










春。始まりの季節。
春休みが明けた、その初日。
体に気だるさの残るまま、通いなれた道を進む。
辺りは閑散としていた。
時刻はもう、正午に差し掛かっている。
つまりは、遅刻。
三年に進級しようが、俺の生活態度が改善されることはなかった。
深夜に帰宅し、明け方に眠る。
そうすると、起きるのは昼近くになってくる。
高校に入ってからの俺は、ずっとそんな生活を続けていた。
それも、父親を避けて、なるべく接点を持たないようにするためだ。
親父とは、昔から折り合いが悪かった。
小さい頃、俺の母親が交通事故で亡くなってしまったショックからなのか知らないが…
親父は、日々を酒や賭け事に費やすようになっていった。
そんな風だから、家ではいつも言い争いが絶えなかった。
だが、今ではその関係も変わってしまった。
親父が俺に暴力を振るい、怪我を負わせたことをきっかけに、急に他人行儀を感じさせるようになったのだ。
俺の名前を呼び捨てではなく、『朋也くん』とくん付けで呼ぶようになり…
まるで旧友であるかのように、世間話まで始めるようになった。
それは、俺に怪我を負わせたことへの罪悪感から、俺と向き合うことを拒否した結果なのか…
どういうつもりかわからなかったが、もう、親子じゃなかった。ただの他人だ。
息子に向けるそれでない態度を取る親父をみると、胸が痛くなって、いたたまれなくなって…
俺は家を飛び出すのだ。
だから俺は、顔を合わせないよう、親父の寝入る深夜になるまで家に帰らないようにしていた。
朋也「ふぅ…」
一度立ち止まり、空を仰ぐ。
山を迂回しての登校。
すべての山を切り開けば、どれだけ楽に登校できるだろうか。
直線距離をとれば20分くらいは短縮できそうだった。
朋也(一日、20分…)
朋也(すると、一年でどれぐらい、俺は時間を得することになるんだ…)
計算しながら、歩く。
朋也(ああ、よくわかんねぇ…)
―――――――――――――――――――――
この時間、周囲を見回してみても、制服を着て歩くのは、俺ぐらいのものだった。
だからだろう、通りかかる人はみな、俺に一瞥をくれていく。
そんな好奇の視線を浴びながらも、学校を目指す。
―――――――――――――――――――――
校門まで続く長い坂を登り終え、昇降口へ。
―――――――――――――――――――――
始業式も終わり、生徒は教室へ戻っているはずだった。
その教室は、クラス替えが行われ、新しく割り振られたもの。
どこになったかは、ここに設置された掲示板で知ることができる。
俺は自分の名前を探した。
そして、しばらく目を通し、みつける。
朋也(ん…あいつも同じクラスなのか)
同じクラス。そこに、見知った名をみつけた。
春原陽平。
こいつの遅刻率は俺より高い。
ふたり合わせて不良生徒と名指しされることも多かった。
だからだろう、よく気が合う。
朋也(いくか…)
俺は掲示板を離れ、自分のクラスへ向かった。
―――――――――――――――――――――
がらり。
戸を開ける。
すでにグループがいくつか出来上がり、各々が机を囲んで昼食を摂っていた。
三年ともなれば、部活や、同じクラスだった等、すでに顔見知りになっている割合が高い。
だから、最初からある程度空気が出来上がっていたとしても、別段不思議じゃなかった。
教室内を見渡してみる。そこに春原の姿があることを期待して。
だが、目に入ってくるのは、顔だけは知っているが、話したこともないような奴ばかり。
居れば、昼に誘おうと思ったのだが…。
諦めて、座席表で自分の席を確かめ、荷を降ろした。
そして、ひとり学食に向かう。
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声「こら、岡崎」
教室前の廊下までやって来たとき、声をかけられた。
さわ子「あんた、なにしょっぱなから遅刻してるのよ」
さわ子「もう3年なのよ? いい加減にしとかないと、卒業できなくなるわよ」
朋也「別に…いまさらだろ」
さわ子「別にじゃないでしょ」
さわ子「あんたと春原を3年に進級させるために、私と幸村先生がどれだけ苦労したか、ちょっとは考えなさい」
朋也「まぁ、一応感謝してるよ」
さわ子「なにが一応よ、まったく…」
さわ子「まぁいいわ。ほら、もう席に着きなさい」
そう言って戸を開け、俺を促す。
朋也「って、なんだよ、このクラスの担任なのか」
さわ子「そうよ。じゃなきゃ、あんたが今日遅刻したかどうかなんて断定できなでしょ」
―――――――――――――――――――――
さわ子「はい、それでは午前中に決まらなかった係を…」
クラス担任となったこの山中さわ子という教師は、去年の担任だった。
幸村は、一年の時の担任だ。
その縁で、ふたりにはなにかと世話を焼いてもらっている。
今まで無事進級してこれたのも、この人たちの計らいがあったからだった。
さわ子「えー、なかなかクラス委員長が決まりませんでしたね…」
委員長決めが難航しているようだった。
それもそうだろう。
なにかと面倒を押し付けられるような役を進んでやりたがる奴なんて、そういない。
さわ子「それじゃあ、立候補じゃなくて、推薦でいきましょうか」
こうなれば、もう決まったも同然だった。
大方、おとなしい奴が推され、抗うこともなく、そのまま決定するのだろう。
俺は頬杖をついて視線を下に落とした。
特に興味はなかったが、他にすることもなかったので、配布されたプリントを読んでやり過ごした。
―――――――――――――――――――――
さわ子「えー、もう時間がないので、配布係は…平沢さん」
女生徒「え!? わたし?」
少し大げさな反応に思える。
さわ子「と、岡崎くんでお願いね」
朋也「はぁ? なんでだよ…」
いきなりのことで面食らう。
俺の素行を知っていて、クラスの係に抜擢するその意図がわからない。
さわ子「岡崎くんは遅刻してきたから知らないでしょうけど、午前中のうちに決まってたの」
朋也「………」
さわ子「だから、お願いね」
ぎらり、と圧倒的目力でダメ押しされる。
拒否権はないようだった。
さわ子「係もすべて決まったので、今から席替えをします」
さわ子「一人ずつクジを引きにきてください。じゃあ、一番右の列から…」
―――――――――――――――――――――
すべての生徒がクジを引き終わり、移動が始まった。
俺も自分の席、一番後ろの窓際へ向かう。
女生徒「あ…」
向こうも同じように机を引いてきている。
このあたりの席にでもなったのだろうか。
女生徒「あ…えっと、岡崎くん…だよね? もしかしてここの席?」
机を定位置に定め、自分の隣を指さして言う。
そこはまさに、俺の目指した場所。
どうやらこいつと席を隣接することになるらしい。
朋也「ああ、そうだ」
机を移動させながら答える。
女生徒「そうなんだぁ。じゃ、隣同士だねっ」
朋也「ああ」
俺はそう無愛想に返し、席に着いた。
女生徒「…あ、あはは。えっと…」
女も着席した。笑顔が少し曇っている。
俺の非友好的な態度に戸惑っているのだろう。
女生徒「私、平沢唯っていうんだ。よろしくねっ」
気を取り直したようで、再び話しかけてきた。
なかなか気丈な奴だ。
が、俺はまたそっけなく返す。
これ以上会話するのも面倒だった。
もう話しかけるな、と暗に示したつもりだ。
唯「岡崎くん、自己紹介の時きてなかったよね。下の名前教えてよっ」
…伝わらなかったようだ。
朋也「…岡崎朋也だ」
かといって無視するのも気が引けたので、一応答えておく。
唯「へぇ?、朋也くんかぁ…ふぅ?ん、へぇ?」
うんうん、と頷いている。
これで満足してくれただろうか。
唯「いっしょに頑張ろうねっ、配布係」
ただ配布するだけなのに、どう頑張るというのだろう。
唯「無呼吸でぜんぶ配り終えることを目標にしようっ!」
意味がわからなかった。
朋也「ひとりで達成してくれ」
唯「えぇ?、ノリ悪いなぁ…」
俺は少し、先行きに不安を覚え始めていた。
―――――――――――――――――――――
………。
―――――――――――――――――――――
SHRが終わり、放課となった。
初日ということもあり、授業もなく、いつもより早い時間だ。
結局、今日一日、春原が姿を現すことはなかった。
サボリなのだろう。
唯「部っ活ぅ?部っ活ぅ?♪」
こいつは何かの部活動に入っているんだろうか。
隣でひとり浮かれていた。
俺はそんな平沢を尻目に、席を立った。
唯「あ、岡崎くん、帰るの? それとも部活?」
朋也「帰るんだよ」
唯「部活はなにかやってないの?」
かつてはバスケ部に所属していた。
だが、親父との喧嘩で怪我をしてから、退部してしまっていた。
唯「そうなんだ? じゃあさっ…」
なにか言い始めていたが、俺は構わず歩き出した。
唯「あ…」
背中から小さく声が聞こえた。
が、俺は気にも留めず、そのまま教室を出た。
―――――――――――――――――――――
帰宅してすぐ服を着替え、また家を出る。
―――――――――――――――――――――
向かう場所は、学校の坂下にある学生寮。
うちの学校は部活動にも力を入れているため、地方から入学してくる生徒も多い。
俺のように学生生活に夢も持たない人間とはまったく違う人種。
関わり合いになることもなかったが、そんな場所にあいつ…春原は住んでいるのだ。
春原は元サッカー部で、この学校にも、スポーツ推薦で入学してきた人間だ。
しかし一年生の時に他校の生徒と大喧嘩をやらかし停学処分を受け、レギュラーから外された。
そして新人戦が終わる頃には、あいつの居場所は部にはなかった。
退部するしかなかったのだ。
その後も別の下宿に移り住む金銭的余裕もなく、この体育会系の学生が集まる学生寮に身を置き続けているのだ。
―――――――――――――――――――――
がちゃり。
春原「うぉっ、いきなりなんだよっ」
春原はなぜか上半身裸で焦っていた。
朋也「なにって、俺だよ」
ずかずかと上がりこむ。
そして、もう春だというのに未だ設置されたままのコタツに潜りこんだ。
というか、このコタツは季節に関わらず一年中設置されているのだ。
春原「そういうことを言ってるんじゃないだろっ! ノックとかしろよっ」
朋也「中学生かよ。俺の足音で察知できるようになれ」
春原「できませんっ」
朋也「なんでもいいけど、服着ろって。ほら」
俺はその辺に散乱していた洗濯物のひとつを放った。
春原「つーか、おまえ、ちょっとは僕のプライバシーを…ってこれズボンじゃん」
朋也「おまえなら違和感ないよ」
春原「上下ズボンで違和感ないってどういう意味だよっ!」
朋也「いや、なんかおまえ、全体的に下半身っぽいしな…トータルでみて、オール下半身でもいいかなって」
春原「ったく…」
ため息混じりに自分で上着を探し始める。
朋也(ん…?)
今気づいたが、春原の前、テーブルの上に鏡が置かれていた。
朋也(ああ、なるほど…)
今、上半身裸だった謎が解けた。
こいつはおそらく、俺が来るまで自分の肉体美でも追及していたのだろう。
朋也(ナルシストな野郎だ)
そう結論づけ、雑誌を読み始めた。
―――――――――――――――――――――
春原「あーあ、明日からまた学校かぁ…ちっ、めんどくせぇな…」
朋也「明日からって…おまえ、今日からもう始まってるぞ」
春原「え? マジ?」
朋也「ああ」
春原「………」
この部屋だけ異空間にでも飲みこまれているのだろうか。
朋也「ちなみにクラス発表の掲示板におまえの名前はなかったぞ」
春原「えぇ? なんでよ?」
朋也「知らねぇよ。留年でもしたんじゃねぇの。ああ、除籍かも」
春原「あ…そ、そうかよ…」
春原「………」
春原「へっ、岡崎……僕、おまえと過ごしたこの二年間、楽しかったよ。達者でな…」
朋也「俺、明日カツ丼食いたいんだけど」
春原「唐突だな…こんな時だっていうのに、最後までおまえは…」
春原「まあ、いいよ、僕がおごってやるよ。ほら」
渋い顔で小銭を渡してくれる。
朋也「お、サンキュ。これからも昼代、よろしくな」
春原「はっ、なに言ってんだよ、これからはおまえ一人でやっていかなきゃならないんだぞ?」
朋也「そんな寂しいこというなよ。同じクラスになったんだしさ」
朋也「あったよ、お前の名前。俺と同じD組だ。んで、担任はさわ子さんな」
春原「おまえ…金、返せよっ!」
朋也「ちっ、しょうがねぇな…はぁ、ほらよ」
春原「なんで加害者のおまえが不満そうなんだよっ!」
春原「くそぅ…タチの悪い嘘つきやがって」
朋也「いや、でもさ、お前の名前のうしろに(故)って書き加えといたし、あながち嘘でもないぞ」
春原「勝手に殺すなっ!」
朋也「つじつま合わせなきゃだろ?」
春原「だろ? じゃねぇよっ! いらんことするなっ!」
―――――――――――――――――――――
朋也「ふぁ…」
時計の針はすでに深夜の2時を指していた。
テレビもないこの部屋で出来ることなんて、雑誌を読むか、話をするくらいの二択だったのだが…
この時間にもなれば、さすがにどちらも飽和状態を迎えてしまう。
帰るなら、ここいらが頃合だった。
俺は無言でコタツから出た。
春原「布団から出るのめんどうなんだよね」
朋也「ああ、わかった」
パチっ
がちゃり
俺は電気を消し、部屋を出た。
廊下には、『ドアもちゃんと閉めていきしょうねっ!』と春原の声が響き渡っていた。
―――――――――――――――――――――
今日も遅刻しての登校。ともかく、自分の席までやってくる。
唯「あ、おはよ?、岡崎くん」
朋也「………」
すると、平沢を囲むようにして3人の女生徒が集まっていた。
その内の一人は、図々しくも俺の席に座っている。
そして、全員が来訪した俺に注目していた。
なんとも居心地が悪い…。
唯「あ、ほらりっちゃん、どかないと岡崎くんが座れないよ」
女生徒「おっと、悪いね」
その女生徒と入れ替わりに着席する。
だというのに、まだ注視され続けていた。
息苦しくなって、俺は机に突っ伏した。
朋也(って、なんで俺が弱い立場なんだよ…)
朋也(くそ、なんか納得いかねぇぞ。睨み返してやろうか…)
唯「それでね…」
と、思ったが、すぐに平沢たちの声が聞こえてきた。
会話を再開したのだろう。
その気はなかったが、嫌でも耳に入ってくる。
朋也(こいつら、軽音部の奴らなのか)
朋也(まぁ、なんでもいいけど…)
―――――――――――――――――――――
………。
―――――――――――――――――――――
声「起立、礼」
