












朋也「そっか」
確かに涼宮のあの気性なら、さもありなんといったところか。
朋也「じゃあ、いくか」
キョン「ああ」
―――――――――――――――――――――
キョン「おつかれさん」
一仕事終えて弛緩した空気の中、わきあいあいと荷をまとめる部員たちに声をかける。
唯「あ、キョンくんだ! 久しぶり?」
キョン「久しぶり」
唯「ライブ見に来てくれたの?」
キョン「ああ、見てたよ。かなり盛り上がってたよな。MCも面白かったし」
唯「えへへ、ありがと」
律「で、どうしたんだよ、こんなとこまできてさ。サインでも欲しいの?」
キョン「いや、俺も片付け手伝いに来たんだよ。人手が多い方がいいかと思ってさ」
澪「ありがとう、キョンくん」
唯「ありがと?」
梓「ありがとうございます」
紬「部室に戻ったら、すぐにお茶出すわね」
キョン「ああ、お構いなく」
紬「遠慮しないで? 手伝ってもらうんだから、もてなしてあげたいの」
キョン「そうですか? じゃあ、よろしくお願いします」
キョンは琴吹に対しては最初に出会った時からずっと敬語だった。
卒業してしまった先輩とどこかダブって見えてしまうからだということらしかった。
律「で、春原のアホはどこいったんだ? まさか、ブッチしたんじゃないだろうな」
朋也「あいつはトイレに行ってるよ。ライブ前からずっと我慢してたから、マジダッシュでな」
律「間の悪い奴…」
―――――――――――――――――――――
春原「ふ?い…」
すっきりした顔の春原が、前方からちんたらやってきた。
こちらに気づく。
春原「あんだよ、キョン。こき使われてるね」
律「人聞きの悪いこと言うなっての。自ら志願してくれたんだよ」
春原「マジで? マゾいね。そっち系なの?」
キョン「ただの善意だ…妙なミスリードしないでくれ」
律「ほら、いいからおまえも運んでこいよ」
春原「わぁったよ」
朋也「いや、まて。それはやめた方がいいかもしれん」
律「ああ? なんで」
朋也「こいつ、トイレの後も絶対に手を洗わないっていう、腹に決めた固い信念を持ってるからな」
春原「なんでそんなことに頑ななんだよっ! 変なキャラ付けするなっ!」
紬「春原くん…どんな高みを目指してるの?」
春原「って、ムギちゃん、信じちゃだめだぁああああっ」
律「わははは!」
律「さてと…」
設備回収もつつがなく終わり、晴れて自由の身となった。
ステージ衣装もその役目を終え、ケースに収納されている。
律「ライブも快調にこなせたし、片付けも終わった…となれば、後は遊ぶだけだなっ」
唯「いぇーいっ」
律「まずはティータイムだっ。ムギ、準備しようぜっ」
紬「うんっ」
梓「あ、すみません、私、これからクラスの仕事しなきゃいけないので…教室に戻りますね」
唯「えぇ?、行かないでよぉ、あずにゃ?ん…」
梓「そういうわけにもいきませんから…」
律「梓のクラスってなにやってんの」
梓「喫茶店です」
律「喫茶店? じゃ、ちょうどいいや。そこでティータイムしようっ」
唯「あ、いいね、それっ」
梓「え…」
梓「いえ…他のお客さんもいると思いますし、あんまりだらだらされるのはちょっと困るかなと…」
澪「確かに、営業妨害はよくないよな…」
律「ちゃちゃーっと素早くだらだらするから大丈夫だって」
澪「矛盾してないか、それ…」
律「いいから、とにかくいくぞっ」
唯「おーっ」
部長と唯が先陣を切る。
澪「はぁ、まったく…ごめんな、梓。多分迷惑かけると思う」
梓「いえ、大丈夫です。律先輩のああいうとこ、もう慣れてますから」
梓「それに、澪先輩のフォローにも期待してますし」
澪「はは…重い役回りだなぁ…」
秋山と中野も後に続いた。
紬「ごめんね、お茶だしてあげられなくて」
俺たち男三人の前で、申し訳なさそうな顔をする。
春原「僕はムギちゃんと同じ空間でお茶できればそれでいいからね。喫茶店でもいいよ」
朋也「まぁ、いつもは琴吹が配膳してるからな。たまには客気分でいてもいいんじゃないか」
春原「そうそう。因果応報って奴だよね」
朋也「また、自分のキャパシティを超えた四字熟語を…微妙に使いどころ間違ってるし」
春原「マジで? まぁ、ニュアンスが伝わればいいよ」
朋也「おまえ、いつもニュアンスだけで会話してるもんな」
春原「どんな奴だよっ!? って、あれ…ニュアンスってどういう意味だっけ…」
見事にニュアンスがゲシュタルト崩壊していた。
紬「くすくす」
春原「ま、いいや。僕らもいこうぜ」
朋也「ああ」
―――――――――――――――――――――
律「けっこう混んでんなー」
廊下側の窓から覗けた室内は、まずまずの賑わいを見せていた。
律「ま、そだな」
梓「じゃあ、私、中で待ってますね」
律「おう」
列に並ぶ俺たちを残し、教室に入っていった。
―――――――――――――――――――――
憂「いらっしゃいませー」
教室のドアをくぐると、憂ちゃんがメイド服姿で出迎えてくれた。
律「おおぅ…可愛いなー、憂ちゃん」
澪「うん、よく似合ってる」
紬「網膜に永久保存したいわぁ?」
憂「えへへ、ありがとうございます」
朋也(憂ちゃんと中野は同じクラスだったのか…)
知らなかった。こんな接点があったなんて。
朋也(ま、仲はよさそうだったしな…)
唯「憂ー、私が来てあげたよ?」
憂「いらっしゃい、お姉ちゃん。ライブ、かっこよかったよ」
唯「あ、みてくれたんだ?」
憂「うん、その間だけ抜けさせてもらってね」
唯「うんうん、偉いよぉ、憂?。それでこそ憂だよ?」
頭を撫でる。
憂「えへへ」
律「しっかしよくできてんなぁ、その服。なんか、さわちゃんが一枚噛んでそうな…」
憂「わかります? これ、山中先生プロデュースなんですよ」
律「はは、そっか…手広くやってんなぁ、あの人も…」
唯「ねぇ、憂、割引きとかしてくれるよね?」
憂「身内贔屓はダメだよ、お姉ちゃん。定価で食べてね」
唯「ぶぅ、けちー」
憂「大丈夫。利益を見込んだ価格設定じゃないから、懐に優しいよ」
最初に立ったのが10:23だから約22時間ぶっ通し マジで何もんだよww
澪「そこまで徹底してわがままを言うな…憂ちゃん、気にしなくていいからな」
憂「ふふ、はい」
声「憂ー、お客さん通してー」
憂「あ、いけない…えっと、1、2…7名様ですね。こちらへどうぞー」
テーブルへ案内される。
さすがに7人同時に座れるほどの席は用意されておらず、二手に分かれた。
男三人組と、女4人組で、当たり障りのない構成だ。
隣席では、唯たちがメニューを見て、ああだこうだと盛り上がり始めていた。
春原「お、あの子可愛いっ。呼んだら接待してくれるかなっ」
キャバクラかなにかと勘違いしている無粋な男が一人興奮していた。
いちいち取り合うのも面倒なので、放っておくことにする。
朋也(えーと…)
手作り感あふれるおしながきを開いてみる。
朋也(ふぅん…けっこうバラエティあるな…)
ケーキもジュースもそれぞれ数種類用意されていた。
学際の催しにしては、なかなか鋭意が感じられる。
声「ご注文はお決まりでしょうか…」
梓「………」
中野がオーダーを取りに来ていた。
春原「お、なんだよ二年、それは」
頭を指さす。
梓「ネコミミです…」
若干恥じらいがあるのか、伏目がちに言った。
春原「はは、可愛いじゃん」
キョン「だな。似合ってるぞ、中野さん」
梓「あ、ありがとうございます…」
照れているのか、声が小さかった。
梓「………」
俺をじっと見てくる。なにか、期待と不安が入り混じったような表情。
もしかして、俺からの評価を待っているんだろうか…。
朋也「…あー、可愛いな、うん」
梓「っ…ど、どうもです…」
前スレの占い見てて、唯以外の√も見たいと思いましたまる
いつもならここで『機嫌取り野郎』などとなじられてしまうのだが…
多分、今は店員の体裁を保つため、素を抑えているんだろう。
唯「あーずにゃーんっ!」
梓「わっ」
横からものすごい勢いで唯に抱きつかれる中野。
唯「かわぃいい?っ!!」
光速の頬ずり。
梓「あ、あつっ、摩擦であついですっ」
唯「ふんすっ! ふんすっ!」
全く聞く耳を持っていなかった。
哀れ中野、この後も常時唯にストーキングされ続け、業務に大きく支障をきたしていた。
―――――――――――――――――――――
喫茶店を出て、ぞろぞろと廊下を行く俺たち一行。
律「次はどこいっかな?」
唯「りっちゃん隊員! おもしろいものを発見しました!」
律「ん、なんだ、言ってみたまえ」
腕相撲最強に挑め! とだけ大きく書かれた立て札があった。
律「おお、腕相撲か! おし、男ども、だれか挑んでこいっ」
春原「ふん、上等だね。僕が行って、腕へし折ってきてやるよ」
律「お、やっぱおまえがいくか。いつも威勢だけはいいもんなっ」
春原「だけ、は余計だっての」
―――――――――――――――――――――
教室に入ると、中央に机が一つあり、そこへガタイのいい男が腰掛けていた。
その横にはもう一人、レフリーなのか、蝶ネクタイをした男が立っている。
男1「ん…」
男2「挑戦者の方ですか?」
春原「ああ、そうさ」
男2「では、こちらにおかけください」
机の対面に置かれた椅子に座るよう促される。
その指示に従い、春原が中央に歩み寄っていく。
男2「では、両者、スタンバイをお願いします」
その上から蝶ネクタイの男が手を被せた。
男2「僕の手が離れた瞬間開始です。いきますよ、レディ…」
男2「ファイッ!」
ガシィッ
力と力がぶつかり合う。
どちらの腕もギリギリと震えていた。
春原「うぐぁ…」
春原が押されだす。
ガンッ!
少し角度がついたと思うと、一気に叩きつけられていた。
春原「いでぇっ」
男2「残念! それでは、ファイトマネー500円を払ってもらいましょうか」
春原「え? なんだよ、それ…無料じゃないのかよ」
男2「そんなことありえないですよ。この金田君と試合を組んだんですからね」
春原「でも、んなのどこにも書いてなかっただろっ」
春原「無茶言うなっ」
男2「無茶じゃありませんよ。金田君は全国的に有名な柔道の選手ですからね」
男2「将来はオリンピックの重量級で金を取ることさえ有望視されているほどの、ね」
春原「知るかよ…理不尽だっての…」
男2「文句があるなら勝てばいいんです。勝者総取りですからね。こちらにもリスクはあります」
金田「後藤…いるのもならさ、今度は俺を倒せる奴を連れてきてくれ」
後藤「ふっ…」
にたり、と勝ち誇ったように笑うふたり。
紬「なるほど…勝てばいいのね」
琴吹が一歩前に出る。
春原「ムギちゃん…?」
全員の視線が琴吹に集まった。
紬「で、その勝者総取りっていうのはどういうことなの?」
後藤「そのままの意味です。勝った方にファイトマネーが支払われる。ただし…」
後藤「どうです? そちらにとっては、ローリスクハイリターンでしょう?」
紬「ふふ…そうかもね。じゃあ…次は私の相手をしてもらえるかしら?」
無謀だ…そう思うだろう――普通の女の子が言ったなら。
だが、こいつは琴吹紬だった。もしかしたら…と、そんな期待を抱かずにはいられない。
皆、固唾を呑んで行く末を見守っていた。
キョン「琴吹さん、やめたほうが…」
そういえば、琴吹の内に秘められたポテンシャルを知らない男もいたか…。
朋也「キョン、大丈夫だ。多分、なんとかなる」
キョン「いや、あんなのとまともにやり合ったらただじゃ済まないだろっ」
朋也「いいから、見てろって」
キョン「………」
不服そうな顔。
キョン「…危ないと思ったら即止めに入るからな」
朋也「ああ、そうしてやってくれ」
もっとも、そんなに圧倒されることはないと思うが。
紬「リアルな戦いを望むのはこちらも同じよ?」
金田「ははははっ! いいぞ、やろうか」
紬「ふふ…」
不敵に笑い、敵に向けて真っ直ぐに歩いていく。
紬「春原くん…負け分は必ず取り戻すわ」
春原「む、ムギちゃん…気をつけてね」
紬「ええ…」
春原と入れ替わりに座る。
そして、先程と同様に勝負のお膳立てがなされた。
後藤「レディ…ファイッ!」
ガガッ!!
机が揺れるほどの激しい激突。
どちらの側にも振れていたが、それも誤差の範囲。
すぐさま初期位置に戻り、その周辺で覇権を争っていた。
完全に力が拮抗している。
キョン「マジかよ…」
これでこいつも、琴吹が並ではない事がわかっただろう。
金田「くくく…あんた本当に女か」
紬「ふふ…ええ、もちろん」
金田「すべてにおいて俺の方が上だと思っていたよ」
紬「あら? 力はさておき…ルックスは私の方が100%勝ってると思うんだけど」
舌戦で相手のペースを乱そうとしているのか、挑発的な言葉を選んでいた。
金田「ふ…そうかもな」
だが、相手は乗ってこない。
やはり男女で容姿を比較されてもそれほどダメージはないのか。
金田「そろそろだ…」
紬「うん…?」
金田「きた…ファウ!! ファウ!!」
いきなり狂ったように呻きだす。
朋也(なんだ…!?)
紬「ぐぅむぅ…っ」
金田「ムギぃいいい…最高ぉぉぉ!!!」
紬「うぁあっ…!?」
朋也(琴吹っ…!)
もはや手が机すれすれまで運ばれてしまっていた。
朋也(ここまでなのか…)
この形勢を見たら、誰もがそう思うだろう。
実際、皆そんな顔をしていた。
諦めかけた、その時…
紬「殺したいヤツのことを…思い出せ…」
琴吹が何かつぶいていた。声が小さすぎて口の動きだけしかわからない。
紬「0.01秒で情報を引き出し…0.09秒で必要な場面の再生を終えろ…」
紬「0,1秒で… 無 極 が使えるように…なれ…」
紬「………」
深く息を吸って、目を閉じる。その表情は、あくまで苦しそうだった。
もしかして…心が折れてしまったんだろうか…
いや…違う。まだ戦っている…必死に耐えているじゃないか。
勢いよく目が開かれる。
その瞬間、絡ませていた指が金田の手の甲にめり込んだ。
パキッ
小気味よい音がする。そう…骨が砕かれたのだ。
金田「あ゛ぁっ」
バァンッ!!
激しい音がして、金田の手が机に叩きつけられていた。
金田「あ…あ゛がぁあああっ!!」
その腕がだらりと力なく机に横たわっている。
それも、不自然な曲がり具合でだ。
これは折れたと見て間違いないだろう。
紬「男がそんな声上げるな。もっとも…すでに男じゃなくて乙女になっちまったけどな」
紬「おまえの乙女の叫びを携帯でダウンロードできるようにしておけ。着信音で売れるぜ」
紬「…なんてね♪」
―かませ犬と思われた 無名の高校生の名が 一夜にして知れ渡る その高校生の名は――
その高校生の名は―― 琴吹 紬
唯「ムギぢゃぁあああんっ!! 抱いてぇええっ!!」
ふたりが駆け寄っていく。
紬「めちゃくちゃ余裕だったわ♪」
律「すげぇええっ!」
唯「ムギちんっ」
ふたりとも、飛びつくように抱きついた。
紬「ふふ…これが勝者の特権ね♪」
琴吹も同じように抱きしめ返していた。
春原「すげぇ…ムギちゃん…」
朋也「だな…」
キョン「琴吹さんヤベェ…」
後藤「くっ…」
▼メインバトル【デスバトルルール】 試合時間 3分10秒
勝者 琴吹 紬 KO ※無極
―――――――――――――――――――――
紬「ううん、気にしないで。私も楽しかったし」
先の戦いに勝利した琴吹には、規定通りファイトマネーが支払われていた。
その中から春原に500円がキャッシュバックされたのだ。
500円なんて、得た金の総額に比べたら、はした金にすぎない…それほどあのふたりは稼いでいたのだ。
そのおかげでといってはなんだが、琴吹は一躍小金持ちとなっていた(もともと実家が資産家のようなものだが)。
まぁ、あまり綺麗な金とはいえないかもしれないが…。
澪「でも、ムギはほんとにパワフルだな…なにかやってるのか?」
紬「うん、昔ちょっと古武術を習ってて、今でもたまに鍛錬したりするの」
澪「へぇ、古武術かぁ、なんかすがいな…それで、どんなことするんだ? 鍛錬って」
紬「逆立ち片手腕立て伏せとかかなぁ、今でもやるのは」
律「すげぇっ!」
澪「す、すごいな…そんなの運動部でもできないぞ…」
紬「そうかしら?」
澪「そうだよ、絶対…」
律「ちょっとやってみせてよ、ムギ」
唯「私も見たぁい」
律「あ、そっか。見えちゃうもんな」
紬「うん。今度、体育の時にでもやるね」
律「うぉー超楽しみぃいっ」
朋也「………」
なんというか…その強さに、男として憧れを抱かざるを得ない。
「こんなところで負けやがって!!」
朋也(ん…?)
