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喜緑「え?私達にだって恋愛感情くらい理解できますよ?」

ライトノベル新刊情報サイト「ラノベ総合案内所」が出来ました.

< メイン登場人物 >

18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/11/17(月) 08:49:31.86 ID:5dNJ/nqQ0
いつもの席、いつもの時間、いつもの注文。

俺はある喫茶店に通うのが日課となっていた。
というかそれはある人に会いたいがためなのだが・・・。
ある人と言うのはそこでバイトをしている女の子。
その子は俺が注文したコーヒーを決まって笑顔で持ってきてくれる。
そして少しの雑談の後、彼女が他の客の注文を取りに行くのを、
俺は黙ってコーヒーを飲みながら見送るのだ。
そんな甘酸っぱいような渋みがかったような。
そんな毎日が続けばいいと思っていた。

俺は今日も性懲りもなく喫茶店へと向かった。
しかしドアにはcloseの文字がかかっていた。
休み・・・か・・・。
帰ろうとする俺を彼女の言葉が引き止めた。

「開いてますよ。」

少し顔を傾けて笑顔を見せる彼女に導かれ、俺はいつもの席へと向かった。
19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/11/17(月) 09:04:17.67 ID:5dNJ/nqQ0
店の中はいつもの賑わいはなく閑散としている。
客も俺一人のようだ。
俺は周りをキョロキョロと見回し、店の状況を探った。
と、その時、厨房の奥から一つの人影。
エプロン姿の彼女が俺がいつも注文するコーヒーを片手に出てきたのだ。

「お待たせしました。」

少し暗い店を照らす明かりに彼女の笑顔が浮かび上がった。
お店、今日休みじゃないんですか。
俺は客はおろか、店員もいない店内を覗きながら言った。

「今日はお休みですよ。マスターさんが風邪引いちゃって。」

彼女は笑顔で言う。

「でもあなたは今日も来ると思ったから、待ってたんです。ふふっ。」

俺は自然と零れる笑顔を隠す事が出来なかった。
20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/11/17(月) 09:33:16.29 ID:5dNJ/nqQ0
俺のお気に入りのコーヒーの香りが漂う。
静かに流れる時間。
いつもは誰もいない俺の前の席に、今日は彼女が座っている。
ニコニコしながら俺がコーヒーを飲むところを見ている。

「私の入れたコーヒーおいしいですか?」

吹き出すかと思った。
なんだ、この感じ。相手は喜緑さんだぞ。これじゃまるで夫婦・・・
いや、いかん。勘違いはよくない。
俺はただの人間、相手は宇宙人。

・・・でもその宇宙人が気になっていることは確かだ。

「あっ、あの大丈夫ですか?」

咳き込む俺に優しい言葉をかける喜緑さん。
心配しているその顔も綺麗だ。なんて口にできるはずもなく、
大丈夫ですよ。なんて気の利かない言葉をかける俺。
なさけねー。
21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/11/17(月) 09:47:45.64 ID:5dNJ/nqQ0
ふと見るとエプロンの胸のあたりに赤い蝶のブローチ。
昨日はあんなのついてたかな・・・。
少しの間、ブローチを凝視する。

「どうかしましたか?」

はっと我に戻る。
・・・おっと。これじゃ俺が喜緑さんの胸をじっと見ているみたいじゃないか。
急に恥ずかしくなって俺は顔を赤く染めながら俯いた。

「このブローチですか?」

その声に俺は冷め切らぬ顔を持ち上げた。

「今日の星座占いでラッキーカラーが赤だったんです。
 しかも今日は私、ラブ運が最高なんですよ。」

喜緑さんの星座って何?なんて野暮な突っ込みはせず、

「喜緑さん達も占いとか気にするんですねー。しかもラブ運もですか。」

なんて少し冗談交じりのテンポで俺は言った。

「え?私達だって恋愛感情くらい理解できますよ?」

俺の霧に囲まれた心の中に一閃の光が射し込んだ気がした。
22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/11/17(月) 10:06:04.42 ID:5dNJ/nqQ0
あの後、俺達はお互いのメールアドレスを交換した。
喫茶店のバイトだけでなく、生徒会長の側近も務める喜緑さんだから、
あまり邪魔にならないようにしなければ、なんて思うとあまり自分からはメールができない。
でも喜緑さんはいつも俺が『おやすみ』と言うまでメールに付き合ってくれる。
俺は喜緑さんとメールをする時間が、喫茶店にいる時と同じくらい好きになった。
顔は見えなくてもメールが俺達を繋げている気がしたからだ。

To:喜緑さん
喜緑さんは好きな人とかいるんですか?