生徒が号令をかける。
ありがとうございました、と一つ響いて授業が終わった。
ややあって、教師に質問をしにいく者や、談笑し始める者が現れ始めた。
朋也(ふぁ…あと一時間で昼か)
次の授業は英語。英作文だ。
担当教師の名前を見てみると、堅物で知られる奴のものだった。
授業を聞いていなかったりすると、その場で説教を始めるのだ。
その最後に、みんなの授業時間を使ったことを謝罪させられる。
俺みたいな奴にとっては、まさに天敵と言っていい存在だった。
朋也(たるいな…サボるか)
唯「ねぇねぇ、岡崎くん」
朋也「…なに」
唯「じゃんっ。これ、すごくない?」
平沢が俺に誇示してきたのは、シャーペンだった。
ノックする部分が、球体に目が入った謎の物体になっていた。
どこかで見たことがあるような気がするが…。
朋也「…別に」
唯「なんで!? これ、だんご大家族シャーペンだよ!? レア物だよ!?」
そうだ、思い出した。だんご大家族。
もうずいぶん前に流行ったアニメだか、歌だかのキャラクターだ。
朋也「なんか、汚ねぇよ」
唯「うぅ、ひどいっ! 昔から大切に使ってるだけだよっ」
唯「っていうか、私の愛するだんご大家族にそんな暴言吐くなんて…」
唯「もういいよっ。ふんっ」
朋也(なんなんだよ、こいつは…)
なんとなく気力がそがれ、サボる気も失せてしまった。
朋也(はぁ…聞いてるフリだけでもするか…)
こんな奴に影響を受けて気分を左右されるのは、少しシャクだったが…。
―――――――――――――――――――――
………。
―――――――――――――――――――――
授業が終わり、昼休みに入った。
唯「ねぇ、岡崎くん」
学食へ出向くため、席を立とうとした時、呼び止められた。
朋也「なんだよ」
唯「部活入ってないんだよね?」
朋也「昨日言わなかったか」
唯「だったね。じゃあさ、軽音部なんてどうかなっ? 入ってみない?」
朋也「はぁ? 俺、もう三年なんだけど」
朋也「入ってすぐ引退するんじゃ、意味ないだろ」
唯「う…あ…そうだったね…ごめん」
朋也「別に謝らなくてもいいけどさ…」
そんなにも新入部員が欲しいのだろうか。
学年も見境なく勧誘してしまうほどに。
―――――――――――――――――――――
春原「よぅ、今から昼?」
廊下に出ると、ちょうど登校してきた春原と顔を合わせた。
朋也「まぁな」
春原「どうせ学食だろ? 一緒に食おうぜ」
春原「鞄置いてくるから、ちょっと待っててよ」
俺の返事を聞かず、そう言うなりすぐさま教室に足を踏み入れる。
が、そこで動きを止めて振り返った。
春原「あのさ、おまえ、僕の席どこか知らない?」
こいつは先日サボったせいで、自分がどこの席かわからないのだ。
俺がいなければ、クラスさえわからなかっただろう。
朋也「あそこだよ。ほら、あの、気軽に土足で踏み荒らされてる机」
朋也「みんな避けずに上を通って行ってるな」
朋也「お、座ってたむろしてるやつまでいる。あ、ツバ吐いた」
春原「ったく…おまえに訊いた僕がアホだったよ…」
朋也「うん」
春原「いちいち肯定しなくていいです」
春原「で…担任、さわちゃんなんだよな?」
朋也「ああ、そうだよ」
春原「そっか。ま、さわちゃんなのはいいけど…今から職員室まで訊きにいくの、たるいなぁ…」
朋也「いや、座席表見ろよ。教卓の中に入ってるぞ」
春原「最初から言いましょうねっ!」
―――――――――――――――――――――
春原「でもさ…むぐ…担任がさわちゃんって、運いいよね、僕ら」
カレーを口に含ませたまま、もごもごと喋る。
朋也「かもな」
春原「僕、三年連続あの人だよ」
春原「おまえは二年からで、一年のときは幸村のジジィだったよな」
春原「僕らに甘いって点ではジジィでもよかったけど、やっぱさわちゃんでよかったよ」
春原「女教師のが目に優しいし、その上、なんだかんだいって、可愛いしね、あの人」
朋也「そうだな」
購入したうどん定食、そのメインである麺をすする。
朋也「でも、あの人よくわかんないとこあるからな」
春原「ああ、素を隠してるとことか?」
朋也「まぁ、それもあるけど、なんか俺クラスの係にされちまってたし」
春原「マジ? おまえが? ははっ、こりゃ荒れるぞ。学級崩壊するかもな」
朋也「ちなみにおまえもされてたぞ」
春原「マジで? なんの係?」
朋也「駆除係」
春原「なにそれ」
朋也「この学校って周りに自然が多いだろ?」
朋也「だからさ、時たま教室にゴキブリとか、ハチとかが襲撃してくるじゃん」
春原「へぇ、なるほど。そりゃ、おもしろそうだね」
真に受けてしまっていた。
春原「なら、有事に備えて、全盛期の動きを取り戻しとこうかな」
朋也「どうせたいしたことないだろ」
春原「ふん、あんまり僕を侮るなよ。壁走りとかできるんだぜ?」
ゴキブリのような男だった。
朋也「まぁ、おまえ一回スズメバチに刺されてリーチかかってるしな」
朋也「さわ子さんも、おまえを始末したくて選んだのかもな」
春原「そんな裏あるわけないだろっ! っていうか僕、スズメバチに刺された過去なんかねぇよっ」
春原「選ばれたのは、純粋に僕の戦闘力を見て、だろ?」
朋也「はいはい…」
―――――――――――――――――――――
………。
―――――――――――――――――――――
配布係は、この間に職員室まで配布物を取りに行くことになっていた。
唯「うぅ?、初仕事、緊張するね」
相変わらずこいつはよく話しかけてくる。
授業間休憩の時も、しょっちゅう話を振ってきた。
人と会話するのが好きなんだろうか…。
俺のような無愛想な男に好き好んで絡んでくるくらいだから、そうなのかもしれない。
ただ単に、席が隣同士だから、良好な関係を築いておきたいだけ、という線もあるが。
唯「岡崎くんは、緊張しないの?」
朋也「しようがないだろ」
唯「へぇ、すごいねっ。いい心臓持ってるよっ」
よくわからないが、褒められてしまった。
もしかすると…
こいつはただ単に思ったことを言っているだけで、他意はないのかもしれない。
―――――――――――――――――――――
各学年、クラス毎に設置されたボックスの中に配布物が入っている。
俺たちはD組のボックスを開けると、中にあったプリントを出し始めた。
唯「よいしょっと…」
なかなかに量が多い。
生徒に勉学を奨励するような新聞の記事やら、偉人の格言など、そんな類のものも混じっている。
進学するつもりもない俺にとっては、余計なお世話でしかなかったが。
唯「っわ、ととっ」
プリントを抱え、よろめく。
見ていて少し危なっかしい。
バランス感覚に乏しいやつなんだろうか。
朋也「おまえ、大丈夫なのか。少し俺が持つか?」
唯「ううん、大丈夫だよ。いこ?」
なんでもないふうに言って、職員室の出入り口に向かう。
俺もその背を追った。
その間も足元がおぼついていなかったが、かろうじてこけることはなかった。
何事もなく教室まで辿り着ければいいのだが…。
―――――――――――――――――――――
唯「ふぃ?、あとちょっとだね…」
俺に振り向きながら言う。
その時…
唯「わっ」
男子生徒1「痛っ…」
ばさっ、と平沢の抱えていたプリントが舞い落ちて、床に散らばった。
男子生徒1「…あ?、ごめん」
肩を軽く抑えている。
男子生徒2「うわ、おまえ最悪っ」
隣にいた男が意気揚々と囃し立てる。
男子生徒1「いや、おまえじゃん。俺の注意力をそらしたのが主な原因だから」
男子生徒2「はははっ、マジおまえ」
朋也「………」
なんとなく気に入らない奴らだった。
唯「私も、よく見てなかったから、ごめんなさ…」
唯「あ…」
その男たちは、平沢の言葉を聞くことなく、プリントを拾いもせずに立ち去ろうとしていた。
唯「あはは…ごめん、岡崎くん。先にいってて」
ひとり、散らばったプリントを集め始める平沢。
朋也「………」
朋也「おい、待てって」
男たちの背に怒気を含んだ声を浴びせる。
男子生徒1「………は?」
男子生徒2「………」
どちらも怪訝な顔で振り向いた。
朋也「おまえらも拾え」
言いながら、近寄っていく。
男子生徒1「いや…は?」
男子生徒2「…なにこいつ」
朋也「むかつくんだよ、おまえらはっ」
俺は平沢にぶつかった方の胸倉をつかんだ。
男子生徒1「っつ…は?」
男子生徒2「は? なにおまえ…なにしてんの? やめろって」
もう片方が引き離そうとしてくる。
平沢も俺の袖を引いて止めに入ってきた。
朋也「…ちっ」
掴んでいた手を離す。
男子生徒1「意味わかんね、バカだろ普通に」
男子生徒2「頭おかしいわ、もうだめだろあいつ」
罵りの言葉を吐きながら立ち去っていく。
俺はその後姿を睨み続けていた。
唯「ごめんね…岡崎くんにまで嫌な思いさせちゃって…」
袖を持ったまま、俺を見上げてそう謝った。
初めて見た、こいつの悲しそうな顔。
いくら俺の応答が悪くても、まったく見せなかったその表情。
巻き込んでしまったことが、そんなに辛いのだろうか。
そんなの、俺が勝手に首を突っ込んだだけなのに。
………。
朋也「…プリント拾って帰るぞ」
せめて今だけは助けになってやりたい。
そう思えた。
唯「あ…うん」
配布物も無事配り終え、SHRが終わった。
唯「岡崎くん」
直後、平沢に声をかけられる。
朋也「なんだよ」
唯「さっきはありがとね。私…ほんとはうれしかったよ」
唯「プリントも一緒に拾ってくれたしさ」
朋也「…そっかよ」
唯「あ、でも乱暴なのはだめだよ? 愛がないとね、愛が!」
唯「それじゃあねっ」
一方的にそれだけ言うと、うれしそうにぱたぱたと教室を出て行った。
朋也「………」
俺はなにをあんなに怒っていたんだろう。
俺だって、あいつらと大して変わらないだろうに。
無神経に振舞って、冷たく接して…
………。
それでも…平沢はずっと話しかけてくるんだよな…。
そして、最後には、俺に礼まで言っていた。
朋也(なんなんだろうな、あいつは…)
春原「岡崎、帰ろうぜ」
ぼんやり考えていると、春原が俺の席までやってきた。
朋也「ああ、そうだな」
さわ子「あ、ちょっと待って、そこのふたりっ」
小走りで俺たちのもとに駆け寄ってくる。
春原「なに? さわちゃん」
さわ子「話があるの。ちょっとついてきてくれる?」
春原「え、なに? 僕、告られるの? さわちゃんに?」
さわ子「そんなわけないでしょっ」
さわ子「というか、さわちゃんって呼ぶのはやめなさいって、いつも言ってるでしょ」
春原「じゃ、なんて呼べばいいの? さわ子・オブ・ジョイトイ?」
さわ子「なんでインリンから取るのよ…」
春原「M字開脚見たいなぁ、って…」
ぽか
春原「ってぇ…」
さわ子「変なこと言わないの。私のことは、普通に山中先生と呼ぶように」
春原は頭をさすりながら、はいはい、と生返事をしていた。
さわ子「さ、とにかくついてきて」
―――――――――――――――――――――
さわ子「あんた達ねぇ…」
俺たちは人気のない空き教室に連れてこられていたのだが…
さわ子「遅刻、サボリ…それも初日から連続で…」
さわ子「ほんとにもう、大概にしなさいよっ」
その途端、素に戻って荒い言葉遣いになるさわ子さん。
変わり身の早い人だった。
春原「んなに怒んなくてもいいじゃん。なんとかなるって」
さわ子「ならないわよ、バカ」
春原「え、もしかして…ヤバいの?」
さわ子「まぁ、けっこうね」
教師の中で味方といえるのは、さわ子さんと幸村ぐらいのものなのだから。
さわ子「助かるかもしれない方法がひとつだけあるわよ」
春原「校長でも校舎裏に呼び出すの?」
さわ子「あんたは私の話が終わるまでちょっと死んどきなさい」
春原「ちょっとひどくないっすか、それ?」
朋也「早く仮死れ」
春原「ああ、やっぱあんたが一番鬼だよ…」
朋也「で…方法って、なんだよ」
さわ子「一番いいのは生活態度をまともにすることだけど、あんた達には無理でしょうからね…」
さわ子「他の事で心証をよくするしかないわ。気休めかもしれないけど」
朋也「ボランティアしろとかいわないだろうな」
さわ子「まぁそれに近いわね」
春原「えぇぇ? やだよ、献血とかするんでしょ? 痛いじゃん」
さわ子「だから、あんたは少し黙ってなさいって」
朋也「そうだぞ。それに、おまえの血なんか輸血されたら、助かるはずの患者も即死するだろ」
春原「しねぇよっ! 毒みたくいうなっ!」
さわ子「とにかく! あんた達には部活動の手伝いをしてもらうから」
朋也「はぁ?」
春原「はぁ?」
同時に素っ頓狂な声を上げる俺たち。
さわ子「今日から軽音部の新入部員集めに協力しなさい」
軽音部…というと、平沢が所属しているところか…。
さわ子「さぁ、今から行くわよ。ついてきなさい」
呆然とする俺たちを残し、教室を出ていく。
春原「おい…どうすんだよ」
朋也「どうするって…やんなきゃ、卒業がやばかったり、退学処分だったりが現実味を帯びてくるんじゃねぇの」
春原「じゃあ、やんのかよ、おまえ」
…なにも知らなければ、抵抗があっただろう。
だが、もう平沢のことを知ってしまっていた。
会ってまだ間もないが、悪い奴ではないように思う。
だから、協力してやれるなら、それでもよかった。
春原「それが最初に僕たちが意気投合したところだしねぇ」
さわ子「なにやってんの? 早く来なさい」
ドアから顔を覗かせ、手招きする。
春原「…ま、いいや」
呼びかけに応え、春原が教室を出ていく。
遅れて俺もその後を追った。
―――――――――――――――――――――
さわ子「みんなやってるぅ?」
女生徒「あ、さわちゃん…って、そっちのふたりは…」
唯「あれ…」
さわ子「新入部員獲得のための新兵器よ。ま、こき使ってやって」
さわ子「そんじゃねー、がんばってー」
ばたん
朋也「………」
春原「………」
軽音部の連中…見れば女生徒ばかりだった。
彼女たちも事情を飲み込めずにいるのか、ポカンとしている。
女生徒「あんたら…同じクラスの岡崎と…そっちの金髪、名前なんだっけ」
春原「ちっ…春原だよ。覚えとけっ」
女生徒「なっ…なんだこいつ、態度悪いな…」
唯「岡崎くん、新兵器って…?」
朋也「ああ、いろいろあって俺たち、軽音部の新入部員集め手伝うことになったから」
唯「え!? ほんとに?」
春原「ありがたく思えよ、てめぇら」
女生徒「なっ…あんたなぁっ」
唯「まぁまぁ、りっちゃん。せっかく手伝ってくれるんだから感謝しようよ」
女生徒「うぐぐ…」
さっそく春原は不協和音の引き金となっていた。
朋也(しかし…部員はこいつらだけなのか…?)
