたいんだったら、友達とやってくんない?」
和「遊び? 私がやっていることが遊びだって言いたいの?」
春原「ああ、なんか、キャラ作って遊びたいんだろ? 僕たち、そんなの…」
和「トイレットペーパー泥棒事件」
びくり、と春原が反応する。
和「二年生のとき、あったわよね」
春原「………」
確かにあった。
男子トイレのストック分が丸々なくなっていたとか、そんなセコい事件だった。
和「あれね、現場を見ていた人間がいたの」
和「いや…正確には押さえていた、かしら」
和「写真部の子がね、外で撮影していたんですって」
和「それで、校舎が写った写真も何枚かあったの」
和「その中にね…あったのよ」
ごくり、とツバを飲み込む春原。
和「金髪が、トイレットペーパーのようなものを抱えている姿が」
…おまえが犯人だったのか。
和「私はそのネガを買い取って、その子の口封じもしたわ」
春原「な…なんで…」
和「いつかなにかあった時、取引の材料になるんじゃないかと思ってね」
どんぴしゃでなっていた。
春原「う…嘘だろ…」
和「遊びじゃないって、わかってくれたかしら?」
春原「うぐ…は、はい…」
和「でもね、だからこそリスクが高いのよ」
和「ぎりぎりのところでやっているの」
和「だから、今になって保守派に鞍替えした人間も出てきてしまったのだけどね」
和「そこで、あなたたちの出番というわけよ」
朋也「善人を懐柔するより、最初から悪人を使ったほうが早いってことか」
和「そういうことね。なかなか物分りが早いわね」
和「知ってる? あなたは今日、本来なら奉仕活動は免除されていたの」
朋也「遅刻しなかったから…だろ?」
なんとなく、俺もそれっぽく言っていしまう。
和「ええ。でも、無理いって呼んでおいて正解だったわ」
和「春原くんだけじゃ、少し不安を感じるから」
春原は、その独特の小物臭を嗅ぎ取られていた。
朋也「それで、俺たちはなにをすればいいんだ」
暗殺か、ゆすりか、ライバルのスキャンダルリークか…
内心、ちょっとドキドキし始めていた。
和「まずはこの選挙ポスターを校内の目立つ場所に貼ってきてくれる?」
案外普通のことをするようだ。
和「それが終わったら一旦戻ってきてね」
朋也「ああ、了解」
―――――――――――――――――――――
春原「なぁ、岡崎。僕たち、ヤバイのと絡んじゃってるんじゃない?」
朋也「かもな…でも、なんかおもしろそうじゃん」
春原「おまえ、ほんとこわいもの知らずだよね…」
朋也「おまえほどじゃねぇよ、コソ泥」
春原「コソ泥いうなっ!」
朋也「大丈夫だって、事件はもう風化してるんだしさ」
朋也「そのワードからおまえにつながることなんてねぇよ」
春原「そういうの関係なしに嫌なんですけどっ!」
―――――――――――――――――――――
掲示板、壁、下駄箱…はてはトイレにまで貼った。
今は外に出て、校門に貼りつけている。
春原「ちょっとまって。ついでに貼っておきたいとこあるから」
朋也「あん? どこだよ」
春原「おまえもくる?」
朋也「まぁ、一応…」
春原「じゃ、いこうぜ」
―――――――――――――――――――――
やってきたのは、ラグビー部の部室。
今は練習で出払っていて無人だ。
春原は得意満面でその扉に貼り付けていた。
どうやらいやがらせがしたかっただけらしい。
春原「よし、帰ろうぜ」
朋也「いいのか、んなことして」
春原「大丈夫だって」
声「なにが、大丈夫だって?」
春原「ひぃっ」
ラグビー部員「てめぇ…」
ラグビー部員「春原、おまえ、今部室になに…」
ポスターを見て、止まる。
ラグビー部員「真鍋…和…」
少し腰が引けていた。
ラグビー部員「おまえら、あの人の使いか…?」
朋也「ああ、そうだけど…」
ラグビー部員「そ、そうか、がんばれよ…」
それだけを言い残し、運動場の方に引き返していった。
春原「…ほんと、なに者だよ、あの子」
朋也「…さぁな」
―――――――――――――――――――――
春原「ただいま帰りましたぁ…」
中に入ると、真鍋は携帯を片手に、誰かと話し込んでいた。
和「…ええ、そうね。いや、あの件はもう処理したわ。ええ、じゃ、あとはよろしく」
和「ご苦労様」
春原「いえいえ…和さんもお疲れさまっす」
完全に媚びまくっていた。
和「今日のところはこれだけでいいわ」
春原「そっすか。じゃ、お疲れさまっした」
足早に去っていこうとする。
和「まって、まだ伝えておきたいことがあるから」
春原「…なんでしょう?」
和「ここでのことは絶対に口外しないこと」
和「指示はここで出すから、この場以外でその内容を口に出さないこと。質問、意見も一切禁止」
和「私たちは普段どおりに接すること」
和「以上のことを守ってほしいの」
春原「わかりましたっ! 死守するっす!」
必死すぎだった。
朋也「ああ」
和「じゃ、明日、これをそれとなく配ってほしいんだけど」
俺に三枚の封筒を渡してきた。
それぞれに名前が書いてある。
朋也「これは…?」
和「それは、うちのクラスの各派閥の中心人物に宛てたものよ」
和「そこにある内容を飲ませれば、今度の選挙で結構な規模の組織票が得られるわ」
和「直接交渉は危険だからね…そういう形にしたの。頼んだわよ、岡崎くん」
和「大丈夫。私が書いたものだってわからないから」
朋也「それなのに、おまえに入るのか」
和「ええ。いろんな利権が複雑に絡んでいるからね。結果的に私に入るわ」
そんな勢力図がうちのクラスにうずまいていたとは…。
…というか、ドロドロとしすぎてないか?
和「これが可能になったのは、岡崎くんが配布係であったことと、私との接点が薄いことが決め手ね」
和「感謝してるわ」
いい手駒が手に入って…と続くんだろうな、きっと。
―――――――――
朋也「…おはよ」
唯「おはよ?」
落ち合って、並んで歩き出す。
朋也「…ふぁ」
大きくあくび。
唯「今日も眠そうだね」
朋也「ああ、まぁな」
唯「やっぱり、授業中寝ちゃうの?」
朋也「そうなるだろうな」
唯「じゃ、またこっちむいて寝てね」
朋也「いやだ」
唯「いいじゃん、けち」
朋也「じゃあ、呼吸が苦しくなって、息継ぎするときに一瞬だけな」
唯「そんな極限状態の苦しそうな顔むけないでよ…」
坂を上る。周りには俺たちと同じように、喋りながら登校する生徒の姿がまばらにあった。
その中に混じって歩くのは、まだ少し慣れない。
いつか、この違和感がなくなる日が来るんだろうか…こいつと一緒にいるうちに。
唯「ねぇ、今日も一緒にお昼食べない?」
朋也「いいけど」
唯「っていうかさ、もう、ずっとそうしようよっ」
朋也「ずっとはな…気が向いた時だけだよ」
唯「ぶぅ、ずっとだよっ」
朋也「ああ、じゃ、がんばれよ」
唯「流さないでよっ、もう…」
唯「あ…」
坂を上りきり、校門までやってくる。
唯「和ちゃんのポスターだ」
昨日俺たちが貼った物だった。
唯「もう、明後日だもんね。和ちゃん、当選するといいなぁ」
にしても…
朋也(清く正しく、ねぇ…)
ポスターに書かれた文字を見て、なにかもやもやとしたものを感じた。
学校は社会の縮図、とはよくいったものだが…なにもここまでリアルじゃなくてもいいのでは…。
―――――――――――――――――――――
………。
―――――――――――――――――――――
昼。
春原「がははは! 岡崎、昼飯にするぞ」
いきなり春原が腰に手を当て、ふんぞり返りながら現れた。
朋也「…はぁ?」
春原「春原アターーーーーーーーーーーーック!」
びし
朋也「ってぇな、こらっ!」
春原「はぁ? ではない! 飯だと言っているだろ! バカなのか?」
春原「がはははは! 世界中の美女は俺様のもの!」
完全に自分を見失っていた。
朋也「…春原、もうわかった。もういいんだ。休め」
春原「あん?」
朋也「なにがあったかは知らないけど、もういいんだ」
朋也「がんばらなくていい…休め…」
春原「なんで哀れんでんだよっ!」
朋也「春だからか。季節柄、そんな奴になっちまったのか…」
春原「お、おい、ちょっと待て、おまえが昨日、英雄風に言えって言ったんだろ!?」
朋也「え?」
春原「え? じゃねぇよっ! 思い出せっ!」
そういえば、そんなことを言った気もする。
朋也「じゃ、なにか、今のが英雄?」
春原「そうだよっ。ラ○スだよっ」
春原「だろ?」
朋也「でも、おまえの器じゃないからな、あの人は」
朋也「再現できずに、ただのかわいそうな人になってたぞ」
春原「再現度は関係ないだろっ!」
春原「くそぅ、おまえの言った通りにしてやったのに…」
朋也「悪かったな。じゃ、次は中学二年生のように誘ってくれ」
春原「ほんっとうにそれで伝わるんだろうなっ」
朋也「ああ、ばっちりだ」
春原「わかったよ、やってやるよ…」
朋也「それと、今日も平沢たち、学食来るんだってさ」
春原「そっすか…別になんでもいいよ…」
―――――――――――――――――――――
7人でテーブルの一角を占め、食事を始める。
春原「ムギちゃんの弁当ってさ、気品あるよね」
春原「うん。やっぱ、召使いの料理人が作ってたりするの?」
紬「そんなんじゃないよ。自分で作ってるの」
春原「マジ? すげぇなぁ、ムギちゃんは」
紬「ふふ、ありがとう」
唯「澪ちゃんのお弁当は、可愛い系だよね」
澪「そ、そうか?」
唯「うん。ご飯に海苔でクマ描いてあるし」
律「りんごは絶対うさぎにしてあるしな」
紬「澪ちゃんらしくて可愛いわぁ」
澪「あ、ありがとう…そ、そうだ、唯のは、憂ちゃん作なんだよな」
唯「うん、そうだよ」
澪「なんか、愛情こもってる感じだよな、いつも」
唯「たっぷりこもってるよ?。それで、すっごくおいしいんだぁ」
澪「でも、姉なんだから、たまには妹に作ってあげるくらいしてあげればいいのに」
澪「唯はこれだからな…憂ちゃんの苦労が目に浮かぶよ…」
律「和のは、なんか、全て計算ずくって感じだよなぁ」
和「そう?」
律「ああ。カロリー計算とかしてそうな。ここの区画はこれ、こっちはあれ、って感じでさぁ」
唯「仕切りがすごく多いよね」
春原「さすが、和さん」
唯「和さん?」
律「和さん?」
春原「あ、いや…」
春原に注目が集まる。
和「………」
真鍋の強烈な視線が春原に突き刺さっている。
普段通りに接すること…その鉄則を破っているからだ。
春原「ひぃっ」
春原「…真鍋も、やるじゃん」
春原「あそ、そうだ、部長、おまえのはどんなんだよ」
律「私? 私のは…」
春原「ああ、ノリ弁ね」
律「まだなにも言ってないだろっ」
春原「言わなくてもわかるよ。おまえ、歯に海苔つけたまま、がははって笑いそうだし」
律「なんだと、こらっ! そんなことしねぇっつの!」
律「おまえなんか、弁当で例えると、あの緑色の食べられない草のくせにっ!」
朋也「それは言いすぎだ」
春原「岡崎、おまえ…」
律「な、なんだよ、男同士かばいあっちゃって…」
朋也「フタの裏についてて、開けたらこぼれてくる水滴ぐらいはあるだろ」
春原「追い討ちかけやがったよ、こいつっ!」
律「わははは!」
―――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――
放課後。無人の生徒会室へ。
周囲を警戒して、真鍋とは別ルートで向かった。
そして、席につき、会議が始まる。
和「岡崎くん、ちゃんと渡してくれた?」
朋也「ああ」
和「そう。ご苦労様」
渡した時、なにも不審がられなかったのが逆に不気味だった。
みな、手馴れた様子でさっと机の中に隠していた。
こういうことが日常的に起きているんだろうか…。
和「今日は届けものをして欲しいんだけど」
机の上には、封筒から小包まで、大小様々な包みが並べられていた。
和「それぞれにクラス、氏名…この時間いるであろう場所、等が書いてあるから」
朋也「わかった。どれからいってもいいのか」
和「ええ、どうぞ」
とりあえず、軽めのものからかき集めていく。
なぜか春原は小包を見て、そわそわし始めていた。
下手な好奇心は身を滅ぼす、と今の一言に集約されていた。
春原「う、は、はいっ」
歯切れの悪い返事。
こいつは中身を覗いてみるつもりだったに違いない。
―――――――――――――――――――――
春原「なぁ、岡崎…これって、俗に言う運び屋なんじゃ…」
朋也「だろうな」
男子生徒1「ファッキューメーン!」
男子生徒2「イェーマザファカッ!」
いきなりニット帽をかぶった二人組が俺たちの前に立ちはだかった。
春原「なに、こいつら」