今出てきた教室、その中からドア越しに声が聞えてきた。
「勝ち続けて俺のために資産を増やし続けると思っていたから生かしてやっていたのに!」
「な、なにを言っている…」
どうもあのふたりがなにか言い争っているようだった。
「思い出したか? ついさっきカプセル2個飲んだろ。今度のは二重になっていない」
「飲んでから10分で同時に溶解する。致死量だ。おまえの命は後一分…後悔しながら死ね」
朋也「………」
―――――――――――――――――――――
くーるー きっとくるー♪
黒いカーテンで仕切られた教室を通りかかると、そこからBGMが漏れ聞えてきた。
唯「おお! りっちゃん隊員! おばけやしきですぞ!」
律「うむ、そのようだな! これぞ出し物の定番だな!」
澪「うぅ…見えない聞えない見えない聞えない…」
目を瞑り、耳を塞いで頭をイヤイヤと振っていた。
唯「………」
律「………」
顔を見合わせ、悪だくみするように、にやっと笑う。
律「みーおー きっとくるー♪」
唯「きっとくるー きーせつはしろーくー♪」
それぞれが秋山の両端に立って、両腕を組み取る。
澪「な、なにするんだよ…」
律「みーおー きっといくー そこにいくー♪」
ずるずるとおばけやしきの入り口に引きずられていく。
澪「や、やめろぉーっ、やめてくれぇーっ」
律「くーるー」
唯「きっとくるー」
澪「こないこない絶対なにもこないぃいいっ! いやぁああ…」
抵抗もむなしく、中に吸い込まれていった。
そして、しばらくすると…
きゃぁあああああああああああああっ!!!
秋山の悲鳴が絶え間なく聞え続けてきた。
―――――――――――――――――――――
澪「うぅ…ぐすん…」
廊下に出てくると、その場にうずくまり、塞ぎこんでしまっていた。
律「わはは、情けないぞ、澪。立ち上がれぃ」
澪「………」
反応はない。
澪「そう思うんなら最初からするなよぉ…」
顔を伏せたまま言う。
唯「えへへ、ごめんね」
澪「ばかぁ…ぐづん…」
さめざめと泣き続けていた。
朋也(ん…)
向かい側から、俺たちのように大所帯な集団が近づいてくるのが見えた。
朋也「秋山、そろそろ立とう。通行人がまとめて来るみたいだ」
言って、手を差し出す。
澪「ぐす…う、うん…」
俺の手を取って立ち上がる秋山。
朋也「っと…」
澪「あっ…」
ふらついていた秋山を咄嗟に抱き寄せる。
さっきの集団が、早くも目の前に到着していたので、衝突を避けるためだった。
男2「喫茶店、喫茶店」
男3「メイドカフェは?」
男4「んなのあんの?」
廊下の中央を通り過ぎていく一団。
俺たちは各々端に身を寄せて散らばっていた。
澪「あ、ご、ごめん…」
朋也「いや、俺もなんか引っ張ったりして悪かったな」
肩に回していた腕を離す。
そして、握っていた手も離そうとしたが…
朋也「…ん?」
澪「………」
秋山の方がずっと握ったままでいた。
朋也「どうした?」
澪「えっと…その…」
律「おーおー、ラブコメしてますなぁ」
慌ててばっと離し、なにかを隠すかのごとく後ろ手に組んだ。
律「んん? 遠慮せずに続けていいぞ?」
澪「な、なにをだよっ」
律「なにって、そりゃ、手をつないで創立者祭を楽しむことだよ」
澪「そ、そんなことしようとしてないっ」
律「じゃ、なにしようとしてたんだよ? そんなにほっぺた赤くしちゃってさ」
澪「べ、べつになにも…ただお礼をちゃんと言おうと思って…」
律「怪しいなぁ、うひひ」
澪「ほ、ほんとだってっ!」
朋也(この展開は…)
俺は唯に目を向けた。
唯「…お幸せにー」
その視線に気づき、不機嫌そうに一言。
朋也(まずいな…)
―――――――――――――――――――――
律「くっはー、こりゃ、すげぇなぁ…」
外に出て、売店で腹を満たすことになったのだが、その混みようは校内の比ではなかった。
春原「こういうのはガンガン行って自ら道を切り開かなきゃだめなんだよ」
春原「みてろっ」
ずんずん進んでいく。
そこに一本の道筋ができていた。
春原「よし、おまえらもはやくこっ…うわぁあああっ」
油断したのか、足元を掬われ、人混みの藻屑と化して消えていった。
律「ああならないように気をつけながら行くぞ」
部長は春原が消失した地点に向けて合掌を送っていた。
―――――――――――――――――――――
律「ぐぅ…ホットドッグ屋はまだかぁ…」
俺のいる地点から周囲を見通せる範囲の中、合間を縫いながらゆっくりと着実に進んでいく部長の姿が見えた。
朋也(こりゃ、時間かかりそうだな…)
朋也(唯は大丈夫かな…)
周囲を見回す。
唯「う…う?ん…」
ようやく見つけたその先で、唯は人に囲まれて身動きが取れなくなっていた。
朋也(唯…)
俺は進路を唯に向けた。
朋也「大丈夫か?」
隙間から声をかける。
唯「う、うん…なんとか…」
あまりそうは見えない。ぎゅうぎゅうと満員電車の乗客のように圧迫されていた。
朋也(手をつないで俺が先導すれば…)
朋也(いや、待てよ…)
この人混みで視界が悪くなっている今、俺が唯を連れ出していってもバレないんじゃないのか…?
これはもしかしたら、ふたりっきりになれるチャンスかもしれない。
朋也「唯、手貸してくれ」
その手をしっかりと繋ぐ。
朋也(よし…)
俺は渋滞の外へ向けて唯を引っ張っていった。
唯「あ、ちょっと…」
―――――――――――――――――――――
朋也「ふぅ…」
密集地帯から抜け出し、芝生までやってきた。
唯「どうしたの? 食べ物買わないの?」
朋也「いや、買うけどさ、後にしよう。まずはここから離れようぜ」
唯「え? それじゃ、みんなと離れ離れになっちゃうよ?」
朋也「それが目的なんだけどな。おまえとふたりっきりで見て回りたいし」
朋也「つっても、もうあの人混みで、けっこうバラけちまってるけどさ」
唯「…でも、私とでよかったの?」
朋也「あん?」
俺の呼び方によそよそしさを込めていた。
やっぱり、ちょっと怒っているんだろうか。
朋也「そういうこと言うなよ。どうしていいかわかんなくなる」
唯「どうしたらいいか、教えてほしい?」
朋也「ああ、教えてくれ」
唯「じゃあね…ちゅーして?」
朋也「え?」
どきっとする。
朋也「い、いいのかよ…」
唯「うん、してほしいな…」
朋也「そっか…」
唯「うん…」
朋也「じゃあ…ここじゃなんだし…場所移そうか」
唯「そうだね…」
高鳴る胸を押さえながら、俺たちは歩き出した。
軽音部部室。皆出払っていて、すっかり無人となっている。
関係者以外、わざわざ人が訪ねてくるようなところでもなし…
ここなら誰にも目撃されずに済むはずだ。
それに、ここは特別な場所でもある。
俺たちは、ここで一緒の時を過ごし、そして、付き合い始めたのだという。
だからこそ、その象徴となるべき思い出を残すに最も相応しいロケーションだといえるはずだ。
朋也「………」
唯「………」
近い距離で見つめ合う。
外からは、遠巻きに、活気ある賑わいの声が届いてきていた。
まるで俺たちを揶揄するかのように、静寂な室内に響いていた。
朋也「じゃあ…その…いいか?」
俺からそう切り出した。
唯「うん…」
目を閉じる。
俺はその華奢な肩に手を置いた。
唯「ん…」
緊張しているのか、唯から声が漏れる。
俺も心臓がばくばくと脈打っていた。
朋也(ああ…でも、こいつ、よく見ると、ほんとに可愛いよな…)
朋也(唇も柔らかそうだし…いいのかな、俺なんかがキスして…)
様々な考えが頭を巡り、中々踏ん切りがつかない。
朋也(くそ…強くなれ、俺)
覚悟を決める。
そして、ゆっくりと顔を近づけていき…
唇を重ね合わせた。
軽く触れ合うだけの、稚拙なキスだったが…俺はなんともいえない充足感に包まれていた。
できればまだこのままの状態でいたかった。が、あまり長引くのもよくない気がする。
よくわからないが、引き際が来ているように思われたので、口を離した。
唯「………」
唯も目を開ける。
唯「えへへ…今の、私のファーストキスだよ?」
目の前で手を交差させ、上目遣いのまま言う。
朋也「ああ…俺もだ」
恥ずかしさを紛らわすように、ぽりぽりと頬を掻いた。
唯「これで、もう私は朋也のものだねっ」
唯「そうだよっ。それで、朋也も私のもの」
朋也「そっか…そりゃ、光栄だな」
唯「えへへ」
ああ、なんて青臭いやり取りなんだろう。
でも…今交わした言葉通りのことが、いつまでも続いて欲しいと、そう願う。
朋也「じゃあ…いこうか」
唯「うんっ」
朋也「あ、そうだ。携帯の電源は一応切っておいてくれ。後で怪しまれないようにな」
唯「そだね」
胸ポケットから取り出して、携帯を操作する。
唯「でもなんか、悪いことしてるみたいだよね」
朋也「その背徳感がいいんだろ」
唯「あはは、朋也、変態っぽいよ」
朋也「なんだと、こいつ」
わきの下を責める。
体をくねらせて逃れようとするが、俺も追撃を加えていた。
唯「あっは、やぁだ、ちょ…」
ふに
朋也「あ…」
この感触は…
はっとして動きが止まる。
唯「…えっち」
胸を抱きかかえ、俺の手から体を遠ざけた。
唯「もう…密室でふたりっきりだからって…ケダモノだね」
朋也「い、いや…すまん…わざとじゃないんだ…」
しどろもどろになりながらも弁明する。
唯「でも…私、朋也のものだし…嫌じゃないよ?」
まんざらでもない…とそんな顔でぽつりと漏らす。
朋也「え…?」
それは、つまり…そういうことなんだろうか…
唯「ぷっ…あははっ、朋也、すっごい真顔?」
さっきまでの切ない表情がころっと笑顔に変わり、けたけたと笑い出す。
冗談だったらしい。そういえば、どこかわざとらしかったような気もする。
唯「なにか変なこと期待しちゃった? あははっ」
朋也「…からかうなよ」
言って、俺はひとり部室のドアへと足を向けた。
唯「あ、待ってよぉ?」
―――――――――――――――――――――
旧校舎を出て、新校舎の一階で焼きそばを食べた後、俺たちはクラス展示を覗き歩いていた。
唯「あっ、なにこれぇ。人間魚拓だって」
朋也「ん…」
ある教室の前で立ち止まる。
その廊下側の窓には、達筆な文字で『人間魚拓』と書かれた紙が貼られていた。
唯「おもしろそうじゃない? みてみようよっ」
朋也「ああ、いいよ」
唯「うわぁ、すごぉい」
室内いっぱいに貼られた人間魚拓。
ただ単に人型を取っただけではなく、様々な工夫が凝らされていた。
ある物は無数の手形を取り、ホラー調にみせていたし…
またある物は、シルエットだけでカンチョーを繰り出す人と、それを食らう側を表現していた。
極めつけは、うんこ座りしたそのケツから人間が排出されているようにしか見えない物まであった。
朋也(くだらねぇ…)
気のせいか、下ネタの割合が多い気もするし…。
唯「みてみて朋也?」
朋也「ん?」
振り向くと、唯が腰を曲げ、腕をぶらりと下げていた。
朋也「なんだ、そんなに脱力して、なにを訴えたいんだ」
唯「ほら、これだよ」
隣にあった人間魚拓を指さす。
見ると、その型も唯と同じポーズをとっていた。
唯「私の残像に見えない?」
あまりにも怠惰すぎる軌跡だった。
ぽむぽむ、と頭を軽く撫でる。
唯「む、なんで馬鹿にしてるっぽいのっ」
朋也「してないって。あ、そうだ、お小遣いをやろう」
言って、財布から小銭を取り出す。
朋也「ほら、5円玉だ。これで好きに消費税を払いなさい」
唯「もうその親戚のおじさんキャラはいいよっ! しかもなんかケチだしっ」
朋也「そっか? マンネリ化してきた俺たちの関係に新しい風が吹いたと思ったんだけどな」
唯「倦怠期くるの早すぎだよっ! っていうか、朋也はそう感じてたっていうのっ?」
朋也「いや、冗談だって」
唯「もう…じゃあ、普通にしててっ」
朋也「はいはい」
―――――――――――――――――――――
唯「あ…」
正面玄関の昇降口近くを通りかかった時、唯が足を止めた。
なにか一点を見つめている。俺もその視線の先を追ってみた
春原「………」
春原だった。水死体のようになって下駄箱の下足スペースに打ち上げられている。
あの時人波にさらわれて漂流し続けた結果、あそこに流れ着いたんだろうか。
唯「春原くんっ」
今にも駆けつけんとする勢いで身を翻す。
朋也「あ、ちょっと待て」
その背に向かって声をかける。
唯「うん? なに?」
朋也「春原なんてほっといて行こうぜ。どうせ起こしたってロクなことになんねぇよ」
なにより、あいつと合流してしまえば、ふたりでいられなくなってしまうのだ。
できればそれは避けたかった。
唯「またそんなこと言ってぇ…親友が倒れてるんだよ? 助けに行ってあげなきゃでしょ」
朋也「いや、別に親友ってわけじゃないけどな。友達かどうかすら疑わしいぞ」
唯「どうみたって親友でしょ。友達は大事にしなきゃだめだよ? 親友ならなおさらね」
言って、俺をその場に残し、春原を介抱しに向かっていった。
やっぱりこうなるのか…なんというか、実にあいつらしい。
俺みたいに、利己的な振舞いが板についてしまっているような奴とは正反対な人間だ。
そんなふたりが付き合うまでに漕ぎ着けたなんて、よくよく考えてみると不思議な話だ。
胸中でそんなことをつらつらと思いながら、俺も春原のもとへ足を運んだ。
唯「大丈夫? 春原くん」
春原「うう…」
薄く目を開ける。
朋也「生きてるか、おい」
春原「お…岡崎…平沢…」
朋也「これ、何本に見える?」
ピースサインを作って目の前で振ってみせる。
春原「に、二本…」
朋也「正解。目潰しでした」
ズビシ
春原「ぎゃぁあああああああっ!」
春原「って、あにすんだよっ」
朋也「意識がはっきりしてなかったみたいだからさ、荒療治だけど、正気に戻してやろうと思って」
春原「ちゃんと二本って答えただろっ」
朋也「だから、これは目潰しなんだって」
春原「ぜってぇ後付けだろっ! 正解って言った直後に思いついてますよねぇっ!」
唯「あははっ、でも、なんか大丈夫そうだね。春原くんって頑丈だね」
朋也「それが僕の取り柄だからね。僕から頑丈さを取り上げたら、もう春原しか残らないよ、ははっ」
春原「って、おまえが勝手に答えるなよっ! しかも、僕単体ならただのマイナス要素みたいな言い方するなっ!」
朋也「あんだよ、模範解答だろっ! あーあ、自販機の下に小銭落ちてないかなぁ」
春原「僕はそんなこと日常的に言わねぇよっ! つーか、なんかちょっと声色が似てて怖いんですけどっ」
声「あーっ、こんなとこにいたっ」
春原「あん?」
声がして、三人とも振り返る。
唯「あっ、りっちゃんっ」
律「探したぞー、唯」
その後ろには、キョン、秋山、琴吹と、残りの初期メンバーが揃っていた。
律「つーか、三人でいたなら連絡よこせよなー」
唯「今三人そろったばっかりだよ? それに、えっと…携帯は、電源切れちゃってて…」
律「あ、そなの? ま、いいや。無事合流できたしな。次はまた校内巡ろうぜっ」
唯「おーっ」
拳を振り上げるふたり。
こいつらにテンションの衰えなんて無粋なものは無縁だった。
キョン「春原、おまえさっき校庭のあたりで見かけたのに、なんで俺たちより先に校内に着いてるんだ」
春原「ああ、あの辺りは潮の流れが激しかったからね。一気にここまで来れたんだよ」
キョン「って、それ、人の波のことか…すごい移動手段使ってるな…」
春原「ふふん、だろ?」
律「どう考えてもおまえの意思じゃねーだろ。焼却炉に押し込められそうになってるとこも見かけたしな」
春原「てめぇ、なに僕の黒歴史紐解いてんだよっ!」
律「テキトーにカマかけてみたら、マジだったのかよ…だっせぇ…」
春原「デコのくせにからめ手とは卑怯だぞっ! 正々堂々と勝負しろっ」
泥沼の言い争いが始まる。
こうなってしまえば、あとはもう自然に収まるのを待つだけだった。
この期に及んで止めようとする者はさすがにいない。
むしろこれが普通の状態なんだと、そんな共通認識になっていると思う。
唯「次はどこ行く?」
澪「私は、手芸部のぬいぐるみ展示にいきたいんだけど…」
紬「あ、いいね、それ。私もいってみたいわぁ」
朋也「キョン、おまえもちゃんと、うさぎのぬいぐるみ抱きしめて、たくさん愛でろよ」
キョン「なんで俺が…」
部長と春原を放置し、先を行く俺たち。
律「あ、置いてくなよぉっ」
春原「待って、ムギちゃんっ」
慌てたようにどたどたと後ろから駆けてくる足音。
本当に、やることが似通った奴らだった。
―――――――――――――――――――――
こうして、達成感や楽しみ、喜びまでも詰まったような創立者祭が終わった。
律「おーし、じゃ、いくぞぉ」
部長が声を上げる。祝杯の用意を促しているのだ。
律「かんぱーいっ」
「かんぱーい」
チンッ
中央に集まったグラスが触れ合い、音を立てた。
律「いやぁ、今年の創立者祭ライブも大成功だったなぁ」