朋也(だとすると、1、2…5人か…少ないな)
唯「そうだ、自己紹介しよう! ね! まず私から!」
唯「ボーカルとギターの平沢唯です! よろしく! はい、つぎ澪ちゃん!」
女生徒「あわ、わ、わたし…?」
女生徒「………」
女生徒「…秋山澪です…」
唯「はい、澪ちゃんはベースやってます! 美人です! 恥ずかしがり屋です! つぎ、ムギちゃん!」
女生徒「琴吹紬です。担当はキーボードです。よろしくね」
唯「ムギちゃんはお嬢様です! 毛並みも上品です! でもふわふわしてます! そこがグッドです!」
唯「はい、つぎあずにゃん!」
女生徒「はあ…」
女生徒「えっと…二年の中野梓です」
唯「あずにゃんはみたとおり可愛いです! 担当はギターです! あずにゃんにゃん! あずにゃんにゃん!」
平沢が奇声に近い声を発し、中野という子に頬をすり寄せ始めた。
梓「ちょっと…唯先輩、やめてください…」
ひとしきりじゃれついた後、ようやく離れた。
唯「…うおほん。では最後に、われらが部長、りっちゃん!」
女生徒「あー、田井中律。部長な。終わり」
唯「りっちゃんはみたとおり、おデ…」
律「その先はいうなっ」
パシっ
唯「コッ! った?い…」
妙な連中だった。
それは、平沢が中心になっているからそう見えたのかもしれないが…。
唯「それじゃ、次は岡崎くんたちね」
朋也「岡崎朋也」
春原「…春原陽平」
朋也「こいつの担当は消化音だ。ヘタレだ」
春原「変な補足入れるなっ! つーか、消化音って、どんな役割だよっ!」
朋也「胃で食い物が消化されたらさ、ピ?、キュ?って鳴るだろ。あれだよ」
唯「春原くん、消化音でドの音出してみてっ!」
春原「できねぇよっ!」
律「しょぼっ…」
春原「あんだとっ、てめぇデコっ」
律「はぃい? なんだってぇ?」
間を詰めて、今にも掴みかかっていけそうな距離で火花を散らし始めるふたり。
唯「ストップストップ!」
紬「りっちゃん、どうどう」
部員に両脇を固められ、その態勢のままなだめられる部長。
律「んむぅ?…むぅかぁつぅくぅ」
梓「あの…ちょっといいですか?」
場が落ち着いたところを見計らったように、控えめな声が上がる。
律「なんだよっ、梓」
梓「律先輩たちって同じクラスなんですよね?」
律「? そうだけど」
律「ああ、いったけど」
梓「じゃあ、なんで今自己紹介なんですか?」
唯「それはね、最初の自己紹介の時に、ふたりともきてなかったからだよ」
梓「え、そうだったんですか…」
唯「春原くんにいたっては、今日初めて見たんだよね」
律「ああ、昼休みにいきなり派手な金髪が現れたからびっくりしたよな」
春原「いや、そっちの琴吹ってのも金…」
紬「私が…なに?」
その時、なんだかよくわからないが、すさまじい闘気のようなもを感じ取った。
春原「ひぃっ」
そしてすぐにわかった。それが春原に向けられたものであるということが。
春原「なんでもないです…」
そう、こいつには黙る以外の選択肢はなかったはずだ。
それぐらい有無を言わせないほどの圧力だった。
…何者だよ、あいつは。
律「ああ、前にこのふたりと同じクラスだった奴から聞いたんだけどさ、こいつら、不良なんだと」
律「それで、サボりとか、遅刻が多いんだってさ」
梓「ふ、不良ですか…」
俺と春原に恐る恐る目を向ける。
やがてその視線は春原の頭で止まっていた。
春原「ああ? なんだよ?」
梓「い、いえ…」
春原「ちっ、さっきからチラ見してきやがって…」
無理もない。今時金髪で、そんな奴がこんな進学校の生徒なのだから。
普通の奴からしてみれば、物珍しいはずだ。
澪「………ぅぅ」
怯えたように後ずさっていく。
唯「澪ちゃん、怖がらなくて大丈夫!」
唯「岡崎くんはいい人だよっ。私が保証するよっ!」
…保障されてしまっていた。
まさか、あの廊下での出来事を根拠に言っているんだろうか…。
でも、そうだとしたら、安易過ぎる…。
梓「え?」
紬「あら…」
澪「………」
律「唯…おまえ、岡崎となんかあったのか?」
唯「ん? なにが?」
律「いや、なにって…そりゃ…その…男女の…いろいろとか…」
唯「へ? 男女のいろいろって?」
律「だから、惚れた腫れたのあれこれだよ。つまり、おまえが岡崎に気があるってことな」
唯「え、あ…そ、そういうのじゃないけど…」
唯「だから違うってぇ?…」
春原「………」
無言でそのやり取りを眺める春原。
こいつは今、なにを思っているんだろうか…。
俺に向き直り、口を開いた。
朋也「…なにがだよ」
なにか、あらぬことを邪推されている気がする…。
春原「いや、ずいぶんなつかれてるなと思ってね」
朋也「言っておくけど、なにもないからな」
春原「ああ…そうだね」
その含み笑いが腹立たしかった。
朋也(勘違いしてんじゃねぇよ…)
―――――――――――――――――――――
唯「えー、おほん。それでは新入部員捕獲作戦ですが…こちら」
そこに並べられていたのは、犬、猫、馬、豚、ニワトリ…等、動物の着ぐるみ。
どれも微妙にリアリティがあって少し不気味だった。
唯「この着ぐるみを着てやりたいと思います」
澪「えぇ…それ着なきゃだめか?」
唯「だめだよ。普通にやったんじゃインパクトに欠けるからねっ」
澪「そうだけど…はぁ…あんまり気が進まないな…」
梓「私も…なんとなく嫌です…」
唯「やってればそのうち楽しくなるよ、たぶん」
澪「たぶんて…」
梓「はぁ…」
律「私ニワトリー」
唯「じゃ私豚ー」
紬「私、犬?」
部長を皮切りに、しぶっている部員も含め、皆選び始めた。
朋也「おまえ、どうする」
春原「あん? 適当でいいでしょ。余ったやつでいいよ」
朋也「そうか」
―――――――――――――――――――――
春原「………」
…約一名、春原を除いて。
唯「あれ? 一着たりなかったね」
律「どうするかなぁ、こいつは」
唯「う?ん…」
朋也「おまえ、全裸でいけ」
律「ぶっ」
澪「ぜ…ぜん…」
唯「それ、すごいインパクトだよっ」
春原「死ぬわっ! 社会的にっ!」
朋也「じゃあその上からロングコート一枚着込んでいいから」
春原「典型的な変質者だろっ! 実質大差ねぇよっ!」
律「わははは!」
梓「あの…春原先輩は染髪してますし、そのままでも十分インパクトあると思いますけど…」
唯「それもそうだねっ」
春原「なら、僕はこのままいくからなっ」
その子が持ってきたのは、カエルの頭だった。
唯「ムギちゃん、それって…」
紬「うん、唯ちゃんが部室に置いてたカエルの置物」
紬「あれ、頭部が脱着可能で、中が空洞になってたの」
律「ふ?ん、じゃあ春原、あんたこれつけてけよ」
紬「はい、どうぞ」
春原「カエルかよ……まぁ、いいけどさ」
受け取り、装着する。
春原「あれ? これ、前が見えないんだけど」
紬「あ、そっか、目の部分、穴開けなきゃ…」
紬「唯ちゃん…」
唯「う?ん、しょうがないな…あけちゃおうか」
律「うし。じゃ、あんた、動くなよ」
春原「わ、馬鹿、脱いでからあけろよ!」
いや…でも、もしかしてあいつなら…
―――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――
紬「あ、ちょっと動かないでね。外すと後味悪いから」
春原「な、なにを…」
紬「ショラァッ!」
ゴッ ゴッ
春原「ひぃっ」
春原「あれ…前が見える…」
二つの衝撃音と、春原の悲鳴の後、カエルの目の部分に穴が開いていた。
律「ひぇ?、相変わらずすごいな、ムギの“無極”」
唯「うん。“無極”からの左上段順突き、右中段掌底で穴を開けた…」
唯「普段ならあそこから“煉獄”につなげてるけど、今回は穴を開けるだけが目的…」
唯「命拾いしたね、春原くんは…」
―――――――――――――――――――――
ということに…
春原「おい、岡崎。なにぼけっとしてんだよ。もう出るみたいだぞ」
朋也「あ、ああ」
どうやらもう穴あけが終わっていたらしい。
アホな妄想もほどほどにしなければ…。
朋也(にしても、男の部員がいないよな…一応訊いておくか)
朋也「なぁ、平沢」
唯「ん? なに?」
朋也「ここって女ばっかりだけど、男の部員は募集してないのか」
唯「ん?、それはねぇ…私は別にいいんだけど…」
ちらり、と横に立つ馬の着ぐるみに顔を向ける。
澪「な、わ、私だって別に…でも、女の子同士のほうがいろいろとやりやすいっていうかだな…」
澪「えっと…そ、そうだ、梓はどうなんだ? 来年はもう梓しか残らないんだし…」
澪「どっちがやりやすいとか、あるか?」
猫の着ぐるみに問いかける。
澪「で、でも放課後ティータイムで活動してきたわけだし…」
澪「やっぱり女の子のほうがいいかもな、うん」
律「こいつがこんな感じで恥ずかしがりだからさ、まぁ、できれば女で頼むわ」
言って、ニワトリの着ぐるみが片手を上げた。
朋也「ああ、わかった」
―――――――――――――――――――――
春原「ふぁ?、かったるぅ」
春原は地面に座り込み、ビラを数枚重ね、うちわのようにして扇いでいた。
朋也「おい、おまえもそれ配れよ」
俺と春原は、軽音部の連中とは別の場所で勧誘活動をしていた。
あいつらは正門へ続く大通り、そして俺たちは玄関で張っている。
春原「こんなもん配ったって効果ねぇよ」
朋也「じゃ、どうすんだよ」
春原「気弱そうな奴を脅せばいいんだって」
春原「お、ちょうどいいところにカモ発見」
高圧的な態度で進路を塞ぐようにして、通りかかった男子生徒のもとへにじり寄って行った。
あの時の話を聞いていなかったのか、条件を完全に無視していた。
男子生徒「は、はい…?」
春原「軽音部…入るよな?」
男子生徒「え、いや…僕ラグビー部にもう…」
春原「ああ? おまえみたいなのがラグビー?」
春原「ははっ、やめとけよ。死んじまうぜ? それに、あいつら馬鹿ばっかだから…」
男子生徒「誰が馬鹿だって?」
春原「ひぃっ」
春原の背後に現れたのは、同じ寮に住んでいるラグビー部の三年。
ラグビー部員「その声、春原だろ。なにウチの部から引き抜こうとしてんだよ」
春原「い、いや、ちがいま…」
ラグビー部員「カエルの被り物なんかしやがって…バレバレなんだよっ。こっちこい!」
春原「ひ…ひぃぃぃぃぃいい」
そのままずるずるとどこかへ引きずられていってしまう。
―――――――――――――――――――――
もういい時間になったので、とりあえず部室に戻ってくる。
澪「ぁ、わわ…」
唯「わぁっ! 春原くん、なんでそんなボコボコになっちゃたの?」
春原の装備していたカエルは、ところどころひびが入り、返り血さえ浴びていた。
春原「…大物を勧誘してただけだよ」
律「なにを勧誘したらそうなるんだっつーの…」
―――――――――――――――――――――
着ぐるみを脱ぎ、身軽になる。
今は全員でテーブルを囲み、ひと息入れていた。
そのテーブルなのだが、ひとつひとつ机を繋げて作られたものらしかった。
そこで急遽、俺と春原の分も継ぎ足してくれていたのだ。
律「で? そっちはどんな感じだった?」
朋也「ビラは何枚か渡せたけど、けっこう逃げられもしたな」
律「そっか、こっちとあんま変わんないな」
唯「なんで逃げられちゃうんだろ?」
律「あんたがいうな。血なんかつけて軽くホラー入ってたくせに」
春原「ふん…」
澪「直接勧誘活動していいのは今日までだから、あとはもう明後日にかけるしかないな」
唯「あさって? なんで?」
澪「春休み中に予定表もらっただろ? みてないのか?」
唯「う、うん。ごめん、みてない」
澪「はぁ…まったく…」
やれやれ、とため息をひとつ。
澪「ほら、この時期はさ、放課後、文化部に講堂で発表する時間が与えられるだろ」
澪「それで、軽音部は4/4木曜日の放課後からってことになってるんだよ」
澪「まぁ、規模の小さい創立者祭みたいなものだな。去年もやっただろ?」
唯「ああ、新勧ライブだね」
澪「そうそう」
紬「梓ちゃんはあの時のライブで入部を決めてくれたのよね」
クラナドの女キャラも出してくれると嬉しいぜ。
智代とか、生徒会にいないのか?
澪「やっぱり、重要だよな、新勧ライブは」
律「だな。そんじゃ、気合入れてがんばりますか、明後日は」
部長が言うと、皆こくりと頷いていた。
春原「なんか結論出たみたいだし、僕たち、もう帰るぞ」
春原「いこうぜ、岡崎」
朋也「ん…ああ」
春原に言われ、席を立つ。
紬「あ、まって」
春原「あん? なに、まだなんかあんの?」
紬「ケーキと紅茶あるんだけど、食べていかない?」
春原「マジで?」
紬「うん、ぜひどうぞ」
春原「へへ、けっこう気が利くじゃん」
唯「わぁ、待ってましたっ」
律「って、ムギ、こいつらにもやんの?」
紬「うん、せっかく手伝ってくれたから…」
律「くぁ?、ええ子やで…感謝しろよ、てめぇら」
春原「ああ、ムギちゃんにはするよ」
律「ムギちゃんって…いきなり馴れ馴れしいな、あんた…」
紬「? 岡崎くんは、いらない?」
座ろうとしない俺を見て、その子…確か、琴吹…が問いかけてくる。
朋也「俺、甘いの苦手だからさ。帰るよ」
紬「だったら、おせんべいもあるけど」
朋也(せんべいか…)
それなら…ご相伴に預かっておいてもいいかもしれない。
春原「ただでもらえるんだぜ? 食っとけば?」
朋也「ああ…そうだな」
まぁそんなに絡まないなら出してもいいんじゃないから >クラナド女キャラ
って確かに今のバランスはいいよね
―――――――――――――――――――――
春原「お、ウマイ」
一口分にしたケーキの一片を口に放ると、すぐにそう感想を漏らしていた。
よっぽどうまかったんだろう。
紬「ほんと? よかったぁ」
紬「岡崎くんはどう? おせんべい」
朋也「ああ、うまいよ」
せんべいの方も、醤油がよく染みていて、ぱりっとした歯ごたえもあり、いい味を出していた。
紬「あはっ、よかった。持ってきた甲斐があったな」
唯「ムギちゃんの持ってくるおやつって、いつもクオリティ高いよね」
律「だよな。これのために軽音部があるといっても過言じゃないな」
澪「おもいっきり過言だからな…」
春原「え、おまえらいつもこんなの食ってんの?」
唯「うん。でね、食器類も、そこの冷蔵庫も全部ムギちゃんちのなんだよ。すごいでしょ」
そう、この部室には食器棚と冷蔵庫が設置されていた。
やりとりが増えるから、今ぐらいのバランスの方が良いなあ
支援
朋也「教師に何か言われたりしないのか」
部室での飲食を含め、ここまでやれば、普通はお咎めがあるように思うのだが…どうなんだろう。
律「ああ、それは大丈夫。顧問がさわちゃんだからな」
律「あんた、さわちゃんの素顔、知ってる?」
朋也「ああ、まぁ」
律「そか。なら想像つくだろ。あの人もここで飲み食いしてるんだよ」
朋也「そうなのか…」
朋也(つーか、あの人、軽音部の顧問だったのか…それで…)
なぜ軽音部の手伝いだったのか、ようやく合点がいった。
人手不足なだけではなかったのだ。そういうコネクションがあったからこそだった。
春原「なんかここ、住もうと思えば住めそうだよね」
朋也「おまえの部屋より人の住まい然としてるしな」
春原「どういう意味だよっ」
朋也「ほら、お前の部屋ってなんていうか、閉塞感あるじゃん。窓に格子とかついてるし」
春原「それ、まんま牢獄ですよねぇっ!」
―――――――――――――――――――――
春原の部屋、いつものように寝転がって雑誌を読む。
春原「あーあ、軽音部の手伝いって、いつまで続くんだろうね…」
朋也「さぁな。でも部員集めは今日までだったみたいだし…」
朋也「明後日なんかあるとかいってたから、それまでじゃねぇの」
春原「それもそうだね」
春原「でも、ケーキうまかったなぁ。あれが毎回出るなら、手伝うのも悪くないね」
俺はせんべいとお茶だったが、確かにうまかった。
朋也「だな」
春原「明日はなにが出てくるんだろうね。お嬢様とかいってたし、キャビアとかかな」
朋也「さすがにそれはねぇよ。金粉をまぶしたサキイカとかだろ」
春原「そっちのがありえねぇよっ」
春原「ま、なんにせよ、行けばわかるか、ふふん」
朋也(こいつは…嫌がってたんじゃないのかよ)
特にあっきーは
唯「おはよう、岡崎くん」
朋也「…はよ」
唯「わ、今日は返事してくれるんだねっ」
朋也「無視したことなんかあったか」
鞄を下ろし、席に着く。
ついで、思い返してみる。
一応、態度は悪くとも反応はしていたはずだ。
唯「きのうは挨拶かえしてくれなかったよ?」
朋也(ああ…)
そういえば、そうだったような気がする。
あれはただ注目の的になったせいでたじろいでしまい、そんな余裕がなかっただけなのだが…。
朋也「悪かったな」
いちいち釈明するのも煩わしかったので、謝って話を終わらせることにした。
唯「いいよ。これからずっと返事してくれればね」
これからも挨拶され続けるのか、俺は。
別に、そこまで親しくなろうとしなくてもいいのに。
だから、イエスともノーともとれるよう、そう答えておいた。
唯「うむ、よろしい」
腕を組み、こくこくと頷く。
唯「あ、それと、岡崎くん。やっぱり、遅刻はだめだよ?」
朋也「いいんだよ、俺は。不良だって知ってるだろ」
唯「う?ん、でも、そうは見えないんだけどなぁ…」
唯「だって岡崎くん、優しいよね。ちょっと乱暴なところもあったけど…」
もうこれは、あの時のことを言っていると思って間違いないんだろう。
平沢が体をぶつけられ、プリントをばら撒いてしまった時のことだ。
ならやっぱり、昨日もそうだったのだ。
大勢の前で、俺がいい人であるなんてことを保障していた。
…そんなわけないのに。
朋也「その乱暴なところが不良だっていうんだよ」
唯「でも、あれはその…私のためにっていうか…」
朋也「馬鹿。勘違いするな。あいつらが気に入らなかっただけだ」
朋也「おまえのためじゃない」
朋也「そのくらいで優しいなんて言ってたら、悪人なんてこの世にいないぞ」
唯「そんなぁ…私には十分いい人に思えるけどなぁ…」
朋也「思い違いだ」
唯「そんなことない」
朋也「なんでそう言い切れるんだよ…」
唯「う?ん…なんでかな」