男子生徒1「おまえら、真鍋和の兵隊だろ、オーケー?」
男子生徒2「そのブツ、ヒアにおいてけ、ヨーメーン?」
中途半端すぎる英語だった。
春原「ああ? うっぜぇよっ、やんのか、らぁっ!」
男子生徒2「俺もだYO」
男子生徒1「じゃ、帰ろっか」
男子生徒2「うん」
最後は素に戻り、立ち去っていった。
春原「マジでなんなの」
朋也「さぁ…」
―――――――――――――――――――――
朋也「えーと…二年B組か」
封筒を確認し、教室を覗く。
適当な奴を捕まえて、記載された名前の人物を呼んでもらった。
男子生徒「なんすか」
いかにもな、チャラい男だった。
朋也「これ」
封筒を渡す。
男子生徒「あい?」
男子生徒「ああ…そういうこと」
次に俺たちを見て、何かを納得したようだった。
男子生徒「30…いや、50はかたいって伝えてといてください」
朋也「わかった」
男子生徒「それじゃ」
一度片手を上げ、たむろしていた連中の輪の中に戻っていった。
春原「なにが入ってたんだろうね…」
朋也「俺たちの知らなくていいことなんだろうな」
きっと、高度な政治的駆け引きが行われたのだ…。
―――――――――――――――――――――
女子生徒「あの…なんでしょう」
やってきたのは図書室。
カウンターの女の子へ届けることになっていた。
春原「ほら、これ。配達にきたんだよ」
小包を渡す。
よくわかっていない様子だ。
開封していく。
女子生徒「………」
みるみる顔が青ざめていく。
そして、俺たちに謝罪の言葉を伝えて欲しいと、そう言って、そのまま意気消沈してしまった。
―――――――――――――――――――――
春原「…中身、みなくてよかったのかな、やっぱ」
やはりなにが入っているか気になっていたようだ。
朋也「だろうな」
もし見ていれば、次はこいつのもとに小包が届くことになっていたのだろう。
―――――――――――――――――――――
手持ちも全てなくなり、一度生徒会室に戻ってくる。
春原「和さん、なんか、途中変な奴らに絡まれたんすけど。僕たちが和さんの兵隊だとかいって」
和「それで、どうしたの」
春原「蹴散らしてやりましたよっ」
春原「へへ、楽勝っす」
和「その人たちは私の政敵が雇った刺客ね」
朋也「刺客?」
和「ええ。私と似たようなことをしている輩もいるのよ」
和「でも、ま、雇えたとしても、その働きには期待できないでしょうけどね」
和「正規運動部を雇うのは、あとあと面倒だろうし…」
和「一般生徒や、途中で部を辞めてしまった生徒じゃ力不足になるわ」
和「なぜなら…」
すっ、とメガネを上げる。
和「スポーツ推薦でこの学校に入ってこられるほどの身体ポテンシャルを持ち…」
和「なおかつ、喧嘩慣れしたあなたたちには、到底適わないでしょうから」
こいつ…俺たちのプロフィールも事前にしっかり調べていたのか…。
春原「ふ…そうっすよ。僕たち、この学校最強のコンビっすからっ」
いつもラグビー部に好き放題ボコられている男の言っていいセリフじゃなかった。
春原「まかせてくださいよっ」
朋也(すぐ調子に乗りやがる…)
―――――――――――――――――――――
その後も俺たちは似たようなやり取りを繰り返した。
そして、最後の配達を追え、また戻ってくる。
―――――――――――――――――――――
春原「全部終わりましたっ」
和「ええ、そうね。ご苦労様」
春原「いえいえ」
春原「あ、そうだ。メガネの奴が、今までの3割増しなら60、って言ってました」
和「そう…わかったわ。ありがとう」
伝言もことあるごとに頼まれていた。
その都度、こうして真鍋に報告を入れていた。
和「ふぅ…」
ひとつ深く息をつき、生徒会長の椅子に座る。
声色に覇気がなかい。
朋也「まだなにか不安があるのか」
和「まぁね」
朋也「これだけやれば、もうおまえが勝ったも同然な気がするけどな」
春原「そっすよ」
和「…あなたたち、二年生の坂上智代って子、知ってる?」
聞いたことがなかった。
春原「いや、知らないっす」
朋也「有名な奴なのか」
和「ええ。それも、この春編入してきたばかりだというのによ」
なら、まだこの学校に来て二週間も経っていないことになる。
それで有名なら、よっぽどな奴なんだろう。
和「純粋な子なんでしょうね…それを、周囲の人間が感じ取ってる」
朋也「そいつとおまえと、どう関係あるんだ」
和「立候補してるのよ。生徒会長に」
そんな型破りな奴なら、有名になるのも頷ける。
和「ええ。求心力も抜群でね…私の党から離れて、坂上さんサイドに移った人間もいるわ」
和「いえ…それが大多数かしら」
ぎっと音を立て、椅子から立ち上がった。
和「汚いことをしているとね…綺麗なもの、純粋なものが一層美しく映るの」
和「みんな心の底ではそんなものに憧憬の念を抱いていたわ」
和「そこへ、一点の曇りもない、指導者と成り得るだけの器を持った人物が現れた」
和「それは私にとって由々しき事態だったわ」
和「私は一年の頃からこちら側に芯までつかっていた」
和「そう…全ては生徒会長の椅子を手に入れるために」
和「それなのに…会長を務めていた先輩も卒業して、ようやく私がそのポストにつけると思っていたのに…」
和「なんのしがらみも持たず、何にも囚われない最強の敵が現れた!」
和「私は焦った。どんどん人が離れていく。中核を成していた実働部隊もいなくなった」
和「残ったのは少数の部下だけ…」
和「途方にくれていた時…あなたたちが奉仕活動をしていることを知ったの」
和「そして思いついた…なにも知らない、一不良を使った『封神計画』を!」
朋也「なんか、ずれてないか」
和「冗談よ」
朋也「あ、そ」
和「まぁ、それであなたたちに働いてもらったってわけね」
そっと椅子に手を触れる。
和「ようやく、互角…まだ戦えるわ」
和「そして、この椅子を手に入れるのは…」
じっと、俺たちを見据えて…
和「私よ」
そう言い放った。
―――――――――――――――――――――
唯「おはよぉ」
朋也「ああ、おはよ」
今日も角を曲がったところで、変わらず待っていた。
そのほがらかな姿を見ると、僅かに心が躍った。
そんな想いを胸中に秘めながら、隣に立ち、並んで歩き始めた。
唯「…はぁ」
隣でため息。
朋也「………」
唯「…はぁっ」
今度はさっきより大きかった。
朋也「………」
唯「…もうっ! どうしたの? って訊いてよっ」
朋也「どうしたの」
唯「…まぁ、いいよ」
唯「えっとね、先週新勧ライブあったでしょ」
唯「あれから今日で一週間経つんだけど、まだ新入部員ちゃんが来てくれないんだよ…」
朋也「ふぅん…」
唯「やっぱり、私の歌がヘタだったから、失望されちゃったのかな…」
朋也「そうかもなっ」
唯「って、こんな時だけはきはき答えないでよっ」
朋也「悪い。眠さの波があるんだ」
唯「意地悪だよ、岡崎くん…」
―――――――――――――――――――――
………。
―――――――――――――――――――――
4時間目が終わる。
唯「今日も、一緒でいい?」
朋也「ああ、別に」
唯「やたっ!」
高らかにそう告げると、席を立ち、ぱたぱたと駆けていった。
いつものメンツを集め、その旨を伝えているようだった。
春原「とーもーやーくん」
そこへ、いやに馴れ馴れしさのこもった呼び声を発しながら、春原がやって来た。
朋也「…あ?」
春原「がくしょくいーこーお」
春原「いや、でもさ、その前に…河原いかね?」
朋也「…なんでだよ」
その前に覚えた違和感はとりあえず置いておき、訊いてみる。
春原「なんでって…おまえ、言わせんなよ…」
耳打ちするように手を口に添えた。
結局言うつもりらしい。
春原「…エロ本…だよ…」
げしっ!
春原「てぇなっ! あにすんだよ!」
朋也「なにがエロ本だっ! 性欲が食欲に勝ってんじゃねぇよっ!」
生徒1「春原やっべ、エロ本とか…」
生徒2「あいつ絶対グラビアのページ開きグセついてるよな」
生徒1「ははっ、だろーな」
春原「うっせぇよ!」
生徒1「やべ、気づかれた」
生徒2「エロい目で気づかれた」
春原「ぶっ飛ばすぞ、こらっ!」
生徒1「逃げれっ」
生徒2「待てって」
二人のクラスメイトたちは、わいわいと騒ぎながら教室を出て行った。
春原「岡崎、てめぇ、声でかいんだよっ」
朋也「おまえがエロ本とかほざくからだろ」
春原「おまえが中学二年生みたいにって要求したんだろっ!」
春原「もう忘れたのかよっ!? なら、最初からいうなっ!」
朋也「いや、最初のほうは小学二年生だったからわかんなかったんだよ」
春原「ちゃんと第二次性徴むかえてただろっ」
朋也「いきなりすぎて気づかなかったんだ」
春原「なんだよ、おまえの言う通りにしてやったのによ…」
朋也「悪いな。じゃ、次はさ、一発屋芸人のようにやってくれよ」
春原「おまえさ、僕で遊んでない?」
朋也「え? そうだけど?」
春原「さも当たり前のようにいうなっ!」
春原「くそぅ、やっぱ、確信犯かよ…」
朋也「まぁ、結構おもしろかったんだし、いいじゃん」
春原「それ、あんただけだよっ!」
―――――――――――――――――――――
唯「とうとう明日だね、和ちゃん」
律「確か、演説とかするんだよな」
和「ええ」
律「公約とか、理想みたいなのを延々語るんだろ?」
和「ごめんなさいね、退屈で」
律「いや、和が謝ることないけど」
澪「和が生徒会長になってくれたら、学校も今よりよくなるよ」
和「ありがとう」
唯「和ちゃんの公約って、なに?」
和「無難なものよ。女の子受けするように、スカート丈が短くてもよくするとか…」
和「ソックスの種類を学校の純正品以外も可にするとかね」
和「男の子向けだと、夏はシャツをズボンから出してもよくする、とか…」
和「まぁ、先生受けは悪いし、ほとんど守れないんだけどね」
こいつが本気になればどれも軽く実現しそうだった。
律「じゃあさ、春原をこの学校から根絶します、とかだったらいいんじゃね?」
春原「いや、デコの出し過ぎを取り締まったほうがいいよ」
春原「昔、ルーズソックスとかあったじゃん。もう絶滅してるけど」
春原「それと同じで、ルーズデコも、もう世の中が必要としてないと思うんだよね」
律「………」
春原「………」
引きつった笑顔で睨み合う。
澪「また始まった…」
朋也「なら、折衷案しかないな」
春原「折衷案?」
律「折衷案?」
朋也「ああ。間を取って、春原の上半身だけ消滅すればいいんだよ」
春原「僕が一方的に消えてるだろっ!」
律「わははは!」
―――――――――――――――――――――
………。
放課後。生徒会室に集まった。
和「じゃあ、今日は…」
こんこん
扉がノックされる。
和「…どうぞ」
真鍋の表情が険しくなる。
警戒しているようだった。
女生徒「失礼する」
ひとりの女生徒が入室してくる。
真鍋が俺に目配せし、廊下の方に小さく顎を振った。
他に誰かいないか、確認するよう指示してきたのだろう。
俺はそのサインを汲み取り、廊下を見渡しに出た。
人影はみあたらない。
女生徒がこちらに背を向けていたので、その場から手でOKサインを送った。
真鍋も目だけをこちらに向けて気取られない程度に頷く。
和「私に用があるのよね?」
女生徒「ああ」
和「でも、どうしてここが?」
女生徒「それで、挨拶しに行きたいと言ったら、ここにいるはずだと教えてくれた」
和「…なるほどね」
女生徒「ああ、申し遅れたが、私は二年の坂上智代という」
こいつが、例の…。
和「ええ、知ってるわ」
智代「そうか。それは光栄だ」
智代「あなたは、かなりのやり手だと聞く。けど、私も退くわけにはいかない理由がある」
智代「明日は誰が勝っても恨みっこなしだ。お互いがんばろう。それだけ言いにきた」
和「…そう」
智代「他の立候補者にも挨拶に行きたいので、これで失礼する」
出入口のあるこちら側に振り返る。
そこへ、春原がチンピラ歩きで寄っていった。
春原「おい、てめぇ。上級生にたいして口の利き方がなってねぇなぁ、おい」
智代「…なんだ、この黄色い奴は」
春原「金色だっ」
春原「なにぃっ!?」
智代「真鍋さん、こいつは部外者じゃないのか」
和「いえ…私の手伝いをしてもらっていたの」
智代「そうか…」
残念そうな顔。
朋也「始末したいなら、別にいいぞ」
春原「おい、岡崎っ!?」
智代「…真鍋さん、そっちは」
和「同じく、私のお手伝いよ」
智代「そうか。なら、正式な許可がおりたということだな」
春原「ああ? なに言って…」
ばしぃっ!
