- 2010-09-23 (木) 19:47
- けいおん!






【憂】
冬休みに入ったばかりの日。
お姉ちゃんは私を連れだって、デパートに来ました。
クリスマス会の買い出しのためでもありますが、
今日は和ちゃんの誕生日プレゼントを買う予定なんです。
まだ何を買うかは決まっていませんが。
唯「憂、クリスマス会のご飯なに作ろっか?」
憂「お買いものしながら考えようかなって」
憂「食料品買うから、和ちゃんのプレゼントは先に選ばないといけないし」
唯「じゃ、色々見てまわろっか」
憂「うんっ」
私たちはエスカレーターを何度も上ったり下りたりしながら、
雑貨店、時計店、アクセサリー屋などを回りました。
お姉ちゃんは相変わらず金属製のアクセサリーにはしゃいでいたけれど、いまいち和ちゃんに渡したい品物は見当たりません。
唯「ふぅ?む」
お姉ちゃんも閉口してしまいます。
唯「15年も友達やってて、欲しいものひとつ分からないなんて……」
憂「うーん……和ちゃんって物欲なさそうだからね」
憂「いっそさ、私たちのあげたいものを探してみようよ」
唯「私たちのあげたいものかぁ……」
お姉ちゃんは案内板を見ながら唸ります。
クリスマス商戦のせいかデパートはとても混み合っていて、
ちゃんと手を繋いでいないと迷子になってしまいそうです。
唯「あっ、これだよっ!!」
なんて、思った端から。
繋いでいた手を放して、お姉ちゃんはエスカレーターを駆けあがっていってしまいました。
憂「もう……お姉ちゃんてば」
腰に手を置くと、ほっぺたがふくらみました。
今は携帯を持たされているから大丈夫だけど、
昔も似たような状況でおおごとになったのをお姉ちゃんは覚えていないんでしょうか。
発信履歴から、お姉ちゃんの携帯に電話をかけます。
憂「……話し中?」
けれど、流れてきたのは合成音声によるアナウンス。
ヒーリング効果を持つ、お姉ちゃんのかわいらしい声ではありませんでした。
お姉ちゃんのいない人混みは、不安になるので苦手です。
私は息が荒くなるのを抑えつつ、また発信履歴から一番上を選んでコールします。
またです。不快な女性様の声でした。
【唯】
――――
何度かけ直しても同じ。
憂はきっと、誰かと楽しく電話で談笑しているんだ。
唯「もう、憂のやつめ」
勝手に先走っちゃった私も悪いけれど、
こんな人の多いところではぐれちゃったんだから、もっと心配してほしい。
……身勝手か。
唯「先に行ってよっと」
唯「4階の、メガネスーパー……と」
一応、行き先のメールだけはしておく。
本当に迷子になってしまっては、私の機嫌の問題だけではなくなる。
唯「さてと……」
携帯をバッグにしまい、私は目的の店に向かう。
和ちゃんがいつもかけている赤い眼鏡。
あれを買ったというメガネ屋さんだ。
和ちゃんはあの眼鏡にそうとう愛着を持ってるみたいで
中学のころから、毎日同じ眼鏡をかけている。
それどころか、あれ以外の眼鏡はひとつだって持っていない。
和ちゃんは深刻な眼鏡不足に悩まされているはずなのだ。
そんなわけで私は、誕生日プレゼントに和ちゃんに似合う眼鏡を探すことにした。
唯「おっ、あったあったメガネ屋さん」
真っ白なお店に整然と並ぶ眼鏡、眼鏡、眼鏡。
なんだか頭がポヤポヤしてしまう。
和ちゃんにはどんな眼鏡が似合うんだろう。
丸眼鏡、フレームレス、瓶底眼鏡、鼻眼鏡。
なんでも似合っちゃうような気がする。
「2002」をかたどったサングラスとかでも、平然とかけてしまいそう。
私は、鏡に映る自分の顔に和ちゃんの顔をだぶらせながら、
無難そうな眼鏡を選んでかけていく。
唯「ベタすぎるなぁ」
唯「ちょっと地味……ジミー・ペイジ」
唯「ぷっひひひ……」
和ちゃんには、こういう眼鏡ではアクセントが足りないのかも。
冒険しすぎなくらいがかえって良いんじゃなかろうか。
方向性を見定めた私は、数少ない派手な眼鏡を探していく。
隅々まで目を凝らして探していくと、商品棚の陰になった場所に
それはもう、心湧き踊るアドベンチャーな眼鏡を発見した。
唯「これは……」
白と水色のボーダー柄のフレームは、
いつかの学園祭ライブのビデオで目にした、澪ちゃんのアレを思い起こさせる。
それでいて分厚いフレーム、角眼鏡。
唯「デザイナーはもうきっと……うん」
ひとつの不幸な家庭を想像しながら、
私は前かがみになり、鏡の前でその眼鏡をかけてみた。
唯「あれ?」
そこで、ふとおかしなことに気付く。
唯「値札がついてない……」
お店で売ってる眼鏡には、だいたい「強化レンズ」だとかいうシールと
売り物だから当然、値札がつけられている。
けれど、この眼鏡にはそのどちらもない。
唯「なんなんだろ……」
私は落ち着かない気持ちで、鏡から目を離す。
単なる店側の不備だと考えるのが普通だけれど、
なんだかそれだけではない気がするのだ。
ふと、店の外に目をやる。
人混みを掻きわけて、憂が私のほうへ駆けてきていた。
唯「ひっ」
なぜか全裸で。
眼鏡「いらっしゃいませー」
店員さんたちが至って平静に唱和する。
全裸の痴女などそこにはおらぬというような対応だ。
どうでもいいけど、メガネ屋さんの店員だからって眼鏡を強制されるいわれはないと思う。
憂「もう、お姉ちゃん。急にいなくなっちゃだめだよ!」
そして憂の方もまた、まるでこの場に似合わない第一声。
なぁにこれぇ。
ノリツッコミとか求められてるのかなあ。
唯「あっ、えっと、うん。ごめんねうい」
まずは謝っておく。それに関しては私が一方的に悪いのだから。
でもだからって全裸になることないじゃん、憂。
お姉ちゃんが悪かったから、反省してるから。いますぐ服を着てください。
憂「ううん、いいよお姉ちゃん。和ちゃんに眼鏡をプレゼントするの?」
いつも通りの調子で、憂は笑いかけてくる。
怒ってない様子で安心はしたけれど、やっぱり憂は全裸だった。
私より大きな双丘をおしげもなく晒し出し、
ここまで来るうちに疲れたのだろうか、脚をすこし開いているために
毛が生えそろってきている秘部も丸出しだ。
憂「あはっ、なにお姉ちゃんその眼鏡。おかしいよ」
唯「ははは……」
確かに私がかけてる眼鏡もタイガイ恥ずかしいかもしれない。
でも全裸には負けてるよね。ぜったい勝てないよね。
というかそうやってあんまり自然に振舞われると、かえってツッコミ入れにくいんだけど。
憂ってば全然わかってない。
そのくせ芸人根性ばかりは超一流っていう。
いや、でも言わなければ。
そもそもボケの域を超えている。
体を張るのはいいけど、それで警察のご厄介になるのはいけない。
キタときのさわちゃん先生のように、私は睨みをきかせて眼鏡をとった。
唯「……んで全裸なんだよっ!!」
私とて愛する妹を犯罪者にしたくはないが、
やっぱり姉として注意するべきところはしなければ。
憂「おね、ちゃ……?」
憂の顔が青ざめる。
しまった、強く言いすぎただろうか。
唯「あのね、憂……」
一転、やさしい言葉で諭そうとする。
しかし私の声がはっきりした言葉をなす前に、憂は私の手を掴んでいた。
憂「失礼いたしましたっ!!」
そして、店員さんたちに頭を下げると、
私の手を引っ張って、大慌てでメガネ屋さんを退店した。
唯「ちょ、ちょっと憂!?」
予想以上の強い力に、私は抵抗もできずにトイレまで引っ張られてきてしまった。
個室に二人で入り、鍵をかけ、いつの間にやら服を着た憂が私の頬をつまんだ。
唯「ふいー……?」
憂「お姉ちゃん、さすがに衆人環視の中あれは駄目だよ」
その衆人環視の中で全裸だったのはいったい誰ですか。
唯「でっ、でも憂があんな格好してるからだよ!」
まるで一方的に私が悪いような扱い。
確かに大声で言う必要はなかったけれど、どちらにせよ元から注目はされていた。
高ぶる気持ちを抑えられず、私は反論する。
憂「あんな格好って……?」
憂はすっとぼけた。
ごまかしたところで何にもならないのに。
唯「さっきまで素っ裸だったじゃん。こんな無駄な問答したくないんだけど?」
怒りをあらわにして、憂に詰め寄る。
憂「私、裸だったの……? あんな、ところで……?」
すると、ようやく憂は反省の色を見せ始めた。
ひと呼吸おいて、憂の顔がぜんぶ真っ赤になっていく。
憂「そそ、そんな……い一体、いつ?」
唯「だから、メガネ屋さんにいる時だって」
憂「で、でも今はちゃんと服着てるよね? 大丈夫だよね?」
あ。
涙目+顔まっか。そして憂。
かわいい。
唯「う、うん。今はだいじょうぶ……」
ふと憂の裸を思い出してしまう。
なんで私まで恥ずかしくなってくるんだろう。
憂「うん……」
私が気恥ずかしさにほっぺたを掻いていると、憂が神妙な表情になった。
唯「うい、平気?」
憂「あっと……なんとか。ねぇお姉ちゃん、思ったんだけど」
憂「私、いつ服を着たんだろう……」
唯「えっ……」
言われてみれば。
メガネ屋さんからトイレに来るまでの間に、憂はいつの間にか服を着ていた。
私は全裸の妹に手を引かれていると思うと、まるで周りが見えなくなってしまったけれど、
確かに憂はずっと私の手を掴んだままだった。
人の手を掴んだままでは、どうやっても全裸から今の憂の服装にはなれない。
そして、更に言うならば。
いったい憂の服はどこに消え、どこから現れたのだろうか。
唯「なにこれ……怖いよ」
私は言い知れぬ恐怖を感じて、憂にすがりつく。
憂「だ、大丈夫だよお姉ちゃん!」
たぶん、憂も似たような恐怖を感じてしまったと思う。
それなのに、気を遣わせてしまう私はお姉ちゃんとしてだめだめだ。
憂「ほらっ、見てお姉ちゃん!」
憂は私の手から澪ちゃんな眼鏡をひったくっると、自信満々な顔で掛けた。
憂「似合うかしらん?」
唯「あははっ、変だようい?」
その可笑しさに、思わず私は吹きだした。
でも次の瞬間にはもう、笑っているのは私だけになっていた。
憂「おねえちゃん……なんで裸なの?」
両方の鼻の穴から、憂はその顔色に負けないほど赤い血を流していた。
――――
唯「つまり……」
私はレンズ越しに憂を見つめる。
素っ裸で便座に腰かけて、憂は私を見つめ返している。
唯「うん、うん」
眼鏡を外す。
温そうな格好で、憂は気恥ずかしそうに視線をそらした。
唯「この眼鏡をかけると……私や憂は裸に見えちゃうんだ」
憂「今のところわかるのは、そんな感じだね」
店員さんとか、他のお客さんたちは眼鏡越しでもきちんと服を着て見えていた。
裸になるのは、私と憂だけなのかもしれない。
それなら私は、相当恥ずかしい思いをしちゃったんだなぁ。
唯「……とすると、これは私が持っておかないとまずいね」
憂「そうだね……もし他の人に拾われたりしたら……」
お店にあったものを勝手に持ち去るのは悪いかもしれないけど、
あんなことがあった後では、ばつが悪すぎる。
ろくに管理されてなかったみたいだし、きっと大丈夫だろう。
うん、大丈夫だ。
唯「今日はこれかけたまま買い物しよっかな?」
魔法の眼鏡をちらつかせて、私は憂にウインクした。
憂「お姉ちゃんってば……」
目線を困惑させながら、憂はそっとトイレのかんぬきを外した。
幸い、他の人は見当たらない。
奇妙に思われないよう、私たちはそそくさとトイレを後にした。
唯「はぁー、でも和ちゃんのプレゼントはどうしよっかなぁ」
メガネ屋さんは実質出入り禁止なので、眼鏡をプレゼントするのはちょっと難しい。
他のお店に行けばいいけれど、
なんだかもう眼鏡自体が「気分じゃない」。
憂「そうだね……はぁ」
唯「和ちゃんってアクセもしないし小物も持たないし」
唯「何あげたらいいか分かんないよ、ほんとに」
腕組みをして、和ちゃんの欲しいものをあれこれ考える。
きっと何をあげても和ちゃんは喜んでくれるけど、
私が望むのは、和ちゃんが喜ぶ顔を見ることじゃない。
和ちゃんが、心の底から喜ぶことなんだ。
唯「……」
憂「お姉ちゃん……」
唯(……だとしたら)
私は右手に持った眼鏡を軽く握りしめる。
唯(この眼鏡をプレゼントするなんてのは……)
唯(けど)
唯「憂……この眼鏡をプレゼントしてみるってのは、どうかな」
私の発案に、憂は鳩が豆鉄砲をくらったような顔をした。
憂「で、でもそれじゃあ……」
唯「これは魔法のメガネなんだよ。和ちゃんも喜んでくれるはずだよ」
思ってもいないことでも、心の具合次第では力説することもできるみたいだ。
すらすらと滑り出る欺瞞に、私は頬をゆるめた。
憂「そうかなぁ……」
憂は首をかしげる。
唯「……」
そう言われると、私は黙るしかなくなる。
憂「むしろ和ちゃんにはあんまり喜ばしくないと思うよ」
憂「……私もちょっと怖いし」
唯「うーん……和ちゃんも意外と怖がりだからねぇ」
頭のいい人ほど、原理のわからないものに恐怖するらしい。
私と澪ちゃんを比べてみると、納得だ。
憂「やめといたほうがいいよ、その眼鏡は」
唯「うん、わかった……」
憂にそこまではっきり反対されると、さすがに押し通すわけにはいかない。
私はバッグの中に眼鏡をしまった。
その後、さらに色々な店を彷徨した末に、
和ちゃんの髪形を変えてみようということで、私たちはヘアピンを買って包装してもらった。
七色をした花びらの、綺麗な花がかたどられたヘアピンだ。
そのあと、予定からやや遅れて、私たちは食料品売り場にやってきた。
憂「やっぱりローストチキンは外せないよね」
憂「魚介のマリネとかも用意して……」
憂「そうだ、ビーフシチューとかどうかな?」
憂「んー、こっちのお肉は脂身が多すぎるかなぁ」
食材の選別をする憂の横顔はキラキラ輝いている。
私はあとどれだけ、この輝きの射すところにいれるだろうか。
憂「お姉ちゃんはどっちがいいと思う?」
憂は牛肉のパックを二つ持って、私に尋ねた。
唯「うーむ……こっちかな」
いいお肉の見分け方なんて私にはわからないので、
とりあえず賞味期限が1日長い方を私は指差した。
憂「うんっ、じゃあこっちにしよう」
憂は私が選んだ方をカゴにいれると、再びカートを押し始めた。
カートにはすでに食材が山盛りになっていて、車輪の挙動はガタガタだ。
唯「カート、私が押そうか?」
憂「大丈夫だよ、お姉ちゃん」
やんわりと断られる。
確かにこんなガタガタのカート、私だったら転ばせてしまうかもしれない。
おとなしく後ろから見ていよう。
唯「おーもーいーよー」
調子に乗って、たくさん買いすぎてしまった。
でも、高校生として最後のクリスマス会。
お財布は厳しくなっても、派手に打ち上げたい。
憂「もうちょっとだから、がんばろ?」
唯「ファイトだ平沢唯いぃー……」
どうにかこうにか家まで運びこみ、来るべく日まで冷蔵庫にしまいこんでおく。
買い物袋をぶらさげていた私の指には、赤く痛々しい痕が残された。
私は部屋に戻り、赤くなったところをさすりながら、クリスマス会のことを考える。
今年のクリスマス会は、25日に開くことになっている。
24日のお昼から集まってパーティをして、そのまま私の家に泊まるという予定だったのだけれど、
あずにゃんがゴニョゴニョ言うから、それが丸一日ずれる形になった。
律『25日の夜なんてクリスマスじゃねぇ!』
とか言いつつ、りっちゃんは嬉しそうにしていたけれど。
コレか。コレなんか。
……もっとも、予定がずれたことで喜んでいるのはりっちゃんだけじゃない。
12月25日にお泊りをするということは、次の日は12月26日。
ずばり、和ちゃんの誕生日だ。
大好きな幼馴染の誕生日を、いちばん早く、いちばん近くでお祝いできる。
私にとって、これほど嬉しいことは無い。
それが凄い楽しみだ
あ、後唯憂もお願いしますね
そして、あわよくば。
遠くへ行ってしまう和ちゃんの前で、この気持ちをこぼしてしまいたい。
唯「……」
和ちゃんが目指している大学を訪れるには、新幹線に乗らなきゃいけない。
私たちが志望通りの大学に進学できたとしたら、
そのくらいの物理的距離ができることになる。
こんなことで、私たちが築いてきた関係が水泡に帰してしまうとは思わない。
心はいつでもそばにいる。そう信じたい。
唯「……ううん、信じてる」
唯「変わらないよね、和ちゃん」
私はかばんから、くだんのメガネを取りだした。
冒険心あふれるフレームデザイン。
子供のように純真な見た目で、
しかしそのレンズには特定の人物の服を透かしちゃう力があったりする。
唯「……」
眼鏡を通して天井を見つめる。
「特定の人物」って、いったい誰だろう。
唯「確かめなきゃ」
私は携帯を引っ張りだすと、すこし逡巡してりっちゃんにメールを送った。
唯『わたし りちやん あいたいです』
律『だいじょうぶです すぐにきなさい』
唯『おまえのいえですか』
律『はい』
唯『するめ もていきます』
許可がもらえたところで、眼鏡をポケットにしまいこんで階下に降りる。
唯「ういー、ちょっとりっちゃんのとこ行ってくるね」
憂「あっ、うん。わかった。お夕飯までには帰って来てね」
居間にいる憂に声をかけ、靴を履いて玄関を出る。
そして、つきあげてくる高揚を抑えながら、眼鏡を取りだして掛けた。
道路に出ると、お隣のとみおばあちゃんが落ち葉掃除をしていた。
全裸で。
とみ「あーら唯ちゃん、綺麗なかっこして。逢瀬かい?」
唯「はい、そんなところです」
深く皺のたたまれた体は、いずれ私の行きつくところでもある。
同じ女性として直視しがたく、私は会話もそこそこに走りだした。
その後は全裸の人間にエンカウントすることなく、無事にりっちゃんの家に到着した。
チャイムを鳴らすと、どたばたと音がした。
りっちゃんが出迎えに来てくれたんだろう。
数秒後、詰まりながら、りっちゃんが引き戸を開けた。
律「おっす、ゆ……」
律「んぶっくくく」
よぉ、りっちゃん。
その反応は予想通り。
その格好も予想通り。
だけど、その小ささはさすがに予想外だぜ。
胸板じゃん、それ。
あの僅かな膨らみはパッドだったの?