首をかしげる。
唯「でも、そう思うんだよね」
朋也「そう思って、いつか痛い目見ても知らねぇからな」
唯「大丈夫。そんな目にはあわないよ」
また言い切っていた。
唯「私は、岡崎くんがいい人だって信じてるから」
結局、この結論に戻ってきていた。いい加減、面倒になってくる。
朋也「…好きにしろよ」
こいつが好意的に接してくるのも、それまでだ。
唯「うん、好き放題するよっ」
朋也(はぁ…)
また、妙な奴と関わってしまったものだと…
窓の外、晴れ渡った空を見ながら思った。
―――――――――――――――――――――
………。
―――――――――――――――――――――
唯「ん?、やっとお昼だ」
隣で平沢が伸びをして、解放感に浸っていた。
唯「ねぇ、岡崎くんも一緒に食べない?」
ひょい、と手前に弁当箱を掲げた。
朋也「いや、俺、学食だから」
唯「学食かぁ、私いったことないなぁ…おいしいの?」
朋也「別に。普通だよ」
朋也「ああ、それじゃ」
見送られて席を立ち、いまだ机に突っ伏している金髪を起こしに向かった。
―――――――――――――――――――――
春原「おまえね…もっと普通に起こせよ…」
朋也「なにがそんなに不満なんだよ」
春原「不満しかないわっ! 起きたら黒板けしの粉の霧に包まれてたんだぞっ!」
春原「なにが、ミノフスキー粒子散布だよっ! ちょっと気管に入っただろっ!」
朋也「それくらい許せよ。ちょっとした余興だろ」
春原「昼飯前の余興で変なもん口に含ませないでくれますかねぇっ!」
―――――――――――――――――――――
春原「そういやさ…」
春原が水を飲みほし、口を開いた。
春原「軽音部の手伝いが終わったら、次はなにさせられるんだろうね」
春原「まさか、これだけで終わりなんてことはないだろうしさ」
言って、カレーを口に運ぶ。
春原「うげ、めんどくさ。雑用系は勘弁して欲しいよなぁ…」
春原「とくにトイレ掃除とかはね。この前なんか、見ちゃったんだよね、僕」
春原「便器にさ、すっげぇでかいウン…」
ぴっ、と春原の目にカレーの飛まつを飛ばす。
春原「ぎゃあああああああああぁぁあぁ辛口ぃぃぃいいっ!!!」
地面に倒れこみ、もんどりうつ春原。
朋也「カレー食ってるときにそんな話題は避けろ、アホ」
春原「うぐぐ…そんなの、口で言ってくれよ…」
這い上がるようにして、なんとか体勢を元に戻す。
春原「いつつ…ふぃ?…うわ、なんか福神漬け出てきた…」
おしぼりで目を冷ましつつ、拭き取り始める。
春原「ところでさ、軽音部って、よく見たらかわいいこばっかだったよね。部長は除くけど」
春原「おまえもそう思わない? 部長は除くけど」
春原「まぁね。なんか気に食わないんだよね、生意気だし、下品だし」
明らかに同属嫌悪というやつだった。
朋也(つーか、おまえがそれを言うのか…)
部長が気の毒でならなかった。
―――――――――――――――――――――
唯「おかえり?」
学食から戻ってくると、軽音部の連中が平沢の周りに集まっていた。
相変わらず部長は俺の席に陣取っている。
各自弁当箱を机の上に置いているところを見るに、食事が終わってそのまま雑談でもしていたんだろう。
律「おかえりって…夫婦のやり取りかよ。それも、こんな昼下がりに…」
律「意味深だなぁ、おい」
紬「まぁ、りっちゃんたら、深読みして…ふふ」
唯「う?、違うよぉ。っていうか、昼下がりなことがなにか関係あるの?」
律「ふ…そう、それはずばり、昼下がりの情事…」
澪「昼下がりの…情…うぅ…」
朋也「なんでもいいけど、部長、どいてくれ」
律「こりゃ失敬」
俺は席に着き、部長は平沢の後ろに回った。
唯「はっ、まずい、りっちゃんに背後取られたっ!」
唯「ま、間に合わない…アレを…くらうっ…あのハンマーフックをっ…」
律「もうお前ができることは病院のベッドの上で砕けたあごを治療することだけだっ」
スローモーションで平沢の顔面にこぶしをくりだす。
唯「お…おおっ…!!!?」
ぐにゃり、と緩やかにめり込んでいった。
紬「唯ちゃんは殴られる直前に後ろに跳んでる…まだ戦えるよっ」
澪「ムギ…おまえまでこんな茶番に合わせなくていいからな…」
男子生徒「あの…すんません。いいですか」
澪「え? あ…」
いつの間にか一人の男子生徒が所在無さげに立ちつくしていた。
その席本来の主だった。
慌しく立ち上がり、席を譲る。
律「あ?あ、いつまでも人の席でだべってるからそういうことになるんだよ」
律「和を見習えよな?。ちょっと話した後すぐ席に戻って次の授業の準備してんだぜ?」
澪「う、うるさいな、おまえが言うな」
澪「でも、そろそろ戻ったほうがよさそうなのは確かだな。私はもう戻るよ」
紬「じゃ、私も」
律「待てっ! 部長である私が一番戻るんだよぅっ」
澪「一番戻るって…意味がわからん…」
紬「あはは」
かしましくそれぞれの席へと散って行った。
―――――――――――――――――――――
………。
―――――――――――――――――――――
配布係の仕事のため、平沢と共に職員室までやってくる。
俺はここで、さわ子さんにひとつ訊いておきたいことがあった。
唯「え? なんで? 一緒にいこうよ」
朋也「野暮用があるんだよ。すぐ追いつくから、行け」
唯「ちぇ、わかったよ…」
平沢を先に帰し、さわ子さんのもとへ向かう。
さわ子「あら? なにか用? 岡崎くん」
朋也「あのさ、軽音部の手伝いのことなんだけど、明日まででいいんだよな?」
さわ子「う?ん、そうね、明日だものね、軽音部の新勧ライブ」
さわ子「うん、いいわよ」
朋也「それで俺たちの遅刻、欠席のペナルティはチャラ、ってことには…」
さわ子「そこまで甘くないわよ」
予想はしていたが、やっぱりまだなにかしら続くようだった。
―――――――――――――――――――――
………。
―――――――――――――――――――――
唯「岡崎くんたち、今日も来てくれるの?」
朋也「手伝いを命じられてるからな」
唯「そんなこと関係なく来てくれていいのに」
朋也「迷惑だろ」
唯「そんなことないよ。なんか男の子いるのって、新鮮でいいもん」
朋也「じゃ、男の部員が入ってくること祈っとけ」
唯「でも、どこの馬の骨かわからない人より、岡崎くんたちのほうがいいよっ」
それはせっかくの新入部員に対して失礼なんじゃないのか…。
律「おぅ、唯、いこうぜ?」
軽音部の連中が固まってやってくる。
唯「うん、待って?」
平沢もそこに加わり、廊下へ出ていった。
春原「いこうぜ、岡崎」
入れ替わるようにして春原が現れる。
―――――――――――――――――――――
律「うん?」
廊下、軽音部員たちの後ろを歩いていると、部長が振り返った。
律「あんたら、なんでついてきてんの?」
春原「今日もいやいや手伝ってやるっつーんだよ。それ以外の理由があるかっての」
律「いや、今日はいらねぇよ。練習するだけだし。明日の設備搬入の時にこいよな」
春原「あん? せっかくここまでついて来てやったんだから、茶ぐらい出せよ」
律「頼んでねぇし、ありがたくもねぇ! 帰れ帰れ、しっしっ!」
紬「まぁまぁ、お茶なら私が出すから」
律「ムぅギぃ?…」
春原「お、さすがムギちゃん、話がわかるねぇ」
律「なにがムギちゃんだよ、ほんっと馴れ馴れしいな…」
春原「ふん、僕とムギちゃんの仲だから、愛称で呼び合っても不思議じゃないんだよ」
律「きのう会ったばっかだろ…」
紬「えっと…ごめんなさい、春原」
春原「呼び捨てっすか!?」
律「わははは! ナイス、ムギ!」
春原「うう…くそぅ…」
朋也「その辺にしとけ。帰るぞ」
春原「なんでだよ、お茶出してくれるって言ってんだぜ」
朋也「わざわざ練習の邪魔することもないだろ」
律「お、岡崎。あんた、いいこというねぇ。目つき悪いくせに」
朋也「そりゃ、どうも。ほら、帰るぞ」
春原「ちっ、なんだよ、もったいねぇなぁ…」
唯「まって!」
きびすを返しかけた時、平沢に手を引かれ、立ち止まる。
唯「せっかくだから、お茶していきなよっ」
朋也「いや…」
澪「私? 私は…」
と、俺と目が合う。
澪「うぅ…文句ないです…」
顔を伏せ、そうつぶやいた。
律「おまえ、ビビってYESしか言えなかっただけだろ」
澪「う、うるさい…」
唯「ほら、裏の部長である澪ちゃんもいいって言ってるんだし」
律「唯?、そんな裏とか表とか使い分けてないからなぁ?」
唯「ムギちゃん、手伝ってっ」
紬「任せて?」
朋也「あ、おい…」
ふたりに両脇をとられ、連行される犯罪者のようになってしまった。
力ずくで振り払うこともできたが、それはあまりに感じが悪すぎる。
こうなってしまうと、そのまま従うより他なかった。
春原「ちっ、うらやましい連れてかれ方しやがって…」
がしっと、春原のネクタイをつかみ、そのまま歩き出した。
春原「ぅうっ…おま…やめっ…呼吸っ…」
どんどん首に食い込んでいくネクタイ。
律「さっさと歩けぃ、この囚人がっ」
だっと走り出す。
春原「うっ…だ…れがっ…つかっ…止まっ……」
半ば引きずられるようにして、視界から消えていった。
…部室に着いた時、まだあいつの息があればいいのだが。
―――――――――――――――――――――
紬「はい、どうぞ」
律「…サンキュ」
部長を最後に、全員に紅茶とケーキ(俺にはお茶とせんべい)がいき渡った。
唯「もう、りっちゃんが春原くんのネクタイ引っ張るのがいけないんだよ」
澪「律、謝っときなよ。大人気ないぞ」
律「…悪かったな」
死んでいるように見えたが、ただの鼻血だった。
なんでも、部長と言い争いになり、ドラムスティックで殴られたらしい。
今は琴吹の介抱により、血は止まっていたが。
春原「…おまえはアレだけど、ムギちゃんのふとももに免じて許してやるよ」
春原は膝枕してもらっていたのだ。
律「…なにがふとももだよ、変態め」
春原から目を逸らし、小さくつぶやく。
春原「聞こえてるんですけどねぇ」
唯「あーっ、やめやめ、喧嘩はやめ! ね? ケーキ、食べよ?」
春原「ちっ…」
律「ふん…」
いらだちを残したままの様子で、ふたりともケーキと紅茶を口にした。
それを機に、俺たちも手をつけ始める。
その空気は、ふたりの発する負のオーラでひどく歪んでいた。
こんなことなら、やっぱりあそこで帰っていた方がよかったのかもしれない。
がちゃり
梓「こんにちは…」
梓「あ…」
入ってきて、俺と春原に気づく。
梓「どうも」
軽く会釈し、ソファに荷を降ろし始めた。
朋也「ああ、よお」
春原「よぅ、二年」
梓「………」
無言で春原をじっと見つめる。
春原「あん? なに?」
梓「あの…春原先輩、血が…」
春原「ん?」
手で鼻の辺りに触れる。
春原「おあっ、やべ…」
紬「はい、ティッシュ」
朋也「お前を見て興奮したんだろうな。気をつけたほうがいいぞ」
梓「え…」
朋也「こいつ、告る前には血が出るからさ」
春原「力みすぎだろっ!」
律「ぶっ…けほけほ」
澪「律…なんか私にかかったんだけど」
律「わり」
梓「………」
春原にじと?っとした視線を向け、警戒しながら一番遠い席に座った。
春原「信じるなよっ! こいつの脈絡のない嘘だからなっ!」
紬「梓ちゃんの分、今持ってくるね」
梓「ありがとうございます」
春原「聞いてんのか、こらっ」
唯「って、春原くん、もう片方からも血が…」
朋也「おまえ…まだ告白もしてないのに、そんなことやめろよ」
春原「血の出具合によってやること変わるって設定で話すなっ!」
律「わははは!」
春原「笑うなっ!」
唯「春原くん、今ので血の勢いが増したよっ」
春原「うぉっ…」
律「いやん、私、こいつになにされるのぉ、こわぁい」
春原「うぐぐ…」
さっきまでの重い空気は立ち消え、もう普通に軽口を叩けるまでになっていた。
ひとまずは場の修復ができたようで、安心した。
―――――――――――――――――――――
澪「よし、じゃ、そろそろ練習しよう」
梓「ですね」
律「え?、もうか? まだ紅茶のこってるぞ。飲んでからに…」
澪「だめだ。明日は新勧ライブなんだぞ」
唯「そうだよ、がんばらなきゃ」
律「へぇ?ええ、そんじゃ、やるかぁ…」
律「あ、残りの紅茶、あんたらで処理しといて」
軽音部の面々が立ち上がり、準備を始めた。
俺たちはぼーっとその様子を眺めながら、紅茶をすする。
そして、飲み干してしまうと、もうここにいる意味もなかった。
春原「そんじゃ、帰ろうか」
朋也「ああ」
俺たちも席を立った。
春原「じゃあね、ムギちゃん。ケーキも紅茶もおいしかったよ」
紬「あれ? 聴いていかないの?」
春原「ん? うん、まぁ…」
同意を求めるような目で俺と向き合った。
練習を見てもしかたない、とは俺も思う。
さして演奏に興味があるわけでもない。
そこはこいつも俺も同じところだろう。
唯「私も聴いててほしいな。リハーサルみたいにするからさ、観客ってことで」
澪「そうだな。見られてるのを意識できていいかもな」
唯「あずにゃんも」
梓「そうですね。いいかもしれません」
唯「りっちゃん」
律「ん? まぁ、なんでもいいよ」
唯「ね? どうかな」
特にこのあとなにがあるわけでもなかった。
時間を潰せて、なおかつ役に立てるのなら、断る理由もない。
俺は部室のドアではなく、軽音部の連中がいる方に歩いていった。
そして、まるで観客席であるかのように備えつけられたソファーに腰掛けた。
春原「じゃあ、僕も」
春原も俺に続き、隣に座った。
唯「ようし、がんばるぞぉ」
律「じゃ、いくぞ。ワンツースリー…」
演奏が始まる。
そこにいる全員の表情が真剣だった。
あの、茶を飲んでいる間にみせる顔とはまったく違う。
そう…それは、俺や春原のような奴らからは、最も遠いところにあるものだ。
春原「………」
こいつも今、俺と同じことを思っているんだろうか。
こいつらといて、そんなに居心地は悪くなかった。
だがやはり、根本の部分で俺たちとは相容れることがない、と。
春原「ボンバヘッ! ボンバヘッ!」
ただのアホだった!
唯「ぶっ」
律「ぶっ」
澪「ぶっ」
梓「ぶっ」
紬「……」
春原のヘッドバンキングを使った野次によって演奏が中断された。
唯「もう、なにぃ、春原くん…」
春原「いや、盛り上がるかなと思って…」
律「全然曲調にあってないわっ、あんたの動きはっ!」
梓「デスメタルじゃないんですから…」
春原「はは、悪いね」
律「はいはい。ワンツースリー…」
―――――――――――――――――――――
春原「ま、なんだかんだいって、僕らとは違うよね」
ベッドの上、仰向けになり、ひとり言のように漏らす。
それは、今日の軽音部でのことを言っているのだろう。
朋也「………」
やはり、こいつも俺と同じようなことを感じていたのだ。
こいつにしてはめずらしく気を許し始めていたのかもしれない。
だから、その分、見せられた違いを心苦しく思っているんだろうか。
春原「いいけどね、別に」
また、誰に言うでもなくつぶやいた。
………。
かける言葉が見つからなかった。
だが、考えてみれば、あいつらと関わるのも明日で最後だ。
埋まらない溝があったところで、なにも問題はない。
所詮、短い間のつき合いだったのだ。
俺は一度寝返りを打った。
いや…
平沢とはまだしばらく関わることになるのか…。
といっても、席が隣で、クラス係が同じというだけの、薄いつながりだったが。
唯「おはよう」
朋也「おはよ」
今日はちゃんと返事をして、席に着く。
唯「岡崎くん、ちゃんと寝てる?」
朋也「ああ、さっきまで寝てたけど」
唯「そうじゃなくて、夜更かししてるんじゃないかってことだよ」
唯「もうずっと遅刻してるし…」
朋也「だから、言っただろ。不良だって」
唯「でも…」
朋也「もういいだろ。おまえには関係ない」
反射的にきつく言ってしまう。
そのことであまり探られたくはなかった。
俺の身の上話なんて、他人にしてもしょうがないから。
唯「…そうだね。ごめん…」
朋也「いや…俺もなんかきつく言っちまって、悪かったよ」
朋也「いや…」
唯「いやいや…」
どちらも譲歩しあってらちがあかなかった。
唯「…あはは」
朋也「…は」
軽く笑いあう。
そこでこの譲り合い合戦は終わった。
理屈じゃない。けど、すぐにわかった。
これで決着がついたこと。
勝ち負けがはっきりしたわけじゃない。
それでも、お互いに納得していたことが伝わっていた。
―――――――――――――――――――――
………。
―――――――――――――――――――――
唯「岡崎くん」
朋也「なんだ」
唯「今日のお昼のこと、きのうみんなで話したんだけどね…」
唯「でも、私たち、誰も学食使ったことなかったからさ、ちょっと不安なんだよね」
唯「だから、岡崎くんがガイドしてくれたらうれしいんだけど…だめかな?」
朋也「ガイドって…食券買ってそれ渡すだけだぞ」
グルメ番組じゃあるまいし、必要ないと思うのだが…。
唯「でも、経験者がいたほうが心強いっていうか…」
唯「ほら、なんか常連だけの暗黙のルールとかあったら、絶対やぶっちゃうだろうし」
一見さんお断りの隠れ家的名店か。
ただの学食にそんなものはない。
唯「ね? だから、いっしょに食べて?」
朋也「…まぁ、いいけど」
春原とふたりだけで食べるのもマンネリ化してきて、ずいぶんと経っていたところだし…。
たまにはそういうのもいいかもしれない。
唯「やったぁ! じゃ、みんな呼んでくるねっ」
―――――――――――――――――――――
平沢が連れてきたメンツ、プラス二人で学食を目指す。
自称では意味がない。
唯「わぁ、すごいんだねっ」
今だけは平沢の賞賛も皮肉に聞こえた。
春原「まぁね。僕がいつもの、っていえば、カツ丼と水が出てくるんだぜ?」
律「?つけっ。つーか、岡崎に頼むって聞いてたのに、なんであんたがついてきてんの?」
春原「岡崎はいつも僕と食ってるんだぞ。こいつと食うってことは、僕と食うってことと同じなんだよ」
律「気持ち悪いくらい仲いいな…」
春原「ふふん、まぁね」
朋也「キモっ」
春原「なんでだよっ!」
律「わははは!」
朋也(ん…?)