春原「ぎゃぁぁあああああああああああああっ!!」
内股に強烈なインローが入り、悶絶し始めた。
うずくまり、ぷるぷると震えている。
転がっている春原を跨ぎ、俺がいる方のドアに近づいてくる。
和「…待って」
智代「なんだ」
立ち止まり、真鍋に向き直った。
和「考え直さない?」
智代「というと?」
和「生徒会長よ。あなた、まだ二年だし、副会長からでもいいんじゃない?」
智代「それは…だめだ。言ったはずだ。退けない理由があると」
智代「あなたにもあるだろう。それと同じことだ」
和「…そうね。引き止めて悪かったわ」
智代「いや、これくらいなんでもない。それでは」
会釈し、歩き出す。
そして、俺の脇を抜けて出て行こうとした。
朋也「待てよ」
智代「なんだ? 今度はおまえか?」
智代「…まぁ、いいだろう」
智代「坂のところに桜並木があるだろ」
朋也「ああ」
智代「私は、あれを守りたいんだ」
朋也「守るって…なにから」
智代「この学校…と言っていいのかな…」
朋也「あん? どういうことだ」
智代「この学校の意向でな、あそこの桜が撤去されることになるらしいんだ」
智代「だから、私は生徒会長になって、直接訴えたいんだ」
智代「あの桜は残して欲しい、とな」
朋也「なんでまた、そんなもんのために…」
智代「それは…」
さっきまでの、固い意志を感じさせる凛とした表情が急に崩れた。
どこか悲しそうにして、目を泳がせている。
朋也「ああ、いいよ、言いたくないなら」
朋也「でもさ、それっておまえが生徒会長にならなくてもできるんじゃねぇ?」
智代「どうやってだ」
朋也「今の願いを真鍋に聞いてもらえばいいだろ」
智代「でも、これは私が直接したいんだ。誰かが代わりにやったんじゃ、意味がないことなんだ」
朋也「じゃあ、おまえがこのまま選挙で戦ったとして、絶対に勝つことができるのか?」
朋也「真鍋も、そうとう手強いぞ」
智代「それは…」
朋也「もし、負けでもしたら、おまえはただの一般生徒」
朋也「おまえ一人の声なんて、上には届かないよな?」
朋也「だったらさ、副会長として真鍋の下についたほうがよくないか」
智代「でも…」
朋也「ああ、おまえ自身の手でやりたかったんだよな」
朋也「でも、結局おまえが生徒会長の座についても、誰かの手は借りることになるんだぜ」
朋也「桜並木を撤去するなんて、相当大きな力が働いてそう決まったんだろ」
智代「………」
朋也「な? そうしろよ」
朋也「おまえ、この学校に来てまだ間もないんだろ? 聞いたよ」
朋也「だからさ、真鍋の下について、いろいろ教えてもらえ」
朋也「この学校にはこの学校のルールがあるんだからさ」
本当に、いろいろと。
俺もここで真鍋に使われる前は知らなかった裏がたくさんある。
智代「…今から副会長に変更しても間に合うだろうか」
朋也「どうなんだ、真鍋」
和「ええ…可能よ。前日になって変更なんて、前代未聞だけど」
智代「そうか。どこで手続きを踏めばいい?」
和「選挙管理委員会が使ってる教室が旧校舎の三階にあるから、そこへいけば」
智代「わかった。ありがとう、新生徒会長」
朋也「っと、今まで真鍋が当選するって前提で話しちまってたけど、その限りじゃないからな」
智代「いや…私と真鍋さんの二強だって、なんとなくわかっていたからな」
にこっと笑う。その相貌には邪気がない。
自虐的なそれでもなく、純粋な、祝福する時の笑顔だった。
智代「それじゃ、失礼する」
廊下へ出て、戸を閉めた。
足音が遠ざかっていく。
旧校舎へ向かったんだろう。
和「………」
朋也「だとよ、新生徒会長」
和「…岡崎くん、あなたやるわね。あの坂上さんを、ああもスマートに言いくるめるなんて」
朋也「そりゃ、どうも」
和「これからも私の元で働く気はない? 磨けば光るものを持っている気がするんだけど…」
朋也「いや、もうこの遊びもそろそろ飽きたからな。遠慮しとく」
和「おいしい目をみれるわよ? 大学の推薦だって、欲しければ力になってあげられるわ」
朋也「俺、進学する気ないんだけど」
朋也「それに、いくらドロドロしてて面白いってことがわかっても、生徒会だからな」
朋也「俺の肌に合わねぇよ」
和「でも…これで今夜はゆっくり眠れるわ」
和「不確定要素は、なにも知らない一般のミーハーな無党派層だけだし…」
和「明日はただのデキレースになるでしょうね」
朋也「そっか」
和「今まで本当にありがとう。晴れてあなたたちは自由の身よ」
つまりもう帰っていいということか。
普通にそう言えばいいのに。
朋也「ああ、そうだ、ひとつ教えてくれ」
和「なに?」
朋也「おまえの退けない理由ってなんだ?」
和「え?」
朋也「坂上が退けない理由があるから戦うっていった時、おまえ、折れたじゃん」
朋也「だから、おまえにもあるんだろ。理由がさ」
和「そうね…あるわ。それは…」
がっ、と下にあったものを踏みつけ、片足の位置を上げた。
和「プライドよ」
あきれるほど自分に正直だった。
坂上の、安易に立ち入れなそうな理由を聞いた後では、ちょっと可笑しくて笑ってしまいそうになる。
朋也「そっか。まぁ、そういう奴も、嫌いじゃないよ」
和「それは、どうも」
春原「…あの、和さん…足、頭からどけてくれませんか…」
―――――――――――――――――――――
この日、全校朝会に続き、一時間目を使って選挙が行われた。
春原も珍しく朝から姿を現していた。
なんだかんだ、自分が暗躍したことなので、気になったらしい。
演説が終わると、教室に戻り投票が行われた。
当然、俺は真鍋に一票を投じた。
発表は明日行われるらしい。
―――――――――――――――――――――
昼は、おなじみのメンバーで食べた。
唯「当選してるといいね」
和「ほんと、そうだといいけど…」
律「楽勝だって」
和「そこまで甘くないわよ」
よく言う。
デキレースだと言い切ったのと同じ口から出た言葉だとは思えない。
―――――――――――――――――――――
そして、放課後。
俺はなぜかまた生徒会室に呼び出されていた。
朋也「どうした。もう終わりなんじゃなかったのか」
朋也「春原は?」
和「呼んでないわ。あなたにやってもらいたいの」
朋也「はぁ…」
―――――――――――――――――――――
依頼内容は、こうだった。
ある生徒を呼び出して、真鍋から渡されたメモ用紙に書いてある内容を読み上げる。
かなり単純だった。
だが、呼び出す、というところに乱暴なニュアンスを感じる。
最後の最後でキナ臭い指令が下ったものだ。
まさか…秘密を知った俺を始末するためにやらせるんじゃないだろうな…。
警察沙汰になって、退学になれば、なにを証言しても、すべて妄言だと取られるだろう。
もしかしたら、春原はもう…。
朋也(まさかな…)
少しビクつきながらもターゲットを探した。
―――――――――――――――――――――
そして、俺はその男を指定された場所につれてくることに成功した。
男子生徒「…なんですか」
朋也「えーっとな…」
朋也「ゆいは俺の女だ。手出したら殺すぞ…」
朋也(ゆい? 俺の知ってる奴は…平沢くらいだぞ)
男子生徒「あ…うぅ…」
朋也(抵抗した場合、三枚目へ。ひるんだ場合二枚目へ、か)
朋也(ひるんでるよな…二枚目…)
朋也「おら、もういけ」
そう書いてあった。
男子生徒「…はい」
うなだれて、とぼとぼと立ち去っていった。
和「…うん、上出来よ」
木陰から真鍋がひょこっと出てくる。
…いたのかよ。
朋也「これ、なんだったんだ」
和「ん? わからない?」
朋也「ああ、まったく」
朋也「あん?」
和「だから、さっきのあの人、唯に気があったのよ」
朋也「ふぅん…って、それ、なんか生徒会と関係あんのか」
和「いいえ。これはただの私事よ」
朋也「おまえ、あいつになんの恨みがあったんだよ…」
和「恨みはないわ。ただ、唯に悪い虫がつかないようにしただけよ」
朋也「なんでおまえがんなことするんだよ」
和「幼馴染だしね。大事にしてるのよ」
朋也「へぇ、おまえ、幼馴染なんていたの…」
…幼馴染?