律「うひゃひゃひゃっ!! なんだよ唯、そのメガネ!」
律「お前のTゾーンは澪のケツか!!」
律「鼻の穴はさしずめ……」
唯「りっちゃん、あがっていい?」
律「あひゃぁ、うんふふふ」
とりあえず上がらせてもらうことにした。
聡「姉ちゃんうるさいよ……」
奥から、りっちゃんの弟の聡くんが出てきた。
これはちゃんと服を着ている。
唯「聡くん、おいっす」
聡「あ、平沢さん……すいません、うちの姉ちゃんあんなですけど、仲良くしてやってください」
唯「えへへ、おもしろいからいいよ」
律「聡、はやいとこ退場しとけよ」
聡「わかってるって」
りっちゃんに言われると、聡くんはまた奥に引っ込んでいった。
なかなか苦労してるみたいだ。
私はりっちゃんの部屋に入ると、眼鏡をとって座った。
律「で、どーしたんだ急に?」
唯「言葉で説明するよりも、体験してもらった方が早いと思うよ」
唯「まずはりっちゃん、この眼鏡をかけてみて」
りっちゃんに澪パン眼鏡(りっちゃん命名)をつきつける。
りっちゃんは指先をぴくりと動かしてから、ゆっくりと眼鏡を手に取った。
まじまじと眺めて、おずおずと掛けてみる。
律「……」
りっちゃんは絶句していた。
唯「どうなった? りっちゃん」
律「え……と」
すこし視線を惑わせるりっちゃん。
律「なんともないけど……?」
笑っちゃうくらい、りっちゃんらしい反応だ。
ならばと私は、胸のボタンを2つ外した。
唯「じゃありっちゃん、私の下着の色わかる?」
しばし目をこらしたあと、りっちゃんは意を決した顔で答えた。
律「ぴ、ピンクだっ!」
唯「残念、黒だよ」
律「わかってたさぁ、ちょっとしたボケだよ。黒ブラの唯ちゃん」
りっちゃんは結構、往生際が悪い。
唯「そっかぁ。でも私、今日は水色なんだ」
律「参りました」
でもやられる時はあっさりやられる。
なんというか、いかにも「りっちゃん」って感じだ。
私はボタンを留め直した。
律「しかし、なんなんだこりゃ?」
りっちゃんは眼鏡を外したりかけたりして、目をぱちぱちさせている。
唯「私も細かい事はわかんないんだけど、条件に合致する人がみんな素っ裸に見えちゃう眼鏡だよ」
律「さすが澪パン……」
りっちゃんも私と一緒で、頭は冴えないけど物怖じしない。
あれこれと仕組みを考えたりせずに、あっさりと納得してくれた。
律「でも、その条件ってなんなんだ?」
唯「それを今さぐってるところなんだ。りっちゃんも一緒に考えようよ」
私はりっちゃんに、現状わかっていることを伝えた。
デパートのお客さん、店員さんや聡くんのような他人には、効果を発揮しないこと。
憂、お隣のとみおばあちゃん、りっちゃんには効果があったことなどだ。
律「親しい人間なら効果があるってことか……?」
唯「そういう感じだとは思うんだけど」
唯「でも、『親しい』ってどこから親しいって言うのかわかんないよね」
律「む……それは確かに」
りっちゃんは眼鏡の位置を直しつつ、『親しい』の基準について考え始めた。
唯「りっちゃん、そろそろ眼鏡外さない?」
律「なんか頭が働く気がするからもうちょっと掛けてる」
唯「あ、それ分かる。眼鏡かけると冴えるよね」
もういいや。
律「にしても、親しいの基準か」
律「とりあえず色んな奴と比較してみないと何とも言えないな……」
りっちゃんの言うことはもっともだった。
私たちがあれこれ邪推してみても、
澪パン眼鏡がもってる『親しい』の基準なんて分かりはしない。
そもそも私たちが考えている、親しい人間だけという条件さえ、正しいかどうかは分からないのだ。
唯「そうだね……色んな人と会ってみるのがいいんだけど」
唯「今は冬休み中だからなぁ」
律「誘えば会ってくれるのもいるだろうけど、折角だしバーンと集めて試したいな」
眼鏡のうでをペタペタ触りながら、りっちゃんは思考する。
律「あ、そだ」
律「いっそ、クリスマス会にクラスのみんなを呼んじゃうか?」
りっちゃんの言葉に、私は戦慄した。
唯「ど、どういうこと?」
律「だから、25日はさ、クラスのみんなを集めてパーティをすることにしないかって」
律「みんなでお菓子でも持ち寄ってさ。そしたらたくさん集まってくれるんじゃないか?」
悪気があって言ってるわけじゃないのはわかる。
たくさんいた方が、確かに楽しいかもしれない。
この眼鏡の効果が出る条件も、みんなと会えばわかるかもしれない。
唯「……?」
でも、なんで25日なんだろう。
りっちゃんが24日に予定があるって言うのは、なんとなく分かってた。
それを責めようってわけじゃない。
どうして、よりにもよって25日を選ぶの?
律「……唯、どうした?」
唯「う、ううん。何でもないよ」
私はたぶん、ひどい顔でりっちゃんを睨んでいたと思う。
表情を繕おうとした時、顔の筋肉が痛いほど引き攣った。
唯「いい提案だけど、クリスマス会は私たちだけがいいかな」
律「そうか? じゃ、別の機会にしておくか」
意に介した様子もないりっちゃん。
苛立ちよりも、切なさがわきあがってきた。
私は黙って手を伸ばし、眼鏡を取り返す。
唯「ていうか、学校始まってからでいいかも」
喋りながら、なるべく自然な動作で眼鏡をかける。
やっぱり、りっちゃんは服を着ていないふうに見えた。
律「でも気にならないか?」
唯「気になるけど、そう慌てることでもないかなって」
軽い嘘をつく。
本当は、いますぐにでも澪パン眼鏡のすべてを知りたかった。
だってこの眼鏡は、もしかしたら今の状況から私を救い出してくれるかもしれないから。
唯「あ、そろそろ帰らないと。ご飯に間に合わなかったら憂に怒られちゃう」
律「わかった。気を付けて帰れよ」
りっちゃんは、門の前まで私を送ってくれた。
律「その眼鏡のこと、こっちでも出来る限り調べてみるからさ」
唯「うん、ありがと。あ、何か分かったらメールしてね」
律「おう。そっちもよろしく」
唯「それじゃ、またね」
お別れを言うと、私は小走りで家路についた。
見せるのは別として
唯「あれっ……」
小走りで帰り道を往っていると、全裸の女性が向かいから歩いてきた。
どこかで見たことがある気がしたけれど、誰だったろう。
すれ違う時、一瞬だけ目が合った。
「……」
唯「……?」
やっぱり、思い出せない。
澪パン眼鏡が効果を発揮するって事は、ある程度親密な間柄なのかもしれない。
けれど、相手のほうも私と目が合っただけで、特に興味なさそうにすたすた歩いていってしまった。
唯「……もしかしたら、条件ってもっと別なものなのかな」
私はなんだか、澪パン眼鏡を過大評価しているような気がしてきた。
家に帰って、憂の作ったご飯を食べる。
今日は和風の献立だ。
憂のつくる和風料理は柔らかくて味がやさしい。
この里芋の煮物なんてもうほんとヤバい。
お口の中がふわふわタイム。
唯「憂の料理はほんとおいしいな?」
憂「褒めすぎだよ、お姉ちゃん」
唯「そんなことないよ」
私は口元を引き締めて、憂を見つめた。
唯「毎朝君の作った味噌汁を飲みたいな」
憂「うふふふふ」
ツッコミすら無しですか。
唯「……同じお墓に入りたいな」
意地になった私は、さらに続ける。
憂「ぬひひ……ふへっ」
憂「くくっ、わかった、約束だよお姉ちゃん……ひひひ」
なんだろう。
急に聡くんのことが心配になってきた。
クリスマス会の時にでも、あずにゃんにはお礼を言わないといけないかもしれない。
うちの妹と仲良くしてくれてありがとう、と。
唯「う、うん。約束……」
憂「もらった……もらったぁ……」
この約束、しちゃって大丈夫だったろうか。
そもそも、憂に何があった。
憂「っていうのは置いといて」
唯「あれっ」
憂から出ていた禍々しいオーラが消えた。
憂「私はいつまでなら、お姉ちゃんにおいしいご飯を食べさせてあげられるのかな……」
かわりに、憂はうなだれて悲嘆する。
唯「……それは」
憂「私もお姉ちゃんもすごく頑張らないと、いつまでもなんて無理だよ」
憂「つらい事もたくさんあると思う」
唯「……」
私は黙ってごはんを掻きこんだ。
憂「ねぇ、聞いてよお姉ちゃん」
唯「ごちそうさまっ」
憂「私と一緒のお墓なんて、無理なんだよ?」
椅子を立って、私は自分の部屋に駆け戻った。
憂「お姉ちゃんっ!!」
私の気持ち、憂にはバレていたんだ。
鍵をかけて、布団にもぐりこむ。
唯「ふうぅ、ふうぅ」
いつから、どこから、ばれてたのかな。
どれくらい悩んだのかな。
憂もこんなこと伝えたくなかったと思う。
でも、確かなんだ。
私の恋に、不幸な未来の可能性があり得ることは。
唯「……うわああああああっ!!」
何もしなければ、いずれ私は誰か男の人と結婚して、
子供も産んだりして、安穏な生活をするのだろう。
それが一般的に幸福と呼ばれるしろものだ。
けれど、もし私が和ちゃんと一緒になれたら。
どんな生活になるんだろうか。
家事は憂からがんばって教わって、きっと和ちゃんが外で働く。
大変だけど、満ち足りて幸福だ。
だけどある日、こんなうわさが流れる。
あそこの家の真鍋さんって、同性愛者らしいよ。
うわさは和ちゃんの周りまで飛んでいく。
仕事場だの取引先だので、周囲から向けられる蔑視の目。
私も同じように、落ち着いた暮らしなんてできなくなる。
その場合は5時すぎに戻ってくると思います
私がこの気持ちをムギちゃんに相談した時、
紬『唯ちゃんは女の子なのに、女の子が好きなの?』
紬『……気持ち悪いわね』
紬『っていうのが、普通の人の反応よ』
そう言われた。
普通って何だろう。
私の気持ちを否定できるくらい、すごいものなんだろうか。
紬『でもね、真剣な恋心を否定できるものなんて存在しないの』
紬『あるとしたら、その恋心をもらった人の気持ちくらいかしら』
紬『だから、普通の人の言葉になんて、耳を貸さなくていいの』
紬『もちろん、好きになった人の言葉は別よ?』
言葉はちょっと乱暴だったけど、ムギちゃんは私を肯定してくれた。
ムギちゃんの言葉を思い出しては、どれだけ救われたか分からない。
唯「ん……」
私は枕に顔をこすりつけてから、布団をけとばしてベッドを降りた。
ドアの近くまで行くと、憂が立っているのが気配でわかった。
唯「憂、さっきはごめんね」
憂『ううん……私がいけなかった。あんなこと言っちゃってごめんね』
泣いていたのか、憂の声は震えていた。
唯「いいんだよ、憂。……でもね、私が幸せになることが憂の望むことだとしても」
唯「……もうちょっとだけ好き勝手やらせてほしいな」
唯「憂には辛いかもしれないけど……私がぼろぼろになるまで、待ってほしい」
憂『……わかった』
憂『でも、これ以上無理だって思ったら、すぐに止めるからね』
憂の気配が離れていく。扉の開閉する音がした。
唯「私、ほんとにひどいお姉ちゃんだ……」
いつもいつも、憂に辛い役割ばっかり押しつけて。
その上、憂のお願いも聞いてあげない。
唯「……もうお風呂入って寝ちゃおっかな」
和ちゃんとの恋が終わったら、私はぜんぶ憂のものになろう。
その時がいつになるかは分からないけど、それからの一生は憂のために頑張ろう。
私は厚手の寝巻を手にしてから、お風呂に入るべく階段を下りていった。
【憂】
――――
12月23日 晴れ 36.9℃(あったかあったか)
今日は何かといろいろあった一日でした。
まずお姉ちゃんと買い物にいったデパートで、不思議なことがありました。
お姉ちゃんとはぐれたにも関わらず運命的に再会を果たすと、お姉ちゃんが眼鏡をかけていました。
さてなんと、お姉ちゃんが4階のメガネ屋さんで見つけたというその眼鏡は、魔法のメガネだったんです。
どんな魔法がかけられていたかというと、
この眼鏡を通して見ると、私やお姉ちゃんの服が見えなくなってしまうんです。
思い出したくないので少し省きますが、この眼鏡のことで一悶着ありまして、
私はお姉ちゃん二人で、同じトイレの個室に入ってしまいました。
立ちこめるアンモニアの臭いの中で、お姉ちゃんがとっても近くて、
それにお姉ちゃんはちょっぴり怒ってたみたいで、不覚にも私は興奮してしまいました。
【憂】
――――
12月23日 晴れ 36.9℃(あったかあったか)
今日は何かといろいろあった一日でした。
まずお姉ちゃんと買い物にいったデパートで、不思議なことがありました。
お姉ちゃんとはぐれたにも関わらず運命的に再会を果たすと、お姉ちゃんが眼鏡をかけていました。
これだけでも素晴らしいんですが、