視界の隅、グループの中に見慣れない顔をとらえた。
朋也「平沢、そっちのは…」
自称では意味がない。
唯「わぁ、すごいんだねっ」
今だけは平沢の賞賛も皮肉に聞こえた。
春原「まぁね。僕がいつもの、っていえば、カツ丼と水が出てくるんだぜ?」
律「うそつけっ。つーか、岡崎に頼むって聞いてたのに、なんであんたがついてきてんの?」
春原「岡崎はいつも僕と食ってるんだぞ。こいつと食うってことは、僕と食うってことと同じなんだよ」
律「気持ち悪いくらい仲いいな…」
春原「ふふん、まぁね」
朋也「キモっ」
春原「なんでだよっ!」
律「わははは!」
朋也(ん…?)
視界の隅、グループの中に見慣れない顔をとらえた。
朋也「平沢、そっちのは…」
そういえば、あるような気もする。
唯「いつも私たちとお昼してるんだよ」
女生徒「どうも。同じクラスの人に今更なんだけど…」
女生徒「真鍋和です」
唯「和ちゃんは、岡崎くんと春原くんのこと知ってるよね」
和「ええ。一応クラスの人全員の名前と顔は一致してるわ」
唯「さすが和ちゃんっ」
和「ま、そのふたりに関しては、前から知ってたけどね」
唯「へ? なんで?」
和「生徒会の間ではちょっとした有名人だったからね。問題児として」
唯「あわ、問題児って…の、和ちゃん…」
春原「生徒会?」
春原が反応する。
和「ええ。私、一年の時から生徒会に所属してるの」
春原「…ふぅん、そう」
怪訝な顔で返した。
生徒会なんていったら、風紀にも敏感な連中じゃないのか。
春原同様、俺もあまりいい気はしない。
和「ま、安心して。あなたたちにどうこう言うつもりはないから」
まるで心のうちを見透かされたかのようなセリフだった。
律「和ってさぁ、今度の生徒会長の選挙、立候補すんの?」
和「一応、しようと思ってるわ」
唯「和ちゃんならなれるよっ」
澪「そうだな。私もそう思う」
和「ありがと」
春原「生徒会長ねぇ…」
釈然としないようで、不満気にそうこぼしていた。
―――――――――――――――――――――
律「うっへ、混んでんなぁ」
春原「おまえら、人の波に飲み込まれないようについてこいよ」
春原「おら、どけっ」
乱暴にかきわけ、進んでいく。
和「…あまり感心しないわね」
唯「ま、まぁまぁ。私たちのためにやってくれてるんだし…」
―――――――――――――――――――――
春原の先導により、券売機の前に辿り着いた。
春原「ここで食券を買うんだ。まず僕がお手本を見せてやる」
律「んなもんさすがにわかるわ」
春原は財布から千円札を取り出し、券売機に投入した。
ぺっ
吐き出される千円札。
春原「あれ? っかしいな…」
律「帝王とか言ってたくせに、こんな機械にナメられてるな、あんた」
ぺっ
またも戻ってくる。
律「あんた…それ、偽札じゃないだろうなぁ?」
春原「ちがわいっ! 次こそ成功するってのっ!」
春原「カァアアアアアアアアアッ!」
気合十分で投入する。
今度は飲み込まれたまま戻ってこなかった。
やっとのことで認識されたのだ。
春原「ふぅ。ま、僕が本気になれば、こんなもんさ」
朋也「つーか、早くしろ」
ピッ ピッ ピッ
俺は後ろからボタンを押した。
選んだのは、ライス(大)、ライス(中)、ライス(小)。
春原「ああっ! なんで全種類のライスコンプリートなんだよっ!」
朋也「しるか。ライスの上にライスかけて食っとけ」
春原「意味ないだろっ!」
春原「ぐ、くそぅ、覚えてろよ、てめぇ」
春原「…おまえら、見たか? このように、学食はそんなに甘い場所じゃないんだぞ」
律「号泣しながら言われてもな…」
―――――――――――――――――――――
券を買うのも、残すところ二人だけとなった。
紬「うわぁ、いいなぁ、こういうの」
目を輝かせ、券売機を見つめる。
春原「お、さすがムギちゃん。期待通りのういういしい反応してくれるねぇ」
紬「うん。私、一度こういう券を買ってみたかったの」
お嬢様だと聞いていたが、やっぱりこういう庶民的なところには普段来ないんだろうか。
紬「なににしようかな」
言いながら、財布から取り出したのは、一万円札。
なんともセレブリティなことだ。
春原「ははっ、すげ…ちゃんとお釣り返ってくるかな…」
さすがにそこまでの額じゃない。
ピッ
少しかがんで、出てきたお釣りと食券を回収した。
紬「はい、澪ちゃん、お待たせ」
澪「うん」
最後の一人に位置を譲る。
澪「う?ん…なんか、重たいものばっかりだな…」
朋也「なら、パンにするか?」
澪「え? あ、パ、パン…?」
朋也「ああ。ほら、あそこで売ってるだろ」
人だかりができているスペースを指さした。
今は激しい人気パン争奪戦が行われている最中だった。
澪「じゃあ…パンにしようかな…」
朋也「まぁ、これから行ったんじゃ、ロクなの残ってないだろうけどさ」
澪「そ、そうですか…」
律「なんで敬語なんだよ」
律「まぁだ恥ずかしがってんのか…」
澪「恥ずかしいっていうか…遠慮は必要だろ…」
律「そっかぁ?」
澪「そうだよ…」
言って、視線をパン売り場に戻す。
澪「…それにしても、混んでるなぁ」
律「澪、行って全員蹴散らしてこいっ!」
澪「無理だって…」
蹴散らすのはもとより無理だとしても、買ってくるだけでも女の子では苦労するだろう。
………。
朋也「…おまえら、先に食券替えて、席確保しといてくれ」
朋也「春原、俺の分頼んだ」
強引に食券を握らせる。
春原「あん? おまえどっかいくの?」
朋也「そんなところだ。ほら、もういけ」
春原「じゃ、いくぞ、おまえら」
律「いいかげん仕切るのやめろよなぁ、ったく」
唯「じゃ、あとでね、澪ちゃん、岡崎くん」
春原の後に続き、平沢たちもカウンターへ向かっていった。
朋也「で、なにがいい」
澪「え?」
朋也「パンだよ。買ってきてやるから」
勧めたのは俺だったので、最後まで面倒をみてやらないと後味が悪い。
だから、そう申し出ていた。
澪「え、あ、悪いですよ、そんな…」
朋也「いいから、言えよ」
澪「うっ…は、はい…じゃあ…」
メニュー表をしばしみつめる。
澪「クリームパンとあんぱん、それとやきそばパンで…」
朋也「わかった。金はあとで合流した時にな」
朋也(いくか…)
俺は覚悟を決め、人ごみの中に突っ込んでいった。
―――――――――――――――――――――
パンを購入し、春原たちがついているテーブルを探す。
とくに苦労することなく、その場所はすぐにみつかった。
目立つ金髪はこういう時には便利なものだ。
俺はその集団に歩み寄って行った。
朋也「わり、遅くなった」
澪「あ…いえ…そんな」
朋也「ほら、パン」
澪「ありがとうございます」
朋也「540円な」
澪「はい…どうぞ」
朋也「ん、ちょうど」
代金を受け取り、俺も席に着いた。
唯「ね、だから言ったでしょ。岡崎くん、いい人なんだって」
唯「もう、りっちゃん! そんなことないよ、普通にいい人だよっ」
唯「ね、澪ちゃん」
澪「う、うん…」
紬「やさしいのね、岡崎くん」
春原「ムギちゃん、だまされちゃだめだっ」
春原「こいつのは計算なんだよっ。好感度上げようとしただけだってっ」
律「人の足引っ張るそのおまえの好感度が最悪だわ」
春原「なにぃっ!? ムギちゃん、今僕の好感度、どれぐらいある!?」
紬「えっと…ごめんなさい、不快指数のほうで表していいかな?」
春原「マイナスのメーターっすか!?」
律「わははは!」
騒がしい奴らだった。
―――――――――――――――――――――
律「にしても澪、部活でも甘いもの食べるのに、昼も菓子パン食べちゃって…」
腹の辺りに手を伸ばす。
澪「わ、馬鹿っ、つかむなっ」
その手を払いのけた。
律「ぷにってしたぞ」
澪「うそつけっ、まだ大丈夫…なはず」
最後は消え入りそうな声になっていた。
唯「心配しなくても、澪ちゃんスタイルいいよ」
律「ま、服の上からじゃわかんないよなぁ」
澪「う、うるさいっ! いいんだよ、今日は新勧ライブでカロリー消費するんだから」
和「あら、軽音部は今日なの?」
唯「うん、そうだよ」
和「そう。がんばってね」
唯「うん、全力でやるよっ。今日はみんなを沸かせて、総スタンディングさせるんだ」
唯「それで、客席にダイブするよっ」
律「あんたら、今日はきっちり働いてもらうからな」
春原「わぁってるよ。あ、ムギちゃん、今日もお茶よろしくね」
紬「うん、用意するね」
律「だぁから、ムギ、しなくていいって。こいつを調子づかせるだけなんだからさ」
紬「おいしそうに食べてくれるから、なんだか私も嬉しくて…」
律「でもこいつ、ケーキつつんでたラップまでなめまわすから、きちゃないじゃん」
春原「それだけうまいってことなんだから、いいだろっ。ね、ムギちゃん」
紬「えっと…ごめんなさい、あれは正直ドン引きしてたの」
春原「笑顔で内心そんなこと思ってたんすかっ!?」
律「みんなそう思ってたわい。あと、お前が座った席は消毒してるんだからな」
春原「マジかよ…」
澪「そんなことしてないだろ」
律「あーも、澪、ネタバレすんなよ」
春原「てめぇ、話盛ってんじゃねぇよ、デコっ」
春原「“さん”をつけろよ、デコ助野郎っ」
どこかで聞いたことがあるような気がする…。
律「はぁ? なんであんたにさんづけなんだよっ」
春原「お約束だろっ。察せよ、ったく。空気読めないやつだなぁ」
律「存在自体が場違いなあんたに言われたくないわっ」
春原「あんだよ、やんのかデコ」
春原がファイティングポーズを取る。
律「上等だっつーの」
部長もそれに応じて構えた。
唯「はいはい、ストップ、ストーップ!」
平沢が審判のように割って入り、ふたりを制した。
澪「律、なんでそんなに喧嘩腰なんだ」
律「だってさぁ…」
唯「ふたりとも、仲直りの握手しよ、ね?」
春原「やだ」
唯「うわ、いきぴったり」
律「あわせんなっ」
春原「あわせんなっ」
唯「まただ」
澪「あはは、ほんとは相性いいのかも」
律「よくないっ」
春原「よくないっ」
紬「ふふ、またね。すごい」
唯「あははっ」
澪「ははっ」
俺たちの中に、ひとつ小さな笑いが起こる。
春原「ちっ…」
律「ふん…」
それに当てられてか、喧嘩は収まったようだった。
―――――――――――――――――――――
平沢たちはまだだべっていくつもりのようで、その場で別れていた。
唯「やっほ、岡崎くん」
と、戻ってきたようだ。
唯「今日は付き合ってくれてありがとね」
朋也「ああ、まぁ、俺はなにもしてないけど」
ほとんど春原が牽引していたように思う。
唯「そんなことないよ。澪ちゃんにパン買ってあげてたし」
朋也「ああ…それか」
唯「うん、それだよ」
言って、席に着く。
唯「いやぁ、でも、学食おいしかったよ。満足満足?」
朋也「そっか」
唯「それに、いつもよりにぎやかで楽しかったし」
唯「岡崎くんはどうだった? 私たちと食べて」
朋也「騒がしかったよ」
朋也「ああ」
唯「ぶぅ、もっとなんかあるでしょ?」
朋也「まぁ、退屈はしなかったかな」
唯「ほんとに? なら、また一緒に食べようね」
朋也「気が向いたらな」
唯「うん、約束ね」
―――――――――――――――――――――
………。
―――――――――――――――――――――
そして、迎えた放課後。
律「ほんじゃ、これみんな運んどいて」
俺にはよくわからないが、スピーカーやらなにやらがずらっと並べられていた。
春原「あのドラムはおまえが持ってけよ。自分のだろ」
律「私は両手がふさがってるから。ほら」
春原「そんなもんどうとでもなるだろっ」
律「うるせぇなぁ。なんのためにあんたらがいるんだよ」
律「こういう汚れ仕事をするためだろ?」
澪「汚れって…ただの力仕事だろ」
律「とにかく、私たちは先にいってコードの配線とかやっとくから」
律「じゃ、がんばってねん」
部室から、いの一番に出ていった。
澪「ああ、もう、あいつは…」
澪「あの、私たちも運ぶんで、安心してください」
朋也「いいよ。おまえらも行っててくれ」
澪「え? でも…」
春原「おい、岡崎…」
朋也「部長の言った通りだ。こういうことをするために俺たちがいるんだからな」
唯「いいの? 岡崎くん」
唯「そっか。それじゃ、おねがいね」
朋也「任せろ」
唯「いこう、澪ちゃん、あずにゃん、ムギちゃん」
澪「う、うん…。それじゃ、お願いします」
梓「お願いします」
紬「よろしくね」
平沢たちも出ていった。
春原「はぁ…これ全部だぜ。おまえ、カッコつけすぎな」
朋也「いいから、運ぶぞ」
春原「へいへい…」
―――――――――――――――――――――
春原「あ?、疲れた」
言われていた物は全て運び込み、設営も整った。
軽音部の連中は、実際に音を出してなにか確認しているようだった。
時計を見てみる。
ライブが始まると聞いた時間までまだ30分はあった。
春原「おい、二年とか三年までいるぞ。暇なやつらだなぁ」
おまえが言うな。
―――――――――――――――――――――
開演時間5分前となった。
すでに席は埋め尽くされている。
それだけにとどまらず、立って見ているやつらもいた。
春原「おい、出ようぜ、岡崎」
俺たちも席に座らず、一番後ろで壁に寄りかかっていたのだが…
もう、ここまで人が詰まってきていた。春原の言い分もわかる。
正直、うっとうしい。
朋也「そうだな」
俺も出ることにした。
最後にと、一度ステージに目をやる。
すると、偶然平沢と目が合った…気がした。
唯「………っ!」
平沢は、ステージから大きく手を振っていた。
朋也「………」
少しの間考える。
朋也(あんな愛想振ったあと、出てかれるの見ると、士気が下がるかもしれないよな…)
なら、やっぱりここで見ていたほうが…
男子生徒1「唯ちゃんこっちに手振ってね?」
男子生徒2「俺にむいてね? 俺じゃね?」
男子生徒1「ははっ違いすぎる。あ、でも振り返してみれば?」
男子生徒2「っおまえ。むり、はずすぎる」
近くにいた奴らの会話が聞こえてきた。
こいつらは平沢の知り合いかなにかなんだろうか。
だとしたら、あれは俺ではなくこいつらにむけられたものだったのか。
朋也(はっ…なに勘違いしてんだ、俺…)
一瞬でも自分に向けられたものだと思ってしまったのが恥ずかしい。
止まりかけた体を再び動かし、外に出た。
―――――――――――――――――――――
唯『新入生のみなさん、御入学おめでとうございます』
講堂の中から平沢の声が漏れ聞こえてきた。
自分が軽音部に入ったいきさつなどを喋っているようだ。
唯『…こんな私でも一生懸命になれることをみつけることができました』
唯『すごく練習をがんばってきた、なんて胸を張っていえませんが…』
唯『でも、今まですごく楽しくてやってこれて…とても充実してました』
唯『みなさんも、私たちと一緒にバンド、やってみませんか?』
春原「なぁ、岡崎。場所移らない? 別に、こんなとこで待ってなくてもいいと思うんだけど」
俺たちは講堂の入り口付近の壁に背中を預けるようにして座り込んでいた。
朋也「…ああ、だな」
立ち上がり、歩き出す。
去っていったその場所からは、軽音部の演奏が僅かに届いてきていた。
―――――――――――――――――――――
学食まで訪れて、ジュースを購入する。
そして、適当なテーブルについた。
春原「あ?あ、ムギちゃんのケーキも今日までかぁ」
春原「なんか、惜しいなぁ」
朋也「だったら、入部でもしろよ」
春原「それに、音楽はボンバヘッで全て事足りるしね」
朋也「あ、そ…」
何も言うまい。
春原「でも、ムギちゃんなら頼めばくれそうだよね。軽音部となんの関係もなくなってもさ」
朋也「表立って断られはしないだろうけど、裏ではおまえを始末する計画練り始めるだろうな」
春原「んなことする子じゃねぇよ。それに、けっこうフラグたってたと思うし」
朋也「はぁ?」
春原「わからない? あの、ムギちゃんが僕を見る目の熱っぽさが」
朋也「わかるかよ…」
春原「おまえはまだまだ青いねぇ。あとちょっとで落とせるとこまできてんだよ」
どう考えてもこいつの思い込みだった。
春原「そろそろ、呼び捨てしてもいい時期かもね」
春原「あ、それから、住所と電話番号もつきとめてさ、毎日一緒に登下校したり…」
春原「軽い恋人同士のいたずらで、無言電話してみたりとかね、ぐっへへ」
朋也(ふぅ…)
妄想に浸る春原を視界からフェードアウトさせる。
椅子に体重をかけ、体を少しのけ反らせてから天井を見つめた。
―――…こんな私でも一生懸命になれることをみつることができました
平沢の言葉を思い出す。
朋也(一生懸命、ね…)
体勢を戻し、一気にジュースを飲み干す。
かつては、俺も…そして、春原もそんな風だったのかもしれない。
今では、そんな奴と関わることさえ嫌になってしまうほどだったが。
だが、なぜか今、平沢には…軽音部の連中には普通に接してしまっている。
朋也(なんでだろうな…)
俺は空になった空き缶を持ち直し、ゴミ箱に狙いを定め…
しゅっ
左腕で放った。
それは放物線を描き、ゴミ箱に吸い込まれていった。
春原「お、ナイッシュ」
春原「おし、僕も」
朋也「実はさ……う○こっ!!!!!」
春原「ぶっ!!!」
ドバっ、と鼻からも液体が噴出される。
春原「いきなりなんだよっ!?」
朋也「こうなるかな、と思って」
春原「じゃあ、やるなよっ!」
朋也「いや、でもまさかうん○で笑うとは思わなかったんだよ」
春原「笑ったんじゃねぇよ。おまえの声のでかさにおどろいたのっ」
朋也「あ、そ」
春原「ったく…くだらないことすんなよな…」
―――――――――――――――――――――
朋也(そろそろか…)
終了時間も間近にせまっていた。
今から行けば、ちょうど終わった頃につけるだろう。
朋也「春原、いくぞ」
春原は途中学校を出て、コンビニで漫画雑誌を買ってきていた。
朋也「先にいってるぞ」
春原「あー、うん。わかった」
雑誌を読みながら、気の無い返事。
俺は春原をその場に残し、ひとり講堂へ向かった。
―――――――――――――――――――――
「アンコールっ! アンコールっ!」
つくなり、聞えてくる観客の声。
唯『えへへ…みんな、ありがとう! じゃあもう一曲…』
続いて、平沢の声がして、演奏が始まった。
扉を開けてみる。
―――――――――――――――――――――
場内は熱気に包まれ、蒸し暑かった。
その中で軽音部の連中が演奏している。
ボーカルは、平沢と、秋山だった。
扉を閉め、中に入り、しばしそのまま聴き入る。
女生徒1「お姉ちゃん、すごい…」
女生徒1「うんっ」
朋也(お姉ちゃん…?)