朋也「もしかして、この紙にある ゆい って、平沢か?」
和「ええ、そうよ。気づかなかった?」
朋也「気づかなかった? じゃねぇよっ! なんてことさせてくれるんだよっ!」
和「あら? なんで怒るの?」
和「でも、かなり仲良くしてるじゃない。一緒に登校もしてるみたいだし」
朋也「それは、いろいろあって、しょうがなくだよ」
和「ふぅん。両思いなのに、お互い踏み出せないでいるのかと思ってたわ」
朋也「それはないっての。つか、いいのかよ」
和「なにが?」
朋也「俺、思いっきり悪い虫じゃん」
和「まぁ、見かけはね。でも、なかなか見所もあるってわかったし…」
和「あなたならいいかなって思ったのよ。そうじゃなきゃ、こんな役させないわ」
和「まぁ、唯がなついた人だから、悪い人ではないのかなとは思ってたけどね」
朋也「いや、おまえに買われるのも、悪い気はしねぇけどさ…」
和「それで納得しときなさいよ」
朋也「はぁ…」
和「ま、最初は潰しておこうかと思ったんだけどね」
さらりと怖いことをいう。
…俺は坂上に感謝しなければいけないのかもしれない。
和「あの子に近づく変な男って今までたくさんいたのよ」
和「ほら、あの子可愛いじゃない? だから、大変だったわ」
和「それが高校に入って、軽音部に入部してからはもう、それまでの倍は手間取ったわ」
和「生徒会の権力を使ってようやく追いつくくらいだったもの」
そこまでモテていたのか…。
和「あなたも、あんな可愛いのに、彼氏の気配がないのはおかしいと思わなかった?」
朋也「まぁ、普通に彼氏がいても不思議じゃないとは思うけど」
和「私が全て弾いていたからね」
強力すぎるフィルターだった。
和「だから、あの子、今まで男の子と交際したことがないの。大切にしてあげてね」
朋也「いや、だから、そもそも付き合ってないんだけど」
和「あら、そうだったわね。でも、時間の問題な気がするの」
和「女のカンだから、根拠はないけどね」
和「それじゃあね」
言って、背を向ける。
朋也「あ、なぁ」
和「なに?」
振り返る。
朋也「おまえに彼氏がいたことってないのか」
なんとなく気になったので訊いてみた。
和「私? 私は、ないけど」
朋也「そっか。なんか、もったいないな」
和「私はいいのよ、別に」
朋也「なんでだよ」
和「特に容姿がいいわけでもないし…作るの大変そうじゃない」
朋也「いや、おまえも普通に可愛いじゃん。男はべらせてうっはうはだろ」
和「っ…馬鹿ね…」
そう小さく言って、踵を返した。
そのまま校舎の方に戻っていく。
………。
初々しい反応も見れたことだし…よしとしておこう。
―――――――――――――――――――――
唯「あ、おはよ?」
女の子「おはようございます」
朋也「ん…」
平沢と、その隣にもうひとり。
髪を後ろで束ねた女の子がいた。校章の色は、二年のものだ。
唯「岡崎くん、やったねっ。合格だよっ」
朋也「なにが」
事情が飲み込めない。
唯「前に言ったでしょ? もう少し早く来れば私の妹と一緒にいけるって」
そういえば、言っていたような…。
唯「これが、私の妹でぇす」
女の子「初めまして。平沢憂です」
平沢に大げさな手振りで賑やかされながら、そう名乗った。
朋也「はぁ、どうも…」
見た感じ、妹というだけあって、顔はよく似ていた。
まぁ、それも、見知らぬ上級生に対する、作った像なのかもしれないが。
憂「岡崎さんのことは、お姉ちゃんからよく聞いてます」
朋也「はぁ…」
なにを言われているんだろう。
憂「聞いてた通りの人ですね」
朋也「あん? なにが」
憂「お姉ちゃん、よく岡崎さんのこと…」
唯「あ、憂っ、あそこっ、アイスが壁にめり込んでるっ」
憂「え? どこ?」
唯「あ?、残念、もう蒸発してなくなっちゃった」
憂「えぇ? ほんとにあったの?」
唯「絶対間違いないよっ、多分っ」
憂「どっちなの…」
朋也(にしても…うい、ねぇ…う?む…)
俺は、その響きに引っかかりを覚えていた。
朋也(どこだったかな…)
記憶をたどる。
そう…あれは確か、軽音部の新勧ライブの日だったはずだ。
薄暗い講堂の中、会話が聞えてきた。
そこで、お姉ちゃん、と言っていたのが、その うい という子だった。
とすると…あの時、あの場に居たのはこの子だったのだ。
憂「あの…どうかしましたか?」
はっとする。
俺は考え込んでいる間、ずっとこの子を凝視してしまっていた。
さすがにそんなことをしていれば、不審に思われても仕方ない。
ただでさえ、俺は生来の不機嫌そうな顔を持っているのだ。
よく人に、怒っているのかと聞かれるくらいに。
朋也「いや、なんでも」
精一杯の作り笑顔でそう答えた。
不自然さを気取られて、さらに引かれていないだろうか…。
それだけが心配だった。
唯「私たち、ちょうどさっき来たばっかりなんだよ」
朋也「そうなのか」
唯「うん。でね、なんか、予感してたんだ」
唯「うん。そろそろ岡崎くんが来るんじゃないかってね」
朋也「そら、すげぇ第六感だな。大当たりだ」
唯「違うよぉ。そんなのじゃないって」
唯「岡崎くん、日に日に来るの早くなってたでしょ。それでだよ」
今週はずっと朝から登校してたからな…。
そろそろ体が慣れてきたのかもしれない。
といっても、相変わらず眠りにつくのは深夜だったから、今も眠気はたっぷりあるが。
どうせまた、授業中は寝て過ごすことになるだろう。
唯「ずっとがんばり続けてたから、今日はこんなボーナスがつきました」
妹を景品のようにして、俺の前面にすっと差し出した。
朋也「じゃあ、さらに早くきたらどうなるんだ」
唯「え? えーっとね…」
しばし考える。
唯「どんどん憂の数が増えていきますっ」
憂「お、お姉ちゃん…」
朋也「そっか。なら、あと三人くらい増やそうかな」
憂「っていうか、私は一人しかいませんよぅ」
唯「そうなの?」
憂「常識的に考えてそうだよぉ、もう…」
唯「憂なら細胞分裂で増えるくらいできるかなぁと思って」
憂「それ、もはや人じゃないよね…」
妹のほうは姉と違って普通の感性をしているんだろうか。
突拍子も無いボケに、冷静な突っ込みを入れていた。
唯「じゃ、そろそろいこっか」
憂「うん」
ふたりが歩き出し、俺もそれに続いた。
―――――――――――――――――――――
唯「あーあ、とうとう全部散っちゃったね、桜」
憂「そうだね」
平沢姉妹と共に坂を上っていく。
これを、両手に花、というんだろうか…。
意識した途端、なんとも気恥ずかしくなる。
俺はワンテンポ遅れて、後ろを歩いた。
憂「岡崎さん、どうしたんですか?」
その変化に気づいたのか、後ろにいる俺に振り返った。
朋也「いや、別に」
唯「ああっ、わかった! 憂、気をつけないとっ」
憂「え? なに?」
唯「岡崎くん、坂で角度つけて私たちのスカートの中覗こうとしてるんだよっ」
憂「え? えぇ?」
その、覗く、という単語に反応してか、周りの目が一瞬俺に集まった。
朋也(あのバカ…)
朋也「んなわけねぇだろっ」
俺は一気にペースを上げ、ふたりを抜き去っていった。
唯「あ、冗談だよぉ。待ってぇ?」
憂「岡崎さん、早いですっ」
―――――――――――――――――――――
唯「もう許してよぉ…ね?」
下駄箱までずっと無視してやってくる。
平沢はさっきから俺の周囲をうろちょろとして回っていた。
朋也「………」
憂「あれは、お姉ちゃんが悪いよ、やっぱり」
唯「うぅ、憂まで…」
朋也「よくわかってるな」
俺は妹の頭に手を乗せ、ぽんぽんと軽くなでた。
憂「あ…」
唯「………」
それを見ていた平沢は、片手で髪を後ろでまとめ…
唯「私が憂だよっ。憂はこっちだよっ」
微妙な裏声でそういった。
朋也(アホか…)
朋也「似てるけど、あんま似てない」
平沢の頭にぽん、と触れる。
唯「あ、やっと喋ってくれたっ」
憂「よかったね、お姉ちゃん」
唯「うん。えへへ」
ふたりして、喜びを分かち合う。
仲のいい姉妹だった。
梓「…おはようございます」
いつの間にか、軽音部二年の中野が近くに立っていた。
こいつも、今登校してきたんだろう。
唯「あっ、あずにゃん。おはよう」
憂「おはよう、梓ちゃん」
梓「うん、おはよう憂」
梓「………」
じろっと俺を睨む。
そして、平沢の手を引いて俺から離した。
そして、俺の方に寄ってくる。
梓「…やっぱり、仲いいんですね。頭なでたりなんかして…」
ぼそっ、と不機嫌そうにささやいた。
梓「しかも、憂にまで…」
朋也「いや、ふざけてただけだって…」
梓「へぇ、そうですか。先輩はふざけて女の子の頭なでるんですか」
梓「やっぱり違いますね、女の子慣れしてる人は」
朋也「そういうわけじゃ…」
言い終わる前、平沢のところに戻っていった。
梓「先輩、今日も練習がんばりましょうねっ」
言って、腕に絡みつく。
唯「うんっ…って、あずにゃんから私にきてくれたっ!?」
梓「なに言ってるんですか、いつものことじゃないですか」
梓「私たち、すごく仲がいいですからね。もう知り合って一年も経ちますし」
ちらり、と俺を見る。
唯「う…うれしいよ、あずにゃんっ」
がばっと勢いよく正面から抱きしめた。
梓「もう、唯先輩は…」
中野もそれに応え、腕を回していた。
しばしそのままの状態が続く。
梓「ほら、もう離してください」
回していた手で、とんとん、と背中を軽く叩く。
梓「続きは部活のときにでも」
唯「続いていいんだねっ!?」
梓「ええ、どうぞ」
唯「やったぁ!」
ぱっ、と離れる。
梓「憂、いこ」
憂「うん」
朋也(俺、あいつに嫌われてんのかな…)
―――――――――――――――――――――
教室に到着し、ふたりとも自分の席についた。
まだ人もそんなに多くない。
かなり余裕のある時間。俺にとっては未知の世界。
そんなに耳障りな声もなく、眠るには都合がよかった。
唯「岡崎くん」
今まさに机に突っ伏そうとしたその時、声をかけられた。
朋也「なんだ」
唯「岡崎くんたちがやってるお仕事のことなんだけどね…」
朋也「ああ」
唯「あれって、遅刻とか、サボったりしなかったら、やらなくていいんだよね?」
多分こいつはまた、さわ子さんにでも話を聞いたのだろう。
あの人は軽音部の顧問を務めているらしいし…
会話の中で、その事について触れる機会は十分すぎるほどある。
朋也「みたいだな」
唯「じゃあ、最近ずっと遅刻してない岡崎くんは、放課後自由なんだよね?」
唯「だったらさ…何度もしつこいようだけど…遊びにおいでよ。軽音部に」
朋也「前にも言っただろ。遠慮しとくって」
唯「でも、お昼だって私たちと一緒に食べて、盛り上がってたでしょ?」
唯「あんな感じでいいんだよ?」
朋也「それでもだよ」
唯「…そっか」
しゅんとする。
唯「やっぱりさ…」
でも、すぐに口を開いた。
唯「部活動が嫌いって言ってたこと…関係あるのかな」
朋也「………」
あの時春原が放った不用意な発言が、今になって負債となり、重くのしかかってきた。
きっかけさえ作らなければ、話題にのぼることさえなかったはずなのに。
そもそも、自ら進んで人にするような話でもない。
だが、もし、仮に…
こいつとこれからも親しくなっていくようであれば…
そうなれば、いつかは訊かれることになっていたかもしれないが。
………。
俺は頬杖をついて、一度視線を窓の外に移した。
そして、気を落ち着けると、また平沢に戻す。
朋也「…中学のころは、バスケ部だったんだ」
朋也「レギュラーだったんだけど、三年最後の試合の直前に親父と大喧嘩してさ…」
朋也「怪我して、試合には出れなくなってさ…」
朋也「それっきりやめちまった」
………。
こんな身の上話、こいつにして、俺はどうしたかったのだろう。
どれだけ、自分が不幸な奴か平沢に教えたかったのだろうか。
また、慰めて欲しかったのだろうか。
唯「そうだったんだ…」
今だけは自分の行為が自虐的に思えた。
その古傷には触れて欲しくなかったはずなのに。
唯「………」
平沢は、じっと顔を伏せた。
唯「私…もう一度、岡崎くんにバスケ始めて欲しい」
そのままの状態で言った。
唯「それで、みんなから不良だなんて呼ばれなくなって…」
唯「本当の岡崎くんでいられるようになってほしい」
本当の俺とはなんだろう。
こいつには、俺が自分を偽っているように見えるのだろうか。
そんなこと、意識したことさえないのに。
唯「みんなにも、岡崎くんが優しい人だって、わかってほしいよ」
ああ、そういえば…
こいつの中では、俺はいい人ということになっていたんだったか…。
だが、それも無理な相談だった。