なんと、お姉ちゃんが4階のメガネ屋さんで見つけたというその眼鏡は、魔法のメガネだったんです。
どんな魔法がかけられていたかというと、
この眼鏡を通して見ると、私やお姉ちゃんの服が見えなくなってしまうんです。
思い出したくないので少し省きますが、この眼鏡のことで一悶着ありまして、
私はお姉ちゃん二人で、同じトイレの個室に入ってしまいました。
立ちこめるアンモニアの臭いの中で、お姉ちゃんがとっても近くて、
それにお姉ちゃんはちょっぴり怒ってたみたいで、不覚にも私は興奮してしまいました。
その上、うっかり魔法の眼鏡をかけてしまった私は、お姉ちゃんの裸を見てしまいました。
耐えきれるよしはなく、されど興奮をおさめるすべもなく、
私は鼻血を出して、お姉ちゃんに心配をかけてしまいました。猛省ですね。
で、眼鏡のことは忘れることにして、和ちゃんへのプレゼントをふたたび探しに。
髪型が真面目すぎるということで、キラキラしたヘアピンを贈ることにしました。
26日になったら、スタイリングしてあげようと思います。
和ちゃんがどんな風に変身するのか、今から楽しみです。
誕生日の日くらい、皆さんの前だけど和ちゃんって呼びたいな。
ひとまずはここまで。
お姉ちゃんと喧嘩してしまいました。
冗談のつもりだったんだろうけれど、どうしようもなく悲しくなってしまって
お姉ちゃんにとって、一番つらいことを言ってしまいました。
お姉ちゃんの幸せを傷つけてしまうなんて、私は最低の妹です。
時折、妹ではなくメイドさんとかがよかったかな、と思ってしまいます。
お姉ちゃんの生き方に口出しすることはできないのに、
お姉ちゃんの喜ぶ顔を近くで見ていられるのですから。
お姉ちゃんでもお嬢様でもいいから、ずっとそばにいたいです。
そのくせ黙って見守ることもできない妹の自分が、今はいとわしく感じます。
『憂の日記 第57巻 ?18歳になったお姉ちゃんのかわいさでベテルギウスが爆発しそう?』より
【唯】
――――
けだるい朝だった。
休みのうちは憂も粘り強く起こしに来たりしないが、
ここ2、3日は私の部屋の戸を叩くだけだ。
まだ私のわがままを許してくれていないんだと思う。
起きた時には、相変わらず「体温測定だよ」と抱き着いてくるけれど。
唯「……はぁ」
今日は12月25日。
待ちに待ったクリスマス会の日だ。
おしゃれをして皆を待たないと。
いつまで一緒にいられるか分からないんだから、
思い出になる日には、可愛い私を記憶してほしかった。
憂「お姉ちゃん、相変わらず寝ぐせすごいね」
苦笑しながら、憂は私の髪に櫛を通す。
何よりすごいのはこのクセを1回でサラサラにしてしまう憂だと思う。
唯「憂はぜんぜん寝ぐせつかないのにね」
憂「たぶん、お姉ちゃんは寝てる時にもぞもぞ動きすぎなんだと思うよ」
唯「えっ」
もしかして、私の寝ぐせはアレのせいなんだろうか。
いやまさかそんなばかな。
確かに昨日は終わってすぐ、そのままの体勢で寝てしまったけれど。
憂「お姉ちゃん?」
唯「なんでもごザアませんわよ、ホホホ」
とりあえず気取られるわけにはいかないので、適当にふざけて憂の気をそらした。
髪が整ったところで、憂はそっと私の頭を撫でてきた。
唯「……どしたの?」
憂「……ううん、なんでもない」
唯「そう?」
憂の手つきは優しくて、なんだか母親みたいだった。
憂「私がこんなことしても、何の意味もないよね」
唯「そんなことないよ。なんか安心する」
憂「えへへ。そうじゃないんだけど……ありがとう」
もう少しだけ憂は私の頭を撫でて、どこか切なそうに笑った。
憂「じゃあ私お料理出してくるから、お姉ちゃん着替えてきてね」
唯「はーい」
今日のコーディネートは既に決めてある。
私は机の上に畳んでおいた服に着替えた。
唯「あっ……」
着替え終わった後、机の上に置きっぱなしになっている澪パン眼鏡に気付く。
慌てて引き出しの奥にしまいこんだ。
澪パン眼鏡の存在をみんなに知られるわけにはいかない。
りっちゃんにも口止めしてある。
律『なんでだよー。みんなに教えたほうが面白いじゃんか』
唯『わかってないなぁ……この眼鏡はみんなにイタズラを仕掛けるためにあるんですぜりっちゃん』
律『なんとっ! そこに気付くとは……やはり天才か』
私でも思う。りっちゃんは扱いやすい。
思わず頬が緩んだ。同時に、ドアチャイムの間延びした音が私の耳に届く。
ついにこの時が来たか。
私は部屋を出て、みんなを出迎えに行った。
玄関のドアを開けると、マフラーを巻いたみんなが勢ぞろいしていた。
澪ちゃん、りっちゃん、ムギちゃん、あずにゃん、和ちゃん。
みんな赤っ鼻のトナカイになっていた。
唯「よく来たねぇー。上がりたまへ」
律「寒かったよーほんと」
梓「すっかり手が冷えちゃいました」
あずにゃんは無意識なのか、自然に私の手を握ってきた。
梓「はー……あったかいです」
唯「あずにゃん、手離さないと靴脱げないよ?」
梓「えっ? あ、あっ、すいません……」
私の手を包み込んでいた両手を慌てて離して、あずにゃんは赤面した。
あずにゃんが言うほど、冷たい手ではなかったと思うけれど。
あずにゃんも体温高いのかな。
唯「和ちゃんもおひさっ!」
私は軽く手をあげた。
ほんとは抱きつきたかったけど、私の気持ちはムギちゃん以外には秘密にしている。
こんな気持ち、みんなに知られたらまずい。
それに私は、今の時点でもう拒否されることが恐ろしくて仕方なくなっていた。
和ちゃんにさわったら嫌がられてしまうんじゃないかって、柄にもない事を考えていた。
和「たった2日、顔を合わせなかっただけでしょ」
唯「和ちゃんそっけないー」
和「はいはい」
せっかく会えたのに、和ちゃんはけんもほろろ。
悲しいなぁ、もう。
いつも通りの和ちゃんなんだけどね。
――――
律「そしたらムギの足元からぶわーっと風が出てきてな」
和「災難だったわね……」
紬「地下鉄の通風孔があるなんて知らなかったわ……」
澪「まぁ都会なんて行くものじゃないってことだ」
梓「でも、マリリンモンローみたいでセクシーでしたよ」
憂「梓ちゃん、フォロー下手だね」
梓「ええっ!? あ、その、サテン地ですごくきれいな下着でしたし、見られても大丈夫ですよ!」
唯「あずにゃん……」
紬「いいのよ梓ちゃん。パンツなんて穿いてた私が悪いの」
和「それも違うと思うわよ、ムギ」
お昼の間は、みんなで県外の街まで買い物に出た日の話をしていた。
澪「それでさ、ちょっと高かったけどみんなで色違いのブレスレットを買ったんだよ」
あの日買った軽音部おそろいのブレスレットは、今日も私の手首にまわされている。
他のみんなも同じだ。
りっちゃんはアクセサリーが苦手だって言っていたけれど、これだけは特別らしい。
和「そういえば唯って、最近いろいろアクセサリー買うようになったわよね」
唯「うん。なんか色々欲しくなっちゃうんだ」
なんか、なんだか、どうしてか。
私は嘘を吐いたりごまかしたりするとき、これらの言葉を多用する。
頭が悪いから、もっともらしい代わりの言葉が浮かばないんだ。
澪「けど、ちょっと使いすぎじゃないか?」
唯「いいよぉ、そんなの」
私がおこづかいを使い果たしてまで、アクセサリーを買う理由。
それは、金属製のアクセサリーは私たちを繋ぎとめてくれるからだ。
あのころ着ていたおしゃれな服は傷んでしまう。
制服もひっくるめてそうだ。
「けいおんぶ」のキーホルダーだって、いつも持ち歩いていたらボロボロになる。
だけど、金属のアクセサリーはなかなか壊れない。
もし壊れても、また直せる。
よっぽどひどい壊れ方をしない限りは。
私は壊れないものをたくさん持っているんだと思いこみたいだけ。
くだらないけど、私にとっては大事なものだ。
梓「唯先輩はハマったら止まりませんからね」
和「ほんとにね。一つのこと以外見えなくなっちゃうのよ」
和「まあ、そこが唯のいい所なんだけど」
唯「でしょ?」
和ちゃんが私を褒めてくれただけで、にやけてしまう。
和「ここで鼻高々になられるのも困るんだけどね」
調子に乗った私を和ちゃんが叱った。
それでもなんだか嬉しくなってしまう。
私、変態だったのかも。
――――
律「憂ちゃんの料理がうますぎる……」
梓「ほんと。これならお店で出せるよ」
紬「憂ちゃん、どう? 私のところでお店開いてみない?」
憂「あはは、そんな。買い被りすぎですよ」
紬「あら、本気なんだけどなぁ」
憂「へ……」
大きなお肉を噛みながら、私は動向を見守っていた。
紬「学校を卒業したら、私のところに来ない?」
澪「お、おいムギ……」
紬「ひとつのルートを提示しているだけよ。無理になんて言わないわ」
憂「私は……」
憂が横目で、私に助けを求めた。
唯「憂、いま結論を出すことでもないよ」
憂「……」
ムギちゃんの目は真剣そのものだ。
その視線のせいか、私が言っても憂は俯いたまま、返事をしない。
律「あっと……」
りっちゃんが喉を詰まらすほどの重苦しい空気が支配した。
さっきまでは、楽しいクリスマス会だったのに。
和「そのへんにしなさい、ムギ」
和ちゃんが厳しい声でムギちゃんをたしなめた。
紬「……ええ、そうね。また今度にするわ」
ひとまずこの場はおさまったけど、明らかに空気が冷えていた。
憂の料理が温かに見えない。
和「じゃあ一発芸いきます」
唯「えっ?」
どこに隠していたのか、和ちゃんは私の黒いタイツを取り出した。
そして、腰を包む部分を広げて、ふくらんだ胸からぶら下げると
和「おばあちゃん」
と言い放った。
澪「……あぁ」
少しの時間差をおいて、澪ちゃんの納得したような声。
それがみんなの堤防を決壊させた。
――――
【和】
すっかり夜も深まり、憂は眠たげに目を擦った。
もう、ムギに言われたことも忘却の彼方に去ったことだろう。
一晩で用意した一発ギャグであそこまで場が暖まるとは思わなかったけれど、
結果的にずいぶん良い方に転がってくれたらしい。
和「あら、もう11時ね」
律「ほんとだ……お肌に悪いしそろそろ寝るか」
梓「おはだっ!?」
律に似つかわしくない発言に、梓ちゃんが吹き出した。
律「中野きさまぁ!」
梓「たいなかぁ! たいなかぁ!」
この二人はまだ元気が有り余っているようだ。
律たちのじゃれ合いは、仲のいい小学生を思い起こさせる。
唯「それじゃあ、寝床の割り振りを決めよっか」
今日、唯の家には私を含めて7人が泊ることになっている。
これだけいると、流石に二人の部屋には押し込みきれない。
和「唯と憂はそれぞれの部屋にして、あとはくじ引きね」
憂「へっ……あ、そうですね」
唯「それじゃあ、私の部屋と憂の部屋とリビングかな」
和「そういうことになるわね」
順当に行くならば、二人の部屋に2人ずつ、リビングに3人。
リビングは大きな窓があるせいで、かなり冷えこんでいる。
こたつで暖をとることになるだろうから、布団を敷くこともできない。
普通に考えれば、唯の部屋か憂の部屋の争奪戦になるだろう。
紬「あっ、なら私はリビングがいいわ!」
まぁ、軽音部はイレギュラーばかりなんだけど。
律「じゃあ私と澪もリビングだな」
澪「ちょっ……」
紬「私、友達と炬燵で雑魚寝するのが夢だったの?」
寄ってたかって、雪の山小屋のようなリビングで寝たがる軽音部。
心情は理解しかねるが、おかげで暖かい寝床を確保できそうだ。
梓「それでは、和先輩は唯先輩と憂の部屋、どちらがいいですか?」
まるで私にも希望があるんじゃないかというように、梓ちゃんが尋ねてきた。
唯が何やら言いたげに私を見ている。
和「そんなこと言われてもね……」
唯でも憂でも、どちらの部屋でも私はかまわない。
和「梓ちゃんはどっちがいいとか無いの?」
梓「そんな……選べないです」
この子いったいなんなんだろう。
まぁいいか。
二人分のくじをわざわざ作るのも面倒だし、ジャンケンでもしてぱっぱと決めてしまおう。
和「じゃあ、勝った方が唯の部屋ね」
私は拳を握って突き出した。
梓「いいでしょう……楽園に足を踏み入れる者には試練がある、戦いが待っている」
梓「そういうことですね」
要領を得ない台詞を吐きながら、梓ちゃんはファイティングポーズをとる。
頭が痛い。
和「……なんかもう私の負けでいいわ」
梓「じゃあ唯先輩は私が頂戴しますね」
和「はいはい、どうぞどうぞ」
ちょっとアレな後輩に唯を任せることにして、私は憂と一緒に階段を上った。
でも唯和だとわかってるから可哀想です…
【憂】
――――
12月25日 雪 37.1℃(ほてり気味?)