近くにいた女生徒の話が、大音量の中かすかにきこえてきた。
朋也(あいつらの中の、誰かの妹か…)
暗くて顔はあまりみえなかったので、誰の妹かは見当がつけられなかった。
きぃ
春原「ありゃ、まだやってんの」
扉を開け、春原が入ってきた。
朋也「アンコールだと」
春原「ふぅん…」
春原もその場にとどまり、演奏を聴き始めた。
すぐに引き返して雑誌の続きでも読み始めるかと思ったのだが…。
春原「………」
ステージの上、あいつらは本当に楽しそうに演奏していた。
練習の時にも見たが、本番ではよりいっそういきいきとしている。
そうこぼしたのは、強がりだったのか。
俺たちと、あいつらのいる場所、その距離に対しての。
―――――――――――――――――――――
ライブも終わり、観客も捌けはじめた。
一度外に出て、そのまま待つ。
―――――――――――――――――――――
場内が空いてくると、中に入ってステージに向かった。
唯「岡崎くんっ!」
機材を片していた平沢が俺に気づき、あげた第一声。
唯「私、手振ったよね? 気づいたでしょ? なんで出てっちゃったの?」
ああ…あれはやっぱり、俺に振っていたのか。
勘違いではなかったようだ。
朋也「悪い。気づかなかった」
唯「嘘だよっ。目もあったじゃん」
朋也「おまえ、目いいな。俺、わからなかったよ」
唯「えぇ?、でも、ちょっと止まったじゃん…」
唯「そうなの…?」
朋也「ああ」
唯「そっか…」
なんとかごまかせたようだ。
朋也(って、別に嘘つくようなことでもなかったか…)
正直に、勘違いしてたら恥ずかしいから、と言えばよかったのに。
俺はなにを見栄張ってるんだか…。
唯「はぁ、春原くんもすぐ出てっちゃうし…ふたりにも聴いててほしかったのに」
朋也「最後のは聴いてたよ。な」
春原「ああ、まぁね」
唯「あ、じゃあやっぱりあの時入ってきたの、岡崎くんと春原くんだったんだ」
唯「背格好で、なんとなくそうなんじゃないかと思ってたんだ」
朋也「そっか」
唯「うん。どうだったかな? 私、メインで歌ってたんだけど…」
それは、会場の沸き具合がそのまま答えになっていた。
コテのクセに結構完成度高かったな
朋也「よかったんじゃないか」
唯「ほんとに?」
春原「そこそこね」
唯「そこそこかぁ…じゃ、まだまだだね、私も」
言って、微笑む。
前向きな奴だった。
律「おーい、岡崎に春原。こっちの、もう運んどいてっ」
舞台の端で部長が呼んでいた。
春原「ふぁー、めんどくさ…」
―――――――――――――――――――――
機材の往復も終わり、部室では軽い打ち上げが行われていた。
紬「みんな、おつかれさま」
琴吹がティーカップに紅茶を淹れ始める。
律「ムギもおつかれだろ?。だから、今日はお茶はセルフサービスな」
紬「あら、そう?」
春原「僕はムギちゃんが淹れたのが飲みたかったけどね」
紬「そう? なら、やっぱり私が…」
律「いいよ、ムギ。座ってなって」
座っていろ、と身振りで示す。
律「春原…あんた、部員でもないのにちゃっかり打ち上げに参加しやがって…」
律「あまつさえ自分のために働かせるって、どういう脳みそしてんだよっ」
澪「い、いいじゃないか。ふたりのおかげで、今日はほんとに助かったし…」
春原「だそうだ」
律「くむむ…だとしても、あんまり調子に乗るなよなっ」
澪「とりあえず、淹れてから乾杯しようか」
唯「さんせーい」
全員がカップに紅茶を淹れ、中央に寄せ合った。
唯「春原くんと岡崎くんも」
朋也「俺たちもか」
誘いを受け、俺と春原もそこに混じる。
ちんっ
軽く触れて乾杯し、一斉に飲み始めた。
律「くぅ?、うんめぇ?。一仕事終えた後の一杯は格別だな」
澪「オヤジ臭いな…お酒じゃないんだぞ…」
唯「今日は大成功だったよね。アンコールももらったし」
唯「入ろうと思ってくれた人がたくさんいてくれればいいなぁ」
梓「大丈夫ですよ。今日の出来はすっごく良かったですから」
唯「あずにゃん…うん、そうだよね」
唯「これで、あずにゃんに後輩ができるといいね」
梓「後輩ですか」
律「今回、それで唯が一番張り切ってたんだぞ」
律「今年部員が入らないと来年梓がひとりになってかわいそうだから?ってな」
澪「それがあの着ぐるみにつながったわけだけどな…」
梓「そういえば…」
唯「えへへ。私、がんばったんだよ? ほめて、あずにゃんっ」
梓「わっ…」
抱きつき、頬を寄せる。
梓「もう…唯先輩は…」
抵抗せず、されるままになっていた。
律「お? 今日は嫌がらないな?」
梓「う…そ、それは…そんな話聞いたあとですし…」
唯「やった! ついにあずにゃんが私の支配下に!」
梓「し、支配ってなんですか…や、やっぱり離れてください」
ぐいぐいと懸命に平沢を引きはがしている。
唯「あっ、ちぇ…」
密着状態が終わる。
紬「くす…唯ちゃん、支配下に置くにはまだ調教が足りなかったようね」
紬「? どうかした?」
律「いや…うん…」
澪「ムギって…時々…いや、なんでもない…」
梓「ムギ先輩…」
春原「…僕はそういうのもアリかな…ははっ…」
紬「?」
琴吹だけがわかっていなかった。
―――――――――――――――――――――
春原「おまえ、さわちゃんからなんか聞いてる?」
コタツから上体だけ起こし、訊いてくる。
朋也「いや、なにも。でも昨日、これで終わりじゃないみたいなこと言ってたけど」
寝転がったまま答える。
明日以降なにをするかは聞いていない。
多分、明日の放課後にでも通達がくるのではないかと踏んでいるのだが。
春原「そっか。じゃあさ、このままバックレても大丈夫かな」
春原「近づいてきたらダッシュで逃げればいいじゃん」
朋也「あの人なら絶対追ってくるぞ」
春原「僕の俊足なら振り切れるさ」
朋也「おまえにそんなイメージないからな」
というか、そもそもそういう物理的な問題でもない気がする。
春原「おまえ、知らねぇの? ちまたで噂のエスケープ春原の異名を」
情けなすぎる異名だった。
朋也「知らねぇよ…そんなもん初耳だ」
春原「どんな手段を使っても逃げ切る男として恐れられてるんだぜ?」
逃げているのに恐れられるなんてことがあるのか。
春原「へっ、これでまた僕の実績が増えるね」
朋也「そうか、よかったな」
逃げの歴史に新たな一行が加えられることがそんなにうれしいのだろうか。
なぜそんなことを誇っているのかよくわからない…。
朋也(やっぱ、アホなんだろうな…)
唯「おはよ?」
朋也「ああ、おはよ」
からっぽの鞄を机の横に提げ、椅子に腰掛ける。
唯「岡崎くん、私、考えたんだけどね…」
朋也「ああ、なんだ」
唯「えっとね、朝、私が迎えにいくっていうのはどうかなぁ」
朋也「はぁ? いや、つーか、いろいろ言いたいことはあるけどさ、まずうちの住所知らないだろ…」
唯「うん、だからね、よかったら教えてくれないかなぁ、なんて」
朋也「いいよ、いらない」
唯「そっか…残念」
朋也「つーか、おまえの家から遠かったらどうしてたんだよ…」
唯「あ、そこまで考えてなかったよ…」
無計画にもほどがあった。
本当にただの思いつきで言ったようだ。
朋也「なぁ、なんでそうまで世話焼きたがるんだ?」
これは純粋な疑問だった。
わりと話すようになったとはいえ、まだお互いのこともよく知らない。
それなのに、やたら俺を気遣って、遅刻のことを言ってくる。
唯「なんでかな…私もよくわかんない」
唯「でも…ここ何日か一緒にいて、岡崎くんのこと見てたらさ…」
唯「うん…おもしろい人だなって。それに、不良なんていってるけど、ほんとは優しくて…」
唯「だから、もっと普通に学校生活を楽しめたらいいのにって…」
唯「それで、まずは遅刻から直していけばいいんじゃないかと思ったんだけどね」
朋也「そういうことなら、春原の奴にでもやってやれよ」
唯「まずは岡崎くんからだよっ。その次が春原くんね」
ふたり共を更生させる気でいたのか…。
朋也「…そうか、がんばれよ」
もう、放っておくことにした。
そうすれば、こいつも、自然とそのうち飽きるだろう。
唯「うんっ、がんばるよっ…って、実際がんばるのは岡崎くんのほうだよっ」
―――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――
昼。春原と共に学食へ。
春原「やっぱふたりだと身軽でいいよね」
朋也「そうだな」
春原「ついてくる素人もいないことだし、やっと玄人らしく食べられるよ」
朋也「ただの学食に玄人もクソもあるかよ」
春原「おまえ、何年学食で食ってるつもりだよ。あるだろ、決定的な違いが」
朋也「知らねぇよ…」
春原「マジで言ってんの? わかんないかねぇ…」
朋也「なんだよ、言ってみろ」
春原「ほら、あれだよ。あの…アレ…だよ」
げしっ
春原「ってぇなっ! あにすんだよっ!」
朋也「もったいぶっておいて、リアルタイムで考えるな」
ずるずるずる
春原「学食のラーメンってさ、けっこううまいよね」
ずるずるずる
朋也「ああ、意外としっかりしてるな」
春原「カップラーメン以上、うなぎパイ未満って感じ?」
朋也「なんで比較対象の上限が非ラーメンなんだよ」
春原「僕、あれ好きなんだよね、うなぎパイ」
春原「おまえも、前にうまいって言ってたじゃん」
朋也「言ったけどさ…」
春原「だろ?」
だからなんだというのか。
本当に意味のない会話だった。
―――――――――――――――――――――
昼飯の帰り、廊下を歩いていると、その先でラグビー部の三年を発見した。
俺は立ち止まる。
朋也「おまえ、きのう異名がどうとか言ってたよな」
春原「ああ、エスケープ春原ね」
にやり、と得意げな顔をしてみせる。
朋也「おまえの実力みせてくれよ、あいつで」
ラグビー部員を指さす。
春原「え!? う、ま、まぁいいけど…」
明らかに動揺していた。
朋也「じゃ、ちょっとここでまってろ」
春原を待機させ、俺はラグビー部員のもとへ寄っていく。
朋也「なぁ、ちょっといいか」
ラグビー部員「あ?」
談笑を止め、俺のほうに振り返る。
朋也「春原がさ、おまえの部屋のドアに五発蹴りいれたって自慢してくるんだけどさ…」
ラグビー部員「はぁ? んなことしてやがったのか、あいつはっ」
俺の指さす先、春原はカクカクと生まれたての小鹿のように足が震えていた。
ラグビー部員「春原ぁっ!」
春原「ひぃっ!」
両者ほぼ同時に駆け出す。
朋也(お、意外に早いな)
俺も小走りで追ってみる。
―――――――――――――――――――――
春原「うわぁ、どけっ、どけっ!」
春原は通行人を弾くようにして逃げていた。
春原「とぅっ」
階段を下から数えて2段目から飛び降りる。
朋也(2段じゃあんま意味ないだろ…)
俺はその様子を上から見下ろしていた。
ラグビー部員「まて、おい、こらっ」
だんだんと差を縮められているが、かろうじて捕まっていなかった。
だが、それも時間の問題だろう。
朋也(アホくさ…)
俺は追うのをやめ、教室に戻ることにした。
―――――――――――――――――――――
朋也(ん…?)