唯「だね! さすが私たち放課後ティータイムだよっ」
さわ子「衣装も冴えてたしね。私のおかげで」
澪「でも、ああいうのは恥ずかしいですよ…それに、観に来てくれた人たちも最初とまどってましたし…」
さわ子「なにを言ってるのよ。終わりよければすべて良しじゃないっ」
澪「過程も重視してください…」
律「つーかさ、さわちゃん、軽音部の顧問らしいことあんましてないのに、打ち上げだけは参加するのな」
そう、今は平沢家で打ち上げパーティーが開かれているのだ。
参加メンバーは、軽音部の面々と、会場の関係で憂ちゃんは当然として、そこに加え俺と春原、真鍋、さわ子さんが居た。
まぁ、それに参加する俺も大概だったが。
律「つきっきりだった吹奏楽部と合唱部はいいのかよ」
さわ子「あの子たちはこういう浮いたことはしない真面目なタチなのよ」
さわ子「それに、確かに顧問らしいことしてあげられなかったから、ここで取り戻しておこうと思ってね」
律「って、菓子むさぼることがそれにあたるんかい…」
さわ子「その通りよっ」
律「うあぁ、すげぇまっすぐに言い放ったよ、この人…歪みねぇなぁ…」
さわ子「さ、飲み食いしまくるわよっ。みんな、遠慮しないでガンガンいっちゃってっ」
律「しかもなんか仕切りだしたし…めんどくせぇ…」
さわ子「なんか言った?」
律「いえ、なにも」
―――――――――――――――――――――
さわ子「うぃ?…ふぅ…ひっく…そういやさぁ…」
宴も盛り上がりのピークが過ぎ、弛緩した空気が流れ始めた頃。
自らが持参したアルコールによって完全に出来上がった状態のまま、おもむろに口を開いた。
さわ子「うー…校内での不純な行為は禁止だからね…」
さわ子「わかってんのっ、岡崎、唯ちゃんっ」
朋也「え…?」
唯「え…?」
同時に反応する。
不純…? なんだ、この嫌な予感は…
律「なんで名指し? もしかして…してたの? このふたり」
さわ子「うん…部室でね、ちゅ?してた」
………。
少しの間、時が止まっていた。
そして時は動き出す…
律「うえええぇえっ!?」
澪「ええぇっ!?」
梓「ええええっ!?」
驚愕の声と共に…。
紬「まぁ…」
春原「へぇ、やるじゃん」
律「酔った勢いで作った話とかじゃなくて…?」
さわ子「そんなわけないでしょ。しっかり見たわよ。ドアの隙間からばっちりね」
さわ子「いやぁ、べっくらしたわ。衣装回収しに行ったら、あんなことになってるんだもんねぇ…」
まったく気づかなかった…。
あの時はいっぱいいっぱいで、物音を気にする余裕がなかったからか…。
和「つまり…そういうことだって、思ってもいいのよね?」
俺と唯の両方を見て、確認を取る真鍋。
どこまでも冷静な奴だった。
唯「………」
唯が黙ったまま俺を見てくる。
その瞳からは、本当のことを言っていいのかどうか、俺に判断を仰いでいるように読み取れた。
………。
ここで誤魔化そうにも、既成事実があるのだ。なにを言っても無駄だろう。
それに、いつまでも隠し通せるわけでもない。ここいらが潮時なのかもしれない。
朋也「…ああ、付き合ってるよ」
だから俺は、正直にそう告げていた。
和「そ。ようやく、ってわけね」
和「よかったわね、唯」
唯「うん、えへへ」
さわ子「って、なに、あなたたち、知ってたんじゃないの? 岡崎と唯ちゃんの関係」
律「初耳だわいっ! つーか、最初に聞いたのが今のキスの件だしっ」
さわ子「あら、そうなの? それは、衝撃的だったでしょうね…だからあの叫びか…なるほど…ひっく…」
律「いつから付き合ってたんだよ、おまえらっ」
唯「えっと…先週の水曜日からかな」
律「って、ボーリングの日じゃんっ! もうあの時はすでにそうだったのか?」
唯「違うよ。えっとね、帰り道で…告白してもらったんだ」
律「って、岡崎からいったのかよっ! うひゃー、やるなぁ」
春原「おい岡崎、進展したら教えてくれって言ったのに、あんだよこの事後報告はっ!」
朋也「うるせぇ…」
憂「岡崎さん、明日は振り替え休日ですし、またお姉ちゃんとデートにいけますね」
朋也「ん、ああ…そうできたらいいな」
憂「はい、聞いてましたよ」
律「かぁ、なんだよ…教えてくれたっていいじゃん」
憂「口止めされてましたからね」
憂「それに、大事なことですから、ふたりがタイミングを決めた方がいいと思ったので」
律「んな結婚したわけじゃあるまいし…大げさだなぁ…」
澪「…先生、これ、一本もらいます」
梓「…私も一本失礼します」
さわ子「あ、ちょっと…」
秋山と中野は、さわ子さんの周辺にあった缶を奪い取ると、プルタブを開けて一気にあおっていた。
澪「…っはぁ」
梓「…っふぅ」
カンッ カンッ
ふたりとも缶を強めに置いた。
澪「う?…」
みるみる顔が真っ赤になっていく。
澪「唯…」
梓「唯先輩…」
ゆらりと立ち上がり、唯の両脇を固めるように座った。
澪「いいか、恋愛って言うのはなぁ、大切なあなたにカラメルソースってあれなんだよっ」
唯「そ、そうなの…? よくわかんないけど…」
梓「語尾にデスをつけてしゃべってんじゃねーデス!」
唯「それはあずにゃんだよぉ…」
ねちっこく絡まれ始めていた。
律「あーあ、ヤケ酒に走ったか…」
さわ子「なぁに? あのふたり、岡崎に気でもあったの?」
律「あー、多分ね。この男、同時攻略とかしてやがったから」
さわ子「最低ね、岡崎。あんた、女の敵よ」
朋也「いや、んなことしてねぇっての。俺は最初から唯一筋だって」
春原「おまえ、キャラ違うよね、ははっ」
さわ子「このケツの青いガキがっ! ナマ言ってんじゃないよっ」
朋也「勘弁してくださいよ…」
澪「岡崎くん…」
梓「先輩…」
朋也「あん?」
今度はそれぞれ俺の隣に腰を下ろすふたり。
澪「岡崎くん…私のこと、可愛いって言ってくれたよね…?」
朋也「え…?」
澪「それに、自信を持ってはっきり言いたいこと言えって励ましてくれたし…」
澪「私、あの時はうれしかったなぁ…」
俺の腕を取り、身を寄せてくる。
朋也「お、おい…」
梓「先輩…私にも可愛いって言ってくれましたよね…もっと言ってください…」
梓「そんなの…照れ隠しに決まってるじゃないですか…女の子は褒められると嬉しい気持ちになるんですよ…?」
今度は中野が俺に寄り添って、肩に頭を預けてくる。
梓「頭も撫でてくれましたよね…もっとしてくれてもいいです…特別です…」
朋也「いや、ちょっと待て…」
俺は唯の反応が気になって仕方なかった。
恐る恐る見てみる。
唯「………」
…ものすごく無表情だった!
こんなに何もない表情がこいつにできるのか…いつも大抵笑顔でいるからな…これは何を意味するんだろう…
春原「おまえ、マジでその手の才能あるんじゃない? 夜王目指せよ」
朋也「なに言ってんだよ、おまえは。アホか」
春原「そりゃ、こっちのセリフだよ。本命の目の前で女の子ふたりはべらせて、余裕の面構えだもんね」
朋也「下手な煽りはやめろっての」
春原「本音だよ。ま、いくらおまえでも、僕が落としかけてるムギちゃんには手が出せなかったみたいだけどね」
紬「岡崎くん、私の臨時彼氏になってくれたことあったよね?」
紬「今だけ思い出させて?」
そして、胸を押しつけるように手を回してきた。
朋也「うぉ…こ、琴吹…」
春原「む、ムギちゃんまでぇぇぇえええええええっ!?」
春原「てめぇ、岡崎っ! なにが夜王だ、このクソ野郎っ!」
朋也「夜王はおまえが勝手に言い出したんだろ…」
律「認めるわ。岡崎、あんたはフラグ王…いや、鬼畜王だ」
朋也「んだよ、そりゃ…そ、そうだ、憂ちゃん、なんとかしてくれ」
憂「お兄ちゃん…私もそっちに行っていい?」
朋也「憂ちゃんまで悪ノリしないでくれぇーっ!」
和「まったく…ここまでいくと逆にすがすがしいわね、そのクズっぷりも」
朋也「ク、クズ…?」
こいつからの評価はそこそこ上々だったのに…一気に春原と同階級になってしもうた…
朋也「ゆ、唯…」
朋也「ち、ちがう、俺はおまえが一番好きだっ、信じてくれっ」
澪「じゃあ、私は何番?」
梓「私は何番目ですか?」
紬「私は?」
憂「お兄ちゃん…私のも教えて?」
朋也「うわぁーっ! 俺が何をしたっていうんだよっ」
律「わははは!」
さわ子「ふふふ、岡崎も丸くなったもんねぇ…」
春原「ははっ、歯の抜けたマルチーズってヤツだよね」
朋也「あ、おまえは一番嫌いだよ、陽平」
春原「って、やっぱ最後はそんなオチなのかよっ!」
―――――――――――――――――――――
朋也「唯…あれはさ、俺じゃなくないか…?」
唯「………」
憂ちゃんは俺に気を利かせてくれて、二階の自室へ戻っている。
朋也「ほら、なんかその場の雰囲気に酔ってああいう感じになるのが、俺らガキの性分っていうかさ…」
唯「…全然嫌そうじゃなかったし、避けようともしなかったくせに…」
ソファーに寝そべり、クッションを抱きしめて丸まったまま言う。
朋也「それはあれだ、さすがに離せとかって言うのも、悪い気がしたんだよ。相手は女の子だしな」
唯「…やさしーねー朋也はー」
くぐもった声。一向に顔を上げてはくれない。
朋也(はぁ…)
どうするべきか…。
………。
朋也(よし…)
俺はソファーから立ち上がり、床に腰を下ろした。
そして、身をかがめ、頭を丸めて土下座の体勢を取る。
朋也「唯っ」
そう声をかける。こっちを見てくれればいいのだが…。
「…なにしてるの」
朋也「だんご大土下座だ」
………。
なんの反応もない。
朋也(滑ったか…?)
と、思ったその時…
「ぷっ…あははっ」
朋也(成功か…?)
俺は顔を上げた。
唯「もう…ばかだね、朋也は」
朋也「ああ、そうだよ。俺は馬鹿だから、こんな滑り芸しかできないんだ」
朋也「でも、おまえが笑ってくれるなら、体張ってギャグ飛ばすのも悪くないかもな」
唯「そっか…じゃあ、ずっとそのギャグで笑わせ続けてね」
朋也「ああ、まかせろっ」
俺はプールにでもダイブするかのような勢いある格好で、ソファーにそっと腰を下ろした。
唯「あははっ、なんなの、結局大人しく座ってるし」
唯「そうなんだ。なんか曖昧だね」
朋也「だな」
俺は素早く唯を抱きしめて、その唇に自身のそれを重ね合わせた。
予備動作のない一連の動きだったので、唯も目を丸くしている。
視線が向かい合ったまま、ゆっくりと顔を離していく。
唯「…今のはなに?」
朋也「不意打ち。おもしろかったか?」
唯「うん、すっごく」
朋也「そっか。そりゃ、よかった」
唯「えへへ」
俺もつられて笑顔になる。
なんでもいい。自分に笑えた。
―――――――――――――――――――――
昼には飯を食べながら他愛のない話に花を咲かせ、放課後になれば部室で馬鹿をやった。
そんなことをしていて、なにか実りがあるのかと訊かれれば、答えはノーだが…
それでも、確かに俺たちはその日、その時間を最大限楽しんでいた気がする。
―――――――――――――――――――――
そして、一ヶ月、二ヶ月と過ぎ、夏が来た。
受験生にとっては、どうあっても乗り越えなくてはいけない山場である。
志望校を絞り、学部学科も決め、その目標に向けてひたすら邁進していかなければならない。
クラスの連中も、目の色を変えて勉強に打ち込んでいた。
休み時間でさえ常に参考書と向き合っているのだ。
誰もが具体性を持った未来に向けて全力をだしていた。
そんなある日。唯との会話の中で、進路の話題がのぼった。
唯「朋也は、就職なんだよね」
朋也「ああ、そうだよ。俺の頭じゃ、進学は無理だからな」
唯「今から勉強すれば、間に合うかもよ?」
朋也「いや、今更勉強なんかしたくねぇよ」
唯「そんなこと言わずに…なんだったら、私がマンツーマンで教えてあげるよ?」
朋也「いや、いいよ…あ、でも、定期テストのヤマだけは教えてくれ」
こいつは休日に俺と遊び回っていたにも関わらず、前回の中間で平均8割越えを達成していたのだ。
それも、短期間でヤマを張った箇所のみ勉強しただけだという。
ここまでくると、カンが冴えているというよりは、抜群の要領のよさを持っているといって差し支えないだろう。
唯「それはいいけど…大学受験の方も頑張ってみない?」
朋也「いや、さすがに大学受験には通用しないだろ、ヤマ勘は」
朋也「それ以前に、俺は大学に行ってまで勉強したいとは思わないからな」
唯「そっか…じゃあ、私もこの町で就職しようかな。そうすれば、朋也と一緒にいられるし」
朋也「馬鹿…おまえは軽音部の連中と大学に行って、またバンドやるんだろ?」
朋也「叶えろよ。それがおまえにとっての一番だ」
そう…俺はこの小さな町に留まり続けるだけの人間だ。
でも、唯は違う。広い世界を見て渡れる。だからこそ、俺が足かせになるのが嫌だった。
唯「でも、私は…」
朋也「つべこべいうな。おまえ、前にさ、俺にもう一度頑張れること見つけて欲しいって言ってたよな」
朋也「それで、いろいろと気にかけてくれただろ。今、俺があの時のおまえと同じ気持ちなんだよ」
朋也「全力で懸命になれることをやって欲しい。そうじゃなきゃ、平沢唯じゃないって」
朋也「な? だから、頑張れよ」
唯「…うん」
―――――――――――――――――――――
俺たちの関係も、卒業と同時に… 終わってしまうことを。
唯は…軽音部の連中は、きっと志望校に合格する。
そして、この田舎町を出て、都会へと進学していくのだ。
そこで築かれる新しい人間関係や、新鮮な生活環境の中で暮らす中…
いつしか高校で過ごした日々の記憶は薄れていき、思い出に変わっていく。
三年間を軽音部の部員という繋がりで共有してきたその軌跡は、いつまでも変わらずに輝き続けるだろう。
けど…俺と春原がいた、一年という時間…いや、一年もないその短い時間の中で過ごした記憶はきっと…
きっと、すぐに色褪せてしまうんだろう。それは、唯が俺を好きでいてくれたという想いも同じで…
だんだんと思い出せなくなっていき…最後には忘れてしまうのだ。
それに、唯の器量なら、言い寄ってくる男も相当多いはずだ。その中に惹かれる奴がいても不思議じゃない。
俺はそいつと天秤にかけられて、勝つ自信がない。
そもそも、大学という高等教育機関にいるような人間だ。俺なんかより格段に将来の見込みがある。
俺じゃ到底叶えてあげられないような幸せも、なんなく与えることができるんだろう。
身を引くべきは、どう考えても俺の方だ。
結局は…そういうことだった。
―――――――――――――――――――――
夏休みに入り、そこかしこで夏期講習に通う同級生をみかけるようになった。
そんな情勢を気にとめることもなく、俺は春原の部屋でいつものようにだらけていた。
春原「おまえ、このごろずっと僕の部屋いるけどさ、いいのかよ」
朋也「あん? 俺がいちゃ悪いのかよ」
春原「いや、別にいいけど、唯ちゃんほったらかしてていいのかなって思ってさ」
春原「マメにデートとかしとかないと、すぐ破局しちゃうぜ」
春原「ああ、なるほどね。そういや、最近みかけるよね、そういう連中」
朋也「だろ」
春原「んじゃさ、受験生狩りいかない? やつら、模試代とかでけっこう金持ってんだよね」
朋也「そりゃ普通に犯罪だろ。悪ふざけでした、じゃ済まされないぞ」
春原「ま、そうだよね…言ってみただけだよ、暇だしね」
朋也「ならまずコタツしまえよ。暑くて邪魔だ」
春原「それはこの部屋のアイデンテテーに関わるから、無理だよ」
朋也「あ、そ」
そのおじいちゃん発音を軽く受け流す俺。
よくわからなかったが、こいつなりのこだわりがあるらしいことだけはわかった。
―――――――――――――――――――――
夏が過ぎて、秋がやってくる。文化祭が催される季節の到来だ。
受験生にとって、最後の息抜きとなるイベント、文化祭。
創立者祭と違い、三年もクラスの出し物があるので、必然的にその規模は大きくなる。
この学校が一年で一番盛り上がる日だった。
もちろん、一般解放はしていたので、それも加味してだ。
律「って、なんであたしがジュリエットなんだよっ! 納得いかねぇーっ」
春原「僕だってロミオなんかやりたくないねっ」
机を弾く勢いで立ち上がるふたり。
和「多数決で決まったんだから、諦めてちょうだい」
壇上に立ち、教卓に手をついて言う。
律「いやだぁーっ! なんであたしがあんなアホとラヴな劇をせにゃならんのだっ」
春原「僕だっていやだよっ! 相手をムギちゃんに変えてくれぇっ!」
和「話し合い聞いてなかったの? 演るのは、ロミ男vsジュリエッ斗よ」
和「ラヴロマンスとは程遠い、ルール無用の命がけの闘いで真の最強を決めるっていう血生臭い物語よ」
黒板には、演題の隣に『最強の格闘技はなにか!?』とあおり文が書かれていた。
女生徒「りっちゃんと春原くんにしかできないよ」
男子生徒「おまえらが適役だろ」
そうだそうだ、と賛同の声が上がる。