さっきの反応で確信しました。
そのことについて述べるのはあとにして、まず私の身にあったことを記します。
今日のクリスマス会で、紬さんに今後の話をされました。
最後まで話を聞くことはできなかったけれど、
紬さんの家が持っているレストランかなにかに、シェフとして招きたいという話なんだと思います。
でも、私が振舞った料理はクリスマス限りのごちそうですし、
知らない誰かが手をつける料理のために、私はこころを込められません。
折角の話かつ、紬さんには悪いですけれど、この話はお断りしようと思います。
私の道は、たぶん他にあると思いますから。
幸せな道が、きっと。
さて、私のことなんてここに記すようなことでもありません。
本題に入ります。
お姉ちゃんは、和ちゃんのことが好きです。
和ちゃんが、お姉ちゃんでなく私の部屋で寝ることになった時の表情。
お姉ちゃんが女の子を好きだというのはわかっていました。
でも、誰のことを好きなのかは、これまで確信がありませんでした。
もしかしたら私かも、という淡い期待を抱いたりもしましたが、
さっきの表情を見て、はっきりわかりました。
和ちゃんの方は、気付いた様子はなさそうです。
だから、そんな鈍い和ちゃんには、きちんと伝えてあげなきゃいけません。
和ちゃん、今夜は眠れないかもしれません。ごめんなさい。
でも、きっとお姉ちゃんのためですから。きっと、きっと。きっときっと。
『憂の日記 58巻 ?今日からずっと?』より
【和】
憂がこんな遅くに机に向かい出した。
和「……憂、もう寝た方が」
私は壁に手をつきながら、机のそばまで歩いていく。
眼鏡を外すと、視界がぼやけて何も見えない。
憂「和さん、危ないですよ?」
和「かしこまらなくていいわよ。何書いてるの?」
憂「……日記だよ。毎日じゃないけど、嬉しかったり、反省しなきゃいけないことがあった日は書いてるの」
和「あら、憂がそういうの書いてるなんて意外だわ。見てもいいかしら?」
憂「もう、和ちゃん。乙女の秘密の日記なんだよ?」
ますます意外だ。
憂が私に隠しごとをするなんて初めてだった。
いずれ話してくれるとは思うけれど。
憂「さ、寝ちゃおうよ和ちゃん」
憂は日記帳を閉じると引き出しの奥にしまい、ベッドに潜りこんだ。
一瞬だったけど、でかでかと『憂の日記#58』と書かれているのが見えた。
和「長く続けてるの? 日記」
私も危なっかしいであろう足取りで、なんとかベッドに戻ってきた。
憂「うん。もう13年かなぁ……」
和「へぇ、そんなに……よく続くわね」
憂「だって、お姉ちゃんのことを書いてるからね」
憂は幸せそうに笑う。顔は見えないけれど、息遣いでわかる。
憂「和ちゃんだって、好きな人のこと考えてたら胸がときめくでしょ?」
そのぐらい、憂のことは知っているはずだったんだけれど。
憂「私はそんな気持ちを、13年間記し続けてきたんだ。拙い文章だけど……」
憂「私は、お姉ちゃんを好きだから。愛してるから。ずっとずっと書いてきた」
今は、憂がどんな顔をしているのかわからない。
和「……そんな」
憂「ショックだった?」
ショック、なんだろうか。
自分の気持ちさえも分からない。
和「とにかく、びっくりしたって感じ」
憂「そっか、びっくりしただけか。えへへ」
和「……」
理由は分からないけれど、私は恐怖を感じていた。
警鐘がガンガンと打ち鳴らされる。私は息を落ち着けるために寝がえりを打った。
わざとらしく向けた背中に、憂がすり寄ってくる。
和「……離れてよ」
憂「いいじゃん。なかなか和ちゃんに甘えられないし」
憂の腕が、きゅうっと私の体をだきしめた。
和「唯に甘えたらいいじゃない」
憂「お姉ちゃんに甘えるのと、和ちゃんに甘えるのは違うよ」
憂「たとえば和ちゃんがお父さんに頭を撫でられたとして、それでセックスしたくなっちゃう?」
和「憂にとって私は親なのね……」
確かに、そうと意識しても、憂が背中から柔らかな胸を押し当てていても、
性欲など起こりそうもない。それは同性だからどうという次元を超越しているように思えた。
憂「ツッコミそっち?」
和「私のキャパシティを超えてるのよ」
憂「まだお話の半分も済んでないのに」
これ以上、どんな話があるというんだろう。
自惚れだけど、なんとなく予想がついてしまう。
憂「和ちゃん、これは確約はできないけど」
和「確約できないなら言わない方がいいわよ」
憂「お姉ちゃんは和ちゃんのこと好きなんだよ」
和「……」
私は分厚い布団の端を握りしめた。
綿から空気が抜けていく。
憂「和ちゃん?」
和「……どうして?」
憂「そんなこと、お姉ちゃんじゃなきゃ知らないよ」
和「違うわよっ……なんで憂が私に伝えるのよっ」
必死に声量を絞りながら、憂を怒鳴りつける。
隣の部屋では、当の唯が寝ているのだから。
憂「これ以上、大好きなお姉ちゃんの辛い顔を見てらんないもん」
ようやく憂が私から離れた。
汗ばんだ背中がやたらと寒い。
憂「お願い、和ちゃん。お姉ちゃんと付き合ってあげて」
和「……ふざけたお願いね」
憂「百も承知だよ。でも……」
続く言葉は紡がれない。
和「私にそっちの気はないの。憂の頼みはきけないわ」
憂「少しだけでいいから……」
自分で言っておいてなんだけど、その砕けた口調をやめてほしい。
心が揺らぐから。
和「このことは、唯には内緒よ」
和「自分の気持ちを勝手に告げられたあげく、知らないうちに振られたなんて……可哀想過ぎるわよ」
憂「……そうですね」
私の気持ちが通じたのか、憂は敬語に戻った。
憂「和さん、日付変わりましたよ」
和「……そうね」
憂「誕生日、おめでとうございます」
そういえば、今日は私の誕生日だった。
ついさっきまで覚えていたのに、今は憂に言われるまで忘れていた。
和「……さあね」
私の耳はずいぶん必死に、秒針が時を刻む音だけを欲した。
そのせいか、聴力には少し自信があったのだけど、物音に気付いたのは憂のほうが早かった。
憂「いま、何か音しませんでしたか?」
和「えっ?」
言われて、私は耳をそばだてた。
足が床を擦る音だ。離れていく。
和「誰かがトイレにでも起きてたんじゃないかしら」
憂「そうですかね……」
嫌な予感がした。
和「私も行きたくなってきたわ。寝てていいわよ、憂」
そう言い残し、ベッドを抜け出す。
暗闇とぼやけた視界のせいで、眼鏡をどこに置いたやら分からない。
でも、何度も来た唯の家なら、このままでも勝手は分かる。
私は裸眼のまま、壁に手をついて歩き出した。
窓にちらつく白は雪だろう。まだ降っていたんだ。
【紬】
理想郷というのは、案外自分の近くに転がっているものです。
私はそのことに気付いた数少ない人間と言えるでしょう。
高校生としては高すぎるくらいのお小遣い。
普通であって、しかし至高の学校生活。
そして、私の欲求を飽くことなく満たしてくれる部活仲間たち。
今は、私が欲しいものはなんでも持っている。
いえ持っていると思っていました。
澪「バカっ、律……」
律「いいだろ、澪……我慢できないんだ」
今まで見てきたものは、単なる日常に過ぎなかったのです。
私のためだけの理想郷が、ここに。
小さな炬燵を中心に広がっています。
澪「昨日もあんなにしただろ……?」
律「バカ言うなよ、3回こっきりで気絶しちゃったくせに……」
律「これからって時にお預けくらって、こちとら1日中ムラッ気ムンムンだっつの」
澪「言い回しがオヤジ臭いんだよ……」
律「うるせーぞ、澪」
澪「むぐっ……」
はいっ。
ご覧になってますか、カメラさん。
女の子同士でキスしちゃってますよ。
律「んっ……みおぉ」
澪「……り、ひゅぅ」
さあ、ここからです。
あの二人舌絡ませながらお互いの名前呼び合ってますよ。
可愛すぎますね。さすがにこれにはやられちゃいました。
律「はぁっ……澪っ、脱がすぞ……」
澪「律ぅ、ほんとにするの……?」
澪「ムギだって……いるんだぞ?」
いいえ、いません。続けなさい。
律「……けど」
澪「頼むよ、律……こんなことバレたら私たち」
律「……」
あらあら。
この展開はまずい気がします。
律「……そうだな、ごめん澪」
澪「ううん……私こそごめん」
律「なんで私たち、女同士で生まれてきちまったんだろうな」
澪「やめとけ、律。言ってもしょうがない……」
律「……ほんと、ごめん」
私は黙って、全カメラのスイッチを切りました。
二人の抱き合っている姿を最後に、録画は終わり。
私も同様に目を閉じました。
理想郷なんて、ないのでしょうか。
たとえ小さな炬燵の中だけでも存在しないのでしょうか。
二人が、暖かくいられる場所は。
澪「律……」
【梓】
はい、どうも。
レポーターの変態です。
間違えました、中野です。
私はただいま女の園に来ております。しかもこんな時間にですよ。
まぁ現在私のそばにいるのは睡眠中の唯先輩のみなんですけど、それもまたそれで興奮しますよね。
何よりロケーションが唯先輩の部屋だっていうことがポイント高いです。
唯先輩の私物しかないという究極の場所。息を吸うだけで、匂いだけでヤバイです。
さらに私今回、公認でベッドで添い寝することを許可されています。
流石の私も、性欲を抑えきれるか自信がありません。
まぁ駄目だったらメリークリスマスってことで。
すいません、意味分かりませんね。
とりあえず、添い寝の前にやるべきことがあります。
唯先輩の私物を持って帰らなければ、わがままを言ってまでここに来た理由がありません。
は? パンツ?
そんなものに興味があるのは初心を忘れた愚かな変態だけです。
あんなもので何を想像するというんですか。アソコですか?
考えてもみてください。
初めてその人を好きになる時、マンコを見て好きになったんですか?
違いますよね。
にも関わらず、パンツから股間を想像してオナるというわけですか?
ありえませんよね。
私は私の好きになった姿でオナります。
私の好きな唯先輩は、あられもない唯先輩じゃありません。いつもらしい唯先輩です。
私がまず手をつけたのは勉強机。
ここで唯先輩が宿題に取り組んでいるかと思うと、鼻血が出そうです。
難儀な問題で詰まり、涙声で妹に助けを求める唯先輩。
その想像だけで十分イケます。
おっ、引き出しの中から使い古しのノートを発見しました。
くだらない落書きだらけです。
これもまた至高のネタになります。
が、無くなると少々目立つものですから、ここはキープしておきましょう。
それに、机と言えばやっぱりアレが欠かせません。
私はうんと引き出しを引っ張って、目を凝らして隅を見つめました。
猫っぽいと言われるだけあって、暗視は利くんです。
ありました、ありました。
木の引き出しの奥の、板の端っこでささくれ立った木屑。
最近これがマイブームなんです。
深奥に隠された小さなもの。なんか興奮してきませんか。
たくさん取れるわ取れる。これだけ集められれば大満足です。
いざベッドに行こうと引き出しを閉めようとした時、私の目に驚愕の光景が飛びこみました。
メガネです。
どうみてもおかしいデザインセンス。間違いなく唯先輩のものです。
まさか唯先輩が眼鏡をしていたなんて。
どうして誰も教えてくれなかったんですか。
迷うことなく、私はメガネを手に取っていました。
唯先輩の、メガネ。
溢れた唾液に、口舌が濡らされていきます。
舌先が狙うは、やわらかいもみあげを通って、小さな耳にかかっていたこの部分。
吐き出す息は熱く、真っ白でした。
あと少しで、私の舌が届いてしまう――。
唯「あずにゃん、何してるの?」
ところで、思わぬ制止がかかりました。
梓「ひえっ!?」
唯「そんなとこにいたら寒いよ。私トイレ行ってくるけど、ちゃんと寝なきゃだめだよ?」
唯先輩は、それだけ言って部屋の外に出てしまいました。
その後姿は、どことなく嬉しそうに見えました。
どうやらバレなかったようです。
しかし、私はすぐさまメガネを机上に置いて、立ちあがりました。
唯先輩がトイレに行ったということは、つまりそこで唯先輩が放尿しているということです。
一刻も早くトイレの前で待ち伏せて、しぼりたてのアンモニアの臭いと、
かすかに便器に残る唯先輩の味を確かめなければいけません。
私は気配を完全に殺す『ゴキブリモード』を発動すると、床を這ってトイレへ向かいました。
当然のことですが、唯先輩には遭遇しませんでした。
私はドアが開く側の壁にぴったりと張り付きながら、今か今かとその時を待っていました。
ただひたすら、じっと、寒い中をこらえて。
唯先輩は、こんな夜中に真っ暗なトイレで小便をするほど肝の据わった人間じゃないということを思い出すまで、ずっと待っていました。
気付いたその時、すでに夜の1時でした。
バカじゃありません。
変態です。
【唯】
私は携帯を小さく開いては閉じ、逐一時刻を確認していた。
12/25という文字の並びにどことなく美しさを感じるけれど、それももうすぐ終わる。
あと1分。私は白い息を吐き出して、心を落ち着けた。
唯「……」
心臓の鼓動が、廊下じゅうに響いているんじゃないかと思うほどに高鳴っている。
私は胸を押さえつけ、なんとか鼓動を落ちつけようとした。
こんなんじゃ、和ちゃんに抱きついたときにドキドキしているのがバレてしまう。
和『違うわよっ……なんで憂が私に伝えるのよっ』
そんな折に、和ちゃんの怒声が聞こえた。
唯「!?」
夜だから気を遣ってるんだろうけど、ボリュームを絞り切れていない。
扉の外にいる私にも、はっきり聞きとれてしまった。
憂と和ちゃんは、いったい何の話をしているんだろう。
いけないとは分かっていても、私は扉に耳をつけてしまっていた。
憂『お願い、和ちゃん。お姉ちゃんと付き合ってあげて』
唯「……!」
そして、耳を疑う言葉が憂の口から飛び出した。
憂は確かに私の気持ちを知っていた。
けれど、それは和ちゃん本人には伝えないと思っていた。
唯「……」
頭では分かっている。
私はここにいてはいけない。
いますぐ部屋に飛び込んで自ら和ちゃんに想いを伝えるか、
すぐさま自分の部屋に戻って眠るかしなければいけない。
なのに、体が硬直して動かない。
狡い私は、和ちゃんの答えを待っている。
和『私にそっちの気はないの。憂の頼みはきけないわ』
唯「……」
いや、硬直なんて気のせいだった。
体はなめらかに動いた。すっと立ちあがって歩き出す。
和『このことは、唯には内緒よ』
和『自分の気持ちを勝手に告げられたあげく、知らないうちに振られたなんて……可哀想過ぎるわよ』
私の背中に、和ちゃんの声が届いた。
耳を塞ぎながら、すたすたと部屋に戻る。
唯「振られちゃったのかぁ」
誰もいないベッドに潜りこみ、私は目をかたく閉じた。
眠れるわけなんかなかったけれど。
突然、ドアが開く音がした。
入ってきた鈍重な足音は、不規則。
和「あら唯、眼鏡なんて持ってたの?」
引き出しの奥にしまっていたはずの眼鏡を、和ちゃんはどうやって見つけたんだろう。
私は、そんな関係のない事を頭の中でぐるぐる回した。
和「まぁいいわ。なんにも見えないから、ちょっと借りるわよ」
和ちゃんの歩調がいつも通りに戻る。
すたすたと私のベッドまで歩いてくる。
和「失礼するわね」
そして、ためらいなくベッドに入る。
和ちゃんが何を考えてるのかわからない。
もしかして、聞き耳を立てていたのがばれたんだろうか。
だとしたら和ちゃんは、私を慰めに来てくれたのかな。
唯「……」
私は身をよじって、和ちゃんから離れた位置に移動した。
同じぶんだけ、和ちゃんが近づいてくる。
和「ゆ……」
和ちゃんが何か言おうとして、ひきつった声を上げた。
唯「どうしたの、和ちゃん?」
平静を装い、私は和ちゃんのほうに寝がえりを打つ。
その時、初めて気がついた。
和「ゆ、唯……そんな格好じゃ風邪引くわよ?」
和ちゃんはいま、澪パン眼鏡をかけているんだ。
私の頭脳がスパークし、高速回転を始める。
今しかない。