少し直球過ぎたか・・・。しかしメールは苦手なんだよな・・・。
気の利いた顔文字の一つでも打てればいいのだが。
ミヨキチに『絵文字のセンスないですね(笑)』なんて言われちゃ怖くてうてやしない。
どこまで小心者なんだよ、俺。
そんな事を考えながら、押しなれたボタンの一つを優しく押した。
23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/11/17(月) 10:18:57.68 ID:+ImrHvnT0
>>22
最後の一文にID:5dNJ/nqQ0のセンスを感じる。
こういうの好きだわww
24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/11/17(月) 10:19:24.14 ID:5dNJ/nqQ0
♪?
携帯の着信音が妄想の世界へ旅立っていた俺を現実に引き戻した。

To:キョンくん
いますよ。私は長門さんも、涼宮さんも、SOS団のみんなも、会長も、
それにキョンくんだって大好きですよ。

・・・大人の対応?
脈があるのかないのか。微妙だな。
でもこれ以上追求するのは蛇足ってもんだな。

To;喜緑さん
俺もみんな好きですよ、喜緑さんもね。
それでは、おやすみなさい。

俺は返事のメールを受け取ると深い夢の世界へと落ちていった。
26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/11/17(月) 10:42:29.27 ID:5dNJ/nqQ0
その後も俺達のとりとめのないメールは続いた。
喫茶店でのバイトの事、生徒会でのこと、SOS団での事。
些細な出来事、その時感じた思い。メールでは何でも語る事ができた。
俺の中で喜緑さんの存在は、いつのまにか恋から心の拠り所へと昇華していった。

ある日の喜緑さんからのメール。
To;キョンくん
今週の土曜日遊園地へ行きませんか?

体の中のすべての俺が叫び声をあげる。
今なら街を哀愁漂う背中で歩いているおっさんにだって優しくしてやれる自信があるね。
俺はまだ興奮しきって震える指を一生懸命動かしながらメールを打った。
しかし打っている途中に気づく。
土曜日は確か不思議探しが・・・。
俺の頭にいつか聞いた『ダダダダーン』という音楽が悲しく流れた。

To:土曜日は不思議探しが入っていました。すいません。

俺は言う事を聞かない指を押さえつけ送信ボタンを押した。
すかさず着信音が鳴る。

To:キョンくん
土曜日は雨が降っちゃうんじゃないかなー。

え・・・でも天気予報では晴れって・・・―――そういうことですか。
俺はニヤけ顔でピッピッピッと指を踊らしてメールを打った。
To:喜緑さん
そういう事ならOKです^^

顔文字なんて使ってみたりしてな。
27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/11/17(月) 10:55:14.58 ID:5dNJ/nqQ0
3日たらずの内に急激に変更された天気予報。
前日、不満たらたらでアヒル口のハルヒから土曜の不思議探しの中止が申し渡された。
俺は念には念を押して、中止なら祖父祖母の家に行くと伝え、
完全に土曜日の自由を勝ちとった。
こんな機会はそうそうないんでね。嘘も方便だ。
斯くして俺は決戦である土曜日を迎えた。
29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/11/17(月) 11:45:20.15 ID:5dNJ/nqQ0
ポンコツ天気予報は完全にはずれた。
雲ひとつない晴天。
俺は結構エコロジーな人間だと自負している。物だって最後まで使うしな。
だから1回ぐらい見逃してくれ、うん万年先の地球よ。

不思議探しの時は寝坊ばかりの俺だが今日は目覚まし時計よりも早く起床した。
やはり人間は目的があれば大抵の事はやってのけることができるのだ。
そんな事を考えながら待ち合わせの駅へと向かった。
待ち合わせの30分前、流石に早く着きすぎるか。
そこら辺で時間、潰すか。
何気なく待ち合わせ場所を見る。そこには見慣れない私服の喜緑さんと長門が立っていた。
俺は走って近づき声をかける。
早いですね、なんて言いながら長門の方をチラっと見る。