再びさっきの場所まで戻ってくると、窓の外、金髪が疾走する姿が見えた。
朋也(あいつ、外まで逃げてんのか…)
よくよく見ると、追っ手が5人に増えていた。
朋也(敵増やしてどうすんだよ…)
しかし、あんな人を踏み台にするような逃げ方をしていれば、恨みを買うのも無理はない。
俺はこの後訪れるであろう春原への制裁を案じて、合掌を送った。
朋也(成仏しろよ…)
キーンコーンカーンコーン…
朋也(やべ、ちょっと急ぐか…)
………。
―――――――――――――――――――――
5時間目が終わると、教室の入り口、春原が戻ってくるのが見えた。
朋也(あれ…? 無傷か…)
てっきりリンチされたものだとばかり思っていたが…。
不思議に思っていると、春原がこちらにやってきた。
春原「逃げおおせてやったぜ…」
朋也「すげぇじゃん」
春原「まぁね。あいつら、チャイムが鳴ったら、引き返してったからね」
春原「僕の逃げ切り勝ちさ。今後はおまえも、僕をリスペクトしろよ、メーン?」
言って、背を向けて帰っていく。
唯「春原くん、なにかしてたの? 背中にクツ跡ついてたけど」
朋也「さぁな。鬼が複数、獲物ひとりの鬼ごっこでもしてたんじゃねぇの」
唯「それ、楽しいの?」
朋也「知らん」
あいつをリスペクトする日は永遠にこないだろう。
―――――――――――――――――――――
………。
―――――――――――――――――――――
SHRも終わり、放課となる。
春原「岡崎……」
朋也「うわ、なんだよ、いきなり」
数瞬もしないうち、いきなり春原が現れた。
さわ子「逃げようとしても、無駄だからね」
そのとなりで、さわ子さんが春原の首根っこを掴んでいた。
その温和な表情と、やっていることのギャップが怖い。
春原「この人、速すぎるよ…」
春原も大概素早いほうだったが、それを上回るほどなのか。
やはりこの人は底知れない。
唯「ねぇ、さわちゃんさぁ、最近こないよね」
隣から平沢が語りかける。
さわ子「新勧ライブもみてあげられなくて、ごめんなさいね」
唯「私達だけでもなんとかなったよぉ、えっへん」
さわ子「みたいね。頼もしいわ。今日はいけるから、琴吹さんによろしく言っておいてね」
さわ子「じゃ、岡崎くん、春原くん、ついてきて」
春原「自分で歩くんで、そろそろ離してくれませんか…」
さわ子「あら、ごめんなさい」
ぱっと手を離し、解放する。
さわ子「いくわよ」
言って、背を向ける。
さわ子「ああ、それと、平沢さん、さわちゃんって呼ぶのはやめなさいね」
振り返り、それだけ告げると再び歩き出した。
俺と春原もそれに従った。
―――――――――――――――――――――
今日さわ子さんに命じられたのは、中庭の整備だった。
ぼうぼうに生い茂った雑草や、生徒が不法投棄したゴミなどの処理が主な仕事だった。
スコップでざくざく地面を削りながら、愚痴をこぼす春原。
春原「岡崎、落とし穴でも作って遊ぼうぜっ」
朋也「ガキかよ…」
春原「じゃ、アリの巣みつけて、攻撃は?」
朋也「同レベルだっての…」
春原「じゃ、なんならいいんだよっ。砂の城か? 秘密基地か?」
朋也「おまえ、ほんとに高三かよ…」
春原「少年の心を忘れてないだけさっ」
朋也「ああ、そう…」
―――――――――――――――――――――
朋也「ふぅ…」
空を見上げる。
陽も落ち始め、オレンジ色に染まりだしていた。
朋也「春原、そっちはどうだ」
春原「ああ、完璧さ…みてみろよ」
朋也「………」
こいつ、黙々と作業してると思ったら…。
げしっ げしっ
春原「ああ、なにすんだよっ! 春原王国がぁああっ!」
朋也「なにが春原王国だ、さっさと滅べ」
げしっ
春原「寝室がぁああっ! 謁見の間がぁああっ!」
朋也「細かく作りすぎだろ…」
もはや職人芸の域だ。
声「お?い、ふたりとも?」
春原「あん?」
こっちに近づいてくる人影。
唯「おつかれさまぁ?」
平沢だった。
突如、足が地面にめり込み、つまづいて倒れた。
春原「やべっ…」
こいつの落とし穴だった。
ぼかっ
春原「あでっ!」
とりあえず一発殴っておいた。
―――――――――――――――――――――
朋也「足とか手、大丈夫か?」
唯「うん、平気だよ」
春原「いや、悪いね、ははっ」
唯「こんなところに落とし穴なんて作っちゃだめだよっ、春原くん」
春原「つい出来心でさ」
朋也「恩をあだで返しやがって。最低だな」
春原「そんなの、作ってる最中にわかるわけないだろ」
そして、部活が終わって、渡り廊下から中庭を覗いてみると、まだ俺達がいた。
そこで、差し入れを持ってくることを思いついたのだという。
他の部員たちには先に帰ってもらったらしい。
春原「ま、せっかくもらったことだし、一杯やりますか」
プルタブを開ける。
ブシュッ
春原「うわっ!」
噴き出した液体が春原を襲う。
春原「平沢…おまえ、振ったなっ! 炭酸じゃねぇかよっ!」
唯「ご、ごめんね、走ってきたから、無意識に…」
朋也「お、すげ、今のでおまえから虹がかかってるぞ」
春原「かかってませんっ」
唯「あははっ」
―――――――――――――――――――――
三人で坂を下る。
唯「ここの桜って綺麗だよね」
今はもう、その花も少し散りはじめていた。
春原「毛虫がうざいだけだよ」
唯「だとしても、いいものだよ」
朋也「こいつにそんなこと言っても無駄だぞ」
朋也「花より団子を地でいくような奴だからな」
朋也「この前なんか、変な虫に混じって花の蜜にむしゃぶりついてたし」
春原「んなことしてねぇだろっ!」
唯「春原くん…桜は荒らさないでね?」
春原「信じるなっ!」
―――――――――――――――――――――
春原「じゃあな」
唯「ばいばい」
朋也「また後で寄るぞ、俺は」
春原「ああ、だったね」
俺たちに背を向け、歩いていく春原。
唯「いこっ、岡崎くん」
朋也「ん、ああ…」
一緒に帰るつもりのようだ。
どうせ、途中どこかで分かれることになるのだろう。
それまでなら、いいかもしれない。
―――――――――――――――――――――
予想に反して、いっこうに平沢と道を違えることはなかった。
もう通学路の道のりを半分以上来てしまっている。
今までと同じだけ歩けば、家に帰りついてしまう。
唯「岡崎くんも、家こっちのほうなんだ?」
朋也「ああ、まぁな」
唯「私と同じ通学路なのかもね」
朋也「かもな」
唯「でも、今まで一度も遭ったことないよね」
朋也「俺とおまえの通学時間が違うからじゃないか」
唯「あ、そっか。岡崎くん、二、三時間目くらいにくるもんね」
朋也「ああ、もうずっとそうしてる」
唯「そっか…でも、帰りは…」
唯「あ、帰りも、私、部活やってて遅いからなぁ…そりゃあ、時間、合わないよね」
朋也「大変なんだな、部活」
唯「そんなことないよ。いつもお菓子食べたり、お話したりが大半だから」
朋也「でも、ライブではすごかったじゃないか。素人の俺にはよくわかんないけどさ」
朋也「上手くやってるように見えたぞ」
唯「そこが私達のすごいところなんだよっ。なんていうのかな…」
唯「そう、仲のよさがそのまま演奏のよさにつながってるんだよっ」
唯「だから、お菓子食べてだらだらするのも練習のうちなの」
謙遜で言っているのではなく、本当にそんな風に過ごしているのだろうか。
確かに、茶を飲んでいるところは見たが、練習と本番も同じく見ているので、あまり想像できない。
普段は、こいつの言うように、緩いところなんだろうか。
―――――――――――――――――――――
唯「びっくりだよ…」
唯「私のうち、この先をずっといって、信号二つ渡ったところだよ」
唯「同じ地区だったんだね」
朋也「みたいだな」
唯「中学校はどこだったの?」
朋也「隣町のほうだ」
そこは、公立であるにもかかわらず、バスケが強いことで有名な中学だった。
俺がこの町にある近場の中学ではなく、隣町を選んだのは、それが理由だった。
毎年そこからは何人もスポーツ推薦でうちの高校に進学している。
俺もそのうちの一人だ。
唯「じゃ、小学校は?」
朋也「あっちの、大通りを通って、坂下ってったとこのだよ」
唯「うわぁ、そっちかぁ」
唯「私は、和ちゃんが桜高のある方面にしたから、私もそっちにしたんだよね」
唯「あ、私と和ちゃんって、幼馴染なんだよ」
朋也「そっか」
唯「うん。でも、どおりで今まで知りあってないはずだよね。家、そんなに遠くないのに」
唯「風水?」
朋也「ああ。なんかこう、立地が魔よけ的になってたりな…」
唯「それ、私が魔だっていいたいの?」
朋也「まぁ、そんなところだ」
唯「ひどいよっ! こんな愛くるしい魔なんていないよっ!」
自分で言うか。
朋也「でもおまえ、頻繁にピンポンダッシュとかしそうじゃん」
唯「しないっ!」
とん、と軽く俺の胸を叩いてきた。
唯「もう…変な人だよ、岡崎くんは」
朋也「そりゃ、どうも」
唯「…えへへ」
朋也「は…」
笑いかけ、止まる。
親父だった。
唯「あ…」
親父は、平沢の後方からやってきて、俺たちの横についた。
今、帰りだったのだろう。
なんてタイミングの悪い…。
唯「あ、は、はじめまして。岡崎くんのクラスメイトで、平沢唯といいますっ」
やめてくれ、平沢…
会話なんてしなくていいんだ…
親父「これは、どうも。はじめまして」
唯「えっと…岡崎くんの、お父さん…?」
親父「………」
なんと答えるのだろう。
はっきりと、父親だと言うのだろうか。
こんな子供だましのような、薄っぺらい、ごっこ遊びを続けたまま。
親父「そうだね…でも、朋也くんは、朋也くんだから」
親父「私が父親であることなんて、あまり意味がない」
唯「え…?」
俺は家に入ることはせず、そのままそこから立ち去った。
もう、これ以上あの場にいられなかった。
あの人の中では、全部終わっているのだ。
これからのことなんて、なにもありはしない。
ずっと、衝突することもなければ、何も解決することもない場所に居続けるんだ。
たった、ひとりで。
そこに俺はいない。
唯「岡崎くんっ」
声…平沢の。
すぐ後ろから聞えてくる。
けど、俺は無視して進み続けた。
―――――――――――――――――――――
朋也「…おまえはもう帰れよ」
唯「でも…」
朋也「もう、だいぶ暗くなってるぞ」
陽は完全に落ちきって、外灯が灯っていた。
唯「岡崎くんは、どうするの」
朋也「いくとこあるからさ」
唯「どこに」
言って、歩き出す。
それでも、まだ平沢は黙ってついてきた。
朋也(勝手にしろ…)
―――――――――――――――――――――
朋也(はぁ…)
どこまで行こうが、帰る気配はなかった。
俺の後方にぴったりとくっついてきている。
朋也「…腹、減らないか」
立ち止まり、そう訊いてみた。
唯「…うん、すごく減ったよ」
朋也「じゃあ、どっかで食ってくか」
唯「私…憂が…妹がご飯作ってくれてると思うから…」
朋也「そうか。なら、早く帰ってやれ」
唯「岡崎くんは、外食でいいの? 帰って、ご飯食べなくて…」
朋也「帰ってもなにもないからな」
朋也「いつも弁当で済ませてるんだよ」
唯「えっと…お母さん、ご飯作ってくれないの…かな?」
ためらいがちに訊いてくる。
朋也「母親は、死んじまってて、いないんだ」
唯「え…」
朋也「うち、父子家庭でさ、どっちも料理できなくてな。だからだよ」
唯「…ごめんね…嫌なこと言わせちゃって…」
朋也「別に。小さい頃だったから、顔も覚えてないからな」
朋也「いないのが当たり前みたいになってるからさ」
唯「そう…」
唯「………」
何か思案するように、押し黙る。
唯「もし、よかったら…」
ぽつりとつぶやいて、その沈黙を破った。
それは、俺を気遣っての誘いだったのか。
世話焼きたがりのこいつらしかった。
でも…
朋也「遠慮しとく」
家族団らんの中、いきなり俺のような男が上がりこんだら、こいつの両親も困惑するはずだ。
なにより、俺がそんな訝しげな目を向けられることが嫌だった。
それに、どう対応していいかもわからない。
唯「そう…」
泣きそうな顔。
それは、外灯の光に照らされ、瞳が潤んで見えたからかもしれなかったが。
朋也「じゃあな。気をつけて帰れよ」
ポケットに手を突っ込み、きびすを返す。
一歩前に踏み出すと、くい、と制服の裾を引かれた。
朋也「…なんだよ」
振り返ると、平沢は顔を伏せていた。
唯「やっぱり、気になるよ…だって、いきなりなんだよ…」
唯「楽しくお話できてたと思ったのに、すごく悲しい顔になって…」
唯「だから、もしかして私、なにかしちゃったのかなって…」
こいつは…そんなふうに思っていたのか。
俺についてくる間も、ずっと不安を抱えていたのかもしれない。
俺は無粋な自分を呪った。
朋也「違うよ…おまえじゃない。おまえはなにも悪くない」
唯「じゃあ…どうして?」
今度は顔を上げて言った。
俺の顔を、じっと見据えていた。
朋也「…親父と喧嘩してるんだ。もう、ずっと昔から」
少し違ったが、わかりやすく伝えるため、そういうことにしておく。
きっと今のひどさなんて誰にも伝わらない。
俺にしかわからない
唯「お父さんと…」
朋也「ああ」
唯「なにかあったの…?」
朋也「ああ。色々あった」
もう取り返しのつかないほど色々と。
その先は、続かなかった。
朋也「ま、父子家庭ってのはそんなもんだ」
朋也「男ふたりが顔を突き合わせて仲良くやってたら、逆に気持ち悪いだろ」
フォローのつもりでそう付け加える。
唯「そう…」
唯「でもどこかで…喧嘩してても、どこかで通じ合ってればいいよね」
そうまとめた。
朋也「そうだな」
息をつく。
俺は不思議に思った。どうしてここまで自分の家の事情など話してしまったのか。
慰めて欲しかったんだろうか、こいつに。
虫のいい話だ。ここまで何も言わずに付き合わせておいて。
朋也「…もう、いいな? 俺、行くから」
だから、俺からそう切り出した。
黙っていれば、きっとこいつは優しい言葉を探して、俺になげかけてくれるだろうから。
唯「あ、うん…」
しばらく進んだところで…
唯「岡崎くんっ! 辛いことがあったら、私に愚痴ってくれていいからねっ!」
唯「だれかに話せば、それだけで楽になれると思うからっ!」
後ろから、声を張って俺に呼びかけていた。
俺は立ち止まらず、左腕を上げ、それを振って返事とした。
そして、気づく。もう、俺は落ち着きを取り戻し始めていることに。
それは、あいつの懸命さがそうさせてくれたのかもしれなかった。
―――――――――――――――――――――
朝。用を足し、自分の部屋に戻ってくる。
モヤがかかった意識で、時計を見た。
これも、もう目覚ましとして機能しなくなって久しい。
今朝はその唯一の役割を立派に果たしてくれた。
今から準備して学校に向かえば、四時間目には間に合うだろう時間であることがわかったのだから。
朋也(今日、土曜だよな…)
朋也(行っても、一時間だけか…)
朋也(たるい…サボるか…)
布団にもぐりなおし、目を閉じる。
………。
朋也(ああっ、くそっ…)
頭はぼんやりとしているが、体が落ちつかず、眠れない。
朋也(運動不足かな…)
………。
朋也(学校…いくか)
そう決めて、布団から這い出た。
―――――――――――――――――――――
親父の姿はなかった。
もう、出かけた後なのだろう。
―――――――――――――――――――――
戸締りをし、家を出る。
―――――――――――――――――――――
ちょうど角を曲がったところ。
見覚えのある顔をみつけた。
壁に背を預け、空を見上げているその少女。
手には、その形から察するに、大きなギターケースなんかを持っている。
「あっ」
こっちに気づく。
唯「おはよう、岡崎くん」
平沢だった。
朋也「おまえ…なにしてんだよ」
唯「ん? 岡崎くんを待ってたんだよ?」
朋也「そういうことじゃなくてさ…」
なにから言っていいのやら…。
唯「そうだね」
朋也「そうだねって…」
ここまで軽く返されるとは思わなかった。
朋也「つーか、きのう迎えはいらないって言っただろ」
唯「だから、迎えてはないよ。待ってただけだからね」
朋也「同じことだろ…」
唯「いいでしょ、待つだけなら、私の自由だし」
それならいっそ、呼び鈴でも鳴らしてしまえばいいのに。
俺に拒否された上でやるならば、ただ待つよりは手っ取り早いはずだ。
言おうとして…やめる。
もしかしたら、とひとつの考えが頭をよぎった。