朋也「…無理だよ」
唯「え? あ、三年生だからってこと…」
朋也「違う。そうじゃない」
もっと、根本的な、どうしようもないところで。
朋也「俺さ…右腕が肩より上に上がらないんだよ」
朋也「怪我して以来、ずっと…」
…三年前。
俺はバスケ部のキャプテンとして順風満帆な学生生活を送っていた。
しかし、その道は唐突に閉ざされた。
親父との喧嘩が原因だった。
発端は、身だしなみがどうとか、くつの並べ方がどうとか…そんなくだらないこと。
取っ組み合うような喧嘩になって…
壁に右肩をぶつけて…
どれだけ痛みが激しくなっても、意地を張って、そのままにして部屋に閉じこもって…
そして医者に行った時はもう手遅れで…
肩より上に上がらない腕になってしまったのだ。
唯「あ…ご、ごめん…軽はずみで言っちゃって…」
朋也「いや…」
………。
静寂が訪れる…痛いくらいに。
朋也「…春原もさ、俺と同じだよ」
先にその沈黙を破ったのは俺だった。
朋也「一年の頃は、あいつも部活でサッカーやってたんだ」
朋也「でも、他校の生徒と喧嘩やらかして、停学食らってさ…」
朋也「レギュラーから落ちて、居場所も無くなって、退部しちまったんだ」
唯「そう…だったんだ…」
唯「でも…春原くんは、もう一度、サッカーできるんじゃないかな」
唯「うん」
朋也「それは…無理だろうな。あいつ、連中からめちゃくちゃ嫌われてるんだよ」
朋也「あいつの喧嘩のせいで、今の三年は新人戦に出られなかったらしいからな」
朋也「第一、あいつ自身、絶対納得しないだろうし」
唯「でも…やっぱり、夢中になれることができないって、つらいよ」
唯「なんとかできないかな…」
朋也「なんでおまえがそんなに必死なんだよ…」
唯「だって、私も今、もうギター弾いちゃだめだって…バンドしちゃだめだって言われたら、すごく悲しいもん」
唯「きっと、それと同じことだと思うんだ」
唯「私は、岡崎くんや春原くんみたいに、運動部でレギュラーになれるほどすごくないけど…」
唯「でも、高校に入る前は、ただぼーっとしてただけの私が、軽音部に入って、みんなに出会って…」
唯「それからは、すごく楽しかったんだ。ライブしたり、お茶したり、合宿にいったり…」
唯「それが途中で終わっちゃうなんて絶対いやだもん」
唯「もっとみんなで演奏したいし、お話もしたいし、お菓子も食べたいし…ずっと一緒に居たいよ」
唯「それじゃ、だめかな」
こいつは、自分に置き換えて考えていたらしい。
よほど軽音部が気に入っているんだろう。
その熱意が、言葉や口ぶりの節々から窺えた。
つたなくても、伝えようとしてくれるその意思も。
朋也(いや…それだけじゃないよな、きっと)
いつだってそうだった。
俺が親父を拒否して彷徨い歩いていた時も、ずっと後ろからついてきた。
朝だって、ずっと待っていた。自分の遅刻も顧みずに。
朋也「…おまえ、すげぇおせっかいな奴な」
唯「う…そ、そうかな…迷惑かな、やっぱり…」
朋也「いや…いいよ、それで」
唯「え?」
肯定されるとは思っていなかったんだろう。
それが、表情にわかりやすく現れていた。
朋也「ずっとそういう奴でいてくれ」
そんな真っ直ぐさに救われる奴もいるのだから。
唯「あ…」
一瞬、固まったあと…
唯「うん、がんばるよっ」
そう、はっきりと答えた。
朋也「俺、寝るからさ。さわ子さん来たら起こしてくれ」
唯「え、ずるい! 私も寝る!」
朋也「目覚ましが贅沢言うなよ」
唯「もう、目覚まし扱いしないでよっ」
朋也「じゃ、どうやって起きればいいんだよ」
唯「自力で起きるしかないよね」
朋也「無理だな」
唯「それじゃ、私に腕枕してくれたら、起こしてあげるよ」
朋也「おやすみ」
唯「あ、ひどいっ!」
それでも、窓の方に顔を向けると、まぶたの上からでも光が眩しく感じられた。
頭を動かし、心地いい位置を模索する。
腕の隙間から半分顔を出すと、しっくりきた。
そのまま、じっとする。
次第に意識が薄れていく。
室内の静けさ、春の陽気も手伝って、すぐに眠りに落ちていった。
―――――――――――――――――――――
………。
―――――――――――――――――――――
SHRが終わり、放課となる。
朋也(ふぁ…)
昼になり、ようやく体も目覚めてくる。
一度伸びをして、血の巡りを促す。
頭にもわっとした圧迫がかかった後、脱力し、心地よく弛緩した。
唯「岡崎くん、聞いて聞いてっ」
朋也「…ん。なんだ」
唯「あのね、あした、みんなでサッカーしない?」
朋也「はぁ?」
朋也「それは、やっぱ…」
春原のことで、なにか意図するところがあるんだろうか。
唯「…うん。なんの助けにもならないかもしれないけど…」
唯「春原くんが、少しでも夢中になれた時のこと思い出してくれたらいいなって」
やっぱり、そうだった。
朋也「俺も行かなきゃだめなのか」
唯「もちろんだよ。岡崎くんは、春原くんとすっごく仲いいからね」
朋也「いや、別によくはないけど」
唯「照れちゃってぇ?。いつも楽しそうにしてるじゃん」
朋也「それは偽装だ。フェイクだ。欺くための演技なんだ」
朋也「実際は、おたがい寝首を掻かれまいと、常に牽制し合ってるんだ」
唯「もう、変な設定捏造しないでいいよ。岡崎くんは来てくれるよね」
朋也「暇だったらな」
唯「うん、待ってるね」
伸るか反るかで言えば、反る方の可能性が高いだろう。
春原「おーい、岡崎。飯いこうぜ」
考えていると、ちょうど春原が前方からチンタラやってきた。
唯「あ、春原くん。あのさ、あしたみんなでサッカーしない?」
春原「あん? サッカー?」
唯「うん。学校に集まってさ、やろうよ」
春原「やだよ。なんで休みの日に、わざわざんなことしなくちゃなんないだよ」
唯「練習じゃないんだよ? 遊びだよ?」
春原「わかってるよ、そのくらい。試合に出るわけでもないのに練習なんかするわけないしね」
唯「岡崎くんも来るんだよ?」
春原「え? マジ?」
驚きの表情を俺に向ける。
朋也「…まぁ、暇だったら行くってことだよ」
春原「ふぅん、珍しいこともあるもんだ」
唯「どう? 春原くんも。いつも一緒に遊んでるでしょ?」
唯「ムギちゃんなら、きっとお菓子も紅茶も用意してくれると思うよ?」
春原「え、ムギちゃんもくんの?」
唯「まだ誘ってないけど、言えばきてくれると思うな」
春原「ふぅん、そっか…」
顔つきが変わる。
春原「ま、そういうことなら…行くよ」
なにかしらの下心があるんだろう。
じゃなきゃ、こいつがわざわざ休日を使ってまで動くはずがない。
唯「ほんとに? よかったぁ」
唯「それじゃあ、時間は何時ごろがいいかな」
春原「昼からなら、起きられるけど」
唯「う?ん、なら、1時くらいからでどう?」
春原「いいけど」
唯「決まりだね。集合場所は校門前でいいよね」
春原「ああ、いいよ」
朋也「ああ」
唯「じゃ、私みんなにも頼んでくるよ」
言って、席を立つ。
唯「あ、そうだ。今日も一緒にお昼どう?」
春原「どうする? おまえ、学食でいいの?」
朋也「俺は、別に」
春原「あそ。じゃ、僕も、学食でいいや」
朋也「つーことだ」
唯「じゃ、またあとで、学食で会おうねっ」
朋也「ああ」
平沢は仲間を呼び集めるため、俺たちは席を取るために動き出した。
―――――――――――――――――――――
朋也「おまえ、明日ほんとにくんのか」
春原「ああ、いくね。それで、ムギちゃんに僕のスーパープレイをみせるんだ」
朋也「やっぱ、そういう魂胆か」
春原「まぁね。それよか、おまえこそ、よく行く気になったね」
春原「そういうの、好きな方じゃないだろ。なんで?」
朋也「別に…なんとなくだよ」
春原「ふぅん。僕はてっきり、平沢と居たいからだと思ったんだけど」
朋也「はぁ? なんでそうなるんだよ」
春原「だって、おまえら一緒に登校したりしてるんだろ」
どこで知ったんだろう。
こいつには言っていなかったはずなのに。
春原「それに、いつも仲よさそうにしてるじゃん」
春原「でも、付き合ってるってわけじゃなさそうだし…」
春原「両思いなのに、どっちも好きだって伝えてない感じにみえるね」
昨日同じようなことを言われたばかりだ。
傍目には、そういうふうに見えてしまうんだろうか…。
春原「ま、おまえ、そういうとこ、奥手そうだからなぁ」
春原「そう怒るなって。明日は頑張ってかっこいいとこみせとけよ」
春原「おまえ、運動神経いいんだしさ」
春原「まぁ、でも、本職である僕の前では、引き立て役みたいになっちゃうだろうけどね」
朋也「そうだな。おまえの音色にはかなわないな」
春原「音色? うん、まぁ、僕のプレイはそういう比喩表現がよく似合うけどさ…」
朋也「うるさすぎて、指示が聞えないもんな」
春原「って、それ、絶対ブブゼラのこと言ってるだろっ!」
朋也「え? おまえ、本職はブブゼラ職人だろ?」
春原「フォワードだよっ!」
朋也「おいおい、素人がピッチに立つなよ」
春原「だから、ブブゼラ職人じゃねぇってのっ!」
―――――――――――――――――――――
律「いやぁ、ほんと、めでたいな」
澪「改めておめでとう、和」
唯「おめでと?」
和「ありがとう」
今朝のSHRで、先日の選挙結果が発表されていたのだが…
真鍋は見事、というか、順当に当選していた。
副会長はあの坂上だった。
他の役員は、興味がないのですぐに忘れてしまったが。
和「これから忙しくなるわ」
澪「大変な時は言ってくれ。力になるから」
和「ありがとね、澪」
澪「うん」
律「おい、春原。あんたのおごりで、特上スシの食券買って来いよ」
春原「ワリカンだろっ!」
そもそもそんなメニューは無い。
紬「そんなのもあるの?」
朋也「いや、あるわけない」
紬「なぁんだ。あるなら、私が出してもよかったのに」
律「セコいな、春原」
春原「るせぇよ、かっぱ巻きみたいな顔しやがって」
律「なっ、あんたなんか頭に玉子のせてんじゃねぇかよっ」
春原「あんだと!?」
律「なんだよ!?」
唯「はい、そこまで!」
紬「お昼時にね、判定? だめよ、KOじゃなきゃっ」
割って入ろうとした平沢を、横から琴吹が腕を取って制止させた。
唯「む、ムギちゃん?」
紬「嘘、ごめんなさい。冗談よ」
ぱっと手を離す。
紬「五味を止められるのはレフリーだけぇ?♪」
朋也(PRIDE…)
琴吹は謎のマイクパフォーマンスを挟みはしたが、仲裁する側に回っていた。
平沢も困惑状態から復帰すると、一緒に止めに入っていた。
妙な間はあったが、平沢と琴吹に制され、争いは一応の収まりを見せた。
両者ともそっぽを向いている。
まるで子供の喧嘩のようだった。
澪「毎回毎回…よく飽きないな…」
律「ふん…」
和「明日を機に仲良くなればいいんじゃない」
唯「そうだね。りっちゃんと春原くんは同じチームがいいかも」
律「えぇ、やだよっ」
春原「つーか、こいつもくんの?」
唯「うん。みんな来てくれるって」
律「わりぃか、こら」
春原「ふん、まぁ、明日は僕のすごさをその身をもって思い知るがいいさ」
律「あん? おまえなんか、りっちゃんシュートの餌食にしてくれるわっ」
春原「なんだそりゃ。陽平オフサイドトラップにかかって、泣きわめけ」
律「なにぃ? りっちゃんサポーターたちが暴動起こしてもいいのか?」
律「むりむり。りっちゃんラインズマンがすでに動きを抑えてるから」
春原「卑怯だぞ! 陽平訴訟を起こしてやるからな!」
律「あほか。こっちにはりっちゃん弁護士がついてるんだぞ」
律「あきらめて、『敗訴』って字を和紙に達筆な字で書いとけ」
律「それで、その紙を掲げて泣きながらこっちに走ってこいよ、はっははぁ!」
澪「もはや、サッカー全然関係ないな…」
―――――――――――――――――――――
食事を済ませ、連中と別れる。
春原は今日もまた奉仕活動に駆り出されていってしまった。
月曜日の時同様、俺はひとりになってしまい、暇な時間が訪れる。
差し当たっては、学校を出ることにした。
―――――――――――――――――――――
家に帰りつき、着替えを済ませて寮に向かう。
―――――――――――――――――――――
道すがら、スーパーに菓子類を買いに寄った。
資金源は、芳野祐介を手伝った時のバイト代だ。
もう先週のことだったが、無駄遣いもしなかったので、まだ全然余裕があるのだ。
買い物を終え、店から出る。
レジ袋の中には、スナック菓子、アメ、ソフトキャンディーなどが入っている。
その中でも一番の目玉は、「コアラのデスマーチ」という、新発売のチョコレートだ。