「今日は三人で楽しみましょうね。」

少しの悪気のない笑顔が俺の目に染みる。
保護者同伴?いや、この場合保護者はどちらかというと喜緑さんの方な訳で・・・。
俺の頭がショートしていく様を見かねたのだろうか、喜緑さんは

「では、行きましょ。」

と言って長門の手を取ると駅の切符売り場へと向かった。
oh…神よ。そりゃないぜ。これもハルヒの呪いなのだろうか。
32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/11/17(月) 12:19:06.32 ID:5dNJ/nqQ0
人間一人と宇宙人二人が電車に揺られる。
周りからどう見えているのだろう。
恋人同士のデート?ないな・・・。
兄弟でお出かけ?妥当な所だろうな・・・。
依然、喜緑さんは長門とお喋りを楽しんでいる。
最も言葉のキャッチボールはほとんどなく、喜緑さんが一方的にはしゃいでいるのだが。
ふふっ、まるで姉妹みたいだな。
どこか温かい光景にすっかり俺は和んでしまった。
二人きりとはいかなかったが、これもまたありだな。
俺はその後も喜緑さんと長門のやり取りを、
まるで子猫の喧嘩を見守る親猫のような目で見守った。
33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/11/17(月) 12:45:57.50 ID:5dNJ/nqQ0
「こっちですよー。キョンくん、早くー。」
喜緑さんのはしゃぐ声。つられて俺も小走りになる。
休日の遊園地はどこを見ても人、人、人。人で埋め尽くされている。
そんな気が滅入ってしまう光景も、彼女の前ではすべて背景となってしまう。
バイトの時の”営業スマイル”なんかの百倍眩しい”本当の笑顔”は、
俺の心のもやもやを少しずつ、ただ確実に取り払ってゆく。

「これに乗りましょう。」

喜緑さんはいつのまにかジェットコースター乗り場の前に俺達を導いていた。
いきなりハードなものに乗るんだなあ。
案外絶叫物が好きなのか?
俺は俺の知らない彼女の一つ一つに心躍らせた。

「じゃ、行きまし―――」

喜緑さんの腕がピンと一直線に伸びた。
その場に根をはやしたように動こうとしない長門。
ただ黙ってフルフルと顔を左右に振っている。

「あら、長門さんジェットコースター嫌い?」

首を縦に振る長門。まるでお土産の首を振る置物のようだ。

「そうねえ。じゃあ・・・あれに乗りましょう。」
喜緑さんの指差した先では、馬やかぼちゃの馬車がくるくると同じ場所を回っていた。
34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/11/17(月) 13:04:26.71 ID:flV1dBwkO
ああちくしょう
かわいいな長門ってやつは
35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/11/17(月) 13:14:31.32 ID:5dNJ/nqQ0
喜緑さんと長門がくるくると回っている。
厳密に言うと喜緑さんと長門を乗せた馬がくるくると円運動を続けている。
メルヘンチックな音がこれでもかってくらい俺の耳に襲い掛かる。
周りはほとんど小学生になる前ぐらいの年齢だろうか。
少なくとも他に高校生の姿は見えない。

「キョンくーん、見てくださーい。」

馬を支える棒を片手でしっかりと掴み、もう片方の手を俺に向けて振っている喜緑さん。
長門は無言でこちらを見つめている。
・・・まあ楽しそうならいいか。
俺は小さく一つため息をつくと微笑を浮かべながら小さく手を振り返した。

メルヘンチックな馬上旅行が終わり、三人肩を並べて歩く。
俺、長門、喜緑さんの順で、長門と喜緑さんは手を繋いでいる。ほんと仲がいいんだな。

「ほらっ、キョンくんも手を繋いでください。」

へ?
言葉の意味が分からなかった俺は目を丸くする。

「長門さんと手を繋ぐんです!」

いきなりの申し出にうろたえる俺。
長門は無言で開いている片手を差し出した。
そ・・・それじゃあ・・・。
俺は細くて小さな手のひらをしっかりと握った。
37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/11/17(月) 13:29:24.60 ID:+ImrHvnT0
まさかの長門√か
38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/11/17(月) 13:51:41.80 ID:5dNJ/nqQ0
上機嫌な喜緑さんに訳を聞く。

「ふふっ、何か私達家族みたいじゃないですか?」

ああ、そんな事で喜んでいたのか。
確かにな。長門が子供で俺と喜緑さんがお父さんとお母さんですか?