和ちゃんの惑う視線を感じながら、私はまるで無邪気に笑った。
唯「そうかな、けっこう暖かいよ?」
実際、布団をかぶると暑いくらいの分厚いパジャマを着ている。
和ちゃんには見えてないだろうけど。
和「なに言ってるのよ……早く服着なさい」
唯「いいよぉ。和ちゃんであったまるもん」
私は無遠慮に和ちゃんに抱き着く。
体がかあっと熱くなって、汗が噴き出した。
和「ちょっ……唯」
そのままぐいっと体をひねって、無理矢理に和ちゃんを組み伏せた。
和「もう、やめてよ……唯はよくてもこっちは暑いんだから」
和ちゃんは、無垢の演技。
そうしていれば、何事もなく終わると思ってるんだろうか。
唯「いーじゃん、真冬の夜なんだから」
重たい布団をかなぐり捨てる。
和ちゃんがきゅっと目を瞑った。私の裸身を、はっきりと見てしまったのだろう。
唯「暖め合おうよー、和ちゃん」
私は腕の力を抜いて、和ちゃんに覆いかぶさった。
私の体と和ちゃんの体が、2枚の布を挟んでぴったりとくっついている。
和「いいから服着なさい。風邪引くわよ」
唯「大丈夫だよ和ちゃん、これは夢だから」
和「……夢?」
和ちゃんはきょとんとする。
唐突に言われても信じがたいだろうけれど、私は納得させられる材料を持っている。
唯「うん、だから風邪引かないよ。証拠もみせてあげる」
私は和ちゃんのかけている眼鏡を外した。
和「えっ!?」
目はよく見えないだろうけど、色の違いでわかったみたいだ。
唯「不思議でしょ? でも夢の世界じゃよくあることなんだよ」
和「……夢なの、これ?」
唯「そうだよ。和ちゃんが見てる夢」
和「……そうなんだ」
夢と繰り返して、疑り深い和ちゃんをどうにか納得させることに成功した。
唯「だから、なんにも気にしないで」
私は暖かいパジャマの袖を掴んで引っ張る。
反対側も同様に。すこしもぞもぞしてから、私はパジャマを脱ぎ去った。
和「唯……」
唯「せっかく夢の中なんだからさ、色々しちゃおうよ」
唯「幼馴染じゃできないことを、ね? 和ちゃん」
和ちゃんは、逡巡している様子だった。
夢の中だって言ってるのに、真面目だなぁ。
唯「ごめん、よく見えないよね。はい、眼鏡」
和ちゃんにもう一度眼鏡をかける。
眼鏡に度は入っていなかったと思うけれど、これで和ちゃんの視界はクリアになったらしい。
和「唯、これは……夢ってことでいいのね?」
唯「だから、何度もそう言ってるじゃん」
和「そう……」
和ちゃんは、押し倒されて少し乱れた髪を掻いた。
和「こんな夢を見るなんて……」
和「私、唯を意識しちゃってるのかしらね?」
唯「えー? どうなのかな?」
そんなこと訊かれても、和ちゃんの気持ちなんてわかりっこない。
和「……あら、分からないの。私の夢の登場人物なのに」
唯「へ?」
和「訊いてみたかっただけよ。ごめんね」
和ちゃんが私の背中に腕をまわした。
世界がぐるりと一回転した。
和「擬似ふわふわ時間ってわけ……」
いつの間にか、和ちゃんが私の上で笑っている。
体は和ちゃんに抑えつけられていた。
唯「えっと……」
和「好きよ、唯」
気がつけば。私は和ちゃんに唇を奪われていた。
1秒。2秒。
唯「ん、うっ……」
2.483秒の柔らかな感触の後、小さな水音を立てて私たちの唇が離れる。
唯「あ……」
和「……」
真剣な和ちゃんの目。
私たちはキスを交わしたんだと、見つめられながら自覚する。
唯「いまの……ほんと?」
和「だから夢だってば」
唯「……そっか、夢かぁ」
私は、和ちゃんの後ろ頭に手を置いた。
力をいれるまでもなく、和ちゃんの顔が再び降りてくる。
唯「ん……ちゅ」
和「ゆい……」
和ちゃんが、唇のすきまを割り込んで舌を伸ばしてきた。
唯「のどか、ちゃ……」
私は舌をくるくると回す。
ざらついた表側、すべすべの裏側。
喉の奥にたまっていく、温かでぬるついた液。
唯「んくっ」
私と和ちゃんが混ぜ合わせた液を嚥下する。
泡のぷちぷちした感触が喉を楽しませた。
和「……」
和ちゃんは舌を引っ込めると、2回、軽いキスをした。
唯「や、もっと……」
和「……しょうがない子」
私がわがままを言うと、和ちゃんはまた唇を合わせて舌を絡めてくれた。
どうしようもなく気持ちがたかぶってきて、和ちゃんを押し倒したくなる。
私は、和ちゃんの口の中まで舌を伸ばした。
和「んっ」
和ちゃんがひるんだ隙をついて、さっきと同じ方法で組み伏した。
唯「えへへ……」
和「危ないじゃない。ちょっと舌噛んだわよ」
唯「平気だよ。夢の中だもん」
私は乱暴なキスをしながら、和ちゃんの服の裾に手をかけた。
――――
夢は目覚めとともに終わる。
目覚めは夜明けとともに訪れる。
唯「……」
私は眠っている和ちゃんから、そっと眼鏡を奪う。
起こさないように慎重にベッドを下り、澪パン眼鏡を机に置いた。
和『擬似ふわふわ時間ってわけ……』
この眼鏡をかけて、和ちゃんはそう呟いていた。
和ちゃんも、けっこう私たちの歌を聞いてくれているみたいだ。
あるいは澪ちゃんに詩を見せられたのかもしれない。
唯「……ほんと、だめなふわふわ時間だったね」
澪ちゃんが書いた本当の『ふわふわ時間』なら、私はこれから頑張れるのに。
すごく自堕落なふわふわ時間だった。
唯「……もう、戻らなきゃ」
ある一夜の明晰夢として、昨夜のことは忘れないといけない。
私は澪パン眼鏡を再び引き出しの奥に封印すると、棚の陰から紙袋を引き出した。
その中から、小さなきらきらした箱を取り出す。
唯「ふぅー」
深呼吸をして、きちんと服を着ていることを確認して。
唯「……のーどかちゃーん!!」
今一度、心を落ちつけてから。
私は小箱を手にしたまま、ベッドにダイブした。
和「のえええええええっっ!!?」
唯「もー、折角の誕生日なのにいつまで寝てるの?」
和「唯……びっくりしたわよ」
唯「ほら、寝ぼけてないで! 誕生日プレゼントとかあるんだよ!」
私は箱の角で、和ちゃんのほっぺたをつつく。
和「わかったから。起きるからつっつかないでよ」
唯「つんつーん」
和「全く……」
私も和ちゃんも、いつも通り。
夢の中は夢の中として、現実とは切り離さなきゃいけないんだ。
和「ええと、眼鏡はどこだったかしら」
和ちゃんが目を細める。
眼鏡はたぶん、憂の部屋だ。
唯「あ、私が持ってくるよ」
【和】
和「……ありがとう」
唯「どいたしまして?」
唯はぱたぱたと走って、部屋を出る。
いつも通りに振舞っているつもりだろうけど、無理をしていることは明白だった。
今さらだけれど、やっぱりあんなことはしない方がよかったんだろうか。
和「いやいや……何考えてるの、私」
私はかぶりを振った。
そもそも何もなかったじゃないか。
和「……」
でも、これで唯の気持ちは満足するんだろうか?
唯のしたいことはセックスだったんだろうか?
あの時は、唯が裸に見えたからそういう風に思ってしまったけれど、
唯はそんな不純な思いで誰かを愛する人間だろうか?
和「……っ」
頭が痛い。
私はもしかして、唯をひどく傷つけてしまったんじゃないだろうか。
和「あ……これ」
視線を落とすと、私の腿に緑色の箱が置かれているのに気付いた。
唯が言っていた誕生日プレゼントだ。
私は手探りでリボンを外すと、蓋を取った。
和「……髪留めかしら?」
目を細めて、小さなそれに焦点を合わせる。
きらきらと輝く花が見えた。
唯「和ちゃん、持ってきたよーって……ああっ!」
和「あ、おかえり唯。どうしたの?」
私のメガネケースを持って戻ってきた唯が、私の手にある髪留めを見て叫んだ。
唯「もー! なんで先にプレゼント開けちゃうの!」
和「おかしかったかしら?」
唯「おかしいよっ! あーリアクション見たかったのにぃ!」
唯の心情はよくわからないけれど、とにかく憤慨しているのはわかった。
私は昨日そうしてあげたように、そっと唯を抱き寄せてたしなめる。
和「ごめんなさい……機嫌を直してよ」
唯「え……う、うん」
和「……良い子ね」
唯の背中を撫でながら、私は唯の小さな唇に近づいた。
唯「は、は……」
速い呼吸になって、唯は震えている。
ぼやけた視界の中、じっと私を見つめている唯の瞳だけが、やけにクリアに見えた。
この時点で私は、私の行為の異常さに気付いていた。
終わらせた夢を現実に引きずっている。
唯「和ちゃん、だめだよ……」
和「……ん」
私は唯の悲しみの言葉を無視して、唇を重ねた。
そうすれば、唯の苦しみを解きほぐしてあげられるような気がした。
唇が触れあったのはあくまでほんの一瞬だけだ。
だったら何だ、という話だけれども。
唯「……バカ」
和「唯には負けるわ」
唯「和ちゃん、そろそろ離して……本気にしちゃう」
和「そう……それは楽しみだわ」
私は唯が逃げてしまわないよう、いっそうきつく抱きしめる。
唯「やめてよっ……」
和「……」
抱きしめた体を離さないのは、唯にかける言葉が見つからない代わりだ。
私の言語能力はこんなに拙かっただろうか。
唯「やめて、和ちゃん……嘘つかないで」
唯「離して。なぐさめなんて嫌だよ」
唯が腕の中でもがき始める。
和「慰めじゃないわ。私のしたいようにしてるだけよ」
唯「嘘つかないでって言ってるのに」
別に、嘘はついていない。
なんて口に出したら、「ずるい」と言われてしまうのだろう。
唯「和ちゃん、もう、ほんとだめだから……」
和「いいじゃない。そんなこと気にする間柄じゃないでしょ?」
唯の体がぶるぶると小刻みに震える。
仔犬を抱いているようだった。
唯「いやだよぉ……」
私の腰回りに手を伸ばしては引っ込めるというのを、唯は定まらない右手で繰り返している。
息遣いは鎖に繋がれた獣のようで、恥も外聞もないといった感じだ。
これでは、唯が必死に守っているものはとうに晒け出されてしまっているようなものだ。
和「唯、無理しなくていいから」
唯「やだ、やだやだぁっ」
唯「和ちゃんが嘘ついてるんだもん、嫌だよっ!」
和「最初に手を出したのは唯じゃない」
唯「そう、だけど」
和「責任とってもらうわよ……なんてね」
軽く口をついて出た言葉が思った以上に重く、私はつい誤魔化した。
唯「……う、ぁ」
唯の睫毛が濡れていることに気付いたのは、苦しげな声が上がってからだった。
唯「ううっ……はあぁ、はぁ」
和「どうしたのよ……」
鼻水などもろもろを垂れ流しながら、唯はそれでも私を抱きしめ返しはしない。
唯「のどかぢゃん……」
唯「もゔ、もうやめ゙て……」
和「……唯?」
唯「和ちゃんの気持ちくらい、分かってるんだから……」
唯の言葉が、胸をえぐる。
唯「男の子が好きなんでしょ? 私はただの幼馴染なんでしょ?」
唯「私の知らないとこで……私のこと振ったんでしょ?」
あぁ、やっぱり聞かれていたんだ。
私の頭は悠長なことを考える。
唯「和ちゃんを襲っちゃったこと、謝るから……」
唯「もう私に優しくしないで……苦しめないで」
和「……」
私の知らない唯が、そこにいた。
出会って13年、ここまで弱りきった唯は初めて見る。
大雨の夜に捨てられた仔犬。
襷を繋ぎ切った駅伝走者。
砂漠で遭難した旅人。
色々あげてみても、唯の力なさは喩えきれない。
唯「お願い……和ちゃんが嘘をつくと私も辛いんだ」
唯「和ちゃんの無理してる姿が苦しいし、襲っちゃわないように我慢しなきゃいけないから……」
和「唯……」
唯「だから、離して……」
和「……無理よ」
こんなに震えている体を、どうして放っておけるだろう。
お節介どころかありがた迷惑だろうけど、今だけは唯を抱きしめていたかった。
和「唯が辛い時なのに、私が無理してるなんて言わないでよ」
和「いくらでも無理させてちょうだい。大切な……幼馴染なんだから」
唯「……」
それからずっと、唯は無言だった。
唯はいつの間にか眠ってしまい、結局私の言葉に返事はくれなかった。
昨夜は遅かったから、唯も疲れていたんだと思う。
和「バカよね……」
唯「の、かちゃ……」
和「うんうん」
私も少し眠くなってきた。
体をゆっくり倒して、唯ごとベッドに横たわる。
言霊は正直俺の中で最高傑作です
和「……うん」
やっぱり、奇妙な安心感がある。
同じ体勢で唯に襲われたばかりなのに。
私たちは、幼いころから何も変わっていない。
高校に入ってから唯は変わったと思っていた。実際、変わった面はあるのかもしれない。
でもそれは、あくまで唯の話。
「私と唯」だったら、何ひとつ変わってなんていない。
和「おやすみ、唯……」
私はメガネケースを無造作に転がして、目を閉じた。
【憂】
――――
12月26日 晴れ 計測不能(ちくしょう)
お姉ちゃんが和さんと付き合うことになったみたいです。
私は何も言われていませんが、お姉ちゃんのベッドに残る匂いと形跡、
それから重なり合って眠るお姉ちゃんと和さんの姿から類推した結果です。
一度、和さんかお姉ちゃんにきちんと尋ねる必要がありそうです。
でもお姉ちゃんが笑ってるって事は、きっとそうなんでしょう。
確かめるのも野暮でしょうか。
寝ている間に、和さんにヘアピンをつけてみました。
すごく新鮮な感じです。
新しい和さんとして、しっかり頑張っていただきましょう。
……それと、ここに書くべきことでもない気がしますが、私も梓ちゃんと体の関係を持ちました。
もちろん私はお姉ちゃんが大好きなんですけど、
夜中、私の部屋を訪ねた梓ちゃんに「ずっと好きだった」と告白されて、無下にできませんでした。
私は意志薄弱なんだと思います。
それから、梓ちゃんも。
あくまでもセックスフレンドという関係は、最初に梓ちゃんから提示されたものです。
私たちは女同士だから……と。
どうして、女の子が好きな私たちまで、女同士の関係に後ろめたさを感じなくてはならないのでしょうか。
私は日本人ですが、朝食にはパンです。米を食べなければ、というプレッシャーを感じることもありません。
自分の趣向がかたよっていたとして、それを恥じる必要はありません。
なのにどうして、セックスフレンドでなければいけないのでしょうか。
愛し合うのではなく、慰め合うことしかできないのでしょうか。
これは前からでしたが、梓ちゃんがちょっと分かりません。
『憂の日記#58』より
【律】
今日もまた、雪が降っているらしい。
それを知ったのは、私の家を訪ねた和の頭に白い塊が乗っているのを見た時だった。
律「こっちの応答の前にあがりこんでくる奴もなかなかいないぜ」
和「雪が降ってたから……」
律「もはや何も言うまい」
和の感覚のズレは、今に始まったことではない。
今のは感覚というよりも、常識の話だとは思うが。
律「で、何だっけ? 唯のことで相談があるって言ってたよな」
部屋に案内するなり、私はすぐ話を振った。
和「そうなのよ……律、驚かずに聞いてね」
律「お、おう」
たぶん、心の準備をしても無駄だろうと思った。
和「実は私……唯とセックスしたの」
律「……へぇ?」
気の抜けた声が出る。
和「想像してた感じのリアクションじゃないわね」
律「ふ、不満かよ」
和「いえ、別に。続けるわね」
私は和に、そこまで至った経緯を聞いた。
憂ちゃんから、唯の気持ちを聞かされたこと。
勢いに押され、一度限りと諫めてセックスをしてしまったこと。
そして今もまだ、慰めのために唯と付き合っていること。
律「ただれてんな」
あらかたの話を聞かされた私の口から、正直な感想が飛びだした。
和「まぁ否めないわね」
律「……どうしてヤっちまったんだよ」
和「どうしてって……」
和はちょっと答えにくそうにしたけれど、すぐに言葉を繋げた。
和「信じられなかったら信じなくてもいいけど、ちょっと変な眼鏡をかけちゃって」
律「変な眼鏡?」
それなら、つい最近唯に見せてもらった。
服が透けるわ、澪のパンツだわ、色々と変な眼鏡なのは間違いない。
あの眼鏡のことなんだろうか。
和「それを通して見たら、唯が裸に見えて……」
律「ほう」
やはりアレか。
ホモレズ気持ち悪っ!