律「ああ、そういうこと…なるほどね、やってやろうじゃん」
春原「ふん…どうやら演技じゃすみそうにないようだね」
春原もそれを受けて、にやりと口角を吊り上げた。
メインキャストが決まった瞬間だった。
―――――――――――――――――――――
梓「へぇ、先輩たちのクラスは演劇をやるんですか」
唯「そうだよぉ。私は女子高生G役なんだ」
梓「女子高生Gですか? いったいなんの劇をやるんです?」
唯「ロミ男vsジュリエッ斗」
梓「ロミオvsジュリエット? 愛し合うふたりが戦うって…笑える喜劇にするつもりですか?」
唯「ちっちっち?。字が違うんだな、これが」
席を立ち、ホワイトボードに板書した。
梓「ロ、ロミ男vsジュリエッ斗…確かに、リングネームみたいですね…」
澪「ちなみに、原作・脚本はムギだ」
紬「うふふ」
台本を手に微笑む琴吹。
律「ショラ!!」
部長が練習スペースで声を上げる。
ちょうど春原に蹴りを放っているところだった。
ザシュ
顔面に飛んできたその蹴りを、腕のガードでさばく春原。
春原「馬鹿の一つ覚えの前蹴りしかないのかよ!!」
律「前蹴りじゃねーよ」
ブオッ
春原「!?」
ゴッ
止められた足を空中で振りかぶり、そのまま春原のアゴに決めていた。
紬「…カケ蹴り」
琴吹の解説が入る。
梓「さっきからのあれは、いつもの喧嘩じゃなくて、演劇の練習だったんですね…」
紬「といっても、ほとんどアドリブでやってるみたいだけどね。私の脚本では寸止めすることになってるから」
唯「それはね、劇中で私がしまぶーに…」
紬「唯ちゃん。いろいろとアウトよ」
唯「あ、そだね。ごめんごめん」
梓「? しまぶー?」
紬「梓ちゃんは、気にしなくていいのよ?」
梓「は、はぁ…」
―――――――――――――――――――――
律「ふーい、ちかれたー」
春原「あ゛ー…あっつ…」
こんなに涼しい時期にも関わらず、汗ばむ体をあおぐこのふたり。
はしゃぎすぎだった。
梓「律先輩はこれからまた練習があるんですから、しっかりしてくださいよ」
律「あー、わかってる、わかってるぅ…」
だらりと背もたれに体を預け、ぱたぱたと下敷きで風を送っていた。
梓「もう…ほんとにわかってるんですか?」
しゃきっと姿勢を正す。
律「さてと…それじゃ、新曲の歌詞を発表し合おうかね。おまえら、昨日の宿題忘れてないよな?」
律「さぁ、先発は誰だ?」
唯「はいはぁ?い。私からいきまぁす」
ピラピラと二枚の紙はためかせる。
律「お、唯か。よし、かましてみろぃ」
唯「おほん。では…『ごはんはおかず』」
………。
ぽかんと口を開ける俺たち。
タイトルからして地雷臭が漂っている気がする…。
唯「ごはんはすごいよ なんでもあうよ…」
朗読していく。その独特すぎるセンスには閉口するばかりだった。
秋山といい勝負かもしれない。
唯「…どうかな?」
律「変な詞だな、おい…」
梓「澪先輩に影響されたんですか?」
梓「い、いえ、違います…ただ、その…呼吸の置き方とかの話ですよ」
梓「ほら、澪先輩のそういうところって、思わずマネしたくなるなにかがあるじゃないですか」
澪「そ、そうか?」
梓「はい、そうですよっ」
必死に接待スマイルを作っていた。
紬「私は、おもしろい歌詞だと思うな。曲をつけてみたいわ」
唯「さっすがむぎちゃん、わかってるぅ?」
律「まぁ、ムギがそういうなら、候補にいれてもいいかもな」
唯「それと、もうひとつあるんだけど…」
今読み上げた方を下に置き、もう一枚を手に取った。
唯「いきます。『U&I』」
耳を傾ける俺たち。
唯「キミがいないと何もできないよ キミのごはんが食べたいよ…」
今度は比較的まともな仕上がりになっていた。
さっきのおふざけ全開な歌詞とは一線を画している。
梓「すごいです…ちゃんと韻も踏んでましたし」
律「これ、ほんとにおまえが書いたのか?」
唯「ちょっとだけ、ちょ?っとだけ憂に手伝ってもらったんだよね」
律「なるほど。憂ちゃんが9割負担したんだな」
俺もそう思う。
唯「む、そこまでじゃないよっ、失敬なっ」
律「おまえじゃ、こんないい歌詞書けないだろ。認めろよ」
唯「むぅ、そこまで言うなら次はりっちゃんの素晴らしい作品みせてよっ」
律「おう、いいぜぇ」
ポケットからくしゃっと丸めた紙を取り出す。
唯「なんか見た目からしてゴミみたいだね」
律「うっせ。見た目は関係ねぇっての」
ぱりぱりと音を立て、読み取れるように形を整えていく。
律「んん…そんじゃいくぞ、『僕らはファミリー』」
律「僕と君とは友達 だけどヤバくなったらさよなら…」
律「イライラする日は君を殴りますごめんねと謝るから許しましょう…」
かなり身勝手でおちゃらけている人間像が浮かんでくる歌詞だった。
なんとも部長っぽさが詰まっている内容だ。
律「…どうよ?」
唯「く、くやしいけどおもしろいよ…」
律「わはは、そうだろう」
梓「なんとなく律先輩が春原先輩をぽかぽか殴ってる時の場面を想像しちゃいましたけどね」
澪「ああ、それ私も思った。やっぱり、春原くんを想って書いたのか?」
律「ばっ、変な言い方するなってのっ! こんなヘタレを題材にするならもっとう○ことかシモい言葉選ぶわっ」
澪「春原くん、これ、律の照れ隠しだから、気にしないでいいよ」
律「なに言ってんだよっ! 照れてなんかないわいっ」
春原「こいつに照れられてもしょうがないけどね」
律「だからおまえも真に受けんなってっ!」
唯「でもしっかり顔は赤いんだよねぇ?」
紬「じゃあ、私がいこうかな」
春原「お、待ってたよ、ムギちゃんっ」
春原が拍手で賑やかす。
紬「ふふ、ありがとう。それじゃあ、いくわね…『G・I・C・O・D・E』」
言って、どこからか帽子を取り出し、目深に被った。
歌詞カードは持っていない。暗記しているんだろうか。
紬「引き金引くぜキリがねーぐれー 耳がねー奴にゃ用はねー…」
…バリバリのラップだった!
紬「Carnivalのようなマジなfire ball 心に灯った火の玉着火 やっぱナンバー1はやっぱ…」
身振り手振りで挑発的な煽りを入れていく。
紬「俺ら壊れたガキの立場 暴れりゃ We don’t stop no バリア…」
そのリリックもかなり過激なことを言っている。
矢継ぎ早に繰り出される言葉をなめらかに発声し、一度も詰まっていないところがすごい。
俺たちは琴吹のステージに完全に飲まれていた。
紬「…ふぅ。どうだったかな?」
帽子を取り、いつものほがらかな顔にもどる。
律「い、いや…すげぇな、ムギは…それしか言えねぇよ」
春原「ヒューッ! ムギちゃん最高ぉうっ!」
唯「早すぎてなに言ってるか聞き取れなかったよ…」
澪「確かに…でも全然噛んでなかったところがすごい…」
梓「ムギ先輩のソロだけで会場も沸いてくれそうですよね」
紬「ふふ、ありがとう」
律「まぁでも、ラップはムギの個人技だからな。放課後ティータイム名義ではやれないかな、やっぱ」
律「悪いな、ムギ」
紬「あ、いいの。これはちょっとしたネタのつもりで披露しただけだから」
律「あ、さいですか…」
唯「次はあずにゃんの見せてよっ」
梓「私ですか? いいですけど…」
鞄をごそごそと漁る。
そして、可愛らしく彩られたノートの切れ端を取り出した。
梓「じゃあ…いきます。『噛むとフニャン feat.あずにゃん』」
ファンシーすぎる歌詞が続く。
梓「全部後回しで渋谷までダッシュ 連絡しても留守電これすっぽかし?」
と思えば、今度はセリフ調で攻めていた。
正直、『ごはんはおかず』を馬鹿にできないくらいの出来だった。
梓「…どうでしょうか」
律「おまえなー、普段しっかりしろとか言っておいて、ここ一番でボケるなよ」
梓「え? ボ、ボケ?」
唯「あずにゃんもシャレがわかってきたってことかな」
紬「可愛かったよ、梓ちゃん」
梓「………」
唖然とした表情。
こいつはマジなつもりで作詞してきたんだろうか。
まぁ、確かに可愛かったといえば可愛かったが。
梓「…もういいです。私、才能ないみたいですから」
不貞腐れ気味に言う。
梓「どうも場をしらけさせちゃったみたいなので、澪先輩で綺麗に締めてください」
律「トリだぞぉ、重要だぞぉ」
澪「変なプレッシャーかけてくるな…」
言って、丁寧にたたまれた紙をポケットから取り出す。
澪「じゃあ…『時を刻む唄』」
言って、軽く息を吸う。
澪「きみだけが過ぎ去った坂の途中は 暖かな日だまりがいくつもできてた…」
なんとなく春の日を連想させる詞。
澪「僕ひとりがここで優しい 温かさを思い返してる…」
情景は、ちょうどこの学校にある、校門まで続く長い坂道が想像しやすかった。
澪「きみだけを きみだけを 好きでいたよ 風で目が滲んで 遠くなるよ…」
歌詞の意味を考えるなら、これはどういう状況に立たされていると読み取れるだろうか。
好きな人がいて…共に温かな日々を送っていたのに、別離を迎えてしまい、今ではもう触れることもできないと…
俺にはそんな風に聞える。
澪「いつまでも覚えてるなにもかも変わっても ひとつだけひとつだけありふれたものだけど…」
澪「見せてやる輝きに満ちたそのひとつだけ いつまでもいつまでも守ってゆく」
むしろ、なにかを決心した強さのようなものを感じる。
それは、大切な人と過ごす中で得た、かけがえのないものを失わないよう、強くありたいという願いなのかもしれない。
澪「………」
読み終えてしまったのか、静かに手元から目を離した。
澪「おしまい…なんだけど…どう?」
律「いや…意外だったよ、かなり」
澪「そ、そうか?」
律「ああ。おまえが書いたにしちゃ、なんかその…ふわふわしてないっていうかな」
梓「なんだか意味深な詞ですよね。受け手が試されてる気がします」
紬「そうね。でも、例えば…失恋しちゃった時の自分に置きかえてみたら、すっと腑に落ちるんじゃない?」
律「ああ、確かに、きみだけを好きでいたよ、って言ってるよな」
律「むむ、ということはだ…」
顎に手をあてがい、探偵のように構える。
律「一人称が僕でカモフラージュされてあるけど、これってまんま澪のことなんじゃねぇの?」
澪「な、なんでだよ…」
澪「う…そ、それは…」
唯「あの…澪ちゃん…その、私…黙っててごめんね、あの時」
澪「いや、いいんだそれは。うん、岡崎くんには唯みたいな明るい子があってると思うし」
律「強がんなよ。ちょっと未練あるから、こんな詞が書けたんだろ?」
澪「ち、違うって、別に私は…」
梓「澪先輩! いつまでもこんなチンカスを引きずっちゃダメです!」
梓「澪先輩は美人ですから、こんな甲斐性無しで無愛想な奴なんかよりいい人が絶対にいますよ!」
唯「あ、あずにゃん、朋也をあんまり悪く言わないでね?」
梓「ムキーっ! なんですか! またこれみよがしに下の名前で親しげに!」
唯「それは、付き合ってるからいいと思うんだけ…」
梓「ノロケないでくださいっ! 不潔ですっ!」
唯「ご、ごめん…」
律「はっは、梓もやっぱまだ妬いたりするなぁ。おまえも未練残ってんのか?」
梓「そんなんじゃありませんっ! もう、練習しますよ、練習っ!」
紬「くすくす」
梓「ムギ先輩、笑わないでくださいっ!」
―――――――――――――――――――――
文化祭までの日。
軽音部の活動はティータイムに割かれる時間がごく僅かなものとなり、ほぼ全て練習に費やされていた。
創立者祭の時よりも、はるかに気合が入っている。
それはきっと…誰も口には出さないが…今回が、放課後ティータイム最後の舞台となるからだろう。
ライブが終わってしまえば、唯たち三年は引退だ。後はもう、脇目も振らず受験一直線となる。
そして、合格発表も済んでしまえば、次は卒業が待っていた。実に淡々と過ぎていくものだ。
俺たちがいくら望もうが、時は止まってはくれない。流れを緩めてもくれない。
いつだって同じペースで過ぎ去っていき、物語の結末を運んでくる。
そんな寂しさを音で振り払うかのように、演奏には強く力が込められていた。
―――――――――――――――――――――
そして、当日。午後になり、体育館で3年D組の演劇が幕を開けた。
『先入場者 戦闘スタイルは空手を中心とした打撃 だが打撃だけに止まらず!』
『投げ・締め・間接なども使う 20戦20勝0敗 3年ぶりのS級格闘士となる…』
『日本 ジュリエッ斗!』
律「………」
『そして 後入場者は――』
春原が舞台袖からステージに出て行くと、同じようにスポットを浴びた。
春原「………」
『その男が使う格闘技は実戦!! イスラエル軍に正式採用されることにより洗練され…』
『世界中の軍隊・警察関係者に広まり、歴史の中で迫害を受けながらも滅ぶことなく現代では世界経済を握り…』
『多くの天才科学者を出し、IQが世界で一番高いと言われる民族が作った、今なお進化し続ける格闘術…その名は――』
『クラヴ・マガ!! 63戦63勝0敗 イスラエル ロミ男!』
『さぁ、お賭けください!!』
女生徒1「ロミ男に20万ドル」
男子生徒1「ロミ男に100万ドル」
女生徒2「ロミ男に50万ドル」
男子生徒2「ロミ男に10万ドル」
モブ役のクラスメイトたちがそのセリフだけを言い放ち、袖に捌けて行った。
そして、入れ替わりに横断幕を持った黒子集団が出て行く。
そこには、『配当 ロミ男 1.05倍 ジュリエッ斗 21倍』と書かれている。
テロップのようにその文字列がステージを横切っていく。
前座のナレーションが終わると、いよいよ演技の開始だった。
ここまでは順調だ。不安があるとするなら、あいつらのアドリブだ。
白熱し過ぎなければいいのだが…。
―――――――――――――――――――――
律「金剛!!」
ドガッ
春原「うっ……」
部長の振りかぶった右腕が春原の心臓に突き刺さる。
春原「………」
どさっ
すると、崩れ落ちるように春原が倒れた。
台本通りの終わり方だ。
途中、執拗な下段への攻撃というアドリブはあったものの、無事に全ての殺陣シーンが終了した。
律「ふぅ…」
突きの状態で体を止めたまま、部長が息を吐く。
『今現在 最強の格闘技は 決まっていない!!』
裏方も含め、スタッフ全員が舞台に上がり、一礼して幕が下りていった。
―――――――――――――――――――――
律「あ?、いい仕事したわ、われながら」
社長座りで椅子に深く腰掛ける部長。
唯「ふんすっ ふんすっ」
その後ろで唯が肩を揉んでいる。
紬「お疲れ様、りっちゃん」
琴吹がメイドのように紅茶の入ったカップを配膳する。
まさにVIP待遇だった。
律「うむ、くるしゅうない」
紬「春原くんも、お疲れ様。いい動きだったわ」
同じように、春原の前にもティーカップを差し出す。
春原「お、ありがと、ムギちゃん」
受け取り、ずずっと一口すすった。
梓「ここでちょろちょろ練習してるのは見てましたけど、実際通して見るとすごい立ち回りしてましたよね」
澪「おまえは普段通り暴れてただけだろ。殺陣を考えたムギが一番すごいと思うぞ」
紬「そんなことないわ。あれを演じられるのも、りっちゃんと春原くんのセンスがあってのことよ」
澪「そ、そうなのか?」
律「ほぉらな、やっぱあたしの才能じゃん」
春原「ま、僕のセンスの前ではおまえはただのスタントマンに成り下がってたけどね」
律「んだと!? あたしの金剛で盛大に心臓震盪起こしてたクセによっ」
春原「あれはただ台本に従っただけだっての。実戦なら僕の圧勝さ」
律「けっ、なにが実戦ならだよ。アドリブで上段一発入れたら顔歪んでただろーが」
春原「あれは顔面でさばいてただけだっ!」
律「それが直撃してるっていうんだよ、アホッ!」
春原「ふん、素人目じゃ、あの高等技術はわからないか。でも、ムギちゃんならわかってくれるよね?」
紬「春原くん、腕の立つ整形外科を手配しておいたから、ちゃんと通院してね?」
春原「定期的に通わなきゃいけないほど歪まされてるんすかっ!?」
朋也「もうおまえだって気づくのが難しいぐらいだけど、鼻の穴見るとギリ思い出せるな、もとの顔が」
朋也「おいおい、そんなの、おまえとの思い出がいっぱいこびりついてるからに決まってるだろ?」
春原「ハナクソみたいに言うなっ!」
律「わははは!」
―――――――――――――――――――――
澪「…はむっ」
手に人という字を書いて飲み込んだ。
古来より伝わる緊張をほぐす方法だった。気休めともいうが。
律「よぅし、そろそろいくか」
開演前40分。時間的にはまだまだ猶予があったが、念のため早めに講堂入りすることになった。
搬入は午前中の内にあらかじめ終えていたので、即スタンバイに入れる状態にある。
唯「大丈夫だよ、澪ちゃん」
紬「ちゃんと特訓もしたしっ」
澪「っ、そうだよな…」
梓「いつも通りにやりましょうっ」
澪「うん」
「おーっ!」
天に向かって拳を突き上げる軽音部の面々。