パッケージには、重労働に従事させられるコアラのキャラクター達が描かれている。
当たりつきで、ひとつだけ過労死したコアラが居るらしい。
製造会社の取締役も、よくこんなものにゴーサインを出したものだ。
なにかの悪い冗談にしか見えない。
声「あれ…岡崎さんじゃないですか」
突っ立っていると、横から声をかけられた。
憂「こんにちは」
朋也「ああ…妹の…」
見れば、向こうも俺と同じで私服だった。
プライベート同士だ。
憂「憂です。もう忘れられちゃってましたか?」
朋也「いや…覚えてるよ」
朋也「憂…ちゃん」
呼び捨てするのもどうかと思い、ちゃんをつけてみたが…
どうも、呼びづらい。
かといって、平沢だと、姉と同じで区別がつかず、座りが悪いような…。
朋也「ああ、そうだよ」
憂「なにを買ったんです?」
俺が手に持つレジ袋に興味を示してきた。
朋也「菓子だよ」
憂「あ、いいですね、お菓子。私も、余裕があれば買いたかったなぁ」
その、余裕とは、金の問題じゃなく、持てる量のことを言っているんだろう。
この子は、買い物バッグを両手で持っていたのだ。
そしてそのバッグの口からは、野菜やらビンやらが顔を覗かせている。
もう容量に空きがない、といった感じで膨らんでいた。
憂「これですか? 夕飯の材料と、お醤油ですよ」
憂「お醤油がもう切れそうだったから、買いに来てたんです」
憂「そのついでに、夕飯の材料も買っておこうかと思いまして」
朋也「ふぅん、そっか…」
しかし、重そうだ。
朋也「自転車で来てたりするのか」
憂「いえ、カゴに入りきらないだろうと思って、歩きですよ」
それは、少しキツそうだ。
朋也「それ、俺が持とうか?」
憂「え?」
朋也「いや、家までな」
憂「いいんですか? 岡崎さん、これからなにか予定ありませんか?」
朋也「ないよ。暇だから、手伝ってもいいかなって思ったんだよ」
憂「でも、悪いですよ、さすがに…」
朋也「いいから、貸してみ」
憂「あ…」
少し強引に奪い取った。
ずしり、と重みが伝わってくる。
朋也「憂ちゃんは、こっちを持ってくれ」
俺の菓子が入ったレジ袋を渡す。
憂「あ、はい…」
できてしまった流れに戸惑いながらも、受け取った。
憂「は、はい」
―――――――――――――――――――――
ふたり、肩を並べて歩く。
俺はほとんど自宅へ引き返しているようなものだった。
平沢の家とはだいたい同じ方角にあるからだ。
憂「重くないですか?」
朋也「ああ、このくらい、平気だよ」
憂「すごいですね。私、休みながら行こうと思ってたのに」
朋也「まぁ、女の子は、それくらいが可愛くて、丁度いいんじゃないか」
憂「そうですか?」
朋也「ああ」
憂「私は、軽々と片手で持ってる岡崎さんは、男らしくていいと思いますよ」
朋也「そりゃ、どうも」
憂「どういたしまして」
にこっと笑顔になる。やっぱり、その笑顔も平沢によく似ていた。
さすが姉妹だ。髪を下ろせば、見分けがつかなくなるんじゃないだろうか。
憂「そうですね、私です」
朋也「これだって、おつかいとかじゃなくて、自分で作るために買ったんだろ」
バッグを手前に掲げてみせる。
憂「はい、そうです」
朋也「えらいよな」
憂「そんなことないですよ」
朋也「いや、親も、めちゃくちゃ助かってると思うぞ。なかなかいないよ、そんな奴」
憂「いえ、うちのお父さんとお母さんは、昔から家を空けてることが多いんですよ」
憂「今だって、どっちもお仕事で海外に行ってて、いないんです」
憂「だから、家事は自然とできるようになったんです」
憂「っていうか、しなきゃいけなかったから、って感じなんですけどね」
朋也「ふぅん…」
そうだったのか…。
なら、平沢も家事が器用にこなせたりするんだろうか。
でも、前に、弁当を妹に作ってやれ、と言われ、無理だと即答していたことがあるし…。
あいつは、掃除や洗濯を主にやっているのかも。
朋也「だからさ、ご褒美っていうと、ちょっとアレかもだけど…」
朋也「俺の菓子、好きなのひとつ食っていいぞ」
憂「いいんですか?」
朋也「ああ」
憂「ありがとうございますっ」
憂「どれにしようかな…」
袋の中を覗く。
そして、おもむろに一つ取り出した。
憂「…コアラのデスマーチ?」
よりにもよって、それか。
朋也「なんか、新発売らしいぞ」
憂「絵が怖いです。名前もだけど…」
朋也「コアラがムチでしばかれてるだろ。そこは、コアラがコアラに管理される施設なんだ」
朋也「上級コアラと下級コアラがいて、その支配構造がうまく機能しているらしい」
憂「やってることが全然かわいくないです…」
憂「はい…」
開封し、中から一個取り出した。
憂「わぁっ、岡崎さん、この子、し、死んでますっ」
朋也「それ、当たりだ」
なんて強運な子なんだろう。
一発目から引き当てていた。
憂「当たりって…」
朋也「その死体食って、供養してやってくれ」
憂「うぅ…死体なんて言わないでくださぁい…」
目を潤ませながら半分かじる。
憂「あ…イチゴ味だ…おいしい」
朋也「臓器と血みたいなのが出てきてないか、その死体」
憂「イチゴですよぉ…生々しく言わないでくださいよぉ…」
―――――――――――――――――――――
憂「ありがとうございました」
平沢家の手前まで無事荷物を運び終え、そこで手渡した。
ここで俺の役目も終わりだった。
憂「それから…すみませんでした」
朋也「いや、いいって」
憂「でも…結局、私が全部食べちゃって…」
ここまで来る間、憂ちゃんは俺の菓子を完食してしまっていた。
それも、俺が譲ったからなのだが。
喜んでくれるのがうれしくて、次々にあげていってしまったのだ。
憂「あの、よければ、ホットケーキ作りますけど…食べていきませんか?」
朋也(ホットケーキか…)
普段甘いものが苦手な俺だが、時に、体が糖分を欲することがある。
それが、まさに今日だった。
だからこそ、スーパーで駄菓子なんかを買っていたのだ。
どうせなら、そんな既製品を買い直すよりも、手作りの方が味があっていいかもしれない。
加え、両親は現時点で不在だとの言質が取れていたため、俺の気も楽だった。
家に上がらせてもうらうにしても、とくに抵抗はない。
ただ、女の子とふたりきり、という状況が少し気になりはしたが。
朋也「いいのか?」
憂「はいっ、もちろん」
憂「任せてくださいっ、がんばって作りますからっ」
意気込みを感じられる姿勢でそう言ってくれた。
憂「さ、どうぞ、あがってください」
憂ちゃんに通され、平沢家の敷居をまたぐ。
―――――――――――――――――――――
憂「じゃ、出来上がるまで、ここでくつろいでてくださいね」
俺をリビングに残し、荷物を持って台所に向かっていった。
とりあえずソファーに腰掛ける。
…尻に違和感。
なにか下敷きにしたらしい。
体を浮かせ、取り出してみると、クッションだった。
ぼむ、と隣に置く。
朋也(ん…?)
再びクッションを手に取る。
朋也(やっぱり…)
平沢の匂いがした。
いつもこれを使っているんだろうか。
顔を埋めてみる。
朋也(ああ…いい…)
朋也(あいつ、いい匂いするもんな…)
朋也(………)
朋也(って、変態か、俺はっ!)
我に返り、すぐさま顔を離した。
背後が気になり、振り返る。
憂ちゃんは、俺に背を向け、なにやら冷蔵庫から取り出していた。
見られてはいなかったようで、ほっとする。
朋也(しかし、妙な安心感がある空間だよな、ここ…)
ごみごみとした春原の部屋とは大違いだ。
まぁ、そのせいで、無用心にもこんな暴挙に出てしまったのだが。
朋也(にしても…なにしてようかな…)
携帯があれば、こういう時、楽しく暇も潰せるんだろうな…。
生憎と俺はそんなものは持ち合わせていなかったが。
今時の高校生にしては、かなり珍しい部類だろう。
うちの経済状況では持つこと自体厳しいから、それも仕方ないのだが。
持ってさえいれば、春原にオレオレ詐欺でも仕掛けて遊べるのに…。
例えば…
―――――――――――――――――――――
プルルル
がちゃ
春原「はい。誰」
声『俺だよ、オ・レ』
春原「あん? 誰? 岡崎?」
声『だから、オレだって言ってんだろっ! 何度も言わせんなっ! 殺すぞっ!』
声『あ、後さ…う○こ』
ブツっ
ツー ツー ツー
春原「なにがしたかったんだよっ!?」
―――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――
朋也(なんてな…)
いや…それはただのいたずら電話か…。
難しいものだ、詐欺は。
朋也「憂ちゃーん、テレビつけていいかー」
リビングの向こう、台所にいる憂ちゃんに聞えるよう、少し声を張った。
憂「あ、どうぞ?」
許可が下りた。
テーブルの上にあったリモコンを拾い、チャンネルを回す。
土曜の午後なんて、ロクな番組がやっていない。
救いがあるとすれば、あの長寿昼バラエティ番組だけだったが、すでに終わっている時間だ。
しかたなく、釣り番組にする。
俺は、呆けたようにぼーっと眺めていた。
―――――――――――――――――――――
憂「できましたよ?」
おいしそうな香りを伴って、憂ちゃんがホットケーキを持ってきてくれた。
憂「はい、どうぞ」
皿に盛ってくれる。
憂「シロップはお好みでどうぞ」
ホットケーキの横に、使い捨ての簡易容器が添えられてあった。
朋也「サンキュ」
もぐもぐ…
朋也「うめぇ…」
憂「ほんとですか? お口に合ってよかったです」
嬉しそうな顔。
俺はさらに食を進めた。
が、憂ちゃんは一向に手をつけない。
朋也「食べないのか」
憂「私はお菓子をたくさん食べましたから…」
憂「これ以上甘いもの食べると太っちゃいますよ」
やっぱり、女の子だとそういうところを気にするものなのか。
男の俺にはよくわからなかった。
憂「だから、岡崎さんが食べてくれるとうれしいです」
朋也「じゃあ、遠慮なく」
再び手をつけ始める。
本当においしくて、いくらでも食べられそうだった。
―――――――――――――――――――――
朋也「…ふぅ。ごちそうさま」
すべてて食べきり、皿の上にはなにも残っていなかった。
片づけを始める憂ちゃん。
朋也「俺も食器洗うの手伝おうか」
帰る前にそれくらいしていってもいいだろう。
憂「いえ、いいんです。岡崎さんはお客さんですから」
憂「それより、岡崎さん…」
ハンカチを取り出す。
憂「口の周り、ちょっとついてますよ。じっとしててくださいね」
朋也「ん…」
ふき取られていく。
憂「はい、綺麗になりました」
朋也「言ってくれれば、自分の手で拭ったのに」
憂「あ、ごめんなさい…お姉ちゃんにもいつもしてあげてるんで、つい」
朋也「いつも?」
憂「はい」
もしかして、妹に全局面で世話してもらってるんじゃないかと、そんな気さえしてきた。
朋也「…仲いいんだな」
憂「とってもいいですっ」
強く言う。主張したかったんだろう。
憂ちゃんは満足した顔で食器をひとつにまとめると、台所へ持っていった。
朋也(にしても…よくできた子だよな)
台所に立ち、洗い物をする憂ちゃんを見て思う。
朋也(ああ…憂ちゃんが俺の妹だったらな…)
―――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――
声「お兄ちゃん、起きて。朝だよ」
朋也「…うぅん…あと半年…夏頃には起きる…」
声「セミの冬眠じゃないんだから。起きなさい」
勢いよく布団が剥がされる。
憂「おはよう、お兄ちゃん」
朋也「………」
朋也「眠いんだ」
憂「顔洗ってきたら?」
朋也「めんどくさい」
憂「じゃあ、どうやったら目が覚めてくれるの…」
朋也「いつものやつ、してくれ」
憂「え? いつものって?」
朋也「目覚めのちゅー」
憂「だ、だめだよ、そんなの…私たち兄妹なんだよ…?」
憂「それに、いつもって…そんなこと一度も…」
朋也「いいじゃないか。おまえが可愛いから、したいんだよ」
朋也「だめか…?」
憂「う…じゃ、じゃあ、絶対それで起きてね…?」
憂「ん…」
ほっぺたにくる。
俺は顔を動かして、唇に照準を合わせた。
憂「んんっ!?」
ばっと身を離す。
憂「な、なんで口に…」
朋也「とうっ」
ベッドから跳ね起きる俺。
朋也「憂っ! 憂っ!」
憂「あ、いやぁ、やめて、お兄ちゃん、だめだよぉ…」
憂「あっ…」
―――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――
朋也(………)
朋也(いい…すごく…いい!)