書いてる奴の頭の中を知りたいわ!
恥ずかしくないの?
和「なのに、唯ったらいつもの調子で抱き着いてきて」
律「我慢できなくなったのか?」
和「否定できないわね。もし眼鏡がなかったら、私は唯を拒絶してたかも」
話を聞いている限り、最初から唯が裸で誘ったとしても、結果は変わってないと思うけれど。
それが和の思うところだというなら、躍起に否定する必要もないか。
律「ま、つまり唯の体に少なからず興奮してしまったと」
和「そうね。唯の気持ちに応えようって思いが先行していたのは事実だけど」
和「実際、先にキスとか仕掛けたのは私のほうだし」
聞いていて恥ずかしくなってくる。
背中を掻きたい。
和「……ごめんなさい、不快な話だったわね」
律「あ、いや……大丈夫だから」
不快とか言うんじゃない。
律「で……結局相談事ってなんなんだ?」
和「言ったように、私は今も唯と付き合ってるんだけど……」
和「今の関係が正しいのか、正直言って分からないのよね」
律「正しいか、ねえ」
何だか面倒な悩みのようだ。
和「たとえばよ、律」
律「あん?」
和「同じように澪が律のことを好きだったとして……こういうことになりかけたら、律はどうする?」
私は苦笑した。
例え話になってないぞ、和。
律「私は受け入れるよ。代わりに澪を失うとしたら、だけどな」
思えば、私たちの始まりもそうだった。
和「でも、愛してないのに、女同士でこんな関係を続けるなんて……」
律「んー……」
女同士で、ってのは挟む必要あるのか?
律「あくまで私の見解だけど……そういうのはいずれ気にならなくなると思う」
和「気にならなくなるって……?」
律「慰めの関係でも続けてるうちに、唯のことを好きになるだろうってことさ」
私自身がそうだったから。
律「正直、唯とするのはどうなんだ?」
和「なんていうか……重たいわね」
律「下なのか?」
和「そういう意味じゃないわよ。唯の気持ちが重たいの」
和「重たいって言うか、そうね……」
和「ものすごく愛されてるって感じて、自分が中途半端な気持ちでいることが申し訳なくなるわ」
律「はぁーへぇー」
とことん私と同じ道を歩んでるな、和。
律「気持ちよくはないのか?」
和「それは……まぁ、いいわよ。唯はすごく頑張ってくれるし」
律「じゃ、いいんじゃね? とりあえずこのまま続けていけば」
律「いずれ愛着がわき、着がとれて止め処ない愛に変わってるさ」
和「……律」
和の声色が変わる。
まずい、語りすぎたか?
律「な、なにかしら」
和「……どうして、女同士って事には何も言わないの?」
律「……」
律「むしろ、何でとやかく言われると思ったんだよ」
和「そりゃあ、普通は恋愛って男女でするものじゃない」
和らしい答えだ。
きっと、同性愛なんて考えてみたこともないんだろう。
律「それは固定観念だよ。恋愛ってのは、人間同士でするもんだろ」
律「男だとか女だとか以前に、その人間が好きなのかって話だ……和もそうだっただろ?」
和「……ほんとだわ。よく考えてるのね、律」
和「普段から考えてるの? そういうこと」
律「ましゃか」
ここで私は思ったのである。
私、けっこう前から和の敷いたレールをトロッコで激走してるんじゃないかなって。
和「それにしては、まとまった意見だったけど」
律「そうか……? まぁりっちゃんは頭脳明晰ですから」
和「……少なくとも、私には正直に話しても大丈夫だと思うわよ?」
律「ナン=ノコト=ヤラ(2005? インカ帝国)」
和「……マンコ=クァパァック」
律「そんな無理のある発音するな。私が悪かったから」
私は和に、澪との事を洗いざらい話した。
和の顔に驚きはない。
もしかしたら2年の時にでも、澪は口を滑らせていたのかもしれない。
誰にも言えない関係。
そんなものを7年も抱えていたら、そりゃあ饒舌にもなるものだ。
律「……というわけで、人から人へ伝わっていくのでした。終わり」
和「言わないわよ」
律「まぁ、そういうわけだ……」
和「なんだか私たちと似てるわね」
律「うん……最初は悪ふざけのつもりだったんだけどさ。1年も経つ頃には、むしろ私の方が強く好きになってた」
和「まさかのノロケ」
律「和が訊いたんだろっ」
和「そうだったわね。まぁそれはどうでもいいのよ」
どうでもいいって和さん。
こちとら結構がんばって子供のころの澪の声真似やってたんですけど。
あぁ、尚更どうでもいいな。
和「あの眼鏡について、律の知っていることを教えてもらえるかしら」
律「うわ……それもバレてるのか」
確かに、服が透けるなんておかしな眼鏡の話に私が食いつかないのはおかしかったかもしれない。
律「あっ、そういえば……」
和「どうしたの?」
律「あの眼鏡について、分かったことがあれば唯に連絡するよう言われてたんだけど」
律「すっかり忘れてた……」
せっかく澪の家でインターネットを借りて調べたのに、セックスしたらすっかり頭から飛んでしまったらしい。
和「……まぁいいわ。とりあえず教えてよ」
律「うん。アレはまんま、透明メガネって呼ばれてる代物でさ」
律「いっぺん裸を見たことのある相手は全員、レンズを通して見ると裸になる」
律「単にそれだけのものだな。まぁ、アングラな掲示板で聞いただけの都市伝説だけどさ」
和「ならそれ自体ウソだったり、他に機能があったりするわけね」
律「そうだな。一つの目安にしかならないよ」
和「そういえば、その情報は律しか知らないのよね?」
和「唯はこの眼鏡についてどれだけ知ってるの?」
私は数日前の唯との会話を思い出す。
律「えっと確か……親しい人間が裸になると思ってるみたいだな」
律「でも唯も、何かしら情報を仕入れてるかもしれないぜ」
和「そうね。律の知らないことも……」
私はふと疑問に思った。
和はなぜ、あの眼鏡にこだわっているのだろうか。
律「和……透明メガネがどうかしたのか?」
和「別になんでもないのよ。……ただ」
和は口ごもる。
和「試したくなったの。色々と、ね」
【和】
――――
夜、私は勉強の手を止めて、窓の外を見た。
雪はまだ止まない。
ただ、明日からは年末年始で予備校も閉まっている。
電車の心配は必要ない。好きなだけ降ってくれてかまわない。
世の中には、年末年始にこそ強化合宿を行う予備校もあるらしいが、
私の通う所はそんなゴリ押しと言うべきやり方はしない。
受験は長期戦だ。そして、勝負はまだまだこれからだ。
和「ん?」
机に置いた携帯が震え、やかましい音を立てる。
ディスプレイの上部に『唯』の字が見えた。
唯『明日、和ちゃんちに行っていい?』
唯からのメールにしては、やけに簡素だった。
付き合いだしてからは、もっぱらこんな感じだけれど。
和『いいわよ。いつでも来て』
和「……それから」
和『あと、来るならあの眼鏡を持ってきて』
10分ほどして、返事が来る。
少し遅い。
唯『わかったー』
そういえば、唯から遊びの誘いを受けるのも久しぶりかもしれない。
キスもセックスも、持ちかけるのは私のほうだ。
唯のほうも、いざその時となれば情熱的なのだけれど。
和「もしかして私……唯に避けられてないかしら」
和「……まさかね」
和「私のことを好きだって言ったのは唯なのよ」
和「……あれ?」
私、一度でも唯に好きだと言われただろうか。
眼鏡がずり落ちて、ノートの上にぽとりと着地する。
和「……唯を襲ってたのは、私の方だったり?」
和「そんなことないわよね、そんなこと……」
まだ早い時間だったけれど、私は思考をやめるためにベッドに向かった。
電気を消し、暗がりの中。
ひっくり返された亀のごとく、天に腕を伸ばす眼鏡を眺めて、私は決意する。
和「うん……」
準備はすでに整っている。
私は、明日唯に会えるのを楽しみにして、目を閉じた。
【唯】
結局、眠れないまま朝が来てしまった。
和ちゃんは「いつでもいい」って言ってたけど、
夕方や夜はしんみりするから、日の出てるうちがいい。
憂「お姉ちゃん、朝だよ」
いつものように、憂が布団を剥がして私に抱き着く。
憂「ん……6度8分だね」
唯「ねぇ、憂……」
憂「? なあに、お姉ちゃん?」
唯「……和ちゃんと、別れることに決めたよ」
いまの憂は35度7分ってところかな。
憂「え……どうして?」
唯「和ちゃんは……無理して私と付き合ってるから」
唯「……キスしてもえっちしても、あんまり嬉しくないんだ」
唯「好きでもないのに私に付き合わされる和ちゃんが……かわいそうだよ」
憂は私の背中をやさしく撫でた。
憂「お姉ちゃん、朝ごはんできてるよ」
唯「……うん。食べるよ」
憂「好きなジャム塗っていいからね」
憂が、私をじっと見つめていた。
憂「ううん。おいしい朝ご飯にするために、お姉ちゃんは自分でジャムを塗らなきゃだめ」
憂「私には、いつも通りイチゴジャムがいいのか、たまにはブルーベリージャムで食べたいのか分からないから」
唯「うい……」
憂「きっと恋も同じだよ、お姉ちゃん。おいしくしたいなら、手間を惜しんじゃだめ」
唯「そうだね……」
憂の言いたいことはわかった。
唯「いつもありがとう、憂」
憂「ううん。お姉ちゃんには幸せになってもらわなきゃ」
本当に、憂には感謝してもしきれない。
感謝以上に、申し訳なさが立ってくる。
唯「……憂」
唯「ほんの……心ばかりのお礼だよ」
私は憂の唇に、覚えたてのキスをした。
憂「あは……」
真っ赤になった憂の顔。
少しは私の感謝の気持ちが伝わったかな。
憂「ほ、ほら! パン固くなっちゃうよ!」
唯「うん、そうだね」
憂は私の体を離して、ばたばたと1階に降りていく。
唯「……ふふっ」
私ももそもそとベッドから降りて、部屋を出た。
トーストの香ばしい匂いが、私の鼻腔に届いた。
リビングに着くと、憂がパンにマーガリンを塗っていた。
私はやっぱりイチゴジャムかな。
スプーンで瓶からたっぷりジャムをとり、トーストに塗りたくる。
唯「おー、ええ匂いやぁ」
外はかりっと、中はもっちりのパンにかぶりつく。
甘酸っぱいイチゴジャムの、ツブツブした舌触り。
唯「おいしい……」
――――
唯「じゃあ私、和ちゃんのところ行ってくるね」
憂「うん。頑張ってきてね!」
私は澪パン眼鏡と替えの下着をかばんの深くにしまって、和ちゃんの家に向かう。
唯「そう、頑張らなきゃ」
和ちゃんが私を好きじゃないっていうなら。
唯「よしっ……」
まず好きにさせてみせる。
そのための努力もせずに、拗ねて「別れる」なんて。
それこそ、和ちゃんがかわいそうだ。
なんにもしないで、ただの私を好きになってもらえるはずがない。
最初から両想いの恋愛ドラマなんて、見る価値がない。
唯「行ってきます!」
私は勢いよく玄関から飛び出した。
和ちゃんの家までは、歩きでもまったく時間がかからない。
幼いころにもよく通った道だ。
そういえば、出会ったころはまだ友達としての好きだった。
それが小学校に入ってすぐに歪曲して、恋にかわっていって。
ほっぺたにキスをしても冗談にとられてしまうくらいに子供のころから、
私は和ちゃんを愛していた。
唯「へへ……」
真鍋と表札のかかった家の前にたどりつく。
インターフォンを鳴らさなくていいのは幼馴染の特権だ。
「あら唯ちゃん、いらっしゃい」
唯「こんにちは、おばさん。和ちゃんは部屋ですか?」
「ええ。あとでお茶もってくわね」
勝手に上がり込んでも、こんな具合だ。
唯「あ、お気遣いなく。持ってきてますから」
和「そうそう、この間そんな感じで律の家に上がり込んだら呆れられたわ」
唯「それは当たり前だと思うな」
和ちゃんのズレ具合を確認してから、眼鏡を手渡す。
和「ありがと。……あら、素敵なデザイン」
あの時は暗くて見えなかったんだろう。
和ちゃんは初めて見た澪パン眼鏡にうっとりしていた。
人とはズレてる所を自覚してほしいとも、可愛いとも思う。
唯「欲しかったの?」
和「いや、そうじゃないのよ……唯にこの眼鏡かけてもらおうと思って」
唯「えぇっ?」
予想もしなかった提案だった。
どういうつもりで和ちゃんは言っているんだろう?