紬「私たちのライブっ」
「おーっ!」
梓「最高のライブっ」
「おーっ!」
唯「終わったらケーキっ」
「おーっ…うん?」
疑問符がつく。
そして、全員の視線が唯に集まった。
律「んだよ、ケーキって…せっかく気合入ってたのに…」
梓「そうですよ…それに、ケーキならさっきまで食べてたじゃないですか」
梓「まさか、まだ飽きたりないって言うんですか?」
唯「ただのお約束だよ、てへっ」
どこまでいこうが、唯は唯だった。
梓「お約束って…まったく、唯先輩は…」
咎めるような口調だったが、その口元は笑っていた。
澪「でも、なんか本当にいつも通りで、緊張が和らいだよ」
紬「ふふ、そうね。唯ちゃんはこういう時、いい方向にムードを緩めてくれるよね」
律「ま、そうだな。ムードメーカーを自負するあたしでも、それは認める」
唯「えへへ、ありがと」
そう、いつだって唯はこうして周りに明るさを振りまいていたのだ。
その暢気なペースに巻き込まれ、みんな笑顔になっていく。
俺もその一人だった。だから今、俺はここにいる。
律「んじゃ…いくぜぇっ」
「おーっ!」
最後の激励が上がり、部室のドアへと足を向ける。
すると…
がちゃり
さわ子「あ゛ー…間に合った…」
さわ子さんが満身創痍な風体で扉にもたれかかっていた。
さわ子「こ、これ…衣装…」
ぷるぷると震える腕を伸ばし、Tシャツを5着差し出す。
律「お、今回のはこれなんだ?」
部長が一番に受け取った。
さわ子「み、みんなも…どうぞ…」
促され、さわ子さんのもとに集まる。
そして、全員の手に行き渡った。
梓「今回はまともですね」
端を持って広げ、その全様を眺めながら言う。
澪「うん…よかった」
秋山も同じく広げ見て、そのノーマルさに安堵していた。
律「で、さわちゃんは、なんでそんな疲れてんの」
さわ子「それを徹夜で作ってたからよ…」
律「え? でもこれ、かなりシンプルじゃん。徹夜するほどじゃなくない?」
確かに。ただ中央にHTTと印字され、バックに☆マークがあるだけのデザインだった。
さわ子「いろいろあったのよ…」
律「いろいろって、なに」
さわ子「いいから、もう講堂に行きなさい。音出しとかしなきゃでしょ…」
律「そうだけど……まぁ、いっか」
律「ほんじゃ、いくべ」
さっきまでの気合に満ちた空気は抜けきり、ゆるゆると部室を出て行った。
俺と春原も後に続こうと、その背中を追う。
さわ子「あ、ちょっと待ちなさい」
半開きになっている扉を横切ろうとした時、さわ子さんに呼び止められた。
春原「なに? なんか用?」
さわ子「あんた達には、ひとつ仕事をしてもらうわ」
春原「仕事?」
さわ子「そ、仕事。とりあえず、ついてきて」
そう告げて、返事を聞かずに歩き出す。
朋也「………」
俺たちは無言で顔を見合わせた。
このやり取りに既視感を覚えると、目で言い合っていた。
それは、去る日、軽音部の新勧を手伝うよう命じられることになった時の流れと酷似していたからだ。
―――――――――――――――――――――
さわ子「さ、あんた達もこれを着なさい」
部員達と同じTシャツを渡される。
春原「へぇ、僕らの分もあったんだね」
さわ子「それだけじゃないわ」
言って、ダンボールを二つ開封した。
両方とも中に大量のTシャツが敷き詰められている。
春原「うわ、なんでこんないっぱいあんの」
さわ子「配布用にたくさん作っておいたのよ。大変だったわ…」
それで徹夜だったのか…。ようやく納得がいった。
春原「ふぅん、入場特典ってやつ?」
さわ子「ま、それもあるけど、サプライズが真の目的ね」
ついに秋か…でもこれはアフターまで入れるとまだかかるな
次スレは『朋也「軽音部?うんたん?」アフター』かな
徹夜の理由を曖昧に答えていたのは、そのための布石だったということか。
はぐらかしながらも、早く会場入りするよう促していたのは、状況を整えるためだったと。
ということは、やっぱり、俺たちの仕事はそこに関係してくるんだろう。
つまりは…
朋也「これ、俺たちが配ればいいんだろ?」
そんなところだろう。
さわ子「その通りよ」
思った通りだ。
朋也「オーケー、わかったよ」
一度しゃがみ、ダンボールを抱える。
朋也「それと、さわ子さん。おつかれさまな」
さわ子「あら、あんたの口からそんな言葉が聞けるなんて…意外だわ」
さわ子「それに、最近表情もずいぶん柔らかくなったし…やっぱり、唯ちゃんの影響かしら? 」
朋也「さぁね」
さわ子「ふふ、でも、そんな風に気配りができるなら、あんた将来いい男になるわよ、きっと」
朋也「そりゃ、どうも」
朋也「おまえは骨格が変形して人の形が保てなくなるぞ、きっと」
春原「さわちゃん、やっぱこいつただの鬼畜だよっ! なにも変わってねぇよっ!」
さわ子「ふふ、そうみたいね」
―――――――――――――――――――――
春原「お、なんだあいつら」
講堂の出入り口から中を覗くと、うちのクラスメイト達が同じライブTシャツを着てわいわいと騒いでいた。
朋也「あれも多分、さわ子さんの仕込みだろ」
ちらり、と隅に立つさわ子さんに目を向けた。
さわ子「………」
その視線に気づき、こちらに向かって親指をぐっと立ててくる。
それは、俺の仮説が肯定されたとみて間違いないんだろう。
―――――――――――――――――――――
憂「あ、こんにちは、岡崎さん、春原さん」
ぽつぽつと人の出入りが始まった頃、憂ちゃんがやってきた。
女生徒「………」
朋也「よ、憂ちゃん」
春原「よぅ、妹ちゃん」
憂「おふたりとも、どうしたんですか? そのシャツ」
朋也「ああ、これ、さわ子さんがライブ用に作ってくれたやつなんだけど…」
ダンボールから2着新たに取り出す。
朋也「観客用のも作ってきたみたいでさ。配るように言われてるんだ」
朋也「憂ちゃんも、ぜひ着てくれないか」
憂「あ、はい、もちろんですっ」
嬉々として受け取ってくれた。
朋也「そっちの子も」
女生徒「あ、はい」
受け渡す。
女生徒「………」
シャツを持ったまま、なぜか俺を凝視していた。
女生徒「いえ、違います。ただ、実物のほうがカッコイイなぁ、と思いまして」
朋也「あん?」
女生徒「唯先輩の彼氏さんですよね? 憂から聞いてます。写メもみせてもらいましたし」
朋也「あ、そうなの」
憂「すみません、勝手にいろいろと…」
朋也「いや、別にいいけど…」
女生徒「私、ちゃんと唯先輩と釣り合い取れてると思いますよ」
朋也「そりゃ、どうも」
女生徒「まぁ、それだけです。いこ、憂」
憂「うん」
連れ立って前列の方へ向かっていく。
朋也(………)
妙な恥ずかしさだけが俺の中で渦巻いていた。
―――――――――――――――――――――
朋也「げ…オッサン」
春原「うわぁ、サバゲーの男だ…」
今度はオッサンがずかずかと幅を利かせながら、威圧感たっぷりに現れた。
早苗「こんにちは、岡崎さん」
その後ろには早苗さん。
女の子「こんにちは」
と、もうひとり、小柄で大人しそうな女の子がいた。
その顔は、早苗さんとそっくりで、まるで姉妹のようだった。
ということは…この人が、ふたりの娘である、例の渚さんなんだろうか。
朋也「こんにちは、早苗さん。それと…渚さん?」
女の子「あ、はい、そうです」
やっぱりそうだった。
渚「えっと…」
どう返したものかと迷っているような、そんな表情を浮かべている。
初対面の人間に名前を知られていたのだから、そうもなるだろう。
朋也「ああ、俺、唯と仲良くさせてもらってて、いろいろと話を聞いてるので…それで」
朋也「岡崎です。こちらこそ、よろしく」
渚「名前は、朋也さんですよね」
朋也「え?」
渚「私も、岡崎さんのこと、お父さんとお母さんから聞いてました。唯ちゃんの彼氏さんだって」
朋也「あ、そっすか…」
渚「でも、唯ちゃん、すごいです。うらやましいです。こんなかっこいい男の子と付き合ってるなんて」
早苗「ですよねっ。私も、初めて見たとき、すごくかっこいいと思いましたよ」
朋也「はは、どうも…」
褒め殺しだった。
秋生「ふん、こんな優男のどこがいいんだ。浮かれまくってウケ狙いのTシャツ着るような奴だぞ」
朋也「そんなんじゃねぇっての。ほら、あんたもこれ着てくれよ」
ぐいっと押し付ける。
秋生「てめぇ、この俺にも一緒になって滑れっていうのか、こらっ!」
朋也「だから、ギャグじゃねぇって」
朋也「頼むから話を聞いてくれ。いいか、唯たちもステージ衣装で同じものを着てるんだ」
朋也「それで、観客も同じシャツを着て出迎えるって寸法だ。それを秘密裏にやってるんだ」
朋也「まぁ、サプライズだな。そういうわけだから、あんたも協力してくれ」
秋生「かっ、そういうことか…まわりくどい言い方しやがって、要はサプライズだろうが」
朋也「いや、だからそう言っただろ…」
秋生「ま、なんだか知らねぇが、おもしろそうだな。協力してやる。ありがたく思え」
朋也「ああ、感謝するよ」
オッサンは俺の持っていたシャツを乱暴に奪うと、それを重ね着した。
秋生「む、サイズがあってねぇぞ、おい」
朋也「あんたが規格外なだけだ。我慢してくれ」
秋生「ちっ、しょうがねぇな…」
朋也「早苗さんと渚さんも、よかったらどうぞ」
早苗「もちろん、着させてもらいますよ」
渚「私も、一着お願いします」
オッサンとは大違いだ。よくもまぁ、こんなのと結婚したものだ、早苗さんは。
渚さんも、この人の血を引いているとは到底思えないほど丁寧な口調だ。
きっと、早苗さんの血の方が濃かったんだろう。よかった…オッサンの遺伝子がでしゃばらなくて。
秋生「よし、いくぞ、おめぇら。最前列でフィーバーするぞ」
早苗「唯ちゃんたちの邪魔をしちゃだめですよ?」
秋生「その辺はしっかりわきまえてる。俺は大人だからな」
渚「お父さんが言っても全然説得力ないです」
秋生「なぁにぃ? おまえだっていまだに、だんごだんご言ってるじゃねぇか」
渚「だんご大家族は子供から大人まで幅広い層をカバーしてるので問題ないです」
秋生「あんなわけのわからんテーマソングをバックに踊り狂ってるもんがか?」
渚「わけのわからないテーマソングじゃないですっ。すごくいい歌ですっ」
渚「お父さんにもわかって欲しいので、今から歌いますっ。だんごっ、だんごっ…」
秋生「また頼んでもねぇのに歌い出しやがったよ、こいつは…」
呆れたように頭を掻くオッサン。
けど、渚さんはまったく気にしていないようだった。
のびのびと口ずさんでいる。
そんな風に人目はばからず歌う渚さんを見ていると…なぜだか涙が出そうになった。
懐かしくて、温かくて、溢れるような優しさが目の前にある気がしてならない。
というより…思い出せないと言った方が正しいかもしれない。
秋生「サビまでにしとけよ」
言って、歩き出す。
早苗さんもその後ろについていく。
渚「あ、待ってくださいっ」
慌てて中断し、渚さんも後を追った。
朋也「あ、渚さんっ」
その背に声をかける。
渚「はい? なんでしょう?」
きょとんとした顔で振り返る。
朋也「あの…俺たち、昔どこかで会ってませんか?」
もしかしたら、記憶を辿る糸口が掴めるかもしれない。
望みは薄かっただろうが、訊かずにはいられなかった。
俺は、知れるなら知りたかったのだ。この想いの正体を。
渚「昔、ですか? その…いつごろでしょうか」
朋也「ずっと昔…遠い昔です」
朋也「いえ、時間じゃないんです。そんなの、象徴に過ぎないんです」
朋也「もっと、こう…想いだけで懐かしさが感じられるような、そんな過去です」
渚「えっと…その、すみません。私、昔は体が弱かったですから、そういう素敵な思い出はなかなか作れなかったんです」
渚「ですからきっと、岡崎さんと会っていたとしても、覚えていられなかったと思うんです」
朋也「………」
どうやら俺の言ったことを、これまでの人生で得てきた思い出の話だと思っているようだ。
言い方が悪かったのか、正確に伝わっていなかった。
いや…正確もクソもないか…。
あまりに漠然としすぎていて、俺自身ですらよくわかっていないのだから。
そんなことを理解して欲しいなんて、どうかしてる。
朋也「そうですか…」
渚「すみません、思い出せなくて…あの、もしかして、岡崎さんは覚えていてくれたんでしょうか」
朋也「いや、俺も確証はないっていうか…ただ、うっすらとそんな気がしただけですから、気にしないでください」
渚「そうですか…でも、岡崎さん、なんだか落ち込んでいるように見えます」
朋也「そう見えるなら、きっと罪悪感が顔に出てるんでしょうね」
朋也「こんなくだらないことでわざわざ引き止めてしまったっていう」
にこりと笑顔を向けてくれる。
なんとなくその質が唯と似通っているように見えた。人に安心感を与える、という点で。
朋也「なら、俺も気が楽です」
渚「岡崎さんが楽になれたなら、私も気が楽です」
朋也「はは、じゃ、おたがいさまっすね」
渚「はいっ」
視線が交錯して、どちらも笑みがこぼれる。
それだけのことだったが、俺はこの時、なにか吹っ切れた気がしていた。
感傷に浸って抜け出そうとしない自分がアホらしく思えるほど、今この瞬間が澄んでいた。
朋也「それじゃあ…ライブの方、楽しんでいってください」
渚「はい、そうさせてもらいます。それでは、私はこれで」
言って、背を向けて歩き出す。向かう先は、オッサン達がいる最前列のようだった。
春原「今の、かなり斬新な切り口のナンパ方法だね。今度僕も使わせてもらうよ」
春原「あれ? もしかして君、前世で僕の体の一部だった? って感じでさっ」
朋也「カタツムリってカラ取ったらナメクジじゃね? って返されて終わりだな」
春原「意味わかんない上に会話つながってないだろっ」
春原「そんなボケ拾えねぇよっ!」
―――――――――――――――――――――
15分前にもなると、いよいよ客足の入りが激しくなってくる。
わらわらと生徒が集まって来ていた。
春原「しゃーす、これ、よかったら着てくださーい」
俺たちは出入り口の両脇に立ち、仕事をこなしていた。
朋也「よかったら、着て下さい」
次々に手渡していく。
朋也(ああ、なんか、懐かしいな…)
新勧の時もこうやって募集チラシを配っていたことを思い出す。
春原「しゃーす」
あの時の春原は、まったくといっていいほどやる気をみせず、地べたに座り込んだりしていたのに…
今では慣れない丁寧語まで使って精力的に動いていた。
俺も、以前より自然と足が動いている。
あんなにも嫌っていた懸命になることを、普通に受け入れてしまっているのだ。
それを思うと、なにか感慨深いものがあった。
キョン「お、春原に岡崎」
古泉「ご無沙汰してます」
長門「………」
SOS団の面々だった。
朋也「よぉ」
春原「お、久しぶり」
キョン「なにやってんだ、こんなとこで、そんなシャツ着て…またなんかの悪巧みか?」
春原「違うよ。これを配ってるだけだって」
ダンボールから一着取り出す。
春原「おまえらもライブ見に来てんだろ? これ着て観てやってくれよ」
キョン「なんだ、公式Tシャツか?」
春原「ああ、しかも無料だぜ? 着るしかないっしょ」
キョン「まぁ、そういうことなら、着ようかな」
涼宮「あんたら、軽音部の雑用でコキ使われてるの?」
朋也「そういうわけじゃないけどな」
キョン「もう団活も引退してるんだから、現在形で言うな」
涼宮「なに言ってんのよ! 一時休止するだけだって言ったでしょっ!」
涼宮「SOS団は永久に不滅なんだから! 大学に行ってもサークルを立ち上げるわっ!」
涼宮「だから、あんたもちゃんと勉強して第一志望受かりなさいよっ!」
キョン「あー、はいはい、わかってるよ…やれやれ」
やっぱり、その口ぶりからして、こいつらは同じ大学を目指しているんだろうか。
春原「はい、ハルヒちゃんも、有希ちゃんもよかったら着てね」
涼宮「ん、まぁ、ちょっとダサいけど…我慢して着てあげるわ」
あくまで上から目線を保ったまま受け取る。
長門「………」
長門有希の方は何も言わず、ただ静かに受け取った。
朋也「ほらよ、古泉」
俺は残った古泉に1着差し出す。
古泉「んっふ、僕はそんな新品より、あなたの着ているその中古の方がブルセ…」
古泉「んっふ、これはこれは…ここは新品を素直に受け取った方がよさそうですね」
相変わらず不穏なことを口走る奴らだった。
涼宮「キョン! ちゃんと観やすい席は確保してるんでしょうね!」
キョン「できるかよ…今来たばっかだろ、俺も…」
言いながら、館内へ歩を進めていく。
その後に古泉と長門有希も続いた。
古泉「おっと、忘れていました」
振り返り、こちらに歩み寄ってくる。
どうも、春原に進路をとっているようだった。
そして…
古泉「ふぅんもっふっ!!」
ビュッ
激しく腰が振り出された。
春原「ひぃっ!?」
さっ!