俺は台所にいる憂ちゃんの背を目指して歩み寄っていった。
朋也「憂ちゃん…」
背後から声をかける。
手を止めて振り返ってくれる。
朋也「俺の妹になってくれ」
憂「えぇ!? そ、それは…」
朋也「だめか?」
憂「いろいろと無理がありますよぉ」
自分でもそう思う。
だが、情熱を抑え切れなかった。
憂「それに、私にはお姉ちゃんがいますし」
朋也「…そうか」
憂「そ、そんなに落ち込まないでくださいよぉ」
憂「私、岡崎さんにそう言ってもらえて、うれしかったですから」
朋也「じゃあ、せめて、俺のことを兄だと思って、お兄ちゃんって呼んでみてくれ…」
憂「それで、元気になってくれますか?」
朋也「ああ」
憂「わかりました、それじゃあ…」
憂「お兄ちゃんっ」
まぶしい笑顔。首をかしげるというオプションつきだった。
朋也「…はは、憂はかわいいな。よしお小遣いをやろう」
財布から万札を抜き取る。
憂「わわっ、いいですよ、そんなっ。しまってくださいっ」
朋也「なに言ってるんだよ。俺たち、仲良し兄妹じゃないか」
憂「それは台本の上でのことですよっ、目を覚ましてくださぁいっ」
朋也「ハッ!…ああ、いや、悪い…本当の俺と、役の境目がわからなくなってたよ」
憂「もう…変な人ですね、岡崎さんって」
言って、笑う。俺も気分がいい。
素直に笑ってくれる年下の女の子というのは、新鮮だった。
朋也「なぁ、憂ちゃん。この後、予定あるか」
憂「え? そうですね…」
小首をかしげて考え込む。
憂「う?ん…夕飯の材料はもう買っちゃったし…とくにないですね」
今から寮に向かっても、春原が戻っている保証はない。
あの部屋でひとり過ごすくらいなら、そっちの方がよかった。
憂「いいんですか? 私となんかで」
朋也「憂ちゃんだから誘ってるんだよ」
憂「ありがとうございますっ。私も、岡崎さんに誘ってもらえてうれしいです」
朋也「それは、一緒に遊びに出てくれるって、そう取っていいのか」
憂「はい、もちろんです」
朋也「そっか。じゃあ、その洗い物が終わったら、出るか」
憂「はいっ」
―――――――――――――――――――――
食器の洗浄も済ませ、家を出た。
目的地はまだ決めていない。
朋也「どこにいく? 憂ちゃんの好きなところでいいぞ」
憂「いいんですか?」
朋也「ああ」
朋也「どこだ」
憂「商店街に新しくできた、ぬいぐるみとか、可愛い小物とかを売っているお店です」
憂「今、うちの学校の女の子の間で人気なんですよ」
朋也「ふぅん、そんなとこがあるのか」
憂「はい。だから、そこに付き合って欲しいです」
朋也「ああ、いいよ」
憂「ありがとうございますっ」
―――――――――――――――――――――
商店街までやってくる。
件の店はまだ真新しく、外観や内装が小綺麗だった。
ファンシーな看板を掲げ、手前には手書きの宣伝ボードが立てかけられてある。
店内には、所狭しと商品群が並べられていた。
客層は、この有りようからしてやはりというべきか、女性客ばかりだった。
憂「わぁ、ここですここですっ」
つくやいなや、目を輝かせてはしゃぎ出す憂ちゃん。
憂「いきましょ、岡崎さんっ」
この中に男の俺が入っていくことに多少気後れしつつも、憂ちゃんに従った。
―――――――――――――――――――――
憂「うわぁ、かわいいっ」
憂ちゃんが立ち止まったのは、小さめのぬいぐるみが並べられたブロックだった。
デフォルメされ、丸みを帯びた動物キャラの頭部が手のひらサイズで商品化されている。
俺もひとつ適当なものを手に取ってみた。
ぐにゃり、と柔らかい感触がした。低反発素材でも使っているんだろうか。
憂「う?ん、でも、やっぱりないなぁ…」
朋也「なんか探してるのか」
憂「はい…」
持っていたぬいぐるみを棚に戻し、俺に向き直る。
憂「岡崎さん、だんご大家族って覚えてます?」
朋也「ああ、けっこう鮮明に」
それは、最近思い出す機会があったからなのだが。
憂「ほんとですか? よかったです、覚えててくれて」
憂「あれ、かわいいですよねっ」
一応同意の姿勢だけは見せておく。
憂「でも、もうかなり前にブームが終わっちゃったじゃないですか」
憂「それで、世間からも忘れられちゃってて…」
憂「それでも、私もお姉ちゃんも、いまだに好きなんですよ、だんご大家族」
憂「だから、この小さな手のひらシリーズにないかなぁって、思ったんですけどね」
需要が無くなったことを知っていてなお探すんだから、想いもそれだけ深いんだろう。
朋也「じゃあ、こういうのはどうだ」
俺はうさぎの頭を棚から拾い上げた。
朋也「ほら、これの耳ちぎって、凹凸無くしてさ」
朋也「シルエットだけなら、だんごに見えなくもないだろ」
憂「そ、そんな残酷なことしてまで欲しくないですよぉ」
朋也「そうか? じゃあ、これを三つくらい買って、串で刺して繋げるのはどうだ」
憂「さっきのと接戦になるくらい残酷ですっ」
朋也「なら、これを…」
朋也「これを、憂ちゃんの鼻の穴に詰めてみよう、って言おうとしたんだけど…」
朋也「その気持ち、受け取ってくれるのか?」
憂「…岡崎さん、もしかして、からかってます?」
朋也「バレたか」
憂「…意地悪ですっ」
ぷい、とそっぽを向かれてしまった。
やりすぎてしまったようだ。
―――――――――――――――――――――
その後、なんとか機嫌を取ることに成功し、また一緒に見て回った。
憂ちゃんが興味を示したコーナーに留まり、しばらく見たのち、移る。
そんなことを繰り返していた。
―――――――――――――――――――――
朋也(やべ…)
巡って回る内、俺の目に見かけたことのある顔が留まった。
同じクラスの女たちだった。何人かで固まって、楽しげに店内を闊歩している。
そういえば、憂ちゃんが言っていた。
この店は今、うちの学校の女に人気があると。
なら、こういうブッキングをすることだって、十分ありえたのに…うかつだった。
その情報が春原の耳に入った日には…想像もしたくない。
俺は壁にぴったりと張りついてやりすごすことにした。
憂「岡崎さん、なにをやってるんですか?」
背中から憂ちゃんの声。
朋也「いや…知ってる顔がいたから、ちょっとな…」
憂「ああ…恥ずかしいんですね」
朋也「まぁ…そういうことだ」
憂「じゃあ…これを被って変装してください」
俺になにか手渡してくる。
朋也「お、サンキュ」
後ろ手に受け取って、それを目深に被った。
朋也(これでなんとかなるかな…)
声さえ聞かれなければ、制服を着ているわけでもなし、他人の空似で受け流してくれるかもしれない。
そうなってくれることを願いながら、俺は向き合っていた壁から離れた。
憂「よく似合ってますよ」
振り向きざまに第一声。
しかし、俺はなにを被ったんだろう。
なにも考えず、機械的に被ってしまったからな…。
憂「ご自分でも、鏡で確認してみたらどうですか?」
俺の目線より少し下、そこに小さな鏡が置かれていた。
覗いてみる。
朋也「…これ」
ネコミミ付きフードだった。
憂「あはは、かわいいです、岡崎さん」
朋也「…おまえな」
憂「さっきのお仕返しです。罰として、ここにいる間ずっと被っててくださぁい」
朋也「…はぁ」
これじゃ、顔は隠せても余計目立つことになってしまう…。
朋也「ほかにマシなの、なんかないのか」
憂「ありますよぉ。イヌミミがいいですか? それとも、ウサミミがいいですか?」
朋也「そんなのしかないのかよ…」
そうだったな…。
仕方なく、俺は憂ちゃんの罰ゲームに従った。
―――――――――――――――――――――
憂「あ、これ、かわいいなぁ…買っちゃおうかなぁ…」
やってきたのは、携帯ストラップの陳列棚。
俺とは縁のない場所だ。
憂「う?ん、でも、こっちも捨てがたいし…」
憂「岡崎さん、これとこれ、どっちがいいと思いますか?」
両手にそれぞれ別の商品を持って、俺に意見を求めてくる。
朋也「う?ん…俺はこれがいいかな」
そのどちらも選ばずに、俺は新たに棚から取り出した。
朋也「この、『ごはんつぶ型ストラップ』って、なんかよくないか」
憂「えぇ? なんですか、それ?」
朋也「なんか、携帯にご飯粒がついているように演出できるらしいぞ」
憂「いやですよぉ、そんなの…常に、さっきご飯食べてきたよって感じじゃないですか…」
憂「はい」
なかなかおもしろいと思ったのだが…。
しぶしぶ元の場所に納める。
憂「これかこれ、どっちかで言ってください」
再び俺の前に掲げてくる。
朋也「う?ん…じゃあ、そっちの、クマの方で」
憂「クマさんですか? じゃあ、こっち買っちゃおうかな…」
朋也「待て。買うなら、払いは俺がする」
憂「え? 悪いですよ、そんな…」
朋也「いや、ここで好感度を挽回しておきたいんだ。序盤で失敗しちまったからな」
憂「そんなこと気にしてたんですか…」
朋也「ああ。だから、俺にまかせろ」
憂「ふふ、じゃあ…お言葉に甘えて」
朋也「よし」
―――――――――――――――――――――
ついでに、ネコミミフードも買っていった。
長いこと被っていて、買わずに出るのもためらわれたからだ。
憂「いいんですか? こっちも、もらっちゃって…」
朋也「ああ、いいよ。俺が持ってても仕方ないしな」
俺はストラップと一緒に、フードも譲っていたのだ。
憂「でも、これ、けっこう高かったですよね…?」
朋也「ああ、大丈夫。まだ余裕あるから」
憂「岡崎さん、アルバイトでもしてるんですか?」
朋也「まぁ、前はしてたけど、今はやってないな」
朋也「でも、この前単発で、でかいの一個やったっていうか…あぶく銭みたいなもんだから、気にすんなよ」
ぽむ、と頭に手を置く。
憂「あ…はいっ」
にっこりと微笑んでくれる。
憂「ありがとう、お兄ちゃんっ」
朋也(う…)
朋也「…うん」
憂「あはは、…うん、って。岡崎さん顔真っ赤です」
朋也「…憂ちゃんがいきなり妹になるからだ」
憂「ごめんなさぁい」
いたずらっぽく言う。
朋也(さて…)
店の中に居る時はわからなかったが、外はもう陽が落ち始め、ほんのりと暗くなっていた。
それだけ時間を忘れて見回っていたのだ。
おそるべし、ファンシーショップ…。
まぁ、入店したのが三時半あたりだったので、実際それほどでもないのかもしれないが。
朋也「もう、帰らなきゃだよな、憂ちゃんは」
憂「はい、そうですね。帰ってお夕飯作らないと…」
朋也「なら、送ってくよ。もういい時間だしな」
憂「ほんとですか? ありがとうございますっ」
―――――――――――――――――――――
平沢家。その門前まで帰り着く。
憂「はいっ。今日はありがとうございました」
別れの挨拶も済ませ、立ち去ろうと踵を返す。
唯「あれ? 岡崎くんだ」
朋也「よお」
そこへ、ちょうど平沢が帰宅してきた。
唯「どうしたの? うちになにか用?」
憂「私を送ってきてくれたんだよ、お姉ちゃん」
唯「送ったって? 憂を? 代引きで?」
憂「Amaz○n.comじゃないんだから…」
憂「あのね、岡崎さんと一緒に出かけてて、それで、もう暗いからって送ってきてくれたの」
唯「えぇ!? 岡崎くんと遊んでたの?」
憂「ちょっと付き合ってもらってたんだ。ほら、あの商店街に新しくできたお店あるでしょ?」
憂「あそこに、ついてきてもらってたの」
唯「えぇっ!? っていうか、なんでもうそこまで仲良くなってるの?」
俺を真似た部分だけ声色を変えて言った。
唯「最近になって、ようやくちょっと心開いてくれたかなぁって感じだよ」
唯「なのに、憂とは初日から遊びに行くまでになってるし…これは差別だよっ」
唯「悪意を感じるよっ」
憂「お姉ちゃん…あんまりお兄ちゃんを責めないであげて」
朋也(ぐぁ…)
唯「…お兄ちゃん?」
平沢が訝しげな顔になる。
朋也「今はやめてくれっ」
憂「ふたりっきりの時だけしかそう呼んじゃだめなの? お兄ちゃん?」
朋也「だぁーっ! だから、やめてくれぇ、憂ちゃんっ!」
唯「…ふたりっきりの時? 憂…ちゃん?」
朋也「そうだっけ」