「あー、ひどーい。仲のいい兄弟って意味だったのに。私そんなに老けてますかー。」

少し顔を赤らめ頬を膨らませて怒る喜緑さん。

「いえ、そんな事はないですよ。ただ喜緑さんは大人っぽいし、綺麗だし。」
ぽろっと本音が口から零れ落ちた。
気づいた時にはもうその言葉を心に戻す事はできなかった。
次は俺がりんごの様に真っ赤に染まった。

「その言葉、素直に受け取っておきますね。」
まだ頬の赤い喜緑さんは俺にいつもの笑顔を送った。
一瞬あまりの可愛さに目眩を起こしそうになった俺を手の痛みが覚醒させる。
長門は俺の手の甲をつねる。そして俺に向かって一言、
「変な顔・・・。」
そう言って何事もなかったかのように前を向いて歩き始めた。
・・・女心ってのは難しいな。
39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/11/17(月) 14:09:59.71 ID:5dNJ/nqQ0
結局またここに戻ってきた。
ジェットコースター乗り場。
相変わらず長門は首を横に振り断固として乗らない事を表している。

「困ったわね…。遊園地に着たら絶対に乗りたかったんだけど。
 しょうがないわね。長門さん、ここで少しだけ待っていられる?」

喜緑さんは何としても乗るようだ。
長門もその案に同意したらしい、ようやく首を縦に振った。
その後、喜緑さんは長門に何か言いつけている。
『―――ない人に話しかけられても着いて行っちゃ駄目よ。』
なんか本当にお母さんみたいだな。
言いつけを言い終えたお母さんは子供の手を離し、近づいてくる。

「じゃ、行きましょうか。」

喜緑さんが俺の腕を引いてジェットコースター乗り場へと向かった。
41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/11/17(月) 15:11:41.90 ID:5dNJ/nqQ0
ゆっくりとコースターが空へと向かう。
歯車のかみ合う音。
この手の絶叫マシーンは苦手じゃないが、得意って訳でもない。
流石にこれだけ上ってくると地上が遠いな。
これから上っただけ落ちると思うとちょっと怖いな。
俺は目の前にある手すりを握り締める。
俺の手を温かさが包み込む。
隣に座っている喜緑さんの手が俺の少し震える手を掴む。

「大丈夫ですよ。」

その笑顔に急に俺の肩の力が抜けた。
喜緑さんの笑顔には俺を支える力があるのかもしれない。
俺はそんなところに引かれたのかもしれない。
なぜだか俺も笑顔になれた。
この先、何があっても喜緑さんがいれば。喜緑さんの笑顔があれば、
俺は何だって乗り切れるのかもしれない。
次の瞬間、俺達は空を切り裂く風となった。
42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/11/17(月) 15:41:23.85 ID:6hbRsIhvO
>>41
ワクワクテカテカ
43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/11/17(月) 15:44:04.05 ID:5dNJ/nqQ0
「今日は楽しかったです。」

夕日を背景に上り始めた観覧車の中で喜緑さんは言った。
長門は疲れたのだろう、舟をこぐように夢と現実の間を行き来している。
ついには喜緑さんの肩に寄りかかり、そのまま夢の世界へと向かっていった。
長門の頭を喜緑さんが撫でる。
その姿は本当に綺麗で、一枚の絵画を鑑賞しているような気分に陥る。

「実はね、長門さんはあなたの事が好きなの。」

喜緑さんはいつも急だ。
脈絡もなくビックリするようなことを口走る。
俺は生憎その質問に対する答えを持ち合わせておらず、
黙り込むことを返答とした。

「今日もね。実はあなたと長門さんをくっつけようと思って遊園地に着たの。」

俺の気持ちが一気に冷めていく気がした。
喜緑さんは長門のために・・・、おれじゃなく・・・。

「長門さん、あなたたちと出会ってすごく変わったの。
 ほんと、いつも楽しそう。
 それでね、訳を聞いてみたら、あなたの事が気になるんだって。」

俺の意識は深い深い真っ黒な海の底へと落ちていった。
45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/11/17(月) 16:00:36.08 ID:5dNJ/nqQ0
「それでね、どんな人なんだろうって気になってたの。
 そうしたらあなたがバイト先に着たでしょ? そして仲良くなって。
 長門さんが好きになった気持ち、分かる気がするの。」