間一髪で避ける春原。
その行き場を失った腰のエネルギーが壁に激突して音を上げていた。
古泉「おっと…避けられてしまいましたか。やはり、同じ手は二度は通用しないということですか…」
振りかぶった腰を定位置に戻しながら、ぶつぶつとつぶやく。
その衝突した部分の壁からは、ぱらぱらと粉塵がこぼれ落ちてきていた。
古泉「もう一撃いきたいところですが…日に一度しかできない大技ですからね…退くとしますか」
にこっとさわやかな笑顔をこちらに向け、身を翻した。
そして、無駄にスタイリッシュさを醸し出しながら奥へ消えていった。
春原「お、おおお岡崎…んあなななんか僕、さっきすごくやばかった気がするんだけどどど…」
ガクガク震えて上顎と下顎が噛み合っていなかった。
多分、かつて廃人にされたトラウマが蘇りかけているんだろう。
哀れな奴…。
―――――――――――――――――――――
和『さぁ、みなさんお待ちかね、光坂高校文化祭目玉イベント、放課後ティータイムの演奏です』
ついに開演時間を迎え、アナウンスが流れた。
5分前にはすでに館内は満席となり、壁際の立ち見客も多くいた。
俺と春原もその中の一人だった。さわ子さんもそうだ。
春原の隣で、腕組みしながら見守っていた。
春原「さわちゃん、キツくなったら僕の体に寄りかかっていいよ」
春原「い、いや、どさくさにまぎれておっぱい触ろうとか思ってないって」
さわ子「誰もそんなこと言ってないんだけど」
春原「ははっ、そ、そうだよね、誰だよ、おっぱいとか最初に言ったやつは」
おまえだ。
朋也「あ…」
幕が上がると、ステージの中央、こちらに背を向けてへたり込んでいる唯の後ろ姿が目に飛び込んできた。
朋也(転けたのか、あいつ…)
なんでまたアクションのないスタンバイ中に…
とはいえ、それが唯たる所以なのかもしれないが。
ガシャンっ
今度はギターを落としていた。
春原「おいおい、大丈夫なのかよ」
さわ子「…まぁ、ここからよ、ここから」
唯『すいませんねぇ…』
へりくだったMCを入れながら、ギターを肩にかける。
そこで気づく。
声「唯ーっ!」
声「平沢さーんっ!」
声「平沢ーっ!」
クラスメイトたちが…会場のほぼ全員が、同じ衣装を身に纏っていることに。
梓「……!」
中野も、秋山も部長も琴吹も、みんながキョロキョロと館内を見渡していた。
和『さぁみなさん、盛大な拍手を』
真鍋が軽音部の面々を横切り、ステージの中央へと躍り出た。
もちろん、同じTシャツを着てだ。
唯「………!」
梓「……!」
唯と中野が詰め寄って行く。
和「………」
なにか説明を求められているようだ。
和「……」
館内最後方(こうほう)、出入り口に近い位置にいる俺たちを指さす。
その照準はさわ子さんに合っていた。
さわ子「ブイ」
ピースサインで返していた。
唯「さわちゃんありがとーっ!」
梓「ありがとうございますっ」
ステージから肉声で届いてくる。
声「先生ーっ」
声「かっけーっ! さすが担任ぅ!」
声「さわ子先生マジヤベェーっ!」
クラスメイトもリスペクトの意を送っていた。
さわ子「くぅー、これよ、これっ」
快感が走ったのか、身を抱きしめて震えていた。
唯『えー…放課後…てぃーたいむです…ぐす』
唯『えぇっと…ぐす…ぐしゅ』
感情が邪魔をしているのか、なかなか進行しない。
声「平沢ーっ、泣くなーっ」
声「頑張ってーっ、唯ちゃーんっ」
クラスメイト達から励ましの声が上がる。
声「唯ーっ! こんな序盤で泣くなっ! 俺はおまえをそんなヤワに育てた覚えはねぇーっ!」
声「ファイトですっ、唯ちゃんっ」
声「唯ちゃんっ、頑張ってくださいっ」
今のは古川一家の声援だろう。
唯『みんなありがとぉ…ぐづ…私たちの方がみんなにいろいろしてもらっちゃって…ぐずぅ』
唯『なんだか涙が出そうです…』
律『はは、もう泣いてるじゃねーか』
ちょっとしたお遊びトーク。
やはり、この部分も客受けがいいのか、笑いが起きていた。
声「唯ーっ」
声「きたないよー」
声「部長ナイス」
律『えっへん』
声「澪もなんか言ってー」
澪『あ、ありがとう…』
「きゃー澪ーーっ」
各地で黄色い歓声が上がり、フラッシュが焚かれる。
おそらく秋山澪ファンクラブの連中だろう。
といっても、以前のように独占欲旺盛で過激な一派はもういないらしく、今は穏健派が主流なんだとか。
真鍋から聞いた話だと、そういうことらしい。
唯『それじゃあ一曲目いきますっ! ごはんはおかずっ』
ずるぅ!
初耳だった連中は例外なくずっこけていた。
俺はもう、何を演るかも、その曲順さえ知っていたので特に驚きはしなかった。
唯『ではでは、聴いてください』
唯「………」
律「ワン、ツー、スリー、フォーっ」
部長が音頭を取り、演奏が始まった。
唯『ごはんはすごいよなんでも合うよ ホカホカ…』
声「ふはは、やべぇーっ」
声「歌詞、歌詞っこれやべぇだろぉー」
男子生徒を中心にウケているようだった。
男は基本悪ふざけが大好きなのだ。
唯『私、前世は?関西人!』
「どないやね?ん!」
客席からも合いの手が入る。
もはや会場が一体となって歌っていた。
これがライブの醍醐味なんだろう、多分。
唯『1・2・3・4、ゴ・ハ・ン!』
繰り返しのくだりに差し掛かる。
唯『1・2・3・4…』
ばっとマイクを宙に掲げる。
「ゴ・ハ・ン!」
唯が歌わなかった部分は、観客のハモリによって補完された。
唯『1・2…』
今度は二言発声しただけでマイクをこちら側に向けた。
が、タイミングが早すぎてリズムが掴めず、誰の声も上がらなかった。
さわ子「うんうん、あるわ、こういう事…」
経験者にとってはあるあるで共感できることなんだろうか。
「1・2・3・4・ゴ・ハ・ン!」
だが、最後には合いの手がきちんと決まり、無事演奏が終わった。
客席からの拍手は鳴り止まない。
まずまずの立ち上がりだといえるだろう。
唯『えー…』
キィーン…
音が割れる。
唯『おおっと…』
ちょっとしたアクシデント。だが、これくらいなら問題ないはずだ。
わっと歓声が上がる。その迫力に圧倒されたのか、少し後ずさる唯。
でもすぐにマイクへ戻った。
唯『私たち3年生のメンバーはみんな同じクラスなんですけど…』
唯『さっきまで演劇をやってて大変だったんですよぉ』
唯『りっちゃんの演技見てくれました? すごかったですよね』
声「田井中ー、おまえ格闘技やれよーっ」
声「才能あるぞーっ」
律『はは、テェンキュー』
唯『りっちゃん、なんかやってよ』
律『あん? なにをだよ』
唯『なんかジュリエッ斗のセリフ』
律『あー、ま、いいけど』
気だるげにドラムスティックを置き、マイクをスタンドからはずす。
律『ん、あー…どんな道をたどろうと、必ずお前は始めるさ――』
律『喧 嘩 商 売を』
声「熱すぎるだろっ!!」
声「きゃあー抱いてぇ、りっちゃーーんっ!」
声「俺もりっちゃんみたいに強くなれるかなぁーっ?」
律『なれるよあたしの弟子だからな。お前才能あるよ』
声「うおぉおおおおおおおっ!!」
観客と掛け合いを繰り広げ、異様な盛り上がりを見せていた(主に男)。
唯『あ、それで、春原くんがロミ男だったんですよ』
声「しってるー」
声「ていうかへたれー」
春原「うっらぁーっ! なんだその温度差は、くらぁっ!」
声「怒ってる気がするー」
声「どっかにいるんじゃねー」
完全になめられていた。
春原「後でぶっ殺す…」
紬『それ以上はまずいわよ、唯ちゃん』
琴吹が颯爽と割ってはいる。
唯『あ、そうだった…ふぅ、危なかった。ありがと、ムギちゃん』
紬『ううん、ちょっと保身も入ってたから』
声「やばそうだな、なんか」
声「自主規制ー、はははっ」
おそらく意味はわかっていなかっただろうが、黒さが垣間見えたことでウケていた。
唯『では、次の曲いきましょー…あ、ロミ男vsジュリエッ斗は、ムギちゃ…琴吹さんがシナリオを書きましたぁ』
紬『ふふ』
手を振る。
声「紬さーん、今度のトーナメント絶対勝ち抜いてくださーいっ!」
声「工藤をヤれますよ、紬さんならっ!」
紬『ありがとーっ。大丈夫、二度と心が折れないようにやってきたからーっ』
声「うおぉおおおおおっ!!」
唯『あれ…次ってどの曲だっけ』
小声でメンバーに問いかけているんだろうが、ばっちりマイクに拾われていた。
律『だからどっかにメモを貼っとけって言っただろぉ?』
同じく部長も声が響く。
唯『どこかになくしちゃったみたいで…』
澪『落としたのか?』
秋山も。
唯『ポケットに入れたと思ったんだけどぉ…』
紬『あ、さっきTシャツに着替えたから…』
琴吹もだった。
唯『はっ! そうかっ!』
唯『うう…ああう…』
わたわたと慌てふためく。
その様子が可笑しくて、周りの連中に混じり、俺も思わず笑ってしまった。
―――――――――――――――――――――
後奏が鳴って、それが止むと、曲も終わった。
そして起こる大喝采。
唯『ありがとうございまぁーす。じゃあ、この辺でメンバー紹介いってみたいと思いますっ』
唯『まずは、顧問のさわちゃんですっ』
さわ子「んな…なんで私?」
いきなりのことで面食らったのか、体勢が前のめりに崩れていた。
澪「………!」
秋山が唯に寄っていき、何かつぶやいていた。
唯『あ、山中先生です! 山中さわちゃん先生』
澪「………っ!」
今度は強めに言っているようだった。
唯「……!」
唯もはっとしている。
おそらくは、公の場で愛称を使ったことを咎められているんだろう。
さわ子「ん…?」
さわ子「あはは…」
笑うしかないようだった。
唯『山中先生はいつも優しくしてくれて、私たちの部活を応援してくれていますっ』
さわ子「みんな輝いてるわよぉっ!」
口に手を添え、ステージに向かって檄を飛ばした。
やはりこの人は、やる時はやる人だった。
唯『ありがとーございまーす』
壇上から手を振る部員たち。
さわ子さんも満足そうな面持ちだった。
唯『続いて、ベースは澪ちゃんです!』
「澪せんぱーいっ!」
「きゃー、澪先輩っ!」
澪「………」
一礼する。
澪『こんにちは。今日は私たちのライブを聴いて下さいまして、ありがとうございます』
一気にフラッシュが上がる。
ファンクラブが創設されるだけあって、秋山人気は相当高い。
それも、同性からの支持が多いようだ。性格のよさがその結果に繋がっているんだろう。
澪『私、ここにいるみんなと一緒にバンドをやってこれて…』
澪『最高ですっ!!』
少し溜めて、そこを強調して言った。
澪『最高ですっ!!』
同じセリフ。それでも飽きることなく歓声は上がり続けていた。
唯『あ、澪ちゃんにはファンクラブもあるんです。入りたい人は、公式ホームページを参照してください』
澪『って、そんながあるのか!?』
唯『うん、あるよ。図書館のパソコンが、立ち上げた瞬間そこにアクセスするよう悪戯されてたの、知らない?』
澪『し、知らないっ! は、早くその設定を直してくれっ』
唯『あはは、大丈夫だよ。和ちゃんが全部なんとかしてくれたみたいだから』
澪『そ、そうか…よかった』
唯『あ、みなさん和ちゃんは知ってますよね? この学校の生徒会長です』
和「……!」
真鍋が袖から出て、何事か訴えている。
と、そこにスポットが当たった。
和「!」
逆光に目を細めながらそそくさと捌けていった。
唯『和ちゃんも一言どうぞ』
そう声をかけると、袖から手だけ出して次へいくよう指示を送っていた。
唯『えー…ん、じゃあ次は、キーボードのムギちゃんです』
かちゃっと音がする。琴吹がスタンドからマイクを取ったのだ。
紬『みなさん、こんにちは。私たちの演奏を聴いてくださいまして、ありがとうございますっ』
「せーのっ…ムギーーーーっ!」
「琴・吹! 琴・吹! 琴・吹!」
黄色い声援と荒々しい男の声が半々ずつ聞こえてきた。
春原「ヒューーゥ! ムギちゃん最高ゥ!」
春原もこの場から声援を送る。
大きく両手を振る。
紬『バンドって、すごく楽しいです! 今も、すっごく楽しいです! もう、ヴァーリトゥードです!』
言って、虚空にむかって突きを放った。
その衝撃波をマイクが拾い、ビュオっという音がしていた。
唯『ムギちゃん、落ち着いて』
紬『あ、つい興奮しちゃって…フー、暑いな…』
型を取り、息吹で呼吸を整えていた。
唯『ムギちゃんの淹れてくれるお茶は、とってもおいしくて、いつも楽しみなんですよぉ』
「あたしも飲みたーい」
「俺も飲みてぇーっ」
紬『いつでも部室にお越しください! 大歓迎ですからっ』
唯『部室にはトンちゃんもいるので会いに来てください』
「トンちゃんてー?」
「トーン! マジトン!」
唯『ああ、トンちゃんはねぇ、スッポンモドキって亀なんですけど、鼻がブタみたいで可愛いんですよぉ』
梓『え…あ、はい』
唯『ギターのあずにゃんです』
梓「……」
ガタッ キィーン…
急に振られて動揺したのか、マイクスタンドにギターをぶつけていた。
梓『ああ…すいません…』
唯『大丈夫?』
梓『大丈夫です。あ、すいません』
こちらに軽く頭を下げる。
梓『えっと…中野梓です。よろしくお願い、します…』
緊張しているのか、少し萎縮して見えた。
「梓ちゃーん!」
「あーずさーっ」
拍手が響く中、憂ちゃんと連れの子の声が微かに聞こえた。
唯『あずにゃん、ありがとね』
拍手が起こる。
梓「………」
照れているのか、ギターを抱きかかえて小さくなっていた。
唯『次に、ギターのりっちゃんです! 我が軽音部の部長です!』
律「………」
立ってマイクに近づく。
律『えー、みなさん、今日は軽音部のライブを聴いてくれまして、ありがとうございます』
「緊張してるー?」
「リラックスー、りっちゃーん」
律『…それではまだ未消化の曲がありますので楽しんでいってくださーい』
唯『え?』
梓『短っ』
唯「………?」
大方、本当にこれで終わっていいのか確認をとっているんだろう。
律「………」
部長が手を振って、巻いてくれ、と示していた。
唯『う?ん、まぁいいや…それじゃあ、次のメンバー紹介にいきます』
唯『といっても、正式な部員じゃないんですけど…でも、もはや正部員と比べても遜色がないこの二人組…』
唯『まずは、春原くん!』
春原「え? 僕?」
声を上げるやいなや、スポットライトで抜かれる。
春原「うおっ、まぶし」
唯『春原くんは、いつもいつも私たちを楽しく笑わせてくれます』
唯『もう、春原くんのツッコミがなかったら、私たちのボケが成立しないくらいのキーマンぶりです』
律『ただの道化だろー。ツッコミつついじられてるしなー』
春原「うっせー、デコっ」
律『あんだってぇ!?』
唯『このように、りっちゃんとは頻繁に口げんかするんですが、次の日になればふたりともケロっとしてるんです』
律『んなわけあるかーっ!』
春原「んなわけあるかーっ!」
唯『ほら、息もぴったり』
「フラグたってんじゃねー?」
「うらやましいぞー、春原ーっ」
律『変なこと言うなーっ』
春原「だれがんなデコなんか攻略するかってのっ!」
「ダブルツンデレーっ」
「デレてみろよー」
律『ざけんなーっ!』
春原「ざけんなーっ!」
唯『はい、コンビ芸ごちそうさまでした』
館内が笑いでどっと沸く。
律『………』
春原「………」
本心ではどうかわからなかったが…いつだって表面上はこうなのだ。
唯『そして、次は、春原くんの親友でもある、朋也!』
春原を照らしていた光が俺に移る。
やっぱりというか…二人組と告げていた時点で来るとは思っていたが…
注目を浴びるのは、なかなかに恥ずかしいものがあった。
こんな大勢の注目を浴びる中で演奏できるあいつらはすごいと、肌で感じる。
唯『朋也は、春原くんと一緒になって私たちのティータイムを盛り上げてくれます』
唯『見た目はすごくクールだけど、ほんとはすごくおもしろくて優しいんですよ』
「マジかよ…岡崎がか」
「信じらんねー。俺あいつに絡まれたことあるぜ」
「こえぇよなー、基本」
「でも最近変わった感じするぞー」
「確かになー」
意見は二つに割れていたが、悪評の方が優勢だった。
今までの行動を振り返ってみれば、それも仕方のないことだったが。
甘んじて受け入れよう。
唯『そして…私は、そんな朋也を好きになって…朋也も私のことを好きだって言ってくれて…』
朋也(ぐぁ…)
なんて恥ずかしいことをこんな公衆の面前で…
みろ、あんなにざわめいていた会場が水を打ったように静まってるじゃないか…
「てめぇーーっ、岡崎ぃっ!」
「ざっけんなよっ! 下の名前で呼んでもらってたのはそういうことか、こらっ!」
「岡崎くーん、マジ話なの? ちょっといいと思ってたのにぃ」
「ぶっ殺す!! 俺の唯ちゃんをよくも!!」
「小僧! 調子に乗るんじゃねぇぞーっ!