唯「そうだよぉ。『ああ』とか、『好きにしろよ…』とかしか言わないし…」
俺を真似た部分だけ声色を変えて言った。
唯「最近になって、ようやくちょっと心開いてくれたかなぁって感じだよ」
唯「なのに、憂とは初日から遊びに行くまでになってるし…これは差別だよっ」
唯「悪意を感じるよっ」
憂「お姉ちゃん…あんまりお兄ちゃんを責めないであげて」
朋也(ぐぁ…)
唯「…お兄ちゃん?」
平沢が訝しげな顔になる。
朋也「今はやめてくれっ」
憂「ふたりっきりの時だけしかそう呼んじゃだめなの? お兄ちゃん?」
朋也「だぁーっ! だから、やめてくれぇ、憂ちゃんっ!」
唯「…ふたりっきりの時? 憂…ちゃん?」
じと?っとした目を向けられる。
唯「…中で詳しく聞こうか」
こぶしを作り、親指で自宅を指さす。
その顔は、あくまで笑顔だったが…それが逆に怖い。
―――――――――――――――――――――
唯「ふぅん、岡崎くんってそんな趣味だったんだ?」
テーブルにつき、説教される子供のように俺は正座していた。
唯「そんなこと、言ってくれれば私がしてあげたのに…」
朋也「いや、おまえ、タメじゃん。リアルじゃないっていうか…」
唯「失礼なっ! 私、妹系ってよく言われるのにっ」
朋也「じゃ、一回やってみてくれよ」
唯「いいよ? じゃ、いきます…」
こほん、と咳払い。
唯「お兄ちゃんっ」
満面の笑顔。
朋也「なんか、違うんだよな…」
唯「むぅ、なにが違うのっ」
朋也「いや、そのポーズとかさ…なんだよ」
唯「庇護欲を煽るポーズだよ」
朋也「そういう計算が目に付くんだよなぁ…それに、全体の総量として妹力が足りない感じだ」
朋也「まぁ、おまえは、どこまでいっても姉だな」
唯「それはその通りだけど…なんか悔しい…」
朋也「まぁ、そういうわけだからさ。俺、帰るな」
赤裸々に語ってしまった恥ずかしさもあり、早くこの場を去りたかった。
唯「まぁ、待ちなよ。せっかくだから、一緒に夕飯してこうよ」
朋也「いや…」
唯「う?い?、岡崎くんのぶんも夕飯作ってくれるよね??」
被せるようにして、台所で作業する憂ちゃんへ声をかけた。
憂「岡崎さんがそれでいいなら、作るよ?」
唯「だってさ。どうする? おにいちゃん」
朋也「だから、それはもうやめろっての…」
朋也(でも、どうするかな…)
いや…もう答えは出ている。
コンビニ弁当なんかより、憂ちゃんの手料理の方がいいに決まってる。
朋也「俺の分も頼んでいいか、憂ちゃん」
あまりまごつくことなく、俺は注文を入れていた。
憂「は?い、まかせてくださぁい」
二つ返事で引き受けてくれる。
唯「うん、素直でよろしい」
朋也「そりゃ、どうも」
唯「ところでさ、なんで憂にはちゃんづけなの?」
朋也「年下だし、苗字だと、おまえと被るからな」
唯「えぇ、そんな理由? なら、私も唯ちゃんって呼んでよっ」
朋也「アホか」
朋也「ありえないからな…」
唯「ちぇ、けち?…いいもん、別に。私にはギー太がいるから」
言って、横に置いてあったケースからギターを取り出した。
唯「だんごっ、だんごっ」
ギターを弾きながら歌いだす。
それは、俺も聞いたことのある、だんご大家族のテーマソング。
だが、オリジナルとは違い、曲調が激しかった。
唯「だんごっ、大家族ぅ、あういぇいっ!」
ロック風にアレンジしていた。
唯「岡崎くんも、サビはハモってよぅ、あういぇいっ!」
サビなんて知らない。
とりあえず、適当にだんごだんご言って合わせておいた。
―――――――――――――――――――――
憂「お待ちどうさま?」
憂ちゃんがお盆に料理を乗せて運んできてくれる。
まずは前菜のようだった。
憂「はいお姉ちゃん」
平沢に手渡す。
唯「ありがと?」
憂「岡崎さんも」
朋也「ああ、サンキュ」
俺も受け取った。
最後に自分の座る位置に置くと、また台所へ戻っていった。
朋也「おまえは料理したりしないのか」
唯「ん? しないけど」
朋也「じゃあ、おまえ、家事は掃除とかやってるのか」
唯「それも、憂だよ?」
朋也「なら、おまえはなにをやってるんだよ」
唯「私はね、生きてるんだよ」
朋也「あん?」
そりゃ、死んでるようにはみえないが。
つまり、なにもしてないということか…。
朋也「神秘的に言うな。憂ちゃんに全部やらせてるだけだろ」
唯「ぶぅ、だって憂がやったほうが全部上手くいくんだもん」
唯「私が掃除しても、逆に、変な取れないシミとかついちゃうし…」
唯「料理だって、やってたら、電子レンジの中でアルミホイルが放電したりするんだよ?」
それは料理の腕とはあまり関係ない。常識の問題だった。
朋也「ほんと、おまえ、憂ちゃんいてよかったな」
朋也「親御さん、家空けてること多いって聞いたけど、おまえ一人じゃ即死してたよ」
唯「そんな早く死なないよっ! 丸二日は持つもんっ!」
延命するにしても、そう長くは持たないようだった。
憂「はい、これで最後だよ?」
今度は焼き魚と、人数分のコップ、そして麦茶を持ってきてくれた。
先程と同様、俺たちに配膳してくれる。最後に自らのぶんを揃え、食卓が整った。
唯「じゃ、食べようか」
ぱんっ、と手を合わせる。
唯「いただきます」
憂「いただきます」
綺麗に声が重なる。
朋也「…いただきます」
俺も若干遅れて同じセリフを言った。
こんなこと、かしこまってやるのはいつぶりだろう。
少なくとも、うちではやったことがない。
小学校の給食の時間以来かもしれない。
唯「ん?、おいしい?」
憂「ほんと? ありがと、お姉ちゃん」
唯「憂の料理はいつもおいしいよぉ。お弁当もね」
憂「えへへ」
仲良く会話する姉妹。
本来ならここに両親が居て、一緒に食事をして…
それで、その日学校であったことなんかを話すんだろうか。
そういった光景があるのが、普通の家族なんだろうか。
俺にはわからなかった。
ただ…
無粋な俺なんかが、土足で踏み込んでいい場所じゃないことは漠然とわかる。
朋也「いや…なんでもないよ」
言って、肉じゃがを口に放り込む。
朋也「うん…うまいな」
憂「ありがとうございますっ」
唯「私も料理勉強しようかなぁ…」
憂「お姉ちゃんならすぐできるようになるよ」
唯「ほんと? じゃあ、今度教えてよ」
憂「うん、いいよ。お姉ちゃんの今度は、今まで一度も来たことないけどね」
唯「あはは?、そうだっけ」
憂「ふふっ、うん、そうだよ」
ふたりとも同じように、えへへ、と笑いあう。
俺は箸を動かしながら、その様子をぼんやりと傍観していた。
―――――――――――――――――――――
唯「だいぶ遅くなっちゃったね」
平沢が玄関の先まで見送りに来てくれる。
朋也「そうだな。長居しちまった」
あの場は本当に居心地がよく、離れることがひどくためらわれた。
それは、なんでだろう。
あの感覚はなんだったんだろう。
唯「どうせなら、泊まってく?」
朋也「馬鹿。んなことできるかよ」
唯「なんで? 明日は休みだし、みんなでサッカーする日だよ?」
唯「ちょうどいいじゃん」
朋也「そういうことじゃなくて…」
男を泊める、というその意味に、なにか感じるところはないのだろうか。
それとも、俺がそんな風に見られていないだけなのか。
朋也「とにかく、もう、帰るよ」
唯「ちぇ、つまんないなぁ…」
朋也「じゃあな」
唯「うん、また明日ねっ」
―――――――――――――――――――――
それが別世界の出来事に思われるような、あまりに違いすぎる空気。
気分が重くなる。
ただ、静かに眠りたい。
朋也(それだけなのにな…)
―――――――――――――――――――――
居間。
その片隅で、親父は背を丸めて、座り込んでいた。
同時に激しい憤りに苛まされる。
朋也「なぁ、親父。寝るなら、横になったほうがいい」
やり場の無い怒りを抑えて、そう静かに言った。
親父「………」
返事は無い。
眠っているのか、ただ聞く耳を持たないだけか…。
その違いは俺にもよくわからなくなっていた。
朋也「なぁ、父さん」
呼び方を変えてみた。
親父「………」
ゆっくりと頭を上げて、薄く目を開けた。
その目に俺の顔はどう映っているのだろうか…。
ちゃんと息子としての顔で…
親父「これは…これは…」
親父「また朋也くんに迷惑をかけてしまったかな…」
目の前の景色が一瞬真っ赤になった。
朋也「………」
そして俺はいつものように、その場を後にする。
―――――――――――――――――――――
背中からは、すがるような声が自分の名を呼び続けていた。
…くん付けで。
―――――――――――――――――――――
こんなところにきて、俺はどうしようというのだろう…
どうしたくて、ここまで歩いてきたのだろう…
懐かしい感じがした。
ずっと昔、知った優しさ。
そんなもの…俺は知らないはずなのに。
それでも、懐かしいと感じていた。
今さっきまで、すぐそばでそれをみていた。
温かさに触れて…俺は子供に戻って…
それをもどかしいばかりに、感じていたんだ。
「だんごっ…だんごっ…」
近くの公園から声がした。
それは、今となってはもう耳に馴染んでいた声音。
平沢だった。
あんなところでなにをしているんだろう。
俺はその場に呆然と立ちつくし、動くことができなかった。
そうしている内、平沢が俺のいる歩道に目を向けた。
こっちに気づいたようで、小走りで寄ってくる。
唯「あ、やっぱり岡崎くんだ。どうしたの? うちに忘れ物?」
朋也「いや、別に…」
唯「じゃあ…深夜徘徊?」
内緒話でもするように、ひそっと俺にささやいてくる。
朋也「馬鹿…そんなわけあるか」
もう俺は冷静だった。
朋也「ただ、帰るには時間が早すぎたからさ…」
唯「えー? もうお風呂あがって、バラエティ番組みててもおかしくない頃だよ?」
朋也「俺にとっては早いんだよ。いつも夜遊びしてるような、不良だからな」
朋也「おまえのほうこそ、こんなとこでなにやってたんだよ」
唯「ん? 私はね、歌の練習だよ」
朋也「こんな時間に、しかも外でか」
唯「うん」
朋也「それ、近所迷惑じゃないのか」
校則さえまともに守れない俺が言うのも違う気がしたが。
唯「大丈夫だよ。ご近所さんはみんな甘んじて受け入れてくれてるから」
朋也「そら、懐の深い人たちだな」
唯「私が小さかった頃から知ってるからかなぁ…みんな優しいんだよ」
唯「とくに、渚ちゃんとか、早苗さんとか、アッキーとか…古河の家の人たちはね」
そんな名前を出されても、俺にはピンと来ない。
朋也「そっか…」
朋也「なら、がんばって練習してくれ」
言って、歩き出す。
朋也「なんだよ」
立ち止まる。
唯「これからまだどこかにいくの?」
朋也「ああ、そうだよ」
唯「あした、体大丈夫?」
朋也「まぁ、多分な」
唯「っていうか、平日とかも、それで辛くないの?」
唯「いつも、すごく眠そうだし…」
唯「やっぱり、夜遊びはやめといたほうがいいんじゃないかな」
朋也「いいだろ、別に。不良なんだから」
唯「それ、本当にそうなのかな。今でも信じられないよ」
唯「岡崎くん、全然不良の人っぽくないし…」
朋也「中にはそういう不良もいるんだ」
唯「前に、お父さんと喧嘩してるって言ってたよね?」
唯「それと関係ないかな?」
唯「お父さんと顔を合わせないように、深夜になるまで外を出歩いて…」
唯「それで、遅刻が多くなって、みんなから不良って噂されるようになって…」
唯「違う?」
なんて鋭いのだろう。
あるいは、安易に想像がつくほど、俺は身の上を話してしまっていたのか。
朋也「違うよ」
俺は肯定しなかった。こいつの前では、悩みの無い不良でいたかった。
唯「本当に、違う?」
朋也「まだお互いのことよく知らないってのに…よくそんな想像ができるもんだな」
唯「できるよ。そうさせるのは…岡崎くん自身だから」
唯「きっと、なにか理由があるんだって、そう…」
唯「そう思ったんだよ」
朋也「もし、そうだとしたら…」
朋也「おまえはどうするつもりなんだ」
コメント
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