俺は爆発しそうな心臓の音と鳴り止まない耳鳴りを振り払うかのように大きな声を出した。
俺は、俺が好きなのは―――。

「しーっ。長門さん、起きちゃう。」

やめてくれ。
その笑顔。
俺を支えていたその笑顔が、今は俺を傷つけるんだ。
頭を抱え込み、俺は俯いた。

「ふーっ、女の子の話は最後まで聞かなきゃ駄目よ。」


 
48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/11/17(月) 16:26:44.76 ID:5dNJ/nqQ0
「これ覚えてる?」

喜緑さんは鞄から一つブローチを取り出した。
それはあの日、俺達がメールアドレスを互いに交換した日に、
喜緑さんが胸につけていた赤い蝶のブローチだった。

「そう、これが私達を近づけた。私のラッキーアイテムなの。」
優しい声で続ける。

「蝶はね、昔から人の死や霊に関連があるらしいの。
 私達インターフェイスには死や霊の概念がないわ。
 けど人間にとって不の象徴が私達を結びつけた。
 私達の前では不の象徴ですら、幸運を齎してくれる。
 なんか素敵じゃない?」

彼女は玩具を買ってもらった子供のように無邪気に笑った。
まだ意味の分からない俺は、
この場から一秒でも早く立ち去りたい気持ちを押さえつけ、彼女の話を聞いた。

「私はここに来るまで長門さんのためになんでもするんだって思ってたわ。
 でもたぶん、それは私の意志とは違うものだったの。
 あなたをあの日喫茶店に導いたのも、メールアドレスを交換したのも、
 こうしてここにいるのもすべて私の意志。
 私は、私があなたに会いたいと思っている事を自分自身に隠していたの。」
49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/11/17(月) 16:46:43.41 ID:5dNJ/nqQ0
「でも分かったわ。私の気持ちが。」

俺の目が彼女の笑顔を捕らえる。
その笑顔は今まで見た笑顔の中で一番綺麗で愛しくて。
俺の目に映る彼女の笑顔がどんどんとぼやけていく。
俺の両の瞳からは涙が零れ落ち、その結晶は何度も何度も床を濡らした。
声を上げるわけではない、いや声にならなかった。
観覧車の中は俺のすすり泣く音だけが木霊する。
喜緑さんは長門を静かに観覧車の壁に寄りかからせると、
目を瞑り、その綺麗な唇をさしだした。
俺は静かに彼女の唇と俺の唇を重ね合わせた。

「んんっ・・・・。」

長門の寝返りに驚いて、二人体を遠ざけた。
スヤスヤと眠る長門を見て顔を赤くした二人はクスクスと静かに笑う。
ほんの5秒ほどの短いキス。
でも今までの人生のすべてが詰まっている5秒のキス。
俺はあらためて彼女の顔をまじまじと見て言う。

「綺麗ですよ、ほんと。」
彼女は照れながら言った。

「今度は二人でコーヒーを飲みましょうね。」
俺は小さくうなずいた。
今日から俺は彼女と二人。
そうだ、おそろいのコーヒーカップを買おう。
そしておそろいのカップを片手に毎日コーヒーを飲むんだ。
明日も、明後日も、それからも―――。
50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/11/17(月) 16:47:23.73 ID:5dNJ/nqQ0
おしまい。
51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/11/17(月) 16:48:37.34 ID:5dNJ/nqQ0
見てくれた方、途中レスしてくれた方ありがと。
質問とか改善したほうがいいところあったら書いてください。
お疲れ様でした。
52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/11/17(月) 16:52:32.24 ID:flV1dBwkO
イチ乙です
やっぱり喜緑さんが1番ですわ
53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/11/17(月) 16:52:44.94 ID:MiZIU5M7O
これは乙と言わざるを得ない
前に朝倉涼子の記憶ってSS書かなかった?

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