ああ…俺はここから生きて帰れるんだろうか…
敵を大勢作ってしまったような気がする…。
梓『唯先輩、ノロケをMCに乗せないでくださいっ』
唯『えへへ、ごめんごめん…というわけで、次の曲ですっ』
澪『おい、自分の紹介してないぞ』
唯『うわぁ、そうだった、えへへ…』
紬『最後にギターの唯ちゃんです』
律『唯は見た目のまんまで、のんびりしててすっとぼけてるけど…』
紬『いつも全力で、一生懸命で…』
一言ずつ回していく。
澪『周りのみんなにもエネルギーをくれて…』
梓『とっても頼れる先輩です』
「唯ーっ」
「唯ちゃーんっ」
「岡崎の彼女ーっ」
野次が飛ぶ。
唯『おおっ…どうした、なにがあった?』
壇上では、唯が一人ずつメンバー全員に向き直っていた。
律『ほれ、早く次いけよ』
憂「おねえちゃーんっ!」
席を立ち、ぶんぶんと手を振る憂ちゃんの姿が客席の中に見えた。
唯も同じように返す。
秋生「唯ー、俺はここだっ!」
早苗「唯ちゃんっ、ずっと見てましたよっ」
渚「唯ちゃん、私もいますっ」
最前列で古川家の人々が総スタンディングしていた。
唯『ありがとー、でも、すごく近いところにいるから、いるのはわかってたよぅ』
秋生「足元ばっかりみてると足すくわれるぞ、てめぇーっ!」
唯『それは逆にありえないんじゃないかな…』
「唯ーっ」
「放課後ティータイムーっ」
「放課後ーっ」
「ティータイムも言ってあげてよー」
唯『あはは…みんなありがとう。それでは次の曲にいってみたいと思います』
唯『U&I!』
唯『キミがいないと 何も できないよ キミのごはんが 食べたいよ…』
そこに唯の歌声が乗った。
唯『もし キミが 帰ってきたら とびきりの笑顔で 抱きつくよ…』
みんな静かに聴いている。
今までのアップテンポな曲と比べ、わりとおとなしめなメロディだったからだろう。
唯『晴れの日にも 雨の日も キミはそばに いてくれた…』
サビの部分に差し掛かると、観客席からライトが振られだした。
が、よくみるとそれは携帯のディスプレイが放つ光だった。
よく考えついたものだと、感心してしまう。
唯『目を閉じれば キミの笑顔 輝いてる…』
―――――――――――――――――――――
唯『…ふぅ』
曲が終わる。
「放課後ティータイムーっ」
「よかったよーっ」
「CD出してくれーっ」
唯『ありがとうー。それでは、次が最後の曲です』
「えーやだー」
「もっとやってー」
「延長ーっ!」
唯『もっと演奏していたいんだけど、時間が来ちゃいました』
「放課後ーっ」
「放課後ぉーーっ!」
「放課後に時間制限はなーいっ」
「おまえの持論はいいんだよっ」
唯『あははっ』
唯をはじめとして、軽音部メンバーの中に笑いが起こる。
唯『今日は、ありがとうございました』
唯『山中先生ー、Tシャツありがとーっ』
さわ子「ふふ」
唯『和ちゃん、いつもありがとうー』
ステージの袖を見て言う。
きっとそこには真鍋がいて、微笑んでいることだろう。
唯『憂、純ちゃん、ありがとうっ』
唯『朋也も、春原くんも、いろいろと手伝ってくれてありがとうっ』
春原「はは、ま、悪くないね、こういうのも」
朋也「だな」
唯『アッキー、早苗さん、渚ちゃん、昔からいつもありがとうっ』
秋生「これからも世話してやるぞっ! なんかあった時はすぐに駆けつけてやるっ!」
秋生「俺たちは家族だ、助けあっていくぞっ」
唯『ありがとう。そうだよね、もう、町も人も、みんな家族だよね。だんご大家族だよっ』
秋生「この町と、住人に幸あれっ」
オッサンが珍しくまともなセリフを吐いていた。
大げさな物言いだったが、あの人の口から聞くとなぜだかすんなり頷けた。
唯『クラスのみんなもありがとうっ』
「唯ーっ!」
「最高ーっ!」
唯『トンちゃんありがとーっ、部室ありがとーっ、ギー太ありがとーっ』
唯『みんなみんな本当にありがとーっ!!』
唯『放課後ティータイムは…いつまでも…いつまでも…』
唯『放課後ですっ!!』
ずるぅ!
律『は?』
梓『え?』
最後の最後で意味不明なオチが待っていた。さすが唯だ。
朋也(俺はその彼氏だぜ、すげぇだろ)
俺は迷わず拍手する。
すると、つられてか、静まり返った館内にパチパチとまばらな拍手が起きていた。
唯『それでは最後の曲、聴いてください。時を刻む唄!』
演奏が始まり、キーボードの高い音が奏でられる。綺麗な旋律だった。
メインボーカルは秋山だった。今まではサブだったが、最後はメインで歌っている。
澪『僕ひとりがここで優しい 温かさを思い返してる…』
館内すべての人間がその曲に聴き入っていた。
茶化すような奴もいなければ、大げさに騒ぐような奴もいない。
そう、余計に動くことがためらわれるほどに集中していたのだ。
澪『きみだけを きみだけを 好きでいたよ 風で目が滲んで 遠くなるよ…』
唯『いつまでも 覚えてる なにもかも変わっても ひとつだけ ひとつだけ ありふれたものだけど…』
唯『見せてやる 輝きに満ちたそのひとつだけ いつまでもいつまでも守っていく』
音が鳴り止む。
それは同時にライブの終了を意味していた。
すると、堰を切ったかのようにそこかしこで溢れ出す、咆哮に近い大歓声。
放課後ティータイム最後のステージは、多くの人間に讃えられながら、ゆっくりとその幕を閉じていった。
―――――――――――――――――――――
唯「大成功…だよね」
西日差し込む部室の壁際に、背を預けて座り込む部員一同。
ずっと放心状態にあったと思ったら、おもむろに唯が口を開いた。
澪「なんか…あっという間だったけどな」
律「ていうか、Tシャツのサプライズでいきななり吹っ飛んだ」
梓「私もです。もうなにがなんだか…」
唯「…でも、すっごく楽しかったよねっ」
澪「今までで最高のライブだったな」
そう言ってのける秋山の声は、少し枯れていた。
それだけ出し尽くしたということなんだろう。
律「みんなの演奏もばっちり合ってたし」
唯「合ってた合ってたぁっ…」
律「ギー太も喜んでるんじゃないか?」
唯「うんっ! エリザベスもねっ」
澪「エリザベスぅ?」
ベースに頬をすりよせる。今だけは飾らずに、心の赴くままだった。
梓「私のムッタンだってっ」
中野も同じく壁をとっぱらっていた。
律「おお、梓のギターはムッタンっていうのか」
紬「ふふふ、可愛い」
唯「ねぇねぇ、この後なにする?」
梓「とりあえずケーキが食べたいですっ」
律「おー、部費ならあるぞぉ」
紬「だめよぉ、私持ってきてるもんっ。まだストックがあるものっ」
唯「やったぁ、じゃあそれ食べてから次のこと考えようっ」
澪「次は…クリスマスパーティーだよな」
紬「その次はお正月ねっ」
梓「初詣に行きましょうっ」
澪「それから、次の新勧ライブかぁ」
朋也「………」
春原「………」
俺も、そしてきっと春原も、その会話のおかしさに気づいていた。
律「まぁた学校に泊り込んじゃおっかぁ?」
梓「いいですね、それっ」
律「夏になってもクーラーあるしぃ」
紬「合宿もあるしっ」
唯「楽しみだねぇ。その次はぁ…」
梓「えーっと、その次はですねー…」
律「って、次はないない」
そう…ないのだ。
このメンバーでいた軽音部の活動は、今日この日を以って終わってしまった。
そんなこと、当の本人たちが一番よくわかっているはずだった。
だから、少しでも引き伸ばそうとしたかったのだろう。その時が来てしまう瞬間を。
けど、そんな言葉だけのその場しのぎでは、何も変わらない。
だからこそ、部長が代表して、つかの間の夢を終わらせたのだ。
それは心苦しい役回りだったろう。その目には、はっきりと涙を浮かべていたのだから。
唯「来年の文化祭は、もっともっと上手くなってるよ…」
唯も大粒の涙をこぼしながら、震える声で言った。
律「おまえ留年する気か? 高校でやる文化祭はもうないのっ」
唯「そっかぁ…それは残念だねぇ…」
秋山は膝を抱えてひたすら泣いていた。
紬「やだやだぁっ!」
子供のように足をばたつかせ、駄々をこねる琴吹。
こんな琴吹の姿は見たことがなかった。
梓「ムギ先輩、わがまま言わないで…」
梓「唯先輩も、子供みたいに泣かないでください」
唯「これは汗だよ…」
ぼろぼろとこぼれる涙。頬を伝い、しずくとなって下に落ちていた。
唯「ぐす…っうぅう…っぇん…」
律「みーおー。リコピ?ン」
澪「うっ…ふふっ…」
顔を上げる。
澪「律だって泣いてるくせに」
律「私のも汗だっ」
澪「ふふっ…あははっ」
梓「ほら、ムギ先輩も」
ハンカチを持って、泣き濡れた顔の琴吹に言う。
紬「梓ちゃん…ぐす…」
梓「はい」
紬「梓ちゃん…ぅぅ…あいがとぅ…」
梓「はい」
その顔をハンカチで丁寧に拭う。
梓「ムギ先輩、大丈夫ですから、落ち着いて」
紬「うう…ぐす…」
澪「よかったよなっ…本当によかったよなっ」
秋山がメンバーを正面から見据え、そう声をかけた。
紬「うんっ、とってもよかったっ」
中野に綺麗にしてもらった顔を、また涙で湿らせて、大きく答えていた。
澪「岡崎くんも、春原くんも、そう思ってくれるよねっ」
春原「マジですげぇよかったよ。ボンバヘッよりも上回ってるかもしれないね」
それはこいつの中では最大級の評価だったろう。
梓「みなさんと演奏できて、幸せです」
唯「うう、ぐす…みんなぁーっ!」
ばっと手を広げる。その胸に部長と琴吹が飛び込んだ。
愛しそうに頬を寄せ合っている。
そして、中野と秋山もその輪に加わった。
律「あ、ちょ、待てよ唯、鼻水が…」
唯「ムギちゃーんっ」
澪「あはは、鼻水…」
梓「汚いですよ…」
いつまでもいつまでも、誰も離れることはなかった。
―――――――――――――――――――――
がちゃり
さわ子「みんな、お疲れ様ーっ!」
和「お疲れ様」
その後ろには、真鍋。
朋也「あ、さわ子さん。静かに頼むよ」
さわ子「なんでよ?」
朋也「ほら、そこ」
さわ子「あら…」
軽音部の部員たち。今は泣き疲れて眠ってしまっていた。
壁に背を預けたまま、すやすやと寝息を立てている。
春原「そいつら、号泣してたんだよ、さっきまでね。いや、青春だね、ははっ」
春原「な、なってないよっ、僕がもらい泣きなんてあるわけなじゃん」
とはいうものの、俺は見ていた。こいつがひそかに目を拭っていたところを。
まぁ、言及したところで、素直に認めるわけもないが。
和「…幸せそうな顔」
真鍋が部員たちの寝顔を見て、感想を漏らす。
朋也「だよな」
本当に、その表情は幸福の中にあって…温もりを感じさせる輪を形成していた。
ずっと、みんなで手をつないだまま。
―――――――――――――――――――――
あのライブですっきり引退したにも関わらず、だ。
中野は、受験勉強はいいのかと、口をすっぱくして言っていたのだが…
どこか俺たちの訪問を喜んでいる節があった。
楽しかった日常が、まだ続いていくことが嬉しかったのだろう。
それに、唯たちがいなくなれば、残された部員は中野のみになってしまう。
その寂しさもあったんじゃないかと思う。
そんな中野の心情を汲み取ってか、唯たちは足しげく部室に通い続けていた。
―――――――――――――――――――――
10月の末、俺は18歳の誕生日を迎えた。
その日は唯と二人で久しぶりにデートに出かけた。
そして、その最後には、平沢家で憂ちゃんが用意してくれた料理を三人で囲み、祝福してもらった。
プレゼントには、手作りのだんご大家族のぬいぐるみをもらった。
単純な作りだったので量産できたらしく、ふくろいっぱいに詰めて持ち帰った。
唯の誕生日には、俺も何か用意しておこう。
11月の27日らしいので、すぐにその日はやってくる。
金はなかったから、なにか俺も手作りの品を渡すしかなさそうだ。
なにがいいだろう…。
俺はそんなことばかり考えていた。
もうすぐ訪れるであろう別れの予感を胸の奥底に押し込めて。
―――――――――――――――――――――
そして…唯の誕生日も過ぎていき、本格的な冬が来た。
誰もが緊張した面持ちで自分の将来を占っている。
当然、軽音部の面々も、そうなるかと思っていたのだが…
相も変わらず部室に顔を出し続け、いつも通りティータイムに興じていた。
といっても、ただだらけているわけじゃない。受験勉強の場を部室に移したのだ
この際、なんでもいい。この期に及んで、らしくいられるこいつらが、俺には頼もしく見えていた。
それは、俺自身の進路が不安定なまま、ひとつ場所に定まっていなかったからかもしれない。
目標もなく、目的もなく…ただ惰性で生きてきたような奴の末路なんていうのは、こんなものだ。
だからこそ、いつだって変わらない、普遍的な存在が、心のより所となりえるのだろう。
―――――――――――――――――――――
朋也「わははははっ!」
春原「笑うなっ」
朋也「誰だよ、おまえはよっ」
春原「自分で鏡を見たって違和感バリバリだよ」
春原「でも仕方ないだろ…就職難だって言うしさ」
朋也「おまえの田舎じゃ、関係ないんじゃないの?」
春原「どんな田舎を想像してくれてるんだよ…」
朋也「孤島」
春原「本州だよっ!」
春原「…というわけで、しばらくいなくなるな」
コートに身を包んだ春原が立ち上がる。
春原「悪戯だけはすんなよ」
春原は今日から、田舎に帰る。
就職活動だった。そのために髪を黒く染め直していたのだ。
進学しないのであれば地元に帰って就職する…それは親との約束だったらしい。
そんなことを言い出された日、俺は現実を突きつけられた気がして、ショックだったのを覚えている。
そう…もう、馬鹿をしていられる時間は終わったのだ。
俺よか、春原はよっぽど切り替えが早くて…
俺は置いてきぼりだった。
今も、そう。
残り火に当たるようにして、じっとコタツに張りついていた。
春原「決まり次第戻ってくるけどさ…」
春原「そん時はもう、卒業間際かな」
春原「まぁ、おまえも就職活動で忙しくなるのは一緒だからな…」
春原「きっと、あっという間だぞ」
春原「じゃあな、健闘を祈る」
春原が部屋を出ていく。
俺はぼーっとその背中を見送った。
何かしなければならないんだろうな…。
そんなことを考えながら。
翌日から俺は、就職部に通い始めた。
こんなところに世話になる生徒は他にいないのか、担当の教師以外に人はいなかった。
―――――――――――――――――――――
教師「進学校であることのほうがネックになることがあるよ」
その老いた教師は言った。
教師「進学校の落ちこぼれよりも、レベルが低い学校で頑張っている人間の方が好まれる」
教師「単純にそれは内申で判断される。人間性の問題だからね」
教師「君はそこんところは自覚しておいた方がいいよ」
教師「ショックを受けないように」
教師「でも、ま、諦めることはない」
教師「そのうち、納得のいく仕事も見つかるよ」
朋也(春原も同じ苦労してんのかな…)
朋也(でも、あいつのことだからな…)
朋也(俺なんかより自分の立場を把握してんだろうな…)
朋也(よっぽど俺のほうが子供だ…)
冬休みに入り、俺は本当にひとりだった。
唯は勉強で忙しく、ふたりで居たいなんて、とてもじゃないが言い出せなかった。
クリスマスさえ、一緒に出かけることはなかったのだ。
俺は無意味に春原の部屋で過ごしていた。
自宅よりか、落ち着く場所だった。
朋也(ずっと、ここに居たな、俺…)
無駄にだらだらと過ごした三年間。
今はまだ、三年前と同じ場所に居る。
けど、もう俺たちは…
ブレーキが壊れた自転車のように、走り続けていくんだろう。
そんな気がしていた。
上を目指すわけでもなく、現状維持が精一杯でも…
それでも、がむしゃらにやらないと、負けてしまいそうな日々。
何かに追われるようにして、走っていくのだろう。
この小さな町で。
そんな時間の中で、俺は何を見つけられるのだろう。
もう、それは見つけておかなくてはならなかったのではないか。
少しだけ、恐くなる。
これからの人生の中には、それはもう、見つけることができないのではないか…。
大切なものは、過去の時間に埋まったままで…二度と掘り出せないのではないか…。
もう、俺は…
このままなんじゃないのか。
焦燥感だけを覚える日々で…