唯「ど、どうして? 私はかけなくても……」
和「……えっと」
和ちゃんは紅くなった頬を指先で掻いた。
照れたときの癖だ。
和「その、なんていうか……私も唯に襲われたいのよ」
唯「……なんとまぁ」
驚いたことに、和ちゃんの目は嘘をつく時の目ではなかった。
和「それで、変な話……裸を見てたら、唯も我慢できなくなるかなって思って」
唯「だから私に眼鏡を?」
和「そ、そういうわけよ」
和ちゃん、その真っ赤な顔に赤いフレームの眼鏡は似合わないよ。
私は和ちゃんから赤い眼鏡を奪う。
和「あっ、何するのよ」
唯「そういうことなら、この眼鏡をかけるのは和ちゃんのほうだよ」
和「へぇっ?」
すっとんきょうな声をあげる和ちゃん。
今の私は、けっこう意地悪な顔をしていると思う。
唯「襲って欲しいなら、そうと言ってくれたらいいのに」
唯「和ちゃんがいいんだったら、思いっきり犯しちゃうよ」
和「ひゃ……」
唯「その声もかわいいよぉ、和ちゃん!」
腕ずくで和ちゃんをベッドまで引きずると、体重で押し倒した。
唯「気持ちに変わりはない?」
和「ええ……」
和「やって、唯」
唯「夢中にさせてあげるね」
囁いて、和ちゃんの耳をはむ。
和「ン……」
唯「これからは……私からもいっぱいするよ」
和ちゃんは恥ずかしそうに笑いながら、私の頬にキスを返す。
唯「だから、好きになって……」
和「……それはいずれ、ね」
唯「……うん」
和ちゃんの答えに胸がしめつけられて、私は初めから舌を出してキスをする。
和「ん……はっ」
口の中を隅々まで犯されて、和ちゃんは息苦しそうにも悶えた。
可哀想だから、一度唇を離してあげる。
和ちゃんは荒く息を吐きながら、私を見つめてつぶやく。
和「イチゴジャム?」
唯「えへっ。正解」
私はイチゴ味をすっかり吸われつくした舌を、ぺろりと出した。
和「……唯。その日は遠くないわね」
和ちゃんは舌舐めずりをして、恍惚とした表情で予言した。
【憂】
1月23日 くもり(心は晴れですけどね) 37.1℃
お姉ちゃんが和さんに愛の告白をされたそうです。
お姉ちゃんはすごく嬉しそうにこれまでのことを語ってくれて、
私も一緒に泣いてしまいました。
「ぜったい幸せになるからね」
と私に約束したあと、
「まあ既に幸せなんだけどね」
と笑っていました。
違うよ、お姉ちゃん。
これから不幸になってしまうかもしれないんだよ。
私はまだ、お姉ちゃんを見守っていく必要がありそうです。
2月14日 晴れ
梓ちゃんが古い歌謡を歌いながら、キスしてきました。
問題は、それが軽音楽部の部室で行われたということです。
チョコケーキ作りは私も手伝ったので、皆さんの感想も聞いてみたかったので
梓ちゃんに誘われて部室を訪ねたら、それはもうアサシンのような超スピードで「チュ」でした。
そんな現場を皆さんに見られてどうなるかと思いましたが、
そこで私は、軽音楽部が全員レズビアンだということを初めて聞かされたのでした。
女子高といえど、お姉ちゃんにとってここまでの楽園はなかったでしょう。
そして、これからも無いと思います。
世の中には、同性愛者を毛嫌いしている人もいるはずです。
そういう人に出会った時、お姉ちゃんはどう対応するんでしょう。
男が好きだと嘘をつくんでしょうか。
和さんはただの幼馴染と言ってしまうんでしょうか。
そうしてお姉ちゃんが傷ついた時、私はどうやってお姉ちゃんを慰めてあげられるんでしょうか。
いずれにせよ、同性愛を否定する人が誰もいない軽音楽部という環境は、
お姉ちゃんのこれからを考えたら、あまりにもぬるま湯に浸りすぎています。
こんなこと、私も言いたくありません。
せっかく幸せの絶頂にいるお姉ちゃんを、傷つけてしまうでしょう。
……この話をするのは、もう少し後でもいいかもしれません。
卒業したら……そう、お姉ちゃんが卒業してから、このことについて話し合うことにしましょう。
それまでは、敵のいない幸せな環境を満喫するべきです。
2月17日 晴れ
お姉ちゃんと軽音楽部のみなさんが、そろって第一志望に合格しました。
和さんは同じ大学ではありませんが、こっちの地方の国立大学を受けて、現在結果を待っているところです。
お姉ちゃんとルームシェアするのが夢だとか。
その日が来たら、私とお姉ちゃんも離れ離れで暮らすことになります。
寂しいですけど、これはいつか訪れるべき別れですから、駄々をこねても仕方ありません。
お姉ちゃんを困らせてしまいます。
……しっかりしなきゃ。
最後の日まで、笑顔でいなきゃ。
でも、一人の時くらい、泣いちゃってもいいですよね?
手が震えてしまうので、ここまでにします。
3月1日 くもりのち雨
今日は桜ケ丘高校の卒業式でした。
お姉ちゃんたちが留年するなんてことはもちろんなくて、
皆さん揃って卒業です。
お姉ちゃんが、私と離れるのが嫌だと泣いてくれました。
卒業してしまうことのすべてが、お姉ちゃんだけでなく、私も梓ちゃんも、
澪さんも律さんも紬さんも、嫌で嫌で仕方なかったと思います。
とてもじゃないですけど、卒業おめでとうございます、とは言えませんでした。
ハレの日に、お祝いできなくてごめんなさい。
予報によれば、雨は明日も降り続けるらしいです。
私たちの街を涙雨に濡らして、皆さんは去っていってしまうんでしょう。
澪さん、律さん、紬さん、さようなら。
とても楽しかったです。
3月27日 晴れ 36.8℃(元気でね)
日差しがぽかぽか暖かい日でした。
もうすっかり春が来ている感じです。
でも、夜になるとさすがに冷えてくるでしょうか。
どんなにあったかくしても、手が震えてしまいます。
すごくさむいよ、お姉ちゃん。
おふとん取ってもいいから、今日も一緒にねようよ。
うるさいなんて言わないから、ギー太をひいてよ。
ごめんなさい、聞き分けがなくて。
でも電話で声を聞いたら、ちょっと楽になりました。
ありがとう。大好きだよ、お姉ちゃん。
さよなら、お姉ちゃん
4月5日 晴れ
お姉ちゃんがいないなら、もうこの日記を書くことはないと思います。
それにしても壮観ですね。
子供のころからの私の気持ちが、クローゼットの奥に57冊並んでいます。
読み返してみたら、ほんとうにいろんなことが書いてありました。
一緒にビニールプールで遊んだこととか、お風呂に入ったこととか、映画を見たこととか。
初めて作った料理をおいしいって言ってもらったり、ぴかぴかに掃除した床でごろごろしてもらったり。
あとは、お姉ちゃんにオナニーを教わったこととか、眠ってる間にキスしちゃったこととか。
すべてのページに、私の幸せが詰め合わせになっていました。
でも、この幸せはもう、和さんにバトンタッチです。
和さん、バトン落としたら怒りますよ。
……それじゃあ、これも仕舞っておきましょう。
『憂の日記 58巻 ?今日からずっと?』より部分抜粋
【唯】
――――
私と和ちゃんが出会ってから、19年が経った。
唯「……」
今日は私たちの結婚式だ。
といっても、私の部屋で小さなパーティを開くだけだけど。
ウェディングドレスだって着れないし、昔の友達も呼べない。
チャペルもなければウェディングベルもなく、せいぜいライスシャワーが1キロ用意されているくらい。
あ、でもケーキだけはムギちゃんが特大のを頼んでくれたって。
律「よぉ、唯」
唯「りっちゃん」
花嫁の控室……まぁ洗面所に、りっちゃんが顔を出しに来てくれた。
律「おっ、綺麗なかっこだな。誰かと思ったよ」
唯「えへへ……一生に一度の日だからね」
律「幸せそうだこと」
実際そうなんだけどね。
りっちゃんの手前、軽々しく答えることはできなかった。
唯「……澪ちゃんは、どう?」
律「まだ寝てるよ。今回は深かったらしいし」
律「ま、命に別条なしってことで、今日は呑気に来させてもらったよ」
唯「……」
律「コラ。花嫁が暗い顔してんなよ」
りっちゃんと澪ちゃんは、すごく苦しい生活を送っている。
二人とも宅配会社の荷運びだけれど、澪ちゃんが半年に1回くらいは自殺未遂をしているみたい。
一度、りっちゃんも一緒に心中しようとした時もあった。
ムギちゃんがサプライズ訪問という名の覗きを企画していなければ、どうなっていたやら分からない。
唯「ごめんごめん」
律「心配すんなよ、唯たちはうまくいくから」
無責任な言葉ではあったけど、仲間に言われると心が軽くなる。
律「んじゃ、式が始まるまでスリープインザこたつしてるわ」
疲れてるんだろうな。りっちゃんは腰をひねって、居間に戻っていった。
唯「うん。ゆっくりしてて」
式が始まるまでは、まだ結構な時間がある。
私も腰を伸ばしてだらけていると、再び洗面所のドアが開けられた。
梓「こんにちは、唯先輩」
唯「あずにゃん!」
梓「今日はおめでとうございます。……それだけ、伝えに来ました」
あずにゃんは申し訳なさそうに肩をすくめた。
唯「え? 帰っちゃうの?」
梓「まぁちょっと、気まずいというか……」
唯「……まだ仲直りできてないんだね」
あずにゃんと憂が付き合っていたのは知っていた。
そして、ずいぶん前にあずにゃんの浮気が原因で別れたことも。
唯「憂が一人になった時に、支えてくれたのはあずにゃんだよ」
唯「……ありがとう」
梓「でも、私は……結局は憂を傷つけましたから」
唯「……そうかもしんないね」
唯「あずにゃん。けどさ、私は憂とあずにゃんが仲直りできるって信じてるよ」
梓「そう、ですか……ありがとうございます」
あずにゃんはペコリと頭を下げた。
梓「それじゃこれ、おいしい鯛焼きです。電子レンジであたためなおしてもイケますよ」
唯「おーおー、めでたいやき。ありがたや……」
梓「ふふ……では失礼します」
唯「うん。また会おうね、あずにゃん」
梓「はいっ」
あずにゃんは未練がましそうに振り返った後、駆けるような足取りで私たちの部屋を出ていった。
澪は恐ろしい子やで‥‥‥‥
30分ほどして、洗面所のドアがノックされた。
唯「はい?」
ドアを開けたのは、和ちゃんだった。
今日の眼鏡は昔と同じ、赤いアンダーリムにしてもらった。
和「行くわよ、唯」
和「……真鍋唯」
唯「うん、和ちゃん」
唯「私のお嫁さん」
ムギちゃんのキーボードが聞こえてくる。
おなじみ、ワーグナーの結婚行進曲だ。
私は和ちゃんの腕につかまって、一歩一歩をたしかめながら歩いた。
赤なのか茶色なのか、微妙な色の絨毯がふかふかする。
絨毯が続く先には、いつか見たりっちゃんの照れ笑い。
今やムギちゃん系列の高級レストラン切り盛りするほど、料理が得意な妹が作ったフレンチ。
満面の笑みで、結婚行進曲を奏でるムギちゃん。
私は和ちゃんの顔を見上げた。
眼鏡越しに、視線が合う。
唯「えへへっ」
私は前を見ることにした。
あと一歩で、リビングとの境目。
和ちゃんと一緒に踏み越えた。
――新婦、入場。
おわり。
湯気をたてる2杯目のココアをそっと啜って、唯は紙束をテーブルに置いた。
「なんていうか……」
そして、やや口ごもってから意を決したように、
「メガネあんまり関係なかったね!」
ツッコミを入れてきた。
「最後まで読んで感想がそれ!?」
「だってなんか凄く気になっちゃって……」
「この変態」
私だって、自分の文章がけして上手でないことは自覚している。
だから、ツッコミどころはいくらでもあって当然だ。
ただ、唯が「この物語の唯」に自分を投影できていなかったら、それは大問題なわけで。
「……で、どうだった?」
唯がこの物語を通して、唯自身のこれからを考えてくれなければ困る。
「だからメガネが……」
「そこ以外でだ!」
「おい、頼むぞ唯、まさかずーっとメガネのことばっか考えてたりしないよな?」
私は唯の手を握った。
唯は天井を見上げて、すこし唸る。
「この物語の後、私たちはどうなったの?」
それは一応、作品のうちに書いてある。
きっと唯には分からないだろうし、実際にそうなっていくかどうかは決まってなんかいないけれど。
「それをはっきり書いたら、唯の判断に影響を与えてしまうだろ」
「背中を押したらその先は崖だった……なんてことだってあるからな、私たちの道は」
「……そっか。私が考えなきゃいけないね」
「唯はこの二人、どうなると思う?」
「うーん」
唯は顎を撫でてしばし考え込む。
「……まぁ、幸せになると思うな」
「ほぉ、どうして」
「私と和ちゃんだから」
自信たっぷりに言い放って、唯はココアを飲む。
「……そう思うならさ」
和に告白してみたらどうだ。
続けようとした言葉は、あるイレギュラーによって遮られた。
唯の表情を見ていると、言う必要もなかったように感じるけれど。
「あら、唯に澪。こんなところで会うなんてね」
真鍋和である。
「あれっ、和ちゃん」
「奇遇だな」
私は平静を装う。
和が現れた以上、唯と和についての話は続けられない。
「せっかくだからご一緒していいかしら?」
「ああ、座っていいよ。いいよな、唯」
私は「スペースを空けるための気遣い」みたいな感じでさりげなく紙束をバッグにしまった。
「うん、いいよ」
唯の許可を得て、和は唯の隣に座る。
「よっと……唯、なんの話してたの?」
「私と和ちゃんが結婚したら、きっと幸せになれるよねって話してたんだ」
バカという言葉の限界を見た。
唯は筆舌に尽くしがたいバカだ。
「あっ、えっと和……ただの例え話だからな?」
「……唯、どういうこと?」
和はとにかく真剣な表情をしているばかりで、思考はまったく読めなかった。
私の声はまるで届いていないらしく、眼鏡の奥の鋭い目で唯を見ている。
「そのまんまの話で、私と和ちゃんが結婚したらどうなるかなーって考えてたんだ」
「で、よく分かんないけど……たぶん幸せになれるって思った!」
「ふぅん……」
和は紙ナプキンを数枚引っ張り出して、鼻から下を右手で覆い隠した。
鼻水でも垂れたのかと思ったが、いっこうにその体勢が変わらない。
「でも、どうしてそんな話に?」
「そうそう、それなんだけどさ。私、和ちゃんに恋愛感情を持ってるんだよね」
和の手の中で、なにかがはじける音がした。
ややあってから、真っ赤になった紙ナプキンがぼたりと机に落下する。
「血コワイ和コワイ血コワイ和コワイ……」
「え、ちょっとまって」
無駄だ和。幼馴染なら分かるだろう。
このバカはもう止まらないんだ。
「でもさぁ、和ちゃんとはたぶん違う大学に行くことになるから、仲良くなくなっちゃうかなって……」
「で、だったら告白して付き合って、幼馴染より強固な関係を築くべきだって、澪ちゃんがアドバイスしてくれたんだ」
和が私のお冷のコップを奪い取る。
一発芸、トマトジュース製造中とでも言うつもりか。
ほんとに勘弁して。
「……澪、悪いけど唯を持って帰っちゃっていいかしら」
「勝手にしてくれ」
和は鼻を押さえながら、唯の襟首を掴む。
「財布置いとくから、唯のぶん抜いといていいわよ」
「せっかく会えたから今言うね。和ちゃん、子供のときからずっとずっと大好きだったよ」
トップスピードに達したチーターのような速さの和に引きずられながら、まだ唯はなんか言っている。
「……うん」
とりあえず私は、唯が置いていったココアに口をつける。
なんだか胸の辺りがほっこりする。
ホットココアはごく手軽な現実逃避の手段だ。
お試しあれ。
「そもそもアレだな」
いつの間にか掃除されたらしいが、わずかに残っている血痕を眺めつつ私は思考する。
「私たちが知り合いに会わないよう選んだこの喫茶店に」
「和が単独でやって来ること自体おかしいんだよな」
つまり導き出される答えは一つ。
「和……唯をつけてたな?」
「そして、おおかたメガネがどうこう言ってるから気になって接触したら」
「ああああ唯かわいいよおおおうわあああああん……というわけか」
ココアを飲みほして、私は和の財布を手にカバンを持つと、レジに向かった。
「540円になりまっす」
「540円……諦めかけていた恋が成就する対価としては安すぎるとは思わないか? ほれ」
「460円のお釣りになりまっす」
「とっておいていいぞ」
「いいから早く受け取れ」
――――
またその翌日。
「どうしたんだよ」
私はつっけんどんに言った。
二人しかいない夕暮れの部室で、私と向き合っているのは律。
「今日の唯と和の話、澪も聞いてたよな?」
「付き合いだしたんだってな」
私は教室で聞いた唯たちの話を最大限要約した。
何回したとかいう報告はいらないっつうの。
「なんで興味なさそうなんだよ」
「そりゃあ興味はあるけど、詮索するようなことじゃないだろ?」
「そういう問題じゃない。唯と和が付き合いだしたってことに、何の感想も抱かないのかよ」
律の態度は、怒っている時に似ているようにも見えた。
「……素直におめでとう、と思ってるけど」
「けど?」
「いや、別に……」
沈黙が始まる。
どこかでつぶれた空き缶が寒風に転がされている音が聞こえる。
「……」
「……澪、怒ってるのか?」
どうして急にそんな話になるんだろう。
「怒ってないよ。なんで?」
「私が……澪に言わせようとするから」
律の言っていることが、良く分からない。
そんな強要をされた覚えはない。
「何のことだ……?」
「……もしかして澪、本当にわかってないのか?」
「さっぱりだよ」
「……桃とパインのジュース」
律はぼそっと呟いた。
「この間、律の家に行った時に出されたな」
「それだけ?」
「それだけじゃないのか?」
あからさまな失望の色をなした溜め息。
しかし、表情にはどこか安堵が見られる。
「そうか、なんだ……気付いてないだけだったか」
「なにか意味でもあったのか? なら……どういう意味なのか、教えてくれよ」
律はひとつ咳払いをして、わざわざホワイトボードにパイナップルと桃を描いた。
なんでも形から入るのは、律の特徴と言える。
「いいかね、澪くん。まず桃といえばどんなイメージだい?」
「……繊細だよな。すぐ痛むし」
「その通り。という訳で桃とは私だ」
「……」
うん。叩くのはオチまで待ってやろう。
「となるとパイナップルはどうだ?」
「固いイメージがあるな。表面なんかもけっこうトゲが立ってる」
「そう、さらに果肉も凶悪だ。食べまくってると舌とか切れるから気をつけるのだな」
「いてーんだよアレほんと……」
「……」
「というわけで、パイナップルは澪だ」
だろうと思った。
「本来ならばこの二種、まったくもって相容れない」
「同じバスケットにぶち込んだりしたら、あっという間に桃ちゃんズタズタ」
下に「みお」と書かれたパイナップルのヘタが伸びて、
「律」と書かれた桃をブスブスと刺していく。
「そんなこともないと思うけど……」
「いや大ありだね。むしろそれ以外ない」
「なんだその自信」
「そこで私は桃とパインが共生するための究極体を考案した」
律がホワイトボードに2つのグラスを描きこんだ。
「それでジュースか……」
こくりと律は頷いた。
「……」
私がパイナップルで、律が桃だとして。
じゃあ、その置き換えはどういう意味をなすんだ?