こいつは、昨夜俺から聞いた話を考慮して、こんな行動に出たのかもしれない。
俺が親父と接触することにならないよう、下手に干渉することを避けて。
………。
朋也「…朝からずっと待ってたのか」
唯「うん。いつ来てもいいようにね」
そんなの、俺の気分次第で変わってしまうのに。
最悪、サボることだってありうる。現に直前まで迷っていた。
朋也「…なんで、そこまで…俺、なんかおまえに気に入られるようなこと、したか」
思い当たる節がない。
むしろ、その逆に当てはまる事例の方が多いような気がする。
唯「う?ん…そう言われると、特別、なにもないような…」
腕を組み、小首をかしげる。
唯「でもさ、人が人を気になるのって、理屈じゃないところもあると思うけどな」
胸を張ってそう言った。
朋也「…おまえ、俺のこと好きなの?」
唯「え?」
朋也「恋愛的な意味で」
唯「へ!? いや…それは…違う…かな?」
流石にそれは自分でも都合がよすぎるとは思ったが。
きっと、こいつはただ、俺のように腐っている奴を放っておけないたちなんだろう。
ストレートにいい人間なんだ。
唯「でも、岡崎くん、かっこいいし、その…いい人が現れると思うよっ」
フォローされてしまった。
ぽむ、と彼女のあたまに手を乗せる。
唯「わ…」
朋也「いくか」
唯「うんっ」
―――――――――――――――――――――
朋也「これっきりにしとけよ」
唯「なにが?」
朋也「だから、俺の出待ちだよ」
唯「私と一緒に登校するの、嫌?」
朋也「そうじゃなくて、俺を待ってたら遅刻するって話だよ」
いいや奴だと思うからこそ、巻き込みたくはなかった。
こいつはまともでいるべきだ。
唯「じゃあ、岡崎くんが朝ちゃんと起きればいいんだよ」
朋也「おまえがやめればいいんだ」
唯「やだよ。私、待ってるって決めたんだもん」
朋也「まったく思わないし、今まで通り起きる」
突き放すつもりで、そう言った。
唯「ひどいよっ、開店前のパチンコ店に並ぶ人くらい早くきてよっ」
また、わかりづらい例えを…。
というか、まったく堪えていない様子だ。
初めて会った時の再現のようだった。
唯「あ、今の通じた?」
朋也「まぁ、一応…」
唯「だけど、あえて冒険してみました」
朋也「あ、そ…」
平沢のペースに巻き込まれてしまい、それ以上なにか言う気になれなくなってしまっていた。
こいつのボケをまともに受けてしまうと、こっちの調子が乱される…。
なるべく捌くように心がけよう…。
―――――――――――――――――――――
ふたり、坂を上る。
あたりまえだが、周りには誰もいない。俺たちだけだった。
そんな状況にあるため、なんとなく隣を意識してしまう。
前を向いて、ひたすらに歩いている。
時々風で髪がそよぐ。
桜を背景にして、景色によく映えていた。
こいつのふわふわとした感じが、春という季節にマッチしているのだ。
俺は、いつかの春原の言葉を思い出す。
確か、軽音部はかわいいこばかりだとか言っていた気がする。
朋也(こいつも、かわいい部類には入るよな…)
大きい目、小さい口、通った鼻筋、弾力のありそうな頬、ふんわりとした髪質…
朋也(つーか、余裕で入るな…)
春原の言ったこと…少なくとも、こいつにはあてはまると思う。
唯「? なに?」
朋也「いや、別に」
俺はすぐに視線を前に戻す。
長く見すぎていたようだ。気づかれてしまった。
唯「?」
―――――――――――――――――――――
教室、四時間目までの休み時間に到着する。
律「唯?、どうしたんだよ」
律「とうとう、憂ちゃんに見捨てられたか?」
唯「そんなんじゃないよ?。今日はちょっと先にいってもらっただけだよ」
律「ふーん、先にねぇ…」
ちらり、と俺に目をやる。
律「こいつと登校するために?」
朋也(げ…)
やっぱり、一緒に教室に入ってきたのはまずかったか…。
そういえば、ちらちらとこっちを見ていた奴らもいたような気がする…。
唯「そうだよ」
朋也(おまえ…んなはっきりと…)
律「お? マジだったか」
嫌な汗が出てくる。
話がそういう方向へ向かっているように見えたた。
実際は、平沢の親切心から出発したことなのに。
昨日あったこと、俺が話したこと…
全部含めて、そう決めたというのも、少なからずあるだろう。
そういういきさつを知らずに結果だけ見れば、おおいに誤解される可能性があった。
唯「落とす…?」
思った通り、ばっちりされていた。
律「いやぁ、唯はそういうこと、興味あるようにみえなかったんだけどなぁ」
朋也「違う。勘違いするな」
律「なにいってんだよ。遅刻してまであんたと登校したかったんだろ」
律「思いっきり惚れられてんじゃん」
朋也「だから、それは…」
どう説明したものだろうか…。
唯「ねぇ、りっちゃん。落とすって、なに? 業界用語?」
律「うん? そんなことも知らないのか、おまえは…」
律「落とすっていうのは、口説き落とすってことだよ」
唯「口説く…って、岡崎くんが、私を?」
律「うん。それで、今ラブラブなんだろ」
唯「そ、そんなんじゃないよっ! 第一、岡崎くんには、私じゃ釣り合わないし…」
律「唯は当然かわいいとして、岡崎もなんだかんだいって男前だからな」
唯「そ、そうかな…って、ちがうちがうっ!」
唯「今日一緒にきたのは、なんていうか…私のわがままっていうか…」
唯「とにかく、そういうのじゃないからっ!」
律「ふぅ?ん、でも、なぁんかあやしいなぁ」
唯「もう許してよ、りっちゃん…」
律「いやいや、こういうことは、はっきりさせなきゃだな…」
キーンコーンカーンコーン…
律「っと、タイムアップか。ま、昼にまた詳しく聞くからな。ばいびー」
そそくさと自分の席へ戻っていった。
唯「もう…ごめんね、岡崎くん。りっちゃん、いつもあんなだから…」
朋也「いや、いいけど…」
なんとなく挙動が誰かに似ている気がして、逆に親近感が湧くような…。
そう思うのは気のせいだろうか。
ガラリっ
教師かと思ったが、目に入ってきた金髪で、その予想が裏切られたことを知る。
普通に春原だった。
肩で息をしながら着席し、そのまま机に突っ伏すと、微動だにしなくなった。
朋也(あ、死んだ…)
かのように見えたが、呼吸のためか、上体が上下しはじめた。
朋也(寝たのか…なにしにきたんだ、あいつは…)
―――――――――――――――――――――
生徒「気をつけ、礼」
声「ありがとうございました」
授業が終わり、弛緩した空気になる。
そこかしこから、昼は何にするだとか、そんな声が聞えてきた。
唯「いこ、岡崎くん」
朋也「ああ」
いつものように平沢と職員室に向かう。
土曜日は、4時間目が終わると、清掃なしで即SHRが行われ、放課となる。
昼を摂れるのはそれからだった。
―――――――――――――――――――――
唯「はい?」
職員室でボックスの中を漁っていると、後ろから声をかけられた。
さわ子「今日、なんで遅刻したの? 欠席かと思って、お家に電話したのよ」
俺が主な原因だっただけに、どうもばつが悪い。
さわ子「でも、誰も出ないし…携帯もつながらなかったし…」
さわ子「だから、なにかあったんじゃないかって心配してたんだから」
俺や春原なんかは常習犯だったし、この人は大体の事情も知っているから、いつものことで済まされる。
だが、これが普通の生徒に対する、一般的な反応だった。
唯「ごめん、さわちゃん。ただの寝坊だよ。携帯は電源切ってたんだ」
部長の時とは違い、ごまかして伝えていた。
仲がいいとはいえ、教師なので、俺の名前を出すことをしなかったのかもしれない。
それを思うと、罪悪感を感じてしまう。
さわ子「寝坊って…岡崎くんや春原くんじゃあるまいし…」
さわ子「まぁ、いいわ。それで、いつきたの」
唯「三時間目の終わりだよ」
さわ子「それ、寝すぎじゃない? 夜更かしでもしてたの?」
さわ子「よくわからないけど、夜中にギターを弾くのは近所迷惑でもあるから、やめなさい」
唯「は?い」
さわ子「夜はしっかり寝て、ちゃんと学校に来なさいね」
唯「はぁ?いぃ」
さわ子「過剰に間延びした返事はやめなさい」
唯「へいっ」
さわ子「ほんとにもう…。あ、それと、岡崎くん」
朋也「…なんすか」
少し落ちた気分を引きずったままこたえる。
さわ子「中庭、がんばってくれたみたいね。用務員のおじさんも喜んでたわ」
朋也「はぁ…」
さわ子「今日は特にやること決めてないから、帰ってもいいわよ」
朋也「そっすか」
さわ子「春原くん…は今日来てる?」
さわ子「じゃ、あの子にも言っておいてね」
そう言い残し、職員室の奥へ去っていった。
唯「私達も、いこっか」
朋也「ああ」
―――――――――――――――――――――
唯「ねぇ、今日なにもないんだったらさ、部室に遊びにこない?」
配布物を運ぶ途中、平沢が口を開いた。
前にもこんな調子で誘われた覚えがある。
朋也「遊びって…いいのかよ」
唯「うん、もちろん。一緒にお茶飲んだり、お話したりしようよ」
普段はそうしていると聞いていたが、真剣な平沢たちも見てしまっている。
それもあって、やはり、俺がその中に割って入るのは野暮ったく感じる。
唯「ね? 春原くんも誘ってさ」
黙っていると、そうつけ加えてきた。
朋也「俺は遠慮しとく。あいつはどうか知らないけどさ」
あの連中の中に入っていくことをどう思うかなんて、あいつの勝手だ。
唯「ぶぅ、つまんないなぁ。くればいいのに」
朋也「おまえがよくても、他の奴らがよく思わないかもしれないだろ」
唯「そんなことないよ。みんな、ふたりがいた時はいつもより賑やかでよかったって言ってたし」
朋也「部長もか」
唯「うん。いないと、なんとなく寂しいって言ってたよ」
朋也「そっか」
少し意外だった。あんなにも春原と仲が悪かったのに。
唯「だから、ね? 遠慮しないでいいんだよ?」
朋也「いや…それでもやっぱ、いいよ」
むこうが歓迎ムード寄りだったとしても、どうしてもおれ自身が気兼ねしてしまう。
唯「ちぇ?…」
―――――――――――――――――――――
SHRも終わり、やっと昼食の時間を迎えた。
唯「岡崎くん、お昼どうするの? 学食?」
唯「じゃあさ、また私たちと一緒に…」
春原「おい、岡崎。さわちゃんなにも言わずに出てっちゃったんだけど、なんか聞いてる?」
平沢がなにごとか言いかけた時、春原が現れた。
朋也「今日はもう帰っていいってよ」
春原「マジ? ラッキー」
唯「ていうか春原くんって、さわちゃんって呼んでるんだね」
春原「ああ、もう長い付き合いだからね」
唯「私とりっちゃんもそう呼んでるんだよ。まる被りだね」
春原「ま、最初にそう呼び始めたのは僕だろうけどね」
なぜか対抗心を燃やし始めていた。
唯「む、そんなことないよっ。私たちなんて、会った瞬間からそう呼んでたんだから」
春原「甘いな。僕なんて、物心ついた頃から雰囲気でそう呼んでたんだぞ」
朋也「時系列的にもありえないからな…」
唯「だよね」
なににだ。
春原「ま、いいや。んなことより昼、食いにいこうぜ」
朋也「ああ、そうだな」
言って、立ち上がる。
唯「どこいくの?」
春原「ラーメン屋…でいいよな?」
確認を取るように、俺を見る。
朋也「いいけど」
唯「あ?、外かぁ。じゃ、しょうがないか…」
春原「あんだよ、なんかあんのか」
唯「いや、学食だったら、一緒にどうかなと思ったんだけどね」
春原「そんなにどうしても僕たちと一緒がいいなら、ラーメン屋ついてくりゃいいじゃん」
そこまで熱望していない。
唯「お弁当持ってきてるからね。学食なら一緒のテーブルにつけたでしょ」
春原「もういこうぜ、岡崎」
言うが早いか、ぶっきらぼうに歩き出した。
俺もそれに続く。
唯「あ、春原くんっ、ご飯食べ終わったら、部室に遊びにこない?」
春原「あん? 遊び?」
振り返り、そう聞き返した。
唯「うん。みんなでお菓子食べたり、お話したりするんだよ」
春原「………」
しばし逡巡する。
こいつのことだ、食べ物に釣られて快諾するかもしれない。
春原「それ、僕だけ? こいつは?」
唯「岡崎くんは、こないんだって」
春原「ま、そうだよねぇ、こいつは」
俺を見て、納得したような顔をする。
春原「僕も行かねぇよ」
春原「ま、僕たち、部活なんか大嫌いだからね。わざわざそんなとこ、寄りつかないよ」
どうしてそこまで話してしまうのか。
ただ、行かないとだけ言っていればいいのに。
俺は春原を恨めしく思った。
それほど触れられたくないことだった。
唯「え? どうして…」
春原「別にいいだろ、なんでも。とにかく嫌いなんだよ」
曖昧に答える。
こいつも、詳しく話す気はないようだ。
唯「…もしかして、楽しくなかったかな、私たちといて…」
どうやら平沢は、断る口実として言ったものだと受け取っているようだった。
…よかった。内心かなりほっとする。
春原「ばぁか。んなもん、僕とこいつの友情にくらべれば屁みたいなもんだよ」
春原「だよな? 岡崎っ」
朋也「ああ、その通り。屁の化身みたいな奴だよ、おまえは」
春原「なにを肯定してるんだよっ!? 一言もそんなこといってないだろっ!」
唯「あははっ、確かに、仲いいよね、ふたりとも」
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春原「あん? なに背中つついてんの、おまえ」
朋也「いや、俺の服、ちょっとほつれてたからさ、その糸くずだよ」
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春原「いや、もうやめろよっ! 地味に嫌だよっ!」
背に手を伸ばし、はたきだす。
朋也「動くなよ、もう少しでバカって文字が完成するんだから」
春原「あんた、めちゃくちゃほつれ多いっすね!」
唯「あははっ」
―――――――――――――――――――――
朋也「おまえは行くと思ってたんだけどな」
春原「なにが」
朋也「軽音部」
春原「はっ…行かねぇよ。おまえと同じ理由でな」
秤にかけるまでもなかったということか。
朋也「でも、昼飯は一緒でもいいんだな。ラーメン屋ついてきてもよかったんだろ」
春原「ああ、それくらいならね」
こいつの中では譲れるラインらしい。
普通ならもう関わることさえしなくなっているだろうに。
やっぱり、こいつもどこか軽音部の連中のことを気に入っていたのかもしれない。
春原「ま、ムギちゃんがいるってのがデカイんだけどね」
朋也「ふぅん。つーか、おまえマジなの」
春原「ムギちゃん?」
朋也「ああ」
春原「彼女にできれば、将来明るそうじゃん? お嬢様だぜ?」
朋也「そんな理由かよ」
春原「まぁ、それだけじゃないよ。かわいいし、いいこだしね」
春原「僕の彼女になれる条件を満たしてるってことだよ」
こいつは琴吹の『いつか殺りたい人間』リストの最上段に載れる条件を全て満たしているはずだ。
春原「はぁ、うまかった」
ラーメン屋で昼を済ませ、外に出てくる。
春原「学食のもいいけどさ、たまにはがっつり、ニンニク入ったラーメンも食いたくなるよね」
朋也「そうだな」
これはかなり共感できた。
チーズバーガーが無性に食べたくなる衝動と同じ原理だ。多分。
春原「あ、コンビニ寄ってかない?」
朋也「いいけど」
―――――――――――――――――――――
近くのコンビニに入る。
同じ学校の制服もちらほら見かけた。
春原「今週は載ってるかな…」
小さくつぶやき、雑誌コーナーへ向かう。
俺もそれに倣った。
―――――――――――――――――――――
春原「うぉ…ははっ」
朋也(口に出すなよ…うるせぇな…)
朋也「春原、もうちょい奥にいってくれ。立ち読み客がつかえてる」
春原「ん、おお」
雑誌から目を離さずに移動する。
朋也「まだ足りないって」
春原「ん…」
端までたどりつく。
そう、そこはまさに、警告標識で仕切られた、いかがわしい雑誌コーナーの目の前。
春原「うっお…へへっ」
そんな場所で不気味なうめき声を上げるこの男。
ただの変態だった。
女生徒1「あれって…」
女生徒2「えぇ…やばいよ…」
女生徒1「大丈夫だって…」
うちの学校の生徒にも目撃されていた。
その女生徒たちは、なにやら携帯を取り出すと、カメラのレンズを春原に合わせているように見えた。
コメント
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