あくせくと働く日々で…
…もう、俺は…
………。
しっかしうまくクラナドとけいおんの世界を繋げてるなぁ
就職活動を始めてはや幾日。
自分の力で探し当てた企業は、どれもこれも駄目だった。
どんなささやかな希望も叶わなかったのだ。
これからの人生を暗示しているようで、気が重くなる。
朋也「はぁ…」
そんなある日のこと。
失意に暮れながら、いつものように春原の部屋に足を運んでいると…
朋也「ん…」
視線を上げた先…高い位置に人が居るのを見つけた。
高い位置、というのは空中のことで、一瞬驚く。
が、よくみるとなんてことはなく、梯子に登った作業員だった。
そんなことさえ、時間差でしか気づけないほど俺は消耗しているのだろうか…。
ともかくも、どうやらその作業員は街灯を取り付けているようだった。
見覚えのある光景。
前に俺もその仕事を一日だけ手伝ったことがあった。
そして、あの日、俺は思い知ったはずだ。
いかに自分が、ぬくぬくと暮らしてきたかを。
そして、厳しい社会が待っていることを。
なのに俺は、その教訓を生かすことなく、延々と怠惰な日常を過ごしていた。
あの時…芳野祐介だって、自分とさほど歳の差が無い人で…そのことでもショックを受けたはずだ。
朋也(なのに、俺は…今まで何をやっていたんだ…)
歯がゆさとともに、いろんなことを思い出していた。
あの額ならば、自分の力で食っていける。もう、誰にも頼ることなく、自立できる。
俺は目を凝らし、作業員の顔を判別しようとした。
遠くてよくわからない。けど、背格好が似ている気がする。
別に違ったっていい。俺は焦燥に駆られて走り出していた。
―――――――――――――――――――――
作業員「…ふぅ」
作業員は地面に降り立ち、煙草をふかしていた。
納得がいくしごとができたのか、街頭を見上げて、何度か頷いている。
朋也「芳野…さんっ」
その名を呼んだ。
芳野「あん?」
顔がこちらに向く。芳野祐介…いや、芳野さんだった。
朋也「どうも」
芳野「………」
芳野「…ああ。よぅ」
少し考えた後、思い出したように、挨拶を返してくれた。
芳野「ええと…確かキャサリン…いや、山中の教え子だったよな」
芳野「ああ、そうだったな」
芳野「で、どうした。また暇なのか」
朋也「俺を雇ってくださいっ」
そう頭を下げていた。
芳野「え、マジか…」
朋也「ええ、本気です」
芳野「それは助かるがな…。こっちはいつだって人手不足だからな」
芳野「けど、おまえまだ学生だろ。歳はいくつだ」
朋也「18です」
芳野「なら、三年じゃないか。おまえ、坂の上の進学校に通ってるんだろ? 受験はいいのか」
朋也「いえ、俺、完全に落ちこぼれちゃってて、進学とかは無理なんです」
朋也「だから、今は就職活動中なんですよ」
芳野「そうなのか…。まぁ、それならそれで構わないが…」
芳野「おまえも知ってるように、きつい仕事だ」
芳野「春頃のおまえは、一本立てるだけでへたれてたよな」
朋也「それは…慣れれば大丈夫だと思います」
食い下がる。ここで引くわけにはいかない。
芳野「………」
朋也「頑張ります」
芳野「そうか…」
芳野「OK。雇おう」
よかった…やっと先の見通しが立った…。
芳野「ただし、卒業してからだ。中退したりせずに、ちゃんと卒業だけはしろ」
朋也「あ、はい、それはもちろんです」
芳野「それと、おまえのとこの学校、今冬休み中だろ?」
朋也「はい、そうです」
芳野「だったら、休み一杯はまずバイトとしてフルで働いてもらうが、いいか」
朋也「はい、任せてください」
朋也「いえ、すみません、持ってないです」
芳野「そうか。なら、自宅の番号を教えてくれ。追って詳細を連絡する」
言って、メモ帳とペンを取り出した。
朋也「わかりました。えっと…」
電話番号を伝え、一礼してその場は無事取りまとまった。
―――――――――――――――――――――
そして、バイトとして働き始めた初日のこと。
俺は疲れ果て、ぼろぼろの状態で凱旋していた。
朋也(ふぅ…)
部屋に戻り、ベッドに身を沈める。
朋也「…あー…疲れた」
思わず独り言が出てしまう。
朋也「痛…」
ちょっと動くと筋肉痛が襲ってきた。
朋也(風呂でよく揉んだのにな…)
少し心が折れそうになる。
朋也(いや…やらなきゃだな…これは全部、今までのツケだ)
そう思い、心を奮い立たせる。
朋也(あー、にしても…唯に会いたい)
弱った時には、あいつの笑顔で支えてほしかった。
朋也(そうだ、明日は午前だけだって言うし…午後から会いに行こう)
朋也(よし…決めた)
多少心に豊かさが戻り、眠りにも割とすんなりつけた。
―――――――――――――――――――――
最初の内はキツかったが、一週間もすれば体が慣れていった。
まだまだバイトの仕事量だったので、なんともいえないかもしれないが…
それでも、この調子なら、なんとかこなしていけそうな気がしていた。
―――――――――――――――――――――
教師「そうか、よかったな」
老教師は、そう俺を労った。
俺よりも嬉しそうだった。
教師「見ていた生徒の進路が決まると安心するんだ」
教師「特にこんな学校だ。私が見る生徒は少ない」
教師「わが子のように、うれしく思うよ」
教師「………」
朋也「先生」
教師「うん?」
朋也「お世話になりました。本当に…俺なんかをみてくれて、ありがとうございました」
態度も出来も悪い俺を、根気よく励まし続けてくれたこの老教師。
俺はこの人に、幸村のジィさんやさわ子さんに近いものを感じていた。
だから、儀礼的なものでなく、腹のそこから礼の言葉を出すことができた。
教師「ああ、頑張りなさい」
朋也「はい。それでは」
深く礼をして、ストーブの匂いが篭った部屋を後にした。
―――――――――――――――――――――
さわ子「そ…あいつのとこで働くことになったのね」
朋也「ああ」
さわ子「じゃあ、一度挨拶に行っておかないとね。馬鹿なところもある子だけど、よろしくってね」
さわ子「それとも、あんたの武勇伝を語ってネガキャンしておこうかしら、おほほ」
朋也「さわ子さん」
さわ子「なに?」
朋也「ありがとな。三年間、いろいろ面倒見てくれて。感謝してるよ」
それは、軽音部と関わることになったきっかけを作ってくれたことも、もちろん含めてのことだった。
この人がいなければ、俺は今頃どうなっていたかわからない。
きっと、ロクでもない道を辿っていただろうと思う。
さわ子「………」
さわ子「馬鹿…教師なんだから、教え子が可愛いのは当然じゃない」
さわ子「とくに、馬鹿な子ほどかわいいっていうしね…」
さわ子「はぁ、まったく…」
メガネをはずし、天井を仰ぐ。そして、片手で両目を押さえた。
さわ子「こんなとこで泣かさないでよ…お化粧落ちちゃうじゃない…」
さわ子「そこまでひどくないわよ…ほんと馬鹿ね。いいから、とっとと行きなさい」
さわ子「あの子たちにも、報告しにいくんでしょ」
朋也「ああ、そうだな。そうさせてもらうよ」
朋也「それじゃあ、失礼します」
丁寧に告げて、職員室を出た。
―――――――――――――――――――――
澪「え…芳野さんのところで?」
朋也「ああ」
次に訪れたのは、軽音部部室。
中野以外は、全員過去問を開き、その解説を見ていた。
時間を計り、一度本番形式で解いたのだという。
今は茶を飲みながら、答え合わせと、誤答した箇所のチェックをしていたらしい。
澪「へぇ…すごいなぁ、芳野さんと一緒に働けるなんて」
朋也「いや、確かに芳野さんはすごい人だろうけど、俺は別に大したことしてないぞ」
梓「そんなことわかってるに決まってるじゃないですか。社交辞令ですよ、社交辞令」
朋也「俺だってわかってるよ。ただ謙遜して合わせただけだ」
梓「澪先輩、この人に建前トークはしちゃだめですよ。すぐ真に受けるんですから」
澪「だから、私は本心を言ったまでだってっ」
律「ま、なんにせよ、おめでとさん」
紬「おめでとう、岡崎くん」
朋也「ああ、サンキュ」
唯「………」
律「どした、唯。なんか朝から元気ないけど…彼氏が内定出たんだぞ? 祝ってやれよ」
唯には前から知らせてあったので、今さらな話だったのだが…確かに、朝からどこか浮かない顔をしていた。
受験を目前にしてナーバスになっているのかと思ったので、そっとしておいたのだが…
励ましてあげた方がよかったんだろうか。
けど、受験もしない俺がどんな言葉をかけたとしても、すべて嘘臭くなってしまいそうでもある。
難しいところだ…
唯「うん…なんかね、卒業したらみんなバラバラになっちゃうんだなーって思ったら、ちょっとね…」
と、思いきや、予想外の答えが返ってきた。
唯は別に、自分の身を案じていたわけではなかったのだ。
ただ、離れ離れになっていくことを寂しく思っていただけで。
それも、こんな、受験生なら誰もが自らの前途に不安を抱く時期に、俺たちのことを想って。
唯の繊細な部分に気づいてあげられなかった…反省。
この前まで俺は、遠く不確かな未来に怯えて立ちすくんでいたので、てっきり唯もそうだと思い込んでしまっていたのだ。
彼氏として…というか、人としてまだまだ未熟なんだろう、俺は。
律「ああ…そういうこと。ま、そうだな…」
律「岡崎はこの町で就職、春原は地元に帰るし、梓は現役女子高生続行で、さわちゃんはここで教師続けるってな」
朋也「でも、おまえらは同じ大学受けるじゃないか」
それも、東京の有名私立大学だ。
そこは、昔の偉人が創設した名門校で、俺でさえ前からその名を知っていた。
さすがに学部学科まで同じところを受けるというわけではなかったが…
キャンパスは共有しているのだから、今と変わらない関係が続けられるはずだ。
律「受かるかどうかわかんねーじゃん」
朋也「腐っても進学校だろ。おまえらは一般入試組だし、十分圏内じゃないのか」
澪「岡崎くん、それはね、普段まじめにやってる人たちの話だよ」
澪「だから、律と唯はけっこう…アレなんだ」
律「アレってなんだよ、はっきり言えーっ!」
澪「アホ」
唯「えぇーっ!?」
律「んな直球で言うなぁ! もっと婉曲表現とか擬人法とか使えっ!」
唯「澪ちゃん、木に『落ちる』とか『滑る』とか、タブーを喋らせちゃだめぇっ」
澪「だって、律がそう言えって…」
律「言ってなーいっ!」
紬「くすくす…」
一転して、明るくなる空気。
やっぱりこいつらはこうでなければ。
律「澪、おまえ、なんか最近毒吐くけど、ストレス溜まってんのかぁ?」
澪「それなりにな」
紬「じゃあ、リラックスできるように、お線香を持ってこようかしら」
律「せ、線香?」
唯「あ、いいねっ、線香! 落ち着くよねっ」
紬「でしょ?」
律「い、いや、でも、それはちょっとな…」
澪「う、うん、遠慮しておきたいな…」
紬「そう? 残念…」
律「春原の馬鹿にブービートラップ仕掛けてさ、ケツに引火! とかやったりな、くひひ」
朋也「でもあいつ、帰ってくるのは卒業間際だって言ってたぞ」
朋也「だから、自由登校になった後だし、学校出てくるかもわかんないけどな」
律「マジかよ…くそぉ、つまんねーの…せっかくまた、頭まっキンキンに染め直してやろうと思ってたのに…」
律「早く帰ってこいっつーの、馬鹿原…」
唯「あれあれ? 春原くんが恋しいの?」
律「ばっ、んなわけねーってっ!」
紬「うふふ、1/3の純情な感情ね、りっちゃん」
律「む、ムギまで…うぅ…べ、勉強するぞ、勉強! おまえら、しっかりしろーっ!」
澪「あ、無理やり話題変えた」
律「ちがーうっ! 勉強に目覚めたんだよ、今っ! 覚醒したのっ!」
梓「危ない粉でも隠し持ってたんですか?」
律「中野ーっ!」
―――――――――――――――――――――
生活必需品と衣類、学校関連の教材などをまとめ、スポーツバッグに詰め終わる。
長年暮らしてきた、この家…実家を出るための荷造りだった。
俺は芳野さん経由で、個人家主の物件を紹介してもらっていたのだ。
普通なら、現高校生の段階で審査が通るはずもないのだが…
そこは個人家主のメリットで、大家さんに融通してもらえていた。
敷金、礼金は、冬休み中の貯えがあったので、楽に払えた。
当面の生活費は、今も放課になるとたびたび仕事に呼び出されていたため、その給与で卒業までは賄える見込みがあった。
抜け目のない布陣に見えるが…ひとつ問題があった。
アパートに移ってしまうと、朝、平沢姉妹と一緒に登校できなくなってしまうのだ。
といっても、2月になれば自由登校になり、学校に行く必要もなくなるのだが。
授業日数も残り僅かだったので、いい頃合だと思い、転居が決まる前、唯には話をしておいた。
すると、卒業まではこの家にいて欲しいと請われた。けど、俺が首を縦に振ることはなかった。
確かに、ここにいれば唯と一緒に居られる時間が増える。とくに一月中は。
でも、2月、授業がなくなって自習するだけの状態になると、話が変わってくる。
唯が登校するのは、部室で勉強するためだ。俺には唯と一緒に居たいという動機しかない。
だが俺が部室に居ても、なんの役にも立てないどころか、気を散らせてしまうばかりだ。
それに、ただ黙って勉強を眺めているだけというのも、かなり味気ない。ナンセンスだ。
そういう事情もあり、距離というどうしようもない理由を作って茶を濁すつもりだった。
いや…それも綺麗ごとか。一番の理由は…やっぱり、親父と離れたかったからに他ならないのだから。
朋也(いくか…)
パンパンに膨らんだバッグを三つ肩に掛け、下の階に降りた。
―――――――――――――――――――――
いつものように親父は居間で転がっていた。
小さく上下する肩に触れる。
親父「ん…」
寝言か何かよくわからなかったが、親父が小さくうめいた。
朋也「俺、家を出るから…」
それを一方的に目覚めたと判断して、俺は話を始めた。
朋也「ひとりで元気にやってくれよ…」
それだけを伝えて、俺は親父のそばから離れる。
そして、玄関へ…
ぎっと背後で床がきしむ音がした。
振り返らざるをえない俺。
朋也「おはよう」
平成を装う。
親父「朋也くん…どこかへいくのかい」
朋也「アパートだよ。就職の見込みがあるから、保護者印なしで貸してくれるとこがあったんだ」
親父「就職、決まったのかい?」
朋也「ああ」
親父「朋也くんは… いい話し相手だったからね」
走って逃げ出したかった。
朋也「こっちにも都合があるんだよ。わかってくれ…」
押し殺した声でそう言う。
最後は…最後まで平静でいよう…。
親父「そうだね…」
朋也「じゃあ、いくから」
俺は背中を向ける。
―――――――――――――――――――――
いつも帰る場所だった家。
今だけは、違う。
どれだけ時間がかかるかわからなかったけど…
いつかは戻ってこれる日がくるのだろうか。
朋也(こんなにも、後ろ向きな俺が…)
朋也(逃げ出しただけじゃないかっ…)
だから最後にこう告げた。
俺は歩き出した。
―――――――――――――――――――――
一月も終わろうかというその日。
放課後になると、俺はいつものようにすぐ下校していた。
最後に部室へ顔を出したのは、就職報告へ行った時だ。
あれ以来俺は直帰するようになっていた。
―――――――――――――――――――――
朋也「あ…」
外に出ると、雪が降っていた。
珍しいものだと思った。
こらから本降りになるのだろうか。
明日の朝には積もっているだろうか。
これからはどうしようか。
今日は仕事が入っていない。
春原もまだ戻ってきていない。
早く帰って来てくれればいいのに…。
最後の時間はどう過ごそうか…。
就職が決まってしまったふたりでも…馬鹿できるだろうか…。
できるだろう…俺たちは本当に馬鹿だったから。
―――――――――――――――――――――
いろんなことを考えながら、俺は門を抜け、坂を下る。
コメント
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朋也「軽音部? うんたん?」【7】 – 2ちゃんねるSS図書館
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