鍵になるのは、律が考えた、果汁100%のジュースという在り方。
「もしかして律ってさ」
果物から甘露だけを絞り出した、果実の濃密な楽しみかた。
それは律が私に傷つけられなくていい、私も律を傷つけなくていい方法なわけで。
ふたりでジュースになって、甘ったるくとろけるっていうわけで。
どんなことを示しているのか、私だって分かる。
「そうだよ」
「澪のことが好きなんだ」
はっきりと放たれた、律の告白。
「……律」
「ごめんな。やっぱり私から伝えたかったんだ」
律は俯いて目をそらす。
「けど、やっぱ言えなくて……それなのに澪にあんなの読まされちってさ」
「なんか、焦っちゃったっていうか。後出しでずるい気がして、言い出せなかった」
「おい。アレの意味気付いてたのか」
「ごめんごめん……流石に分からないほどバカじゃないって」
照れ臭そうにはにかんで、律は後ろ頭を掻いた。
そして、ふいに真剣な表情になる。
「でも、唯と和が付き合ったって聞いて……そういう問題じゃないって思ったんだ。意地張ってる場合じゃない」
「私は澪が好きだ。それから、この気持ちを抑えることもできない」
「ま、待って律!」
律の言ったことじゃないけれど、私だってこのまま全部言わせてしまうのは忍びない。
「私も……律が好きだ! つ、付き合おう!!」
「……もちろん!」
大好きな律の笑顔が輝いた。
長く長く続いた我慢も、いいかげん限界だ。
「律ぅー!!」
私は律に飛びついて、倒れこみながら律に頬ずりをした。
今の私、なんだか唯みたいだな。
このあと間もなく、私たちは床に叩きつけられるんだろう。
「澪ぉ……へへっ」
けれど今だけは、この飛翔感を。
おしまい。
さらっと書いた唯憂投下しときます
本編とは1ミリも関係ないのでご注意を
唯「ぴーりーりー」グルグル
憂「ぴーりーりー」グルグル
唯憂「カーレーちょっぴりライスたっぷり!」ビシッ
唯「ふぅっ……決まったね、憂」
憂「そうだね、お姉ちゃん!」
憂(新歓ライブに向けた新技だっていうけど)
憂(これって一人じゃできないような……)
憂(でも、楽しかったからいいかな)
唯「疲れちゃった。憂、そろそろご飯にしようよ」
憂「わかった。……そだ、今日はカレーにしない?」
唯「おぉ、タイムリーだね。そうしよう!」
憂「それじゃあ、すぐ作っちゃうね」
憂(……ごめんね、お姉ちゃん)
唯「ごめんねルーゥーだーけ残したカレー♪」
唯「女の子は甘いのーがー好ーきっ」
唯「憧れ?だけど中辛はおー預っけー♪」
憂(『カレーのちライス』の歌詞のとおり)
憂(お姉ちゃんはまだ甘口カレーしか食べられません)
憂(……その昔、お姉ちゃんが背伸びをして中辛カレーを欲した日)
憂(それから私は少しだけ、お姉ちゃんに意地悪になってしまったのです)
トントントン
ジュー ジャッジャッ
憂(私も正直、甘口カレーのほうが好きなんですけど)
憂(お姉ちゃんには「最低中辛でないと食べられない」と偽っています)
グツグツ
憂(理由はあとでわかりますよ)
憂(とにかく我が家のカレーは、中辛の鍋と甘口の鍋で二つ用意するわけです)
憂(それぞれルゥを入れて、煮込んで……)
憂(よし、そろそろいいかな)
カチッ
憂「ふぅっ。お姉ちゃん、出来たよ?」
憂(私のお皿に甘口を)
憂(お姉ちゃんのに中辛を盛りつけて)ドキドキ
唯「わーい! カレー、カレー♪」
憂「待たせちゃったね」カタ コト
唯「そんなことないよ。いただきまーす!」
憂「い、いただきますっ」
唯「おいしそー……あむっ」パクッ
唯「ん?、これは実にすばら……」
唯「」ガタガタガタ
唯「んんんー!! ひぃ、ひいー!」
憂(ご覧のとおり)
憂(一口で辛すぎてもうだめ、のようです)
憂「お姉ちゃん、大丈夫!?」
唯「かあいよー!!」
憂(ここで心配するふりをして、お姉ちゃんに近付きます)
憂(すると?)
唯「うむううっ!」チュウ
唯「ん、はふっ、はふぅっ!」ニチュ
憂(こっ、このように……んぅっ、お姉ちゃんが……大人のキスをおぉっ)
憂「ううんっ、ふはああぁっ!」
憂(……そういう、わけです)
唯「はぁー……やっと落ち着いた。ん」ポトトッ
憂(最後にちょっぴり辛い唾を私の口に垂らして、おしまいです)
憂(またやっちゃったなぁ)コクン
唯「ういー、また憂の中辛と私の甘口間違えたー!」
憂「ご、ごめんね。うっかりしちゃった……」
憂(お分かり頂けましたか?)
憂(アレですね。熱いものに触っちゃったとき、反射的に耳たぶをつまむアレ)
憂(耳たぶが人体でいちばん冷たい場所だからそうなるんですよ。ほとんど本能らしいです)
唯「まったくもー!」
憂(まぁ、つまり)
憂(お姉ちゃんには本能レベルで「辛い物を食べてしまったときは憂の舌を舐めればいい」)
憂(「なぜなら憂の舌はいちばん甘い場所だから」……という意識が刻まれている訳ですよ)
唯「私とちゅーしたいからってわざとやってるんじゃないの、憂?」
憂「えっ!? そ、そんなことないよ!」
唯「むー、あやしいなぁ……」ジトッ
憂(ま、まずい……ついにバレちゃう?)
唯「……そうだねぇ、それじゃあ確かめてみよっか」
憂「へ?」
唯「憂がお姉ちゃんのキスを欲しがっちゃう、イケない子じゃないってことをね」
憂「え、えっと……?」
憂(なにが起こってるの……かな?)
唯「つっかまーえた」ガシッ
憂「あ、ちょ……」
唯「むちゅぅー♪」
かなり長かったけど、全部読んじまった
なんていうか、文章に引き込まれる
ただ唯憂が少なかったのがちょっと悲しい
次は唯憂頼むよ
心の底から乙
とレスしようと思ったら
頑張れ
憂(お、お姉ちゃんの顔が……こんな近くにっ)
憂「んっ……」
唯「……んふふー?」
憂(あ、あれ? キスがこない……)
唯「どうしたの憂? 目閉じちゃって」
唯「もしかして、キスしてもらえるとか思っちゃった?」
憂「っ……そんなこと」
唯「んべ」
憂「!!」
憂(ベロなんて見せられたら……わたし)
唯「ん」ズイッ
憂「……な、なにかな?」
唯「ふーん」
憂(た、耐えなきゃ……)
憂(わざとお姉ちゃんに中辛カレーを盛ってたなんてバレたら嫌われちゃうよ)
唯「んふ」ペロッ
憂「ひゃっ!?」ビクッ
唯「んー、憂のくちびるやわらかいねー」ペロペロ
憂「やっ、ちょっ、まっひぇ!」
憂(こんなの……気が狂っちゃうよ!)
唯「なぁに? んー、お鼻おいひ……」ピチャペチャ
憂(お姉ちゃんの匂いしかしない……だめ、もうおかしくなる……)
憂「ずるいよ、お姉ちゃん……こんなことされたら、キスしたくなるに決まってるよ!」ガバッ
唯「おっとぉ」ヒョイ
憂「や、お姉ちゃん、お姉ちゃん!」グググ
唯「だめだめ、嘘つきな妹にあげるちゅーは無しだよ?」
唯「ちゃんと正直にならないと……んしょ」ペロン
憂「やだ、キスがいいの、べろちゅーしようよぉっ!!」
唯「んー?」ペロペロ
憂「や……んあっ、おくちがさみしいの、おねえちゃんんっ!!」
憂「ほら、ほあ! わたひの舌ぺろぺろしへよぉ!」ンベ
唯「かわいいなぁ、憂ぃ……でもダメだよ」ニコ
唯「よいしょ。んふ……耳の中はけっこう味するんだね」
ヌチュッ チュボッ
憂「ああっ、あは、ふ……やら、変なこと言わないでぇ……」
唯「んん、むふ……あ、なんかおいひぃかも……あむ」パチャパチャ
憂「いあっ、ふうんんん!!」
素晴らしいです
憂「お、ねえ、ひゃ……!」
唯「なぁに、憂?」ズジュジュ…
憂「ごめんなさ、ひんうう……おねえちゃんとちゅー、したくて……」
憂「わざと、中辛のカレー食べさせてまひた……」
唯「そっかぁ……」ピチャ…
唯「憂ぃ、わかってる? そんなやり方がどれだけヘンタイか」
憂「だって、お姉ちゃんがちゅーするんだもん! しょうがないじゃん!」
唯「えへへ……すごいなぁ、憂は」ナデナデ
唯「こんなに可愛いのに、お姉ちゃんをあざむく変態だなんて」
憂「ごめんなさい……反省するから、おねがい、ちゅーして……」
唯「そんなにちゅーしてほしいの?」
憂「うん、お姉ちゃんのちゅーが欲しいの! して、してぇっ!」
唯「んー……どうしよっかなぁ。憂は変態さんだしなぁ?」
憂「やっ、お願い、してくんなきゃやだよぉっ!」
唯「じゃあさ、こうしようよ。憂はえっちな子だし、どうせべろちゅーしたいって思ってるんだろうから」
唯「憂のほうは舌を出すのも唇を吸うのも禁止でなら、ちゅーしてあげてもいいよ?」
唯「憂はただ犯されるだけ。どう?」
憂「そ、そんな……」
唯「嫌ならしなくてもいいけど」
憂「するよぉ! だってちゅー欲しいもん……」
唯「……それじゃあしてあげるね。ぜったい舌動かしちゃだめだよ?」
憂「う、うん……」ドキドキ
唯「あー……可愛いなぁ、うい。普通にキスして欲しいって言ってくれたらいくらでもしてあげたのに」
唯「変態だと知っちゃうとなぁ」
憂「は、早くぅ……」ゾクゾク
唯「……ねぇ、憂さぁ」プニ
憂「ん……指じゃなくて、くちびるぅ……」
唯「キスが好きなの? それとも……私が好きなの?」プニプニ
憂「ふえ……?」
唯「……」
憂「私は……お姉ちゃんだからキスがしたいよ」
憂「お姉ちゃんだから、いけないことと分かってても……」
唯「憂……」ギュッ
憂「はう……」
唯「……やっぱり、憂がちゅーして」
憂「いいの……?」
唯「私だってね……憂がいいんだもん」
唯「……いちばん大好きなのは憂だから、憂だけとちゅーしたいんだよ」
憂「お姉ちゃん……」
唯「……よっ」ゴロン
憂「わっ。……私が上になるのって、初めてだね」
唯「そうだね……何度も何度もちゅーしてきたのにね」
唯「私が中辛は辛すぎるって誤魔化し続けたせいだけど……」
憂「へっ?」
唯「……えへへっ」
憂「お姉ちゃん。それじゃあ……」
唯「察しがいいね、憂」
憂「……へ、へんたいっ」
唯「んふふ……変態姉妹だねぇ」
憂「ほんとだね。……嬉しい」
唯「うい、来て……」
憂「うん。お姉ちゃんもね」スッ
チュッ
憂「ん、あむぅ……」
ピチャッ クチッ
唯「うい……ふっ、んむ……」
憂「あっ、く……はぁ……」ピクンッ
唯「んうう……ひあっ。う、んー……」
チュウウゥゥゥ チュポンッ
憂「はぁ、は……おね、ひゃ……ふううぅ」
唯「んうふっ……うい、ういぃ……」
チュチュッチュッ プチュ チュチュチャッ
憂「ほんあに……ひたらぁ!」ゾクゾク
唯「はあむ、んっ、んぅーっ!」
憂「らめ、ひもちすぎうぅ……おれぇひゃあん!」
唯「ん、んくっ……ういぃ……!!」
カミッ
憂「はっ、おねえひゃん、りゃめ、べろちゅかまえるの……」
唯「ふっ、ふぅ……んむ」
チュパッ ピチョ クチャッ
憂「はあぁああうっっんんん!! ひっひゃう、ひっひゃうからああぁぁ!!」
憂「んんっ、んううーっ!!」ビクンッ
唯「ん、ちゅる……はぁ……はぁ」
憂「ふう、あはぁ……」ピクン ピクン…
唯「……おいひかったよ、うい」
憂「んっうう……」
――――
憂(その日から、平沢家では夕飯の卓にカレーが並ぶ事が多くなりました)
憂(今までのように二つのお鍋で作る必要がなくなった分、手間がかからなくなったから)
憂(という理由もあるにはありますけど)
唯「ういー、口開けてー」
憂「えへへ……あーん」
唯「はぁむ……ん、ふっ……」
憂「ん。おいしいね♪」
憂「それじゃ……お返しに」チュッ
唯「あっん……もぉ。はむ……」
憂(なにより、私たちは「ちゅうから」が好きなんですから♪)
おしまい
コメント
- SS図書館の名無しさん 2014/02/17 (月) 4:44
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- ****** 14-02-26 (水) 5:53
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